『私は自由な鳥のように空高く舞い上がる(Panchhi Banoon Udti Phiroon)』という歌のこと

 先日、スーダンのカセットテープについて書きましたが、あんな具合に我が家には、あちこちの国へ行ったときに買ってきたカセットがけっこうあります。
 そんな中にはかなりお気に入りの音楽もあり、なんとかCDで再ゲットしたい曲(やアルバム)もいっぱいあるんですが、これがなかなかそうはいかない。ほとんどは、未だCDでは見つけられないままです。
 ただ、中には幸運にもCDを見つけることができたものもあり、特に、インターネット時代になってからは、そういったチャンスもより増えてきた感じです。
 というわけで今回は、そういった幸運な例の中でも、特に順調にいったケースのお話しをば。
 それが、タイトルに書いた”Panchhi Banoon Udti Phiroon”という歌。

 最初の出会いは、インドで買ったこのカセットテープ。
panchhi_cassette
 国の東西を問わず、古めの歌謡モノが大好きな私は(というのも、40〜50年代の流行歌って、わりとどこの国でも、伴奏のアンサンブルが大規模で、アレンジも凝っていたり、曲も優美なものが多いので)、このジャケットを見たとたん「これは懐メロものだ!」と判断して即購入したわけです。
 当時の私は、インドの歌謡曲が映画音楽だということは知っており、有名な吹き替え歌手であるラター・マンゲーシュカルのCDなんかを、日本で買って聴いてはいたものの、インド映画そのものの知識は全くなかったので、このカセットの「ナルギス」さんが、インド映画の往年の大スターだと知ったのは、ずっと後のことでした。
 で、このカセットの一曲目が、件の”Panchhi Banoon Udti Phiroon”という歌で、もうイッパツで気に入ってしまいました。

 それからしばらく後。
 例のカセットテープには、ちゃんと曲のクレジットがあったので、件の曲を歌っているのはラター・マンゲーシュカルで、”Chori Chori”という映画の曲だということは判っていました。
 以来、日本で輸入販売されているラターのCDを見つけるたびに、この「パンチ・バヌーン・ウドゥティ・ピルーン」(意味なんて判らないので、そう音で覚えていた)が入ってやしないかと探していたんですが、なかなかそう上手くはいかず。ラターのベスト盤やインド映画の挿入歌集は、当時けっこう売られていたんですけど、そういったものの中には見つけられなかった。
 そんなときに見つけたのが、このCD。
panchhi_cd
 確か、渋谷か六本木のWAVEだったと思うけど、インド音楽のコーナーで、件の”Chori Chori”のサントラCDを発見しました。もう、舞い上がって喜びましたね(笑)。

 さて、普通ならここでオシマイなんですけど、この曲の場合は、まだ続きがあります。
 やがてインターネットで海外通販とかをするようになり、インド映画のDVDなんかも入手しやすくなりました。
 となると、この曲が使われている映画”Chori Chori”なんかも、やっぱちょいと探してみたりして、そしたらちゃんと見つかったりして。
panchhi_dvd
 これは確か、米アマゾンにあったんじゃなかったっけか。
 というわけで、目出度く映画の方も鑑賞できて、それが英語字幕付きだったもんだから、件の「パンチ・バヌーン・ウドゥティ・ピルーン」と覚えいていた曲名が、「私は自由な鳥のように空高く舞い上がる」という意味だということも判ったし、カセットのジャケ写にあった美麗なナルギス嬢も、動く映像で堪能できたというわけです。

 旅の想い出でもある、個人的に愛着のある大好きな一曲が、こうして音も映像もソフトをゲットできたというのは、この曲の他にはまだ例がありません。
 因みに、その映画”Chori CHori”で、この”Panchhi Banoon Udti Phiroon”が歌われるシークエンスは、YouTubeにもありました。
 ご参考までに、下に貼っておきます。

 いい曲でしょ?

