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“Les Contes de L’Horloge Magique de Ladislas Starewitch”

 フランスからラディスラウ(ヴワディスラフ)・スタレーヴィチの新しいDVDが届いたんで、ご紹介。
 まずスタレーヴィチってのは何者かというと、ロシアの映像作家(後に活動の場をフランスに移す)で、人形をコマ撮りしてアニメートするという手法を、世界で最も初期に行ったうちの一人です。
 で、このスタレーヴィチさん、なかなか魅力的な作家さんでして。
 造形センスが微妙にズレていて、物語上ではカワイイはずのパペットも、常にそこはかとなくグロテスク。夢いっぱいのはずの楽しい世界のはずなのに、実際はかなり翳りを帯びていて、いつも悪夢スレスレの危うさがある。加えて、パペットの表情の生々しさや、目が生きている様が尋常ではない。おかげで、何だか黒魔術っぽい雰囲気まであったりして。
 実はスタンスとしては、けっこうまっとうな方だと思うんですよ。けっこうファンタジックで夢いっぱいの、娯楽性に主眼を置いた作品が多いし、大人が子供に見せたがるような、教条的な側面もある。ただ、おそらく先天的にグロテスク体質なんでしょう。本人が意図しない部分に、体質的なグロテスク趣味が自然に滲み出してくる。そんな作家さんです。
 で、そういった微妙なバランスが、私にとっては何とも魅力的でして。ヤン・シュヴァンクマイエルやブラザーズ・クエイみたいに、狙ってやっているわけではないってのが、逆に興味をかき立てられる。だからソフトを見つけると、ホクホクと買い込んでいるわけです。
 以上、役に立たない前振りの解説でした(笑)。

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“Les Contes de L’Horloge Magique de Ladislas Starewitch”

 ”La Petite chanteuse des rues” (1924)、”La Petite parade” (1928)、”L’Horloge magique ou La Petite fille qui voulait etre princesse” (1928) の3本の中短編を、オムニバス形式にブリッジで繋いだ、2003年制作の映画。フィルムはレストアされ、オリジナルはサイレントなんでしょうか、新たなBGMとナレーションが追加されています。
 最初の”La Petite chanteuse des rues”は、母親を助けるために家を出て、ペットの猿と共に手回しオルガン奏者になる少女の話。基本的にライブ・アクションがメインですが、ペットの猿が大活躍というシーンで、猿がパペット・アニメーションに。デフォルメされていない、あくまでもリアルな猿のパペット・アニメーションが実写と絡むわけで、その自然さや、演技の細かさがすごい。ハリーハウゼンもビックリかも。
 次の”La Petite parade”は、アンデルセンの「すずの兵隊」を元ネタにしていますが、話は片足のすずの兵隊を傷痍軍人に見立てるなどして、大幅にアレンジされています。ただ、子供部屋のオモチャたちが生きているかのように動き出す……という構造は同じ。スタレーヴィチなので、フツーのキャラクターもやっぱりどこかグロいんですが、びっくり箱から悪魔が出てくるあたりは、もう本領発揮といった感じ。その後、テーブルの食材等を次々とオンナノコに変えて見せる(牡蠣からマーメイドが出たり、バナナの皮を剥いたらアラブ美女が出てきたり)んですが、そこいらへんはちょっとエロティックな感触も。出てくる人形の数も多く、パーティーあり乱痴気騒ぎあり、オモチャの人形対ネズミの戦闘スペクタクルまである(他にも醜い胡桃割り人形がいたりするので、ちょいとホフマンも混じってますな)という盛り沢山さで、見どころも見応えもタップリ。ラストの悲劇は、ヒロイックかつロマンチックにアレンジされており、これはまたこれで良きかな。
 最後の”L’Horloge magique ou La Petite fille qui voulait etre princesse”は、二部構成。
 前半は、からくり時計職人のもとで働く少女が見た、からくり時計の人形たちの演じる物語。中世の城を舞台に、王様、お姫様、騎士、占星術師、道化、村人等々が入り乱れて見せる、ドラゴン退治やら謎の仮面の騎士やら、姫君に恋する吟遊詩人やらといった、中世もの好きなら満足すること間違いなしの内容。細部まで凝ったエクステリアやインテリアも素晴らしい。ところが少女は、騎士が危機一髪というところで、つい手を出して時計を壊してしまう。時計師は激怒、少女を怒鳴りつけて騎士の人形を窓から外に捨ててしまう……というところまでが前半。
 後半は、叱られた少女が夢の中で、捨てられた人形を探しに外へ……という流れになります。外の世界には、昆虫や虫に模様を描いてあげる妖精がいたり、木や花に顔が付いて動き出したり。少女は「おやゆび姫」みたいに小さくなり、その中で様々な冒険をするんですが、ここいらへんは「不思議の国のアリス」っぽい。実写の少女と、ファンタジックなパペット・アニメーションの絡みが見どころですが、これまたお見事の一言。普通の大きさの人間と、小さくなった少女が絡んだりもするんですが、ここいらへんは特撮映画的な魅力もある。花や松ぼっくりがキャラクターとして動くあたりは、メタモルフォーゼ的な魅力もあります。
 という具合に、通して見ると様々な要素が多様に混在しつつ、しかもそれらのレベルが全て半端でなく高い、というあたり、あらためてスタレーヴィチという作家の凄さを思い知らされます。
 スタレーヴィチの魅力の一つである、グロテスク味や悪魔的ニュアンスは、今回はどちらかというと控えめではありますが、それでもやはり見て損はない逸品。どっかで日本盤の『スタレーヴィチ作品集』を出して欲しいもんですなぁ。

 そうそう、余談ですが、昨年仕事が多忙でどうしても見に行けなくて、断腸の思いで悔し泣きをしたロッテ・ライニガー作品(そりゃ『アクメッド王子』の輸入盤は持ってたけどさ、スクリーンで観たかったんだい、やっぱり!)、今度アメリカ盤DVDを軽く越える充実した内容で、6月だったかにDVDが日本発売されるらしいですな。それを知って、もう大喜びの毎日であります(笑)。

『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』

『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』(2005)アンドリュー・アダムソン
“The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe” (2005) Andrew Adamson

 とにかく手堅い、というのが第一印象。
 事前に想像していた以上に原作に忠実な大筋に、ちょこまかオリジナルのエピソードやサスペンスフルな演出をトッピングしてアクセント付け。ヴィジュアル・イメージも原作の雰囲気を踏まえつつ、ちょっぴりスケール感がオマケされていたり、クリーチャー・デザインなどで現代味もプラスされてたり。
 原作の持つ、神話的/エピック的な要素と童話的/おとぎ話的な要素の混淆は、映像作品にするにあたってはいささか難しい要素だと思いますが、そういったバランスも悪くなく、全体的に破綻なく上手く仕上がっています。
 反面、もうちょっと突出した何かが欲しい気もしますが、ナルニアの視覚化という点だけでも、個人的には充分オツリがくるほど堪能できたので、これ以上を求めるのはぜいたくかな。ただ、ドラマに関しては、もうちょっと原作を離れて、映像作品独自の世界を追求しても良かったのではという気はする。

 個人的に一番楽しみにしていた、異世界の視覚化という点は、かなり細やかに作られていて大いに満足。前半の雪景色と比べて、ファーザー・クリスマスが出るあたりの雪景色では、光に暖色がほんのり加わってくるあたりは感心したし、アスランの軍勢の天幕とかの、おとぎ話的なくっきり鮮やかな色彩設計なんかも美しかった。花弁が集まって人の形になったり、火矢がフェニックスになったりするあたりの、映画オリジナルっぽいヴィジュアル・イメージも楽しめたので、このテのネタがもうちょい増えると、もっと嬉しかったかも。
 クリーチャー系は、それぞれちゃんとらしく見えたので一安心。以前見たBBC版だと、タムナスさんは「…変質者?」って感じだったし、ビーバー夫妻は「…コントの着ぐるみ?」って感じだったから、なおさら(笑)。今回のタムナスさんは、マフラーがこだわりポイントらしく、こーゆー小ネタは好きだなぁ(笑)。あと、玄関で足踏みして雪を落とすとことか。小ネタといえば、エドマンドが石像のライオンの顔に落書きするシーンとかは、そのときは「これじゃ単なる原作のエピソードのなぞりだよなぁ」なんて思ったんですが、しっかり戴冠式のシーンでオチに使われてたあたりも好き。
 セントールは、個人的にヘレニズム彫刻風のフツーの人間顔を期待していたんですが、やっぱりいかにも今どきのファンタジー・アート風のクリーチャー面だったのは残念。あと、馬の部分と人の部分の繋ぎ目が、ギャランドゥだったのには意表をつかれました(笑)。
 ただ、映像的な現実感が増していくと、おとぎ話的な良い意味での「いいかげんさ」とは、齟齬が生じてきてしまうのは、ちと気になりました。例えば、極めてリアルな物言うビーバーと、毛皮のコートを纏った四人が対峙するシーンとか、ちょっと禍々しい感じがしてしまったなぁ。
 ここいらへんは、ナルニアという物語が、エブリデイ・マジック系のおとぎ話に徹するのでもなく、ハイ・ファンタジー系の異世界に徹するのでもないという、その特性からくる難しさでしょうね。サー・トーマス・マロリーも イーディス・ネズビットもビアトリクス・ポターも、下手したらジョン・バニヤンあたりまでゴチャマゼになった世界だからなぁ。トーンを統一するのは難しいと思うので、繰り返しになりますが、前述したようにそういったバランス配分は、この映画は健闘していると言っていいと思います。ビーバー奥さんのミシンが出てこなかったのは残念だけど、出たら出たで齟齬もますます目立ちそうだし。
 あ〜、でも個人的には、小学生の時からの憧れの「すてきにネトネトするマーマレード菓子」は見たかったなぁ(笑)。作者同様に食いしん坊の私としては、食事のシーンが足りないのは不満だ(笑)。

