ソード&サンダル映画ドイツ盤DVDボックス(3)

 以前、こことここで紹介した、ドイツe-m-s社のクラシック・ソード&サンダル映画DVDボックス”Cinema Colossal”、シリーズ最後の”5 – Mars”が発売されました。む〜ん、これで終わりなのね。毎回届くのが楽しみだったから、ちょっと悲しい。
 まだ未見だし、見たことのある作品もないので、とりあえず覚え書き程度のご紹介。
cinemacolossal_mars
“Cinema Colossal 5 – Mars”
1)コーネル・ワイルド主演『コンスタンチン大帝』”Konstantin Der Grosse” (1960)
 伊題”Constantino Il Grande”、英題”Constantin The Great” aka “Constantin And The Cross”
 共演はクリスチーネ・カウフマン、ベリンダ・リー。マッシモ・セラートも出てますが、まあどう見てもマッスル・ムービーじゃなくて、普通の史劇だろうな、コレ。マッシモ・セラートといえば、前に「ニコラス・ローグの『赤い影』に出てたなんて、ちっとも覚えてない(笑)」と書きましたが、先日『赤い影』がDVD化されたんで買って見たら、まあ随分老けてはいたけど、すぐ判りました。ソード&サンダル映画ばっか見て、ようやく顔を覚えられたってわけですな(笑)。
2)ジーン・クレイン主演 “Nofretete, Konigin Vom Nil” (1961)
 伊題”Nefertiti, Regina Del Nilo”、英題”Nefertiti, Queen Of The Nile”
 ジーン・クレインって、オスカー&ハマースタインのミュージカル『ステート・フェア』の主演女優さんですね。それが主演の古代エジプトものって……ちょっと見るのが楽しみ。でもまあ、これもどう見てもマッスル・ムービーではないけど(笑)。共演者にはヴィンセント・プライスの名前も。
リチャード・ハリソン主演『勇者ヘラクレスの挑戦』”Der Letzte Der Gladiatoren” (1964)
 伊題”L’Ultimo Gladiatore”、英題”Messalina Against the Son of Hercules”
 今回マッスル・ムービーはこの一本だけかな。でも、リチャード・ハリソンなんでバルクは期待できないけど(笑)。い〜んだ、顔は好きだから(笑)。これは確か、Movies Unlimitedのカタログで米盤DVDを見た記憶が。でも、他で見たことがないところをみると、おそらくDVD-Rだろうなぁ。
 とまあ、今回はマッスル・ムービー的な見どころはあんまりなさそうですが、オマケのポストカードの方は、ブラッド・ハリスの『ヘラクレスの怒り』(多分)はDVDのジャケとは違う絵柄だし、ボックスには収録されていない”Herkules Im Netz Der Cleopatra”なる映画の絵柄がちょっとイカしてました。
 さて、マッスル・ムービーついでに、ちょいと最近の話題を。
 少し前に、ホールマーク・エンタテイメント社が、新作テレビ映画のヘラクレスものを制作するという話を聞き(そもそもは『ロード・オブ・ザ・リング』絡みで、ショーン・アスティンが出るとかいうニュースで知ったんですけどね)、以来ちょくちょく情報をチェックしてたんですが、先日www.hallmarkent.comを覗いたら、予告編動画やスチル・ギャラリーがアップされてました。
 で、さっそく見たんですが、肝心要のヘラクレス役者は……う〜ん、身体はいいんだが、顔はちっとも好みじゃなかった(笑)。ヒゲもないし(笑)。コスチュームもね、何だかヘラクレスっつーかロビンフッドみたいで、チュニックや腰布が大好物(笑)の私としては、ちょい残念。身体はムキムキなんだけどな〜。
 でもまあ、ホールマーク製ならそうそう大ハズレってことはないだろうし(ここのテレビ映画は、スケール感やSFXのクオリティとか、テレビ映画にしちゃ大したものだと感心させられるし、内容的にも、極端に良かったり個性やクセがあったりはしないけど、そのかわりいつも手堅くしっかり見せてくれるので、けっこう好きです)、キャストには個人的にごひいきのタイラー・メイン(『X-メン』のセイバートゥース役とか『トロイ』のアイアース役のプロレスラー俳優さん)が入ってるし、まだまだ楽しみ。
 日活さんあたりが、ちゃんとノーカット版のDVDを出してくれることを願います。

Poser 5とかVue 5 Espritとか(3)