ちょっと宣伝、BIG GYMさんの2010年度カレンダー企画に参加しております

 昨日12/1から、池袋と上野と新橋にあるゲイショップ、BIG GYMさんの店頭で買い物をすると、12名のゲイ作家による描き下ろしオリジナル・イラストが入った、2010年度版の卓上カレンダーを、一ヶ月分ずつマンスリーで貰える、というキャンペーンが始まりました。
  で、この企画、私も参加しております。ただ、何月を担当したかは、サプライズ企画ということで、まだ内緒。情報解禁になったら、改めてお知らせします。
 今月配布の2010年1月分は、児雷也画伯のイラスト入り。コンプリート用の卓上ケースも付いているそうな。というわけで、「これはコンプを目指したい!」という方は、ぜひ最寄りのBIG GYMさんでお買い物をどうぞ。なくなり次第終了だそうです。
 ただ、東京以外の方には申し訳ないんですが、通販ではこのキャンペーンはやっていないそうです。
 キャンペーンの詳細はこちら
 店舗の場所など、BIG GYMさんのサイトはこちら

アブデル・アジズ・エル・ムバラク(Abdel Aziz El Mubarak)のこと

 ひゃ〜、YouTubeにアブデル・アジズ・エル・ムバラクのLive映像があった〜!
 も〜、チョ〜嬉しい!
 でも、埋め込み無効なのでリンクのみ。
http://www.youtube.com/watch?v=1fkeQ3e_8EY
 同じ曲のMTV版は埋め込み可だったので、それは貼っておきませう。

 CDは、私の知っている限り2枚出ていたはずですが、この曲の入っている方は、どうやら廃盤みたい。でも、iTunes Storeにはありました。
http://itunes.apple.com/album/straight-from-heart/id308713751
 YouTubeのビデオの曲は、トラックナンバー2の”Laih Ya Galbi”。
 もう一枚(完成度から言うと、こっちの方が上だと思う)は、まだアマゾンにもありました。

Mubarak Abdel Aziz El Mubarak “Abdel Aziz El Mubarak”

 さて、この人はスーダンの歌手なんですけど、何とCLUB QUATTROで来日公演もしていおりまして、当時、もう大喜びで行ったもんです。
 同じスーダンのアブデル・ガディール・サリムと一緒で、しかもサプライズで江州音頭の桜川唯丸も出てきたもんだから、身悶えするほど喜んだっけ。似たパターンで、ユッスー・ンドゥールのLiveに行ったら坂本龍一が出てきたこともありましたが、この時の方がずっと嬉しかったなぁ(笑)。
 今となっては、バブルは何かと批判されがちですけど、当時いくらワールド・ミュージック・ブームとはいえ、その中ではマイナーな方だった人の来日公演があったんだから、やはり経済的なゆとりというものは、文化的なゆとりにも直結しているよなぁ……なんて、改めて思います。
 そういや、だいぶ長いことLiveにも行ってないなぁ。最後に行ったのは、やっぱCLUB QUATTROに、World’s End Girlfriendを聴きにいったときかも。もう何年前だ(笑)?

 さて、この人のおかげで、私はスーダン音楽にすっかりハマってしまいまして、以来、CDにスーダンと書いてあれば何でも買う状態。そうそう見つからないのが悲しいけど。
 で、スーダンには行ったことがないんですけど、エジプトに行ったときに、アスワンでスーダンのカセットテープを売っていまして。もう、大喜びで買って、ホクホク顔で宿に戻ったら、宿のオヤジに「何を買ったんだ?」と言われて、買ってきたカセットを見せたら、「スーダンばっかじゃないか、なんでエジプトの音楽を買わないんだ!」と怒られましたっけ(笑)。
Cassette_sudan
 これが、そのとき買ったカセットなんですけど、改めて見ると、下段の左から2つめは、スーダンじゃなくてエジプトのヌビア音楽かも。
 アブデル・アジズ・エル・ムバラクの映像は、他にももうちょっと最近っぽいのが、幾つかYouTubeにありましたが、髪がだいぶ薄くなったのはともかく、声の艶がやっぱだいぶ衰えたかな、という感じ。
 とはいえ、スーダンの音楽産業は内戦で壊滅してしまったと聞いた覚えがありますし、映像の収録がいつなのかは判りませんが、元気でまた歌う姿を見られただけでもホッとしました。

