『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』

『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』(2005)アンドリュー・アダムソン
“The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe” (2005) Andrew Adamson

 とにかく手堅い、というのが第一印象。
 事前に想像していた以上に原作に忠実な大筋に、ちょこまかオリジナルのエピソードやサスペンスフルな演出をトッピングしてアクセント付け。ヴィジュアル・イメージも原作の雰囲気を踏まえつつ、ちょっぴりスケール感がオマケされていたり、クリーチャー・デザインなどで現代味もプラスされてたり。
 原作の持つ、神話的/エピック的な要素と童話的/おとぎ話的な要素の混淆は、映像作品にするにあたってはいささか難しい要素だと思いますが、そういったバランスも悪くなく、全体的に破綻なく上手く仕上がっています。
 反面、もうちょっと突出した何かが欲しい気もしますが、ナルニアの視覚化という点だけでも、個人的には充分オツリがくるほど堪能できたので、これ以上を求めるのはぜいたくかな。ただ、ドラマに関しては、もうちょっと原作を離れて、映像作品独自の世界を追求しても良かったのではという気はする。

 個人的に一番楽しみにしていた、異世界の視覚化という点は、かなり細やかに作られていて大いに満足。前半の雪景色と比べて、ファーザー・クリスマスが出るあたりの雪景色では、光に暖色がほんのり加わってくるあたりは感心したし、アスランの軍勢の天幕とかの、おとぎ話的なくっきり鮮やかな色彩設計なんかも美しかった。花弁が集まって人の形になったり、火矢がフェニックスになったりするあたりの、映画オリジナルっぽいヴィジュアル・イメージも楽しめたので、このテのネタがもうちょい増えると、もっと嬉しかったかも。
 クリーチャー系は、それぞれちゃんとらしく見えたので一安心。以前見たBBC版だと、タムナスさんは「…変質者?」って感じだったし、ビーバー夫妻は「…コントの着ぐるみ?」って感じだったから、なおさら(笑)。今回のタムナスさんは、マフラーがこだわりポイントらしく、こーゆー小ネタは好きだなぁ(笑)。あと、玄関で足踏みして雪を落とすとことか。小ネタといえば、エドマンドが石像のライオンの顔に落書きするシーンとかは、そのときは「これじゃ単なる原作のエピソードのなぞりだよなぁ」なんて思ったんですが、しっかり戴冠式のシーンでオチに使われてたあたりも好き。
 セントールは、個人的にヘレニズム彫刻風のフツーの人間顔を期待していたんですが、やっぱりいかにも今どきのファンタジー・アート風のクリーチャー面だったのは残念。あと、馬の部分と人の部分の繋ぎ目が、ギャランドゥだったのには意表をつかれました(笑)。
 ただ、映像的な現実感が増していくと、おとぎ話的な良い意味での「いいかげんさ」とは、齟齬が生じてきてしまうのは、ちと気になりました。例えば、極めてリアルな物言うビーバーと、毛皮のコートを纏った四人が対峙するシーンとか、ちょっと禍々しい感じがしてしまったなぁ。
 ここいらへんは、ナルニアという物語が、エブリデイ・マジック系のおとぎ話に徹するのでもなく、ハイ・ファンタジー系の異世界に徹するのでもないという、その特性からくる難しさでしょうね。サー・トーマス・マロリーも イーディス・ネズビットもビアトリクス・ポターも、下手したらジョン・バニヤンあたりまでゴチャマゼになった世界だからなぁ。トーンを統一するのは難しいと思うので、繰り返しになりますが、前述したようにそういったバランス配分は、この映画は健闘していると言っていいと思います。ビーバー奥さんのミシンが出てこなかったのは残念だけど、出たら出たで齟齬もますます目立ちそうだし。
 あ〜、でも個人的には、小学生の時からの憧れの「すてきにネトネトするマーマレード菓子」は見たかったなぁ(笑)。作者同様に食いしん坊の私としては、食事のシーンが足りないのは不満だ(笑)。

