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Simeon Ten Holt “Canto Ostinato” 二種

 最近、オランダ生まれの現代音楽家、シメオン・テン・ホルトの「カント・オスティナート」という曲がお気に入りで、良く聴いています。
 どんな曲かというと、叙情的で美しいミニマル・ミュージックといった感じ。
 ホルトは、1923年生まれで、ダリウス・ミヨーやアルテュール・オネゲルに師事したというので、世代的には、フィリップ・グラスやスティーブ・ライヒよりは上なんですが、70年代にミニマル・ミュージックに影響を受け、この「カント・オスティナート」のような作風に変化したとのこと。
 というわけで、フレーズの反復という意味では、確かにミニマル・ミュージックなんですが、曲自体の印象は、ロジカルでゴリゴリのミニマリズムというわけでもなく、どちらかというと、マイケル・ナイマンやウィム・メルテンのピアノ曲のような叙情性が前面に出ている感じで、ポスト・ミニマル世代の音楽に近いような感じがします。
 いささか乱暴に表現しますと、ライヒとナイマンの中間的な味わい、といったところでしょうか。
 私が購入して、最近ヘビーローテーションなCDは、以下の二枚。

Canto Ostinato Simeon Ten Holt “Canto Ostinato”
<2台(4手)ピアノ版>

 何でもオランダでベストセラーになったアルバムだそうで、確かに、中盤以降のナイマンの「ピアノ・レッスン」なんかを思い出させるセンチメンタルな旋律なんかは、かなり広い層にアピールできそうなキャッチーさを感じます。
 そのパートが、こちら。

 曲の序盤は、ここまで感傷的ではなく、もうちょっとタイトな感じで始まります。
 繰り返されるシンプルなフレーズは、まるでさざ波のように拡がっていき、そこに音の強弱によるダイナミズムなどが加わって大きなうねりとなり、反復のもたらす酩酊的な快感と叙情的な美しさが一体化して、曲全体がたゆとうような美しさに包まれる。
 美麗なピアノ曲として聴いても良し、アンビエントやニューエイジ的に愉しんでも良し。静かで美しい曲が好きな方にはオススメの好盤。
 もう一枚は、こちら。

Simeon Ten Holt: Canto Ostinato Simeon Ten Holt “Canto Ostinato”
<ハープ独奏版>

 曲は同じなんですが、ピアノに比べて音の残響が長いことと、音の強弱によるダイナミズムが弱いこともあって、こちらの方がより静かで内省的な印象を受けます。
 また、ハープの音色が典雅なせいか、何だか、古代の秘教儀式で奏でられる音楽ってこんな感じかしらん、みたいな神秘性も感じられたりして、アンビエントや瞑想的に愉しむのなら、こっちのハープ版の方が良いかも知れません。
 ハープ版のサンプルは、こちら。

 ダンス・パフォーマンスの映像ですが、音楽が「カント・オスティナート(ハープ版)」なので、ピアノ版との雰囲気の違いは掴めるかと。
 どちらにせよ、美麗なことに変わりはないので、「夢見るみたいにキレイな音楽を聴きたい!」という方は、ぜひお試しあれ。

“Ney Nava” Hossein Alizadeh

NeyNava/Song of Compassion “NeyNava / Song of Compassion” Hossein Alizadeh

 ”Nay Nava”は、ペルシア音楽の大物、ホセイン・アリザーデが、1983年に発表した、ネイ(ペルシアやトルコの葦笛、ナーイとも)と西洋楽器のオーケストラのために書かれた、いわば「ネイ協奏曲」。
 民族音楽的なメロディと西洋的な和声が融合し、時にもの悲しく時に壮大に展開していく、5楽章からなる大曲。ネイはスーフィズムで良く用いられる楽器でもあり、実際この曲もそういったモチーフに基づいているので、ドラマティックだけれど内省的な雰囲気があります。
 基本のメロディにアジア的な「泣き」があるので、聴いているとエモーションに訴えかけてきて、しかも実に美しい。
 まあ論より証拠、下のYouTubeクリップでご確認あれ。”Ney Nava” から”Overture”です。

