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『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(2007)クリス・ワイツ
“The Golden Compass” (2007) Chris Weitz
 残念ながら、諸手を挙げて絶賛……とはいかない仕上がり。
 美術や配役は素晴らしく、完全に満足がいく内容だった。異世界やモノガタリ世界のヴィジュアル化という点に限って言えば、これはもう100点満点の出来映え。しかし映画としての出来映えはどうかと言うと……正直ちょっとウムムな感じ。
 満足半分、ガッカリ半分で、しかもその二つのギャップが激しもんだから、もう、自分もダイモン切り離された気分(笑)。美術100点、俳優100点、演出60点、脚本30点ってとこです(笑)。
 まあ、尺が短いせいもあって、展開が駆け足になってしまうのは、仕方がない部分もあるんですが、それにしても、もうちょっと何とかならんかったもんかなぁ。ストーリーは、単に原作の粗筋をかいつまんで繋げただけに終始していて、小説を視覚言語化する技術や工夫やセンスがあまりにも乏しい……ってか、はっきり言って下手。
 その結果、緻密であったはずのモノガタリは、行き当たりばったりのイベントの連続にしか見えなくなり、キャラクターへの感情移入や、その行動からエモーションが揺さぶられることもない。
 ちょっとね〜、ヴィジュアル面が素晴らしいだけに、なおさら勿体ない感が募るのだ。
 以降、ちょっと実例を挙げるので、ネタバレがお嫌な方は、次の段はスルーしてください。
 じっさい、脚本や演出の欠点を挙げ始めれば、もうきりがない。
 ライラとロジャーの結びつきの描写が不足しているために、友(原作の表現を借りれば「親友で戦友」なのだ)との約束を守るため少女が一人危地へ赴くという感動がない。それどころか、ライラが何のために行動しているのか、その行動原理すら希薄になっている。
 人とダイモンの結びつきの描写も不足しているので、それが切り離されたり失われることの重みや恐怖感が伝わってこない。ほんのワン・エピソード、ライラとパンタライモンが、少し離れるだけでも互いに苦痛だという描写を入れるだけでいいのに、それがないので、実験によって二人が切り離されそうになるシーンの、恐怖感や緊迫感がない。
 ダイモンを喪ったビリー(原作では別の少年)が、死なずに母親と再会して救われるのも疑問だ。これではまるで、ダイモンの喪失がペットロスか何かのようではないか。これは、世界観の根幹を揺るがしてしまう。だいいち、ここでそういった世界の残酷さを見せないのならば、このエピソードを入れる意味はない。
 似たようなことは他にもあり、些細な例を挙げると、攫われた子供たちに親への手紙を書かせるシーンを入れるのなら、その手紙が出されることなく焼かれるシーンも入れなければ意味はない。かと思えば、アスリエル卿が襲撃されるといった、映画オリジナルでありながら、同時に全く無意味なエピソードが入ったり、まったく理解に苦しむ脚本だ。
 魔女セラフィナ・ペカーラや気球乗りリー・スコーズビーといった、モノガタリのキーパーソンの登場シーンも、モノガタリ的な前振りや映像的なケレン味が皆無なので、まるで唐突に表れて主人公にとって便利に動いてくれる、ご都合主義の産物という印象しか与えない。
 つまり、エピソードが有機的にリンクして、一つのストーリーを織り上げていくという、作劇法の基本が全く出来ていない脚本なのだ。
 演出に関しては、とにかく地味でワクワク感に欠ける。
 飛行船のシーン一つとってもそうで、あれだけ美麗なデザインのガジェットと、雄大なCGIを用いながらも、主人公が「閉ざされた小さい世界」から「広大な外の世界」に向かうというワクワク感は、全く体感させてくれない。
 ライラがイオレク・バーニソンの背に乗って、雪原を疾走するシーンも好例。絵的には美しく仕上がってはいるものの、「あたし、白熊の背中に乗って北極圏の雪原を走っている!」という主人公のワクワク感が描けていないので、見ているこっちもワクワクしない。
 危機一髪のタイミングで駆けつける援軍たちも、こういったクリシェは、受け手に「待ってました!」という爽快感を与えてこそなのに、それがない。
 そんなこんなで、どのシーンも、絵的には決してマズくはないのに、何か盛り上がりに欠けるのだ。カッコイイものやスゴイものを見せるというセンスが、根本的に欠如している感じ。日常ドラマならともかく、ファンタジーやエピックでこれじゃマズいっしょ。
 そして、最大にして致命的な欠点は、あの中途半端なエンディングだ。
 いろいろ事情はあるのだろうが、個人的には許し難い暴挙に思えて、怒りすら覚えた。こういった、口当たり良く終わらせようという、及び腰な「配慮」は、実に不愉快この上ない。そういう立場で制作するという態度そのものが、原作の挑戦的な態度とも、ライラというキャラクターの性格にも、全く反しているからである。
 ネタバレ、ここまで。
 という具合に、脚本と演出は欠陥だらけではあるものの、それでもやはり、美しい美術の数々には魅了されました。特に、真理計や飛行船や三輪車(?)のデザインの、その優美で古雅な美しさは、本当に素晴らしい。船や気球のデザインも良いし、エクステリアやインテリアも見応えあるものばかり。
 俳優陣も、こんな酷い脚本なのに、それでもあれだけの存在感とキャラ立ちを見せているという点で、これまた誰もが素晴らしい。前にここで、イオレク役にしては声がオジイチャンすぎやしないかと心配だったイアン・マッケランも、そんな不安は微塵も感じさせない力強さで、改めて「巧いな〜!」と感心したし、ニコール・キッドマンもダニエル・クレイグもエヴァ・グリーンも良かったし、サム・エリオットも良かった。ホント、繰り返しになるけど、皆さんよくも、あんなストーリーや設定の説明だけで、心理描写や人間ドラマの欠片もないセリフばかりなのに、よくここまで存在感を出せるな〜、と、ひたすら感心しました。
 メイン・キャラだけではなく、ほんのチョイ役も、前に触れたクリストファー・リー以外にも、デレク・ジャコビとかキャシー・ベイツとか、無駄な豪華さが嬉しい(笑)。贅沢な役者が出演している。そうそう、エンド・クレジットの歌がケイト・ブッシュだったのも、私にはちょっと嬉しいオマケだったなぁ。
 ああ、あともちろん、白熊を筆頭に動物の数々も良かった。存在感と説得力がある視覚化という点では、全く問題なしの出来映え。
 まあ、私は原作のファンなので、内容的にはかなり辛い評価にはなってしまいますが、ファンタジー映画好きなら、見所やお楽しみどころも色々とあると思います。少なくとも、『エラゴン』や『ゲド戦記』よりは、よっぽどマシだと思う……って、大して褒め言葉になっていないような気もするけど(笑)。
 ただ、もし続編が制作されるなら(正直、これで打ち切りでもむべなるかな、という感ではありますが)、お願いだから監督は、別の人にしてください。クリス・ワイツ氏の脚本と演出手腕には、もう微塵も期待はできないんで(笑)。

