『七人の侍』より「侍之壱・月」メイキング

 さて、昨日に引き続き、連作『七人の侍』から、第一葉「侍之壱・月」のメイキングなんぞを載っけてみませう。

01_shitae
 まずは下絵です。手近なコピー用紙に、水色の色芯のシャーペンでざっとアタリをとり、それから鉛筆で描いていきます。
 線画は後で毛筆の白描で仕上げるので、無駄な線を極力入れないよう、この下絵段階から一発描きを心掛けて、迷いを入れずに筆勢を生かす気持ちで、グイグイと描きます。これが、ペン仕上げだと、もうちょい迷い線が増えますし、厚塗り仕上げの場合は、マッスでフォルムを作っていくので、形のとりかた自体が変わったりもします。
 モチーフ的には、オーソドックスな武者絵のイメージ。武者絵というと浮世絵の国芳が有名ですが、私は何と言っても芳年ラブだし、月つながりで芳年の連作『月百姿』へのオマージュにもしたいので、侍のポーズは芳年の『新形六十三怪撰』の「源頼光土蜘蛛ヲ切ル図」から引用してみました。

02_hakubyou
 完成した下図をコンピュータに取り込み、本番サイズに拡大縮小。構図も決めて、それをいったんプリントアウトします。プリントアウトしたものに本描き用の用紙(これも安手のコピー用紙)を重ね、ライトボックスで透かしながら墨と毛筆で、本番の白描を描きます。
 墨は少し薄目にするのが、私流。コンピュータで黒の濃度を上げるのは簡単なので、アナログでは少し薄いくらいで描いておいて、最終的な濃度調節はデジタルで。
 毛筆画は、けっこうコンディションによって出来不出来のムラが出ちゃうので(修行不足です)、時として「ひゃ〜、失敗、描き直し!」なんてこともあるんですが、今回は調子良くスイスイと描けた感じ。
 白描が完成したらスキャナーでコンピュータに取り込んで、Photoshopのレベル補正を使って、余計な紙白を飛ばし、黒の濃度を引き締めます。それが終わったらゴミ取り。ただ、あんまり厳密にはやらず(アナログ風仕上げにしたいので、多少のゴミは味のうち)、目立ったものだけ消していく、という感じです。

03_shitanuri
 線画が出来上がったら、それをアルファチャンネルに読み込んで、白い背景の上に透明レイヤーに描かれたセル状の線画が乗っている状態のものを作ります。レイヤーの合成モードは通常で。
 Photoshopを終了してPainterを立ち上げます。そして、さっきのファイルを開いて、白いキャンバス状にデジタル水彩/新シンプル水彩で着色していきます。こうやって縮小しちゃうと判りづらいけど、ある程度の紙目が出た感じにするために、テクスチャをイタリア水彩紙の200%拡大という設定にしてあります。
 デジタル水彩は、全ての色面の着彩が終了するまで乾燥させず、相互のにじみを生かすようにします。水彩消しゴムを使ったり、濃い色の上に薄い色を重ねたりすると、このにじみのニュアンスが変わってしまうので、できるだけ薄い色から濃い色という順番で、細部は筆のサイズを小さくしてチマチマ……ってな感じで塗っていきます。
 色彩設計は、ぶっつけ本番。最初に肌のトーンを決めて、それから衣の色を決めていく。色はくすませ気味にして、寒色系をメインにしながら、刀の緒だけビビッドにして、全体のポイントにしてみました。

04_kakikomi
 下塗りが終わったら乾燥させて、キャンバスと線画の間に白で塗りつぶしたレイヤーを一枚作成し、合成モードを乗算にします。このレイヤーに、肌部分の陰影を描いていきます。
 木炭(ソフト)をテクスチャが強めに出るようにカスタマイズしたブラシで、肌に陰影を重ねていきます。ただ、下塗りのときほど紙目の存在感は必要ないので、テクスチャの設定はフランス水彩紙/100%に変更しています。
 陰影は、写実的な立体感ではなく、何となく立体っぽいニュアンスを与える程度にとどめます。このテの作品の場合は、主役はあくまでも毛筆による描線。その味が陰影で殺されないよう、薄い色をざっと筆で刷く感覚で色を乗せていきます。使っている色も一色のみ。濃淡は全て筆圧でコントロールして、ぼかしも筆圧オンリー。水滴ツールとか水刷毛とかの、ぼかし用のブラシもいっさい使いません。
 レイヤーを分けているので、はみ出しも気にせず、とにかく筆勢をいかして、ザックザックと描いていきます。

05_hamidashi
 肌の彩色が終わったら、はみ出した部分を消していきます。同じブラシの描画色を白にして、塗り消していきます。

06_check
 気付かない消し残しがないかは、こうやってレイヤーの合成モードを乗算からデフォルトに変えてチェックします。ただ、あんまりきっちりキレイには消しません。だいたい消えてりゃオッケー、って感じ。ちょっとくらい色が互いにかぶってた方が、全体の雰囲気は柔らかく仕上がるので。

