“Hercules The Avenger(La Sfida Dei Giganti)” (1965) Maurizio Lucidi + “Hercules And The Black Pirates (Sansone Contro Il Corsaro Nero)” (1964) Luigi Capuano
米盤輸入DVDのご紹介。例によってソード&サンダルものです(笑)。
レグ・パーク主演のヘラクレスものと、アラン・スティール主演の変わり種ヘラクレスものの、2 in 1ディスクなんですが、内容に触れる前に、まずこのジャケからダウト!
このジャケはレグ・パークでもアラン・スティールでもなくって、スティーヴ・リーヴス主演の『鉄腕ゴライアス・蛮族の恐怖』”Goliath And The Barbarians (Il Terrore Dei Barbari)” (1959)のポスター・ヴィジュアルだぁ〜ッ!
とゆーわけで、このヒゲマッチョはリーヴスで、抱きついている女人は同映画のヒロイン、チェロ・アロンソです。どっちもこのDVDには、出てこないからねっ! ……まったく、いい加減な仕事してるなぁ(笑)。
さて、ではまず”Hercules The Avenger”から。
これは、ミスター・ユニバース・コンテストでスティーヴ・リーヴスのライバルで、アーノルド・シュワルツェネッガーの憧れのヒーローでもあった、レグ・パークの最後の映画出演作。
とはいえ、実はその内容は、見せ場のほとんどは彼主演の旧作『アトランティス征服』”Hercules And The Captive Women (Ercole Alla Conquista Di Atlantide)” (1961)と『ヘラクレス 魔界の死闘』”Hercules In The Haunted World (Ercole Al Centro Della Terra)” (1961)の名場面をツギハギして、それに幾つか新しい場面を足して、全く別の話に仕上げた、というもの。そんなわけで、ちょっと「……インチキ(ぼそっ)」と言いたくなるタイプの作品ではあるんですが(笑)、まあそれを気にしなければけっこう楽しめる内容です。
物語は、とある国の女王が、求婚者たちに言い寄られて悩んでおり、一方ヘラクレスの家では、彼の息子がライオン狩りの最中に大怪我を負ってしまう。ヘラクレスは神託を受け、息子の命を救うために大地の奥底に降りていくが、その途中で無人島に置き去りにされそうになったり、ドラゴンと闘ったり、煮えたぎる沼の上を綱渡りしたり、空飛ぶミイラに引っ掻かれたり(笑)と、さまざまな艱難辛苦を受ける。
その頃、件の女王は、助けを求めてヘラクレスの留守宅を訪れ、その帰途でヘラクレスに似た男に会う。実はこの男は、大地の女神ガイアの息子アンタイウスで、ヘラクレスの不在時を狙って彼の後釜になろうとしていた。女王は、この偽ヘラクレスと共に国へ帰り、彼の助力で求婚者たちを追い出すが、偽ヘラクレスはそのまま宮殿に居座ってしまう。やがて、苦難の果てに無事息子の命を救って家に戻ったヘラクレスは、ある国で自分の偽物が暴虐をふるっていると知る。再び神託を受けたヘラクレスは、偽物を滅ぼすために立ち上がる……ってな内容です。
でまあ、こういった中でのスペクタクルな見せ場、例えばヘラクレスの地底世界での冒険の数々とか、クライマックスの火山の噴火と都市の崩壊とかが、全て旧作の流用なわけです。本作オリジナルの部分では、こういったスペクタキュラーな見せ場は全くない。唯一それっぽいのは、偽ヘラクレス対ヘラクレスのシーンなんですが、これもギャラリーなしのタイマン勝負だしねぇ(笑)。まあ、肉弾戦としての魅力はあるけど(偽ヘラクレスは母である大地から足を離さない限り無敵である、なんていう神話伝説好きには嬉しい擽りもあります)、スペクタクル・アドベンチャーを見たいのなら、素直にオリジナルの二本を見とけって感じでしょうか。
とはいえ、ツギハギのわりには上手く工夫されていて、話としては決して悪くない。あと、流用元の旧作は、『ヘラクレス 魔界の死闘』のホラー風味が加わった幻想性といい(監督は後にホラーの巨匠となるマリオ・バーヴァ)、『アトランティス征服』のスケール感や都市の崩壊の大迫力といい、どちらも良い出来映えなので、たとえ流用とはいえども、スペクタクル・シーンの見応えは充分あります。考えようによっては、これ一本で二本分美味しい……と言えなくもないし(笑)。
ただし、いわゆる責め場は皆無。筋肉美は堪能できるし、艱難辛苦で苦しむとかはありますが、捕まって縛られたり、拷問されたりは一切なし。あ、野郎じゃなくても良ければ、ブロンド美女の髪吊りがあるけど(笑)。
しかし、実は個人的に捨てがたいのが、偽ヘラクレスことアンタイウス役のジョヴァンニ・シャンフリーリア(Giovanni Cianfriglia)。
マッチョではありますがバルクはさほどなく、身体のデカいレグ・パークと比べるとかなり細く見えるんですが、なんだかエッチな身体でねぇ(笑)。ゴードン・スコットやリチャード・ハリソンに少しウェイト足して、筋肉のキレも良くしたような体系……と言えばイメージが伝わるかな? 無理か(笑)。
あと、顔。ブサイクではないものの華はあまりなく、奥目気味の地味〜な顔なんですが、これが私的にはかなりイケちゃうタイプなのだ。どことなく、ボクサーの平仲明信をもうちょっと男前にした感じで、顔としてはレグ・パークよりも断然好き(笑)。
調べてみると、この人、このテのソード&サンダル映画ではけっこうクレジットされているんですが、他作品では正直印象に残っていません。もともとスタントやボディ・ダブルの方らしく、スティーヴ・リーヴスの代役もやっていたらしい。後にはケン・ウッドと名前を変えて、マカロニ・ウェスタンにも出ていたようなので、そっち系に詳しい方ならご存じかも。
私的には、このジョヴァンニ君を見れるだけでも、充分オッケーな作品でゴザイマス。もう、ラブよ、ラブ(笑)。
収録は、シネスコのレターボックスでスクイーズ。画質は、多少ボケたり滲んだりしている感があったり、フィルムの傷が目立つシーンもありますが、退色は気にならない範囲だし、米盤としては佳良な方。中の上クラスってとこでしょうか。独盤や仏盤の高画質に慣れちゃうと、正直かなり劣る感はありますが、日本で普通に売られているマイナーどころの旧作とかでも、これ以下の画質のときもあるし。字幕はなし。リージョンコードはフリー。両面ディスクです。
因みに、元ネタの『ヘラクレス 魔界の死闘』は米盤が、『アトランティス征服』は仏盤があり、これがどちらも、メジャーのソフトそこのけの高画質&ハイクオリティ。前述のようにどちらも良作(あ、こーゆーのが好きな物好きにとっては、ですよ、あくまでも)ですから、興味のある方はお試しあれ。ご参考までに、ジャケ写を載っけときます。
左が『魔界の死闘』米盤、右が『アトランティス征服』仏盤。
あ、もちろん『アトランティス征服』はPAL盤。音声も字幕も伊語と仏語のみ、英語はありません。
さて、余談ですが、前述のジョヴァンニ君、実は以前ここで紹介した”Kino Kolossal” (2000)というソード&サンダル映画の歴史を綴ったドキュメンタリーでも、すっかりオジイチャンになって(とはいえ、えらくマッチョなオジイチャンですが)出演しています。
で、当時の仕事仲間のミンモ・パルマーラ(先日紹介した『ロード島の要塞』の他にも、リーヴスの『ヘラクレス』のイフィトゥス役や『大城砦』のアイアース役で印象に残ってます。やはり後には、ディック・パーマーという名前でマカロニ・ウェスタンに出ているらしい)と一緒に、当時の裏話を語ったり、二人で剣戟やガン・アクションを再現してくれたり。
このドキュメンタリー、言葉が判ればホント面白そうなんだけどなぁ……悔しい(笑)。
