『逆襲!大平原』

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『逆襲!大平原』(1962)セルジオ・コルブッチ
“Romulus et Remus” (1962) Sergio Corbucci

 新着ソード&サンダル映画DVDのご紹介。フランス盤。伊語原題 “Romolo e Remo”、英題 “Duel of the Titans” aka “Romulus And Remus”。
 スティーヴ・リーヴスとゴードン・スコットの共演ということで、その筋のマニアには「ヘラクレス vs ターザン」ってな感じで有名な作品です。
 で、早速ですが、またまたジャケがダウト(笑)。これ、同じスティーヴ・リーヴス主演でも、『逆襲!大平原』じゃなくて、『マラソンの戦い』のスチルです(笑)。
 それにしても『逆襲!大平原』って……ヒドい邦題だなぁ(笑)。原題を見ればお判りのように、これはローマの建国神話・ロムルスとレムスの話なんですが、この邦題から誰がそれを想像できよう(笑)。

 ローマ建国以前に栄えていたアルバロンガ王国で、国を乗っ取る陰謀のため、王位継承者の双子の兄弟・ロムルスとレムスは、赤子のときに川に流されてしまう。それを雌狼が拾い乳を与えて育てた後に、雌狼を射た羊飼いに拾われ、その息子として育てられる。やがて逞しく成人した二人は、自分たちの出自を知って敵を倒すが、二人の母(巫女です)の今際の際の予言で、アルバロンガ王国を継ぐことはせず、別天地に「永遠の都」を築くため、民草を率いて旅立つ。ここまでが前半。
 このとき、王女ユリアはロムルスを愛して同行するのだが、レムスもまた彼女を愛してしまう。しかもロムルスには野心がないのに対して、レムスは「自分が王になりたい!」という権力欲に取り憑かれてしまい、二人の間には次第に溝が拡がっていく。それと並行して、新天地を目指して放浪する一行を、ユリアの婚約者とユリアの父王が、軍勢を率いて追い……ってのが後半。

 物語的には、良く知られたローマの建国神話を元にしつつ、娯楽映画的に大幅にアレンジされています。
 前半は、細かなアレコレよりも娯楽映画的な見せ場を重視した作りで、アルバロンガの祭りの狂乱、炎を馬で跳び越える障害物レース、捉えられたロムルスが競技場でかけられる処刑と、それを救出しにきた仲間たちの大暴れといった具合に、次から次へとヤマ場を盛り込んで、なかなか見せる。
 それに比べると、放浪と心理劇が主体の後半は、地味になってしまうんですが、その中にも、ちょっとした合戦を使ってヒロイックな見せ場を作ったり、レムスがロムルスと袂を分かって、自らに従う民を率いて別天地を目指すと、火山の噴火に会ってしまうといった、スペクタクル映画的な見せ場はあり。
 あと、後半は物語自体の工夫が面白く、例えば、ロムルスに同行する王女ユリアなんてのは、伝説にはないオリジナルのエピソードっぽいんですが、実はユリアはアルバロンガではなくサビーヌの王女。で、最終的にユリアの父王とロムルスの闘いは、ユリアが「私は自分の意志でロムルスと一緒になったんです」とか語ることで回避されるんですが、なるほど、これは伝説としてはこの話より後の出来事の、サビーヌの女たちの掠奪のエピソードを踏まえてあるわけですな。
 また、火山の噴火なんてエピソードを挟みつつも、それでも兄弟の最後の闘いは、ロムルスが鋤で地面に線を引き「この境界線を越えた者は敵だ」とか宣言しているところに、噴火から生き延びたレムスが現れ、その線を踏みにじってロムルスに闘いを挑む……といった具合に、これまたレムスがローマの城壁を飛び越えたことで殺されるという伝説と、ちゃんと重ね合わせています。
 恋愛要素も、ロムルスとレムスとユリアとユリアの婚約者という四角関係に加えて、レムスに報われない想いを寄せる女戦士とか、ユリアの侍女とレムスの部下の恋なんてエピソードも絡めて、話の転がり方やキャラクターの立て方に工夫している。
 まあ正直なところ、アクション主体の娯楽大作としては、いささか辛気くさい要素や悲劇的な要素が多いし、逆にシリアスな歴史スペクタクルとしては、物量や重厚感に欠けるといった具合に、いささか虻蜂取らずになってしまっているきらいはあるんですが、それでも頑張って作っているとは思います。