 カップリングの”Song of Compassion”は、ぐっとペルシア音楽寄りの作品。
 ”Ney Nava”は西洋オーケストラ+民族楽器のソロでしたが、こちらは全てペルシアの民族楽器によるもので、”Ney Nava”では使われていなかった微分音も出てきますし、歌も入っている。打楽器もふんだんなので、民族音楽のざらついた音色とも相まって、グッとエネルギッシュな雰囲気。
 ペルシア音楽に馴染みがないと、ちょっと音階とかが不思議な気がするかも知れないですが、いったん好きになると病みつきになるので、よろしかったらぜひお試しあれ。

すみや渋谷店、今月いっぱいで閉店

 映画サントラ専門店の老舗で、実店舗閉店後も楽天市場やYahoo!でネット店舗を展開していた、すみや渋谷店が、今月いっぱいで閉店するそうです。
 今までもこのブログで、アマゾンやHMVでは取り扱いのなかった、珍しいサントラ盤を紹介する際に、何度かリンクを貼らせてもらっていただけに、この閉店は残念な限り。
 すみやさんと言えば、私は個人的に、けっこう長い思い入れがありまして。
 というのも、まず、私の実家は鎌倉なんですが、現在はもうなくなってしまいましたが、昔、小町通りの入り口のところに、このすみやさんの支店がありまして、私にとっては、レコードを買うと言えば、まずこのすみやさんだったんですな。
 だから当然、生まれて初めて自分の小遣いで買ったレコードも、すみや鎌倉店で買ったもの。因みに、初めて買ったシングル盤は、「セクシー・バス・ストップ」(オリエンタル・エクスプレス版のほう)、LPは、カーペンターズの「ふたりの誓い〜カーペンターズ第三集」だったような。
 自分の小遣いで買った以外のクラシックのレコードも(ウチはクラシックだったら、親に頼めば買って貰えたんです)、ジャン・マルティノン&パリ管の「ダフニスとクロエー」とか、エルネスト・アンセルメ&スイス・ロマンドのストラヴィンスキー各種とか、ゲオルグ・ショルティ&ウィーン・フィルの「ニーベルングの指輪」(もちろん抜粋版ですよ)とか、お気に入りだったヤツは、ほとんどここで買って貰ったもの。
 それと、このすみや鎌倉店では、何に数回、輸入盤のセールをしてくれたんですな。
 普段は輸入盤は置かれていなかったんですが、このセールのときには、店の奥のスペースにダンボール箱が幾つも並べられて、そこでカットアウト盤なんかが安価に売られていた。
 私が輸入盤を買い出した頃は、既に興味がプログレに移っていたもので、私がアナログ盤で持っているのは、イエスにしろピンク・フロイドにしろキング・クリムゾンにしろEL&Pにしろ、たいがいはそのとき買ったカットアウト盤だったりする(笑)。
 やがて、興味がプログレからテクノ、ニューウェーブ、現代音楽などに移った頃は、私も大学に入っていたので、レコードの購入はもっぱら、自宅から大学のある八王子(正確には、私の場合は橋本ですが)への通学途中、横浜で下車して相鉄ジョイナス内の新星堂とかを利用するようになりましたが、それでも、まだ高校在学時代に買ったYMOのファーストとセカンドなんかは、やっぱりこのすみや鎌倉店で買ったもの。
 で、すみや渋谷店の方はというと、これはサントラ盤の専門店として、高校ぐらいの頃から、たまに利用していました。
 私、実は高校はあまりマジメに通っていなくて(笑)、朝、学校へ行って出席をとった後、そのまま学校を出て、駅のトイレで私服に着替えて、そのまま電車で東京方面へ行き、名画座のハシゴなんかして映画を3〜4本見たあと、鎌倉に帰っても高校には戻らず、そのまま美大予備校の方に直行……なんてことを、ちょくちょくやっておりまして。
 で、そんなついでに、すみや渋谷店に寄ることもできたので、確か国内盤が出ていなかった「ダーク・クリスタル」や「狼の血族」のサントラなんかは、そのとき買ったように記憶しています。
 まあ、サントラ盤に関しては、私は基本的に、見たことのある映画のものしか買わないので、売り上げという点では、すみや渋谷店さんにはあまり貢献できていなかったとは思います。
 それでも、本にしろCDにしろ購入はもっぱらネットで、というライフスタイルになってからも、マイナーどころのサントラ盤を購入するには、そこそこ利用させていただいていましたし、すみや渋谷店さんのメルマガのおかげで、限定盤を無事に購入することができたなんてことも、少なからずありました。
 そんなこんなで、今回の閉店のお知らせは、個人的に実に残念なんですが、それでも、在庫があるものと2月中に入荷するものに関しては、まだ販売・発送を受け付けておられますし、在庫のクリアランスセールも開催中とのことなので、サントラ好きの皆様、この機会にぜひどうぞ。
すみや渋谷店(楽天市場)