もひとつ余談ですが、Reg Parkの表記が「レグ」か「レジ」かが悩みの種。
最初に見たときはすんなり「レグ」と読んだんですが、こういった映画にリアルタイムで親しんでいた世代の友人が「レジ」と呼んでいたことと、何かの予告編(アメリカ版)でハッキリ「レジ」と発音していたので、一度は「レジ」でファイナルアンサーかとも思ったんですが、今度は前述の”Kino Kolossal”で、イタリア語の発言の中で「レグ」と発音していて、またグラグラ。
しかし、彼は確かイギリス人だよなぁ……だが、allcinema ONLINEだと「レグ」だなぁ……でも、Reginaldの略だから、やっぱ「レジ」かなぁ……(笑)。
では、続いて”Hercules And The Black Pirates”。
え〜、ぶっちゃけた話、これはいわゆるソード&サンダルものじゃありません。フツーの海賊映画……ってか、それとも違うか。主人公は海賊じゃなくて、海賊と闘う政府側の人間だから。
まあ、ハッキリ言って、かなり「安い」です。冒頭の海戦シーンとか、他の映画の流用だってのが見え見えで、炎上する帆船の映像とかに、スティールのアップ画像をオーバーラップさせて、戦闘に「参加」させてるあたり、ちょっと切なくなるし(笑)。もちろん本編に入っても、アクションはせいぜい甲板で斬り合いするか、小舟で帆船に乗り込むかくらいで、軍艦同士の海戦なんてスペクタクルは微塵もありません。
舞台は、スペイン統治下のカリブ海かどっか。そこに何故かヘラクレスがいるわけですが、マチステものとかにあるみたいな、異世界にマッチョが召還されるパターンですらなくって、フツーに「いる」んですな。海賊退治に功績があった将官たちに、提督が名前を尋ねるシーンがあるんですが、他が皆「何たらメンドーサです」「ホセ何たらです」なんて、いかにもスパニッシュな名前を答えていくのに、スティールだけ唐突に「ヘラクレスです」だもん(笑)。まあ、エルキュール・ポワロみたいに、ファースト・ネームが「ハーキュリーズ」なだけかも知れないけど、そこんとこのツッコミも何もない(笑)。
でまあ、提督の娘との身分違いの恋があったり(このヘラクレス君は、漁師の息子だそうな)、実は裏で海賊と通じている裏切り者の高官がいたり、少女が悪人に誘拐されちゃったり、話的にはお約束のテンコモリ。意外性はカケラもないので、安心して(笑)ゆっくりまったり観られます。劇判がいかにもスペイン風な、フラメンコか闘牛みたいな陽気なノリなのも、更にまったり感に拍車をかけます(笑)。
主演のスティール君は、ヒゲなし&チュニックでも腰布でもないってのは、個人的な趣味から言えば「下げ」要素ではありますが、それでもマッスル・ムービー的には、それなりに工夫あり。
まず、しょっぱなから宮廷の宴会で、力自慢の軽業師相手に上半身裸でレスリング。海賊との乱闘シーンでは、次第にシャツが破れていき、最後には上半身裸に。で、海賊にとっ捕まった後、泳いで逃げだすんですが、岸辺に着いたときには、ズボンも脱げていて下着一枚になってる(笑)。まあ、ズボンはすぐまたはきますが、上半身は何故かす〜っと裸のまま。で、めでたしめでたしのラストシーンだけ、革のベストみたいのを着るんですが、これがまたミョ〜に胸ぐりが深いベストで、何だかフェチ系ショップで売っている、ラバーのタンクトップみたいなシルエットなの(笑)。
……ってな具合で、このテの映画の見せ所としては、けっこうツボは押さえている……かな? まあ少なくとも、ボディビル男優は脱いでナンボというのは、制作者も心得ているようで(笑)。アクション・シーン全般が、剣戟よりも殴り合いメインなのも、いかにもマッスル・ムービー的でご愛敬。
責め場としては、まあ捕まったヘラクレスが、海水が浸水してくる船倉に、鎖で縛られて放置されるくらい。まあ、鞭打ちとかに比べるとヌルい責め場だし、拘束自体もアッサリ抜け出してしまうんですが、そこから脱出までは、それなりに引っ張って見せてくれる。あと、この拘束が両手を頭上にあげる形で、黒いワキ毛がモジャモジャしてるのが見えるのが、個人的にはプラス・ポイント(笑)。
ですが、実は個人的な最大の収穫は、別にありまして。
前述した、軽業師とのレスリング場面。この相手のマッチョ軽業師が、何と、”Hercules The Avenger”の偽ヘラクレスこと、ジョヴァンニ・シャンフリーリア君なのだよ! ヒャッホ〜、すっげー得した気分(笑)。まあ、アップはほとんどないし、すぐに退場しちゃうんだけど、上半身裸だしヒゲもあるしね、嬉しい嬉しい(笑)。
というわけで、このDVD、私的には「ジョヴァンニ・シャンフリーリア・パック」ということで、もう強引に「アタリ」判定(笑)。
収録は、4:3のテレビサイズ。画質はかなりボケていて、”Hercules The Avenger”よりもだいぶ劣りますが、それでも何とか色は残っています。あ、でも最後のロールだけ退色していて、画面が急に赤くなっちゃうけど(笑)。まあ画質的には下の上ってトコでしょうか。
“Hercules The Avenger + Hercules And The Black Pirate” DVD (amazon.com)
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ちょっと宣伝。単行本発売されました。
え〜、基本的にお仕事関係は抜きのつもりだった当ブログですが、せっかく単行本が発売になったので、ちょっと宣伝いたします。
『天守に棲む鬼/軍次 田亀源五郎短編集』です。国内で発売される単行本としては、10冊目ですね。短編集は98年の『獲物』以来なので、何と7年振りということになります。
今回の本は、光彩書房さんから出ていたアンソロに描いていた全作品を一冊にまとめたものなので、私の単行本としては、比較的ソフトめの仕上がりになっていると思います。とはいえ、ソフトとは言ってもね、作者が作者なんで、あくまでも「それなりにソフト」なだけかも知れない(笑)。
この一連の作品は、当時けっこう自分で楽しみながら、いろいろ試していたようなところがあるんで、こうして一冊に纏まってみると、何だか幕の内弁当的な盛り沢山さになったような気がします。時代物あり、現代物あり、紅毛物あり(お前は明治時代の人間か)、ラブあり、鬼畜あり、私としては稀少なアホエロまで(笑)。
本文の加筆は、同時収録の短編の一つのラスト2ページ。アンソロ掲載時とはエンディングが変わっており、これは読後感が少し変わっているかも。あとは、ベタの塗り忘れとか、トーンの張り間違いとか、そこいらへんは自分で気が付いたところをチョコチョコ修正入れました。メイキング裏話も、小さなフォントでぎっしり入っています(笑)。
ご覧の通り、前回の『PRIDE』と違って、今回は表紙がリアル系。反面、描き下ろしのカラー口絵は、「萌え絵」に挑戦……って「どこがじゃ!」って言われそうだけど(笑)。
昨日はジープロに行って、先行予約特典の「抽選で当たるサイン本30冊」に、サインを入れて参りました。当たった方、お手元に届いたら可愛がってくださいね。外れちゃった方は、本当にゴメンナサイ。でも、わざわざ予約してご購入くださって、本当にありがたく思っております。
で、帰りがけにレンタルビデオ屋さんに寄って、『レーシング・ストライプス』を借りて、メシ喰いながら鑑賞。
実はここんところ、毎晩『ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーBOX』を見ていて、ちょっと心身共に疲れ切っていたもんだから……いや、面白いんですよ、ファスビンダー。でもね、観賞後のダメージがデカい作品が多くって(笑)。『自由の代償』なんてね、私は再見だから覚悟も出来てたけど、何も知らずに一緒に見ていた相棒は、「何てイヤなラストなんだ!」と憮然としてましたもん(笑)。と、かく言う私も、初見の『13回の新月のある年に』は、「スッゲ〜!」と思いつつも、見終わったらグッタリ、ドンヨリ(笑)。……ってな日々の後だったもんだから、『レーシング・ストライプス』は、何だかえらく楽しく見られちゃいました。