 役者は、まずルーシィ役のブスカワイサ(笑)に惹かれるものあり。オイル・サーディンに釣られて目を輝かせるあたりの表情とか、実に良かった。子役四人は、いずれもアイドルにもなりそうにない、フツーっぽさ……とゆーか、程良いブサイクさが好印象。ま、スーザンくらいは、もうちょっとキレイめの子でもバチは当たらないとは思うけど(笑)。
 白い魔女のティルダ・スウィントンは、個人的に『カラヴァッジオ』以来のファンなので、キャスティングを聞いた瞬間から小躍り状態。ガンダルフ役がイアン・マッケランだと知ったときと、同じくらい嬉しかった(笑)。ファンとしては、『カラヴァッジオ』『アリア』『オルランド』あたりの魅力が忘れられず、『ザ・ビーチ』とか『クローン・オブ・エイダ』なんてのも、彼女の魅力に助けられて何とか最後まで見られたというくらい「彼女が出てりゃ何でもオッケー!」の女優さんなので、もう客観的な判断はできまへん(笑)。髪の毛がドレッドだったのは意外だったけど(笑)、二刀流で戦う姿はカッコヨカッタなぁ。
 アスランは、ウチの相棒が「いい声だ〜」と惚れ惚れしておりました(笑)。
 まあ、全体的に定型をはみ出るキャラはいないので、演技等はそれほど印象には残りませんでしたが、ヴィジュアルも演じ方も共々、いずれも違和感なく佳良でした。ただ、白い魔女の配下のこびととか狼とか、アスラン側のセントールとか、もうちょいキャラを膨らませても良かったのでは。いろいろ出るわりには、ちょいと全体的に印象が薄いのが残念。

 最後に一つ残念だったのは、戴冠式の「ハレ」の気分の物足りなさ。これはこの映画に限ったことではなく、『王の帰還』や『ファントム・メナス』なんかでも同様のことを感じたんですが、物語の大団円に際して、祝祭的な「ハレ」の気分が決定的に足りない。
 せっかくCGIでこれだけヴィジュアル表現の可能性が広がっているんだから、戦闘シーンやモンスターといったスペクタクル・シーンだけではなく、大宴会や祝賀といったスペクタクル・シーンも見せて欲しいと、常々期待しているんだけど、そういう見せ場にはなかなかお目にかかれないですね。近年そのテで個人的に満足がいったのは、『トロイ』のヘクトルとパリスがヘレネーを連れてトロイアに帰還するシーンくらいで。
 まぁ、そんなもの作っても喜ぶのはオカマくらいかもしれないけど、マンキウィッツの『クレオパトラ』のローマ入場シーンみたいに、呆気にとられるほどゴージャスで圧倒される「ハレ」のスペクタクル・シーンを、昨今のCGIを駆使した画面で、一度見てみたいもんです。
 で、今回ちょっぴりそれを期待してたんですが、やっぱり物足りなかった。もっと、見ているこっちも多幸感で満たして欲しかったなぁ。

『ユニコ』『シリウスの伝説』『くるみ割り人形』

 円盤ゴミブログさんで、廉価版で再発というニュースを知りました。因みに同ブログさんでは、いつも海外アニメやヘンな映画のDVD情報なんかを、参考にさせていただいております。多謝。
 で、この時期のサンリオ・アニメって、もうマジで気合い入っていて絵的な見応えがあり、当時せっせか映画館に通ったもんです。アニメ映画関係の記事見たさに、サンリオショップ行って「いちご新聞」(だったか?)も買ったし(笑)。そんな思い入れもあるんで、再発されるDVDの中から、特に思い出深い三本をご紹介。

ユニコ [DVD] 『ユニコ』(1981)

 手塚治虫の原作は、サンリオが出していた「リリカ」という変わった少女マンガ雑誌に連載されており、毎回フルカラーか二色カラーで、それはそれは美しゅうございました。私が持っていた単行本も、同誌の別冊かなんかのカラーバージョン。講談社の全集版だと、どうなっているんだろう?
 アニメの方は、かなり原作に忠実。これといって特別な見どころはないかもしれないけれど、標準的にしっかり作られていて、何より「物足りなさがない」のがいい。個人的に、手塚原作の長編アニメーションの中では、原作の再現性と長編映画としてのまとまりの良さという点で、かなりベストの部類なのではと思っております。
 まああそれでも公開当時から、主題歌や挿入歌のイルカの詩や歌声が、ちょっとベタッとして苦手だったとか、 作画の杉野昭夫の個性が強く、見せ方で「…またこのパターンかい」と鼻白んだりとか、引っかかる部分もなくはなかったんですが、それでもラストの戦うユニコの角が折れちゃった時なんか、映画館で大泣きしてしまい、もう、恥ずかしいから「エンドロールが終わるまでに乾いてくれ〜!」と必死に祈ったもんです(笑)。
 あと個人的に、この映画の「夜風」のキャラクター・デザインは秀逸だと思います。ケープのように、リボンのようにたなびく、幾本もの黒のストライプが、造形的にも風を擬人化した表現としても、実に美しくて魅力的。ドラァグ・クイーンみたいな顔+オッカナイ声の来宮良子っつー、コンビネーションもステキだし(笑)。
 黒猫のチャオは、今になってこじつけると、「猫+少女+メイド服」って感じで、昨今の「萌え」記号の先取りと言えなくもない……って、やっぱこじつけか(笑)。まあ、個人的に少女には興味がないんで、あたしゃダンゼン猫の姿のときの方がカワイくて好き。あと、このチャオが歌う「♪あったっしゃ、く〜ろね〜こ、て〜あし〜は、し〜ろよ〜」って歌、今でもたまに無意識で口ずさんでしまう(笑)。

シリウスの伝説 [DVD] 『シリウスの伝説』(1981)

 前々年の『星のオルフェウス』に続いて、サンリオが日本のディズニー目指して制作した、超大作アニメーション。
 これは、フルアニメーションだということや、セルのハンドトレスなんかが話題になってました。劇場の初日プレゼントかなんかでセル画を貰ったんですけど、触ったら確かに線がデコボコしていて「おお!」なんて思ったもんです(笑)。因みに絵柄は、アルゴンと戦うグラウコス様っつー、渋〜い図柄でした(笑)。一般的には「ハズレ」っぽいキャラだけど、グラウコス様はマッチョなんで、個人的にはぜんぜんオッケー。ま、顔は馬だけど(笑)。
 見どころとしては、動きのなめらかさはもちろんのこと、背景も動画も、とにかく画面の隅々まで、ひたすた丁寧に作られているのが素晴らしい。アニメーションの画面作りにおいて、無神経さや雑さがないというのは、当たり前のようでいて意外に稀少。それに加えて、色彩設計の華麗さとか、部分的に見られる絵画的な手法(オプチカル処理したと思しき鉛筆画を動かすとか、テクスチャがついたまま動くとか)とか、絵的な見どころはふんだんです。
 物語的には、ロミオとジュリエットをベースにした、水の王子と火の王女の悲恋というシンプルなものなので、まあ物足りないっちゃあ物足りない。「リリカの岬」だの「メビウスの丘」だの「クライン草」だのといったネーミングにも、ちょっと萎える(笑)。
 ただ、個人的に特筆したいのは、ストーリーではなくて、テーマである「愛の肯定」の方。
 当時からよく、サンリオ映画を評して「いつもラストで『愛とは云々』っつーお説教が入るのが興ざめ」という声があり、まあ確かにそうなんですが、この映画のスゴいところって、その肯定する「愛」が実に幅広いんです。
 もちろんメインは、水の王子シリウスと火の王女マルタの、種族を越えた禁断の愛ってヤツなんですが、この映画では、他にも三つの報われない愛が描かれている。シリウスに対するチークの愛情(両方とも男)と、マルタに対してピアレが寄せる愛情(両方とも女)と、水の王グラウコスと火の女王テミスの間の愛情(兄と妹)……つまり、ゲイとビアンとインセスト。
 で、こーいった諸々も含めて、この映画では「愛することに罪はない!」と、ズバリ断言している。ファミリー向けの映画で、これはある意味アナーキー。とゆーわけで、サンリオ映画の中でも、少なくともこの『シリウスの伝説』の中での「愛とは云々」っつーお説教は、かつてのディズニー映画に見られるような「お姫様が結婚してめでたしめでたし」といった、保守的で画一化していて排他的な「愛」とは次元が違う。この一点だけとっても、個人的にこのアニメーションは高く評価したいわけです。
 それ以外では、この映画もサーカスの歌う主題歌『時よゆるやかに』が耳に残ってまして、これまた無意識に歌っちゃうことがある(笑)。
 もひとつ、美術の阿部行夫が絵を付けた原作本も素晴らしい出来でした。映画のキャラクターのファンシーさとは異なる、色彩は鮮やかなのに影を帯びた(暗い色の紙に、明るい色のパステルや色鉛筆で、明部を描き起こすという描き方の絵です)、実に魅力的なイラストレーション満載の絵本。ブライアン・フラウドの影響を伺わせる造形などもあり、ファンタジー・イラストレーション好きなら見て損はないです。