 春頃から仕事の合間にちまちま作っていた、Poser 5とVue 5 Espritを使った3DCGムービーが、ようやく3分(笑)ほどの長さになったので、本家サイトの方にアップしました。
 まあ、本来なら本家のコンテンツはアダルト向けなので、このBlogでは紹介しないようにしているんですが、今回アップしたムービー、出来たのはまだイントロ部分だけなんで、困ったことに(笑)エロくも何ともない。だから、これならこっちでも紹介しちゃってもいいかな、と。
 興味とお時間のおありの方は、見てやってつかあさい。下の画像をクリックすると見られます。
 あ、movファイルなので、見るにはQuick Time Player(バージョン6以上)が必要です。それと、サウンド付きなのでご注意をば。
dd_act01
Act 1 (01:40) – 3.4MB
dd_act02
Act 2 (02:04) – 4.4MB
 制作手順としては、衣装や小道具などは六角大王 Super 4でモデリングし、六角大王やフリーのUV MapperとPhotoshopなんかを組み合わせてマッピング。
 それらをobjファイルでPoser 5にインポートし、ダイナミック・クロスなどの設定をして、フィギュアと組み合わせてから、キャラクター・アニメーションやクロス・アニメーションを作成。フィギュアはどちらもDAZのMichael 2。主人公のカツラとヒゲもDAZ製で、それぞれWedge CutとMillenium Beardというヤツ。
 Poseのアニメーション・ファイルが出来上がったら、それをVue 5 Espritにインポートして(その際にMover 5というプラグインを使用)、砂漠や岩山や雲といった背景を配置。カメラワークや大気アニメーションを組み合わせて、シーン全体のアニメーションを設定、レンダリング。
 レンダリングされたQuick Time Movieを、iMovieにクリップとしてインポート。
 この作業を必要カットごとに繰り返し、ワン・エピソードが揃った時点で、iMovieで編集。
 映像の編集ができたら、GarageBandでカットの尺にあわせたBGMを作成。音が出来たらiTuneに書き出し、再びiMovieにインポートして、映像に合わせて編集。
 ……ってな工程です。
 では、作ってみて気になったor気付いたことを幾つか。
 ダイナミック・クロスですが、Poser上では何の問題もなかったにも関わらず、それをVueにインポートしてレンダリングすると、たまに挙動がおかしいことがある。例えば2秒のアニメーションを作るとして、おおかたは何の問題もないんですが、その中の1、2フレームだけ、クロスがフィギュアに追従しきれずに、フィギュアがクロスを突き破ったりすることがある。
 これに関しては、原因を推察して、回避しようといろいろ試みたんですが、最終的には原因も解決法も見つからず断念。今回アップしたムービーでも、ところどころクロスが破けてしまっているのが、判ると思います。
 Vueのレンダリングは早いですが、ちょっとでもボリュメトリック・ライトなんかを使うと、やはりいきなり重くなる。今回は、目が光るシーンで使いましたが……いや〜、たったこれだけなのに、えらい時間がかかった(笑)。これで大気もボリュメトリックにしたり、ソフトシャドウを組み合わせたりしたら、いったいどうなることやら。やらないけど(笑)。
 Vueのモーションブラーは、最終レンダリング品質にしても、妙に粒状感が目立って、あまり自然には見えない。レンダリング品質を更に上げれば良いのかもしれないけれど、そうなると私の環境では時間がかかりすぎて、趣味のアニメーション制作という意味ではストレスが大きすぎる。けっきょく今回は、モーションブラーはいっさい使いませんでした。
 まあ、気になった点はこのくらいで、あとは至極快適でした。まあ、上を見ればキリはないんでしょうが、少なくとも以前、G4 350MHz + Poser 4でアニメーションを作っていたときよりゃ、何倍も快適です。
 ただ、Vueをかませることで「できること」が増えてしまった分、変にあれもこれもと色気を出して、結局はちょっと中途半端になっちゃったかな、という感もあり。前のように、フィギュアと必要最小限の小道具のみで、あとは地面も背景もないマックロケで、ストーリーも演出もヘッタクレもなく、ひたすら「ヤル」だけのムービーの方が、映像的には面白かったような。BGMを付けるのも、付くとちょっとマジっぽくなっちゃって、「シャレですよ、シャレ」といったユルい感じが薄れちゃったかも。
 あと、私にとっての3DCGアニメーションの面白さって、多分にパペット・アニメーションやグランギニョルやピグマリオニズムといったものの魅力に近いので、変にリアルっぽくなっちゃうのも考えもの。ハイパーリアルな3DCGって、「すごい」とは思うけど「面白い」とは思わないし。そこいらへん今のハリウッドって、リアル系は実写の補助的役割に集中して、キャラクター・アニメーション系はマンガや人形的なデフォルメ世界を志向する、と、はっきり別れているようで、批判はいろいろあるんでしょうけど、個人的には素直に感心しちゃいます。
 とまあ、いろいろあれども、けっこう楽しく作ってきたんですが、はてさて、続きが出来るのは、いったいいつになりますやら(笑)。

地震とかDVDとか

 夕方の地震、けっこう大きくてビビりました。
 とりあえずタバコを消して、スリッパはいて(何かで地震の時はスリッパ必須と聞いたので)、本棚が倒れても下敷きにならなさそうな位置に移動したら、台所の方から何かドザドサ落ちる音が。
 後で落ち着いてから確認したら、DVDラックの上に横積みにしていた古いVHSテープが落っこってました。MTV関係(The OrbやらClannadやらブリジット・バルドーやら)とか、中古屋のワゴンセールで買った珍品映画(『犯(や)られた刑事(デカ)』やら『マルキ』やら)が、床に散乱(笑)。
 実際、我が家には、いたるところに本やらビデオやらDVDやらCDやらが、林立する蟻塚の如く突っ立っておりまして、地震の後、そんな状態を良く知る友人から「大丈夫? 本の下敷きになってない?」という、ご心配の電話が掛かってきたくらいで(笑)。
 そんな状況にも関わらず、やっぱり好きな映画がソフト化されると買わずにはいられないわけでして、しかも最近は、ネットショップで予約しておくと割引だったりもするもんですから、地震があった今日も、『サスペリア アルティメット・コレクションBOX』と『映画はおそろしいBOX』と『ドリームチャイルド』と『日本のいちばん長い日』が、ドドドッとまとめて届きました(笑)。