“The Celtic Viol” Jordi Savall

The Celtic Viol “The Celtic Viol” Jordi Savall

 スペインの古楽系音楽家、ジョルディ・サヴァールが、古楽器ヴィオル(ヴィオラ・ダ・ガンバ、ジャケ写のヤツ)でケルト音楽を演奏したもの。
 アンサンブルは、サヴァールのヴィオルと、アンドリュー・ローレンス=キングという人のアイリッシュ・ハープとプサルテリウム(やはり古楽器で、ハンマーダルシマーやサントゥール系の打弦楽器らしいです)のみという、シンプルなもの。
 アカデミックな人の演奏だけあって、素朴さは残しつつもフォークロリックな荒さはなくて、とても洗練されていて典雅な味わい。全体の感触は、やはり古楽のそれっぽい感じですが、そこにトラッド的な郷愁感が加味されていて、聴いていてかなりウットリ。
 トラッド好きには、お行儀の良さがいささか物足りなく感じられるかも知れませんが、古楽風のアプローチによるトラッドという意味でで、例えば、ジョン・レンボーンの”The Lady and the Unicorn”なんかがお好きな方は、ぜひお試しあれ。
 古楽やトラッド云々を抜きにしても、アコースティックで落ち着いたインストゥルメンタルとしても実に美麗で、しかも内省的な雰囲気もあるので、ECMとかが好きな方にもオススメ。
 カタルーニャの修道院で録音されたという、楽器の音色の良さも特筆もので、繊細な響きの美しさや、そのリアルさには、思わず息をのみます。

 因みに、同じ曲をベテランのトラッド/フォークバンド、The Dublinersが演ると、こんな感じになります。

The Best of the Original Dubliners The Best of the Original Dubliners
価格:¥ 1,437(税込)
発売日:2004-04-13

最近のBGM

 ここんところは、「民謡要素の入ったクラシック」を、良く聴いております。
 まずは、ロシアもの。

Glazunov: Complete Orchestral Works Vol 4 / Krimets, Moscow アレクサンドル・グラズノフ「交響詩 ステンカ・ラージン、他」
クリメッツ/モスクワ交響楽団

 グラズノフは「四季」しか聴いたことなかったので購入。
 お目当ての「ステンカ・ラージン」は、てっきり同題の民謡を元にしているのかと思っていたら、いざ聴いてみたらそうじゃなくて、同じロシア民謡でも「ヴォルガの舟歌」が元でした。
 で、あのメロディが重厚にオーケストラで鳴り響くと、もうカッコイイのなんのって! もう一つのメロウでロマンティックな主題との対比も良いし、幕切れの盛り上がりもスゴい。いやぁ、すっかり気に入っちゃった(笑)。
 同時収録曲も、「スラヴの祝日」は民族味タップリで実に好み。「祝典の行列」「マズルカ」の優美さ、「幻想曲 暗闇から光明へ」のドラマティックさ、「ロシアの主題による行進曲」の清々しさ、いずれもなかなか。
 次は、アメリカ。

Roy Harris: Symphony No. 3; Symphony No. 4 'Folk Song Symphony' ロイ・ハリス「交響曲第四番 民謡交響曲、他」
オールソップ/コロラド交響楽団

 初めて聴く作曲家。近代アメリカで「民謡交響曲」というタイトルに惹かれて購入。
 交響曲と銘打ちながら八部構成だったりするので、どちかっつーと組曲っぽい味わい。「駅馬車」や「ジョニーが凱旋する時」といった、耳に馴染みのあるアメリカ民謡による主題が、オーケストラとコーラスで展開していきます。
 良く聴くと、けっこう複雑なことをやっているんですが、元となる民謡の味わいである、素朴な美しさは良く活かしているのが好感度大。ただ、繊細なオーケストレーションは魅力的なんですが、いささか品が良すぎる感じはあり、アーロン・コープランドのテンションとか、ウィリアム・グラント・スティルの情熱とか、そういった押しの魅力には、ちと欠けるのが残念。何となく、どっちつかずという感じで、ちょい退屈してしまう部分もあり。
 同時収録の「交響曲第三番」は、やはりフォークロリックな要素はあるんですが、それよりも現代的な和声の美しさとかの方が印象的。ゆったりとした導入部から、目まぐるしいけど優美な展開に移行していく面白さなどもあって、個人的にはこっちの方が好み。
 最後に、アイルランド。