くるみ割り人形 [DVD] 『くるみ割り人形』(1979)

 本格的な長編パペット・アニメーション。これまたものすご〜く丁寧かつ良く作られているのに、意外と語られることが少ないのは大いに不満。どうもサンリオの力作アニメーション群って、内容は高クオリティなのに扱いが不遇な気がする。
 個人的に、コマ撮りの人形アニメは「これぞワンダー、これこそ魔術!」ってな感じで、基本的に大好物なもんですから、それによる長編ってだけで、もう個人的な偏愛ポイントはクリアです。何と言うかね、「無機物に命を宿す」というのはアニメーションの本質でもあり、特にパペット・アニメーションというのは、そういった魔術的・付喪神的な本質を、最も良く体現しているように感じるのですよ。
 で、この『くるみ割り人形』大好きでね〜、ロードショー時に劇場へ、三回くらい見に行ったもんです(笑)。
 この作品のキャラクターは、基本的に人形で、それが実に良く動き回り、しかも人形的な愛らしい部分と、これまた人形的な不気味な部分を、両面とも持ちあわせているのが良い。基本的には明るく楽しいファンタジックな世界なんだけど、所々にホフマンの作品の持つ「そこはかとない怖さ」もかいま見られる。冒頭のジャンカリンのホラー味や、人形とネズミの大戦争に見られる残酷性などを、しっかり描ききっているのは、個人的な特に高評価ポイント。やっぱりね、「子供が見たらトラウマもんかも……」ってのも、ファンタジーの醍醐味の一つだから。不必要に健全で、脱臭されて去勢された甘いだけの幻想ほど、退屈で腐臭を放つものはないからねぇ(笑)。
 ただまあ、これまた『ユニコ』『シリウス』同様に、萎えポイントがなくはない。途中で出てくる実写のバレエ・シーンは、興ざめではあるものの、それでも踊っているのは天下の森下洋子だし、チャイコフスキーとの繋がりも踏まえて、ギリギリ許容範囲内ってトコではありますが、お菓子の国の実写のピエロや、そこに居並ぶサンリオのキャラクター群になると、もう完全にアウト。見せ場の一つなだけに、この萎えポイントは正直かなり痛い。
 あと、これは公開当時は問題なかったんだけど、ヒロインとヒーローの声が杉田かおると志垣太郎ってのが、さいきんのバラエティー番組で現在のご両人を拝見した後だと、ちょいと辛いモノがあるかも(笑)。でも、作品中では全く無問題だし、それ以外にも、物語の要となるキャラクターであり、一人五役くらいをこなしている西村晃が、実に良いんだけどね。
 で、この映画も主題歌が耳に残っている。「♪みずがめに〜、は〜な〜い〜っぷぁい〜」とかいう、ちょいと宝塚ちっくな、タチのビアンみたいな女声ボーカルの歌(笑)。CDで欲しいなぁ。
 というわけで、以上三本が、個人的に思い入れの深いサンリオ長編アニメーション映画。
 これらに関しては、既に旧盤DVDを購入済みなので、今回の再発盤では、劇場で未見なのでスルーしていた『ユニコ 魔法の島へ』と『妖精フローレンス』を購入予定。
 これで『シリウス』がワイド版になってたりとか、『ユニコ』にオマケでパイロット・フィルムが付いていたりとか、『くるみ割り』のオマケで同時上映だった『キティとミミィの新しい傘』が付いてたりとかしていたら、再購入もやぶさかではないんですが、どうも内容は旧盤と変わりないみたいですな。

“Les Pirates de Malaisie”

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“Les Pirates de Malaisie” (1964) Umberto Lenzi
 先日の『逆襲!大平原』に引き続き、スティーヴ・リーヴス主演映画フランス盤DVDのご紹介。
 伊語原題 “I Pirati della Malesia”、英題 “The Pirates of the Seven Seas” aka “The Pirates of Malaysia”。日本未公開らしく邦題は不明。

 これはソード&サンダル映画じゃなくて、タイトル通り海賊ものです。リーヴス演じるのは、主人公の義賊サンドカン。おそらく同じ監督の『サンドカン総攻撃』(1963) の続編なんでしょうが、残念ながら『サンドカン…』は未見のため、詳細は判らず。
 で、どうやらこのサンドカンってのは、イタリアでは有名な児童文学だか大衆文学だそうで。調べてみると、海賊に扮した虎のキャラクターのアニメーションとか、お懐かしやカビール・ベディ主演のテレビシリーズなんかがヒットする。カビール・ベディっつーと、中学生の頃だったか『バグダッドの盗賊』って映画を見に行きましてね、ムサい髭面に惚れたもんです(三つ子の魂百まで)。まあ映画そのものは、ガキながら「何だか安っぽいな〜」なんて思いましたが。あ、あと忘れられないのが、ヒロインを演じてたバブラ・ユスティノフ! ピーター・ユスティノフの娘なんだけど、これがブスでねぇ(笑)。まあ、パトリシア・ヒッチコックほどの破壊力じゃないけど(笑)。
 話がズレました。で、このサンドカンってのは、インド人だかインド系マレー人だかで、植民地時代、英国人に両親を殺されるかなんかして、民族の独立のために立ち上がって戦う義賊になった……みたいなキャラクターらしいです。

 続編(たぶん)のこの映画では、漂流している小舟に乗った男が、サンドカンの船に助けられるところから始まる。サンドカンは助けた男の口から、知人のインド人大公が誘拐監禁され、家族は皆殺しになったとことを知る。犯人は、黄金の採掘権を狙った英国軍人。こうしてサンドカンと英国軍人の闘いが始まる。
 展開は盛り沢山で、サンドカンは水夫に化けて黄金の輸送船に潜入したり、そこで殺されたと聞いていた大公の姫と会ったり、でも姫は、目の前で母親を殺されたショックから放心状態で、サンドカンのことも判らなかったり。はたまた大公の居所を探るために、今度は難破した貴族になりすまして、大胆不敵にも仇敵の懐に飛び込んだり、捕らえられて殺されそうになった仲間を、ロミオとジュリエットみたいな計略を働かせて助け出したり。
 かと思えば、アジトにしていた僧院の寝込みを襲われ、あわや殺されるところを、姫の懇願で除名されて、鉱山の強制労働に送り込まれたり、そこで他の囚人を扇動して暴動を起こしたり。次から次へと繰り出されるアイデアは、なかなか楽しめます。ただ、盛り沢山なわりには、これぞという大ヤマに欠けるので、ちょっと全体にチマチマした印象もあり。海賊と銘打つわりには、海のシーンより陸の戦いの方が多いし、アクション的にもスペクタクル的にも、どうも小粒感が拭えない。絵面そのものはシンガポールロケで良い雰囲気を出しているし、風景のスケール感なんかもけっこうあるんですけどね。