最近のBGM

 相変わらずのクラシック系ではありますが、ここ数日、ちょいと近代から現代寄りに、聴きたい気分が移動しつつあります(笑)。

cd_moslov_zavod アレクサンドル・モソロフ『交響的エピソード 鉄工場、他』
スヴェトラーノフ/ソビエト国立交響楽団、他

 ロシア・アヴァンギャルドの作品として名高い、モソロフの「鉄工場」を聴きたくて購入。同時収録は『組曲 兵士の歌』『ピアノ協奏曲第1番』『チェロ協奏曲第2番 エレジー』。(アマゾンではこのCDは扱っていないようなので、リンク先はHMVのサイトになってます)
 件の『鉄工場』は、約3分と短い曲ながら、ガンガンと重いファッショなまでの猛烈なエネルギッシュさが、もう圧倒的にカッコイイ! ゲルニカや上野耕路が好きな人だったら、ハマること間違いなしでは。YouTubeにあったので、下に貼っておきます。是非お試しあれ。
『ピアノ協奏曲第1番』も同様で、第1楽章のバーバリズム的なカッコよさがサイコーなので、しかも展開が『鉄工場』よりずっと複雑なので、こっちはプログレ好きにもオススメしたい感じ。
 CDではこの二曲が、素朴な民謡のような『兵士の歌』と、美麗でセンチメンタルな『チェロ協奏曲第2番』という、とても同じ人が書いた曲とは思えないような、アヴァンギャルドのアの字もない2つの曲でサンドイッチされた構成になっています。
 その余りのアンバランスさが不思議だったので、ググってみたところ、モソロフは当初はアヴァンギャルドな作風だったものの、スターリン体制下で反ソビエト的との批判を受け、作風の変更を余儀なくされたうえに、それでも結局は強制労働に送り込まれてしまうという、悲劇的な運命を辿った作曲家なんだそうな。Wikipedia(日本語)
 う〜ん、それを踏まえてこのCDを聴いていると、何ともやるせない気持ちに捕らわれるなぁ。『チェロ協奏曲第2番』の終幕が明るくユーモラスだったりするので、なおさら逆にこたえる感じ。後半生、どんな気持ちで曲を作り続けていたんだろうか……なんてね。

Michael Daugherty: Metropolis Symphony マイケル・ドアティ『メトロポリス・シンフォニー、他』
ゲレーロ/ナッシュヴィル交響楽団

 こちらは現代アメリカの作曲家。私は初めて聴く人ですが、けっこう有名な人のようで、最近は『ジャッキー・O』というオペラでも話題になったんだそうな。同時収録は『ピアノとオーケストラのためのデウス・エクス・マキナ』。
 まず『オーケストラのためのメトロポリス・シンフォニー』ですが、ジャケ写からもお判りのように、スーパーマン生誕50周年記念に書かれたものだそうな。というわけで章題も、それぞれスーパーマンに因んだものになっています。
 第1曲「レックス」の、レックス・ルーサーに見立てたヴァイオリンのヴィルトゥオーソ・ソロを軸に、ホイッスルや弦のスタッカートや打楽器などが目まぐるしく展開していく流れ、第2曲「クリプトン」の、緊急を告げるサイレンか、あるいはレトロなSci-fi映画の不気味な効果音を思わせるような、弦や管による分厚いグリッサンド、などなど、聴いていて実に面白い。特に、第5曲「赤いケープのタンゴ」は、グレゴリオ聖歌「怒りの日」のモチーフがタンゴのリズムに乗せて様々に変奏されていくという曲で、その緩急のダイナミズムやドラマティックさが実にカッコイイです。
 同時収録の『ピアノとオーケストラのためのデウス・エクス・マキナ』は列車をモチーフにした、3曲からなる作品。上のモソロフにも似た感じがある、機械的な律動を表現した未来派的な第1曲「早送り」、エイブラハム・リンカーンの遺体を運ぶ葬送列車をモチーフにしたという、感傷的で美しい第2曲「涙の列車」が良かった。
 このCDも、YouTubeにレーベルの宣伝ビデオがあったので、貼っておきます。作曲者のインタビュー映像に交えて、『メトロポリス・シンフォニー』からの抜粋が聴けます。

