映画」カテゴリーアーカイブ

往年のゲイ受け女優、三本立て

 近所の店で、20世紀FOXスタジオ・クラシックス・シリーズDVDが半額だったので、欲しかったんだけど買い逃がしていた、『遥かなるアルゼンチン』『残酷な記念日』『女はそれを我慢できない』の三枚を買ってきました。
 それぞれ順番に、カルメン・ミランダ、ベティ・デイヴィス、ジェーン・マンスフィールドがお目当てという、我ながらゲイゲイしい、それも年喰ったオカマ好みのラインナップです(笑)。
Harukanaru『遥かなるアルゼンチン』(1940)アーヴィング・カミングス
“Down Argentine Way” (1940) Irving Cummings
 アルゼンチンの牧場の二枚目御曹司と、可愛いアメリカ娘のラブ・ロマンスを描いた、ミュージカル・ラブ・コメディ。まあ、他愛のない話ではあるんですが、全編を覆う陽気なノリが何ともゴキゲンで、見終わった後は予定調和の多幸感で満たされる、上出来の佳品でした。
 歌と踊りも存分に楽しめて、特に、舞台の殆どがアルゼンチンというせいもあり、いかにもアメリカナイズされたラウンジ調のラテン音楽の数々が楽しめるのは、モンド音楽好きとしても嬉しいポイント。
 あと、黒人二人組(ニコラス兄弟というらしい)のタップダンスがすごい。最近のミュージカル映画だと、どうしてもカメラワークやカット割りのダイナミズムを重視した、MTVっぽい見せ方が多くて、それはそれで好きなんだけど、反面、踊り自体をあまり楽しめない不満感が残ったりして、例えば、バズ・ラーマンの『ムーラン・ルージュ』のタンゴの群舞とか、その好例だった。でも、今回のタップ・シーンは、いかにもな名人芸を、舞台さながらにじっくり見せてくれて、そのワザのすごさに圧倒されて目が釘付けになり、終わった後は思わず拍手したくなる……なんていう、クラシック・ミュージカル映画ならではの醍醐味を、しっかり味わえました。
 お目当てのカルメン・ミランダは、映画の冒頭からいきなりアップで「♪アパパパパ〜」と歌い出したもんだから、私はもう大喜び。一緒に見ていた相棒は、それまでカルメン・ミランダのことは知らなかったんですが、彼女の歌の楽しさと顔の賑やかさに「笠置シヅ子みたいだ」と、やはり大喜び(笑)。
 この映画では、カルメン・ミランダは「ブラジルのスターがアルゼンチンに来てショーに出ている」という本人役なので、ストーリーには直接絡んでこないし、演技を見せるシーンとかはないのが残念ではありますが、でも歌はしっかり三曲ほど披露してくれますし、もちろん彼女の看板の、あのドラァグ・クイーンもビックリな頭飾りと衣装(……どんな感じかって? こんな感じです)も楽しませてくれます。
『遥かなるアルゼンチン』amazon.co.jp
 ついでに余談。
 さっき笠置シヅ子の名前を出しましたが、この映画の主題歌の”Down Argentine Way”という曲、その笠置シヅ子が「美わしのアルゼンチナ」という題名で歌ってます。このCDで聴けます。因みにこのCD、マジで名盤です。私が持っているのは旧盤ですが、もう何度聴いたことか。しかしこのリイシュー盤、旧盤と比べて二曲増えてるって……そのためだけに買うかどうか、現在思案中(笑)。でも、持ってない人には、同じシリーズのこっちも併せて、激オススメですぞ。
Zankokuna『残酷な記念日』(1968)ロイ・ウォード・ベイカー
“The Anniversary” (1968) Roy Ward Baker
 毎年、母親と亡父の結婚記念日に、家に集まる習慣のある一族。しかし、実は息子たちは、自分たちを支配している母親から、逃れたいと思っている。今年も、末の弟が連れてきた婚約者が、さっそく底意地の悪い母親の毒牙にかかり、さらに上の兄の秘密も暴かれ、パーティーは混迷してドロドロに……という内容。
 お目当てのベティ・デイヴィスは、もちろん母親役。名作『何がジェーンに起こったか?』以来ハマり役の、奇っ怪で不気味なオバサン(もしくはオバアサン)役ですが、今回も期待に違わず、出で立ちからして、キラキラのお洋服+片目に眼帯というトゥー・マッチさ(何と眼帯のお色直しまである!)で熱演。
 加えて性格も、徹頭徹尾マジに邪悪でビッチ。相手の劣等感を探り当ててはネチネチいびったり、弱みを見せるような素振りをして、実は罠を仕掛けていたり、息子の婚約者に「警察が来たら二階に隠れていてね、売春宿と間違われると困るから」と言い放ったり、下着女装の趣味があるデブ息子が風呂に入ろうとすると、「そういえば、風呂に入る太った女の絵を描くフランスの画家がいたでしょ、何て名前だっけ?」と嫌味をとばしたり……と、もうステキ過ぎ(笑)!
 元が舞台劇らしく、映画的なダイナミズム等はあまりないですが、会話の応酬でモノガタリの輪郭が次第に明らかになっていく面白さとか、家族モノなのに人情味なんて微塵もないドライさとか、いかにもイギリスらしいシニカルなブラック・ユーモアとか、お楽しみどころも多し。オカマのツボを押すという点では、かなりポイント高い内容でした。
『残酷な記念日』amazon.co.jp
 とはいえ、「おっかないベティ・デイヴィス」未体験の人だったら、やはりまずは『何がジェーンに起こったか?』から見て欲しいですな。この映画、ゲイ映画の名作『トーチソング・トリロジー』の中で、ドラァグ・ショーのネタとして使われていたし、最近だと『蝋人形の館』でも、劇中の映画館で上映されてましたね。
 あと、内容はオカマウケする「女優の戦いモノ」で、しかも映画としてもマジで名作の『イヴの総て』も必見。これ、日本のオカマ好き映画の定番、『Wの悲劇』の元ネタです。ベット・デイヴィスが三田佳子、アン・バクスターが薬師丸ひろ子。
 この二つをクリアしてベティ・デイヴィスのファンになったら、あとは『何がジェーンに…』の変奏的なビッチ・サスペンス(……って、そんなジャンルね〜よ)『ふるえて眠れ』とか、不気味な乳母役で、しかも少女時代のパメラ・フランクリンも出ているので、「ホラー好きにはダブルでお得!」な『妖婆の家』とか、ホラーなんだけど、実は一番こわいのは、「祖母/ベット・デイヴィス、父/オリバー・リード、母/カレン・ブラック」という、主人公一家の面々なんじゃないかっつー『家』とか、まだまだお楽しみは沢山ありますよ(笑)。
Onnahasorewo『女はそれを我慢できない』(1956)フランク・タシュリン
“The Girl Can’t Help It” (1956) Frank Tashlin
 落ちぶれた芸能エージェントに、ヤクザのボスが「俺の情婦をスターにしろ!」と押しつけてくる。最初は乗り気じゃなかったエージェントも、いざ彼女に会うと、そのセクシーさにクラクラ。どのくらいセクシーかというと、彼女が道を歩くだけで、余りのセクシーさに氷屋の氷が溶け始め、牛乳配達のミルクが沸騰し、オッサンのメガネにヒビが入るのだ(笑)! でも、実は彼女自身はスターになんかなりたくなくて、一番好きなのは家事全般だった……ってなお話し。
 コメディ仕立ての音楽映画で、制作当時に黎明期だったロックンロールのスターたち(……っても、私はそこいらへんは疎いので、名前を知ってるのはプラターズくらいで、あと、ロックンロールじゃないジュリー・ロンドン)の、ライブシーンがふんだんに盛り込まれて、これまた楽しくゴキゲンな内容。
 音楽関係では、グループ名は判らないけど、主人公たちが借りに行ったスタジオで演奏していた連中や、ライバルのジューク・ボックス会社のオーディションで演奏していた連中のパフォーマンスが印象に残ります。ジュリー・ロンドンは、主人公が彼女の元マネという設定。彼女を忘れられない主人公の前に、妄想となって現れて、彼女自身のヒット曲”Cry Me A River”を、じっくり聴かせてくれます。
 お目当てのジェーン・マンスフィールドは……いやぁん、めちゃめちゃキュートやんけ!
 前に『よろめき休暇』で彼女を見たときは、いかにもマリリン・モンローのばったもんって感じで、しかも本当にどーでもいいような役で、何かちょっと気の毒な気すらしたし、愛夫ミッキー・ハージティと共演したソード&サンダル映画の”The Loves of Hercules (a.k.a. Hercules and the Hydra)”(伊語原題”Gli Amori di Ercole”)になると、赤いカツラと黒いカツラで「良いジェーン・マンスフィールド/悪いジェーン・マンスフィールド」を演じ分けている(笑)のが、もうネタとしか思えなかったんですが、今回はマジで魅力が大爆発! お色気と可愛さと、自慢の巨大バストを振り回して大活躍!
 まあ、演技力という点では、ベッドに突っ伏して泣くシーンとか、ちょっと「う……(汗)」って感じではありましたが(笑)、そんなのも、「音痴な彼女が唯一レコード・デビューする方法」として、刑務所の歌を録音することになり、マイクの前でサイレン代わりに「♪きゃぁ〜お!」と叫ぶ可愛さの前では、もう帳消し! いや、ジェーン、あんたこの映画では、ちゃんとスターオーラあるじゃん!
 今回つくづく感じたことは、ジェーン・マンスフィールドの「セクシーさ」って、例え彼女が当時のセックス・シンボルであったとはいえ、それは決して自然なものではなく、世の中で「セクシーだ」とされている要素を誇張したものなんですな。それが余りにもトゥー・マッチなので、彼女の存在は、「セクシーな女優」ではなく「セクシーな女優のパロディ」に見える。最近で言うと、叶姉妹なんかもそうですな。これは。基本的に「女のパロディ」であるドラァグ・クイーンと同じで、だからそーゆーテイストを好むゲイにも受ける。
 で、今回の映画は、そんな彼女のトゥー・マッチさが話の軸を担い、更にそれが前述したようなトゥー・マッチな演出で描かれるので、彼女という存在と映画という作品が、全くブレずに完璧に重なり合い、作品として理想的な融合を遂げているという感じ。コメディとしても、少々の洒落っ気はあるものの、決して「小粋」にはならないという、ユーモアのセンスがちょいと泥臭いあたりも、成功の一因。
 う〜ん、こうなると同じ監督と再タッグを組んで、評判も良い『ロック・ハンターはそれを我慢できるか?』を見たくなるなぁ。日本盤、出ないかな〜。
『女はそれを我慢できない』amazon.co.jp
 余談。
 この映画からタイトルを借用した歌謡曲で、大信田礼子の「女はそれをがまんできない」ってゆー歌があるんですが、これまたオカマ心をくすぐるセクシー歌謡の逸品だったりします。イカしたビートに乗せて、ちょいドス効き気味なハスキー声で「好きなひ〜とじゃ、なくちゃいや〜ン♪」って歌うの(笑)。このCDで聴けます。これ、このテが好きな人だったら捨て曲なしの好コンピレなんで、よろしかったらついでにオススメ。