 監督のウンベルト・レンツィは、前述の『サンドカン総攻撃』の他にも、リチャード・ハリソン主演の『勇者ヘラクレスの挑戦』なんかも撮っていますが、後にはマカロニ・ウェスタンやジャーロ映画やB級アクションやホラーを手掛けた、B級職人監督さん。と言っても、実は私、その中で見たことのあるのは『人喰族』(『食人族』じゃないのよ)だけなもんですから、個人的には「サイッテーの監督!」というイメージが(笑)。
 この『人喰族』、巷では残酷描写のドギツさで悪名高いですけど、私としてはそれはOKなんですが、それより前半、動物虐待によるグロを延々と見せられるのが、とにかく不愉快でして。「動物ばっか殺してないで、さっさと人喰えや、ゴラァ!」と、マジで怒りが込み上げてきた記憶があり。
 でもまあ、この海賊映画を見ている限りでは、それほどヒドくもないですな。一人称カメラの切り替えで見せる、鉱山でも殴り合いのシーンなんか、けっこう迫力があってイイ感じだし、画面のスケール感なんかも、ショボくて情けなくなる程でもない。ただ、場面ごとの出来不出来のムラがあり、特にこの映画でマズかったのは、クライマックスに当たる断崖絶壁の上に立つ僧院での銃撃戦と、仇敵との一騎打ちのシーンが、とにかくショボショボでさまにならないこと。おかげで全体の印象も低下。残念ながら総合点では、同じリーヴス主演の海賊映画で比べても、前に紹介した『海賊の王者』よりも、かなり劣ると言わざるを得ないかな。
 ちょっと興味深かったのは、鉱山での暴動でリーヴスが敵をマシンガンで撃ち殺していくのを、延々と見せるシーン。このシーンは敵を倒すというより、圧倒的に勝る力で虐殺しているように見えるせいか、どこか暗い翳りのようなものが感じられます。本作はリーヴスのフィルモグラフィの中でも最後期(最後から二本目)に位置し、時代も史劇が廃れてマカロニ・ウェスタンへと移行していくあたり。そういった時代の結節点の反映が、このシーンに見られるような気がします。因みにリーヴス自身も、この映画から4年後、自ら脚本にも加わったマカロニ・ウェスタン『地獄の一匹狼』を最後に、映画界から引退しています。
 また、このシーンの後にも、共に鉱山を脱出した連中が、意見が分かれて道を別にしたところ、反乱だか戦争だかに巻き込まれて、あっさり全員殺されてしまう……といった、シニカルな展開があります。他にも、墓穴を掘っているとシャレコウベが出てくるシーンとか(これはアメリカ版ビデオではカットされていました)、土の中に生き埋めにされてしまうシーンとかも、やはり何となくマカロニ・ウェスタンへの過渡期を感じさせるような。

 主演のリーヴスは、今回はラウンドひげ。白いシャツを腹の上で縛った海賊スタイルや、キラキラゴージャス系のエキゾ衣装なんかも見せてくれますが、脱ぎ場は少なく、着替えのシーンと鉱山のシーンのみ。分量的には『怪傑白魔』や『逆襲!大平原』と同程度。
 冒頭で助けられる漂流船の男に、ソード&サンダル映画の脇ではお馴染みのミンモ・パルマーラ。
 大公の姫に、ジャクリーヌ・ササール。余談ですが、ガキの頃に読んでいた『スクリーン』で、よく「青春スター特集」みたいな記事があり、そういうときに必ず載っていた女優さんなんで、この人の顔は『芽生え』というタイトルとセットでアタマに刷り込まれています。おかげで、何となく麻丘めぐみとイメージがダブってますが(笑)。で、私は『芽生え』も『お嬢さん、お手やわらかに!』も見ていないので、動くササール嬢を拝見するのはこれが初めてなんですが、動きが少ない役柄だし、レンツィ監督の撮るラブシーンがぜんぜん良くないせいもあって、正直あまり印象に残らない。でも、スキッとしたキレイな顔だとは思います。顔をドーランで黒く塗って、インド人に化けているんですが、それほど珍妙でもない。少なくとも、『黒水仙』のジーン・シモンズとかよりは、よっぽど様になってます(笑)。
 で、またまたどっかにジョヴァンニ・チアンフリグリア君が出ていないかと目を凝らしていたんですが、残念ながら今回は見当たらず。ただ、オープニング・クレジットにドメニコ・チアンフリグリアという名があり、ひょっとしたら兄弟か何かかしらん。サンドカンの手下に、ちょっとジョヴァンニ・チアンフリグリアに顔が似ていて身体は少し細い男がいて目を引かれたんですが、ひょっとしてアレがそうかな? この人、確か『逆襲!大平原』でも、ゴードン・スコットの背後にいるその他大勢の中にいて、やっぱり目を引かれたんだけど(笑)。

 さて、恒例の「責め場」ですが、残念ながら今回は、リーヴスのそれはなし。
 その代わりといっちゃあ何ですが、ミンモ・パルマーラの責め場があります。川縁で強制労働させられているところ、脱走しようとした罰に、川の中に突っ立った杭に、胸の下まで水に浸かる形で後ろ手に縛られる。で、裸の胸板をナイフで切られる。すると、滴って水に混じった血の臭いに引かれて、河原にいたでっかいワニが川の中に。身動きできな囚人に向かって、ワニがゆっくり泳いで近寄ってくる……ってなシーン。
 まあ、リーヴスじゃないのは残念だけど、ミンモ・パルマーラもガタイはいいし、アイデア的にも面白いので、責め場としては悪くない。ただ、個人的にこの人の顔が好みじゃなくってねぇ……(笑)。でもまあ、これは単に好みの問題だから、シルベスタ・スタローンとかが好きな人ならオッケーだと思います(笑)。
 DVDはフランス盤なのでPAL。スクィーズなしのシネスコのレターボックス収録ですが、画質はこの間の『逆襲!大平原』以上に良好で、ボケやらキズやらにじみなどはもちろん、経年劣化による退色すらなし。アップになると、リーヴスの肌に浮かぶ汗の滴まで見えます。スクィーズではないものの、画質は下手なメジャーのクラシック作品以上。どのくらい美麗かは、キャプチャ画像をご覧あれ。
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 音声は仏語のみ、字幕なし、特典なし、チャプターすらなし(笑)という仕様は『逆襲!大平原』と同じ。
 ランニングタイムは、パッケージには80分と表記されているんですが、再生してみると実際は110分ほど。前述したように、米版VHSでは見られなかったシーンもあるので、IMDbのデータを見る限り、どうやら全長版のよう。他の国でのDVDソフト化は、今のところ情報なし。VHSなら米版が入手可能ですが、これは画質がかなりメタメタで、シャドウは潰れて画質も暗く、薄暮や夜のシーンなんか鑑賞するのが辛いくらい。しかも、そーゆーシーンが多いんだ、この映画(笑)。

『悪魔の棲む家』

悪魔の棲む家 (2005) アンドリュー・ダグラス
The Amityville Horror (2005) Andrew Douglas
 リメイクの話を聞いたとき、実は「あ、けっこういいアイデアかも」と思いました。っつーのもオリジナルの1979版は、有名なわりにはそれほど恐くも面白くないから(笑)、オリジナルを越えるリメイク版の制作も、あながち夢じゃないと思いまして。
 で、結果は……微妙(笑)。まあ、退屈はしないしそこそこ楽しめるけど、それだけ。テンポはオリジナル版より良いけど、その反面、話の構成は雑に。脅かし系のショッカー演出は頻出するけど、恐いっつーよりビックリするっつー感じだし。可もなく不可もないという意味では、オリジナルもリメイクもどっこいどっこいかなぁ。
 まあ、マジメに考えるといろいろ言いたいことはあります。恐怖の対称が、惨殺された子供の幽霊と、惨殺した殺人鬼の憑依と、元凶となった過去の因縁と、三つあるんですが、その絡ませ方や盛り上げ方がぎこちなく、フォーカスが散ってしまっているとか、神父を出すタイミングが明らかに間違っていて、おかげで出す意味すらなくなっているとか、あそこで××を殺しちゃだめだろう、××は家族の一員なんだから、それを殺しちゃったら、いくら脱出しても家族の絆は再生しないだろうとか、まあ他にもいろいろと。
 でもまあ、そーゆーことに目くじらをたてなければ、それなりには楽しめます。世の中、もっとヒドいホラーはいくらでもあるし(笑)。
 で、実は私、オリジナル版はさほど好きではないにも関わらず、DVDは持ってたりします。値段が999円だったっつーのもあるんですが(笑)、最大の理由は主演のジェームズ・ブローリンでして。
 ちょっとバッチイひげモジャでね、それが話が進むにつれて、どんどん憔悴してドロドロになっていく様が、もう何とも言えずに色っぽくて。もう、それ見たさだけでオリジナル版のDVDを買ったといって過言ではない(笑)。『ジャグラー/ニューヨーク25時』のDVDも出ないかなぁ。このときのブローリンも実に良くて、しかも映画そのものも面白いから、DVDが出たら即買いなんだけど。
 つまりまあ、私にとってオリジナル版『悪魔の棲む家』の最大の魅力とは、ホラー的な見せ場でも何でもなくって、実はジェームズ・ブローリンの姿形だったりするのだ(笑)。
 で、今回のリメイク版ですが、これまた同じで、個人的に最大の魅力は、オトーサン役のライアン・レイノルズという役者さんでした(笑)。もう、やっぱりちょいバッチイひげモジャでね、加えて身体はゴツくて、ブローリンよりずっとマッチョ。
 で、こいつが悪霊に取り憑かれて、ドロドロになっていく様子が、これまた何とも色っぽくて(笑)。パジャマの下だけを腰で履いているヌード姿とか、風呂場でバケモノに襲われるシーンとか、もう実にステキで嬉しくなっちゃいました(笑)。スルーしてた『ブレイド3』、今度借りてこなくちゃ。
 とゆーわけでオリジナル版とリメイク版、私的には「ホラー映画としては可もなく不可もなくの出来」だけど「主演のオトーサン役がツボに直撃なんで全てオッケー!」という意味で、ホント全く同じような作品でしたとさ(笑)。
 リメイク版のDVDも、出たら買うと思います、たぶん(笑)。
 最後に、ちょっと残酷ネタ。
 リメイク版で、オトーサンが「ネイティブ・アメリカンを拷問・虐殺していた地下室」を幻視するシーンがあるんですけど、ここで出てくる、ネイティブ・アメリカンのサンダンスの儀式や、ファキール・ムサファーのパフォーマンスみたいな、「胸の肉に鉄鉤を刺して吊られている裸の男」のシーンは、短いんだけど、拷問図的にはけっこう良くて、お得感アリ。
 まあ、これをネイティブ・アメリカンへの「拷問」にするのは、ちと変ではありますが、この際そーゆーツッコミはなしということで(笑)。