ただ、『ベイブ』と比較しちゃうと、ちとキビシイんですが……っつーか、『ベイブ』が名作すぎるんだよな、きっと。まあ、比較する必要はないんだけど、話の骨子やキャラ配置に、これだけ共通点が多いとねぇ、イヤでも比べたくはなっちゃいますわ。
で、『ベイブ』が「動物ファンタジー」として、「動物には動物の、人間の知らない世界がある」というニュアンスを盛り込みつつ、動物をメインにしながら人間とも上手く絡ませて、静かな感動を与える作品だったのに対して、『レーシング…』はどうしても、「擬人化された動物ドラマ」の域に留まっているので、『ウォーターシップダウンのうさぎたち』とか『楽しい川辺』とかを愛好する私とは、ちょっとテイストのずれがありました。
あと、ドラマが基本的に「青春ドラマ」だから、『ベイブ』みたいな「けなげさ」はないし、人間ドラマと動物ドラマの比重がフィフティ・フィフティになっているのも、個人的には残念ポイント。出てくる人間が多すぎて、どうしてもフォーカスが散ってしまっている感もあるし、話の無理さ加減も、ちょっとギリギリかなぁ。
反面、全体の何ともアメリカ〜ンなノリとか、かなり派手派手しい演出とかは、ま、これはこれでオッケーかな。詩情とか、印象的な静かな見せ場とかはなかったけど、下ネタを含むくだらないギャグは、けっこうケロケロ笑えたし(笑)。
『海賊の王者』
『海賊の王者』(1961)プリモ・ツェリオ&アンドレ・ド・トス
“Morgan il pirata” (1961) Primo Zeglio & Andre de Toth
我が愛しのスティーヴ・リーヴス様の海賊映画。そのイタリア盤DVDのご紹介です。因みに英題は “Morgan, the Pirate”。
イタリア語はさっぱり判らないけど、幸いこれは英語版を見たことがあるし、Goo映画にあらすじ紹介もあるので、内容解説も何とかなりそう(笑)。
17世紀末、スペイン領パナマ。ヘンリー・モーガン(スティーヴ・リーヴス)は奴隷市場で鞭打たれていたところを、通りがかりの令嬢イネス(ヴァレリー・ラグランジェ)に救われる。しかし、モーガンはイネスの高慢さに反発、何やかんやあって、今度はガレー船の漕ぎ手にされてしまう。が、反乱を起こして船を乗っ取り、海賊として名乗りをあげる。それから海賊モーガンは、他の海賊の捕虜になっていた令嬢イネスを救い出したり、英国の対スペイン戦に協力したり、船を沈められて死んだかと思ったり……などなど、まあ波瀾万丈、恋あり戦いあり女装あり(笑)の、古式ゆかしき痛快冒険活劇モノです。
監督は二人とも良く知らなかったので調べてみたら、あら、アンドレ・ド・トスって、ヴィンセント・プライス主演のリメイク版『肉の蝋人形』(1953)を撮った人だったのね。(因みにこの『肉の蝋人形』、今年また『蝋人形の館』としてリメイクされましたね。パリス・ヒルトンが出演してるとか、変な方で話題になってたけど)フィルモグラフィーを見る限りでは、西部劇とか冒険モノとか史劇とか戦争モノとか、アクション系の痛快娯楽作を撮った職人監督さんなのかな。プリモ・ツェリオの方も、海賊映画や史劇などの娯楽作を撮った人らしいけど、残念ながら未見のものばかり。
で、本作ですが、とにかく話がテンポ良くパカパカ進むので、肩の凝らない娯楽作として充分以上に楽しい。戦闘シーンなんかけっこう迫力あるし、セットやモブも貧乏くさくないし、美術や衣装も難点なし。まあ、意外性とか飛び抜けた個性とかはないけど、予定調和的な楽しさはバッチリです。
意外だったのは、画面構成のスケール感。実は前に見たときは、もっとこぢんまりしたTV映画っぽい画面づくりだったような記憶があったんですが、どうやらそれは、その時のビデオが4:3の画面用に左右がトリミングされていたせいらしい。今回のDVDはノートリミングのシネスコ版なんですが、これで見ると拡がりも奥行きもたっぷりある、実に堂々たる画面構成です。海岸のシーンなんかで、近景で人がゴチャゴチャ動いていて、遠景の青い海には帆船が浮かんでる……ってな構図は、やっぱワクワクさせられますな。パナマの街なんかも、安手の映画にありがちな「狭さ」を感じさせない。そんなこんなで、全体的にかなりいい感じ。
で、気になって調べてみたら、うわ、撮影のトニーノ・デリ・コリって、ピエル・パオロ・パゾリーニの諸作(『アッカトーネ』『奇跡の丘』『豚小屋』『デカメロン』『カンタベリー物語』『ソドムの市』などなど)や、フェデリコ・フェリーニの『ジンジャーとフレッド』『インテルビスタ』、セルジオ・レオーネの『ウエスタン』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、ジャン=ジャック・アノーの『薔薇の名前』、最近ではロマン・ポランスキーの『赤い航路』とかロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』なんかを手掛けている、いわゆる巨匠ってお方じゃないですか! ひゃ〜、ちっとも知らんかった(笑)。
因みに音楽のフランコ・マンニーノという人も、調べてみたらルキノ・ヴィスコンティの『ルードウィヒ/神々の黄昏』『家族の肖像』『イノセント』なんてのがヒットしてビックリ(笑)。
主演のスティーヴ・リーヴスは、ヒゲ好きの私としては、ヒゲをたくわえてるシーンは全体の3分の1以下ってのは寂しいし(ヒゲなしのリーヴスって、ハンサムではあるけれど、いまいち個性やオーラには欠ける気が)、ヘラクレスものみたいな終始半裸or諸肌脱ぎってこともないんで、そこいらは残念ではありますが(笑)、それでもいおう奴隷のシーンとか決闘シーンとかで「脱ぎ場」は用意されてます。
で、この決闘シーン、シャツを脱いだリーヴスの身体にびびって、相手は脱ぎかけたシャツをまた着ちゃうのだ(笑)。あと、最初はちゃんとサーベルで闘っているのに、それが折れちゃって、結局はいつもの半裸レスリングになったり(笑)。
ヒロインのヴァレリー・ラグランジェは、まあ美しくはありますが、いまいち印象が薄い。さほど清楚というわけでもなく、かといってセクシーなわけでもなく、何となく中途半端なんですな。インパクト的には、恋敵のチェロ・アロンゾの方が上。でも、この人っていつも「エキゾチックでちょっと鉄火肌のオネエチャン」役だよなぁ(笑)。んでもって、必ずダンス・シーンがあるの(笑)。今回もしっかり、夜の海辺で焚き火に照らされながら、エキゾなカリビアン・ダンスを踊ります。
イタリア盤なので、当然PAL。で、ちょっと良く判らないのが、ジャケには4:3フォーマットと記載されていて、たしかにS-VHS接続で見ると、4:3スクイーズなしのレターボックスなんですが、コンポーネント接続のプログレッシヴ再生で見ると、なぜか16:9スクイーズのレターボックスになる。こんな現象の出るディスク、初めてだ(笑)。
画質は極めて良好。多少の退色はあるけれど、まあこの程度だったら、メジャーどころのクラシック作品と比較しても遜色がないと言えそう。試しにキャプチャ画像をアップしてみました。こちら。参考までに、米版VHSとも比較。このVHSも、このテのソフトとしては、画質はかなり上等の部類ではあるんですが、やはりディテールの再現性や発色といった点では、今回のDVDの方が段違いに上。あと、こうして比較してみると、トリミングによる構図の狂いというのが、かなり大きく影響を及ぼすというのがお判りいただけるかと。