 役者は、まずルーシィ役のブスカワイサ(笑)に惹かれるものあり。オイル・サーディンに釣られて目を輝かせるあたりの表情とか、実に良かった。子役四人は、いずれもアイドルにもなりそうにない、フツーっぽさ……とゆーか、程良いブサイクさが好印象。ま、スーザンくらいは、もうちょっとキレイめの子でもバチは当たらないとは思うけど(笑)。
 白い魔女のティルダ・スウィントンは、個人的に『カラヴァッジオ』以来のファンなので、キャスティングを聞いた瞬間から小躍り状態。ガンダルフ役がイアン・マッケランだと知ったときと、同じくらい嬉しかった(笑)。ファンとしては、『カラヴァッジオ』『アリア』『オルランド』あたりの魅力が忘れられず、『ザ・ビーチ』とか『クローン・オブ・エイダ』なんてのも、彼女の魅力に助けられて何とか最後まで見られたというくらい「彼女が出てりゃ何でもオッケー!」の女優さんなので、もう客観的な判断はできまへん(笑)。髪の毛がドレッドだったのは意外だったけど(笑)、二刀流で戦う姿はカッコヨカッタなぁ。
 アスランは、ウチの相棒が「いい声だ〜」と惚れ惚れしておりました(笑)。
 まあ、全体的に定型をはみ出るキャラはいないので、演技等はそれほど印象には残りませんでしたが、ヴィジュアルも演じ方も共々、いずれも違和感なく佳良でした。ただ、白い魔女の配下のこびととか狼とか、アスラン側のセントールとか、もうちょいキャラを膨らませても良かったのでは。いろいろ出るわりには、ちょいと全体的に印象が薄いのが残念。

 最後に一つ残念だったのは、戴冠式の「ハレ」の気分の物足りなさ。これはこの映画に限ったことではなく、『王の帰還』や『ファントム・メナス』なんかでも同様のことを感じたんですが、物語の大団円に際して、祝祭的な「ハレ」の気分が決定的に足りない。
 せっかくCGIでこれだけヴィジュアル表現の可能性が広がっているんだから、戦闘シーンやモンスターといったスペクタクル・シーンだけではなく、大宴会や祝賀といったスペクタクル・シーンも見せて欲しいと、常々期待しているんだけど、そういう見せ場にはなかなかお目にかかれないですね。近年そのテで個人的に満足がいったのは、『トロイ』のヘクトルとパリスがヘレネーを連れてトロイアに帰還するシーンくらいで。
 まぁ、そんなもの作っても喜ぶのはオカマくらいかもしれないけど、マンキウィッツの『クレオパトラ』のローマ入場シーンみたいに、呆気にとられるほどゴージャスで圧倒される「ハレ」のスペクタクル・シーンを、昨今のCGIを駆使した画面で、一度見てみたいもんです。
 で、今回ちょっぴりそれを期待してたんですが、やっぱり物足りなかった。もっと、見ているこっちも多幸感で満たして欲しかったなぁ。

『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』」への3件のフィードバック

  1. soramove

    「ナルニア国物語」ファンタジーの世界に乗れるかどうか

    「ナルニア国物語」★★★
    ウィリアム・モーズリー、アナ・ポップルウェル出演
    アンドリュー・アダムソン監督、2005年アメリカ
    出来のいいファンタジー
    戦争で田舎に疎開して、大きな屋敷に
    やってきた4人の兄弟姉妹
    女の子が大きな衣装ダンスの扉を開けると
    ……

  2. 噂の情報屋

    DVD ナルニア国物語第1章:ライオンと魔女

    英国児童文学の名作として知られるC.S.ルイスの全7巻からなるファンタジー巨編 「ナルニア国物語」シリーズの第1章を映画化。 主人公の子供達は一般の子供2,500人からイメージに合う子供を選び、 「シュレック」シリーズのアンドリュー・アダムソン監督と 「ロード・オブ・ザ…..

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