『逆襲!大平原』

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『逆襲!大平原』(1962)セルジオ・コルブッチ
“Romulus et Remus” (1962) Sergio Corbucci

 新着ソード&サンダル映画DVDのご紹介。フランス盤。伊語原題 “Romolo e Remo”、英題 “Duel of the Titans” aka “Romulus And Remus”。
 スティーヴ・リーヴスとゴードン・スコットの共演ということで、その筋のマニアには「ヘラクレス vs ターザン」ってな感じで有名な作品です。
 で、早速ですが、またまたジャケがダウト(笑)。これ、同じスティーヴ・リーヴス主演でも、『逆襲!大平原』じゃなくて、『マラソンの戦い』のスチルです(笑)。
 それにしても『逆襲!大平原』って……ヒドい邦題だなぁ(笑)。原題を見ればお判りのように、これはローマの建国神話・ロムルスとレムスの話なんですが、この邦題から誰がそれを想像できよう(笑)。

 ローマ建国以前に栄えていたアルバロンガ王国で、国を乗っ取る陰謀のため、王位継承者の双子の兄弟・ロムルスとレムスは、赤子のときに川に流されてしまう。それを雌狼が拾い乳を与えて育てた後に、雌狼を射た羊飼いに拾われ、その息子として育てられる。やがて逞しく成人した二人は、自分たちの出自を知って敵を倒すが、二人の母(巫女です)の今際の際の予言で、アルバロンガ王国を継ぐことはせず、別天地に「永遠の都」を築くため、民草を率いて旅立つ。ここまでが前半。
 このとき、王女ユリアはロムルスを愛して同行するのだが、レムスもまた彼女を愛してしまう。しかもロムルスには野心がないのに対して、レムスは「自分が王になりたい!」という権力欲に取り憑かれてしまい、二人の間には次第に溝が拡がっていく。それと並行して、新天地を目指して放浪する一行を、ユリアの婚約者とユリアの父王が、軍勢を率いて追い……ってのが後半。

 物語的には、良く知られたローマの建国神話を元にしつつ、娯楽映画的に大幅にアレンジされています。
 前半は、細かなアレコレよりも娯楽映画的な見せ場を重視した作りで、アルバロンガの祭りの狂乱、炎を馬で跳び越える障害物レース、捉えられたロムルスが競技場でかけられる処刑と、それを救出しにきた仲間たちの大暴れといった具合に、次から次へとヤマ場を盛り込んで、なかなか見せる。
 それに比べると、放浪と心理劇が主体の後半は、地味になってしまうんですが、その中にも、ちょっとした合戦を使ってヒロイックな見せ場を作ったり、レムスがロムルスと袂を分かって、自らに従う民を率いて別天地を目指すと、火山の噴火に会ってしまうといった、スペクタクル映画的な見せ場はあり。
 あと、後半は物語自体の工夫が面白く、例えば、ロムルスに同行する王女ユリアなんてのは、伝説にはないオリジナルのエピソードっぽいんですが、実はユリアはアルバロンガではなくサビーヌの王女。で、最終的にユリアの父王とロムルスの闘いは、ユリアが「私は自分の意志でロムルスと一緒になったんです」とか語ることで回避されるんですが、なるほど、これは伝説としてはこの話より後の出来事の、サビーヌの女たちの掠奪のエピソードを踏まえてあるわけですな。
 また、火山の噴火なんてエピソードを挟みつつも、それでも兄弟の最後の闘いは、ロムルスが鋤で地面に線を引き「この境界線を越えた者は敵だ」とか宣言しているところに、噴火から生き延びたレムスが現れ、その線を踏みにじってロムルスに闘いを挑む……といった具合に、これまたレムスがローマの城壁を飛び越えたことで殺されるという伝説と、ちゃんと重ね合わせています。
 恋愛要素も、ロムルスとレムスとユリアとユリアの婚約者という四角関係に加えて、レムスに報われない想いを寄せる女戦士とか、ユリアの侍女とレムスの部下の恋なんてエピソードも絡めて、話の転がり方やキャラクターの立て方に工夫している。
 まあ正直なところ、アクション主体の娯楽大作としては、いささか辛気くさい要素や悲劇的な要素が多いし、逆にシリアスな歴史スペクタクルとしては、物量や重厚感に欠けるといった具合に、いささか虻蜂取らずになってしまっているきらいはあるんですが、それでも頑張って作っているとは思います。

 ロムルス役のスティーヴ・リーヴスは、まあ良い役どころではあるんですが、キャラそのものがいい人過ぎてイマイチ魅力がないのと、得意の筋肉生かして超人的な大暴れといったシーンもないので、どうも全体的に影が薄い。ヒゲもないし(笑)、キャラクター的には『ポンペイ最後の日』のときみたいな弱さが。ただし、「そっち系」のリーヴス・ファンには、ちゃんと「見せ場」は用意されております。これは後述(笑)。あと、この映画とは直接は関係ないけど、リーヴスは同年に『大城砦』で、このロムルスとレムスのご先祖様にあたる、アエネイアスも演じてるってのが、何か面白いですな(笑)。
 レムス役のゴードン・スコットは、逆に複雑な役どころなので、いささか力不足の感は否めませんし、この人は「気さくなアンチャン」といった面構えなので(ちょっと「犬っぽい」んだよね)、影のある役には不向きだとは思いますが、それでも頑張ってはいると思います。ま、個人的にけっこう好きな顔だし、贔屓目もあるかも知れませんが(笑)。あと「肌見せ」系では、リーヴスよりもシーン多いです。
 因みに、プロデューサーは当初リーヴスの一人二役を考えていたけれど、リーヴスがそれを辞退して、代わりにスコットを推薦した……なんてエピソードが、IMDBのトリビアに載ってました。なんか、いい話っぽいですな。
 ヒロインのユリアにヴィルナ・リージ、ユリアの婚約者にジャック・セルナス、ユリアの父王にマッシモ・ジロッティと、ワキにはそこそこ名のある役者や、ある程度の大物を揃えるというのは、このテの映画のお約束ですな。
 そうそう、ほんの一瞬だけど、例のジョヴァンニ・チアンフリグリア君も出てました(笑)。アルバロンガの祭礼のシーンで、半裸で信者たちをを鞭打つ男たちの一人で、ヴィルナ・リージを引っぱたこうとしたところ、リーヴスに殴り飛ばされちゃう役。セリフも一言だけあり(笑)。
 あと、これは一緒に見ていた相棒の言ですが、群衆の中の一人のユーモラスな太ったオジサンが、「『ローマの休日』に出ていた愉快なオッサン」だそうです(笑)。
 監督のセルジオ・コルブッチは、マカロニ・ウェスタンで有名な人ですね。あたしゃソッチ系には疎いんで良く判りませんが、本作では特にだれたり白けさせたりすることもなく、しっかり手堅く演出しています。パン・フォーカスで顔のアップと遠景を同時に見せたり、目だけの極端なクローズアップをしたりといった、このテの映画にしては凝った画面も見せてくれます。同じくリーヴス主演で『闘将スパルタカス』も撮ってますね。
 音楽のピエロ・ピッチオーニは、最近でもラウンジ系コンピとかで人気ですが、本作ではもちろん内容が内容ですから、人気のジャズ・ボッサとかじゃありません(笑)。でも、キャッチーで力強いハッキリしたメロディーを据えながら、裏で転調しながらのリフレインでグイグイ盛り上げていく曲とか、ちょいと異教的な感じのする曲とか、なかなかカッコ良いし雰囲気も良くて、個人的にはお気に入り。
 因みに脚本には、セルジオ・レオーネの名も。