『サスペリア アルティメット・コレクション』は、事前に告知されていた「温度で色の変わるアウターケース」ってのが、いったい何のこっちゃいと思っていたんですが、届いた現物に触ってみて……納得!
 いやぁ、こりゃいいわ! こーゆー遊び心は大歓迎であります。嬉しくなって、相棒が仕事から帰ってきたら、さっそく「ね、ね、触ってみ!」とBOXを押しつけたりして。
 これを読んで「何のこっちゃい」と思われた方は、ぜひ店頭で現物に触ってみてくださいな。あ、でも『サスペリア Part 2』を見ていないと、この感激は判らないかも。
 で、今夜はさっそく『サスペリア』を鑑賞したんですが、うわ、画質がいい! 以前に出ていたDVDとは段違い! ひ〜、買い直して良かった!
 この『サスペリア』、昔は恐い映画が大の苦手だった私が、一気にホラー映画好きになってしまった思い出の一本だったりするもんで、このクオリティ・アップは実に嬉しい限りでした。
『映画はおそろしいBOX』の収録作の方は、浅学にして『生き血を吸う女』ってのはよー知らんのですが、残る『白い肌に狂う鞭』と『回転』は、もう念願のDVD化でしたから、もう嬉しくて嬉しくて。
 あ〜、あとは『血とバラ』や『チェンジリング』も出ないかなぁ。
 念願のDVD化というと、今回の『ドリームチャイルド』もそうでして、いやあ、よくぞ出してくださった!
 公開当時に劇場で一回見たきりなので、細部は良く覚えていないですが、小品ながら心に残る思い出の一本であります。
「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルの生誕百年祭に、かつてアリスのモデルであった老婆が呼ばれ、キャロルの思い出を語るという内容を、小説を再現した幻想シーン(『ダーク・クリスタル』『ラビリンス 魔王の迷宮』『ストーリーテラー』なんかのジム・ヘンソンが担当)を交えながら綴っていくんですが、キャロルのペドフィリアという部分にもしっかり触れつつ、最後にはしみじみとした余韻が残る。
 再見しても、そういった好印象が変わらないと良いんですけど。私の心の中では、現在、楽しみと不安がちょっと同居中。
『日本のいちばん長い日』も、これまたむか〜しテレビ放送で一度見たきりなんですが、暗い重い長いと三拍子揃いつつ、でも面白いかったし見応えあったし、特に緊張感とかスゴかった記憶があるし、三船敏郎の切腹シーンも脳裏に焼き付いている。
 今度はぜひ『血と砂』(やはり岡本喜八+三船敏郎+軍人モノ)をDVD化して欲しい。
 昨日は昨日で、ロシアに注文していたアレクサンドル・プトゥシコの『イリヤ・ムウロメツ(豪勇イリア/巨竜と魔王征服)』が届いたんで、早速鑑賞しました。
 イリヤ・ムウロメツと言えば、お好きな方なら「筒井康隆+手塚治虫」を思い出されるでしょうし、監督のプトゥシコも、人形アニメーション好きなら、人形アニメによるモブシーンが有名な『新ガリバー』、普通の映画ファンなら、ソ連初のカラー映画にして日本で最初に公開されたカラー映画『石の花』、カルト系やホラー好きなら『妖婆・死棺の呪い』でお馴染みでしょう。
 で、この『イリヤ・ムウロメツ』、私は初見だったんですが、ラストに出てくるドラゴン、怪獣世代の日本人なら間違いなく「あ、キングギドラ」って思いますね、きっと(笑)。ひょっとして、本当にこれが元ネタなのかしらん。
 モブやセットのスケールは惜しみなく、画面はそういった映画的なスケール感と、舞台的な様式美が美しく混淆し、ファンタスティック映画的な楽しさも満載。物語やキャラクターが、あくまでも民話的なシンプルさから逸脱しないのは、私的には楽しめたんですが、物足りなさを感じる方もいそうではあります。
 主人公のイリヤが、少なくとも最初は若者のはずなのに、どう見てもオッサンなのはご愛敬。まあ、こーゆーヒゲ熊オヤジが主演を張るファンタジー映画ってのは、私としては嬉しいけど(笑)。ラストのまとめが、いかにも「社会主義国家的」になってるのも、まあいたしかたなし。
 あと、ちょっと「SM的興趣」を擽られるシーンがあったのも、個人的にはお得感(笑)。
 嫌な方は、この段は飛ばすように。
 えーとですね、この映画ではロシア(キエフ)が蛮族(モンゴル人かタタール人か…とにかくアジア系)に襲われるわけです。で、その蛮族の首領が座している椅子が、いわゆる「人間椅子」なの。
 どーゆーものか説明しますと、鎖に繋がれた逞しい裸のロシア人奴隷(しかもヒゲ面)が、10人くらい円座になっていて、その肩の上に大きな円盤が乗っていて、首領はその上に胡座かいているんですな。で、首領はそこし座りながら、踊り子のダンスなんぞを鑑賞するんですが、その舞台も同じく「人間舞台」でね。裸の奴隷が身体で支えている。しかもこっちは、板の縁にはグルリと燭台が突き出ていて、そこに蝋燭が燃えてたり。
 こーなると私の頭は、「踊り子が踊るたびに、その動きと重みに背骨が軋み、しかも揺れる蝋燭から熱涙が、裸の肌に降り注ぐ……」なんての、自動的に脳内補完しちゃうもですから、もうムラムラでゴザイマス(笑)。
 まあ、もちろんそんな描写はないですけど、カラーの実写映画で、しかもけっこうなスケールでこーゆー絵を見せられるとね、なかなかくるものがあって、すっげー「得した感」アリでした(笑)。
 因みにこの『イリヤ・ムウロメツ』のDVD、ロシア盤とはいえ日本語字幕もしっかり入っています。
 版元のRUSCICOというところは、日本のIVCと提携しているらしく、このRUSCICO盤はけっこうIVCからコンスタントに国内発売されるんで(同じプトゥシコ監督の『サルタン王物語』は既に発売済み)、これも待てばそのうち日本盤が出るかも。あ、でも、だいぶ前にロシア盤が出た、初の米ソ合作映画『青い鳥』(光の女王がエリザベス・テイラー、夜の女王がジェーン・フォンダ、「贅沢」がエヴァ・ガードナーっつー豪華キャスト……なんだけど、映画自体は凡作。私は嫌いじゃないけど)とか、まだ日本盤が出る気配がないから、本当に出るかどうかは判りません。
 ただ、このIVCの出す国内盤って、ジャケが日本語になってるだけで、ディスクの中身はロシア盤と一緒。ロシア盤で日本語字幕が付いていない映像特典とかは、日本盤になっても字幕なしのまんまなので、私はたいがい待ちきれずに、ロシア盤を買っちゃってます(笑)。

