“Les Pirates de Malaisie”

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“Les Pirates de Malaisie” (1964) Umberto Lenzi
 先日の『逆襲!大平原』に引き続き、スティーヴ・リーヴス主演映画フランス盤DVDのご紹介。
 伊語原題 “I Pirati della Malesia”、英題 “The Pirates of the Seven Seas” aka “The Pirates of Malaysia”。日本未公開らしく邦題は不明。

 これはソード&サンダル映画じゃなくて、タイトル通り海賊ものです。リーヴス演じるのは、主人公の義賊サンドカン。おそらく同じ監督の『サンドカン総攻撃』(1963) の続編なんでしょうが、残念ながら『サンドカン…』は未見のため、詳細は判らず。
 で、どうやらこのサンドカンってのは、イタリアでは有名な児童文学だか大衆文学だそうで。調べてみると、海賊に扮した虎のキャラクターのアニメーションとか、お懐かしやカビール・ベディ主演のテレビシリーズなんかがヒットする。カビール・ベディっつーと、中学生の頃だったか『バグダッドの盗賊』って映画を見に行きましてね、ムサい髭面に惚れたもんです(三つ子の魂百まで)。まあ映画そのものは、ガキながら「何だか安っぽいな〜」なんて思いましたが。あ、あと忘れられないのが、ヒロインを演じてたバブラ・ユスティノフ! ピーター・ユスティノフの娘なんだけど、これがブスでねぇ(笑)。まあ、パトリシア・ヒッチコックほどの破壊力じゃないけど(笑)。
 話がズレました。で、このサンドカンってのは、インド人だかインド系マレー人だかで、植民地時代、英国人に両親を殺されるかなんかして、民族の独立のために立ち上がって戦う義賊になった……みたいなキャラクターらしいです。

 続編(たぶん)のこの映画では、漂流している小舟に乗った男が、サンドカンの船に助けられるところから始まる。サンドカンは助けた男の口から、知人のインド人大公が誘拐監禁され、家族は皆殺しになったとことを知る。犯人は、黄金の採掘権を狙った英国軍人。こうしてサンドカンと英国軍人の闘いが始まる。
 展開は盛り沢山で、サンドカンは水夫に化けて黄金の輸送船に潜入したり、そこで殺されたと聞いていた大公の姫と会ったり、でも姫は、目の前で母親を殺されたショックから放心状態で、サンドカンのことも判らなかったり。はたまた大公の居所を探るために、今度は難破した貴族になりすまして、大胆不敵にも仇敵の懐に飛び込んだり、捕らえられて殺されそうになった仲間を、ロミオとジュリエットみたいな計略を働かせて助け出したり。
 かと思えば、アジトにしていた僧院の寝込みを襲われ、あわや殺されるところを、姫の懇願で除名されて、鉱山の強制労働に送り込まれたり、そこで他の囚人を扇動して暴動を起こしたり。次から次へと繰り出されるアイデアは、なかなか楽しめます。ただ、盛り沢山なわりには、これぞという大ヤマに欠けるので、ちょっと全体にチマチマした印象もあり。海賊と銘打つわりには、海のシーンより陸の戦いの方が多いし、アクション的にもスペクタクル的にも、どうも小粒感が拭えない。絵面そのものはシンガポールロケで良い雰囲気を出しているし、風景のスケール感なんかもけっこうあるんですけどね。

 監督のウンベルト・レンツィは、前述の『サンドカン総攻撃』の他にも、リチャード・ハリソン主演の『勇者ヘラクレスの挑戦』なんかも撮っていますが、後にはマカロニ・ウェスタンやジャーロ映画やB級アクションやホラーを手掛けた、B級職人監督さん。と言っても、実は私、その中で見たことのあるのは『人喰族』(『食人族』じゃないのよ)だけなもんですから、個人的には「サイッテーの監督!」というイメージが(笑)。
 この『人喰族』、巷では残酷描写のドギツさで悪名高いですけど、私としてはそれはOKなんですが、それより前半、動物虐待によるグロを延々と見せられるのが、とにかく不愉快でして。「動物ばっか殺してないで、さっさと人喰えや、ゴラァ!」と、マジで怒りが込み上げてきた記憶があり。
 でもまあ、この海賊映画を見ている限りでは、それほどヒドくもないですな。一人称カメラの切り替えで見せる、鉱山でも殴り合いのシーンなんか、けっこう迫力があってイイ感じだし、画面のスケール感なんかも、ショボくて情けなくなる程でもない。ただ、場面ごとの出来不出来のムラがあり、特にこの映画でマズかったのは、クライマックスに当たる断崖絶壁の上に立つ僧院での銃撃戦と、仇敵との一騎打ちのシーンが、とにかくショボショボでさまにならないこと。おかげで全体の印象も低下。残念ながら総合点では、同じリーヴス主演の海賊映画で比べても、前に紹介した『海賊の王者』よりも、かなり劣ると言わざるを得ないかな。
 ちょっと興味深かったのは、鉱山での暴動でリーヴスが敵をマシンガンで撃ち殺していくのを、延々と見せるシーン。このシーンは敵を倒すというより、圧倒的に勝る力で虐殺しているように見えるせいか、どこか暗い翳りのようなものが感じられます。本作はリーヴスのフィルモグラフィの中でも最後期(最後から二本目)に位置し、時代も史劇が廃れてマカロニ・ウェスタンへと移行していくあたり。そういった時代の結節点の反映が、このシーンに見られるような気がします。因みにリーヴス自身も、この映画から4年後、自ら脚本にも加わったマカロニ・ウェスタン『地獄の一匹狼』を最後に、映画界から引退しています。
 また、このシーンの後にも、共に鉱山を脱出した連中が、意見が分かれて道を別にしたところ、反乱だか戦争だかに巻き込まれて、あっさり全員殺されてしまう……といった、シニカルな展開があります。他にも、墓穴を掘っているとシャレコウベが出てくるシーンとか(これはアメリカ版ビデオではカットされていました)、土の中に生き埋めにされてしまうシーンとかも、やはり何となくマカロニ・ウェスタンへの過渡期を感じさせるような。