“Con Games”


“Con Games” (2001) Jefferson Edward Donald

 前回の“Lash!”のついでに、同書の米アマゾン商品ページの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」で出てくる、野郎責めB級ビデオ映画のDVDをご紹介。

 刑務所モノです。上院議員だか何だかの息子が、強姦罪だか何だかで投獄されたところ、獄中で殺されてしまい、その上院議員に雇われた主人公が、殺人の真相と暴力刑務所の実像を探るために、囚人になって潜入する……とかいった内容。確か、主人公の父親が別件で服役中で、その減刑が報酬なんだったかな?
 撮影なんかは、雰囲気もあってそれほど悪くはないんですが、全体のテンポが、このテの映画にしてはユルくて、ちょいとチンタラした感じかな。ストーリーに変に社会派っぽい要素を絡めていて、それも教科書的なお行儀の良さなのが、パワフルさや爽快さに欠けてしまったのかも。
 でも、一部のマニアの間では、けっこう評判が良かったりもします。どんなマニアかというと、ズバリ、ゲイの拷問マニア(笑)。私がこの映画のことを知ったのも、アメリカのそれ関係のメールグループとかで、キャプチャ画像やら動画やらが流布していたもんで(笑)。

 では、そこいらへんの解説。
 まずはタイトルバック。薄暗い刑務所の廊下を、ツナギを着た黒人の囚人が、ボール・ギャッグに手錠足錠という姿で、二人の看守に連行されて歩いてくる。囚人は独房に放り込まれ、後ろで扉を閉められてオドオドしていると、いきなり上半身裸でスキンヘッドでヒゲのマッチョにタックル喰らって、床に押し倒されてプリズン・レイプ。
 まあ、ポルノじゃないんでファックシーンはブラックアウトですが、いちおう事後、床に突っ伏した囚人のツナギが破れていて、尻だけ丸出しになっている、なんてカットはあります。あと、レイピストのスキンヘッドが、ハンパじゃなくガタイが良い。
 次の責め場の被虐者は、主人公と一緒に入所した、ゴーティーで胸毛付きの白人マッチョ。こいつはスタンガンくらった後、タンクトップを破かれ両手吊りにされてガットパンチング。
 お次は、ハンサムでスベスベお肌の、白人マッチョ主人公。ツナギの上半身をはだけた姿で床に這いつくばったところを、革靴で蹴飛ばされまくった後、警棒でタコ殴り。
 主人公の受難はまだ続きます。しばらくたった後、今度は上半身裸の両手吊りで、ガットパンチング。続いて、水を掛けられて電気拷問。このシーン、責め手の看守が「俺のお気に入りの映画は『リーサル・ウェポン』でね」なんて言うあたりが可笑しい。でも、そーゆーわりには、本家ほどの迫力はないんだけど。あと、身体をホールドするためのサスペンダーが丸見えだったりするのも、ちと興ざめ。でも、尺はけっこうあって楽しいし、電極を当てられた事後の肌が焦げていたりするディテールは佳良。