巨竜と魔王征服 イリヤ・ムーロメッツ[DVD] 巨竜と魔王征服 イリヤ・ムーロメッツ[DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2006-04-26
青い鳥 [DVD] 青い鳥 [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2006-06-30

 そうそう、あと個人的な偏愛映画の一つ、ルー・フェリグノのB級ファンタジー映画『超人ヘラクレス』も、続編と併せて2in1で、ようやくアメリカでDVD化されまして、注文してたのが数日前に届いたんですが、まあいいかげん長くなったので、その話はまたの機会にということで。

『ベアー・パパ』

『ベアー・パパ』(2004)ミゲル・アルバラデホ
Cachorro (2004) Miguel Albaladejo
 第14回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて、トークショーのゲストを兼ねて鑑賞。
 本題に入る前に、まずトークショーの方から。
 すいません、時間が短いこともあって、あまり実のあることは喋れませんでした。
 特に『パニッシャー』のゲイ描写の件は、あれはいわばマクラで、あそこから「このテの映画にしては、実はけっこう等身大感覚のゲイが描かれている」というところに持っていきたかったんですが、横目で時間経過のカンペを見て断念。
 このネタは、そのうちBlogで書くかも。
 では、映画の話。
 内容紹介は、とりあえず映画祭の公式サイトから引用させていただきましょう。
「歯科医のペドロは、地位アリ・金アリ・遊び相手複数アリのお気楽独り身ゲイ生活を楽しんでいた。
 ところがある日、2週間の約束で、9歳の甥ベルナルドを預かることになってしまって、さあ大変。
 今までの自分本位の生活を一変させ『良き保護者』になろうと奮闘するペドロ。それとは対照的に超自然体のベルナルド。そんな2人の不思議な共同生活が始まって……」
 とまあこんな感じで、ユーモアたっぷりに、それでもそこかしこにシリアスなトゲもチクチク仕込みながら、話は軽快に進んでいきます。
 物語の進行は、いたって順調。ところどころに仕込まれるエロティックなシーンは、かな〜り生々しい上に(どのくらい生々しいかというと、映画祭のスタッフの方が「税関通るかどうか心配でした」と仰ってたくらいでして、いや、けっこうスゴかった! 特に、しょっぱな!)、出てくるのは「ヒゲあり体毛ありの太め」とゆー「熊系」のゲイばっかなので(熊系ばっかのパーティーに来たベルナルドに、パーティーの一人が「見分けるの大変でしょうけど」なんて言うシーンには大ウケ)、ノンケさんは引いちゃいそうだし、やおい好きの女子でも見る人は選びそうではありますが、私にとっては目のご馳走。
 で、やがてベルナルドのおばあちゃん(ペドロの姉の旦那さんの母親で、死んだベルナルドの父親を愛する反面、母親のことは快く思っておらず、現在のベルナルドの教育環境も好ましくなく思っている)が絡んできたり、HIV/AIDSの問題が絡んできたり。ここいらへんから、話が果たしてどういう方向に転がっていくのか予断を許さなくなり、筋運びはかなり達者。
 やがて物語の内容は、ペドロという「ゲイの物語」から「家族の再生の物語」へと変化していく。
 ここいらへんのテーマの拡がり方は、同じスペインの『オール・アバウト・マイ・マザー』とか、あるいはフィリピン発のゲイ映画『真夜中のダンサー』とか、更には名作『トーチソング・トリロジー』なんかを、ちょっと思い出させるところがあります。
 或いは、ゲイという要素を抜いて考えれば、『コーリャ 愛のプラハ』とか、或いは最近の『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』なんかとも似た構造とも言えそう(因みにこの映画二本とも、見ながら私は「もし自分がこの引き取られた子供だったら、きっと新しい『おとうさん』を性的にも好きになっちゃって、さぞかしヤヤコシイことになるだろうな〜」なんて思っちゃったんですけどね、今回はその『おとうさん』がゲイだから、見てる間も気分はずっとパパ視点でした)。ただ、「負うた子に教えられる」というセオリーの踏襲という意味では、前者の方により近いかな。
 つまりまあ、テーマはゲイ・オンリーではなく、最終的にはより汎的な「人の絆」に拡がっていくわけです。
 個人的に新鮮だったのは、まず、物語にパートナーシップ(言い換えれば「夫婦」のような「つがい」の概念)が絡んでこないところ。
 ペドロは特定のパートナーを必要としないタイプのゲイであり、こういう「最初は別々のに人間が、愛し合って一緒になる」というような、オーソドックスな社会通念から外れたキャラクターを軸にしつつ、同時にそこで「ゲイにとっての家族の再生」を語るというのは、これはけっこう難しいことだと思うのですが、この映画はそこを上手く纏めている。
 パートナーシップを絶対的なものと信じて疑わない人には、ちょっと受け入れづらい部分もあるかとは思いますが、逆に、そういったパートナーシップというものが「単なるヘテロ社会の模倣でしかないのかも?」なんていうような疑問を、一度でも抱いたことのある人ならば、この映画の提示する「家族の再生」の物語は、そのプロセスや最終的なメッセージ共々、かなり興味深く見られるのでは。
 とはいえ、この映画はパートナーシップに対して、特に疑問を提示しているわけでもない。
 パートナーシップの問題に限らず、ゲイそのものに関しても同様で、それらを大上段に振りかざすことはなく、特に問題提議をするわけでもなく、あくまでも「こんな一人のゲイがいました、そしてこんなことがありました」といった風にサラリと描いている。
 ここいらへんは、人間の生きる自由を保障してくれる、個人主義がしっかり確立された世界観という感じで、見ていて実に心地よい。
 類型的な価値体系からは外しつつ、考えようによってはかなりとんがったテーマなのに、かといってアグレッシブにもならず、ユーモアもペーソスも交えた、あくまでも面白いドラマとして描くという、このバランス感覚は、娯楽映画的に至極真っ当でレベルが高いのでは。
 細かい部分では、価値観やライフスタイルの相違による確執の相手が「自分の親兄弟(血縁者)」ではなく、「甥っ子の祖母(血縁者ではない近親者)」にしたのも、それによって物語が類型化から免れているので、ここはなかなか技アリ。終盤近くなって、ベルナルドが祖母に激白するセリフによって、姉夫婦の間には、映画では具体的に語られていない更なる別の事情があったのではないかと、観客に想像させる余白を持たせているのも、物語を枠外に拡げるという意味で効果的。
 反面、ペドロの両親について、存命なのか鬼籍に入っているのか、反目していたのか認め合っていたのか、全く語られない(ひょっとしたら、ちょっとしたセリフで示唆していたのかもしれませんが、申し訳ないけれど、私にはそういった要素は拾いきれませんでした)のは、別にいいんですけど、家族の再生や絆の誕生を描くという点では、ちょっとズルい「逃げ」かも。
 HIV/AIDSの取り上げ方も、興味深いものがあります。
 物語的に大きな鍵の一つでありつつも、それが全てを支配はしない。現実の問題として目をつぶることはせず、かといってそこから過剰な悲劇を紡ごうとはしない。こういった「重要ではあるが全てではない」という描き方を見ると、かつてシリル・コラールの『野生の夜に』を見て暗澹たる気持ちになった頃を思い出し、少し勇気づけられます。
 ただし、これをそのまま日本に当てはめることはできないのは残念ですが。
 役者さんは、メインから脇にいたるまで、おしなべて好演。ペドロの非・熊系の友人とか、小柳ゆき似のベビーシッターとか、キャラも良く立っていて魅力的。
 個人的には特に、飛行機のパイロット(やっぱり熊系)が制服のまま会いにくるってのに、フェチ心をムチャクチャ擽られたりして(笑)。いや〜、ステキだわぁ、こんな現地妻生活(笑)。
 というわけで、下心で見ても楽しめるし、ゲイ系の小ネタとしても楽しめるし、物語としても楽しめるし、深く考察しても楽しめるという、いろいろと見どころ豊富の面白い映画でした。
 これが、おそらく今後見られる機会が殆どないであろうというのは、実に残念な気がします。熊系のゲイ映画ってだけども、実に稀少なんだけどねぇ。劇場での上映は無理としても、ビデオスルーでいいから、どっか果敢な会社が出してくれればいいんですけど。
 ただ、米盤DVDは既に発売されているので、興味のある方はamazon.comあたりで、英題”Bear Cub”で調べてみてください。