 さて、以上二枚は新規購入モノなんですが、これらを聴いていたら、久々にオネゲルの『パシフィック231』(蒸気機関車の動きをモチーフにした曲です)を聴きたくなったので、棚の奥から引っ張り出してきました。
 因みに、私が持っているのは、このアルバム。

オネゲル:パシフィック231 アルテュール・オネゲル『交響的運動 パシフィック231、他』
フルネ/オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団

 というわけで、『パシフィック231』が好きな方だったら、上の二枚も楽しめると思いますよ。
 これもついでに、YouTubeにコンサート映像があったので、貼っておきます。

 ああ、もう一つ、サー・アーサー・ブリスの映画音楽『来るべき世界』(アレクサンダー・コルダ制作のヤツ)も聴き返したくなりました。

The Film Music of Sir Arthur Bliss サー・アーサー・ブリス『映画音楽集』
ガンバ/BBCフィルハーモニック・オーケストラ

 映画の中の未来都市を建設するシーンで使われる曲が、これまたカッコよくで大好きでして。
 どんな曲か聴いてみたい方は、こちらで試聴できます。ゲルニカ好きならオススメしたい一曲。
 映画の方もSF映画の古典的名作なので、そのテが好きな方だったら、見て損はなし。
 日本盤DVDは二種類出ていて、ノートリミング高画質がご希望ならこっちの¥ 5,040のヤツを、画質にこだわらず、とりあえず見られりゃいいって方は、こっちの¥ 780のヤツをどうぞ。
 因みに、私が持っているのは高い方(笑)。……ってか、購入時点ではまだ安価なPD盤は出ていなかったので、選択の余地もなかったんですけどね(笑)。

つれづれ

 パニック映画大好きな相棒に誘われて、ローランド・エメリッヒ監督の『2012』を鑑賞。
 相変わらず、ド派手な特撮シーンで屁みたいなストーリーをサンドイッチしたような映画でした(笑)。
 個人的には(以下、ネタバレ部分は反転)、「二人の間に何か溝がある」とか言った瞬間に、地震が起きてホントーに二人の間に巨大な地割れが出来てしまうとゆー、ショーもないギャグとか、飛行機の燃料が足りなくなって「このままだと目的地のチベットに辿り着けない!」という状況だったのが、大陸移動でチベットの方がこっちに来てくれたのでセーフ、しかもピンポイントで目的地の近場だったなんつーバカ展開あたりが、ちょっと好き(笑)。
 あと、前半の都市大崩壊シーンは、スペクタクル的な見せ場という点で、トゥー・マッチな感じが楽しかった。こことイエローストーン公園の噴火シーンには、『デイ・アフター・トゥモロー』や『紀元前1万年』では減少しているように感じた、この監督らしいパワフルなハッタリ感が戻っている印象。
 因みに相棒は、映画館を出たとき「あ〜、楽しかった!」と言ってました。「面白かった」じゃないのがミソかも(笑)。
 で、その小一時間後、ラーメン屋でメシ喰いながら相棒曰く、
「でも、ホンット何も残らないよね、この人(ローランド・エメリッヒ)の映画って」
 ……オイ、見に行きたいって言ったのはアンタだよ(笑)。
 映画が始まる前の時間つぶしに入った本屋で、デアゴスティーニの『モスラ』を買ったので、その晩に鑑賞。
 実は私は、小泉博ってけっこうタイプなんですけど、久々に『モスラ』を再見したら、和服姿で無精髭での初登場シーンに、改めて「ステキ!」とか思っちゃったりして。
 そんなことを相棒に言ったら、例によって「『サザエさん』のマスオさん役だよ」とオーディオ・コメンタリー(笑)が。「サザエさんは誰?」と聞いたら「江利チエミ。波平が藤原鎌足、舟が清川虹子」だそうな。へ〜、知らんかった、見てみたいかも。