気になる新作映画予告編

 個人的に気になっている新作映画の予告編を、いくつか貼っ付けてみます。
“1612”

 17世紀のロシアとポーランドの戦いを描いたロシア映画。どうやら、ロシア大動乱期の末期を飾る、モスクワ解放を描いたものらしいです。
 ご贔屓のポーランド人男優、ミハウ・ジェブロフスキーが出演しているんで見つけた映画なんですが、美術や衣装は美しいし、甲冑や戦闘はカッコイイし、スケール感や迫力も申し分なし。オマケに責め場もあるっぽい? う〜、見たい〜!
 日本ではまず公開されないだろうし、バジェットも掛かっていそうなのでビデオスルーも難しそうではありますが、検索したらアメリカの配給会社と契約云々というニュースが出てきたので、そのうち米盤DVDが出ないかと期待しております。ロシア盤DVDは見つけたんだけど、残念ながら字幕なしだった…。
“Taras Bulba”

 ゴーゴリの『隊長ブーリバ』の、ロシア版新作テレビ映画らしいです。
 1962年制作のユル・ブリンナーが出ていたハリウッド版が面白かったので、このロシア版も是非見てみたい。上記の”1612″と比べると、美術やスケール感など全般的に見劣りはしますけど、それでもやっぱり、コサック騎兵の大群が疾走しているのを見ると、そのカッコよさには血が騒ぎます。ハリウッド版でも一番興奮したシーンは、馬で駆けるユル・ブリンナーの元に、騎馬軍団が続々終結してくるところでした。
 テレビ映画なら、ひょっとしたらビデオスルーで出てくれるかなぁ…。
“The Fall”

 ジェニファー・ロペス主演の『ザ・セル』を撮った、ターセム監督の新作。
 ヴィジュアル・インパクトだけが勝負みたいな映画だった『ザ・セル』同様、この新作も、予告編だけでも目の御馳走、美麗画像テンコモリ。普通の日常的なシーンの演出は、決して上手いとは思えない監督だけど、特殊なシーンの美しさは、それだけでもオツリがくる満足感なので、今回もやっぱり期待しちゃいます。予告編に使われている、ベートーベンの七番も好きだし。
 これは、前の二つに比べると、公開の可能性あり?
“In the Name of the King: A Dungeon Siege Tale”

 ファンタジー映画で、出演がジェイソン・ステイサム、レイ・リオッタ、ロン・パールマン…ってのを見たときは、「おおっ!?」とコーフンしたんですけど、監督がウーヴェ・ボルだと知って…ガックリ(笑)。
 ま、内容には期待しないで、レンタル屋さんに並ぶのを待つことにします(笑)。

『エド・ウッドの牢獄の罠』

Jailbait
『エド・ウッドの牢獄の罠』(1954)エドワード・D・ウッド・Jr(エド・ウッド)
“Jail Bait” (1954) Edward D. Wood Jr. (a.k.a. Ed Wood)
 スティーヴ・リーヴス出演作の日本盤DVDがついに出た〜ッ! ……と思ったら、よりによって “Jail Bait” かよ……(泣)。orz
 ま、これはいちおうリーヴスがテレビや舞台でキャリアを積んだ後、スクリーン・デビューをしてから二作目で、セリフもあれば演技もしてるんですが、正直なところ「スティーヴ・リーヴスのファンの私」にとっては、リーヴスのフィルモグラフィーの中では、もっとも「どーでもいい映画」なんだよなぁ、コレ(笑)。
 でも、「トラッシュ映画好きの私」としては、お楽しみどころがいろいろとありました(笑)。
 映画の序盤は、良くできた親に反発する気弱なダメ息子が、悪い仲間の誘いと、拳銃の魔力で道を踏み外して、ついには人を殺してしまい……という、ある種の社会派(?)的な要素もある犯罪映画風味なんですが、そこはまあ、最低映画監督として名高い、あのエド・ウッドの撮った映画ですから、そうそう一筋縄ではいきません。詳しい内容はネタバレになっちゃうので書きませんが、途中から誰が主人公か判らなくなっちゃうし、ジャンルも、クライム・サスペンスなんだか、ミステリーなんだか、ホラーなんだか判らなくなってくる。
 まあ、エド・ウッドの作品の中では、特に話題にされない作品なので、破綻具合とか破壊力は控えめですけど、それでもやっぱり、マジメに考えると空しくなるような破綻しまくりのストーリーとか、オツムが足りないとしか思えない行動をとる登場人物たちとか、伏線かと思いきや何の意味もないエピソードだったとか、「ありえね〜!」と叫びたくなるような展開とかは、見ていて思わず目が点になっちゃいます(笑)。
 ほとんどのシーンが、俳優がセットに棒立ちになって喋っているだけなのも、カーチェイスとか銃撃とか、たま〜に動きのあるシーンが入っても、全てがユッルユルなのも、全編を通して流れる、シーンに全く合っていない、ギターのトレモロによるミョ〜にうら寂しい音楽と相まって、まったりダウナー気分を醸し出してくれます(笑)。
 そう思って見れば、全体の雰囲気とか、ものすご〜く良く言えば、デヴィッド・リンチみたいな感じのような気もしてくるし、基本のアイデアも、手塚治虫の短編とかにありそうだし……って、やっぱ違うか(笑)。
 で、スティーヴ・リーヴスは、犯人を追う刑事の役。……とはいえ、この映画の場合、誰が何の犯人なんだよって感じですし、更に言えば警察も、おめーら捜査らしい捜査もしてねーだろって感じなんですけどね(笑)。
 とりあえずファンとしては、背広姿で現代劇の演技が見られるってだけで、貴重といえば貴重。何せ彼の18本の出演映画のうち、現代劇はこれと “Athena” だけで、あとはぜ〜んぶコスプレものだから。
 ただ見所も、その「貴重だ」ってことだけで、他はな〜んもなし(笑)。現代劇を演っても、決して下手ではないことが判りますが、かといって、これといった見せ場があるわけでもなし。まあ、上半身裸を見せるサービスカットが、あることはありますが、これもほんの一瞬だしなぁ。
 とゆーわけで、トラッシュ映画好きならともかく、単にリーヴス目当ての場合は……う〜ん、マニアかコレクターでもない限り、やっぱりオススメはしかねるなぁ(笑)。
 まあ私の場合、米盤DVDを注文するほどのもんでもね〜かな〜、と、スルーしてたヤツだったし、トラッシュ系はトラッシュ系で好きなので、国内盤が980円という安価で出たのは嬉しい限り。ホクホクと喜んで購入いたしました。
 あと、こういうPDものとかの廉価DVDって、安価な反面、画質の当たり外れが激しいくて、例えば去年出た、やはり往年のマッスル男優ミッキー・ハージティ主演の拷問映画『美人モデル 惨殺の古城 (The Bloody Pit of Horror)』なんかは、Something Weird Videoから出ている米盤DVDと比べると、かなり残念な画質だったけど、それに比べるとこの『牢獄の罠』は、そこそこ佳良と言える画質だったので、ホッとしました(笑)。
『エド・ウッドの牢獄の罠』(amazon.co.jp)