音声は伊語のみ、伊語字幕付き。特典は当時のスチル写真を集めたフォト・ギャラリー。あと、なんだかテキストによる解説らしきものが幾つかありましたが、なんせ伊語だから何のことやら(笑)。
では、恒例の責め場紹介。
まず冒頭、奴隷市場にて、鎖をブンまわして暴れる上半身裸のリーヴスを、数人がかりでおさえこみ、そのまま裸の胸と腹を何発か鞭打ち。あとは、罪人として木の檻に入れられて馬車で運ばれたり、暗い船倉に半裸で鎖に繋がれたり……なんてシーンもあります。リーヴス以外では、太った半裸のヒゲオヤジが馬裂きの刑にされるシーンもあり。
まあ、どれも比較的アッサリしているんで、ちょい食い足りないかな(笑)。
ソード&サンダル映画ドイツ盤DVDボックス(3)
以前、こことここで紹介した、ドイツe-m-s社のクラシック・ソード&サンダル映画DVDボックス”Cinema Colossal”、シリーズ最後の”5 – Mars”が発売されました。む〜ん、これで終わりなのね。毎回届くのが楽しみだったから、ちょっと悲しい。
まだ未見だし、見たことのある作品もないので、とりあえず覚え書き程度のご紹介。
“Cinema Colossal 5 – Mars”
1)コーネル・ワイルド主演『コンスタンチン大帝』”Konstantin Der Grosse” (1960)
伊題”Constantino Il Grande”、英題”Constantin The Great” aka “Constantin And The Cross”
共演はクリスチーネ・カウフマン、ベリンダ・リー。マッシモ・セラートも出てますが、まあどう見てもマッスル・ムービーじゃなくて、普通の史劇だろうな、コレ。マッシモ・セラートといえば、前に「ニコラス・ローグの『赤い影』に出てたなんて、ちっとも覚えてない(笑)」と書きましたが、先日『赤い影』がDVD化されたんで買って見たら、まあ随分老けてはいたけど、すぐ判りました。ソード&サンダル映画ばっか見て、ようやく顔を覚えられたってわけですな(笑)。
2)ジーン・クレイン主演 “Nofretete, Konigin Vom Nil” (1961)
伊題”Nefertiti, Regina Del Nilo”、英題”Nefertiti, Queen Of The Nile”
ジーン・クレインって、オスカー&ハマースタインのミュージカル『ステート・フェア』の主演女優さんですね。それが主演の古代エジプトものって……ちょっと見るのが楽しみ。でもまあ、これもどう見てもマッスル・ムービーではないけど(笑)。共演者にはヴィンセント・プライスの名前も。
リチャード・ハリソン主演『勇者ヘラクレスの挑戦』”Der Letzte Der Gladiatoren” (1964)
伊題”L’Ultimo Gladiatore”、英題”Messalina Against the Son of Hercules”
今回マッスル・ムービーはこの一本だけかな。でも、リチャード・ハリソンなんでバルクは期待できないけど(笑)。い〜んだ、顔は好きだから(笑)。これは確か、Movies Unlimitedのカタログで米盤DVDを見た記憶が。でも、他で見たことがないところをみると、おそらくDVD-Rだろうなぁ。
とまあ、今回はマッスル・ムービー的な見どころはあんまりなさそうですが、オマケのポストカードの方は、ブラッド・ハリスの『ヘラクレスの怒り』(多分)はDVDのジャケとは違う絵柄だし、ボックスには収録されていない”Herkules Im Netz Der Cleopatra”なる映画の絵柄がちょっとイカしてました。
さて、マッスル・ムービーついでに、ちょいと最近の話題を。
少し前に、ホールマーク・エンタテイメント社が、新作テレビ映画のヘラクレスものを制作するという話を聞き(そもそもは『ロード・オブ・ザ・リング』絡みで、ショーン・アスティンが出るとかいうニュースで知ったんですけどね)、以来ちょくちょく情報をチェックしてたんですが、先日www.hallmarkent.comを覗いたら、予告編動画やスチル・ギャラリーがアップされてました。
で、さっそく見たんですが、肝心要のヘラクレス役者は……う〜ん、身体はいいんだが、顔はちっとも好みじゃなかった(笑)。ヒゲもないし(笑)。コスチュームもね、何だかヘラクレスっつーかロビンフッドみたいで、チュニックや腰布が大好物(笑)の私としては、ちょい残念。身体はムキムキなんだけどな〜。
でもまあ、ホールマーク製ならそうそう大ハズレってことはないだろうし(ここのテレビ映画は、スケール感やSFXのクオリティとか、テレビ映画にしちゃ大したものだと感心させられるし、内容的にも、極端に良かったり個性やクセがあったりはしないけど、そのかわりいつも手堅くしっかり見せてくれるので、けっこう好きです)、キャストには個人的にごひいきのタイラー・メイン(『X-メン』のセイバートゥース役とか『トロイ』のアイアース役のプロレスラー俳優さん)が入ってるし、まだまだ楽しみ。
日活さんあたりが、ちゃんとノーカット版のDVDを出してくれることを願います。
地震とかDVDとか
夕方の地震、けっこう大きくてビビりました。
とりあえずタバコを消して、スリッパはいて(何かで地震の時はスリッパ必須と聞いたので)、本棚が倒れても下敷きにならなさそうな位置に移動したら、台所の方から何かドザドサ落ちる音が。
後で落ち着いてから確認したら、DVDラックの上に横積みにしていた古いVHSテープが落っこってました。MTV関係(The OrbやらClannadやらブリジット・バルドーやら)とか、中古屋のワゴンセールで買った珍品映画(『犯(や)られた刑事(デカ)』やら『マルキ』やら)が、床に散乱(笑)。
実際、我が家には、いたるところに本やらビデオやらDVDやらCDやらが、林立する蟻塚の如く突っ立っておりまして、地震の後、そんな状態を良く知る友人から「大丈夫? 本の下敷きになってない?」という、ご心配の電話が掛かってきたくらいで(笑)。
そんな状況にも関わらず、やっぱり好きな映画がソフト化されると買わずにはいられないわけでして、しかも最近は、ネットショップで予約しておくと割引だったりもするもんですから、地震があった今日も、『サスペリア アルティメット・コレクションBOX』と『映画はおそろしいBOX』と『ドリームチャイルド』と『日本のいちばん長い日』が、ドドドッとまとめて届きました(笑)。
『サスペリア アルティメット・コレクション』は、事前に告知されていた「温度で色の変わるアウターケース」ってのが、いったい何のこっちゃいと思っていたんですが、届いた現物に触ってみて……納得!
いやぁ、こりゃいいわ! こーゆー遊び心は大歓迎であります。嬉しくなって、相棒が仕事から帰ってきたら、さっそく「ね、ね、触ってみ!」とBOXを押しつけたりして。
これを読んで「何のこっちゃい」と思われた方は、ぜひ店頭で現物に触ってみてくださいな。あ、でも『サスペリア Part 2』を見ていないと、この感激は判らないかも。
で、今夜はさっそく『サスペリア』を鑑賞したんですが、うわ、画質がいい! 以前に出ていたDVDとは段違い! ひ〜、買い直して良かった!
この『サスペリア』、昔は恐い映画が大の苦手だった私が、一気にホラー映画好きになってしまった思い出の一本だったりするもんで、このクオリティ・アップは実に嬉しい限りでした。
『映画はおそろしいBOX』の収録作の方は、浅学にして『生き血を吸う女』ってのはよー知らんのですが、残る『白い肌に狂う鞭』と『回転』は、もう念願のDVD化でしたから、もう嬉しくて嬉しくて。
あ〜、あとは『血とバラ』や『チェンジリング』も出ないかなぁ。
念願のDVD化というと、今回の『ドリームチャイルド』もそうでして、いやあ、よくぞ出してくださった!