 責め場はこんなもんですが、男優陣はメインも脇も、演技はともかくとして顔はおしなべて悪くないし、なかなかのマッチョ揃い。刑務所モノのお約束っぽいスキンやらタトゥーやらもいるし、ちょいヨゴレ入った熊系もいます。で、そーゆー連中が、けっこう意味なく脱いでくれるので、そーゆー目の保養的なサービスも良し。
 ちなみに、サディスト看守を演じているのはエリック・ロバーツ。ジュリア・ロバーツのお兄さんだけど、すっかりB級専門になっちゃったみたいですね。

 まあ、そんな感じで、一部マニアを除いては、特にオススメできる出来でもないんですが、上記のような内容がお好きな方だったら、けっこう楽しめる内容ではないかと。少なくともアタクシは、じゅうぶん堪能いたしました(笑)。
“Con Games” DVD (amazon.com)

“Lash!”

lash
“Lash!” by Alvin Easter

 洋書の紹介です。
 副題に”The Hundred Great Scenes of Men being Whipped in the Movies”とあるように、「男が鞭打たれる名シーンのある映画百選」っつー、アメリカ産ムービー・ガイド・ブック。まぁ、なんてステキな本!(笑)
 こんなマニアックな本を、書く人も書く人だけど、出版するところがあるってのも、ホント偉いと思う。広いなぁ、アメリカ(笑)。

 内容は、「『すべての旗に背いて』のエロール・フリン」だの、「『十戒』のジョン・デレク」だの、「『逆襲! 大平原』のスティーブ・リーヴス」だの、「『マスターズ/超空の覇者』のドルフ・ラングレン」だの、「『スターシップ・トゥルーパーズ』のキャスパー・ヴァン・ディーン」だのといった具合に、男の鞭打ちシーンのある映画の解説が、ずらずら百本並びます。
 で、この解説ってのが、これまた潔いっつーか、何というか、もう徹底して鞭打ちシーンの説明に徹しているんですな。ちょっとサンプルに、『スターシップ・トゥルーパーズ』の部分を抄訳してみます。

21章 『スターシップ・トゥルーパーズ』のキャスパー・ヴァン・ディーン(1998年制作・カラー)
 ジョン・リコ(キャスパー・ヴァン・ディーン)は、22世紀の軍隊の実弾射撃訓練で、小隊を率いている。彼の指揮下にある新兵の一人が、この訓練中に死ぬ。過失と能力不足で自分を責めるリコに、管理者への処分として刑が言い渡される。
 リコの上官であるズィム軍曹(クランシー・ブラウン)は、トレーニング・キャンプの練兵場の反対側にある、金属製のアーチまでリコを連れていく。リコは上半身裸だ。炎天下、仲間の新兵たちが、罰されるリコを見るために、整列して居並ぶ。
 ズィムは、アーチの両側12フィートの高さから紐を引き下ろし、リコの手首を縛る。ズィムがアーチのボタンを押すと、リコの両腕は同時に斜め45度の角度に、グイッと引っ張り上げられる。次にズィムは、短い巻いた革をリコの口に押し込む。
「これを噛みしめろ、助けになる」と、軍曹が言う。
「鞭打ち十回!」の命令が下され、リコの背後に立つ一人の新兵が、鞭をしごいて打擲をはじめる。血まみれの傷が、リコの日焼けした肌に刻まれる。リコは、くぐもった叫び声を上げて、一打ごとに身をよじる。
 五打目で、リコの膝は崩れ、手首に体重をあずける形でぐったりする。六打目を喰らう前に、巻いた革が口から落ちる。しかし、鞭打ちは続く。

 ……とまあ、あらすじ紹介からして、映画のストーリーではなく、鞭打ちシーンの解説しかない(笑)。
 で、続いて考察が述べられるんですが、その内容も「この映画は、二十世紀のSF映画で、鞭打ちシーンで特筆されるべき最後の一本である」とか、「発達したCGIで、鞭打ちと完全にシンクロしてミミズ腫れが走るのが素晴らしい、ゆえに、レザーが肉を切り裂くイメージに、説得力がもたらされている」とか、「28歳のキャスパー・ヴァン・ディーンの、さっぱりした短髪で顎も四角いハンサムな顔と、美しく日焼けしたなめらかなトルソが、このシーンの価値を更に高めている」なんて具合で、もうゲイ目線とSMマニア目線が丸出し(笑)。
 じっさい前書きで、「本書における主眼」みたいな説明があるんですが、それもこんな感じになってます。

(1)誰が鞭打たれるの?
(2)鞭打ちの理由は?
(3)鞭打たれる受刑者の反応は?
(4)受刑者はシャツを着てるの?
(5)受刑者はどう縛られているの?
(6)鞭打ちシーンのカメラ・アングルは?
(7)鞭打ちはどう始まって、どう終わるの?
(8)鞭の音はどんな感じ?
(9)受刑者の肌のダメージ描写は?
(10)鞭打つ人は誰?
(11)鞭打ちシーンの長さは?

 ……ってな感じで、この本を読めば、鞭打ちシーンのある映画に関する、上記の情報が得られるってわけ。
 で、それぞれの主眼点の解説も、これまたマニア心丸出しでして(笑)。例えば、「(4)受刑者はシャツを着てるの?」では、

 全ての鞭打ちは、受刑者が腰まで服を脱がされているべきである。よって、『荒野の10万ドル』のリチャード・ハリソンや、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』のハリソン・フォードのような、鞭打たれる受刑者がシャツを着たままのものは、本書の「百の素晴らしい場面」からは除外した。
 ただし、受刑者がシャツを脱がされていなくても、シャツの背中が破れているといった場合は、少ないながらもリストに入れたものもある。例えば、『ドラゴナード/カリブの反乱』のパトリック・ウォーバートンや、『海賊黒ひげ』のキース・アンデスなどがそうである。これらのシーンは、シャツの有無の問題を越えて、それを相殺するだけの十分な価値があるからである。

 ……なんてことが、大マジメに書かれている。
 これ、この「マジメ」ってのが、私的にはポイントが高い。というのも、私はこーゆーマニアックなことに関して、変に斜に構えてみたり、露悪的なネタっぽく取り上げるスタンスってのが、あんまり好きじゃないんですな。
 これは、エロティック・アートとも関係してくるんですが、マニアックな価値観の所産というものは、それに対して真摯に、真剣に取り組んでいるからこそ、既成の価値体系から逸脱し、時としてそれを無効化してしまうような、独自の「パワフルさ」を生み出す、というのが持論なもので。
 そういう意味でも、この著者の、自分が好きなことにピンポイントで絞った内容で、それを十分な質と量で論じ尽くすってスタンスは、かなり好感度大です。ちょっと、お友達になりたい感じ(笑)。

