『スタフ王の野蛮な狩り』

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『スタフ王の野蛮な狩り』(1979)ワレーリー・ルビンチク
 出た出た出たよ〜、『スタフ王の野蛮な狩り』のDVDが! もう待望! ああ嬉しい。
 とはいえ、これは日本盤じゃなくてロシア盤。これを出したRUSCICOは、以前はロシア盤でも日本語字幕付きの親切設計だったんだけど、最近は付かなくなっちゃいました。『スタフ王…』も例外ではなく、残念ではあるんですが、まあ英語字幕が付いているだけでもありがたいと思おう。
 この『スタフ王の野蛮な狩り』は、旧ソ連映画。でもひょっとしたら、正確にはベラルーシ(昔はベロルシアとか白ロシアとかいってましたね)映画なのかな?

 舞台は19世紀末のベラルーシの寒村。ペテルスブルグから民話・伝説の蒐集に来た青年学生が、雨に降られて、とある古城に宿を頼む。城のあるじは美しい女性ですが、神経症的に何かに脅えている様子だし、その執事も怪しげな雰囲気が。
 この地方には昔、裏切りによって謀殺されたスタフ王という人物がいた。スタフ王は、自分を殺した相手とその一族に、二十世代(……だったかな?)に渡る呪いをかけ、以来一族の者は次々と怪死をとげてきた。そして城の主の女性は、その一族の最後の一人だったのだ。
 青年の身の回りでは、次々と怪しい出来事が起きる。全裸で羽毛にうずもれて、老婆の祈祷を受ける女主人。城の周りを駆け回る、亡霊たちの騎馬の音。ガラス窓に映る、侏儒の影。鶏を抱いて馬車に乗る、気がふれているような黒衣の寡婦。そして、殺人。青年は、それらの謎を解こうと奔走するが、いっこうに埒があかないまま、ついに、スタフ王とその部下たちの亡霊による、野蛮な狩りの季節がやってくる……とまあこんな感じ。

 モノガタリの内容自体は、道具立ても筋立ても典型的なゴシック・ロマンのそれで、特に独自性があるわけではないです。そのまま映画化したら「ハマー・ホラーの出来がいいヤツ」になりそう(ただし、スタフ王は農奴解放を訴えた「農民王」らしいし、舞台も世紀と世紀の転換期に設定されているので、ひょっとしたらモノガタリの裏には、もっと社会的な何かが含められているのかもしれないけど、今回の英語字幕での鑑賞では、私はそこまでは汲み取れませんでした)。しかしこの映画の場合、モノガタリの内容云々よりも、それを取り囲む雰囲気が、もうとにかく素晴らしいのだ。
 まず、美術が良い。メインの舞台となる古城、古い肖像画、贈られた豪奢なドレス、水に浸った地下室、絵付きの古文書、錆びたオルゴール、蔦の絡むドールハウス、旅役者のグランギニョール的な人形芝居……等々、とにかく全てが魅力的な造形だし、ムードも満点。
 そしてそれらを捉える、彩度を抑えた映像の美しさ。霧の立ちこめる沼地、ぽつんと立つ石の塔、荒野を駆ける幻のような騎馬の群れ、雪を滑る橇とクリスマス・ツリーの飾り付け……どの場面も幻想的なまでに静かで美しく、警察官が怪死の現場検証をするシーンですら、夢のような詩情を湛えている。
 こういった諸々が、オーソドックスなゴシック・ロマンに、芸術的な香気漂う独特の幻想美を与えている。この世ならざるモノが顕現しても不思議はないような、私的に言うと「あっち側」を感じさせてくれるような、そんな雰囲気。かつて私が一度見て、以来もう一度見たいと熱望していたのも、そんな絵作りとムードにすっかり惹かれたから。
 再見するまでは、ひょっとして記憶の美化作用があったり、あるいはマイナーな映画ゆえの判官贔屓的な気持もあるのかな、なんて不安もありましたが、いざ見てみると、それは全くの杞憂でした。記憶通りの素晴らしさで、夢幻の怪奇幻想美に酔いしれながら見て、寂寥感と清涼感の入り交じったエンディングでは、思わず「ほぅ」と満足の溜息が。

 DVDはNTSC盤とPAL盤と両方あり、私が購入したのはNTSC盤。リージョン・コードはフリー。スタンダード・サイズ。音声はオリジナルの露語の他に、英語と仏語の吹き替えあり。字幕は露、英、仏、独、伊、西の六種類。オマケはルビンチク監督のインタビュー映像など。
 さて、日本盤も出るといいんだがなぁ……。