“Eega”(邦題『マッキー』)

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“Eega” (2012) S S Rajamouli
(インド盤Blu-rayで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com

 2012年のインド/テルグ映画。殺された男が蝿に生まれ変わり、人間だったときの恋人を守り、自分を殺した相手に復讐するというファンタジー・アクション。
 監督は傑作”Magadheera“や話題作”Yamadonga“のS・S・ラジャムーリ。

 花火師のナニはもう二年もの間、隣家の美しい娘で、細かい細工物をするマイクロ・アーティストのビンドゥに恋をしていた。ビンドゥはそんなナニの気持ちを知りつつ、決して心憎く思ってはいないものの、でもそれを態度に表すことはない。
 ビンドゥは仲間と共に児童教育のNGOもしており、その資金繰りに奔走していた。そしてある日、大富豪で実業家のスディープのところへ寄付を願いに行のだが、スディープは目を付けた女は手に入れずにはおられず、欲のためには殺人をも厭わない大悪党だった。
 案の定ビンドゥの美貌に目をつけたスティープは、彼女を手に入れるために多額の寄付をし、更に食事に誘う。しかしそのレストランに、ナニが宴会用の花火を設置しに表れ、ビンドゥは改めてナニのことが気になっている自分に気付く。
 レストランからの帰り、スディープの車で送られていたビンドゥは、自分たちの後をナニが追いかけてくるのに気付き、口実を作って車から降りる。さりげなく一緒に青物市場へと行くビンドゥとナニを見て、スディープは嫉妬と怒りに燃える。
 そんなある日、ビンドゥはスクーターのガソリン切れに気付かないまま、独り遅くまで仕事をしてしまう。そして夜道を歩いて帰るのが怖いので、メールの誤発信を装ってナニに来て貰おうとする。ナニはビンドゥから初めて貰うメールに舞い上がり、早速駆けつけるが、ビンドゥの態度はつれない。
 ナニはそんなビンドゥの気持ちを察して、自分を下げることで彼女の夜道の供となる。何くれなく自分に行為を示してくれるナニに、ビンドゥも次第に打ち解け、そして別れ際、ナニのさりげない一言が、彼女が作品制作で行き詰まっていたことの打開策になる。
 作品を完成させたビンドゥは、それをナニに見せようと夜道に走り出るのだが、その時既にナニはスディープに車で拉致されてしまった後だった。スディープからの暴行を受けるナニは、最初は何が何だか判らないのだが、狙いはビンドゥだと知り「彼女に近づくと殺す!」と凄む。
 ビンドゥはナニの携帯に電話をかけ、ようやく自分も貴方を愛していると打ち明けるのだが、それはまさにナニがスディープに殺される瞬間だった。こうして、ビンドゥの愛の告白を聞きながら無念にも殺されたナニだったが、その魂は蝿になって生まれ変わる。
 最初は前世の記憶もおぼろげにしかなく、蝿としての初めての人生(蝿生?)に戸惑うナニだったが、しかしあるときスディープの顔を見て、全てを思い出し復讐を誓う。そんなことは何も知らないスディープは、ナニの死を知って嘆き悲しむビンドゥに近づき、彼女を手にれようとあれこれ策を練る。
 それを見たナニは、あれこれ蝿ならではの方法を使って、スディープがビンドゥに接近するのを邪魔する。スディープは次第に蝿ノイローゼのようになっていき、そしてついにその蝿が自分を殺そうとしていることに気付くのだが……といった内容。

 いやぁ面白かった、これは傑作!
 人間のナニはわりと早々に殺されてしまい、あとはハエが主人公になるんですが、このハエの演技(もちろん3DCGアニメですが)が、もうバッチリ。セリフもなければ表情もほとんどないのに、動きだけで喜怒哀楽をしっかり表現している。インド映画的な伝統に則って、挿入歌でキャラクターの気持ちを代弁する要素は少々見られるものの、蝿がカートゥーン的にキーキー声で喋るとか、心の声を使うとか、そういった表現面での安易さは皆無。
 で、この蝿があれこれ策を弄して、自分を殺した男に復讐しようとする、そういうアイデアの数々も実に楽しく、寝ているところを邪魔して寝不足にさせるなんていうチマチマしたやつから、交通事故を引き起こさせるなんてスペクタクルまで、もう実に盛り沢山で楽しい楽しい。
 ストーリー的にも、上手い具合に伏線を散りばめ、愛が成就する寸前に引き裂かれてしまった恋人たちという要素も、ロマンス的に良いスパイスになり、見ているこっちも、つい「蝿、がんばれ!」って気分になって、もうノリノリに。
 そして何よりかにより、《殺された男が蝿に生まれ変わって復讐する》なんていう荒唐無稽な話を、馬鹿馬鹿しさを狙ったりネタ的に消費するのではなく、真剣にしっかり全力で作っている感じが気持ちいい。
 蝿の一人称視点とか、飛び回る蝿をアップで追いかけるとか、実写とCGを上手く交えた映像の数々も良く、そういった技術的な部分でも、映画全体の質をしっかりサポート。
 もう全力で「見ているお客さんを楽しませよう!」という姿勢なので、ブッ飛び系のネタも《馬鹿馬鹿しい》のではなく、ちゃんと《楽しく》見られるのが素晴らしくて、ここいらへんは同監督の前述した傑作”Magadheera“なんかと同じ。
 後半、ヒロインがマイクロ・アーティストだという設定を活かしたブッ飛び小道具とか、土俗的な呪術まで出てくる展開とかもあるんですが、そこいらへんも上手い具合に白けずに楽しませてくれる感じで、そんな荒唐無稽さのレベルを制御する手綱さばきも上々。

 そんなこんなで、最後の最後までしっかり楽しませてくれた上に、エンドクレジットではオマケ付きのサービスなんかもあって、鑑賞後はとにかく「あー面白かった!」という満足感に。
 奇想系の設定良し、それを如何に活かすかというアイデアの豊富さ良し、そこにどれだけの説得力を持たせられるかという姿勢と技術良し、娯楽作品としての全力サービス良し……等々、文句なしの快作。オススメ!

【追記】『マッキー』の邦題で、2013年10月26日からヒンディ語版が日本公開されます。公式サイト

【追記2】DVDも発売。

マッキ― [DVD] マッキ― [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2014-03-28