クラシック・エジプト映画のオムニバスDVD

musicfromthegoldenera1
“Music from the Golden Era – Volume 1”
 エジプトのRotana Distributionから発売された、昔のエジプト映画から歌のシーンだけを集めた、オムニバスDVDのご紹介。
 登場歌手は、ジャケ写にもなっているウム・クルスーム、アブドゥル・ハリム・ハーフェーズ、ファリド・エル・アトラーシュの他、もちろんアスマハーンも……という具合に、アラブ歌謡に興味のある人だったら知る人ぞ知る大御所揃い。
 他には、私は初めて名前を聞く人たちで、サイード・アブドゥル=ワハーブ(ちょっと検索してみたら、かのモハメッド・アブドゥル=ワハーブの甥っ子だそうな)、ライラ・ムラード、アーメッド・アダウェヤ、モハラーム・フーアド(ここいらへん、発音表記に自信なし)など。
 14曲収録のうち、一本を除いて残りは白黒。カラーの一本は、ファッションからして60年代らしい(サイケなジオメトリック柄のミニスカ・ワンピを着たオンナノコたちが踊ってたから、ちょっとビックリしました)んですが、他はおそらく40〜50年代の映画ではないかと。
 歌と音楽は、とにかく素晴らしいの一言。優雅で重厚なストリングスに、コブシがたっぷり効いた歌。アラブ音楽にタンゴなどの要素を取り入れた、ちょっと西洋寄りでポップな歌。コミカルで軽妙な歌。いかにもロマンチックな恋の歌。英語字幕を選択できるので、歌詞の内容が判るのもありがたい。
 懐メロ系アラブ歌謡がお好きな方だったら、満足すること間違いナシでしょう。
 個人的にお気に入りは、まず夭逝の美人歌手アスマハーンの”Layali El Onss”。長い節回しを見事に聞かせる歌声に加えて、そのオーラを感じさせる堂々たる美貌がズゴい。ジョーン・クロフォードみたいです(笑)。同じDVDで、彼女のライバルだったウム・クルスームの映像を見ると、ちょっと「絵として見たときの冴えなさ」を感じてしまうので、アスマハーンが亡くなったときに「ライバルの抹殺を図ったクルスームの陰謀」なんて流言が出たという逸話が、何となく納得いきます(笑)。
 それから、ファリード・エル・アトラーシュの”Mat’olsh Lehad”。レビュー仕立てで、セットや曲調を、タンゴ調、ヌビア(スーダン)風、ベドウィン風と、次々と切り替えながら、尺も長くたっぷりと聞かせてくれるナンバーで、これはかなり楽しい。
 アブドゥル・ハリム・ハーフェーズの”Lahn El Wafaa”も、同じくステージ仕立ての長い曲。長いイントロから、彼のソロ、女性歌手とのデュエット、コーラスの掛け合いまで、舞台の袖で涙ぐんでいる老人(どうやらけっこう感動的なシーンらしいので、どーゆー話なのか気になります。このオジイチャンが作曲した歌なのかなぁ)ともども、たっぷり見せて&聞かせてくれます。
 同じハーフェーズでも”Ana Lak Ala Toul”になると、今度はギター片手に小舟の上から、出窓に佇む美女に向けて「君に会ってから眠れなくなっちゃったんだよ〜」と歌いかけ。絵面が、何だか若大将シリーズみたい。
 他にも、男女六人で軽妙な掛け合いを聞かせる、サイード・アブドゥル=ワハーブの”Alby El Assi”とか、太めのベリー・ダンサーを取り囲んだオジサンたちのコミカルな様子を見せる、モハラーム・フーアドの”Remsh Eino”といった、楽しい系の歌もまたヨロシ。
 ともあれ、個人的には大満足。全部で90分あるんですが、見終わったときの印象は「短〜い、もっと見た〜い!」でゴザイマシタ。ま、ここいらへんはVolume 1とあるんだから、2以降に期待いたしませう。
 画質は美麗。もちろんフィルムの経年劣化のよる傷等はあるし、全体的に少々コントラストがきつめですが、ディテールの再現性などは極めて良好。アスマハーンのなんて、これが戦前のフィルム(亡くなったのが1944年らしいので)とは思えないくらい状態が良くてビックリ。
 音声は、曲によってはちょっと割れているものもありますが、古さを考えれば充分良いといって差し支えないのでは。
 リージョン・コードはALL。NTSC。スタンダード・サイズ。字幕は、前述の英語の他、仏語も選択可能。アラビア語字幕はなし。
 チャプター・メニューでは、各々の歌の歌手、作詞者、作曲者、収録されている映画のタイトルなどの、英文クレジットあり。共唄者のクレジットがないのは残念ではありますが、全体的になかなか行き届いた好ディスクです。
 とゆーわけで、アラブ歌謡好きの方には、なかなかオススメの一枚です。
 因みに私は、www.maqam.comで購入。ここはCDの試聴もできるので、アラブものを探すときには重宝しております。買ったことはないけど、アラブ音楽用のキーボードとか、エレクトリック・ウードなんてのも売ってます(笑)。ただし英文オンリーの海外サイトなので、ご利用はあくまでも、at your own riskだというのをお忘れなく。
 最後に、お好きな方へのご参考として、収録曲の一覧を。
Om Kolthoum “El Ward Gameel”
Abd El Halim Hafez “Ana Lak Ala Toul”
Farid El Atrash “Ya Habiby”
Saad Abd El Wahab “Alby El Assi”
Layla Murad “Baheb Ethnein Sawa”
Asmahan “Layali El Onss”
Moharram Fouad “Remsh Eino”
Ahmed Adaweya “Habba Foak”
Om Kolthoum “Nacheed El Khetam”
Abd El Halim Hafez “Zalamouh”
Farid El Atrash “Mat’olsh Lehad”
Layla Murad “Ya Aaz Men Einy”
Om Kolthoum “Onshoudat Baghdad”
Abd El Halim Hafez “Lahn El Wafaa”

『リトルトウキョー殺人課』のDVDが期間限定で690円

 ドルフ・ラングレン主演の珍作『リトルトウキョー殺人課』のDVDが、期間限定で690円っつー安価で発売されました。これ、以前も980円で売られてまして、そんときにも「わぉ、お得!」とか思ったんですが、今度は更に安くなって690円ですよ、690円。マジでお買い得。
 とはいっても、あんまりマジメに人にオススメできるタイプの作品じゃないですけどね、でも「特定の趣味の持ち主」には、ちょっとオススメなんです(笑)。
 お話は、ロサンジェルスの日本人街に進出したヤクザの陰謀を、白人だけど幼い頃に日本で育って武士道を身につけた刑事と、自分のルーツに関心がない日系人の刑事が、コンビを組んで打ち砕く……ってな内容です。まあ、肩の凝らない勧善懲悪&仇討ち(の要素もある)アクションもの。
 で、最初のタイトルバックが、オリエンタルな刺青をした筋肉モリモリのビルダーのトルソ。筋肉&刺青好きのウチの相棒なんて、ここだけで既に大喜び(笑)。
 他にも刺青は盛り沢山。
 半裸の刺青男が「自分で自分の首を折って自害する」ってのは、ちょっとトンデモシーンですが(笑)、主役の刑事コンビとヤクザ軍団が公衆浴場で大乱闘するシーンは、褌一丁の刺青ヤクザのオンパレードなので、見ていてなかなか楽しい。
 で、メインの「サムライの心を持つ白人刑事」がドルフ・ラングレンで、相棒の日系人刑事が今は亡きブランドン・リー。何だか豪華なんだかチープなんだか判断に苦しむキャスティングですが……まあ、きっと豪華なんでしょう。そーゆーことにしとこう(笑)。
 で、このお二人、仲良く敵のヤクザにとっ捕まって、二人並んで電気拷問されたりしてくれるのが、またウレシイ。因みに、ドルフは黒パンツ一丁の裸、ブランドンもジーンズのみで上半身は裸というスタイル。まあ、どっちも顔はぜんぜん好みじゃないですけど(笑)。
 それとこの映画、一部でその「トンデモニッポン描写」が有名(笑)だったりする。
 まず、事件の核となるナイトクラブの名前が「盆栽クラブ」ってトコからしてヘンテコ。で、この「盆栽クラブ」では、ブロンド美女が全裸で女体盛りされていたり(しかも盛られているのは、刺身じゃなくて寿司)、ステージでマワシをしめたオッパイ丸出しのオンナが、女相撲やってたり(しかも顔だけ、舞妓さんみたいな白塗りで)とゆー具合のヘンテコさ。
 ドルフが自分で建てたとゆー設定の、日本家屋モドキもステキです。和室の真ん中にコタツがあるんですが、上掛けがなくて骨組みがムキダシ。で、ドルフがそのスイッチを入れて「すぐに暖かくなる」とか言ってんですけど……ぜったいストーブと勘違いしてる(笑)。他にも、庭の真ん中にトートツに風呂桶があったり。まあ、これはこれで気持ちよさそうではありますけど。
 他にも、凌辱されたクラブ歌手が「切腹の準備」をするシーンとか、ヤクザの用心棒の一人に、マゲ結って刺青したスモウレスラーがいたりとか、ツッコミどころは盛り沢山なんですが、極めつけはクライマックスの、ドルフの討ち入り(……と、つい言いたくなってしまう)衣装のトンデモナサ。どれだけトンデモナイか、しれはまあ見てのお楽しみ(笑)。
 そんなこんなで「ヘンなもの好き」には、お楽しみどころがイッパイです。カタコトの日本語で喋るドルフなんつーのも見られる。
 それと、そんなヘンテコ描写を無視すれば、出来そのものは、軽い娯楽映画としては、実はそんなに悪くない。
 テンポは良いし、それなりに見せ場も散りばめられてるし、話はベタだけど予定調和的な満足感はあるし、79分と尺が短いせいもあって、飽きずに一気に見られる。
 とゆーわけで、いろんな意味で見どころ盛り沢山の一本。
 これで3800円とかだと、ちょっと考えちゃいますが、なんせ690円だからねぇ。お得だと思いますよ〜。
 因みに私は、980円のときに買ったんですけどね(笑)。