最近見た500円DVD

 最近購入した500円DVDの中から、印象深かったものを二つ。

シシリーの黒い霧 [DVD] 『シシリーの黒い霧』(1962) フランチェスコ・ロージ
“Salvatore Giuliano” (1962) Francesco Rosi

 1950年、シチリア島で、シチリア独立運動の闘士だった青年、サルヴァトーレ・ジュリアーノが他殺死体となって発見された。彼を殺したのは誰か? そして、彼の組織が行った「メーデー虐殺事件」の、真の黒幕は何者なのか? といった実話に基づく内容を、ドキュメンタリー・タッチで描いた作品。
 とにかく画面の迫真性が良い。見ているうちに、ついこれが映画だということを忘れてしまい、ニュース映像を見ているような気になってしまうような、そんな力強さがあります。感触としては、ジッロ・ポンテコルヴォの『アルジェの戦い』なんかと似た感じ。
 話としては、正直ちょっと判りにくいです。現在と過去が交錯する構成だし、ドキュメンタリー風ということもあって、いわゆる主役に相当するリード・キャラクターも存在しない。マフィアとか山賊とか憲兵とか警察とか、そんな面々が絡み合った内容なので、登場人物の立ち位置も掴みにくい感じ。フォーカスが、ジュリアーノの殺害理由と犯人探しかと思っていると、後半になって、メーデー虐殺事件の真相や黒幕へと移っていくのも、見ていてちょっと混乱してしまった。
 とはいえ、前述したような映像力や演出力もあって、映画にはぐいぐいと引き込まれていきます。たとえ細部は完全に把握できなくても、ここで起こったことの「恐ろしさ」は、充分に伝わってくる。そんな「恐ろしさ」と、眩しい陽光と明るい風景という、そのコントラストも素晴らしいし、光と影による表現も、実に美しくて力強い。あと、基本的にニュース映像的な表現であるだけに、その中にふと、マンテーニャのキリスト像の活人画的な表現なんていう、ピクチャレスクな映像が出てきたりして、思わずはっとさせられたり。
 ああ、あとどーでもいいことですけど(実はどーでもよくなくて、私にとっては重要なんですが)、男臭くてカッコイイ野郎どもがいっぱい出てくるのも高ポイントでした(笑)。

dvd_sokokunotameni1 『バトル・フォー・スターリングラード』 (1975) セルゲイ・ボンダルチュク(前編)
“ОНИ СРАЖАЛ ИСЬ ЭА РОДИНУ” (1975) Sergei Bondarchuk
dvd_sokokunotameni2 (後編 )

 例によってヘンな邦題が付いていますが、公開時のタイトルは『祖国のために』。第二次世界大戦時、ドン川流域でナチス・ドイツと戦ったソビエト軍を描いた、ショーロホフの小説の映画化作品。
 前線にいる兵士たちの細かな日常描写と、大規模な戦闘シーンがサンドイッチになった構成。ストーリーとしては、原作が未完のもののようですし、同じ原作者と監督コンビの名作、『人間の運命』みたいなドラマティックさはないですが、友情あり下ネタあり、ユーモアあり悲劇あり……といった兵士たちの日常描写は、実に等身大の人間臭さが感じられて楽しめます。かと思いきや、麻酔なしの手術シーンなんて、ホラー映画そこのけのオッカナサだし、戦友の絆なんかは感動もしちゃったり。
 スペクタクル的な面に関しては、ボンダルチュク監督の撮る戦闘シーンは、『戦争と平和』の物量とカメラワークのスゴさに、とにかくビックリしたんですけど、今回のこれは、あそこまでスゴくはないものの、それでも燃えながら回転する風車の黙示録的なイメージとか、戦場でふと訪れる静寂とのコントラストとか、モンタージュで挿入されるイメージ・ショットの数々とか、やっぱり映像的な見所が盛り沢山。時として、映像表現に凝る余り、叙事が置き去りにされてしまうような感じも、やっぱり同じ。恐ろしい破壊の中にも「美」を見てしまうあたり、つくづく映像派の作家なんだなぁ、と改めて感じたり。
 役者さんも粒ぞろい。メイン・キャラクターのワシーリー・シュクシンという人を始め、俳優兼監督のボンダルチュクご本人、『戦争と平和』のアンドレイ役だったヴャチェスラフ・チーホノフ、いずれも素晴らしい。IMDbを見たら、グリゴーリ・コージンツェフ版『ハムレット』のインノケンティ・スモクトゥノフスキーの名前もあったんだけど……う〜ん、どこに出てたんだろう、ちっとも気付かなかった(笑)。
 そんなこんなで、実に見応えもあって楽しめたので、未見の『ワーテルロー』がますます見たくなりました。
 最後に余談。この映画には、スターリングラードは全く出てきません。件のヘンテコ邦題が、『バトル・オブ……』じゃなくて『バトル・フォー……』になっているあたり、小賢しいというかこすっからいというか……(笑)。

