最近の500円DVD

 PD映画の500円DVDなんだけど、書籍扱いなのでアマゾンのDVD検索で引っかからないヤツの中から、わりと最近見たものを幾つかご紹介。
 どれも古い映画ですし、500円DVDなので画質とかはそれなりですけど、史劇好きなら見て損はないかと。500円だし(笑)。

ポンペイ最後の日[DVD] 『ポンペイ最後の日』(1935)アーネスト・B・シュードサック
“The Last Days of Pompeii” (1935) Ernest B. Schoedsack

 てっきり、エドワード・ブルワー=リットンの小説の映画化かと思ってたら、しょっぱなに字幕で「違います」と出てビックリ(笑)。
 ストーリーは、貧しいが正直者だった鍛冶屋が、身内の不幸などアレコレあって「金の亡者」と化し、剣闘士や商人などを経てのし上がっていくが、しかし……というのが本筋。それに、イエスの磔刑やピラトとの関係とかいった、聖書劇っぽい要素を絡めつつ、クライマックスのヴェスビオ山の大噴火というスペクタクル・シーンになだれこむ……という、実に盛り沢山で波瀾万丈なオリジナル・ストーリーです。
 まあ、パターンとしては『ベン・ハー』の焼き直しという感じだし、いかにも「キリストの話とポンペイの滅亡を一緒にすれば、ダブルでお得じゃない?」的な浅はかさが透けて見える感はあるんですけど、でも、ベタな娯楽作としては充分以上に面白い展開だし、たっぷり楽しめる内容になっています。「大作娯楽映画のクリシェは全部入れました!」みたいなサービス感も、また楽し。
 そういう意味では、クライマックスのポンペイの滅亡シーンが、実に上出来。町の崩壊もパニック・シーンも大迫力だし(ここいらへんは、スティーヴ・リーヴス版を遥かに上回ります)、はたまたジョン・マーティンばりの絵画的な構図が出てきたりで、もう大満足。ただまあ、そんな期待を裏切らない一大スペクタクルの中でも、「ほら、感動しなさい!」と言わんばかりのコテコテのドラマが、やっぱり出てくるんですけど、ここまで徹底してくれれば、もう目くじらもたてずに楽しく見られます(笑)。
 役者さんは、ピラト役のベイジル・ラスボーンという名前には、何だか見覚えがありますけど(フィルモグラフィーを見ると、エロール・フリンの『海賊ブラッド』『ロビンフッドの冒険』とか、タイロン・パワーの『怪傑ゾロ』とか、幾つか見たことのある映画はありますが、正直どんな役だったかまでは記憶になし)、それ以外は全く知らない方々。因みに主演は、プレストン・フォスターという人。物語の中で剣闘士になったりするので、そこそこ立派な体格。30年代から50年代にかけて、戦争映画とか西部劇に出ていたみたいですね。