 さて、前述の「そっち系の見せ場」、つまり、リーヴスの責め場です。
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 とっ捕まったリーヴスが、ダンジョンで回転するセント・アンドリュース・クロスに縛られ、グルングルン回されながら鞭でビシバシ引っぱたかれます。で、この回転が半端じゃなく早い(笑)。相棒は「すごいね〜、これじゃ目が回っちゃうんじゃない?」とか申しておりましたが、いや、拷問だからね、目を回すためにやってるんだと思います(笑)。
 短いシーンではありますが、ダンジョンのセットは凝ってるし(手前で男が逆さ吊りにされてるのが嬉しいねぇ)、回転が止まった後のアップもあるし、責め場としてはなかなか楽しめる好シーンです。……とゆーわけで、キャプチャ画像をサービス(笑)。
 因みにこのあとリーヴス君は、半裸のまま闘技場に引き出され、両手は鎖で繋がれ、背後は尖った杭の突き出た木格子で後退できないという状態で、素手で熊と戦わされます。

 DVDはフランス盤なのでPAL。スクィーズなしのシネスコのレターボックス収録ですが、キャプチャ画像でもお判りのように、画質はかなり良好。経年劣化による退色はありますが、ボケやらキズやらにじみなどは、ほぼ気にならず。少なくとも、前に持っていた米版VHSとは、もう月とスッポンの美麗さです。音声は仏語のみ、字幕なし、特典もなし。それどころか、実はチャプターすらない(笑)。メニュー画面で選べるのは「再生」だけなんて、今どき珍しい必要最低限な作りのソフトだなぁ(笑)。
 米版VHSのランニングタイムは90分ですが、今回のDVDは105分。ロムルスが捉えられた後、救出に向かう前に、レムスと他の仲間との間で一悶着あって剣を交わすとか、兄弟の育ての親の死のシーンがちょっと長いとか、炎上するアルバロンガで母親とはぐれてしまった少女が、新天地へ向かう途中で路傍に泥だらけの犬を見つけて、駆け寄って抱きかかえたときに母親とも再会できるとかいった、細かなシーンがちょこちょこ増えてます。
 同じメーカーからは、やはりリーヴス主演の海賊映画 “Les Pirates de Malaisie”(共演はジャクリーヌ・ササール)のDVDも出てます。そっちの紹介は、またの機会に。

【追記】ドイツ盤DVDに英語音声収録。画質良好。
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『キング・コング』

『キング・コング』ピーター・ジャクソン
“King Kong” Peter Jackson
 大阪でちょっと空いた時間があったので、これ幸いと遅ればせながら見てきました。入りが悪いと聞いていたんですが、私が見た梅田のシネコンでは、上映15分前で残席4と、ほぼ満席。
 3時間を超える長尺を、飽きさせず見せる手腕には素直に感心。特に髑髏島の恐竜や虫関係の見せ場は、もうこれでもかってくらいに見せてくれて、いかにもこの監督らしいトゥー・マッチさが最高。
 特に虫がね、もーマジでスゴイっつーかキモチワルイっつーか……(笑)。この一連でクルーがバタバタ死んでいくのを見ていると、今こそバローズの『地底世界ペルシダー』を実写映画化して欲しいと、切に希望しますね〜。でも、ジャクソンの無邪気さとは愛称が悪そうなので、ここはぜひポール・バーホーベン監督でお願いしたい(笑)。
 ただ、人間ドラマはちょっと……。
 キャラクターをじっくり描いていくのはいいし、長〜い導入もそれ自体は良く撮れていると思うんだけど、そういうアレコレがモノガタリにあまり有機的に絡んでこないから、ついつい「……コレって必要なの?」とか思っちゃう。キャラクターの行動原理の説明としては、まあ納得がいかなくもないんだけど、何から何まで隙間を埋めて説明尽くしってのも、余白がないぶんモノガタリ全体を矮小化してしまうような。
 特に、ジャック・ブラック演じる映画監督に関しては、やりたいことは判らないでもないし、ジャクソン監督自身の想いもひしひしと伝わってもくるんだが、でもやっぱりそういうことをやりたいんだったら、『アギーレ 神の怒り』とか『フィッツカラルド』とか、それこそ『地獄の黙示録』(これはあんまり好きな映画じゃないんだけど)みたいな、フォーカスをそっちに絞った映画で見たい。モノガタリの骨格が、古典的な冒険物や怪獣物の映画ならば、キャラクターはもっとシンプルな方が、個人的には好みです。
 というのも、そーゆー記号化されたキャラクターだったら、何をしでかそうと全く気にならないんだけど、こういう風に下手にキャラクターに現実っぽい「リアルさ」(個人的には、こういうのは現実に近いという点で「生っぽい」だけであって、それがイコール「リアル」であるとは、全く思わないけど。モノガタリと現実世界の距離感に応じて、キャラクターが「リアル」であるための尺度も変化していく、というのが持論なもので)が与えられていると、ついついこっちも無意識に「生っぽく」見てしまう。
 すると、基本的にこいつらは「勝手に余所の島にきた闖入者」であり、しかも「現地人に自分たちの仲間が殺されたらショックを受けるが、自分たちが現地人を撃ち殺していることには自責の念が全くない」なので、実にイヤな連中ばかり。まあ、この時代の欧米人の感覚なら、それもリアルっちゃあリアルだけどね、危機また危機のシーンで、登場人物を応援する気になれないってのは、ちょいとツラい。
 というわけで個人的には、徹底的にカリカチュアライズされている二枚目アクション・スターの役が、一番モノガタリ世界に馴染んでいて好きでした(笑)。
 コングとヒロインのアンの触れ合いに関しては、これはなかなかじっくり描かれていて良かった。雪のセントラル・パーク(なのかな?)で、いきなりトレンディ・ドラマみたいになるのはビックリしたけど(笑)。
 でも、ラストの悲劇は、実は意外と泣けなかった。このテの話だと、いつも怪獣やモンスターに感情移入しまくる自分としては、下手すると大泣きするんじゃないかと身構えていたんだけど、まあジ〜ンとは来たんですが、それ止まり。
 これはおそらく、コングがかなり「人間っぽい」からでしょうね。つまり、悲劇は悲劇なんだけど、コングの人間っぽさ(……というか、ハッキリと「男」である、とでも言うか)ゆえに、どうも「ファム・ファタールに出会って自滅した男」に向ける憐憫のような、人間的な悲劇なわけです。かつて恐竜グワンジや金星竜イーマが死んでしまったときに感じたような、茫漠たる喪失感のような哀しみといった、人間が元凶となって引き起こされた、汎的な規模の悲劇とはタイプが違う。
 まあ、こうなると趣味の問題でしかないですが、私は後者の方が好きなわけです。で、しかも『キング・コング』の場合、映画を締めるのが諸悪の根元(と、あえて明言させていただく)であるジャック・ブラックなもんで、ちょっとモヤモヤ感も残ってしまった。やっぱアイツは踏みつぶして欲しい(笑)。
 というわけで、ここでもヒューマニスティックであるがゆえの、モノガタリの矮小化といった現象が起きているように感じました。
 こんな具合に、かなり個人的な好き要素と苦手要素が、それも両極端が入り交じっていたもんですから、観賞後の印象も、ちと複雑。
 異形の傑作のような気もするし、偉大なる失敗作のような気もする。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作が、エモーションや映像力は別にしても、後の作品になるにつれバランス感覚は崩れていったことを省みても、この『キング・コング』が更なる「いびつさ」を見せているのも、監督の作家性としては当然の帰結なのかも知れません。
 しかし、どちらにせよ「類を見ない」ことは確かなわけで、それだけでも充分に価値はあるでしょう。
 でも個人的には、『旅の仲間』劇場版の、あの驚異的な完成度を思い出すにつけ、もし『ロード・オブ・ザ・リング』以前に監督が『キング・コング』を撮れていたら、今回とはまた違った大傑作が見られたかも……なんて、ついつい考えちゃいますけどね(笑)。

アレクサンドル・プトゥシコ+α

 前にここで紹介した『イリヤ・ムウロメツ 豪勇イリア・巨竜と魔王征服』以来、すっかりアレクサンドル・プトゥシコの映画のトリコになってしまい、ロシア盤DVDをせっせか購入したので、まとめてご紹介。

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『虹の世界のサトコ』(1952)
 サトコといっても、日本人のオンナノコじゃありません。ヒゲの生えたアンチャンです。
 竪琴と歌の名手サトコが、海の王の娘の力を借りて、幸福を求めて商人として世界を旅する……ってなお話なんですが、タイトルを知るのみで内容を知らなかったウチの相棒は、てっきり「サトコというオンナノコが夢の世界で冒険する話」だと思っていたそうな(笑)。まあ私も、タイトルだけ見たときには「『ノンちゃん雲にのる』みたいな話かしらん?」と思いましたが(笑)。
 内容は、とにかくファンタスティック。スケール的には『イリヤ…』ほどではないけれど、それでも宮殿のセットとかは豪奢だし、町の遠景なんかは、『イリヤ…』同様の舞台美術的な様式美と映画的なリアリズムの混淆といった趣で、実に魅力的。旅のヤマ場の一つであるインドのシーンなんか、エキゾチックな魅力満点です。
 もう一つ、海底にある海の王の宮殿のシーンも良い。これはどっちかというと舞台美術っぽい作りなんですが、巨大なハリボテの魚と小さい人間のスケール感とか、ブルーを基調に原色を散りばめたキラキラしい美術とか、とってもロマンチック。で、そっから脱出するときは、タツノオトシゴに乗ってくの。う〜ん、ファンタジー。
 あと、特撮映画的な楽しさでは、何といってもインドの人面鳥がダントツ。鳥の身体に美女の顔という、迦陵頻伽かガルーダみたいなクリーチャーなんですが、出来も良く実にファンタスティック。
 とまあ、こういう具合に、レイ・ハリーハウゼンやカレル・ゼマン系の、レトロなファンタスティック映画好きだったら、見て損はないですぞ。実に楽しくてオススメ。
『サトコ』というと、リムスキー・コルサコフの同名オペラが有名ですが、映画の劇判もこれを基にしているらしいです。とはいえ、私はそっちは良くは判らないんですが、とりあえず前述の人面鳥が歌う歌(これを聴くと、みんな眠ってしまうのだ)が、同オペラで有名な「インドの歌」でした。