『ゴッドandモンスター』のノートリミング版DVDが発売

 昨日、6月24日、ギャガ・コミュニケーションズ/ビクターエンタテイメントから、ゲイ映画の名品『ゴッドandモンスター』のDVDが発売。
 とはいえ、同作のDVDは既に、アットエンタテインメント/ハピネット・ピクチャーズから発売されていたんだけど、残念ながら画面の両端をトリミングした4:3スタンダード版だったのだ。
 今回は、ノートリミング、レターボックスのビスタで、16:9のスクイーズ収録。ネットショップ等では、4:3スタンダードと表記されていたりしたんけど、店頭で現物を調べたら、前述の表記。で、買ってプレーヤーで再生してみると、やっぱりちゃんとノートリミング版。
 本編のみで、北米版についているようなメイキング等のオマケは、何も入っていないのは残念だけど、とりあえず、ようやくノートリミング版が国内発売されたというだけでも、嬉しい限り。
 2625円と、比較的安価でもありますので、旧盤のトリミングに不満をお感じだった方、宜しかったらお買い換えあれ。
 もちろん、未見の方には激オススメです。
 内容は、実在したゲイの映画監督ジェームズ・ホエールの晩年を、彼の代表作でもある『フランケンシュタイン』『フランケンシュタインの花嫁』と絡めながら、詩情豊かに、凄みを交え、生と死、愛と狂気の狭間を漂いながら、切なく描いた物語。
 ジェームズ・ホエールを演じるのは、これまたご本人がオープンリー・ゲイであるサー・イアン・マッケラン。『ロード・オブ・ザ・リング』のガンダルフじいさんですな。本作では問答無用の名演で、アカデミー主演男優賞にもノミネートされました。冒頭で見せるキス・シーンは、その自然さといい、さりげない愛情の深さといい、個人的に「映画で見る男同士のキス・シーン」のベストの一つ。あと、ガーデン・パーティーでホエールが、彼同様にゲイだった映画監督ジョージ・キューカー(『マイ・フェア・レディ』とかの監督さんです)と、オネエさん風のイヤミを飛ばしあうシーンは、映画好きのオカマなら受けること必至。
 ホエールを惑わす(とゆーと語弊があるか)逞しい庭師に、ブレンダン・フレイザー。『ハムナプトラ』の主役のアンチャンが一番馴染みがありそうですが、『ジャングル・ジョージ』から『聖なる狂気』まで、かなり芸域の広いお方。本作では「全裸+ガスマスク」とゆー、フェティッシュ・スタイルを見せてくれます。
 二人の関係を傍らで静かに見つめる老家政婦に、リン・レッドグレーブ。ヴァネッサ・レッドグレーブの妹で、お姉さんと違ってぜんぜん美人じゃないけど、演技は実力派。本作の演技でアカデミー助演女優賞にノミネート、ゴールデン・グローブ助演女優賞を受賞。
 監督および脚本のビル・コンドンは、本作でアカデミー脚色賞を受賞。
 製作総指揮には、ホラー小説好きやホラー映画好きにはお馴染みのクライヴ・バーカー。『血の本』『ヘルレイザー』『ミディアン』『キャンディマン』あたりが有名かな。で、この人もオープンリー・ゲイ。
 カーター・バーウェルのスコアも良く、あたしゃサントラ盤を買いました。
 で、この映画を見て気に入ると、今度は実際のジェームズ・ホエールの映画も見てみたくなる……という方もいらっしゃるかと思います。
 もちろん、本作で引用がある『フランケンシュタインの花嫁』も名品なんですが(どーでもいいけど、この花嫁役のエルザ・ランチェスター、実生活で夫だったチャールズ・ロートンも、これまたゲイだったという。で、彼女は夫がゲイだと知りつつ、それでも彼を愛していたそうな。あと、『ゴッドandモンスター』内で再現されている『フランケンシュタインの花嫁』の撮影風景を見ると、同作でプレトリウス博士を演じているアーネスト・セジガーも、もうバリバリのオネエサン)、個人的にオススメしたいのは『透明人間』。これはテンポの良さといい、特撮的な見せ場といい、サスペンス的な演出といい、随所に仕込まれたユーモアといい、1933年制作の映画とは信じられないくらいに、面白くてモダン。
 因みにヒロインを演じているグロリア・スチュアートは、この映画から64年後に制作された、あの『タイタニック』で、老いたローズ、すなわちオバアチャンになったケイト・ウィンスレットを演じていた女優さん。
 もひとつ、この映画で宿屋の女将を演じているウナ・オコナーという女優さんが、甲高いヘンな声といい、素っ頓狂なオーバーアクトといい、もう大好き! 『フランケンシュタインの花嫁』にも出てますし、エロール・フリンの『ロビン・フッドの冒険』でのオリビア・デ・ハヴィランドの侍女役とか、ビリー・ワイルダー監督の名作ミステリ『情婦』(これには前述のエルザ・ランチェスターとチャールズ・ロートンも、夫婦揃って出演してます)の耳の悪い家政婦役とか、チョイ役なんだけど、どれもオカマ心の持ち主にはタマンナイ演技です(笑)。
 ここいらへん、全部DVDで出ていますんで、レンタルで探すなり、いっそ買っちゃうなりして、よろしかったらお試しあれ。