公開当時に劇場で一回見たきりなので、細部は良く覚えていないですが、小品ながら心に残る思い出の一本であります。
「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルの生誕百年祭に、かつてアリスのモデルであった老婆が呼ばれ、キャロルの思い出を語るという内容を、小説を再現した幻想シーン(『ダーク・クリスタル』『ラビリンス 魔王の迷宮』『ストーリーテラー』なんかのジム・ヘンソンが担当)を交えながら綴っていくんですが、キャロルのペドフィリアという部分にもしっかり触れつつ、最後にはしみじみとした余韻が残る。
再見しても、そういった好印象が変わらないと良いんですけど。私の心の中では、現在、楽しみと不安がちょっと同居中。
『日本のいちばん長い日』も、これまたむか〜しテレビ放送で一度見たきりなんですが、暗い重い長いと三拍子揃いつつ、でも面白いかったし見応えあったし、特に緊張感とかスゴかった記憶があるし、三船敏郎の切腹シーンも脳裏に焼き付いている。
今度はぜひ『血と砂』(やはり岡本喜八+三船敏郎+軍人モノ)をDVD化して欲しい。
昨日は昨日で、ロシアに注文していたアレクサンドル・プトゥシコの『イリヤ・ムウロメツ(豪勇イリア/巨竜と魔王征服)』が届いたんで、早速鑑賞しました。
イリヤ・ムウロメツと言えば、お好きな方なら「筒井康隆+手塚治虫」を思い出されるでしょうし、監督のプトゥシコも、人形アニメーション好きなら、人形アニメによるモブシーンが有名な『新ガリバー』、普通の映画ファンなら、ソ連初のカラー映画にして日本で最初に公開されたカラー映画『石の花』、カルト系やホラー好きなら『妖婆・死棺の呪い』でお馴染みでしょう。
で、この『イリヤ・ムウロメツ』、私は初見だったんですが、ラストに出てくるドラゴン、怪獣世代の日本人なら間違いなく「あ、キングギドラ」って思いますね、きっと(笑)。ひょっとして、本当にこれが元ネタなのかしらん。
モブやセットのスケールは惜しみなく、画面はそういった映画的なスケール感と、舞台的な様式美が美しく混淆し、ファンタスティック映画的な楽しさも満載。物語やキャラクターが、あくまでも民話的なシンプルさから逸脱しないのは、私的には楽しめたんですが、物足りなさを感じる方もいそうではあります。
主人公のイリヤが、少なくとも最初は若者のはずなのに、どう見てもオッサンなのはご愛敬。まあ、こーゆーヒゲ熊オヤジが主演を張るファンタジー映画ってのは、私としては嬉しいけど(笑)。ラストのまとめが、いかにも「社会主義国家的」になってるのも、まあいたしかたなし。
あと、ちょっと「SM的興趣」を擽られるシーンがあったのも、個人的にはお得感(笑)。
嫌な方は、この段は飛ばすように。
えーとですね、この映画ではロシア(キエフ)が蛮族(モンゴル人かタタール人か…とにかくアジア系)に襲われるわけです。で、その蛮族の首領が座している椅子が、いわゆる「人間椅子」なの。
どーゆーものか説明しますと、鎖に繋がれた逞しい裸のロシア人奴隷(しかもヒゲ面)が、10人くらい円座になっていて、その肩の上に大きな円盤が乗っていて、首領はその上に胡座かいているんですな。で、首領はそこし座りながら、踊り子のダンスなんぞを鑑賞するんですが、その舞台も同じく「人間舞台」でね。裸の奴隷が身体で支えている。しかもこっちは、板の縁にはグルリと燭台が突き出ていて、そこに蝋燭が燃えてたり。
こーなると私の頭は、「踊り子が踊るたびに、その動きと重みに背骨が軋み、しかも揺れる蝋燭から熱涙が、裸の肌に降り注ぐ……」なんての、自動的に脳内補完しちゃうもですから、もうムラムラでゴザイマス(笑)。
まあ、もちろんそんな描写はないですけど、カラーの実写映画で、しかもけっこうなスケールでこーゆー絵を見せられるとね、なかなかくるものがあって、すっげー「得した感」アリでした(笑)。
因みにこの『イリヤ・ムウロメツ』のDVD、ロシア盤とはいえ日本語字幕もしっかり入っています。
版元のRUSCICOというところは、日本のIVCと提携しているらしく、このRUSCICO盤はけっこうIVCからコンスタントに国内発売されるんで(同じプトゥシコ監督の『サルタン王物語』は既に発売済み)、これも待てばそのうち日本盤が出るかも。あ、でも、だいぶ前にロシア盤が出た、初の米ソ合作映画『青い鳥』(光の女王がエリザベス・テイラー、夜の女王がジェーン・フォンダ、「贅沢」がエヴァ・ガードナーっつー豪華キャスト……なんだけど、映画自体は凡作。私は嫌いじゃないけど)とか、まだ日本盤が出る気配がないから、本当に出るかどうかは判りません。
ただ、このIVCの出す国内盤って、ジャケが日本語になってるだけで、ディスクの中身はロシア盤と一緒。ロシア盤で日本語字幕が付いていない映像特典とかは、日本盤になっても字幕なしのまんまなので、私はたいがい待ちきれずに、ロシア盤を買っちゃってます(笑)。
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巨竜と魔王征服 イリヤ・ムーロメッツ[DVD] 価格:¥ 4,935(税込) 発売日:2006-04-26 |
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青い鳥 [DVD] 価格:¥ 4,935(税込) 発売日:2006-06-30 |
そうそう、あと個人的な偏愛映画の一つ、ルー・フェリグノのB級ファンタジー映画『超人ヘラクレス』も、続編と併せて2in1で、ようやくアメリカでDVD化されまして、注文してたのが数日前に届いたんですが、まあいいかげん長くなったので、その話はまたの機会にということで。
『ベアー・パパ』
『ベアー・パパ』(2004)ミゲル・アルバラデホ
Cachorro (2004) Miguel Albaladejo
第14回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて、トークショーのゲストを兼ねて鑑賞。
本題に入る前に、まずトークショーの方から。
すいません、時間が短いこともあって、あまり実のあることは喋れませんでした。
特に『パニッシャー』のゲイ描写の件は、あれはいわばマクラで、あそこから「このテの映画にしては、実はけっこう等身大感覚のゲイが描かれている」というところに持っていきたかったんですが、横目で時間経過のカンペを見て断念。
このネタは、そのうちBlogで書くかも。
では、映画の話。
内容紹介は、とりあえず映画祭の公式サイトから引用させていただきましょう。
「歯科医のペドロは、地位アリ・金アリ・遊び相手複数アリのお気楽独り身ゲイ生活を楽しんでいた。
ところがある日、2週間の約束で、9歳の甥ベルナルドを預かることになってしまって、さあ大変。
今までの自分本位の生活を一変させ『良き保護者』になろうと奮闘するペドロ。それとは対照的に超自然体のベルナルド。そんな2人の不思議な共同生活が始まって……」
とまあこんな感じで、ユーモアたっぷりに、それでもそこかしこにシリアスなトゲもチクチク仕込みながら、話は軽快に進んでいきます。
物語の進行は、いたって順調。ところどころに仕込まれるエロティックなシーンは、かな〜り生々しい上に(どのくらい生々しいかというと、映画祭のスタッフの方が「税関通るかどうか心配でした」と仰ってたくらいでして、いや、けっこうスゴかった! 特に、しょっぱな!)、出てくるのは「ヒゲあり体毛ありの太め」とゆー「熊系」のゲイばっかなので(熊系ばっかのパーティーに来たベルナルドに、パーティーの一人が「見分けるの大変でしょうけど」なんて言うシーンには大ウケ)、ノンケさんは引いちゃいそうだし、やおい好きの女子でも見る人は選びそうではありますが、私にとっては目のご馳走。