 ただ、図像が表紙の一点のみ(『最後の地獄船』のアラン・ラッドだそうです)で、本文はテキストのみで図版の一点もなしってのは、ちょいと寂しい。やっぱこーゆー内容だと、写真の有無って大きいですからね。
 そこを除けば、上述したように充実した内容ですし、これをガイドにビデオやらDVDやらを探すっつー楽しみかたもあるので、興味のある方は入手されてみてはいかがでしょう? 日本のアマゾンで買えます。
amazon.co.jpで購入
 私は、内容がツボだったということもあって、けっこう楽しめました。
 ……とはいえ、いかんせん英語だから、パラパラと斜め読みって感じで、きちんと通読はしていませんが(笑)。
 ちなみに、米アマゾンでこの本の商品ページを見ると、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」で出てくるのが、両手吊りでガット・パンチングされる半裸のマッチョやら、電気拷問やら、鞭打ちなんかの責め場がある、映画のDVDばっかってあたりが、何とも楽しい&納得がいきます(笑)。

“Achilles”

Achilles_scene
“Achilles” (1996) Barry Purves
 私の好きなアニメーション作家で、バリー・パーヴスというイギリス人がいます。
 リアル系の人形アニメーションで、初めて見たのは『ネクスト』(1989)という作品でした。シェイクスピアをネタにした5分の短編なんですが、人形の表情も含めたアニメーションの精緻さと、古典趣味に基づく豪華絢爛な美術、そして、舞台劇風の様式美に満ちた演出が、もう何から何までツボだったので、びっくり仰天&驚喜乱舞したもんです。
 そして、次に見たのが『スクリーン・プレイ』(1993)。中世日本を舞台に、タカコとナオキという若い男女の悲恋を歌舞伎風に描いた、11分の短編。これまた演出の様式美が素晴らしくって、更にグラン・ギニョール的な残酷趣味も加味されていて、再びすっかり虜になりました。
 以来、「もっと作品を見たい、見たい、見たい!」と切望していたんですが、なかなかその機会に恵まれませんでした。特に、何年か前に出たアート・アニメーション系のムックで、この人のフィルモグラフィーが載っていて、その中に”Achilles”という作品名を見つけたときには、こりゃもう間違いなくギリシャ神話やホメロスネタだろうと、もう見たくて見たくてたまらなくなったもんです。
 で、つい先日のこと。ちょっとしたきっかけで、この”Achilles”が、実はゲイ・アニメーションだと知りました。
 もう驚いたのなんのって! だって、良く知らないまま、想像だけで恋い焦がれていた映画の内容が、よりによってゲイものだったなんて……もう、「丘の上の王子様の正体はアルバート様だった!」みたいなもんで(笑)。
 そうと知ったからには、これはもう何としてでも見なければ! ……と決意して調べていたら、割とすんなりアメリカ盤DVDを見つけることができました。
Achilles
 DVDのメインは、Neil HunterとTom Hunsingerという監督の、”Boyfriends”(1996)というゲイ映画なんですけど、そのオマケとして”Achilles”が収録されています。もう、とりあえず”Boyfriends”は放っておいて、届いたその日に”Achilles”を鑑賞。
 内容は、もうそのものズバリのイーリアスネタで、トロイア戦争を背景に、アキレウスとパトロクロスの同性愛関係を描いたもの。
 アキレウスとパトロクロスは、大理石か石膏っぽいイメージの白いフィギュアで、アキレウスはヒゲモジャのマッチョ、パトロクロスはアポロン型美青年という造形になっています。その他のモブは、テラコッタっぽい赤茶のフィギュアで、シークエンスに合わせて、ギリシャ悲劇風の仮面や動物の頭の形の兜などをかぶっている。
 これらの人形が、いかにもバリー・パーヴスらしい舞台劇風の様式的な演出で、アキレウスの誕生からヘレネー誘拐などのトロイア戦争のあらましを語り、その随所に絡めて、アキレウスとパトロクロスの同性愛関係のもつれが描かれます。
 ナレーションは、イギリスの名優デレク・ジャコビ。ゲイ的には、フランシス・ベーコンを演じた『愛の悪魔』が忘れがたいですね。
 ゲイ映画としての内容は、アキレウスとパトロクロスの間の、まだホモセクシュアルを無自覚の、ホモソーシャル的なリレーションシップに、ホモセクシュアル的な欲求が絡んでくることによって、その関係性に軋みが生じる、という構造になっています。
 次の段、ちょいと実例を挙げての解説になるので、ネタバレがお嫌な方は飛ばしてください。
 アキレウスとパトロクロスは、最初は子供がじゃれるように、無邪気に湯船で戯れたりしているんですが、二人の間に愛情や肉欲が目覚めていくに従い、次第に関係性がぎこちなくなっていきます。
 例えば、二人は戯れあいの延長として性行為に及びそうになるんですが、アキレウスは寸前で拒否してしまう。そんな二人でも、仮面をつけてパリスとヘレネーを演じることによって、愛を交わすことも性交もできるようになる。しかし、行為の最中に仮面が外れてしまうと、やはりそれ以上は続かない。この演出は、ヘテロセクシュアル的な価値体系から脱却できずに、自己の性的指向を受容できずにいるホモセクシュアルの姿を、端的かつ象徴的に描いていて秀逸でした。
 やがてアキレウスは、パトロクロスの眼前でブリュセイスを犯す、つまり、アキレウスが己はヘテロセクシュアルであると、自分自身にもパトロクロスに対しても証明しようとする。しかしこの強姦劇も、その目的は達しえない、つまり、アキレウスは女性相手の性交を貫徹できずに終わってしまう。
 興味深いのは、この場面では上述した要素と並行して、ブリュセイスを演じているのも、実は仮面をつけた男性であるという仕掛けがあることです。つまり、モノガタリ上ではヘテロセクシュアル的な行為なんですが、その更に外枠、つまりモノガタリの外側から見れば、それが男性同士によって演じられるヘテロセクシュアルのパロディという、実にゲイ的なものになる。
 こういった、同一の事象であるにも関わらず、それを捉える視点の位置によって、その意味性が逆転するという面白さは、人形アニメーションによる舞台劇という、その構造自体に二重の虚構性が含まれている、バリー・パーヴスの作風ならではの効果ですね。
 さて、話を戻しますと、こうしてブリュセイスはアガメムノンの手に渡ってしまい、屈辱に打ちひしがれたアキレウスに、パトロクロスが手を差し出す。しかしアキレウスは、相変わらずそれを拒否して、孤独とコンプレックスを癒すために酒に溺れていく。
 酔ったアキレウスは、自慰をして、逞しい男たちが現れる淫夢に襲われ、自分を心配して訪れたパトロクロスに襲いかかる。パトロクロスは、強姦者のようにのしかかり、泣きながら自分を打擲するアキレウスに、優しく口づけをする。こうして二人は、ようやく性交に至ります。
 こういった具合で、セクシュアリティの目覚めによるアイデンティティの揺らぎとか、自己自認を拒むことを原因としたゲイのホモフォビアなど、ゲイ映画として見ても、テーマがしっかりとしていて硬派な味わいです。加えてこれらは、私自身が自作でよく取り扱うテーマでもあるので、親近感もわいてくる。
 たったの11分という短編なのに、これだけの内容の濃さで、しかも、人形アニメーションとしてもハイ・クオリティで、ゲイ映画としても秀逸。これは、かなり凄い作品ですぞ。
 エロティック作品としても、もちろんハードコア的な直截さはありませんが、ギリシャ彫刻的なセクシーな造形の人形たちが、まるで生きているようように互いの身体に触れあい、睦みあう姿は、必要十分なエロティシズムに溢れています。
 DVDは、字幕こそないものの、ありがたいことにリージョン・フリーですので、興味のある方はぜひどうぞ。激オススメ。米amazonで検索する場合は、”Achilles”だとヒットしないので、”Boyfriends”で探すのが吉。
 あと、バリー・パーヴスのオフィシャル・サイトのギャラリー・ページにも、スチル写真がありますので、そちらもどうぞ。
“Boyfriends (+ Achilles)” DVD (amazon.com)
 あと、前述の『ネクスト』と『スクリーン・プレイ』は、それぞれ日本版DVDも出ています。
 『ネクスト』はこちら、『スクリーン・プレイ』はこちら
 ついでにもう一つ、バリー・パーヴスがヴェルディのオペラ『リゴレット』を人形アニメーションに仕立てたものがこちら

