『レッド・ウォリアー』

レッド・ウォリアー [DVD] 『レッド・ウォリアー 』(2005)セルゲイ・ボドロフ/アイヴァン・パッサー
“Nomad” (2005) Sergei Bodrov / Ivan Passer

 例によって酷い邦題ですが、原題は「遊牧民」の意で、18世紀のカザフスタンを舞台にしたエピック・ドラマ。
 制作国はカザフスタンとフランスですが、制作途中で資金切れとなり、ハリウッド資本(ワインスタイン兄弟)に引き継がれたらしいです。というわけで、米国公開バージョンなのかセリフは全て英語、メインの俳優陣も、アメリカ/イギリス映画で見かける面々。

 ストーリーは、18世紀のカザフスタン、複数の氏族が割拠して統一国家としては成り立っていなかったカザフ人のもとに、モンゴル系のジュンガル人が来襲して危機に陥っていたところ、予言された英雄が現れ、民族を統一してカザフスタンの危機を救う……といった内容。
 ここいらへんの歴史は全く知らなかったので、それだけで興味深く見られましたが、映画の感触としては、歴史劇というよりエピック・アクション劇といった感じで、往年のソード&サンダル映画なんかに近い、肩の凝らない娯楽作でした。
 救世主出現の予言、親を殺された赤子、主人公を導くオブザーバー的な役割の師、幼なじみの戦友、ヒロインを巡る三角関係……といった具合に、エピソード自体はエピックもののクリシェのオンパレードといった感じで、ストーリー的な新味は、あまりありません。
 実は、セルゲイ・ボドロフの単独監督作品だと思っていたので、けっこう期待していたんですが、その期待は、正直外れてしまいました。
 というのも、再生してみたら、監督がボドロフとアイヴァン・パッサーの二名になっていて、「ん?」と思ったんですけど、後からIMDbで調べてみたら、そもそもはパッサーが監督していたところ、前述の資金難で新しいプロデューサーが入り、その時点で監督もボドロフに交代したらようです。
 そのせいもあってか、ボドロフ監督の2007年作品『モンゴル』には、いたく感銘を受けたんですけど、この『レッド・ウォリアー』には、『モンゴル』の美点は殆ど感じられず。あの、神話的なまでの力強さを期待してしまうと、完全に裏切られてしまうのでご注意あれ。

 逆に、『モンゴル』がイマイチだった人には、こっちは軽い娯楽作品として退屈せずに楽しく見られるので、オススメかも。私自身、前述の期待値をさっ引いて考えれば、けっこう楽しめました。いちおう歴史に題材を採ってはいますが、モノガタリの構造としては、中央アジアの遊牧民というエキゾチックな舞台で繰り広げられるヒロイック・ファンタジー(ただし魔法と筋肉は抜き)みたいな感じなので。
 中央アジアの草原がメインなので、風景なんかは実に雄大で良し。騎馬の群れや軍団なんかの、物量感も佳良。
 町並みや城塞なんかも、国は違いますが、サマルカンドやタシケントなんかを思わせるペルシャの影響が色濃い様式で、そんな城塞を舞台にした攻城戦とかは、あまり他では見られませんし、見ていて楽しいです。
 アクション面では、いかにも遊牧の騎馬民族といった感じの、アクロバティックな乗馬技術を生かしたシーンなんかに、目を惹かれます。左右に居並ぶ矢衾の間を、サーカス芸のように馬を乗りこなし、飛んでくる矢を交わしながら駆け抜けるシーンとか、かなり見応えがありました。
 風俗描写やお祭りの情景なんかが見られるといった、観光映画的な楽しさもあり。
 ああ、あとラストカットが美しかったなぁ。ここはすごく印象に残りました。

 ただ、役者さんにちょいと難ありで、別に演技とかは問題ないんですが、問題はルックス。
 いや、美形だのブスだのといったことでもなくて、主役のクノ・ベッカーという人(未見ですが、『GOAL! ゴール!』シリーズの主演男優さんだそうです)、この人はメキシコ人らしいんですけど、正直、お顔が白人白人しすぎていて、あんまり中央アジアの人には見えないんですよ。
 サブ・キャラクターのジェイ・ヘルナンデス(『ホステル』の主役の人)も、いかにもラティーノといった顔なので、同様の違和感があるし、悪役のマーク・ダカスコスも、この人はハワイ系らしいですが、やっぱりしっくり来ない。
 まあ、民族や文化が交錯している中央アジアだし、バタくさい顔でも不思議はないのかも知れませんが、それでも周囲の人々がモンゴロイド系の顔なだけに、やっぱちょっとヘンな感じがします。特に主役のベッカーは、どう見ても父親役の人と同じ人種には見えないし。
 というわけで、メインのキャラクターが、それらしく見えないというのが、どうも全体の説得力の足を引っ張っている感が否めません。今どきの映画で、これはちょっと辛いかなぁ。
 ただ、オブザーバー役のジェイソン・スコット・リーや、ヒロインのオンナノコ(ちょい、眉毛描いている珍獣ハンターの人に似ている気が)や、敵の王様なんかは、違和感もないしいい味を出しています。

 そんなこんなで、まあ全体的に「そこそこ」ではありますが、中央アジアの風物史が好きとか、馬が好きとか、エキゾなエピックが好きとか、絵面としての歴史劇を楽しみたいとか、そういった好きポイントが合致する人ならば、珍しいネタでもありますし、一見の価値は充分にあると思います。
 シルクロード好きなら、要チェックですね。