【追記】日本盤DVD出ました。

虹の世界のサトコ [DVD] 虹の世界のサトコ [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2006-10-25

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『サルタン王物語』(1966)
 これは、三人姉妹の末娘が玉の輿に乗って王の后になるのだが、姉たちの企みで生まれた王子共々樽に詰められて海に流され、不思議な魔法の島に漂着し……という内容で、元になっているのはプーシキンの叙事詩だそうな。
 で、これまた実にファンタスティックでして。『サトコ』では海の王の娘が力を貸しましたが、今回その役回りをするのは白鳥の化身のお姫様。このお姫様の登場シーンは、流石はボリショイ・バレエのお膝元って感じで、そのロマンチックさに乙女心(オカマ心だろ)が擽られます。お話的には、童話や民話のお約束の「繰り返し」と「予定調和」なので、退屈な人には退屈だろうけれど、逆にそれ系が好きなら大満足。
 特撮シーンに詩情が豊かなのも特筆モンでして、特に魔法の島を守る巨人騎士の軍団の登場シーンは、ちょっとコクトー映画を思い出させるような美しさです。あと、パペットっぽい楽しさもあり、王が癇癪を起こすと、玉座の飾りの獅子がビックリして逃げ出しちゃうシーンが大ウケ。もう一つ、魔法の島で歌を歌いながら黄金のドングリの殻を割るリスってのが出てくるんですが、アニマトロニクスちっくなリアルなリスで、声はチップマンクス系の早マワシのキーキー声で、可愛い可愛い(笑)。そうそう、サルタン王の戦争相手である、「腹踊り」にしか見えない愉快なモンスター軍団も必見。
『イリヤ…』も『サトコ』も、あちこちにユーモラスな描写が散りばめられてましたが(この二つだと『イリヤ…』の方が比較的シリアス寄り)、『サルタン…』では更にその比重はアップ。クスクス笑いながら楽しく見られる、ファンタスティックなおとぎ話映画。
『サトコ』同様に、この『サルタン…』もリムスキー・コルサコフのオペラがありますが、前述のリスの歌が、やはり同オペラ中の一曲でした。
 一つ残念なのが、DVD自体に多少問題アリなところ。まず、これは冒頭部分だけなんですが、テレシネのミスか、アスペクト比が変な部分がある。もう一つ、日本語字幕入りなんですが、タイミングが前後にズレていて役に立たない。戦争シーンなのに、「お粥がヌルい」みたいな字幕が出る(笑)。私は途中であきらめて、英語字幕に切り替えました。

【追記】日本盤DVD出ました(前述のミスが直っているかどうかは未確認)。

サルタン王物語 [DVD] サルタン王物語 [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2006-12-22

ruslanludmila
『ルスランとリュドミーラ』(1972)
 これまたプーシキンが原作で、今度はグリンカのオペラで有名なお話。
 異民族からキエフを守った勇者ルスランは、大公のリュドミーラの婿に選ばれるが、婚礼の晩、リュドミーラは魔法使いチェルノモールに攫われてしまう。大公は怒ってルスランを追放、ルスランは妻の行方を捜し、同時に婿にはなれなかった他の求婚者たちもリュドミーラの捜索に出て……という内容。
 これはもうね、はっきり言って最高でした。プトゥシコ作品の集大成なんじゃないかと思うくらい。『イリヤ…』『サトコ』『サルタン…』で見られた諸々の魅力が、全てパワーアップして一つの映画の中に集結してる感じ。
 特に美術に関しては、プトゥシコ作品全般で私をえらく惹きつける、古典的な力強さや優美さと、どこかキッチュな味わいがミックスされた美しさが、もう爆発って感じでした。チェルノモールの宮殿のシーンなんか、見てるだけでも満足。ここいらへん、何となくプトゥシコって感覚がゲイっぽい……と思うのは、私の気のせいだろうか(笑)。
 特撮的には、ルスランが武具を授かる、荒野の「あたま」が良かった。要するに巨人の生首なんですが(笑)、だだっぴろい中に巨大な「あたま」がゴロンとしてるってゆー、ヴィジュアルのインパクトがすごい。で、喋ると「あたま」に住み着いていた鳥が飛んでったりして、思わず「アルゴナスの石像」かと(笑)。もう一つ、宮殿を地下で支えている鎖に繋がれた巨人たちがいまして、これがなかなかのマッチョで、しかも半裸なもんだから、私の中のヨコシマな部分も擽ってくれたし(笑)。
 お話的にも、他の作品と比べると多少複雑で、実際に長尺でもあります。DVDも二枚組だし、何しろルスランがチェルノモールを倒してリュドミーラを救出したところで、まだお話の半分。後半のヤマ場は、キエフに攻め込む異民族との大合戦。『イリヤ…』みたいにドラゴンこそ出てきませんが、軍勢のスケールはでかいし、生首が豪快にポンポン飛ぶし(笑)、映画のクライマックスとしても大満足。
 というわけで、これはマジで傑作!

【追記】日本盤DVD出ました。

ルスランとリュドミラ [DVD] ルスランとリュドミラ [DVD]
価格:¥ 6,090(税込)
発売日:2007-05-25

scarletsail
『深紅の帆』(1961)
 これはどうやら日本では未公開らしいんですが、アレクサンドル・グリーンの同名小説の映画化。
 純朴な村娘アソールは、幼い頃老人から聞いた「いつか赤い帆の帆船に乗った王子様が、お前を迎えにきて、幸せにしてくれる」という話を、村人からは変わり者だと馬鹿にされながらも、ずっと信じ続けている。一方、船乗りに憧れている金持ちの家の少年アーサーは、父親への反発から家を出て船乗りになり、そして……という話。
『イリヤ…』『サトコ』『サルタン…』『ルスラン…』とは異なり、民話系の話ではないんですが、ある意味での「おとぎ話」という点では共通しており、これは大人のおとぎ話。信じること、夢見ることの大事さを語り、実に幸福な気持になれます。もっとも原作のグリーンは、そういった作風ゆえに、生前は文壇から黙殺、死後もスターリン時代に抹殺という憂き目を辿ってしまったらしいですが。
 という具合で、これはいわゆるファンタスティック映画的な派手さや、スペクタクルな見せ場はないんですが、それでもしみじみと良いファンタジー映画です。
 そんな中で特筆したいのは、主人公アソールの愛らしさ。それもそのはず、演じるのはグリゴーリ・コージンツェフ監督のロシア版『ハムレット』でオフィーリア役の、アナスタシヤ・ベルチンスカヤで、しかもこれがデビュー作。オフィーリアも良かったけど、本作でのベルチンスカヤ嬢は、もう本当に輝くばかりの溌剌とした初々しさ。この魅力あって、大人のおとぎ話もなおさら引き立ちます。素晴らしい。