『キングダム・オブ・ヘブン』追補

 前回「あと、最初の方に出てきたゲルマン人風の大男、良さそうじゃんと思ってツバつけといたら、あっという間に死んじまうし、港でバリアンを案内する男も、いいカンジと思ってたら、それっきりもう出てこないし……ううう(泣)」と書いた男優さん、どっかで見たことあるような……と、ずっと思ってたんですけど、ようやく判明。
 最初のゲルマン人は、ヴェルナー・ヘルツォークの『神に選ばれし無敵の男』で、主役の怪力男を演じていた、ヨウコ・アホラですな。NHKの深夜とかにたまにやっている「ストロンゲスト・マン・コンテスト」のチャンピョンだった人で、確か役者としては素人だったはず。
 で、もう一方の港の男は、たぶんTVムービー『レジェンド・オブ・サンダー』の前編で、スコットランド女王メアリーと恋に落ちるボスウェル役を演ってた、ケヴィン・マクキッド。(あたしゃ見てないんですが『トレインスポッティング』とかにも出てるんですな、この方)
 いやぁ、どっちも見ながら「なかなかいいなぁ」と惚れ惚れした人たちだから、あはは、嬉しくも儚い再会だったってわけだ(笑)。
 とゆーわけで、私同様にこの二人が気になった方(いるのか、そんな人)は、前述の二作をご覧あれ。どっちもメイン・キャストだし、役柄もオイシイし……あと、ヌードもあるし(笑)。
 因みに『神に選ばれし無敵の男』は、個人的には問答無用の傑作。ナチスのホロコースト絡みの重いテーマながら、詩情と神秘性があり、悲劇ではありながら陰鬱ではなく、物語的には娯楽性もある。
 唯一の欠点は、音楽がヘルツォーク組のフローリアン・フリッケではないことだけど、まあ故人だからいたしかたなし。
 もう一つの『レジェンド・オブ・サンダー』は、英国史もので、いささかこぢんまりとしつつも、目立った欠点も破綻もない、肩の凝らない娯楽作。
 ただ、前編のメアリー女王とボスウェルを軸にした、エピック&ロマンチックな雰囲気と、後編のジェームズ1世になってからの、野心陰謀欲望コンプレックス渦巻き、感情移入できるキャラクターなんて一人もいやしないっつー、ひたすらドロドロ世界のギャップがスゴイんだよね(笑)。ケヴィン・マクキッドが出るのは、前編だけ。
 あ、でも後編も、フツーにお話しとしても面白いし、ガイ・フォークス役のマイケル・ファスビンダーという役者が、なかなかいい男だったし(しかも拷問シーンもあるし)、あと、男色家のジェームズ1世(『フル・モンティ』とかのロバート・カーライル)が、家臣にホモセクハラしたりする(露骨な描写はないですけどね、確かノンケの臣下の頼みを聞くことと引き替えに、フェラを強要するんだったかな?)シーンなんつーのもあるし、レンタルで見る分には損はないと思いますよ。
 以上、どーでもいいよーな追補でした(笑)。

