オーストラリアの企画展、続報

 先日ここでお伝えしました、今月24日からオーストラリアはシドニーで始まる企画展”Boys Life by 30 Japanese Artists”ですが、オープニング・パーティーで、シドニーのニューサウスウェールズ大学のドクターで、私の作品を良く知っているという方が、スピーチをしてくださることになった……と、主催者から連絡がありました。
 で、ちょっとビックリ。
 というのも、だいぶ前に、同大学の言語学部で日本学を教えているというドクターから、サイト宛てにメールを貰ったことがあったんです。
 どういうメールだったかというと、私の作品についての論文を書いているのだが、そこで使用する図版について、正式に私の許諾を得たい、といった内容でした。確か、もう二年くらい前のことです。
 そしてつい先日、ようやく研究が完成したとのことで、まだドラフトの状態でしたが、その論文(ちなみに、「田亀源五郎のエロSMマンガにおける男らしさの表現」とゆータイトルでした)の第一稿を送ってくれました。
 というわけで、おそらく同じ方なんじゃないかと、主催者に問い合わせてみたところ、やっぱりそうでした。
 まあ、どちらも同じシドニーなので、ひょっとしたら企画展を見に行ってくれるかな、なんて、仄かに期待はしていたんですけどね。こうやって、まったく別のルートで進めていた話が、偶然なのか一つに重なったりすると、海の向こうのことだけに、何だか感慨深いものがありますね。
 オーストラリアというと、以前にもパースのマードック大学で、アジアにおけるジェンダーと歴史と文化の交錯という括りの中で、拙著『日本のゲイ・エロティック・アート vol.1 ゲイ雑誌創生期の作家たち』についての論文が発表されたことがありました。
 自分のやってきた仕事に対して、こういった学究方面からの論文が、同じオーストラリアで二つ出たのは、何だか不思議な気がします。日本を含めた他の国では、まだそういった例は聞いたことがないので。
 さて、前述した私のマンガについての論文ですが、流石に私は英語の論文をスラスラ読めるスキルはないし、それどころか、辞書を引き引き読んだって、正確な文意は掴みきれない部分も多々あるんですけど、いちおう読める部分だけ、ざっと目を通してみました。
 で、またビックリ。
 読み込みがものすごく細かく、かつ正確。私が作品中に配置した、目立たないながらも意味は持たせているといった、半ば自己満足的なディテールについても、しっかりと指摘し、かつ正確に分析されている。それについて、今まで誰からも指摘されたことがなかったことも含まれていたので、ちょっと感激しちゃいました。
 この論文が完成したら、何とかパブリックな場でも公開されるといいな、と、願っております。
 一つ、余談。
 この論文中でも幾度も出てきたんですが、最近、マッチョ系のゲイ文化の周辺で、良くhyper masculineという言葉を目にする。で、これってどう日本語に訳せばいいんだろう、なんて、論文を読みながら、ちょっと考え込んじゃいました。
 とりあえず「超男性性」なんて言葉を思いつくんですけど、どうもこれが、何となく落ち着かない感じがする。
 まず、そもそもの「男性性」という言葉自体に、何となく違和感があるんですよ。いや、意味性とかそういう問題じゃなく、単純に見た目の話で、「性性」という、同じ漢字が二つ続いた字面が、何だか変。かといって、「重々」とか「軽々」みたいに「男性々」と書くと、もっと変な感じがするし。
 次に、hyperが「超」でいいのか、ということ。何となくのイメージですが、hyperにはもっと「過剰な」といったようなニュアンスがあるように感じるんですよね。対して、superが「超越した」って感じ。だから「超」だと、superであってhyperではないような気がする。ま、私の勘違いか、思い過ごしのせいかも知れませんけど(笑)。
 あ、でも「チョー気持ちいい」とか「チョーかわいい」なんていう、口語的な「超」には、「過剰」というニュアンスも含まれるような気もするなぁ。
 あと、もう一つ。これはまあ、連想ゲーム的というか、些末なことでしかないですけど、「超男性性」という言葉を見ると、反射的にアルフレッド・ジャリを連想しちゃって(笑)。で、あれとはちょっと違うだろう、と(笑)。ま、これは私個人の勝手な思いこみですが(笑)。
 まあ、仮にmasculineを「男らしさ」だとすると、この「男らしさ」という言葉からして、そもそも「過剰」に「男」である、といった感じがある。で、それが更に「過剰」になったのが、hyper masculineという言葉だとすると、そんな過剰に過剰を重ねたトンデモナサを、上手く表現するのには、いったい何て言葉が相応しいのかなぁ……なんて、つい延々と考えこんじゃった(笑)。
 まあ、べつに私は翻訳家じゃないから、ドーデモイイっちゃあドーデモイイんですけどね(笑)。