最近買ったCDあれこれ

The Lie Lay Land
World’s End Girlfriend “The Lies Lay Land”
 日本発。
 エレクトロニカやポストロックや現代音楽といったジャンルを越境した、驚異のミクスチャー音楽の旗手、待望の新作。
 過去の作品全てが傑作という、とんでもないアーティストなのだが、今回もまたまた期待に違わぬ大傑作。もう、どこまでいっちゃうんだろう。本気で目が離せない。
 今回は、ソリッドでエッジの効いた部分が若干後退し、反面、オーガニックでカオティック部分が前に出てきた感じ。エレクトロニカ的な要素よりも、ポストロックや音響系っぽい要素が目立つというか。音の構成(ギター、ノイズ、ストリングス、ピアノ、ドラムス、サックスなどなど)のせいもあって、God Speed You Black EmperorやSilver Mt Zionなんかとの相似性も感じたり。
 しかし、繊細な叙情性と暴力的な攻撃性が混在し、見事なまでの緊張感と構成力で渾然一体となって襲いかかってくる、名状しがたい「美」は相変わらず。もう、聴いてると胸が掻きむしられるような感動が。今年のベスト・ワンは、早くもこれで決まりかも。
 名前を挙げたジャンルやアーティストを好きな方は勿論のこと、ジャンルを問わず、いや、ジャンルに拘らずに音楽を愛する方なら、ぜひご一聴を。

L'absence
Hector Zazou “L’absence”
 フランス発。
 この人も越境系ですな。ZNRの頃は室内楽的、Zazou Bikayeではエレクトロ・アフロ・ダンス。ワールド・ミュージック系のアーティストのプロデュースも多い。
 特にテーマを絞ったコンセプト・アルバムには傑作が多く、極北の海をテーマにした”Songs From The Cold Seas”(Bjork、Suzanne Vega、Jane Siberry、Varttina、加藤登紀子なんつー面々が参加)、ケルト音楽をテーマにした”Lights In The Dark”(Mark Isham、Peter gabriel、坂本龍一、元Dead Can DanceのBrendan Perryなんて面々が参加)、アルチュール・ランボーの生涯をモチーフにした”Sahara Blue”(これまた坂本龍一、David Sylvian、John Cale、Sussan Deihim、Bill Laswell、Khaled、Brendan Perryに今度はLisa Gerrardも、あとジェラール・ドパルデューまで参加)など、どれも愛聴盤。特に”Sahara Blue”は傑作ですぞ。
 今回は、クロスオーバー感やミクスチャー具合は、わりと控えめ。クールで硬質な電子音を基調に、浮遊感のあるノイズや女声ヴォーカルが被さるような、ちょっと前のトリップホップみたいな感じ。新鮮味はあまりありませんが、フワフワしていて、ちょっとダークで、とってもキレイ。あんまり重くはありません。Massive AttackやPortisheadあたりの音がお好きな方にオススメ。あと、LambとかNicoletteとかが好きだった方も気に入るかも。ドラムン・ベースっぽい要素はありませんが、全体の空気感とかが似てます。
 個人的には、ゲストにアーシア・アルジェントの名前があってビックリ(笑)。歌ってんのかと期待したら(女優の歌モノって好きなのよ)、喋りだけだったので、ちとガッカリ。

Lune
Riccardo Tesi & Banditaliana “Lune”
 イタリア発。
 フォーク/トラッド系のアコーディオン(イタリアだとメロディオンとゆーらしいですが)奏者が、以前のソロ・アルバムのタイトルを、そのままバンド名にして新作を発表。
 同じアコーディオン系でも、ミュゼットやバンドネオンみたいな哀調はあまりなく、泣き節でもどっかノホホンとした陽気な雰囲気があるのが、イタリアっぽいような(ホントかよ)。曲調も、目まぐるしいソロを聴かせるタイプではなく、バンド・アンサンブルをじっくり聴かせる感じ。
 インストと男声ヴォーカル曲が半々。ヴォーカルはクセがない美声。歌い方はしっかり朗々としているけど、力みすぎず歌い上げすぎずなのは高ポイント。演奏はメロディオンにサックスやベースが重なり、アレンジもトラッドよりだったり、ちょっとアーバンな雰囲気を加えたり、メロウだったりハッピーだったり、ヴァリエーション豊かで飽きさせません。
 あと、曲によってはサズ(トルコの弦楽器)やタブラなんかも入っているので、ちょっと汎地中海音楽的な雰囲気もあり。Fabrizio De Andreが好きな方、一度お試しになってみては。
 オマケにリミックスが二曲入っていたけど、う〜ん、これは蛇足かも(笑)。