An Irish Rhapsody: The Music of Bax, Moeran, Stanford, Harty ハミルトン・ハーティ、チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォード、アーノルド・バックス、アーネスト・ジョン・モーラン「アイリッシュ・ラプソディ」
トムソン、ハンドリー/アルスター管弦楽団

 前に「名曲アルバム」で、スタンフォードの「アイルランド狂詩曲」からの抜粋を聴き、印象に残っていたので、ちゃんと聴いてみようと探して見つけたCD。
 スタンフォード、バックス、ハーティ、モーランという、アイルランド人およびアイルランドに傾倒したイギリス人の、四人の作曲家(後者二名は、このCDを買うまでは知りませんでしたが)の作品から、アイルランド民謡などの要素が強い作品を幾つか収録(抜粋も含む)した企画盤……というか、シャンドス・レーベルのサンプラー盤というか。スタンフォード以外は、いずれも初体験の作曲家。
 でまあ、これが実にヨロシイ。一曲目のハーティ「ロンドンデリー・エア」から、早くも郷愁を刺激されて涙腺ウルウル。ハーティは他にも、「アイルランド交響曲」から第二楽章と第三楽章を収録。スタンフォードは「アイルランド狂詩曲四番」と「交響曲第三番 アイリッシュ」から第二楽章。バックスは「妖精の丘に」と「ロスカーサ」。モーランは「山国に」を、それぞれ収録。
 まあ、どれもこれも、いかにもアイルランド民謡的な、郷愁を誘う旋律や雄大な展開に加え、バックスの視覚的なオーケストレーションの巧みさ、スタンフォードのテンコモリのドラマティック感、ハーティやモーランの素朴な美しさ……などなど、お楽しみどころが目白押し。映画音楽好きの方、ぜひお試しあれ。
 これで1000円しないんだから、我ながら入門盤としてはベストなチョイスだったわい、とホクホクです(笑)。

謹賀新年

 明けましておめでとうございます。

 元旦に相応しく「越天楽(今様)」の主題をもとに、管弦楽系の変奏曲を作ってみました。
 中央の三角形をクリックすると、音楽の再生が始まります。徒然のお慰みにどうぞ。
 再生用Flash mp3プレイヤーは、 mixwidgetを使用。
 音楽の制作は、基本となる打ち込みをGarageBand、ブラッシュアップとミックスダウンをLogic Expressで制作。
 使用音源は、主にJam Pack Symphony Orchestra(Apple)。部分的に、Miroslav Philharmonik(IK Multimedia)とJam Pack World Music(Apple)を併用。

『戦場でワルツを』

『戦場でワルツを』(2008)アリ・フォルマン
“Vals Im Bashir” (2008) Ari Folman

 1982年、イスラエルのレバノン侵攻に従軍しながら、その当時の記憶がない主人公(監督自身)が、その記憶を取り戻すために、当時を知る様々な人々にインタビューしていくというドキュメンタリーを、実写ではなくアニメーションという手法を使って描いた作品。
 公式サイトはこちら