夏の予定、いろいろ

 7月と8月、私が関っているイベントが幾つかありますので、まとめてご紹介。

Bannerkqff
7/20(金)〜24(火)「関西 Queer Film Festival
 私が自主制作している3DCGアニメーション"Desert Dungeon (act 1 ~ 9)"が、
映画祭初日の7/20(金)、オープニング・プログラム<タイヘン×ヘンタイ>(19:30〜)で上映されます。
 初公開パートも含まれていますし、でっかい画面で見られる貴重なチャンスですので、ぜひご覧くださいませ。

Tagamemanga
8/9(木)「トークセッション・田亀マンガとゲイシーン
 7/15(日)〜8/31(火)の期間、ジュンク堂書店新宿店で開催される「パレード応援ブックフェア」の一環として、8/9(木)にジュンク堂書店新宿店・8F喫茶室にて、トークショーに出演します。トークのお相手は、ドラァグ・クイーンのエスムラルダさん
 入場料1000円(ドリンク付き)、定員30名、電話予約可。トークの後は、サイン会の時間もあるそうです。
 皆様、お誘い合わせのうえ、お出でくださいませ。

Tpp2007
8/11(土)「第六回東京プライドパレード
 代々木公園イベント広場で開催される「東京プライドパレード(旧・東京レスビアン&ゲイ・パレード)」、今年も公式缶バッジのイラストで参加させていただきました。
 グッズの売り上げは、貴重な運営資金。ささやかな応援の気持ちを込めて、ぜひお一つ……と言わず、じゃかすか買ってくださいな。

Bannerindpanda_1
8/8(水)〜29(水)「3rd InDPanda international short film festival
 香港で開催される、国際短編映画祭"InDPanda"(「インディペンデント」と「パンダ」を引っかけたネーミングですな)の、<4 Enigmas Among Boyz>というプログラムで、拙作"Desert Dungeon (act 1 ~ 9)"が上映されます。8/14(火)と8/23(木)の二回。パンフレットを見ると、中国語題名は「沙漠土牢」となってます。……まんまですな(笑)。
 まあ、さすがにこれは、ぜひ来てくださいとは言いづらいですけど、もし機会がある方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いします。
 ちなみにこれはゲイ映画祭ではないので、上映される作品のジャンルも本数も半端じゃなく多いですが、ゲイ関係だと、私も去年イベントで上映した「巨根伝説・美しき謎」と「愛の処刑」が、<三島先生、これ貴方でしょ?>っつープログラムで上映されるらしくて、ビックリ(笑)。

『復讐無頼・狼たちの荒野』

Tepepa
『復讐無頼・狼たちの荒野』(1968)ジュリオ・ペトローニ
“Tepepa” (1968) Giulio Petroni
 前回からトーマス・ミリアン繋がりで、彼主演のマカロニ・ウェスタン映画のイタリア盤DVDのご紹介。
 20世紀初頭、メキシコ革命の渦中に、英国人医師ヘンリーがとある街にやってくる。街の監獄には革命派の英雄テペパが捕らえられており、明日にも銃殺刑に処せられようとしていた。処刑当日、ヘンリーはテペパを救出する。しかしそれは、テペパの命を助けるためではなく、ヘンリーの想い人だった女性がテペパに犯されて自殺した復讐として、自らの手でテペパを殺したいからだった。しかし、警察署長のカスコッロ大佐に追わているうちに、ヘンリーとテペパの間には、不思議な絆が生まれていく……ってなお話しです。
 メキシコ革命を背景にしているとはいえ、政治的なヤヤコシイことが描かれるわけではなく、あくまでも、圧制者としての官と自由を求めて闘う農民というシンプルな構図の中、三人の男たちの思惑や運命が交錯していく娯楽作。
 マカロニウェスタンには疎いので、良く判らないんですが、いわゆる「アウトローたちが見せる、胸の空くようなガンファイト!」みたいな要素は少な目な印象。それ系のハッタリやケレン味は、少ないほうなんじゃないだろうか。それよりも、革命に生きたテペパという男の半生を描いた歴史物、みたいな雰囲気があります。
 もっとも、このテペパが実在した人物なのか、それともフィクションなのかは、調べてもちょっと判りませんでした。名前からは、何となくエミリアーノ・サパタを連想しますね。ヴィジュアル的には、チェ・ゲバラっぽい感じもある。
 実在かフィクションかは横に置いても、このテペパのキャラクターは、大いに魅力的。痛快なアクション・ヒーロー的な面もあり、激動の時代に生きた悲劇の英雄的な面もあり、ひょうきんな面もあり。必ずしも善とは言えない部分や、人間的な弱さもある。加えて私は、テペパを演じるトーマス・ミリアンが好きなので(あと、ゲバラも大好き……っても、顔と雰囲気がですが)、なおさら魅了されちゃいました(笑)。
 また、医師のヘンリーも良くキャラクターが立っているし、他にも、テペパに救われながら後に裏切る仲間とか、まっすぐな瞳が印象的な少年とか、回想シーンで出てくる女性の美しさとか、登場人物は魅力的な面子揃い。ドラマも、それらのキャラクターの複雑な心情が絡み合って、グイグイ引っ張られる感じで、ラストはけっこう感動的でもある。
 音楽はエンニオ・モリコーネで、メイン・テーマはいかにもこの人らしい、凛々しくてちょいと泣きも入っている、メロディの立ったカッコイイ曲。ちょいとノスタルジックでトラッドな香りもあって、かなり好き。あと、映画のラストで流れる、情熱的な女性ヴォーカルによる “Al Messico che vorrei” っつー曲が、映画の後味とも相まって、えらいカッコイイです。近々、日本盤サントラCDが出るようなので、購入の予定。
 主演のトーマス・ミリアンは、こりゃもう文句なしに良くって、ひょっとしたら私が見た彼の出演作の中では、このテペパ役が一番好きかも。あんまりキャラクター的にツボだったので、その百面相ぶりを見ているだけでも満足できるくらい(笑)。
 医師のヘンリー役は、ジョン・スタイナー。フィルモグラフィーを調べたら、『悪魔のホロコースト』と『炎の戦士ストライカー』は見たことあるはずなんだけど、正直ちっとも覚えてない(笑)。この映画では、いかにも線の細いインテリで、しかもちょっと歪んだ部分もあるというキャラクターに、上手くハマっている感じで好印象。
 敵役のカスコッロ大佐に、オーソン・ウェルズ。大物のはずですが、今回の演技は憎々しさにもカリスマ性にも欠けていて、悪役としての魅力があまりない。不明瞭にモゴモゴ喋る、ただのデブって感じで、正直イマイチです。
 DVDは紙のアウターケース入りで、トップの図版がそれですが、あたしゃこれより、中身のジャケの方が好み。スクイーズのシネスコで、画質は佳良。
 音声は、伊語ドルビー5.1chと、伊語モノラルと、英語モノラルの三種類。英語音声が入っているのは嬉しいんだけど、残念ながらインターナショナル版の尺が本国版より短いのか、あちこち英語音声が欠けているところがある。で、そーゆーときに自動的に伊語音声に切り替わって英語字幕が出る……なんてサービスもなく、いきなり無音になっちゃうもんだから、最初はビックリしました(笑)。
 DVDと一緒にサントラCDもついていて、本来なら喜ぶべきところではありますが、前述したように国内盤CDが出るので、あまりありがたみなし。しかも、このオマケCDの収録曲数は10曲なのに対して、国内盤は18曲だし。
Tepepa_whip 最後に、責め場情報。半裸の男が牛追い鞭で打たれるフロッギングのシーンあり。
 実は、この映画のポスターとかには、必ずこの鞭打ちの絵が入っているので、あたしゃてっきりトーマス・ミリアンがやられるのかと思って、ワクワクしてたんですけど、実際に映画を見たら、鞭打たれるのは別の男でした(笑)。
 とはいえ、こっちの被虐者もタイプ的にはOKなので、これはこれで良し。シーンとしては短いですが、けっこう痛そうだし、迫力もあります。
【追記】日本盤DVD出ました!