『ペルセポリス』

『ペルセポリス』(2007)マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー
“Persepolis” (2007) Marjane Satrapi, Vincent Paronnaud

 フランス在住のイラン人女性が描いた自伝マンガを、自らが監督してアニメーション映画にした作品。
 いや、お見事!
 ユーモアを交えたモノガタリの語り口の面白さ、映像表現としての美しさや力強さ、作品の持つ普遍性や社会的な意義、と、三拍子揃った充実した見応えの作品でした。

 モノガタリの内容は、少女から成人した女性に至る一人の人間のいわば個人史なのだが、それを語る視点が、情緒に偏ることなく客観的なものなので、個人を通じて世界のドラマを見るという、多層性を持ったものとなっている。結果としてこの映画は、子供たちの世界を見るというジュブナイル的な楽しみ方もできるし、或いは、ガール・ポップ的なキャラクター・アニメーションや、女性映画や、時代背景や政治状況を知るといった具合に、様々な視点での鑑賞が可能になっている。
 表現面も素晴らしく、例えばメインのスタイルは、いささか素っ気なくぶっきらぼうなデザインのキャラクター(因みに一緒に見た熊は「LUMINEのルミ姉みたい」と言っていたし、私はちょっと「ナニワ金融道みたい」だと思った)が、フラットな画面の中で動き回り、悲喜こもごものドラマをユーモア混じりに演じるという、いわば「ちびまる子ちゃん」的なものなの。何の変哲もないカートゥーン的なスタイルだが、モノガタリの持つ重さや暗さを緩和する効果があるし、これによってリアリズム的なエモーションが抑制されていることよって、前述したような、情緒に偏らない客観的な視点といった印象にも繋がっている。
 また、この基本スタイルを軸に、語られるエピソードに併せて、様々なスタイルが自在に使われるのだが、そのどれもが見応えがある。例えば、昔語りが始まると、それに併せてフォーク・アートがそのまま動き出したかのようなスタイルに代わり、或いはシルエットを大胆に使って社会不安や戦争を表出したり、ギャグ的なメタモルフォーゼが出てきたり……といった具合に、各々が表現したいものに対して、最も効果的な見せ方、演出がなされるのだ。しかも、そのどれもが美しい。実写ではない、アニメーションという媒体ならではの醍醐味が、ふんだんに味わえる。
 そんなこんなで、ものすごく見応えがあり、観賞後は満足感でおなか一杯。

 以下、ちょっと個人的にあれこれ面白かった要素。

 時代背景について。
 自分はこれまで、イランにおけるイスラム革命というのは、国王の専政政治に対してイスラム保守派が起こしたものだとばかり思っていたんだけれど、そんな単純なものではなかったんですね。
 パーレビ(パフラヴィー)王朝自体が、二十世紀に入ってから軍事クーデターによって生まれたものであったことや、パーレビ時代に弾圧されていたコミュニストたちが、反政府勢力として革命に関わりつつも、革命後のイスラム体制下で、再び投獄・処刑されていたことなど、この映画で初めて知りました。
 勉強になりました。

 ゴジラについて。
 みんなが映画館でゴジラ映画を見るシーンがありましたが、私自身も1990年にイランを旅行したとき、イスファハンの映画館で『ゴジラ対ビオランテ』を上映していたのを思い出して、懐かしい気持ちになりました。泊まっていたムサッファルカーネ(イランの安宿)で同室だったイラン人たちが、私が日本人だと知ると、「ビオランテを見たか?」と聞いてきましたっけ(笑)。
 余談ですが、イランを旅する前から、かの地で『おしん』が人気だったとかいうのは聞いていたんですが、じっさいイスファハンのバザールで、ひらがなで「おしん」と書かれている真っ赤なバッグを見たときには、かなりビックリしました(笑)。あと、シラーズだったかケルマーンだったか、宿のフロントのオヤジが、夕方になるとテレビで見る『一休さん』のアニメを楽しみにしていたり、テヘランでズボンを買いに入ったブティックの名前が「TOKYO」だったり、イランにはいろいろ愉快な思い出があります(笑)。

 ジャスミンについて。
 自分がブラジャーをしていないことを残念に思ったのは、生まれて初めてです。う〜、真似してみたかったのに……(笑)。
 なんのことかって? それは映画を見てのお楽しみ(笑)。