で、やがてベルナルドのおばあちゃん(ペドロの姉の旦那さんの母親で、死んだベルナルドの父親を愛する反面、母親のことは快く思っておらず、現在のベルナルドの教育環境も好ましくなく思っている)が絡んできたり、HIV/AIDSの問題が絡んできたり。ここいらへんから、話が果たしてどういう方向に転がっていくのか予断を許さなくなり、筋運びはかなり達者。
やがて物語の内容は、ペドロという「ゲイの物語」から「家族の再生の物語」へと変化していく。
ここいらへんのテーマの拡がり方は、同じスペインの『オール・アバウト・マイ・マザー』とか、あるいはフィリピン発のゲイ映画『真夜中のダンサー』とか、更には名作『トーチソング・トリロジー』なんかを、ちょっと思い出させるところがあります。
或いは、ゲイという要素を抜いて考えれば、『コーリャ 愛のプラハ』とか、或いは最近の『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』なんかとも似た構造とも言えそう(因みにこの映画二本とも、見ながら私は「もし自分がこの引き取られた子供だったら、きっと新しい『おとうさん』を性的にも好きになっちゃって、さぞかしヤヤコシイことになるだろうな〜」なんて思っちゃったんですけどね、今回はその『おとうさん』がゲイだから、見てる間も気分はずっとパパ視点でした)。ただ、「負うた子に教えられる」というセオリーの踏襲という意味では、前者の方により近いかな。
つまりまあ、テーマはゲイ・オンリーではなく、最終的にはより汎的な「人の絆」に拡がっていくわけです。
個人的に新鮮だったのは、まず、物語にパートナーシップ(言い換えれば「夫婦」のような「つがい」の概念)が絡んでこないところ。
ペドロは特定のパートナーを必要としないタイプのゲイであり、こういう「最初は別々のに人間が、愛し合って一緒になる」というような、オーソドックスな社会通念から外れたキャラクターを軸にしつつ、同時にそこで「ゲイにとっての家族の再生」を語るというのは、これはけっこう難しいことだと思うのですが、この映画はそこを上手く纏めている。
パートナーシップを絶対的なものと信じて疑わない人には、ちょっと受け入れづらい部分もあるかとは思いますが、逆に、そういったパートナーシップというものが「単なるヘテロ社会の模倣でしかないのかも?」なんていうような疑問を、一度でも抱いたことのある人ならば、この映画の提示する「家族の再生」の物語は、そのプロセスや最終的なメッセージ共々、かなり興味深く見られるのでは。
とはいえ、この映画はパートナーシップに対して、特に疑問を提示しているわけでもない。
パートナーシップの問題に限らず、ゲイそのものに関しても同様で、それらを大上段に振りかざすことはなく、特に問題提議をするわけでもなく、あくまでも「こんな一人のゲイがいました、そしてこんなことがありました」といった風にサラリと描いている。
ここいらへんは、人間の生きる自由を保障してくれる、個人主義がしっかり確立された世界観という感じで、見ていて実に心地よい。
類型的な価値体系からは外しつつ、考えようによってはかなりとんがったテーマなのに、かといってアグレッシブにもならず、ユーモアもペーソスも交えた、あくまでも面白いドラマとして描くという、このバランス感覚は、娯楽映画的に至極真っ当でレベルが高いのでは。
細かい部分では、価値観やライフスタイルの相違による確執の相手が「自分の親兄弟(血縁者)」ではなく、「甥っ子の祖母(血縁者ではない近親者)」にしたのも、それによって物語が類型化から免れているので、ここはなかなか技アリ。終盤近くなって、ベルナルドが祖母に激白するセリフによって、姉夫婦の間には、映画では具体的に語られていない更なる別の事情があったのではないかと、観客に想像させる余白を持たせているのも、物語を枠外に拡げるという意味で効果的。
反面、ペドロの両親について、存命なのか鬼籍に入っているのか、反目していたのか認め合っていたのか、全く語られない(ひょっとしたら、ちょっとしたセリフで示唆していたのかもしれませんが、申し訳ないけれど、私にはそういった要素は拾いきれませんでした)のは、別にいいんですけど、家族の再生や絆の誕生を描くという点では、ちょっとズルい「逃げ」かも。
HIV/AIDSの取り上げ方も、興味深いものがあります。
物語的に大きな鍵の一つでありつつも、それが全てを支配はしない。現実の問題として目をつぶることはせず、かといってそこから過剰な悲劇を紡ごうとはしない。こういった「重要ではあるが全てではない」という描き方を見ると、かつてシリル・コラールの『野生の夜に』を見て暗澹たる気持ちになった頃を思い出し、少し勇気づけられます。
ただし、これをそのまま日本に当てはめることはできないのは残念ですが。
役者さんは、メインから脇にいたるまで、おしなべて好演。ペドロの非・熊系の友人とか、小柳ゆき似のベビーシッターとか、キャラも良く立っていて魅力的。
個人的には特に、飛行機のパイロット(やっぱり熊系)が制服のまま会いにくるってのに、フェチ心をムチャクチャ擽られたりして(笑)。いや〜、ステキだわぁ、こんな現地妻生活(笑)。
というわけで、下心で見ても楽しめるし、ゲイ系の小ネタとしても楽しめるし、物語としても楽しめるし、深く考察しても楽しめるという、いろいろと見どころ豊富の面白い映画でした。
これが、おそらく今後見られる機会が殆どないであろうというのは、実に残念な気がします。熊系のゲイ映画ってだけども、実に稀少なんだけどねぇ。劇場での上映は無理としても、ビデオスルーでいいから、どっか果敢な会社が出してくれればいいんですけど。
ただ、米盤DVDは既に発売されているので、興味のある方はamazon.comあたりで、英題”Bear Cub”で調べてみてください。
クラシック・エジプト映画のオムニバスDVD
“Music from the Golden Era – Volume 1”
エジプトのRotana Distributionから発売された、昔のエジプト映画から歌のシーンだけを集めた、オムニバスDVDのご紹介。
登場歌手は、ジャケ写にもなっているウム・クルスーム、アブドゥル・ハリム・ハーフェーズ、ファリド・エル・アトラーシュの他、もちろんアスマハーンも……という具合に、アラブ歌謡に興味のある人だったら知る人ぞ知る大御所揃い。
他には、私は初めて名前を聞く人たちで、サイード・アブドゥル=ワハーブ(ちょっと検索してみたら、かのモハメッド・アブドゥル=ワハーブの甥っ子だそうな)、ライラ・ムラード、アーメッド・アダウェヤ、モハラーム・フーアド(ここいらへん、発音表記に自信なし)など。
14曲収録のうち、一本を除いて残りは白黒。カラーの一本は、ファッションからして60年代らしい(サイケなジオメトリック柄のミニスカ・ワンピを着たオンナノコたちが踊ってたから、ちょっとビックリしました)んですが、他はおそらく40〜50年代の映画ではないかと。
歌と音楽は、とにかく素晴らしいの一言。優雅で重厚なストリングスに、コブシがたっぷり効いた歌。アラブ音楽にタンゴなどの要素を取り入れた、ちょっと西洋寄りでポップな歌。コミカルで軽妙な歌。いかにもロマンチックな恋の歌。英語字幕を選択できるので、歌詞の内容が判るのもありがたい。
懐メロ系アラブ歌謡がお好きな方だったら、満足すること間違いナシでしょう。
個人的にお気に入りは、まず夭逝の美人歌手アスマハーンの”Layali El Onss”。長い節回しを見事に聞かせる歌声に加えて、そのオーラを感じさせる堂々たる美貌がズゴい。ジョーン・クロフォードみたいです(笑)。同じDVDで、彼女のライバルだったウム・クルスームの映像を見ると、ちょっと「絵として見たときの冴えなさ」を感じてしまうので、アスマハーンが亡くなったときに「ライバルの抹殺を図ったクルスームの陰謀」なんて流言が出たという逸話が、何となく納得いきます(笑)。