『キングダム・オブ・ヘブン』

『キングダム・オブ・ヘブン』(2005)リドリー・スコット
“Kingdom of Heaven” (2005) Ridley Scott
 いやあ、素晴らしい!
 この映画で描かれている様々なもの、例えば、衝突する異文化とそこに生まれる軋轢、それらの解決に必要な相互理解、人類が普遍的に抱えつつ、しかし未だに解決できずにいる「平和」という命題、などなど、まさに今の時代にしか作られ得ず、同時に今の時代だからこそ作られなければいけない、そういうタイプの作品。
 仮に、歴史を知る意義の一つに、その歴史から現代に生きる我々が何かを学ぶということがあるとすれば、この映画は間違いなくそれを達成しています。(念のために、この映画が史実的に正しいと言っているわけではなく、この映画の作り手が、そういったスタンスで、歴史を基にした「フィクション」を作り上げることに成功している、という意味)
 あと、自らの魂に恥じない生き方をするといった点に、個人的に大いに感動しちゃったんですけど、ここいらへんは文章にすると「酔ってま〜す」系の、こっぱずかしくてクサいものになりそうなんで、自粛(笑)。
 まあ、多少の瑕瑾はあります。
 最も大きな問題は、上映時間に対して、エピソードやメッセージを詰め込みすぎていて、全体的に駆け足の感が否めないこと。特に前半の飛ばしっぷりは、こちらの感情が置いてきぼりにされてしまう感じ。そのせいもあって、物語がエルサレムに入ってからは、そこで繰り広げられるパワーゲームが余りにも面白すぎるせいもあり、中盤、主人公周りのエピソードが、物語的な魅力としては色褪せてしまうような印象もありました。ただ、クライマックスからエンディングにかけて、しっかりそれらが絡み合って、全体を盛り上げてくれたんで、最終的にはオッケー。
 また、ちょっとしたセリフに込められたニュアンスや、それが意味するところを正しく読み解くためには、歴史やカソリックやイスラムに関する知識が、それなりに必要とされる様子。おそらく私も、全て理解できたとは思えないので、そこいらへんはDVDになってから、じっくり再見するのが楽しみ。
 ただ、そういった欠点も、各役者の発する存在感と、圧倒的な映像の表現力で、結果的には帳消しだという印象。
 特に、描かれているものが、キャラクターにしろ民族という問題にしろ宗教という要素にしろ、それらを見る視点が、かなり引いた俯瞰的なものなのであり、同時に多様性を持ちあわせているという点は、個人的に大いに魅力的。娯楽大作の枠組みの中で、こういったことをこれだけきちんとやり遂たのは、これは拍手喝采もん。
 映像に関しては、セットや衣装の見事さはもちろんのこと、その油彩画的な陰影の深い、重みのある美しさは絶品です。ここいらへんは、同じ監督の撮った史劇同士で比較しても、『グラディエーター』や『1492 コロンブス』を凌駕している感じ。
 全体的には、エンタテイメントとしては重かったり、判りにくかったりする部分もありますが、かといって決してワケワカンナイとか退屈だということはなく、アクション・スペクタクル・シーンだけ取り出しても、充分以上にオツリが来る見応えですから、オススメの逸品です。
 役者も好演。
 主演のオーランド・ブルームは、『ロード・オブ・ザ・リング』『パイレーツ・オブ・カリビアン』『トロイ』などと比較すると、ぐっと「大人っぽく」なりましたね。キレイカワイイ王子様に、ちょっと渋みもプラスされた感じ。鑑賞直後は、正直いささか線が細いという印象もあったんですが、あとからつらつら反芻していると、この映画の主人公のような、社会的な立場や肉体的な強さではなく、魂の純粋さが鍵となる「英雄ならざる英雄」像には、案外このくらいで正解なのかも……なんて気もしてきます。主人公として物語全体を牽引していく力は、ちょっと弱い部分がありますが、基本的に群像劇であるこの映画の場合は、それほどマイナスな印象はなく「少し惜しい」程度。
 周囲を固める役者さんは、いずれも大いに魅力的で、中でもエルサレム王役のエドワード・ノートンと、サラディン役のハッサン・マスード(シリアの役者さんだそうですが、こういった役にちゃんとそういう人を持ってくるあたりも、大いに好印象です)の二人は素晴らしい。他も色々と魅力的なキャラクター揃いなんですが、ここが諸刃の剣でもあり、魅力的ゆえに「もっと見たい」感が強くなるのに、前述の時間不足もあって描き込み不足となり、結果としてはちょいと物足りなさが残ってしまうのが残念。
 個人的にご贔屓のブレンダン・グリーソンは(タイプなんです)、う〜ん、『トロイ』に引き続き、また悪役かぁ(笑)。まぁ、魅力的な悪役ではあったけど、カワイイ笑顔を見られなかったのが残念。次の『ハリー・ポッター』では、どんな役なんだろう。ハグリッドみたいなタイプの役だったら嬉しいんだけどな(笑)。
 あと、最初の方に出てきたゲルマン人風の大男、良さそうじゃんと思ってツバつけといたら、あっという間に死んじまうし、港でバリアンを案内する男も、いいカンジと思ってたら、それっきりもう出てこないし……ううう(泣)。
 音楽のハリー・グレッグソン=ウィリアムズも良い仕事してます。キャラクターのモチーフなどのクラシカルな要素と、民族音楽的なコラージュのような要素が、上手い具合に絡み合って、画面とも上手く合った聴き応えのあるものになっています。『シュレック』のときのスコアも好きだったし、今度の『ナルニア』の音楽もこの人らしいので、これは楽しみがますます増えた感じです。
 あ、でも主要人物の葬儀シーンで、『ハンニバル』の劇中オペラの音楽を流用するのは、ちょっとやめて欲しかった(笑)。パトリック・キャシディが『ハンニバル』用に書いた、この”Vide cor meum”という曲、個人的には大好きなんですが、やっぱり『ハンニバル』のイメージが強すぎて(エンドクレジットでも使われてたし)、好きな分なおさら違和感も大だったなぁ。
 あと、個人的に大喜びしたのは、テーマ曲を歌っていたのが、大大大好きなナターシャ・アトラスだったということ。何の予備知識もなかったんで、エンドクレジットで彼女の歌声が聞こえてきた瞬間、椅子の中で声を出さずに「キャ〜」と喜びで身悶えしちまいました(笑)。
 この人は、確かアラブとスペインの血を引く在英の女性歌手でして、その昔はTrancegrobal Undergroundというエスノ・トランス系のユニットの歌姫として名高く、1995年の最初のソロアルバム”Diaspora”以降、何枚も単独のアルバムやゲスト参加したアルバムが出ています。もしこの映画で彼女の歌に惚れた方がおられましたら、ぜひ他のアルバムも聴いてくださいまし。
 クラブ系やグルーヴ感の強いのがお好みなら”Diaspora”、伝統寄りがお好みなら”Halim”、ポップ寄りがお好みなら”Gedida”か”Ayeshteni”か”Something Dangerous”、アンビエント寄りがお好みならNatacha Atlas & Mark Eagleton Project名義の”Foretold in the Language Of Dreams”なんかをどうぞ。
 ちょっと蛇足になりますが、こういう内容の映画だと、当然のごとく字幕の情報量では限界があり、正直なところ、私が判ったところだけでも、幾つか残念な取りこぼしがありました。
 というわけで、気になったところをかいつまんで幾つか。
 一番残念だったのは「サラディン」という表記ですね。映画の中では「サラディン」という英語風ではない「サラーフ・アッディーン」というアラブ風の発音になっていって、こういった配慮は異文化を表現するときの謙虚さとして、映画の内容とも合致している好姿勢なのですが、そういう配慮は翻訳では生かされていませんでしたね。
 それと、これはもう翻訳の限界なんですけど、「アッサラーム・アレイクム」の使い方がありまして、これは直訳すると「あなたの上に平安あれ」という意味の、イスラム社会で日常的に使われる挨拶です。で、それの返事は「アレイク・ムッサラーム(ワアレイクム・アッサラーム)」(あなたの上に平安あれ)と返すわけです。
 で、この映画の中では、この挨拶を英語とアラビア語でやりとりするシーンがある。片方がアラビア語で言い、それに英語で答えるシーンと、英語での語りかけに対して、アラビア語で返すシーンが両方。それも、それぞれ相手の言葉を使って。確かラスト近くに、サラディンとバリアン、バリアンとサラディンの部下(……名前忘れた)で交わされていたと記憶してるんですが、間違ってたらごめんなさい。最初のが、サラディンの英語にバリアンがアラビア語で返し、次のがバリアンのアラビア語にサラディンの部下が英語で返すんだったかな? う〜ん、ちょっと自信なし。
 で、この「平安」とはpeaceなわけです。May peace on you……だったかどうか、正確には覚えてませんけど、異文化の衝突という場において、それでも互いを尊重しあい、互いの平和を願い合うという、この映画のテーマの根幹に関わることが、この「『あなたにPeaceあれ』という意味の挨拶を、それぞれ相手の言葉でやりとりする」という、たったそれだけの行為に凝縮されているわけで、ここいらへんは私的にはかなりグッとくる感動ポイントでした。
 ついでにもう一つ、中盤に井戸を掘るバリアンに、王女シビラが「エルサレムを作ろうとしているみたいね」(だったかな?)とか話しかけるシーンがあるんですが、字幕にはなかったけど、セリフではただのエルサレムではなく、New Jerusalemと言ってるんですな。クリスチャンにとってのNew Jerusalemという言葉の意味と、”Kingdom of Heaven”という映画のタイトルからしても、シビラがバリアンの本質、その目指すところに、知ってか知らずか迫っている好セリフだ、なんて印象深く思ったり。
 もしこれからご覧になられる方がおられましたら、そういう要素に気を配りながら、ちょっと注意して聞いてみてください。きっと他にもいろいろと、面白い発見があると思います。
 いっそ、謎解き本とか攻略本とか出ればいいのに(笑)。
 あ、責め場は特になし(笑)。捕虜の王様を裸にして、ロバに乗せて引き回しの晒し者にするくらい。
 リドリー・スコットって、グロテスク美学はけっこう持ちあわせているのに(今回も幾つかあって、ニヤニヤさせられました)、悪趣味な部分があるわりには、変態性に欠けるんだよなぁ(笑)。