『サン・ルイ・レイの橋』

サン・ルイ・レイの橋 [DVD] 『サン・ルイ・レイの橋』(2004)マリー・マクガキン
“The Bridge of San Luis Rey” (2004) Mary McGuckian

 スペイン統治下にあった18世紀のペルー、サン・ルイ・レイの吊り橋が落ち、5人の男女が死んだ。その場に居合わせ、それを目撃した修道士は、5人の死には神の摂理に基づく理由があるのではないかと思い、亡くなった人々の私生活について、数年に渡る綿密な調査を行い、それを一冊の本にして出版するが、それがカソリック教会から異端の疑いをかけられ、審問にかけられてしまう……という内容。
 原作は、ソーントン・ワイルダーの『サン・ルイス・レイ橋』という、ピューリッツァー賞を受賞した小説だそうな。ちょっと読んでみようかと思ったものの、残念ながら絶版の模様。

 まず、とにかくキャストが豪華です。
 パッケージには、ロバート・デ・ニーロ、キャシー・ベイツ、ハーヴェイ・カイテル、ガブリエル・バーン、F・マーレイ・エイブラハム、ジェラルディン・チャップリン……なんて名前がずらずら並び、加えて重要な役で『女王ファナ』のピラール・ロペス・デ・アジャラ、チョイ役だけどジュネ&キャロ映画の常連ドミニク・ピノンなんかも出てたり。
 これだけの面子が出るコスチューム・プレイとなれば、もうそれだけでも見たくなっちゃいます(笑)。
 ただ、DVDのパッケージには、エピック・サスペンスだの歴史ミステリーだのと書いてありますが、正直言ってそういう要素は希薄……つーか、ほぼゼロ。
 ミステリー……と言えなくはない要素はあるけれど、解決や結論が明示されないという点で、やはりこれをミステリーとは呼べないだろうし、エピックやサスペンスの要素に至っては、もう皆無と言っていい。
 宣伝文句に準じた期待を持って見ると、ことごとく裏切られてしまうので、ご用心あれ。

 映画は、異端審問にかけられている修道士の口を通して、5人およびその周囲の人々のことが語られるという構成になっていて、ドラマとしても、軸が2つに分かれています。
 まず、事故を調査した修道士を軸とした、神の摂理の有無と異端審問の結末を見せるパート。
 それと、修道士の語る話に出てくる様々な人々が、事故に至るまでにどのような人生を歩んだかを描くパート。
 まず後者の、事故に関わった人々の様々な人生模様ですが、こちらは大いに見応えあり。
 演出自体は、可も無し不可も無しといった感じですが、親子、兄弟、恋人、師弟といった、人々の絆から生まれる感情のドラマが、地味ながらもじっくりとと描かれています。
 加えて、登場人物の中で、誰と誰が事故で死んでしまう5人なのかは、見ているこちらには判らない。消去法的に絞り込むことはできても、最後の最後までミスリードがあったりして、そういった作劇的な要素にも惹き込まれます。
 そんな中で、愛するがゆえの辛さ、愛されたいという切実さ、喪失の悲しみ……といった、何ともやるせない思いの数々が、人々のドラマを複雑に織り上げていくので、見ていてかなり感情を揺さぶられました。
 役者さんたちの演技は、いずれも説得力があるし、キャラも良く立っているので、悲劇の結末が近づけば近づくほど、何とも痛ましい気持ちになってくる。
 映画の大部分を占めるこちらのパートで、モノガタリの焦点は、エピック劇のような歴史叙事ではなく、「昔も今も変わらぬ人の世の営み」であり、視点も完全に「個」に寄り添ったものなので、内容的には、史劇好きにオススメする系統とは、ちょっと違う感じではあります。
 でも、衣装や美術などは文句なしの出来映えだし、ロケも効果的だし、画面の重厚感もある。内容の好き嫌いは別として、ヒストリカルな絵を楽しむという点では、充分以上に目の御馳走でしょう。
 音楽も、クラシック的な要素にフラメンコやフォルクローレっぽい要素も交えたもので、実にいい感じ。で、それがラロ・シフリンだったからビックリ。いや、なんかジャズとか都会的とか、そんなイメージを抱いていたもので(笑)。

 では前者の、修道士と異端審問に関するパートはというと、正直これは全くピンとこない。
 簡単に言うと、このパートの核となる、神の摂理云々を始めとする要素の数々が、余りにもキリスト教世界限定の要素でしかないからです。純粋なクリスチャンならともかく、そうでない人間にとっては、はっきり言って「よくワカラン」か「判るけどドーデモイイ」内容。
 ならば、宗教観や世界観に見るべきものがあるかというと、これまたテーマが「個」から「世界」に拡がりっているにも関わらず、視点が宗教という枠内に留まったままなので、その枠に属さない人間からすると、いかにも狭隘に感じられてしまう。
 もっと言えば、モノガタリの舞台が南米であるがゆえに、そこで、非キリスト教世界を完全にオミットした、キリスト教的宇宙にのみに基づいた形而上の考察を繰り広げるなんて内容には、ちょっと不快感すらおぼえたり。
 ここいらへんの不満点は、原作小説と比較してみたい感じ。
 そんなこんなで、煽り文句に騙されず、クリスチャンじゃない人は宗教要素はガン無視して、普遍的な身の丈サイズの人間ドラマをじっくり見る、という心構えでいれば、役者は粒ぞろいだし見応えもあり……って感じです。