『THE KING 序章〜アユタヤの若き英雄/アユタヤの勝利と栄光』

THE KING 序章~アユタヤの若き英雄~/~アユタヤの勝利と栄光~ [DVD] 『THE KING 序章〜アユタヤの若き英雄/アユタヤの勝利と栄光』(2007)チャートリーチャルーム・ユコーン
“King Naresuan” (2007) Chatrichalerm Yukol

 前に何度か紹介している、タイ製歴史スペクタクル映画『キング・ナレスワン』の日本盤DVDを無事全編鑑賞したので、追加の感想をば。

 ストーリーは、16世紀中頃のアユタヤ(タイ)とホンサワディ(ビルマ)の戦いを背景に、ピッサヌローク(タイ)の王子でありながら、幼くして人質としてホンサワディに連れていかれたナレスワン王子が、実は人格者であるホンサワディ王や、その師でもある僧侶に導かれ、また、虜囚であるシャム族(タイ人)の少年や孤児の少女と友情を育み、やがて聡明で逞しい若者に成長して、アユタヤの独立を目指して立ち上がる……といった内容。

 第1部『アユタヤの若き英雄』はホンサワディの人質となった少年期を、第2部『アユタヤの勝利と栄光』は逞しく成人した王子の戦いを描いています。
 まあ、前にも書きましたが、とにかくセットやモブの物量のすごさと、衣装や小道具の豪華さに圧倒されます。もちろんCGIも使っているんですけど、それでも町一つ丸々作ってしまったような規模の、ホンサワディやアユタヤのオープン・セットは、往年のハリウッド・スペクタクル映画を彷彿とさせる大スケール。
 往年のスペクタクル映画を彷彿とさせるという意味では、演出も同様です。オーセンティックで落ち着いた感じで、悪く言えばちょっと古めの感じ。
 ドラマ的には、歴史物の常として、叙事とキャラクター・ドラマが並行して描かれるんですが、第1部に限って言うと、ちょっと叙事をおさえることで精一杯で、キャラクターの掘り下げが不足していたり、モノガタリの流れがぎこちなくなってしまっているきらいはあります。
 というのは、このドラマにおける勢力分布は、アユタヤ対ホンサワディという二項対立ではなく、そこに、アユタヤとピッサヌロークという二つのタイの王家の思惑も絡んだ三つ巴になっているんですな。そして、主人公のナレスワン王子は自由に動けない捕虜なので、そういったパワーゲームからすると蚊帳の外の存在。結果、モノガタリ全体の牽引力は、主人公の成長劇、主人公が絡まないパワーゲーム、叙事の説明という3つの要素に、どうしても分散してしまう。
 とはいえ、主人公を含む子供たちの日常劇は楽しいし、様々な思惑が交錯する人間ドラマとか、叙事に関する様々なエピソードとかは面白いし、ホンサワディ王や僧侶のキャラは魅力的だし、ナレスワン王子と友達になる少女マニーチャンは超カワイイし……と、ストーリー的な魅力には事欠きません。

