“Bol”(『BOL ~声をあげる~』)

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“Bol” (2011) Shoaib Mansoor
(インド盤DVDで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com

 2011年製作のパキスタン/ウルドゥ映画。ショエーブ・マンスール監督作品。タイトルの意味は《話す》。
 イスラムにおける父権的&女性蔑視的なドグマに囚われた父親と、その妻や娘たちの辿る悲劇を描いた社会派ヒューマン・ドラマ。パキスタン映画の興行成績を塗り替えた大ヒット作だそう。IMDbでも8.0/10という高評価。
【追記】アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012で上映、福岡観客賞受賞。

 死刑執行直前の一人の若い女囚が、最後の願いとしてマスコミの前で話しをすることを望み、「私は殺人者ではあるが犯罪者ではない」と前置きしてから、自らの個人史を語り始める。
 彼女は貧しいが子沢山、それも女児ばかりの家に生まれた年長の娘だった。父親は熱心な宗教的求道者として周囲からは尊敬を勝ち得ていたが、ドグマに囚われ妻や娘たちを家に閉じ込め、学校にも行かせず外出もさせないという男だった。
 父は男児の誕生を望んで、繰り返し繰り返し妻を妊娠させるが、生まれてくるのは女児ばかりだった。そしてようやく息子が授かるが、その子は半陰陽と判断され、父親はその存在を恥じて家に閉じ込める。成長した彼はトランスジェンダー的な振る舞いを見せるようになる。
 ヒロインはそんな弟を独り立ちさせるために、母や妹たちや開かれた価値観を持つ隣家の息子の助力を得て、絵が得意な彼を、父親に内緒でトラックに絵を描くペンキ屋に弟子入りさせる。ペンキ屋の親方は彼の才を認めるが、彼の中性的な物腰が他の同僚やトラック運転手から目を付けられ、ついに親方のいない間に乱暴されてしまう。
 母や姉たちは、出掛けたまま帰って来ない彼のことを案じるが、父親は「そのままどこかで死んでくれればいい」とまで言う。そして、乱暴されたあと縛られて放置されていた彼は、ヒジュラ(男女以外の第三の性。多くは女性化した男性で、歌舞や売色等を生業とする)に助けられ、家まで送り届けられる。父親はそれを無視して扉を開けようとしないが、母や姉たちがそれに気付いて彼を迎入れる。
 事情を聞いた母や姉たちは、彼を無理に一人前の男にしようとした自分たちが間違っていたと悔やむが、この事件で父親はますます息子を疎むようになり、ついにはその寝室に忍び込み……といった内容で、ここまでが前半。
 後半はこれが皮切りとなり、父親が預かっていたモスクを建てるための募金の使い込みや、そんな父親が娼館の主と金銭的な取引をして、そこの娘の腹を借りることになるという事件が絡み、そんな父親と独立心のあるヒロインの対立は、ますます激しさを増していき、結果この一家はどんどん泥縄に……となっていきます。

 これはお見事。大いに見応えあり。
 前述したTGの息子の部分だけでも、かなりズッシリとしたテーマなんですが、それはまだほんの序の口。後半は、ドグマによって抑圧される女性とそれを容認してしまう社会、男児を重視する社会が産み出す様々な歪みといった、問題提起や告発に繋がっていき、それがダイナミックなストーリーのうねりと共に描かれていきます。
 死刑直前のヒロインの独白でストーリーが始まることによって、過去に何が起きたのかということと、そして現在のヒロインはどうなるのかという、二本柱で全体を牽引していくので、もう先が気になってたまらない。で、その語られる内容が、特に狙ってツイストを入れてくるわけではないのに、それでも驚くべき展開になっていくので、とにかく最初から最後まで目を離せない感じ。
 とはいえ、ひたすら重くて暗いというわけでもなく、ユーモア描写こそありませんが、それぞれのキャラクターをじっくり描き込んだ波瀾万丈の大河ドラマといった趣で、重いテーマながらもグイグイと力強く引き込んで見せていきます。
 そして、現実の残酷さと希望の双方を踏まえたラストには、思わずウルウル。

 演出も見事。冒頭、向かい合った男女が会話しているシーン……と思いきや、カメラが動くと、二人の間に鉄格子があることが判るカットから「おっ」と思わされましたが、全編に渡って、落ち着いたカメラワークと構図で見せる、しっかりとした重厚な出来映え。
 インド映画同様に、パキスタン映画にも歌や踊りは必須のようで、この映画にも何回か歌舞が登場しますが、挿入歌的な見せ方、ラジオから流れる歌に合わせて踊る、音楽のライブ場面……といった具合に、極力ストーリーに溶け込ませて自然に見せようという工夫があるので、あまり腰を折られる感はなし。
 もちろん、ドラマの置かれている社会事情を考慮しないと、理解や感情移入がしにくいであろう部分もありますし、こういうテーマだとどうしても、一部の音楽シーンが冗長に感じられる部分もあるんですが、しかし重厚なヒューマンドラマとして文句なしの見応え&良作。

 女性映画でもあり、社会派映画でもあり、ヒューマニズム映画でもあり、波瀾万丈の大河ドラマでもあり、ストーリーの面白さ、考えさせられるテーマ、胸を打たれるエモーショナルな展開の数々……と、見て損はない一本。

【余談】DVDのジャケやメニュー画面で一番デッカい二枚目男性が、実はストーリー的にはわりとどーでもいい隣家のお兄ちゃんだったので、ちょっとビックリ(笑)。