それから、ファリード・エル・アトラーシュの”Mat’olsh Lehad”。レビュー仕立てで、セットや曲調を、タンゴ調、ヌビア(スーダン)風、ベドウィン風と、次々と切り替えながら、尺も長くたっぷりと聞かせてくれるナンバーで、これはかなり楽しい。
アブドゥル・ハリム・ハーフェーズの”Lahn El Wafaa”も、同じくステージ仕立ての長い曲。長いイントロから、彼のソロ、女性歌手とのデュエット、コーラスの掛け合いまで、舞台の袖で涙ぐんでいる老人(どうやらけっこう感動的なシーンらしいので、どーゆー話なのか気になります。このオジイチャンが作曲した歌なのかなぁ)ともども、たっぷり見せて&聞かせてくれます。
同じハーフェーズでも”Ana Lak Ala Toul”になると、今度はギター片手に小舟の上から、出窓に佇む美女に向けて「君に会ってから眠れなくなっちゃったんだよ〜」と歌いかけ。絵面が、何だか若大将シリーズみたい。
他にも、男女六人で軽妙な掛け合いを聞かせる、サイード・アブドゥル=ワハーブの”Alby El Assi”とか、太めのベリー・ダンサーを取り囲んだオジサンたちのコミカルな様子を見せる、モハラーム・フーアドの”Remsh Eino”といった、楽しい系の歌もまたヨロシ。
ともあれ、個人的には大満足。全部で90分あるんですが、見終わったときの印象は「短〜い、もっと見た〜い!」でゴザイマシタ。ま、ここいらへんはVolume 1とあるんだから、2以降に期待いたしませう。
画質は美麗。もちろんフィルムの経年劣化のよる傷等はあるし、全体的に少々コントラストがきつめですが、ディテールの再現性などは極めて良好。アスマハーンのなんて、これが戦前のフィルム(亡くなったのが1944年らしいので)とは思えないくらい状態が良くてビックリ。
音声は、曲によってはちょっと割れているものもありますが、古さを考えれば充分良いといって差し支えないのでは。
リージョン・コードはALL。NTSC。スタンダード・サイズ。字幕は、前述の英語の他、仏語も選択可能。アラビア語字幕はなし。
チャプター・メニューでは、各々の歌の歌手、作詞者、作曲者、収録されている映画のタイトルなどの、英文クレジットあり。共唄者のクレジットがないのは残念ではありますが、全体的になかなか行き届いた好ディスクです。
とゆーわけで、アラブ歌謡好きの方には、なかなかオススメの一枚です。
因みに私は、www.maqam.comで購入。ここはCDの試聴もできるので、アラブものを探すときには重宝しております。買ったことはないけど、アラブ音楽用のキーボードとか、エレクトリック・ウードなんてのも売ってます(笑)。ただし英文オンリーの海外サイトなので、ご利用はあくまでも、at your own riskだというのをお忘れなく。
最後に、お好きな方へのご参考として、収録曲の一覧を。
Om Kolthoum “El Ward Gameel”
Abd El Halim Hafez “Ana Lak Ala Toul”
Farid El Atrash “Ya Habiby”
Saad Abd El Wahab “Alby El Assi”
Layla Murad “Baheb Ethnein Sawa”
Asmahan “Layali El Onss”
Moharram Fouad “Remsh Eino”
Ahmed Adaweya “Habba Foak”
Om Kolthoum “Nacheed El Khetam”
Abd El Halim Hafez “Zalamouh”
Farid El Atrash “Mat’olsh Lehad”
Layla Murad “Ya Aaz Men Einy”
Om Kolthoum “Onshoudat Baghdad”
Abd El Halim Hafez “Lahn El Wafaa”
『リトルトウキョー殺人課』のDVDが期間限定で690円
ドルフ・ラングレン主演の珍作『リトルトウキョー殺人課』のDVDが、期間限定で690円っつー安価で発売されました。これ、以前も980円で売られてまして、そんときにも「わぉ、お得!」とか思ったんですが、今度は更に安くなって690円ですよ、690円。マジでお買い得。
とはいっても、あんまりマジメに人にオススメできるタイプの作品じゃないですけどね、でも「特定の趣味の持ち主」には、ちょっとオススメなんです(笑)。
お話は、ロサンジェルスの日本人街に進出したヤクザの陰謀を、白人だけど幼い頃に日本で育って武士道を身につけた刑事と、自分のルーツに関心がない日系人の刑事が、コンビを組んで打ち砕く……ってな内容です。まあ、肩の凝らない勧善懲悪&仇討ち(の要素もある)アクションもの。
で、最初のタイトルバックが、オリエンタルな刺青をした筋肉モリモリのビルダーのトルソ。筋肉&刺青好きのウチの相棒なんて、ここだけで既に大喜び(笑)。
他にも刺青は盛り沢山。
半裸の刺青男が「自分で自分の首を折って自害する」ってのは、ちょっとトンデモシーンですが(笑)、主役の刑事コンビとヤクザ軍団が公衆浴場で大乱闘するシーンは、褌一丁の刺青ヤクザのオンパレードなので、見ていてなかなか楽しい。
で、メインの「サムライの心を持つ白人刑事」がドルフ・ラングレンで、相棒の日系人刑事が今は亡きブランドン・リー。何だか豪華なんだかチープなんだか判断に苦しむキャスティングですが……まあ、きっと豪華なんでしょう。そーゆーことにしとこう(笑)。
で、このお二人、仲良く敵のヤクザにとっ捕まって、二人並んで電気拷問されたりしてくれるのが、またウレシイ。因みに、ドルフは黒パンツ一丁の裸、ブランドンもジーンズのみで上半身は裸というスタイル。まあ、どっちも顔はぜんぜん好みじゃないですけど(笑)。
それとこの映画、一部でその「トンデモニッポン描写」が有名(笑)だったりする。
まず、事件の核となるナイトクラブの名前が「盆栽クラブ」ってトコからしてヘンテコ。で、この「盆栽クラブ」では、ブロンド美女が全裸で女体盛りされていたり(しかも盛られているのは、刺身じゃなくて寿司)、ステージでマワシをしめたオッパイ丸出しのオンナが、女相撲やってたり(しかも顔だけ、舞妓さんみたいな白塗りで)とゆー具合のヘンテコさ。
ドルフが自分で建てたとゆー設定の、日本家屋モドキもステキです。和室の真ん中にコタツがあるんですが、上掛けがなくて骨組みがムキダシ。で、ドルフがそのスイッチを入れて「すぐに暖かくなる」とか言ってんですけど……ぜったいストーブと勘違いしてる(笑)。他にも、庭の真ん中にトートツに風呂桶があったり。まあ、これはこれで気持ちよさそうではありますけど。
他にも、凌辱されたクラブ歌手が「切腹の準備」をするシーンとか、ヤクザの用心棒の一人に、マゲ結って刺青したスモウレスラーがいたりとか、ツッコミどころは盛り沢山なんですが、極めつけはクライマックスの、ドルフの討ち入り(……と、つい言いたくなってしまう)衣装のトンデモナサ。どれだけトンデモナイか、しれはまあ見てのお楽しみ(笑)。
そんなこんなで「ヘンなもの好き」には、お楽しみどころがイッパイです。カタコトの日本語で喋るドルフなんつーのも見られる。
それと、そんなヘンテコ描写を無視すれば、出来そのものは、軽い娯楽映画としては、実はそんなに悪くない。
テンポは良いし、それなりに見せ場も散りばめられてるし、話はベタだけど予定調和的な満足感はあるし、79分と尺が短いせいもあって、飽きずに一気に見られる。
とゆーわけで、いろんな意味で見どころ盛り沢山の一本。
これで3800円とかだと、ちょっと考えちゃいますが、なんせ690円だからねぇ。お得だと思いますよ〜。