ゴルゴダの丘[DVD] 『ゴルゴダの丘』(1935)ジュリアン・デュヴィヴィエ
“Golgotha” (1935) Julien Duvivier

 ジュリアン・デュヴィヴィエ監督は、高名を知るのみで実は作品を見たことがなく、今回が初体験。
 DVDとしては、確か以前にも東北新社かどっかから出ていた記憶がありますが、そっちは既に廃盤みたいですね。内容は、イエスの生涯を、エルサレム入城から磔刑、復活までに絞って描いたもの。
 冒頭、エルサレム全景をスクリーン・プロセスでパンする映像から、神殿内でユダヤ教の祭司たちがあれこれ案じて会話する移動撮影になり、次にイエスのエルサレム入城をこれまた移動撮影で捉えたシーンに繋げ……という、有機的に連動した流麗なカメラワークによるオープニングが絶品。ただ、いざ本編に入ると、全体のバランスがいささかぎこちなくバラけている感があり、全体を通して何をやりたいのか、ちょいと焦点が絞り切れていないみたいな印象。
 とはいえ、捕縛シーンとかで見られるジョルジュ・ド・ラ・トゥールみたいな陰影法とか、ヘロデ・アンティパスのクローズアップで表現されるイエスとの対面シーンとか、映像的にはあちこち「おぉっ!」と目を見張らされる表現が。セットやモブのスケール感は大したものだし、イエスの造形が、映画だと良く見られるルネッサンス的なそれではなく、ゴシック様式の教会にある聖像のような、中世彫刻的なそれなのも興味深い。
 宗教的な解釈等は、特に目新しいものはなく、わりと「そのまま素直に」絵解きとして描いている印象。
 ただ興味深いのは、フォーカスが受難劇そのものではなく、その周囲の人間たちに置かれているということ。受難劇そのものは定型的なそれをなぞりながら、ポンテオ・ピラトや題祭司カヤパやイスカリオテのユダといった人物から、その場に居合わせた一般民衆など、周囲の人々の反応を、日常的な目線で細かく捉えていくという視点が感じられます。それを通じて、人間の「普通」な反応が、このような場では「卑俗」なものとして浮かびあがってくるので、それを見せることで「あなたならどうする?」という問いかけをする、という目的があるのかも。
 特に、鞭打ちのシーンで描かれる、まるで、人間には普遍的にサディズムが内包されている、と、示唆するかのような表現とか、カヤパやユダやピラトが、自らの保身ゆえに決断を下す部分が強調されていたり、十字架の道行き上でも、病気の治癒を求める人がいたり……と、人間の「身勝手さ」を問うような部分は、かなり興味深く見られました。
 役者さんは、私が知っているのはジャン・ギャバン(ピラト役)とエドウィジュ・フィエール(ピラトの妻役)のみで、イエス役がロベール・ル・ヴィギャン、ヘロデ役がアリ・ボールという人。さほど演技的な見所らしきものはなく、それより、前述したような役名もないような人々の表情とかの方が、印象に残る感じ。
 音楽がジャック・イベール。クラシック畑の人で、私は『寄港地』しか聴いたことがないんですけど、この映画の劇伴は饒舌すぎて、残念ながらあまり映像と合っていない感じ。
 あ、でも『寄港地』自体は、エキゾチカ音楽みたいで大好きです。
 こんな曲なんですが、レス・バクスター好きだったらゼッタイにオススメ。
 因みに、私が良く聴いていたのは、父親がLPで持っていたこのアルバム。

ドビュッシー:交響曲「海」/イベール:交響組曲「寄港地」 [XRCD] ドビュッシー:交響曲「海」/イベール:交響組曲「寄港地」
シャルル・ミュンシュ指揮・ボストン交響楽団

 そういや、CDではまだ持っていないなぁ、今度買おう。

鉄仮面 [DVD] 『鉄仮面』(1929)アラン・ドワン
The Iron Mask (1929) Allan Dwan

 ダグラス・フェアバンクス主演の痛快娯楽活劇。原作はもちろん、アレクサンドル・デュマ(大デュマ)の『鉄仮面』こと『ブラジュロンヌ子爵』。
 ダグラス・フェアバンクスも、名を知るのみで映画は見たことがなかったので、これが初体験。なるほど、ここからエロール・フリンやタイロン・パワーへと、系譜が繋がっていくのかな、なんて感じで納得の、西洋チャンバラ映画でした。
 ストーリー的に『三銃士』とかよりも怪奇味が強いので(子供の頃に児童向けのバージョンで読んだときも、けっこう怖かった覚えが……)、とうぜんそれっぽい雰囲気もあるんですが、でもやっぱり楽しい痛快活劇といった印象が上回る。とにかく調子よく話がパッパカパッパカ進むので、見ていて楽しいことこの上ない。
 というのもコレ、サイレントとトーキーの過渡期のものらしく、基本はサイレントで役者の声は入っておらず、でも中間字幕ではなく、状況やセリフはナレーションで説明される、というもの。それに加えて、全編景気の良い音楽も鳴り響くので、動く絵付き(それもコマ落とし調でパタパタ動く)の楽しい語り物といった味わい。こーゆータイプの映画って、たくさんあるのかなぁ。すっかり気に入っちゃったので、もっと見てみたいカンジ。
 スケール感は申し分ないし、美術も凝っていてステキだし、サイレント映画は退屈だって人でも、これは楽しく見られると思います。ウチの相棒なんか、大喜びしてました(笑)。