“El Greco”

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“El Greco” (2007) Yannis Smaragdis
(ギリシャ盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2007年製作のギリシャ/スペイン/ハンガリー合作映画。ヤニス・スマラグディス監督作品。「EUフィルムデーズ2011」で日本上映(ただし英語字幕版)あり。
 マニエリスムの巨匠エル・グレコ(ギリシャ人)ことドメニコス・テオトコプーロスの生涯をフィクショナルに描いたドラマ。
 音楽はヴァンゲリス(ただし1995年に限定盤、1998年の公式盤で出た同名のオリジナル・アルバムとは、全く異なる内容)。

 初老のエル・グレコが「私は明日にも火刑に処されるかも知れない」と、自分の生涯を手記に綴り始める。
 ヴェネツィアの支配下にあったクレタ島で生まれ育ち、ビザンチン・イコンの画家であったグレコは、レジスタンスとして闘っていた父や兄に憧れつつも、お前の武器は絵筆だと諭される。そんな中、グレコはヴェネツィアのクレタ知事の娘と恋に落ち、彼女に画才を認められる。
 彼女の口利きで、グレコはヴェネツィアの巨匠ティツァーノの工房に弟子入りし、その工房で、彼と生涯に渡って深い縁となるスペイン人修道士ニーニョ・デ・ゲバラと出会いう。ゲバラもまた、彼の画才に魅せられる。
 やがて恋の破局などを経て、彼はスペインへと渡り、今や高い身分となっていたゲバラの引き立てもあって名声を博するようになる。クレタから影の様に付き添ってくれた旧友との別れ、新たな女性との出会いなどを経て、彼はスペインが自分に名声と愛と幸福をもたらしたと感じるようになる。
 しかしそんな中、スペインに住む同胞のギリシャ人たちが、スペイン語を話せないゆえに異端の罪に問われたことを切っ掛けとして、彼の中に疑問が生まれ、その栄光にも影が差し始める。彼はその思いを画布へと描き、やがて彼自らも異端の疑いを持たれるようになるのだが……といった内容。

 DVDが英語字幕なしだったので、訛りのきつい英語をヒアリングのみで鑑賞しなければならなかったのと、たまにギリシャ語やスペイン語の会話が出てくると、もうサッパリ判らずわやや状態になってしまうので(笑)、かなり情報を拾い損ねていると思うんですが、でもなかなか面白かったです。
 全体の構成は、周囲から「エル・グレコ」と呼ばれながらも、絵にはギリシャ文字で「ドメニコス・テオトコプーロス」と署名しつづけた画家の思いと、その絵画の革新性を、自分のアイデンティティへのこだわりや、体制への反抗心などと重ね合わせるといったもの。
 ビザンチン絵画の「光」と、スペインの陽光という「光」、神性としての「光」、火刑の「光」などを重ね合わせた構成とか、絵画と宗教が対峙したときの、その危険性や優位性の論考など、テーマ的な見所が多かった。
 表現としては、部分的に俗に過ぎる表現があるものの(ちょっと世界市場を意識し過ぎてしまっている感あり)、全体はスケール感があって、重厚で美しい画面も佳良。
 役者さんもそれぞれ雰囲気があって、なかなかよろしい。

 そして部分的ではありますが、同性愛的なニュアンスも含まれていました。
 具体的には、ニーニョ・デ・ゲバラがグレコに寄せる思いがそれに当たるんですが、まあ昔ながらの「邪恋」的な雰囲気なので、同性愛ものとしては方法論が古いというか、さほど面白いものではなかったのが残念。

 絵画好きとしては、エル・グレコの名作のアレコレが、ちゃんとストーリーに有機的に絡んでくるのも面白いし、制作途中の名画だらけのティツァーノの工房シーンなんかも、「え〜、ホントにこれ全部同時期に描かれたの〜?」というのはあるにせよ(笑)、でもやっぱ楽しい(笑)。
 個人的には、このティツァーノの工房でモデルを使って、私の大好きな『プロメテウス』を描いている場面があったのは、かなりお得感がありました(笑)。
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 また余談ですが、劇中でティツァーノが、ドメニコス・テオトコプーロスという名前を覚えきれなくて「……もうグレコでいいや!」とかなっちゃうというシーンがあるんですが(笑)、確かに監督の名前スマラグディスとか、エンドクレジットでズラズラ並ぶ「何とかキス」「何とかプス」といった名前を見ていると、その気持ちも判るような(笑)。

 見やすい反面ちょいとアッサリしていて、もう一つガツンとくるものに欠ける感はありますし、ドラマ的な感動の持っていき方が、いささか安易な感もありますが、コスチュームものとしては、目の御馳走はタップリですし、映画自体の後味も良し。
 モチーフに興味のある方なら、楽しめる一本だと思います。

 ヴァンゲリスの音楽は、まぁ「いつものヴァンゲリス」でしたが、曲によってビザンチン聖歌や古楽がミックスされていたりするのが、ちょっと新鮮だったかな。