 サントラについて。
 映画の主人公はロックやパンクに傾倒しているけれど、サウンドトラックの方はあまりそういった要素はなく、どちらかというと室内楽風味の瀟洒なアヴァン・ポップといった風情がメイン。親しみやすくてかわいいメロディーを、ユーモアを効かせた品のいいアレンジで楽しませてくれます。
 監督の言によると、ワールド・ミュージック風味は省いているとのことですが、私が聴くと、確かに伝統音楽的な要素はないものの、メロディーに懐メロ系のオリエント歌謡風情だったりして、けっこうエキゾ風味に感じられます。
「ペルセポリス」サントラ (amazon.co.jp)
 試聴ができる輸入盤のページにリンクを貼ってみました。
 私の一番のお気に入りは、オリエント歌謡 meets トイポップといった風情の21曲目”Teheran”。かわいくて優美な1曲目 “Persepolis theme”、フランス近代を思わせる3曲目” Tout ce qui est a vous m’appartient”なんかも、かなり好き。全体的に佳品揃いで、アヴァン・ポップ好きなら、サントラの枠を越えてもかなり楽しめる一枚です。
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『鉄腕ゴライアス 蛮族の恐怖』+ “Goliath and the Vampire” 米盤DVD

Goliath_and_the_barbarians
 祝・NTSC盤発売!
 スティーヴ・リーヴス主演の『鉄腕ゴライアス 蛮族の恐怖』(伊語原題 “Il Terrore dei barbari”、米題 “Goliath and the Barbarians”)の、アメリカ盤DVDが出たのでご報告。
 この映画のDVDは、いままでフランス盤、スペイン盤、イタリア盤が出ていましたが、このアメリカ盤発売で、ようやくPALの再生環境をお持ちでない方でも、DVDで見られるというわけです。しかもリージョン0なので、普通のDVDプレイヤーで再生可能。
 映画の内容については、前にここで熱く(笑)語っているので省略します。ここでは、気になる画質についてレポート。
 とりあえずは下のキャプチャ画像をご覧あれ。
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 ご覧のように、極度の退色や傷などがない、全体的には佳良と言える品質。色彩は経年劣化で全体に黄味がかった感じで、ディテールもはっきりクリアとは言えませんが、それでも50〜60年代のソード&サンダル映画のソフトとしては、十分に上クラスの画質。ノートリミングのシネスコ版なので、構図の狂い等もなし。ただ、スクィーズ収録ではないのは残念。
 本編以外の作りもしっかりしており、映像特典として、スライドショーと米国版予告編が付いています。このスライドショーが充実していて、スチル写真はもちろんのこと、公開時の世界各国のポスター、ロビーカード、パンフレットなどの画像が、たっぷり収録されています。日本のも、ちゃ〜んとありました。
 DVDソフトとしては、手持ちのフランス盤、スペイン盤、イタリア盤と比較しても、頭一つ飛び抜けた品質。『鉄腕ゴライアス 蛮族の恐怖』のDVDを購入するのなら、この米盤がベストの選択と言えるでしょう。
 さて、このDVDは両面ディスク仕様になっていて、B面にはゴードン・スコット主演の “Goliath and the Vampires (Maciste contro il vampiro)” (1961) が収録されています。監督は、アラン・スティールの “Hercules Against the Moon Men (Maciste e la regina di Samar )” を撮ったジャコモ・ジェンティローモ(Giacomo Gentilomo)。
 ゴードン・スコット扮するゴライアス(原版ではマチステ)が、自分の村を焼き払われ、仲間を虐殺され、許嫁を攫われてしまい、復讐と奪還に向かう……というのが大筋なんですが、タイトルからも判るように、お話しが進むにつれて、そこに伝奇ホラー風味がミックスされていきます。
 まず、さらわれた娘たちが、短剣で腕を切られて生き血を杯に絞りとられ、その杯をカーテンの影から奇怪な腕が伸びて受け取る……なんてあたりから、ちょいとそれっぽい雰囲気が漂い始める。それでも、ゴライアスがアラビアン・ナイト風の街に辿り着き、攫われた娘の一人を奴隷市場から助けて大暴れしたり、ジャック・セルナス扮する謎の男と出会ったり、捕まって王宮に連行されるあたりまでは、まだ史劇風味の方が強い感じ。
 しかし、許嫁を助けて脱出したゴライアスが、砂嵐にあい、地下の都に迷い込むあたりから、風向きが決定的に代わり、後半は、地下都市に住む「青い人々」と共に、黒魔術を使う魔王コブラックを倒し、魔術で石化されてしまった人々を救うといった、完全にファンタジー映画の趣になる。
 前半の史劇風パートも、セットやモブもけっこうゴージャスで、アクションや残酷趣味も盛りだくさんで、けっこう楽しませてくれるんですが、それよりも特筆したいのは、やはり後半のファンタジー風パートの方。
 この後半は、コブラック配下の生き人形にされたノッペラボウ軍団とか、肌の色から服装から食べるパンまで青い「青い人々」(ちょっと『続・猿の惑星』のミュータントを連想させます)とか、錬金術めいたビーカーやフラスコとか、ゴライアス VS 偽ゴライアスとか、ファンタジーやSci-Fiテイストが、ふんだんに登場します。ここいらへんのアイデアとか、チープさも含めた見所は、他のソード&サンダル映画と比較しても、頭一つ飛び抜けている感じなので、クラシックSF映画ファンなら、かなり楽しめるはずなので、ぜひ一見をオススメしたい。
 ただ、映画全体としては、盛りだくさん過ぎるのが仇になっている感はあり。エピソードのつなぎがギクシャクしているし、ストーリー的にとっ散らかった感じがするのは否めません。
 ゴードン・スコットは、ヒゲがないのは個人的には残念だけど、最初から最後までほぼ腰布一丁なのは嬉しいポイント。筋肉美を誇るタイプではないから、怪力発揮とか肉体の見せ場になると、ちょいと同時代の他のボディービルダー男優と比べると見劣りしますが、恋人を喪った怒りと悲しみとか、偽ゴライアス役のときの憎々しい表情とか、なかなかの熱演を見せてくれます。
 ヒロインのレオノーラ・ルッフォは、まあ奇麗なだけという感じですが、対する悪のヒロイン、魔女アストラ役が、スティーヴ・リーヴスの『ヘラクレス』のアマゾンの女王や、やはりリーヴスの『闘将スパルタカス』にも出ていた、ジャンナ・マリア・カナーレだったのが嬉しい。似たようなキャラを演じても、やはりモイラ・オルフェイあたりよりは、だいぶ存在感が違う。余談ですが、DVDジャケット裏面の解説によると、この人『怪傑白魔』を撮ったリッカルド・フレーダ監督の奥様なんですな。
 ジャック・セルナスは……ロバート・ワイズの『トロイのヘレン』ではパリス役だったのに、何かもう、すっかりB級臭が……(笑)。同じソード&サンダル映画でも、『逆襲!大平原』や『闘将スパルタカス』のときは、こんなキワモノっぽい感じじゃなかったけどなぁ(笑)。
 あと、監督はジャコモ・ジェンティローモですが、かなりの部分をセルジオ・コルブッチが撮っていると、やはりジャケ裏の解説にありました。コルブッチは脚本でもクレジットされています。
 さて、責め場関係ですが、ゴードン・スコットの責め場は、まず前半、居酒屋で暴れていたところを投網で捕らえられて、宮殿に連行されます。ここで、大きな木の枷をはめられて鎖に繋がれたりしますが、あっさりと脱出してしまうので、このシーンはさほど見所はなし。
 そして後半、今度は魔王コブラックに捕らえられ、竪穴に入れられた上に巨大な鐘をかぶせられ、「音波で脳髄を破壊して奴隷に変える」という責めを受けます。拘束はなしですけど、苦しみ悶える演技はけっこう佳良。ただし、このシーンの前に、こっそり蝋で耳栓をしておいた(『オデュッセイア』からの引用ですな)というエピソードが入っているので、この苦悶も演技なのだということが、観客にはわかっているので、責め場としてはちょっと興ざめ。
 責め場以外では、クライマックスの「ゴライアス vs 偽ゴライアス」の格闘シーンが、撮り方も凝っていて楽しめます。「もっこり好き」の方は、このシーンは要チェック(笑)。
 スコット君以外の責め場では、冒頭の村人虐殺シーンなんてものありますが(着衣ではあるものの、逆さ吊りにされた男どもが、ちょっとヨロシイ)、その後に出てくる、公開処刑の方が見応えあり。ゴライアスが街に着くと、広場で上半身裸の男が木の棒に昇らされていているんですが、ついに力尽きて棒から落ちると、下に並んで突き立った刃にグッサリ刺さって絶命、というシーン。ここはなかなかヨロシイ。
 画質は、ノートリミングのワイドではあるものの、退色、傷、共にかなり激しいです。ただ、酷くて見てられないというほどではなく、二束三文で叩き売られている廉価ソフトと比べれば、これでもだいぶマシなほう。メインは『鉄腕ゴライアス 蛮族の恐怖』で、こっちはオマケだと思えば、そうけなしたもんでもなし。
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 A面の『鉄腕ゴライアス 蛮族の恐怖』同様、こちらもスライドショーと予告編の特典付き。スライドショーの内容はA面同様に充実しているし、予告編も、何と本編よりも画質が良かったりします。
 というわけで総合的には、内容よし、ソフトの作りよし、という、かなりオススメできる一枚。値段も$19.95と標準的。
 リリース元のWildeastは、マカロニ・ウェスタンをメインに発売している会社のようですが、カタログ・ナンバーが古いものは既に廃盤になっていたりするので、欲しいという方は、お早めのご購入を。
“Goliath & the Barbarians, Goliath & the Vampires” DVD (amazon.com)