 主演のリーヴスは、今回はラウンドひげ。白いシャツを腹の上で縛った海賊スタイルや、キラキラゴージャス系のエキゾ衣装なんかも見せてくれますが、脱ぎ場は少なく、着替えのシーンと鉱山のシーンのみ。分量的には『怪傑白魔』や『逆襲!大平原』と同程度。
 冒頭で助けられる漂流船の男に、ソード&サンダル映画の脇ではお馴染みのミンモ・パルマーラ。
 大公の姫に、ジャクリーヌ・ササール。余談ですが、ガキの頃に読んでいた『スクリーン』で、よく「青春スター特集」みたいな記事があり、そういうときに必ず載っていた女優さんなんで、この人の顔は『芽生え』というタイトルとセットでアタマに刷り込まれています。おかげで、何となく麻丘めぐみとイメージがダブってますが(笑)。で、私は『芽生え』も『お嬢さん、お手やわらかに!』も見ていないので、動くササール嬢を拝見するのはこれが初めてなんですが、動きが少ない役柄だし、レンツィ監督の撮るラブシーンがぜんぜん良くないせいもあって、正直あまり印象に残らない。でも、スキッとしたキレイな顔だとは思います。顔をドーランで黒く塗って、インド人に化けているんですが、それほど珍妙でもない。少なくとも、『黒水仙』のジーン・シモンズとかよりは、よっぽど様になってます(笑)。
 で、またまたどっかにジョヴァンニ・チアンフリグリア君が出ていないかと目を凝らしていたんですが、残念ながら今回は見当たらず。ただ、オープニング・クレジットにドメニコ・チアンフリグリアという名があり、ひょっとしたら兄弟か何かかしらん。サンドカンの手下に、ちょっとジョヴァンニ・チアンフリグリアに顔が似ていて身体は少し細い男がいて目を引かれたんですが、ひょっとしてアレがそうかな? この人、確か『逆襲!大平原』でも、ゴードン・スコットの背後にいるその他大勢の中にいて、やっぱり目を引かれたんだけど(笑)。

 さて、恒例の「責め場」ですが、残念ながら今回は、リーヴスのそれはなし。
 その代わりといっちゃあ何ですが、ミンモ・パルマーラの責め場があります。川縁で強制労働させられているところ、脱走しようとした罰に、川の中に突っ立った杭に、胸の下まで水に浸かる形で後ろ手に縛られる。で、裸の胸板をナイフで切られる。すると、滴って水に混じった血の臭いに引かれて、河原にいたでっかいワニが川の中に。身動きできな囚人に向かって、ワニがゆっくり泳いで近寄ってくる……ってなシーン。
 まあ、リーヴスじゃないのは残念だけど、ミンモ・パルマーラもガタイはいいし、アイデア的にも面白いので、責め場としては悪くない。ただ、個人的にこの人の顔が好みじゃなくってねぇ……(笑)。でもまあ、これは単に好みの問題だから、シルベスタ・スタローンとかが好きな人ならオッケーだと思います(笑)。
 DVDはフランス盤なのでPAL。スクィーズなしのシネスコのレターボックス収録ですが、画質はこの間の『逆襲!大平原』以上に良好で、ボケやらキズやらにじみなどはもちろん、経年劣化による退色すらなし。アップになると、リーヴスの肌に浮かぶ汗の滴まで見えます。スクィーズではないものの、画質は下手なメジャーのクラシック作品以上。どのくらい美麗かは、キャプチャ画像をご覧あれ。
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 音声は仏語のみ、字幕なし、特典なし、チャプターすらなし(笑)という仕様は『逆襲!大平原』と同じ。
 ランニングタイムは、パッケージには80分と表記されているんですが、再生してみると実際は110分ほど。前述したように、米版VHSでは見られなかったシーンもあるので、IMDbのデータを見る限り、どうやら全長版のよう。他の国でのDVDソフト化は、今のところ情報なし。VHSなら米版が入手可能ですが、これは画質がかなりメタメタで、シャドウは潰れて画質も暗く、薄暮や夜のシーンなんか鑑賞するのが辛いくらい。しかも、そーゆーシーンが多いんだ、この映画(笑)。