 第2部になると、ナレスワン王子は成人して行動的な存在になり、今度は立派にストーリーの中軸となるので、前述したような作劇的なぎこちなさは消えます。
 また、第1部から成長して続投するキャラクターに加え、新しいキャラクターも加わり、しかもそれらがいずれも魅力的で良く立っているので、キャラクター・ドラマからくるエモーションもぐっと盛り上がります。古典的な恋愛劇も、これはこれでまた良きかな。
 また、バトル・シーンのような大かがりな見せ場も、よりいっそう大規模で内容も凝ったものになるので、そういった見応えや娯楽性も倍増。
 エピソードの展開と、キャラクター・ドラマのあれこれと、視覚的な見応えという、史劇らしい見所が三拍子揃った、文句なしの出来映えです。
 それに何てったって、成長したナレスワン王子が超カッコイイし(笑)。
 そんなこんなで第2部を堪能すると、どうしても「続きは?」と思ってしまうんですが(この映画は全3部作を予定しています)、その第3部の公開が本国のタイでも遅れていて、本来なら今年の夏に公開予定だったのが、公式サイトを見てもまだ何も情報なし。
 ちゃんと完成するのかしらん……と不安に思っていたら、何とYouTubeで第3部の予告編を発見! 公式サイトにはまだないのに……流出モノ?(笑)
 というわけで、とりあえず貼っておきませう。

 で、これを見て何がビックリしたかって……。
 王様(あ、まだ王子様か)、なんかすっげ〜バルクアップしてません??? 第2部と体型が別人なんですけど!
 とゆーわけで、楽しみがますます増えたんですけど、しかし何が不安かって、この第3部を果たして日本語字幕付きで無事に見られるのかどうかってことです。
 ちゃんと最後までDVD出してくださいよ、メーカーさん!

最近のBGM

 相変わらずクラシックづいております。

コープランド傑作集 アーロン・コープランド『バレエ組曲 アパラチアの春、他』
バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック

 コープランドはオムニバス盤とかで数曲を聴いたことがあるだけだったので、まとめて聴いてみようと購入。同時収録曲は『バレエ組曲 ロデオ』『バレエ組曲 ビリー・ザ・キッド』『市民のためのファンファーレ』。
 そっか〜、EL&Pの「ホウダウン」って、この『ロデオ』の中の一曲だったのか〜、知らんかった(笑)。コープランドの原曲も、実にカッコイイですな。ちょっと調べてみたら、同じくEL&Pの「庶民のファンファーレ」も、このアルバム収録の『市民のためのファンファーレ』を元にしているらしいけど、「庶民の……」が入っているEL&Pの『四部作』は持っていないので、そっちはよー判らず。
 カッコイイといえば、『ビリー・ザ・キッド』の「再び、果てなき大平原」も、タダモノならぬカッコヨサで背中がゾクゾクします。『アパラチアの春』の「第2曲 アレグロ」なんかも、実にタマンナイ。
 全体的に、いかにもアメリカのフォークソングを基調にしているといった感じで、雄大さ、明快さ、勢いの良さ、陽性の叙情、ノスタルジー感、などなど、かなりツボに直撃でした。

Reinhold Gliere: Symphony No. 1/The Red Poppy Suite レインゴリト・グリエール『交響曲第1番/バレエ組曲 赤いケシの花』
ダウンズ/BBCフィルハーモニック

 先日の『交響曲第3番 イリヤ・ムーロメッツ』に比べると、この『交響曲第1番』はグッと爽やかな感じ。でもやっぱり第1楽章の出だしを聴いていたら、このまま『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の前奏曲になっちゃうんじゃないか……なんて、ふと思っちゃいましたけど(笑)。
 でも、あいかわらず印象的なメロディーが頻出するし、時に田園的な感じもする素朴さとか、とにかく全体を通じて清々しい感じが気持ちいい、なかなか魅力的な佳品でした。
 もう一つの『赤いケシの花』は、とにかく聴いていて楽しい楽しい。はじける躍動感、横溢する異国情緒と東洋趣味、優美なロマンティシズム……といった要素を、キャッチーなメロディーとカラフルなオーケストレーションで、華麗にタップリ楽しませてくれます。
 野性的でダイナミックな「第1曲 英雄的な苦力(クーリー)の踊り」、シノワズリ満開の「第3曲 中国の踊り」、チャイコフスキーばりの優美な「第5曲 ワルツ」、ロシア風味タップリの「第6曲 ロシアの水兵の踊り」なんかが、特にお気に入り。

