“Les Contes de L’Horloge Magique de Ladislas Starewitch”

 フランスからラディスラウ(ヴワディスラフ)・スタレーヴィチの新しいDVDが届いたんで、ご紹介。
 まずスタレーヴィチってのは何者かというと、ロシアの映像作家(後に活動の場をフランスに移す)で、人形をコマ撮りしてアニメートするという手法を、世界で最も初期に行ったうちの一人です。
 で、このスタレーヴィチさん、なかなか魅力的な作家さんでして。
 造形センスが微妙にズレていて、物語上ではカワイイはずのパペットも、常にそこはかとなくグロテスク。夢いっぱいのはずの楽しい世界のはずなのに、実際はかなり翳りを帯びていて、いつも悪夢スレスレの危うさがある。加えて、パペットの表情の生々しさや、目が生きている様が尋常ではない。おかげで、何だか黒魔術っぽい雰囲気まであったりして。
 実はスタンスとしては、けっこうまっとうな方だと思うんですよ。けっこうファンタジックで夢いっぱいの、娯楽性に主眼を置いた作品が多いし、大人が子供に見せたがるような、教条的な側面もある。ただ、おそらく先天的にグロテスク体質なんでしょう。本人が意図しない部分に、体質的なグロテスク趣味が自然に滲み出してくる。そんな作家さんです。
 で、そういった微妙なバランスが、私にとっては何とも魅力的でして。ヤン・シュヴァンクマイエルやブラザーズ・クエイみたいに、狙ってやっているわけではないってのが、逆に興味をかき立てられる。だからソフトを見つけると、ホクホクと買い込んでいるわけです。
 以上、役に立たない前振りの解説でした(笑)。

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“Les Contes de L’Horloge Magique de Ladislas Starewitch”

 ”La Petite chanteuse des rues” (1924)、”La Petite parade” (1928)、”L’Horloge magique ou La Petite fille qui voulait etre princesse” (1928) の3本の中短編を、オムニバス形式にブリッジで繋いだ、2003年制作の映画。フィルムはレストアされ、オリジナルはサイレントなんでしょうか、新たなBGMとナレーションが追加されています。
 最初の”La Petite chanteuse des rues”は、母親を助けるために家を出て、ペットの猿と共に手回しオルガン奏者になる少女の話。基本的にライブ・アクションがメインですが、ペットの猿が大活躍というシーンで、猿がパペット・アニメーションに。デフォルメされていない、あくまでもリアルな猿のパペット・アニメーションが実写と絡むわけで、その自然さや、演技の細かさがすごい。ハリーハウゼンもビックリかも。
 次の”La Petite parade”は、アンデルセンの「すずの兵隊」を元ネタにしていますが、話は片足のすずの兵隊を傷痍軍人に見立てるなどして、大幅にアレンジされています。ただ、子供部屋のオモチャたちが生きているかのように動き出す……という構造は同じ。スタレーヴィチなので、フツーのキャラクターもやっぱりどこかグロいんですが、びっくり箱から悪魔が出てくるあたりは、もう本領発揮といった感じ。その後、テーブルの食材等を次々とオンナノコに変えて見せる(牡蠣からマーメイドが出たり、バナナの皮を剥いたらアラブ美女が出てきたり)んですが、そこいらへんはちょっとエロティックな感触も。出てくる人形の数も多く、パーティーあり乱痴気騒ぎあり、オモチャの人形対ネズミの戦闘スペクタクルまである(他にも醜い胡桃割り人形がいたりするので、ちょいとホフマンも混じってますな)という盛り沢山さで、見どころも見応えもタップリ。ラストの悲劇は、ヒロイックかつロマンチックにアレンジされており、これはまたこれで良きかな。
 最後の”L’Horloge magique ou La Petite fille qui voulait etre princesse”は、二部構成。
 前半は、からくり時計職人のもとで働く少女が見た、からくり時計の人形たちの演じる物語。中世の城を舞台に、王様、お姫様、騎士、占星術師、道化、村人等々が入り乱れて見せる、ドラゴン退治やら謎の仮面の騎士やら、姫君に恋する吟遊詩人やらといった、中世もの好きなら満足すること間違いなしの内容。細部まで凝ったエクステリアやインテリアも素晴らしい。ところが少女は、騎士が危機一髪というところで、つい手を出して時計を壊してしまう。時計師は激怒、少女を怒鳴りつけて騎士の人形を窓から外に捨ててしまう……というところまでが前半。
 後半は、叱られた少女が夢の中で、捨てられた人形を探しに外へ……という流れになります。外の世界には、昆虫や虫に模様を描いてあげる妖精がいたり、木や花に顔が付いて動き出したり。少女は「おやゆび姫」みたいに小さくなり、その中で様々な冒険をするんですが、ここいらへんは「不思議の国のアリス」っぽい。実写の少女と、ファンタジックなパペット・アニメーションの絡みが見どころですが、これまたお見事の一言。普通の大きさの人間と、小さくなった少女が絡んだりもするんですが、ここいらへんは特撮映画的な魅力もある。花や松ぼっくりがキャラクターとして動くあたりは、メタモルフォーゼ的な魅力もあります。
 という具合に、通して見ると様々な要素が多様に混在しつつ、しかもそれらのレベルが全て半端でなく高い、というあたり、あらためてスタレーヴィチという作家の凄さを思い知らされます。
 スタレーヴィチの魅力の一つである、グロテスク味や悪魔的ニュアンスは、今回はどちらかというと控えめではありますが、それでもやはり見て損はない逸品。どっかで日本盤の『スタレーヴィチ作品集』を出して欲しいもんですなぁ。

 そうそう、余談ですが、昨年仕事が多忙でどうしても見に行けなくて、断腸の思いで悔し泣きをしたロッテ・ライニガー作品(そりゃ『アクメッド王子』の輸入盤は持ってたけどさ、スクリーンで観たかったんだい、やっぱり!)、今度アメリカ盤DVDを軽く越える充実した内容で、6月だったかにDVDが日本発売されるらしいですな。それを知って、もう大喜びの毎日であります(笑)。

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