復讐無頼~狼たちの荒野 スペシャル・エディション [DVD] 復讐無頼~狼たちの荒野 スペシャル・エディション [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2009-10-02

“Beatrice Cenci”


“Beatrice Cenci” (1969) Lucio Fulci
 ルチオ・フルチ監督の日本未公開映画、フランス盤DVD。

 映画の内容は、16世紀のイタリアで実際にあった事件。美少女ベアトリーチェ・チェンチは、暴君で知られる父親フランチェスコから監禁・凌辱され続け、ついに義母や兄や恋人と共謀して父親を殺害する。しかし、それが発覚。チェンチ家を取りつぶして財産を没収したい教皇庁の思惑も絡み、チェンチ一族は酷たらしい拷問の末、全員斬首されてしまう……っつー、神も仏もない話(でも実話)です。
 ルチオ・フルチって、グロくて汚いだけのホラーを撮る監督というイメージで、実はあんまりいいイメージがなかったんですが、この映画を見たら、少しイメージが変わりました。
 冒頭の移動撮影による、当時処刑場だったサンタンジェロ城周辺の描写、細かなカット割りと極端なクローズアップやパンフォーカスによる、処刑人がベアトリーチェを連行しにくるシーンの緊張感、フランチェスコ・チェンチが男を犬に喰い殺させるシーンの、激しく揺れる手持ちカメラの迫力……などなど、画面に驚くほど力がある。ちょっとビックリです。
 気になって調べてみたら、この”Beatrice Cenci”は、フルチにとって意欲作だったらしいですな。でも観客の反応はブーイングで、評価もされずに落ち込んじゃったらしい。画面のあちこちから、この映画にかける意気込みのようなものは、ひしひしと伝わってくるので、何だか気の毒な気がします。

 ただまあ、諸手を挙げて絶賛というわけでもなく、例えば前述のパンフォーカスが多用されるんですが、厳密にはパンフォーカスではなくって、画面の左右をそれぞれマスク分けしたもの(こういう技法って、何て言うんでしょ?)。だから、マスクの境目にまたがったオブジェクトは、左右でいきなりフォーカスが変わっちゃうので(例えば、人の顔と胸にはピントが合ってるのに、肩だけボケる、みたいな感じになる)、かなり不自然さが気になる。凝っているわりには、感覚が雑。
 あと、過去と現在と時制をカットバックしながらモノガタリが進行していくスタイルなんですが、ちょっと捌ききれていなくて混乱している印象もあり。ただ、これはイタリア語の鑑賞だったので、私が内容を把握しきれていないだけかも知れません。でも、ベアトリーチェの置かれた状況の悲惨さとか、殺人にいたるまで追いつめられていく様子とかは、正直あんまり伝わってこなかったなぁ。

 しかし、映画全体に漂っている「しょせん人の世なんて醜くて汚いんだよ」とでも言わんばかりの、何とも言えない不潔感と厭世観は良かった。これだけでも、前述した不満点を凌駕する価値ありです。
 前述した、犬に人を食い殺させるとか、あるいは拷問シーンなんかに、そういったエグ味があるのは、まあ当然と言えば当然なんですが、この映画の場合、そういったもの以外のちょっとしたシーンでも、ほぼまんべんなく同じグロテスクな雰囲気がある。
 例えば食事のシーンでは、他者の肉を喰らう「欲」としての食欲が露悪的に強調されているような感じだし、裁判官(かな?)が話し合っているシーンとかでも、変に密閉感のある暗い部屋で、しかも汗がだらだら流れてたり。男女共にヌードシーンも多々あるんですが、これまた裸体の美しさなんて微塵もなく、あえて醜悪に撮っている感じ。…まぁこれに関しては、私はヘンタイなので、そういった醜悪な裸体でも、「う、これはけっこうエロいぞ」なんて、別種の美を感じますけど(笑)。
 中でも特に気に入ったのは、被虐者が無惨な拷問を受けている横で、それを大した興味もなさそうに眺めながら、鶏の脚か何かをムシャムシャ食っているヤツがいるあたり。この発想の悪趣味さと凶悪さは、かなりポイント高いです。
 まあ、そんなこんなで、汚穢の美学みたいなものが全体に漂っていて、そういうのが好きな人だったら、けっこうツボな内容だと思いますよ。