Colton Ford発Joe Gage行き

 ひょんなことで目にした、コルトン・フォードというシンガーの、”That’s Me”という曲のプロモーションビデオが、余りにもマッチョでエロかったので、YouTubeにあったビデオを貼り付けてみます。何か、もう映像のエロさが強すぎて、逆に、どんな曲だったか音印象が残らないくらいです(笑)。

 さて、実はこのお方、元ゲイポルノスターらしい。ならば、このエロさも納得ですな。私は出演作を見たことがないんですけど、ちょっと調べたら、GayVN Awards(VNはvideo newsの略で、まあアメリカのゲイAV大賞みたいなものです)で2003年度のGay Performer of the Yearを獲得したりしています。
 現在では音楽活動と並行して、here!制作のゲイドラマ”The Lair”なんかにも出演しているらしいですね。彼の経歴を追ったドキュメンタリー映画”Naked Fame”(「裸の名声」ってとこでしょうか)なんてのもあるみたいで、これはちょっと面白そうなので見てみたい。
 しかしまあ、このPVを見てると、80年代にMan2Manの”Male Stripper”なんかにドキドキしてたことを思うと、隔世の感があります。で、こっちもYouTubeにあったので、貼り付けてみる。

 ど〜です、ババァの元クラバーには懐かしいでしょう(笑)。
 当時は、Man2Manはこの一曲しか知らなかったんですが(12インチシングルを持ってた)、数年前にCDで欲しくなってベスト盤を購入したら、他の曲もぜ〜んぶ同じ曲にしか聞こえなかったという、キョーフの金太郎飴アーティストだった(笑)。
 さて、ゲイポルノとクラブミュージックという繋がりで、もう一つ思い出した曲があって、探してみたらそれもYouTubeにあったので、貼ってみます。Man Parrishの”Heatstroke”という曲。ちょいとイントロが長いですけど。