 いやぁ、スゴかった……。
 あちこちで話題になっていた作品でもあるし、私自身、町山智浩さんが紹介していたのを聞いて以来、期待もしていたし、あれこそれ想像も巡らせていたんですが、それらを遥かに上回る内容でした。
 基本的にこの映画は、パーソナル・ヒストリーを描いたドキュメンタリーです。
 邦題に「戦場」とあるように、確かに戦争という状況下の出来事を描いたものではありますが、監督の視線は、戦争というシステム自体の様相を描くのではなく、あくまでもそれを、その中に組み込まれていた個としての目線で見ている。
 この軸は、一貫してぶれることはなく、よって、戦争および戦場のあらましを含めた全てのエピソードは、徹底的に主観として描かれています。
 一例を挙げると、取材対象であるインタビューイたちの映像は、アニメーション的な自由さとは全く無縁の、実写的で地味な映像(しかし同時に、対象との心理的な距離感に応じて、映像的な「色気」も変化するという細やかさ)で描かれます。
 対して、彼らの語りから呼び起こされた記憶や、その語りによって聞き手(主人公である監督)の脳内に再生された光景は、例えそれが現実に起こった出来事であるとは言え、表現としては、いかにも映像作家らしい奔放な、時として華麗なまでのイマジネーションを伴って描かれる。
 そして、こういった徹底した主観表現によって、描き出されたものは、逆に個を越えた普遍的なものへと到達し、しかも最後には、それらが主観から客観へと、鮮やかに転じる。
 これはつまり、個人の内面を掘り進めた結果が、より汎的かつ普遍的な価値観へとつながり、同時にそれが、社会的な意義にも繋がっているというわけで、いわば芸術作品として超一級の出来映えと言える内容。
 にも関わらず、晦渋さや自己満足的な閉塞感は全くない。それどころか、ミステリー的な構造や、前述したような映像表現、そして、巧みな音楽の使い方などによって、娯楽作品的な要素も兼ね備えている。加えて、絵とは何か、実写とアニメーションの違いとは何か、といったメディア特性をしっかりと把握しながら、同時にそれを完全に生かし切っている。
 いや、お見事、素晴らしい!

 作品制作のスタンスが、前述したようなパーソナル・レベルに基づくものなので、レバノン侵攻自体が何であったのかとか、その是非や功罪を検証したいといったような、政治的な興味が主で見てしまうと、ちょっと物足りなかったり、不満な部分もあるかもしれません。
 しかし、そういったことを期待するのなら、それこそ本の一冊でも読むか、あるいはテレビのドキュメンタリー番組を見たほうが良いでしょう。前述したように、この映画の本質は、地域や社会を限定した特定の戦争自体を描くことではないのだから。
 この映画で真に刮目すべき点は、特定の戦争を個の視点のみで描きつつも、いつの時代どこの場所の戦争でも変わらない普遍性を獲得し得ているということ、そしてそれを、優れた映像芸術として表現し得たこと、この二点に尽きます。
 ただ、鑑賞にあたっては、多少なりともレバノン内戦に関する知識がないと、判りづらい部分があるかも。
 最小限、そもそもレバノンはキリスト教徒とイスラム教徒が共存してバランスを保っていた国家だということと、そこにパレスチナ難民が流入したことでパワー・バランスが崩れ、内戦状態に突入したということ、主人公の属するイスラエル軍は、キリスト教徒側の支援のために内戦に介入したということ、くらいは知っておいた方がよろしいかと。
 でも、さほど難しく構えなくても大丈夫。
 タイトルにもなっているバシール(原題は『バシールとワルツを』)という人は、レバノン国内のキリスト教徒側勢力、ファランヘ党の若きカリスマ指導者で、イスラエルのバックアップによって、レバノン大統領に就任した人物らしいですが、私自身、このバシール・ジェマイエルという人に関する知識はなかったけど、そこいらへんのあらましは、映画を見ているだけでも見当がつきましたから。
 まあ、それでもこういう内容の映画は、背景の理解度が深ければ深いほど、映画の理解度は深まりそうではあります。
 因みに私個人は、一昨年にドキュメンタリー映画『愛しきベイルート/アラブの歌姫』を見て、「ひゃ〜、レバノン内戦って、こんなヤヤコシイことだったのか」なんて感じたことが、状況を理解するための助けになった部分があったので、興味のある方はご覧になってもよろしいかも。DVDも出てますんで。

 でも、背景説明ではなく、映画の内容自体に関しては、これは絶対に余分な知識はない方がいいと思います。
 ストーリーとかに関しては、下調べしたりせず、できるだけフラットな状態で見るのがオススメ。
 いやはや、それにしても、今年も暮れになってスゴいのを見ちゃったなぁ……って気分。
 まだちょっと、打ちのめされてる感じだなぁ。
 自分にとって、今年のベストワンはこれかも。

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『私は自由な鳥のように空高く舞い上がる(Panchhi Banoon Udti Phiroon)』という歌のこと

