“Conan: The Ultimate Guide to the World’s Most Savage Barbarian”

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“Conan: The Ultimate Guide to the World’s Most Savage Barbarian”

先日ここで “Conan, The Phenomenon: The Legacy of Robert E. Howard’s Fantasy Icon”という、ロバート・E・ハワードが生み出した「蛮人コナン」の図像的イメージを、その誕生から現在に至るまで辿った画集を紹介しましたが、最近また、それとは別の切り口のコナン本を入手したので、そのご紹介。
 どんな内容の本なのかというと、まず、日本でも発売されているような、歴史物のムック本を想像してください。『ビジュアル図解・××史』みたいな、地図や写真、出土品や想像図なんかをタップリ使って、テキストでそれを補足する……みたいなタイプの大判本。
 そんな感じで、ハイボリア時代と蛮人コナンの生涯を、編年体で解説した、フルカラー&ハードカバーの大判本です。

 トッド・マクファーレンによる序文に続き、「ハイボリア時代とは」「地図」「主な神々」なんつー、ファンタジー設定好きには嬉しくなっちゃうような導入を経て、いよいよコナンの一代記が、「キンメリア時代」「盗賊時代」「傭兵時代」「黒海岸時代」などなど綴られていきます。で、そこで出てくるイベントやキャラクターなどが、後述するような様々な図版で紹介されていく……ってな構成。
 資料性という意味では、こういったコナンの物語を年代記的に体系化するという行為そのものが、ハワードの死後に別の作家によって行われた、いわば二次創作とも言えるような行為なので、果たしてこういった内容の本に、どれほどの正当性があるかどうかは疑問です。
 しかしまあ、そういった原理主義的な考え方はともかく、これは、一人の作家が生み出したキャラクターが時と共に一人歩きを始め、その結果生まれたキャラクター・ブックだと考えればいいでしょう。
 アメコミなんかが好例ですが、こういった、キャラクターを軸として、そこにある種のファン心理が収束していき、結果として個人の創作力を越えた広大なユニバースが形成されていくというのは、創作の一つの姿や可能性として、作家としてもかなり興味深いものがありますね。

 さて、コナンやハイボリア時代ってのは架空のものですから、もちろん遺跡だの出土品だのがあるわけじゃない。
 しかし、そこはそこ、1930年代初頭にハワードの筆によって誕生して以来、様々な作家とメディアに受け継がれながら、現在にいたるまで長い歴史のあるコナンのことですから、ヴィジュアル資料は多岐豊富なわけです。この本では、小説版の表紙絵からアメコミ版の決めゴマ、アンティーク調の創作地図からゲーム版の美術設定ボードと思しき図像まで、古今の様々な作家による様々なコナン像が、これでもかこれでもかってくらい、ふんだんに収録されております。その豊富さといったら、私も初めて見るような絵ばっかり。
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 ただ、純粋な画集として楽しむには、図版の作者のクレジットが明確ではなかったり、レイアウト効果重視でトリミングや切り抜き版を多用していたり……と、難点もなきにしはあらず。
 しかし、それでもこの膨大な図版枚数と、それらをまとめて見る機会の少なさという点を考えると、そういった難点も相殺して余りあるという印象。参考にアップしたサンプル画像をご覧頂ければ判りますが、全ページこんな感じで、それが160ページ以上続くんですから、満足度はかなり高い。

 また、画集的な意味で、特に個人的に嬉しかったのは、収録作家陣の豊富さ。カバー絵を描いている、私も大好きなアレックス・ロスから始まって、もちろんフランク・フラゼッタやボリス・バレジョーなんて有名どころもあるんですけど、それより今まであまり見る機会のなかった、アダルト・アメコミ版のカラー表紙絵の方が、扱いも大きく多数収録されていること。
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 クレジットがないので良くは判りませんが、私の判ったところでいうと、前にここで紹介したことのある、男性向けパルプ雑誌の表紙絵とかも描いていたイラストレーター、アール・ノーレムの描くコナンなんか、実にヨロシイですな。サンプル画像にある、怪物に組み伏せられているヤツとか、手鎖で女の上に立っているヤツとかがそうです。

 そんなわけで、前回のコナン本に引き続き、これまたマッチョ絵好きにはオススメできる画集でした。
“Conan: The Ultimate Guide to the World’s Most Savage Barbarian” (amazon.co.jp)