 ロムルス役のスティーヴ・リーヴスは、まあ良い役どころではあるんですが、キャラそのものがいい人過ぎてイマイチ魅力がないのと、得意の筋肉生かして超人的な大暴れといったシーンもないので、どうも全体的に影が薄い。ヒゲもないし(笑)、キャラクター的には『ポンペイ最後の日』のときみたいな弱さが。ただし、「そっち系」のリーヴス・ファンには、ちゃんと「見せ場」は用意されております。これは後述(笑)。あと、この映画とは直接は関係ないけど、リーヴスは同年に『大城砦』で、このロムルスとレムスのご先祖様にあたる、アエネイアスも演じてるってのが、何か面白いですな(笑)。
 レムス役のゴードン・スコットは、逆に複雑な役どころなので、いささか力不足の感は否めませんし、この人は「気さくなアンチャン」といった面構えなので(ちょっと「犬っぽい」んだよね)、影のある役には不向きだとは思いますが、それでも頑張ってはいると思います。ま、個人的にけっこう好きな顔だし、贔屓目もあるかも知れませんが(笑)。あと「肌見せ」系では、リーヴスよりもシーン多いです。
 因みに、プロデューサーは当初リーヴスの一人二役を考えていたけれど、リーヴスがそれを辞退して、代わりにスコットを推薦した……なんてエピソードが、IMDBのトリビアに載ってました。なんか、いい話っぽいですな。
 ヒロインのユリアにヴィルナ・リージ、ユリアの婚約者にジャック・セルナス、ユリアの父王にマッシモ・ジロッティと、ワキにはそこそこ名のある役者や、ある程度の大物を揃えるというのは、このテの映画のお約束ですな。
 そうそう、ほんの一瞬だけど、例のジョヴァンニ・チアンフリグリア君も出てました(笑)。アルバロンガの祭礼のシーンで、半裸で信者たちをを鞭打つ男たちの一人で、ヴィルナ・リージを引っぱたこうとしたところ、リーヴスに殴り飛ばされちゃう役。セリフも一言だけあり(笑)。
 あと、これは一緒に見ていた相棒の言ですが、群衆の中の一人のユーモラスな太ったオジサンが、「『ローマの休日』に出ていた愉快なオッサン」だそうです(笑)。
 監督のセルジオ・コルブッチは、マカロニ・ウェスタンで有名な人ですね。あたしゃソッチ系には疎いんで良く判りませんが、本作では特にだれたり白けさせたりすることもなく、しっかり手堅く演出しています。パン・フォーカスで顔のアップと遠景を同時に見せたり、目だけの極端なクローズアップをしたりといった、このテの映画にしては凝った画面も見せてくれます。同じくリーヴス主演で『闘将スパルタカス』も撮ってますね。
 音楽のピエロ・ピッチオーニは、最近でもラウンジ系コンピとかで人気ですが、本作ではもちろん内容が内容ですから、人気のジャズ・ボッサとかじゃありません(笑)。でも、キャッチーで力強いハッキリしたメロディーを据えながら、裏で転調しながらのリフレインでグイグイ盛り上げていく曲とか、ちょいと異教的な感じのする曲とか、なかなかカッコ良いし雰囲気も良くて、個人的にはお気に入り。
 因みに脚本には、セルジオ・レオーネの名も。

 さて、前述の「そっち系の見せ場」、つまり、リーヴスの責め場です。
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 とっ捕まったリーヴスが、ダンジョンで回転するセント・アンドリュース・クロスに縛られ、グルングルン回されながら鞭でビシバシ引っぱたかれます。で、この回転が半端じゃなく早い(笑)。相棒は「すごいね〜、これじゃ目が回っちゃうんじゃない?」とか申しておりましたが、いや、拷問だからね、目を回すためにやってるんだと思います(笑)。
 短いシーンではありますが、ダンジョンのセットは凝ってるし(手前で男が逆さ吊りにされてるのが嬉しいねぇ)、回転が止まった後のアップもあるし、責め場としてはなかなか楽しめる好シーンです。……とゆーわけで、キャプチャ画像をサービス(笑)。
 因みにこのあとリーヴス君は、半裸のまま闘技場に引き出され、両手は鎖で繋がれ、背後は尖った杭の突き出た木格子で後退できないという状態で、素手で熊と戦わされます。

 DVDはフランス盤なのでPAL。スクィーズなしのシネスコのレターボックス収録ですが、キャプチャ画像でもお判りのように、画質はかなり良好。経年劣化による退色はありますが、ボケやらキズやらにじみなどは、ほぼ気にならず。少なくとも、前に持っていた米版VHSとは、もう月とスッポンの美麗さです。音声は仏語のみ、字幕なし、特典もなし。それどころか、実はチャプターすらない(笑)。メニュー画面で選べるのは「再生」だけなんて、今どき珍しい必要最低限な作りのソフトだなぁ(笑)。
 米版VHSのランニングタイムは90分ですが、今回のDVDは105分。ロムルスが捉えられた後、救出に向かう前に、レムスと他の仲間との間で一悶着あって剣を交わすとか、兄弟の育ての親の死のシーンがちょっと長いとか、炎上するアルバロンガで母親とはぐれてしまった少女が、新天地へ向かう途中で路傍に泥だらけの犬を見つけて、駆け寄って抱きかかえたときに母親とも再会できるとかいった、細かなシーンがちょこちょこ増えてます。
 同じメーカーからは、やはりリーヴス主演の海賊映画 “Les Pirates de Malaisie”(共演はジャクリーヌ・ササール)のDVDも出てます。そっちの紹介は、またの機会に。

【追記】ドイツ盤DVDに英語音声収録。画質良好。
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