 さて、ここまでがプトゥシコ作品ですが、この一連を購入するついでに、他に注文した関連作も二本ご紹介。

vassilisa
『麗しのヴァシリッサ』(1939)
 これはどうやら日本未公開らしいんで、タイトル表記はとりあえず英題 “Beautiful Vasilisa” から仮訳。白黒のロシア民話系ファンタスティック映画です。
 年頃の三人兄弟が、そろそろお嫁を貰おうと矢を射る(矢が届いた相手と結婚する)と、上の兄二人には怠け者のブスと食いしん坊のデブがやってきて、末っ子イワンのところにはカエルがやってくる。ところが、実はこのカエルは魔法をかけられたお姫様で、カエルの皮を脱ぐと美人(いや、実は個人的には、たいして美人じゃないと思うんだけど、設定上は……ね)のヴァシリッサになる。で、結婚したはいいけれど、ヴァシリッサはすぐに魔女バーバ・ヤーガに攫われてしまい、蛇の花嫁にされそうになり、イワンはそれを救いに旅立つ……という内容。
 お話的にはシンプルこのうえない民話モノですが、ファンタスティック映画的な楽しさはなかなか。特に怪獣系で、ヨロイを守る大グモや、三つ頭の大蛇との闘いが楽しい。特に後者は『イリヤ…』のドラゴンの元ネタっぽいですな。
 監督のアレクサンドル・ロウという人は、1930年代から70年代にかけて、どうやらこのテのファンタスティック映画をいろいろ撮った人らしいです。RUSICOのカタログにも何本か入ってますが、残念ながら日本語字幕が入っていないものが多い。イワン役の男優は、前述の『サトコ』のタイトルロールのセルゲイ・ストリャーロフ。特典で、その息子さんが語る父親の想い出話なんてのが入っています。

vassilybuslayev
『ヴァシリー・ブズラーエフ』(1982)
 これもどうやら日本未公開。主人公の名前=タイトルなので、そのままカナ表記。英題は “Vasili Buslayev” で、やはり民話系。
 主人公ヴァシリー・ブズラーエフは、身体ばっかり育った怪力の大男で、ノヴゴロドの街の暴れん坊。住民から苦情を聞かされ、ヴァシリーの母親は心痛の毎日。いつものように暴れたオシオキに納屋に閉じこめられたヴァシリーは、旅の者からロシアを荒らす異教徒の話を聞いて一発奮起、己の力を生かすために、仲間を募って異国に奴隷として連れて行かれたロシア人たちを助けに出かける……ってな内容。
 モンスターや特撮系の見せ場は、全くなし。スケール的にも、やはり80年代という制作年代に相応して、プトゥシコ作品と比べると、かなりこぢんまりとしています。少なくとも、物量に圧倒されるようなシーンはないです。
 ただ、絵的にエピック系や歴史モノの重厚感はあり、そっちはプトゥシコ作品よりずっとシリアスな雰囲気で、これはこれで見応えあり。また、これも制作年代を反映しているのか、民話や伝説の割りには、妙に雰囲気が重苦しい。闘いのシーンとかも、斧で刺し殺されるのを見せたり、縄で縊り殺されると口から血が滴ったりと、けっこうエグめ。
 カメラはなかなか美しく、風景の切り取り方の詩情や重厚感はなかなかのもの。どことなく、パゾリーニやヘルツォークなんかを思い出させます。で、そーゆー映像美を見せつつ、合戦シーンを風景のパンとSEで処理したり、筏で漂流している難民のシルエットと、主人公の顔のドアップの切り替えに、ヴォイス・オーバーして状況説明をしたり、はたまた合成とシンメトリカルな画面構成で神に宗教的な問いかけをしたり……などなど、表現主義的な面白さもあり、絵的には見どころ多し。
 ただ、それと話の内容に、いささか齟齬を感じるのも正直なところ。また、マトモにやれば優に3時間はかかりそうな話を、90分足らずに収めているので、説明不足や描写不足も多々あり、一つの作品としてどこかいびつな感じがする。
 でも、そんないびつさや全体の雰囲気の暗さに、個人的にはけっこう惹かれます。少なくとも、駄作ではない。監督のゲンナディ・ヴァシリーエフという人には、ちょっと興味あり。RUSICOのカタログにはもう一本あり、しかもそれは前出の『ヴァシリッサ』の監督アレクサンドル・ロウへのオマージュ作品らしく、興味津々ではあるんですが、残念ながらこれまた日本語字幕がなくてガッカリ。
 あと、主演のディミトリ・ゾロトゥキンという役者さん、かなり目力があって魅力的。ジャケ写だとミョーにヌメっとしてますが、本編ではもっとワイルドな感じ。チラっとしか見えないけど、けっこうマッチョっぽかったし(笑)。

『鉄腕ゴライアス・蛮族の恐怖』

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『鉄腕ゴライアス・蛮族の恐怖』(1959)カルロ・カンポガリアニ
“La terreur des Barbares” (1959) Carlo Campogalliani
 先日、ここで「これはレグ・パークでもアラン・スティールでもなくって、スティーヴ・リーヴス主演の『鉄腕ゴライアス・蛮族の恐怖』だぁ〜ッ!」とジャケにダウトを出しましたが、せっかくだからちゃんとした『鉄腕ゴライアス・蛮族の恐怖』(伊語原題 “Il Terrore dei barbari”、英題 “Goliath and the Barbarians”)の輸入DVDもご紹介しませう。
 フランス盤です。これは中身もちゃんと同映画なんですが、う〜ん、ジャケは先日のダウト盤の方が良いかも(笑)。
 映画の内容は、ヘラクレスものやマチステものとは違い、神話やファンタジー風味はなく、ゲルマン民族の大移動で、6世紀中頃にランゴバルド族に侵略されたイタリアを舞台にした歴史物。
 とはいえ本格史劇ではもちろんなく、立ち上がって侵略者に対抗したヒーローを描く、アクション・アドベンチャーです。で、そのヒーローのエミリアーノ役がスティーヴ・リーヴスで、その勇猛さから伝説の巨人ゴライアスと呼ばれる……ってのがタイトルの由来。でもさぁ、ゴライアスってゴリアテのことでしょ? 伝説だとダビデにパチンコで殺されちゃうわけで、あんまり縁起のいい呼び名じゃないような気もするんだけど(笑)。
 まあともかく、リーヴスはそんなこんなで大暴れ、敵将の娘で小悪魔系のチェロ・アロンゾとのロマンスもあり、戦闘シーンもセクシーダンスもある。大作感のない小粒ではあるものの、娯楽に徹した作りが小気味良く、さほどツッコミどころも度を超したチープさもない、手堅くまとまった佳品です。
 リーヴスのコスチュームが、時代背景と関係なく毛皮の腰布一丁とゆーサービス具合だとか、音楽が個人的にご贔屓の、ラウンジ&エキゾチカ系の名人レス・バクスターだってのも、個人的な好きポイント。
 しかし、何といっても一番なのは、責め場の良さなんですな(笑)。リーヴスの責め場の中では、この映画のそれが一番なのはもちろんのこと、ソード&サンダル映画全体の中でもトップクラスかも(笑)。
 とゆーわけで、今回はキャプチャ画像付き責め場解説(笑)。
 まず、最初はコレ。
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 とっ捕まって横木に縛られたリーヴスを、蛮族の将軍がナイフでいたぶる。
 で、次はコレ。
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 判りづらいけれど、リーヴスの首枷は、背後から綱引きよろしく、数人の男たちに引っ張られている。で、背後の板からは槍の穂先が何本も突き出していて、そのままジリジリ引きずられいくと、背中にブッスリ刺さってしまうという仕掛け。
 そして、最後はコレ。
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 お馴染みの(笑)馬裂きです。縄で縛られた両腕を、左右から二頭の馬に引っ張られている。
 この一連の責め場を、尺もけっこう長くタップリと見せて、リーヴスもしっかり熱演してくれるもんだから、このテのが好きな人間には、もうタマランワイなわけです(笑)。
 オマケに、こんな感じの筋肉美の見せ場もしっかり用意されてます。
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 まあ、そんなこんなで私はこの映画を、個人的にひたすら愛しているわけでゴザイマス(笑)。
 どのくらい愛しているかというと、コレくらい愛している(笑)。
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 初公開、私のパソコンのデスクトップ画像(笑)。サイン入りスチル写真の画像を、個人的な趣味でセピアにしてます。
 因みに、もう一台のパソコンも、壁紙をリーヴスにしておりまして、そっちは『ヘラクレスの逆襲』のスチル写真だったりするのだ(笑)。
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 DVDはフランス盤なのでPAL。画質は、キャプチャを見ての通り、なかなか佳良。暗かったり色調が偏っているのは、これが夜のシーンのせい。若干ボケた感じはありますが、退色や傷はほぼ問題なし。画面はノートリミングのワイドで、スクィーズなしのレターボックス収録。音声は仏語のみ、字幕なし。
 アメリカ盤DVDは出ていない様子ですが、VHS版だったら、Steeve Reeves International Society のサイト(www.stevereeves.com)で販売しております。私はここで何度か買い物をしており、”STEVE REEVES His Legacy in Films” という写真満載のオンデマンド本とか、”Steve Reeves The Man The Legend” というドキュメンタリーDVDとか、かなりお気に入りではありますが、通信販売は at your own risk だというのはお忘れなく。

Giovanni Cianfriglia追補

 前回、私がラブになった(笑)Giovanni Cianfriglia君、せっかくなので”Hercules The Avenger”からのキャプチャ画像をアップしてみませう。ポップアップ・ウィンドウでデカくなりますんで、興味のある方はクリックしてください。
 これが、「地味め」「奥目気味」「平仲明信を男前にしたみたい(筆者独断)」な顔。
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 これが「マッチョだけどバルクはさほどない」「でも、何となくエッチ(筆者独断)」な身体。
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 ついでに、レグ・パークとのタイマンレスリング対決も。
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 以上。……って、何て無意味な記事だ(笑)。ま、たまにはいいでしょ、こんなのも。
 因みに私、前回で名前を「ジョヴァンニ・シャンフリーリア」と表記しましたが、goo映画だと「チアンフリグリア」となってますね。う〜ん、カナ表記って難しい。