 先日、スーダンのカセットテープについて書きましたが、あんな具合に我が家には、あちこちの国へ行ったときに買ってきたカセットがけっこうあります。
 そんな中にはかなりお気に入りの音楽もあり、なんとかCDで再ゲットしたい曲(やアルバム)もいっぱいあるんですが、これがなかなかそうはいかない。ほとんどは、未だCDでは見つけられないままです。
 ただ、中には幸運にもCDを見つけることができたものもあり、特に、インターネット時代になってからは、そういったチャンスもより増えてきた感じです。
 というわけで今回は、そういった幸運な例の中でも、特に順調にいったケースのお話しをば。
 それが、タイトルに書いた”Panchhi Banoon Udti Phiroon”という歌。

 最初の出会いは、インドで買ったこのカセットテープ。
panchhi_cassette
 国の東西を問わず、古めの歌謡モノが大好きな私は(というのも、40〜50年代の流行歌って、わりとどこの国でも、伴奏のアンサンブルが大規模で、アレンジも凝っていたり、曲も優美なものが多いので)、このジャケットを見たとたん「これは懐メロものだ!」と判断して即購入したわけです。
 当時の私は、インドの歌謡曲が映画音楽だということは知っており、有名な吹き替え歌手であるラター・マンゲーシュカルのCDなんかを、日本で買って聴いてはいたものの、インド映画そのものの知識は全くなかったので、このカセットの「ナルギス」さんが、インド映画の往年の大スターだと知ったのは、ずっと後のことでした。
 で、このカセットの一曲目が、件の”Panchhi Banoon Udti Phiroon”という歌で、もうイッパツで気に入ってしまいました。

 それからしばらく後。
 例のカセットテープには、ちゃんと曲のクレジットがあったので、件の曲を歌っているのはラター・マンゲーシュカルで、”Chori Chori”という映画の曲だということは判っていました。
 以来、日本で輸入販売されているラターのCDを見つけるたびに、この「パンチ・バヌーン・ウドゥティ・ピルーン」(意味なんて判らないので、そう音で覚えていた)が入ってやしないかと探していたんですが、なかなかそう上手くはいかず。ラターのベスト盤やインド映画の挿入歌集は、当時けっこう売られていたんですけど、そういったものの中には見つけられなかった。
 そんなときに見つけたのが、このCD。
panchhi_cd
 確か、渋谷か六本木のWAVEだったと思うけど、インド音楽のコーナーで、件の”Chori Chori”のサントラCDを発見しました。もう、舞い上がって喜びましたね(笑)。

 さて、普通ならここでオシマイなんですけど、この曲の場合は、まだ続きがあります。
 やがてインターネットで海外通販とかをするようになり、インド映画のDVDなんかも入手しやすくなりました。
 となると、この曲が使われている映画”Chori Chori”なんかも、やっぱちょいと探してみたりして、そしたらちゃんと見つかったりして。
panchhi_dvd
 これは確か、米アマゾンにあったんじゃなかったっけか。
 というわけで、目出度く映画の方も鑑賞できて、それが英語字幕付きだったもんだから、件の「パンチ・バヌーン・ウドゥティ・ピルーン」と覚えいていた曲名が、「私は自由な鳥のように空高く舞い上がる」という意味だということも判ったし、カセットのジャケ写にあった美麗なナルギス嬢も、動く映像で堪能できたというわけです。

 旅の想い出でもある、個人的に愛着のある大好きな一曲が、こうして音も映像もソフトをゲットできたというのは、この曲の他にはまだ例がありません。
 因みに、その映画”Chori CHori”で、この”Panchhi Banoon Udti Phiroon”が歌われるシークエンスは、YouTubeにもありました。
 ご参考までに、下に貼っておきます。

 いい曲でしょ?