Kodály: Choral Works for Male Voices ゾルタン・コダーイ『男声合唱曲集』
ラクナー/ベーラ・バルトーク男声合唱団

 ここで注文したヤツが、無事に届きました。良かった良かった(笑)。
 一曲目「孔雀」から、憂愁あふれるメロディーを、ときに静かにときに力強く歌い上げる男声合唱に、思っくそ心を奪われました。
 もちろん、本来のフォークソングのような荒々しいまでの力強さはないんですが、解体再構成された土俗性やとでもいった趣の、洗練された美しさがあります。教会音楽の敬虔さに通じる感触の静謐な曲あり、ロシア民謡みたいな泣きや哀愁の曲もあり、威勢や景気の良い曲もありで、タップリ楽しめました。
 ただ、やっぱり全体的にお行儀が良いので、聴き終わったときに反動で、もっとゴツゴツしたグルジアやコルシカの民族音楽系の男声合唱なんかを、改めて聴きたくなった……という側面もあり。
 そういえばこのCD、どういうわけかハンガリー語で歌われている(らしい)「ラ・マルセイエーズ」が入っていて、コダーイ編曲バージョンなんだろうけど、その一曲だけミョーに浮いていました(笑)。

ちょっと宣伝、マンガ『LOVER BOY』後編です

loverboy2
 21日発売の「バディ」1月号に、マンガ『LOVER BOY(後編)』掲載です。
 因みに、前編の情報はこちら
 フツーのエロマンガを描きたいな〜、ってんで始めたヤツなんで、後編も、ヘンタイっつーよりインランっつー感じで、エロエロ度はますますパワーアップ。ノンケのイケメンが、オモチャにされて乱れまくります(笑)。
 この話、同じシチュエーションを使っても、幾らでもダークな方向に持っていくことはできるんだけど(普段の私だと、そっち方面に持っていくことの方が多い)、今回はちょっと目先を変えて、基本的に明るくて軽いノリに徹してみました。結果、けっこうキャラが良く動いてくれたので、なかなか楽しく描けた感じ。
 というわけで、青年キャラ好きの方は、どうぞお見逃しなく(笑)。

Badi (バディ) 2010年 01月号 [雑誌] Badi (バディ) 2010年 01月号 [雑誌]
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2009-11-21

 さて、この「バディ」ですが、次の12月発売の2月号は、マンガはお休みさせていただきます。
 次の登場は、来年1月発売の3月号になる予定。

ちょっと宣伝、時代マンガ描きました

oniharae
 11/18発売の「肉体派 vol.15 歴史漢全攻略」に、24ページの読み切りマンガを描きました。
 今回は特集が「歴史」ということで、日本の戦国時代(厳密な設定はしていませんけど)を舞台に、サディズム(嗜虐性)とアルゴフィリア(苦痛愛好)を巡るストーリーを描いています。タイトルは『鬼祓え(おにはらえ)』。
 私の描く時代SMというと、けっこうエグいのを期待される向きもあるかもしれませんが、今回は、まあ多少は「痛い」描写もありますが、読後感はけっこう「しみじみ」系なのではないかと。
 発想の根っことしては、南條範夫さんの影響が色濃いかな? フォーカスを行為そのものよりメンタル面に置き、サディズムの扱いを普段と少し変えて、それと同時に、マゾヒズムもしっかりおさえるという作り方をしてみました。
 そんなこんなで、「読ませる」と「抜かせる」、どちらもしっかり頑張りましたので(笑)、よろしかったら是非お読み下さいませ。

肉体派 VOL.15 歴史漢全攻略 (アクアコミックス) 肉体派 VOL.15 歴史漢全攻略 (アクアコミックス)
価格:¥ 920(税込)
発売日:2009-11-18