 ベアトリーチェ役のアドリエンヌ・ラルッサは、小さな顔に細い顎と大きな目玉に、なんだか神経症的な魅力がある、なかなかの美人です。ホラーやサスペンス映えしそうなお顔。ただ、悲劇のヒロインとして感情移入するには、いまいち清純さや悲劇性には欠けるかも。
 暴君フランチェスコ・チェンチ役のジョルジュ・ウィルソンは、これは秀逸。恰幅のいい身体に、目つきに凄みがある髭面で、好色や強欲でギラギラしている悪漢としての、説得力も魅力もある。ヒゲ熊オヤジ好きには、全裸水浴びシーンのオマケ付き(笑)。
 ベアトリーチェの恋人オリンポ役は、トーマス・ミリアン。この人、私けっこう好きでしてねぇ。基本的な顔立ちはハンサムなんだけど、ギラギラして薄汚れているのが似合う系だし、しかも映画ごとに、例えば『情け無用のジャンゴ』の被虐エロスとか、『走れ、男、走れ』のヘナチョコな可愛さとか、違った魅力を見せてくれる。あと、脱ぎっぷりや責められっぷりもいい(笑)。『情け無用のジャンゴ』の腰布一丁磔責めは、マイ・フェイバリットの一つだし、『走れ、男、走れ』でも、風車の羽に縛り付けられてグルグル回されたり、両手吊りで縛られて脱がされちゃったりしてます(笑)。今回はヒゲなしなのが残念だったけど、でもしっかり脱ぎ場と責め場はあり。……白状すると、私がこのDVDを買った最大の目当てって、このトーマス・ミリアンの拷問シーンだったんですけどね(笑)。

 DVDはフランス盤。ジャケ写からも感じが判ると思いますが、デジパックの外箱入りで、ルチオ・フルチの映画とは思えない高級感(笑)。音声は伊語と仏語、字幕は仏語のみ。スクイーズ収録のワイド。画質は佳良。特典映像で、フルチのドキュメンタリーやインタビューのオマケが、合わせて一時間少々。
 なかなか見応えのある映画なので、日本盤がでて欲しいけど、まあ望み薄でしょうなぁ。どうせなら、『マルペルチュイ』『怪奇な恋の物語』と併せて、「ヨーロッパ・カルト・ホラーBOX」とか銘打って出してくれると嬉しいんだけど(笑)。

 最後に、責め場情報。前述したように、トーマス・ミリアンの拷問シーンあり。
 まずは、拷問柱を背にしてバンザイ縛りで、引き延ばし責め。ロングありアップあり、被虐者の熱演に腕の関節部分に血筋が浮く等の効果もあって、単純な責めながら見応えあり。
 お次は、車輪縛りで焼き鏝責め。これまた、じっくりたっぷり見せてくれます。更に嬉しいのは、引き延ばし責めでは下半身着衣だったけど、焼き鏝責めでは服や下着ではなく、性器のみを布で覆ったスタイルになっているところ。片方の腰が丸ごと裸なのが、何ともエロティック。
 まあ、具体的にどんな感じかは、下の画像をご覧あれ。こんな感じで、マッチョ好きには物足りないでしょうけど、拷問シーンそのものの出来映えは、かなり良いですぞ。

関西クィア映画祭で”Desert Dungeon”上映

Bannerkqff
 前にここここで書いた、趣味でシコシコ自主制作している3DCGアニメーション "Desert Dungeon" が、7月20日から24日まで大阪で開催される関西クィア映画祭で、上映されることになりました。
 日時は7月20日(金)19:30から、同映画祭のオープニング・プログラム「タイヘン×ヘンタイ」の中で上映されます。チケットや場所等の詳細は、関西クィア映画祭の公式サイトをご覧ください。前売りは6/10(日)から発売開始だそうです。

 この "Desert Dungeon"、昨年11月にも渋谷のアップリンク・ファクトリーにて、『日本のゲイ・エロティック・アート vol.2』刊行記念イベントの一環として上映されました。そのときのバージョンは、act 1から6までの合計約20分でしたが、今回の関西クィア映画祭では、それに未発表分も含めた act 7から9までを追加した、約30分バージョンでの上映になります。
 基本的にひたすら趣味で制作して、自分のサイトで公開してきたシリーズですが、容量の問題から小さいサイズでの公開でしたし、しかもサーバ負荷の問題から、過去のactは順次公開終了せざるをえない状況。こうしてパブリックな場での上映機会をいただけるのは、本当に嬉しい限り。お招きくださった同映画祭スタッフの方には、感謝感激であります。
 で、この作品、実は現在もう一つ、海外のインディペンデント映画祭からもお誘いを受けております。まだ調整中でどうなるか判りませんが、これも実現してほしいもの。

 で、お話しをいただいたときに「予告編とかはありますか?」とのお問い合わせがありまして、そんなものはなかったんですけど、せっかくだからいい機会なので作ってみました。

 例によってiMovieで制作したもの。YouTubeの規制に引っかからないよう、念のためにマスクをかけました。BGMは、前に作った "Memnon" という自作曲を、尺に合わせてエディット。

 そんなこんなで皆様、よろしかったらぜひご来場くださいませ。
 あ、それと映画祭ではボランティア・スタッフの募集もしているそうです。
 どんなイベントでも、人手不足や資金難はつきもの。更にこーゆーイベントって、スタッフとして参加すると、お客さん視点とはまた違った楽しさがあるものです。興味のある方は、尻込みしていないで、じゃんじゃんお手伝いしちゃいましょう。

『怪奇な恋の物語』


『怪奇な恋の物語』(1969)エリオ・ペトリ
“Un tranquillo posto di campagna” (1969) Elio Petri

 先日、雑誌で「フランコ・ネロとヴァネッサ・レッドグレーヴが去年結婚した」という記事を読んで、相棒と二人で「え〜っ、なんで今になって?」とビックリしてしまいました。
 だって、この二人が付き合ってたのって、1967年の『キャメロット』で共演したとき。その頃に同棲して、間に子供もできたけど、けっきょく結婚はしなかった。それが30年後に、あらためて結婚したってんだから、まあビックリもしますわなぁ。でもまあ、二人とも好きな俳優さんなので、何となく嬉しい気もします。
 で、そんなこんなでビックリしていたら、久々に見たくなったのが、二人が共演した、この『怪奇な恋の物語』という映画。
 私が、フランコ・ネロの何が好きかっていうと、ぶっちゃけ「顔」です(笑)。
 周囲に言わせると、私はメンクイなんだそうですが(……まあ、否定はしません)、でも、いわゆるツルッとした二枚目ってのはあまり好きじゃない。王子様系とかサワヤカ系には、全く興味なし。メンクイなんだけど、「ちょいワイルド系入ってます」とか、「ハンサムだけど薄汚れてます」とか、「顔は整ってるんだけどギラギラしてる」とか、そんなタイプが好きなんですな。フランコ・ネロは、そこいらへんのツボをモロに押される(笑)。