Shot & Echo/a Sense of Place
Wim Mertens “Shot And Echo / A Sence Of Place”
 ベルギー発。
 ミニマル音楽のWim Mertensの旧譜”Shot And Echo”が、同時期に発表されたミニ・アルバム”A Sence Of Place”と未発表トラック等を加えて、二枚組で再発売。
 Mertensの作風は、ピアノ・ソロ+ヴォイスによる叙情的でセンチメンタルな作風や、様々な楽器のアンサンブルによるミニマル寄りでタイトかつドラマチックな作風や、一つの楽器をほぼ単音で奏でる更にミニマルかつストイックな作風などがあります。で、それらの作風を一つのアルバムに混在させるのではなく、アルバムごとにタイプをはっきりと分けて、代わる代わに発表しています。
 最初の”Shot And Echo”は、アンサンブルによるミニマル路線でありつつ、そういった構築的な魅力に、どこか古楽を思わせるような牧歌性や、ちょっと感傷的で湿った叙情性も加わった、これぞMertens音楽の魅力本領発揮といった感じの傑作。
 もう一枚の”A Sence Of Place”は、これは今回初めて聴いたんですけど、アンサンブルを使わないストイック路線のミニマルでした。とはいえこちらも、ゴリゴリにストイックなのではなく、モチーフが”Shot And Echo”と同じだというせいもあり、他の同路線のアルバムと比較すると叙情寄りな感触。あと、メロウな旋律が短音で静かに繰り返される様は、何だかポリフォニー以前の古楽のようでもあり、なかなか魅力的でした。
 というわけでこの再発盤、どちらかオリジナルをお持ちの方でも再購入の価値は大。あと、前述したように傑作でありながら、長らく廃盤でもあったので、買うなら今がチャンスかも。
 あとMertens入門用にも好盤……だとは思うんですが、実はこの方、アルバムの数がもンのすご〜く多いし、しかも二枚組やら三枚組を一度に四種類発売とかしやがるとゆー、けっこうハマると泥沼の、ファン泣かせの人ではあります(笑)。

城卓矢『なつめろ全曲集』
 日本発。
 何だかいきなりなラインナップですが(笑)、前々から欲しかったところ、ぐーぜん店頭で見つけたもんで。
 で、何で欲しかったかと言うと、実は私、この人の歌は「骨まで愛して」しか知らなかったんですが、ちょっと前にテレビで「骨まで愛して」を久々に聴いたら、そのサビ、「♪骨まで〜骨まで〜骨まで愛して欲しいのよ〜」の、二回目の「骨まで」の「ほ」の声のひっくり返り具合に、一発で惚れちゃいまして。……って、どんな理由だ(笑)。
 んで、目当ての「骨まで愛して」は、もちろん満喫したんですが、今回他の曲も聴いたところ、いやビックリ。
 上手い人だという記憶はあったんですが、加えて表現力がスゴい。
 タイトルからしてビックリの「なぐりとばして別れよか」とか、民謡+リズム歌謡でゴキゲンな「スタコイ東京」「ダッキャダッキャ節」、極めつけはサンバ+ヨーデルとゆーコンセプトからして理解不能な「トンバで行こう」、などなど、けっこうトンデモナイ曲が多いんだけど(笑)、どれもこれも見事に歌いこなしてます。特に民謡系(っつーか「ユーモラスな田舎者系」)の歌なんて、私はこのテは、千昌夫にしろ吉幾三にしろ、正直かなり苦手なんですけど、この人が歌うと全く気にならない……っつーか、逆に好き。全力投球のトゥー・マッチさも含めて、マジかっこいい。これは、しっかりした歌唱力と、それでもそこはかとなく香る泥臭さが魅力のキモなのかなぁ。
 ああ、もちろん「風の慕情」とか「ああふるさと」とか、普通にいい曲もあります。やはりどこか泥臭さがあるんですが、それも何だか色っぽい。何だか、ヴィンテージ・ゲイ小説の名手・楯四郎や、昔の『さぶ』の小説読んでるみたいな魅力が(褒めてんのよ)。そーゆー野郎系やレトロな男の色気が好きな人には、「さすらい東京」「男無情」「忘れるものか」なんて曲もオススメ(笑)。
 まあともかく、早逝してしまったのが、ホントに惜しいと思います。
 あとね、実は私、子供の頃からこの方の顔が好きでして(笑)。長じてからも、中古レコード屋とか巡っちゃあ、この人のシングルやアルバムが出てくると、ジャケ見ては「いい男だな〜」なんて思ったりして。……って、その割りには、今まで買ったことなかったんですけど(笑)。そういう意味では、このCDのジャケットは、ちょっとアウト。あんまりいい写真じゃない。
 もひとつ不満。今どき、15曲入り(+カラオケ一曲)で3100円のCDって……高価すぎないか?