アブデル・アジズ・エル・ムバラク(Abdel Aziz El Mubarak)のこと

 ひゃ〜、YouTubeにアブデル・アジズ・エル・ムバラクのLive映像があった〜!
 も〜、チョ〜嬉しい!
 でも、埋め込み無効なのでリンクのみ。
http://www.youtube.com/watch?v=1fkeQ3e_8EY
 同じ曲のMTV版は埋め込み可だったので、それは貼っておきませう。

 CDは、私の知っている限り2枚出ていたはずですが、この曲の入っている方は、どうやら廃盤みたい。でも、iTunes Storeにはありました。
http://itunes.apple.com/album/straight-from-heart/id308713751
 YouTubeのビデオの曲は、トラックナンバー2の”Laih Ya Galbi”。
 もう一枚(完成度から言うと、こっちの方が上だと思う)は、まだアマゾンにもありました。

Mubarak Abdel Aziz El Mubarak “Abdel Aziz El Mubarak”

 さて、この人はスーダンの歌手なんですけど、何とCLUB QUATTROで来日公演もしていおりまして、当時、もう大喜びで行ったもんです。
 同じスーダンのアブデル・ガディール・サリムと一緒で、しかもサプライズで江州音頭の桜川唯丸も出てきたもんだから、身悶えするほど喜んだっけ。似たパターンで、ユッスー・ンドゥールのLiveに行ったら坂本龍一が出てきたこともありましたが、この時の方がずっと嬉しかったなぁ(笑)。
 今となっては、バブルは何かと批判されがちですけど、当時いくらワールド・ミュージック・ブームとはいえ、その中ではマイナーな方だった人の来日公演があったんだから、やはり経済的なゆとりというものは、文化的なゆとりにも直結しているよなぁ……なんて、改めて思います。
 そういや、だいぶ長いことLiveにも行ってないなぁ。最後に行ったのは、やっぱCLUB QUATTROに、World’s End Girlfriendを聴きにいったときかも。もう何年前だ(笑)?

 さて、この人のおかげで、私はスーダン音楽にすっかりハマってしまいまして、以来、CDにスーダンと書いてあれば何でも買う状態。そうそう見つからないのが悲しいけど。
 で、スーダンには行ったことがないんですけど、エジプトに行ったときに、アスワンでスーダンのカセットテープを売っていまして。もう、大喜びで買って、ホクホク顔で宿に戻ったら、宿のオヤジに「何を買ったんだ?」と言われて、買ってきたカセットを見せたら、「スーダンばっかじゃないか、なんでエジプトの音楽を買わないんだ!」と怒られましたっけ(笑)。
Cassette_sudan
 これが、そのとき買ったカセットなんですけど、改めて見ると、下段の左から2つめは、スーダンじゃなくてエジプトのヌビア音楽かも。
 アブデル・アジズ・エル・ムバラクの映像は、他にももうちょっと最近っぽいのが、幾つかYouTubeにありましたが、髪がだいぶ薄くなったのはともかく、声の艶がやっぱだいぶ衰えたかな、という感じ。
 とはいえ、スーダンの音楽産業は内戦で壊滅してしまったと聞いた覚えがありますし、映像の収録がいつなのかは判りませんが、元気でまた歌う姿を見られただけでもホッとしました。

最近のBGM

 相変わらずのクラシック系ではありますが、ここ数日、ちょいと近代から現代寄りに、聴きたい気分が移動しつつあります(笑)。

cd_moslov_zavod アレクサンドル・モソロフ『交響的エピソード 鉄工場、他』
スヴェトラーノフ/ソビエト国立交響楽団、他

 ロシア・アヴァンギャルドの作品として名高い、モソロフの「鉄工場」を聴きたくて購入。同時収録は『組曲 兵士の歌』『ピアノ協奏曲第1番』『チェロ協奏曲第2番 エレジー』。(アマゾンではこのCDは扱っていないようなので、リンク先はHMVのサイトになってます)
 件の『鉄工場』は、約3分と短い曲ながら、ガンガンと重いファッショなまでの猛烈なエネルギッシュさが、もう圧倒的にカッコイイ! ゲルニカや上野耕路が好きな人だったら、ハマること間違いなしでは。YouTubeにあったので、下に貼っておきます。是非お試しあれ。
『ピアノ協奏曲第1番』も同様で、第1楽章のバーバリズム的なカッコよさがサイコーなので、しかも展開が『鉄工場』よりずっと複雑なので、こっちはプログレ好きにもオススメしたい感じ。
 CDではこの二曲が、素朴な民謡のような『兵士の歌』と、美麗でセンチメンタルな『チェロ協奏曲第2番』という、とても同じ人が書いた曲とは思えないような、アヴァンギャルドのアの字もない2つの曲でサンドイッチされた構成になっています。
 その余りのアンバランスさが不思議だったので、ググってみたところ、モソロフは当初はアヴァンギャルドな作風だったものの、スターリン体制下で反ソビエト的との批判を受け、作風の変更を余儀なくされたうえに、それでも結局は強制労働に送り込まれてしまうという、悲劇的な運命を辿った作曲家なんだそうな。Wikipedia(日本語)
 う〜ん、それを踏まえてこのCDを聴いていると、何ともやるせない気持ちに捕らわれるなぁ。『チェロ協奏曲第2番』の終幕が明るくユーモラスだったりするので、なおさら逆にこたえる感じ。後半生、どんな気持ちで曲を作り続けていたんだろうか……なんてね。