 今回、改めて調べて初めて気付いたんですけど、前出のMan2Manをプロデュースしてたのって、このMan Parrishだったのね。知らなかった。
 で、この曲の何がどうゲイポルノなのかと言うと、実はこれ、元々はアメリカの伝説的なゲイポルノ映画監督、ジョー・ゲージが撮った”Heatstroke”というゲイポルノ映画のテーマ曲だったんですな。それが後にオーバーグラウンドでもヒットした。個人的には、映画で使われていた女声コーラスとかが入っていないバージョンの方が、音は多少チープでもストイックなアングラ臭があって好み。
 ジョー・ゲージの映画は何本かDVDを入手してるんですが、個人的に特に名作だと思っている、この”Heatstroke”のDVDは、未だ発見出来ず。あと、同様に名作の”Closed Set”(1980年版)のDVDも見つからず。また、入手出来た”Kansas City Trucking Co.”三部作のDVDも、ビデオ版と比べるとシーンがカットされた短縮版だったりするので、これまた残念な限りです。
 で、このジョー・ゲージ監督ですが、80年代中頃にゲイポルノからは退き、ティム・キンケイド名義で『虐殺バッドガールズ・地獄の女刑務所』だの『アンドロイド・バスターズ/残虐メカ帝国の逆襲』だの『ミュータント・ハント』だの『エネミー・テリトリー』だのといったB級映画を撮っていた。(とはいえ私自身は、この時代の監督作品で見たことがあるのは、エンツォ・G・カステラッリと共同監督している、ルー・フェリグノ主演の”Sinbad of the Seven Seas”だけなんですけど)
 やがて2000年代に入ると、ティム・キンケイド監督は再びゲイポルノを、ジョー・ゲージ名義で撮るようになる。何本か見ましたが、70年代中頃から80年代前半にかけて作品に見られた、あの圧倒的なパワーと比較してしまうと、残念ながらお年を召されてしまったなぁ、という感じでした。
 そんな作品の中に、これは未見なんですが、2002年の”Closed Set: The New Crew”というのがありまして、ここで最初に出てきたコルトン・フォードが、メインスターでクレジットされてる。むむむ、こうなると、見てみたいという欲求が、ムクムクと頭をもたげてくるなぁ(笑)。
……という具合に、PVのエロさに興味を持って調べ始めたら、自然に話題が一周して繋がっちゃった。自分でもちょっとビックリです(笑)。

『映画秘宝』とか

Eigahiho 過日、雑誌『映画秘宝』さんからお声を掛けていただき、本日発売された2月号掲載の、通巻100号記念特集「オールタイム・ベストテン」に、アンケートで参加させていただきました。
『映画秘宝』さんには、以前も大西祥平さんのコーナーで、インタビューを載せていただいたことがありますが、うふふ、好きな雑誌からお声を掛けていただけるのは、やっぱり嬉しいものであります。
 ただまあ、テーマ抜きで今まで見た全ての映画の中からベストテンを選ぶってのが、こんなに大変なことだとは、今回やってみて初めて知りました(笑)。
 ゲイ映画ベストテンとかだったら楽勝だろうし、男責めシーンベストテンとかも簡単に決まりそう。でも、ジャンルレスとなると、ベスト3くらいはぱぱっと浮かぶんだけど、残りがもう、あーでもない、こーでもないとさんざん悩みました(笑)。
 ケン・ラッセルとかパラジャーノフとかコクトーとかヘルツォークとか、大好きな監督でも泣く泣く落としたものが多々あるし、今になって雑誌に掲載されたのを改めて見ると、やっぱコレは落として代わりにアレを入れりゃ良かったかもとか、けっこう悶々としちゃいますね〜(笑)。
 とゆーわけで、よろしかったらぜひお買い求めください。お近くの本屋さんでも売ってると思います。
映画秘宝2月号(amazon.co.jp)

『ベオウルフ』

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“Beowulf & Grendel” (2005) Sturla Gunnarsson
 八世紀頃に作られたとされる、古英語による英雄叙事詩『ベオウルフ(一般的には「ベーオウルフ」と音引きする)』を元にした、劇場未公開のエピック・ファンタジー映画。
 映画の原題が「ベオウルフとグレンデル」であるように、内容も、イェーアト族(スウェーデン南部に住んでいた部族で、現代で呼ぶところのバイキングの一種)の英雄ベオウルフが、デネ族(デンマークのバイキング)の国に赴き、そこを荒らしていた巨人グレンデルを退治するという、原典となった叙事詩の前半部分の内容のみを映画化したもの。

 全体的に地味な作りではありますが、多くはない予算の範囲内で無理をせずに組み立てているといった感じが、まず好印象。全体の雰囲気も、ファンタジーものというよりは、歴史ものを見ている感じに近いです。
 昨今の潮流とは異なって、特殊効果がCGIではなく特殊メイクどまりだというのが、何となく八〇年代のファンタスティック映画っぽい感じで懐かしい。反面、スケール感にはいささか欠けますが、元来が別にスペクタクルな大合戦とかがある話ではないし、控えめのセットとかも、逆に国家規模が巨大化する以前の、氏族単位の古代のムラのようで、却ってリアリティを感じさせるといった効果もあり。まあ、原典では「人が聞いたこともないような壮麗な館」なのに、それが映画だと「村一番の巨大居酒屋」程度に見える……ってな、マイナス効果もありますが(笑)。
 全体的には、地に足の着いた落ちついた感じがあって、そこいらへんの渋みはかなり良いです。
 フィヨルドや荒れ野など、自然の地形の美しさをたっぷりと取り込んだ絵作りは、そつなく美しく佳良ではありますが、プラスアルファの魅力にまでは至っていない。演出も同様で、良くも悪くも無難という範疇。

 モノガタリとしては、英雄叙事詩をストレートに描くのではなく、退治されるモンスター側に焦点を当て、なぜモンスターは退治されなければならないのか、英雄とはいったい何ぞや、といった具合に、現代的な視点による考察と再解釈を施しているタイプの作品になっています。
 結果として、モンスター映画的な悲哀は非常に上手く出ている反面、英雄譚的な高揚感には乏しい。また、英雄側の煩悶といったドラマが、それなりに触れられてはいるものの、もうひとつ突っ込み不足で描き切れていないので、ドラマ全体のエモーションが、モンスター側に偏り気味になってしまっている難はあり。
 神話や伝説的な世界を、現代的視点で解釈/再構築することで、そもそもの原典がもっていたはずのパワーが脆弱になってしまったり、世界が矮小化してしまうといった、この手のアプローチの作品につきものの弱点は、残念ながらこの作品でもクリアされていない。
 ただ、前述したようにモンスター的な「はみだしてしまった者の悲哀」は、実に良く出ていて、そこだけでも高く評価できます。ここいらへん、私はちょっとウルウルきちゃいましたし、ウチの相棒も、さかんに「かわいそうだ、かわいそうだ」とこぼしていました。

