“In The Fog (В тумане)” (2012) Sergei Loznitsa

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“In The Fog (В тумане / V tumane)” (2012) Sergei Loznitsa
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2012年のドイツ/オランダ/ベラルーシ/ロシア/ラトビア映画。二次大戦中ドイツ占領下のベラルーシで独軍に協力者した裏切り者と、彼を処刑しに来た2人のパルチザンを描いた文芸系ドラマ。
 監督のSergei Loznitsaという人はドキュメンタリー畑だそうで、劇映画はこれが2本目らしい。原作は小説だそうな。

 1942年、ドイツ占領下のベラルーシ。
 独軍およびその手先となっている警察は、対独パルチザンおよびその協力者は厳罰に処すとして、三人の鉄道員を絞首刑にする。しかし共に捕らえられながらも、中年男スセニヤだけは解放される。
 結果スセニヤは周囲から裏切り者の対独協力者と思われ、その処刑に二人のパルチザンが彼の家に向かうのだが、その一人は彼の幼なじみでもあった。スセニヤは「自分は何も裏切り行為は働いていない」と言うが、それでも大人しく連れ出される。
 しかしスセニヤがいざ処刑されんとしたとき、警察の襲撃にあい、幼なじみのパルチザンが深手を負う。果たしてスセニヤは本当に裏切り者なのか、そして他の二人のパルチザンは、同じ時代をどのように生きてきたのか……といった内容。

 物語の舞台はほぼ、この三人が彷徨い歩く林の中に固定されており、その間に三人それぞれの回想が挟まるという作り。テンポは極めてゆったりしており、長回しも多し。
 説明要素も少ないために、見ながら一瞬「はて?」と混乱してしまうことも多かった。しかしそういった混乱も、良く考えれば「あ、なるほど!」と判るようになっているので、表現手法が娯楽映画的ではないというだけで、内容自体が難解というわけではなし。
 テーマもわりと明解で、見ていてあちこち考えさせられる要素も多し。具体的には、積極的にパルチザンに参加した男と、パルチザンに直接関与はしていないものの、板挟みになり自分の生き方を貫こうとした男、そして生き延びるためには何でもする男といった三人を対比させることで、時代の悲劇や人間性を問うという作り。
 個人的に興味深かったのは、戦時下では何でも起こり得るというテーゼに対して、では人間とはそんなにたやすく変わってしまえるものなのかという反問がなされているあたり。単に時代の悲劇として片付けるのではなく、そこから人間性そのものへの問題提起に繋がっていく。

 ドラマ的には、やはりスセニヤのパートが最も興味深く、いろいろ身につまされる感じ。
 以前だったら「日本も昔は、生きて虜囚の辱めを……とか、捕虜になった故に戦後に村八分なんてこともあったよなぁ」と、ある程度の距離感を持って見られたんですが、昨今の、戦時下でもないのに「売国奴」だの「反日」だのといった言葉を頻繁に目にする風潮を見ると、距離感どころか、すぐそこに地続きの同じ世界として、こういった状況があり得るんだという感がありありとして、そこいらへんは見ていてかなり憂鬱な気分に。

 テーマがテーマなので、当然のように帰結もそれなりのヘビーさで、娯楽映画要素も皆無。なので、見る人を選ぶタイプだとは思いますが、映像は実に美麗で、かといって前述したようにアート映画的な難解さはないので、個人的にはけっこう儲け物の感じがした一本でした。
 モチーフに興味あり&非娯楽映画OKの方だったら、一見の価値はあると思います。