Michael Daugherty: Metropolis Symphony マイケル・ドアティ『メトロポリス・シンフォニー、他』
ゲレーロ/ナッシュヴィル交響楽団

 こちらは現代アメリカの作曲家。私は初めて聴く人ですが、けっこう有名な人のようで、最近は『ジャッキー・O』というオペラでも話題になったんだそうな。同時収録は『ピアノとオーケストラのためのデウス・エクス・マキナ』。
 まず『オーケストラのためのメトロポリス・シンフォニー』ですが、ジャケ写からもお判りのように、スーパーマン生誕50周年記念に書かれたものだそうな。というわけで章題も、それぞれスーパーマンに因んだものになっています。
 第1曲「レックス」の、レックス・ルーサーに見立てたヴァイオリンのヴィルトゥオーソ・ソロを軸に、ホイッスルや弦のスタッカートや打楽器などが目まぐるしく展開していく流れ、第2曲「クリプトン」の、緊急を告げるサイレンか、あるいはレトロなSci-fi映画の不気味な効果音を思わせるような、弦や管による分厚いグリッサンド、などなど、聴いていて実に面白い。特に、第5曲「赤いケープのタンゴ」は、グレゴリオ聖歌「怒りの日」のモチーフがタンゴのリズムに乗せて様々に変奏されていくという曲で、その緩急のダイナミズムやドラマティックさが実にカッコイイです。
 同時収録の『ピアノとオーケストラのためのデウス・エクス・マキナ』は列車をモチーフにした、3曲からなる作品。上のモソロフにも似た感じがある、機械的な律動を表現した未来派的な第1曲「早送り」、エイブラハム・リンカーンの遺体を運ぶ葬送列車をモチーフにしたという、感傷的で美しい第2曲「涙の列車」が良かった。
 このCDも、YouTubeにレーベルの宣伝ビデオがあったので、貼っておきます。作曲者のインタビュー映像に交えて、『メトロポリス・シンフォニー』からの抜粋が聴けます。

 さて、以上二枚は新規購入モノなんですが、これらを聴いていたら、久々にオネゲルの『パシフィック231』(蒸気機関車の動きをモチーフにした曲です)を聴きたくなったので、棚の奥から引っ張り出してきました。
 因みに、私が持っているのは、このアルバム。

オネゲル:パシフィック231 アルテュール・オネゲル『交響的運動 パシフィック231、他』
フルネ/オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団

 というわけで、『パシフィック231』が好きな方だったら、上の二枚も楽しめると思いますよ。
 これもついでに、YouTubeにコンサート映像があったので、貼っておきます。

 ああ、もう一つ、サー・アーサー・ブリスの映画音楽『来るべき世界』(アレクサンダー・コルダ制作のヤツ)も聴き返したくなりました。

The Film Music of Sir Arthur Bliss サー・アーサー・ブリス『映画音楽集』
ガンバ/BBCフィルハーモニック・オーケストラ

 映画の中の未来都市を建設するシーンで使われる曲が、これまたカッコよくで大好きでして。
 どんな曲か聴いてみたい方は、こちらで試聴できます。ゲルニカ好きならオススメしたい一曲。
 映画の方もSF映画の古典的名作なので、そのテが好きな方だったら、見て損はなし。
 日本盤DVDは二種類出ていて、ノートリミング高画質がご希望ならこっちの¥ 5,040のヤツを、画質にこだわらず、とりあえず見られりゃいいって方は、こっちの¥ 780のヤツをどうぞ。
 因みに、私が持っているのは高い方(笑)。……ってか、購入時点ではまだ安価なPD盤は出ていなかったので、選択の余地もなかったんですけどね(笑)。