 モノガタリの構成などは、原典を全く知らない人には、いささか不親切かも。
 例えば切り落とされたグレンデルの腕を取り戻しにくる海の女怪は、原典ではグレンデルの母なのだが、映画では、彼女が何ものなのかという説明が、何もないのがビックリ。また、ラストで登場人物の一人が、旧約聖書のカインとアベルのエピソードを独りごつんだけど、これ、原典においてグレンデルが、カインの末裔であるとされていることを知らなければ(この設定は映画には出てこない)、かなり唐突な感じがするのでは。そこから、殺人者とは何だみたいな問いかけに、テーマが広がるのは面白いし、余韻も生んでいるんだけどね。
 こうみると、欧米における「ベーオウルフ」というのは、私が想像しているよりずっとポピュラーなモノガタリなのかも。

 以下、ちょっとネタバレを含みます。お嫌な方は、この段は飛ばしてください。

 で、実は海の女怪に関しては、個人的にかなり不満が大きい。
 説明がない以上は原典と同様に、これはグレンデルの母であると解釈するのが妥当なのだろうが、そうすると、この映画のオリジナリティーの根幹にある、父を殺されたグレンデルの哀しみと孤独という部分に抵触してしまうからだ。
 仮に母ではないにしても、このモノガタリを成立させるには、グレンデルに「仲間」を与えてはいけない。グレンデルの孤独に説得力があってこそ、彼がなぜベオウルフの部下のうち一人だけを狙いうちするのか、なぜフロースガール王は襲われなかったのか、そしてその後に酒に溺れるのかといった、この映画独自の「解釈」の部分や、被差別民的に阻害されてムラから追い出さた「魔女」と、グレンデルが情を通わせて子供ができていたとかいった、魅力的なオリジナル・エピソードが引き立つからだ。
 しかし、この「母」ないしは「仲間」の存在は、そういった、この映画のオリジナリティーとしての中心軸である、阻害された者の孤独や哀しみを軽減してしまい、更には、そこから生まれるエモーションをも薄れさせてしまう。
 映画オリジナル部分が、なかなか魅力的であるが故に、根本でそこを邪魔してしまう女怪の扱いが、個人的には大いに不満だった。いっそのこと、「海の女怪=グレンデルと魔女の間に生まれた子供」くらいの、大胆なアレンジにしちゃえば良かったのに……。

 ネタバレここまで。

 役者は、ベオウルフ役のジェラルド・バトラーは、私の個人的なご贔屓ではあるんですが(”Attila”の日本盤DVD発売を、未だに期待しているワタクシ…… 【追記】『覇王伝アッティラ』の邦題で、めでたく日本盤DVD発売)、前述したようにキャラクター的な造形が弱いせいもあって、いまいちこれといった個性や味わいに乏しいのが残念。
 フロースガール王役のステラン・スカルスガルドも同様で、存在感としての魅力はあれど、内面的なそれまでは至らず。
 魔女役のサラ・ポーリーは、なかなか佳良。本人のアウトロー気質と、役の立ち位置が上手く合致して、キャラクター的な魅力も深まっている感じ。
 グレンデル役のイングヴァール・E・シーグルズソンは、特殊メイクで素顔も良く判らない状態ながら、モンスターの悲哀をたっぷりと感じさせてくれる好演。キャラクターとしても魅力的で、モンスター映画ないしはモンスター役者として考えれば、これは見て損はないといった感じの、記憶に留めたいほどの出来映えです。

 映画全体の印象としては、幾つか惜しいポイントはあれども、骨太でチャラついたところがない、エピック映画の佳品という感じでした。
 スペクタクル性や映像的なワンダーを期待すると裏切られますが、神話好き、叙事詩好き、渋めのファンタジー映画好き、あと古き良きモンスター映画好きなら、見て損はないのでは。
『ベオウルフ』DVD (amazon.co.jp)
 原典に興味のある方は、こちらもオススメ。
『ベーオウルフ』(岩波文庫・新訳版)
 さて、今度公開されるロバート・ゼメキス版の『ベオウルフ/呪われし勇者』は、どんな感じなんでしょうねぇ?
 予告編を見る限りだと、アクション映画風味のヒロイック・ファンタジーって感じで、あんまり硬派ではなさそうだけど(笑)。
 あと、3DCGのキャラが、あまりにも元になってる俳優さんにそっくりなもんだから、技術的にスゴイとは思いつつも、でも「だったら何で3DCGでやるの?」と、ついつい思ってしまうなぁ。3DCGアニメーションのキャラクターは、基本的に「人形」であるべき、と考えている自分としては、なんかビミョ〜な映像でした(笑)。