 で、この『怪奇な恋の物語』なんですが、実はこれは私にとって、長いこと「見たいのに、すっごく見たいのに、それでも見る機会がなかった」幻の映画でした。何でそんなに見たかったのかというと、その昔、芳賀書店から出ていたシネアルバムという本のせいでして。
 このシネアルバムってのは、いわばスターの写真集&フィルモグラフィーみたいなシリーズなんですけど、その、フランコ・ネロ編に載っていたこの映画のスチル写真が、彼が「フルフェイスのヒゲ&パンツ一丁で、椅子に縛られている」とこと、「首にギプスをして車椅子に乗っている」とこと、「ナイフを突きつけられている」とこだったんですな。
 これが男子中学生の股間を直撃しちゃいまして(笑)。覚えたての劣情が刺激されまくり、「死ぬまでにゼッタイに見たい映画リスト」のトップに入っちゃった(笑)。
 上の画像は、そのスチルとは違うんですけど、同じシーンの撮影風景です。……ね、筋肉とかはあんまりないけど、ヒゲモジャ&体毛ボワボワ&ボンデージで、私の描く絵みたいでしょ(笑)。
 でも、なかなか見る機会がなくて、それから20年後くらいに、ようやく覚えたてのインターネット通販で、アメリカ版VHSビデオを発見。大喜びしてそれを注文購入し、念願叶ってようやく見られた……ってないきさつががあります。

 映画の内容は、前衛芸術家が田舎の屋敷をアトリエに借りると、それが幽霊屋敷で、現実と幻想が交錯していく……ってなサスペンス・ミステリー。
 現代的な(あ、当時における、ね)アヴァンギャルド・アートと、古色蒼然としたゴシック・ロマンっつー、いっけん相反するような要素が絡み合い、独特な雰囲気を醸しだしているのが面白い。制作年代を反映して、ちょいとサイケなムードがあるのもいい感じ。音楽も、これまた現代音楽的な前衛系と、スキャットを使ったサイケ・ムードが混在しててステキ。後年、サントラCDを見つけて購入したんですが、その時になって初めて、エンニオ・モリコーネだったと知った(笑)。
 で、目当てのスチル写真のシーンですが、「いつ出てくるんだろ〜?」とワクワクして見ていたら、映画の冒頭、十分足らずのところで、もう「パンツ一丁ボンデージ」は出てきてしまって、ちょいと拍子抜け(笑)。メイン・ディッシュのつもりが、アペタイザーだった、みたいな(笑)。
 でもまあ、そんな下半身絡みは抜きにしても、印象的で好きなタイプの映画です。今回、改めて調べてみたら、イタリア盤DVDが出ているのを発見したので、買おうかどうか思案中。
 ホントはね、日本盤が出てくれりゃ一番いいんだけど、こういうカルトというにはイマイチ地味な、マイナー系のヨーロッパ映画って、なかなかそういう可能性も少ないし……ね。

 あ、しまった、ヴァネッサ・レッドグレーヴについて何も書いてねぇや(笑)。
 とりあえず『肉体の悪魔』と『ジュリア』と『ダロウェイ夫人』の日本盤DVDの発売を祈願。
 あ、ついでに『トロイアの女』も。なんでついでかっつーと、この映画ではヴァネッサ・レッドグレーヴよりも、キャサリン・ヘップバーンとイレーネ・パパスの方がスゴかったから(笑)。

「ソドムとゴモラ」サントラ

「ソドムとゴモラ (Sodoma e Gomorra)」サントラ
Sodoma_e_gomorra_cd

 ロバート・アルドリッチ&セルジオ・レオーネ監督による、米伊合作大スペクタクル映画のサントラCD。
 音楽はミクロス・ローザ。サントラCDは既発のものがありましたが、今回のこれは、ミクロス・ローザ生誕100周年記念と銘打った二枚組。過去のアルバムには未収録だった曲はドバドバあるわ、未発表テイクも入っているわで、前に出ていたCDは持っていたけど、やっぱ買い直しちゃいました。
 っつーのも私、このスコアが大好きでして。大作スペクタクル映画の劇判のお手本のような、壮大、重厚、ロマン、エキゾ、全てがテンコモリの、実に堂々たる音楽。概して私は、史劇のサントラは大好きなんですが、なかでもこの「ソドムとゴモラ」と、同じくミクロス・ローザの「ベン・ハー」、そしてエルマー・バーンスタインの「十戒」が、お気に入り三大巨頭。

 そんなわけだから、もうこの映画のサントラ買うのは何度目かな。最初に買ったのは、まだガキの頃。「ベン・ハー」のシングル盤で、そのB面が「ソドムとゴモラ」の序曲で、A面よりB面の方を良く聴いていました。それから、確か高校生くらいのときだったと思うけど、「すみや」というレコード屋さんが、LPでサントラを復刻発売してくれまして、もういそいそと買いに行ったもんです。ちなみに同じ復刻シリーズで、「サテリコン」のサントラも発売されて、これも大喜びで買った(笑)。で、五〜十年前くらいに、輸入盤で前述のCDを見つけて購入、そして今回の二枚組。
 因みに、ありがたいことに、前述の「ベン・ハー」のサントラも、二枚組CDが出ていて、それを持っている。が、残念なことに「十戒」は、一枚もののCDしか持ってない。昔、アナログ盤で出た二枚組LPを持っているんだけど、一枚もののCDには未収録の曲とかがあるんだよなぁ。一枚もののCDも既に廃盤らしく、amazonのマーケット・プレイスでトンデモナイ値段が付いているくらいなんだから、二枚組のヤツを復刻して欲しいもんです。
 そんなこんなで、今回出た「ソドムとゴモラ」二枚組、まぁ、聞き覚えのない曲が出てくるわ出てくるわ。DIGITMOVIESのサイトを見ると、早くも在庫稀少とのことなので、欲しい方はお早めに。

 あとついでに、映画のDVDも出てくれりゃいいんですけどね。「ベン・ハー」とか「十戒」とかはコレクター盤が発売されているし、「聖衣」や「ディミトリアスと闘士」や「キング・オブ・キングス」や「偉大な生涯の物語」や「天地創造」とかも正規盤で出ているし、「サムソンとデリラ」や「クオ・ヴァディス」はパブリック・ドメイン盤で出てるんだけど、「ソドムとゴモラ」はないんだよな〜。ドイツ盤を見つけたんで、とりあえず買ったけど、やっぱ字幕付きが欲しい。
 ま、映画としてはさほど評価は高くない作品ではありますが、セットやモブのスケール感や、回転する車に縛り付けられての火あぶりのシーンだけでも、私としては満足の映画です(笑)。美人もいっぱい出てくるしね。

 そういや、ちょっと前にテレビ映画らしき「ソドムとゴモラ」ってDVDが出たんですが、リチャード・ハリスが主演のヤツ。これ、見たら原題が “Abraham” で、よーするにアブラハムの伝記映画みたいなもんで、ロトやらソドムとゴモラの滅亡なんてのは、ほんの脇筋、ちょっとしか出てこないっつー、サギ邦題系でした(笑)。
 でもまあ、ソドムとゴモラのエピソードや、スペクタクルを期待して見ると「何じゃこりゃ」ではありますが、サギ邦題だとわきまえて見る分には、聖書やら歴史やらに興味がある人だったら、地味ながらもそれなりに面白く見られる内容でした。同じテレビものでも、紅海が割れるシーンの余りのショボさに腰砕けになった、ベン・キングズレー主演の「十戒」よりゃ、よっぽどマトモかな(笑)。
「ソドムとゴモラ(Sodoma e Gomorra)」(amazon.co.jp)