因みに私は、980円のときに買ったんですけどね(笑)。
『ゴッドandモンスター』のノートリミング版DVDが発売
昨日、6月24日、ギャガ・コミュニケーションズ/ビクターエンタテイメントから、ゲイ映画の名品『ゴッドandモンスター』のDVDが発売。
とはいえ、同作のDVDは既に、アットエンタテインメント/ハピネット・ピクチャーズから発売されていたんだけど、残念ながら画面の両端をトリミングした4:3スタンダード版だったのだ。
今回は、ノートリミング、レターボックスのビスタで、16:9のスクイーズ収録。ネットショップ等では、4:3スタンダードと表記されていたりしたんけど、店頭で現物を調べたら、前述の表記。で、買ってプレーヤーで再生してみると、やっぱりちゃんとノートリミング版。
本編のみで、北米版についているようなメイキング等のオマケは、何も入っていないのは残念だけど、とりあえず、ようやくノートリミング版が国内発売されたというだけでも、嬉しい限り。
2625円と、比較的安価でもありますので、旧盤のトリミングに不満をお感じだった方、宜しかったらお買い換えあれ。
もちろん、未見の方には激オススメです。
内容は、実在したゲイの映画監督ジェームズ・ホエールの晩年を、彼の代表作でもある『フランケンシュタイン』『フランケンシュタインの花嫁』と絡めながら、詩情豊かに、凄みを交え、生と死、愛と狂気の狭間を漂いながら、切なく描いた物語。
ジェームズ・ホエールを演じるのは、これまたご本人がオープンリー・ゲイであるサー・イアン・マッケラン。『ロード・オブ・ザ・リング』のガンダルフじいさんですな。本作では問答無用の名演で、アカデミー主演男優賞にもノミネートされました。冒頭で見せるキス・シーンは、その自然さといい、さりげない愛情の深さといい、個人的に「映画で見る男同士のキス・シーン」のベストの一つ。あと、ガーデン・パーティーでホエールが、彼同様にゲイだった映画監督ジョージ・キューカー(『マイ・フェア・レディ』とかの監督さんです)と、オネエさん風のイヤミを飛ばしあうシーンは、映画好きのオカマなら受けること必至。
ホエールを惑わす(とゆーと語弊があるか)逞しい庭師に、ブレンダン・フレイザー。『ハムナプトラ』の主役のアンチャンが一番馴染みがありそうですが、『ジャングル・ジョージ』から『聖なる狂気』まで、かなり芸域の広いお方。本作では「全裸+ガスマスク」とゆー、フェティッシュ・スタイルを見せてくれます。
二人の関係を傍らで静かに見つめる老家政婦に、リン・レッドグレーブ。ヴァネッサ・レッドグレーブの妹で、お姉さんと違ってぜんぜん美人じゃないけど、演技は実力派。本作の演技でアカデミー助演女優賞にノミネート、ゴールデン・グローブ助演女優賞を受賞。
監督および脚本のビル・コンドンは、本作でアカデミー脚色賞を受賞。
製作総指揮には、ホラー小説好きやホラー映画好きにはお馴染みのクライヴ・バーカー。『血の本』『ヘルレイザー』『ミディアン』『キャンディマン』あたりが有名かな。で、この人もオープンリー・ゲイ。
カーター・バーウェルのスコアも良く、あたしゃサントラ盤を買いました。
で、この映画を見て気に入ると、今度は実際のジェームズ・ホエールの映画も見てみたくなる……という方もいらっしゃるかと思います。
もちろん、本作で引用がある『フランケンシュタインの花嫁』も名品なんですが(どーでもいいけど、この花嫁役のエルザ・ランチェスター、実生活で夫だったチャールズ・ロートンも、これまたゲイだったという。で、彼女は夫がゲイだと知りつつ、それでも彼を愛していたそうな。あと、『ゴッドandモンスター』内で再現されている『フランケンシュタインの花嫁』の撮影風景を見ると、同作でプレトリウス博士を演じているアーネスト・セジガーも、もうバリバリのオネエサン)、個人的にオススメしたいのは『透明人間』。これはテンポの良さといい、特撮的な見せ場といい、サスペンス的な演出といい、随所に仕込まれたユーモアといい、1933年制作の映画とは信じられないくらいに、面白くてモダン。
因みにヒロインを演じているグロリア・スチュアートは、この映画から64年後に制作された、あの『タイタニック』で、老いたローズ、すなわちオバアチャンになったケイト・ウィンスレットを演じていた女優さん。
もひとつ、この映画で宿屋の女将を演じているウナ・オコナーという女優さんが、甲高いヘンな声といい、素っ頓狂なオーバーアクトといい、もう大好き! 『フランケンシュタインの花嫁』にも出てますし、エロール・フリンの『ロビン・フッドの冒険』でのオリビア・デ・ハヴィランドの侍女役とか、ビリー・ワイルダー監督の名作ミステリ『情婦』(これには前述のエルザ・ランチェスターとチャールズ・ロートンも、夫婦揃って出演してます)の耳の悪い家政婦役とか、チョイ役なんだけど、どれもオカマ心の持ち主にはタマンナイ演技です(笑)。
ここいらへん、全部DVDで出ていますんで、レンタルで探すなり、いっそ買っちゃうなりして、よろしかったらお試しあれ。
『キングダム・オブ・ヘブン』追補
前回「あと、最初の方に出てきたゲルマン人風の大男、良さそうじゃんと思ってツバつけといたら、あっという間に死んじまうし、港でバリアンを案内する男も、いいカンジと思ってたら、それっきりもう出てこないし……ううう(泣)」と書いた男優さん、どっかで見たことあるような……と、ずっと思ってたんですけど、ようやく判明。
最初のゲルマン人は、ヴェルナー・ヘルツォークの『神に選ばれし無敵の男』で、主役の怪力男を演じていた、ヨウコ・アホラですな。NHKの深夜とかにたまにやっている「ストロンゲスト・マン・コンテスト」のチャンピョンだった人で、確か役者としては素人だったはず。
で、もう一方の港の男は、たぶんTVムービー『レジェンド・オブ・サンダー』の前編で、スコットランド女王メアリーと恋に落ちるボスウェル役を演ってた、ケヴィン・マクキッド。(あたしゃ見てないんですが『トレインスポッティング』とかにも出てるんですな、この方)
いやぁ、どっちも見ながら「なかなかいいなぁ」と惚れ惚れした人たちだから、あはは、嬉しくも儚い再会だったってわけだ(笑)。
とゆーわけで、私同様にこの二人が気になった方(いるのか、そんな人)は、前述の二作をご覧あれ。どっちもメイン・キャストだし、役柄もオイシイし……あと、ヌードもあるし(笑)。
因みに『神に選ばれし無敵の男』は、個人的には問答無用の傑作。ナチスのホロコースト絡みの重いテーマながら、詩情と神秘性があり、悲劇ではありながら陰鬱ではなく、物語的には娯楽性もある。
唯一の欠点は、音楽がヘルツォーク組のフローリアン・フリッケではないことだけど、まあ故人だからいたしかたなし。
もう一つの『レジェンド・オブ・サンダー』は、英国史もので、いささかこぢんまりとしつつも、目立った欠点も破綻もない、肩の凝らない娯楽作。
ただ、前編のメアリー女王とボスウェルを軸にした、エピック&ロマンチックな雰囲気と、後編のジェームズ1世になってからの、野心陰謀欲望コンプレックス渦巻き、感情移入できるキャラクターなんて一人もいやしないっつー、ひたすらドロドロ世界のギャップがスゴイんだよね(笑)。ケヴィン・マクキッドが出るのは、前編だけ。
あ、でも後編も、フツーにお話しとしても面白いし、ガイ・フォークス役のマイケル・ファスビンダーという役者が、なかなかいい男だったし(しかも拷問シーンもあるし)、あと、男色家のジェームズ1世(『フル・モンティ』とかのロバート・カーライル)が、家臣にホモセクハラしたりする(露骨な描写はないですけどね、確かノンケの臣下の頼みを聞くことと引き替えに、フェラを強要するんだったかな?)シーンなんつーのもあるし、レンタルで見る分には損はないと思いますよ。
以上、どーでもいいよーな追補でした(笑)。