『パンズ・ラビリンス』

『パンズ・ラビリンス』(2006)ギレルモ・デル・トロ
“El Laberinto del fauno” (2006) Guillermo del Toro
 ご贔屓のギレルモ・デル・トロ監督の新作、期待に違わず良い出来で大満足でした。絵は美しくって不気味で、モノガタリは悲しくって切な嬉しい……って書くと、何じゃそりゃって感じですが、そーゆー多面性を持った内容だった、ってこと。
 個人的に最大の収穫は、ファンタジーにおける幻想の自立性が、完全肯定されていることかな。「少女と幻想世界」を扱った映画というと、『千と千尋の神隠し』とか『ローズ・イン・タイドランド』とか『狼の血族』とか、けっこういろいろ思い浮かびますが、この映画における幻想世界の扱われ方は、それらのいずれとも違っていた。
 例えば、『千と…』では、あれだけ魅惑的な幻想世界が描かれながらも、最終的には現実の優位性が何の疑問もなく肯定されたし、『ローズ…』では、幻想世界はあくまでも個の内面の所産という枠をはみ出さず、これまた現実世界の優位性が基盤にあった。『狼の…』だと、いっけん『ローズ…』と同じに思わせておきながら、最後の最後にそれがまるごとひっくり返り、現実が幻想に呑み込まれるという逆転劇を見せてくれたけど、それでも現実と幻想が相反して拮抗して存在しているという構図があった。
 でも、この『パンズ…』では、幻想と現実が互いに干渉せずに、最後まで互いに完全に自立している。「母親の産褥を癒すマンドゴラ」とか、「どこでもドアみたいなチョーク」とか、現実と幻想が重なり合う要素もあるんだけど、それが「どちらにもとれる」というスタンスが崩れないのが偉い。ここいらへんの上手さは、ちょっと『となりのトトロ』の前半部分を思い出しましたね。
 で、『パンズ…』の主人公の少女は「幻想」を信じていて、他の人々は「現実」を信じている。それぞれ「信じている者」にとって「信じているモノ」が真実で、その二つ、つまり幻想と現実が、対比することはあっても対立はしていないのがミソ。パンフレットのインタビューで、監督が「現実とファンタジーがパラレルに存在」と答えているけど、まさにその通りで、しかもそれが実に巧みだった。
 そして、モノガタリの最後は、その信じたモノによって、ハッピーエンドでもあり悲劇でもありうるという、多面性を生み出している。個人的には、最後まで幻想を信じることができた少女にとっては、これはハッピーエンドだと考えてあげたい感じですね。
 前述の監督インタビューによると、監督自身は「ファンタジーは現実逃避ではない」と言っていますが、にも関わらずこのモノガタリの幻想は、それでも現実逃避としても解釈できるのが、これまた上手い。で、しかも現実の残酷さが手加減ゼロの容赦なしで描かれるので、それゆえ仮に幻想が現実逃避の所産であったとしても、それは必要なものであると思えるのがスゴい。
 まあ、これはファンタジーに対する考え方がどうであるかによって変わってくるとは思いますが、トールキンのファンタジー論の薫陶を受けた自分としては、かなりジーンときましたね。すくなくとも私は、この少女に向かって、無責任に「現実を見ろ」とは言えない。
 幻想の自立性をはっきりと肯定できるという点、つまり一般の現実的な規範とは無関係に、自分の信じる価値観を肯定できるという意味で、なるほど、ギレルモ・デル・トロがオタク監督と呼ばれるのも納得がいくし、かといって現実的な価値観に背を向けてしまうのではなく、よりニュートラルで客観的な視点も並列して盛り込める点が、作品の懐を深くしている感じ。
 前に、『デビルズ・バックボーン』の感想を書いたときに、この監督のことを「良く言えばバランスの良い、悪く言えば暴走をも恐れないパワーには欠ける作家なのかもしれない。それが魅力であり、同時に良い意味での逸脱を阻む限界なのかも」と書いたけど、今回の『パンズ…』では、そういった特徴が全てプラスに作用した感が大です。
 文句なしに、今年のベスト5には確実に入る良作。(年によってはベスト1でもいい感じなんだけど、今年は『300』『パフューム』『ブラックブック』と、個人的な「当たり」が連発なので……)
 俳優の印象とかを書くのを忘れてました。
 ヒロインのイバナ・パケロちゃん、意志が強そうなところがいいですな。当初の脚本で想定していたよりも年上で、それに合わせて脚本を直したそうだけど、このくらいの年なのが却って吉とでた感じ。あまり年少だと、現実と空想の区別がつきにくい印象を与えてしまって、少女の信じる幻想が、実は空想であるように見えてしまうといった感じに、比重が偏ってバランスが崩れてしまいそう。ある程度の分別は期待出来そうな少女だからこそ、ラストの美しさと切なさに説得力が増している感じ。
 悪役のセルジ・ロペス。ぶっ殺してやりたいようなヤツなんだけど、不思議と人間くさい魅力もある。ここいらへんのキャラクター造形の巧みさが、毎度ながらデル・トロ監督の上手さですな。あと、ルックスやら体格やら毛深さやら、けっこうイケるタイプだな〜、なんて映画見てて思ってたんですが、これ書くために役者名を確認したら、思い出した。前にここで、「なかなか可愛い」と、しっかりチェック済みでした(笑)。
 音楽のハビエル・ナバエテは、『デビルズ・バックボーン』と同じ。デル・トロ監督がハリウッドで撮るときに組んでいるマルコ・ベルトラミのスコアとかもそうなんですが、哀切なメロディーと重厚なストリングスによる、重くてシブい好スコア。ただ、『デビルズ…』のスコアの激シブさに比べると、今回はメイン・モチーフになっている子守歌のメロディーがキャッチーなぶん、もうちょっと情感に訴えかけてきやすい感じ。もちろんサントラ盤を購入しました。聴いてると泣けるんだ、これが。

自分のダイモン調べてみました

Arphenia 来年の公開が今から待ち遠しい映画『ライラの冒険 黄金の羅針盤』。公式サイトを覗いてみたら「あなたのダイモンは?」なんてのがあったので、ホクホク喜んでやってみたら……こんなん出ました。なんかカッコイイのが出たんで、ちょっと嬉しい(笑)。
 映画本編の方も、予告編を見た限りでは、美術良し、スケール感良し、画面に重厚感あり、クリーチャー無問題と、かなりいい感じですな。
 キャストも、コールター夫人/ニコール・キッドマンとセラフィナ・ペカーラ/エヴァ・グリーンってのは、最初にキャスティングを聞いたときから「グッジョブ!」って感じだったし、アスリエル卿/ダニエル・クレイグってのは、聞いたときはちょいと線が細くないかなんて思いましたが、後に『カジノ・ロワイヤル』のヌードシーンを見たら、もうぜんぜんオッケーに(笑)。ライラ/ダコタ・ブルー・リチャーズは、本編を見るのが楽しみ。あと、予告編を見ると、クリストファー・リーも出てるのね。IMDbによると、ボレアル卿の役……って、どんな人だっけ、覚えてないや(笑)。
 そして、一番ビックラこいたのは、ご贔屓にして最大のお楽しみだったイオレク・バーニソンの声が、イアン・マッケランだってこと。ちょいと声がオジイチャン過ぎやしないかって気がしなくはないですが、改めて考えてみると、外見が白熊で中身がイアン・マッケランって、ひょっとしたら私にとっては理想かも(笑)。