07_lips01
 肌の陰影が終わったら、キャンバスに固定してしまいます。それから、次に唇や乳首(この絵ではないけれど、性器や肛門も)の色を付けます。
 新規マスクを作成して、そこにエアブラシ系のブラシで、唇の色を付ける部分の形を描きます。ベタッと塗るのではなくて、唇の立体を意識しながら、濃淡つけて描くのがコツ。ここもチマチマいじらずに、筆勢を生かした一発描きのニュアンスで。

08_lips02
 完成した唇マスクを非表示にして、選択範囲として読み込みます。

09_lops03
 選択範囲内の画像の色相と彩度と明度をいじって、唇をほんのり赤く染めます。

10_lips04
 染まったら選択範囲を解除して、テクスチャの明暗を反転した後、肌の陰影と同じブラシで、唇にハイライトを入れます。これで出来上がり。
 同じ要領で、乳首にも色を付けます。

11_hair
 髪やヒゲを描きます。再度、キャンバスと線画の間に、新規レイヤーを作成します。ただし、今回は白で塗りつぶさずに透明のまま、合成モードもデフォルトです。
 肌の陰影を付けたのと同じブラシで、眉やヒゲを描き込んでいきます。ただ、肌の陰影以上にテクスチャを抑えたいので、設定をベーシックペーパー/100%に変えています。
 色は筆の線から少しはみ出させるように、フワッと柔らかい印象になるように乗せていきます。濃い部分は一気に塗りつぶそうとせず、軽めの筆圧で複数方向からクロスハッチングするように、焦らず丁寧にタッチを重ねていく方が、キレイに仕上がります。アナログの鉛筆画と同じ要領ですな。
 これまた出来上がったら、さっさとキャンバスに固定しちゃいます。

12_mask
 衣に柄を入れる準備にかかります。いったんPainterを終了し、再度Photoshopを立ち上げます。
 白描の画像をテンプレートにして、新規レイヤーを作成し、そこにフリーの図案集からとってきた柄を、シアーや自由変形を使って、布の流れに併せて変形させながら張り込んでいきます。
 柄の配置が終わったら、それをさっきまで彩色作業をしていたファイルのアルファチャンネルに読み込んで、マスクとして保存します。

13_moyou
 再びPainterに戻ります。さっき作った衣の模様を選択範囲に呼び出して、スポンジで塗っていきます。ベタッと潰すのではなくて、ところどころカスレやムラがある感じにします。

14_kansei
 最後に背景を入れます。衣の模様と同じ要領で、マスクを作ってスポンジでニュアンスを付けながら塗っていきます。この月とススキのパターンは、琳派の図案を用いてみました。
 これで、完成。

 ……とまぁ、こんな感じで、全七点の連作を仕上げたわけです。
 いちおう予定としては、既にフランスにデータを送っているので、それをあちらで枚数限定のエスタンプとして作成、出来たプリントを日本に送ってもらい、私がサインとナンバリングを入れてフランスに送り返し、五月からパリのギャラリーで展示販売……ってなことになるはず。
 ただ、ギャラリーオーナーのオリヴィエの組むスケジュールは、けっこうアバウトっつーか、いい加減なところがあるから(笑)、ホントに五月に展示が始まるかどうか、実はまだ半信半疑なのだ(笑)。そもそもこの連作も、最初の予定では去年の十二月に……という話だったしね(笑)。

連作『七人の侍』

rough-7samurai-4wood
 去年個展をしたフランスのギャラリーから依頼された連作絵画、さきほど完成。個展の時は『七つの大罪』というオーダーでしたが、今回のお題は『七人の侍』。ニッポン人といたしましては、いささかコテコテ過ぎじゃないかと思いますが、フランス的にはキャッチーなんでしょうね、きっと。

 さて、『七人の侍』というお題はあるものの、テーマ的なオーダーはなかったので、そこいらへんは自分で考えなきゃいけない。連作である以上、通しテーマがあった方が、描く方としても見る人の側に立ってみても面白いし。とはいえ、まさか黒澤映画のキャラクターのポートレートを描くわけにはいかないし、この「全体のくくり」というところで、いささか悩んでしまいました。
 七という数字で、しかも日本文化を踏まえて連想するものは……と考えてみて、最初に浮かんだのは「七福神」ってヤツだったんですが、いかんせん私の男絵のテーマには合いそうにない。亀甲縛りにされている福禄寿……なんて、どう考えてもギャグにしかならないし(笑)で、。次に思いついたのは「春の七草」だったけど、これも……ねぇ(笑)。スズシロ(大根)くらいだったら、まあ何とかネタも浮かぶけど、ナズナ(ぺんぺん草)とかはお手上げ。更にゴギョウだのホトケノザだのになると、もうどんな草かも良く知らない(笑)。
 というわけで、七のつく言葉を探すために、今度は辞書をひいてみました。……どらどら。「七覚/仏教で悟りを得るための七つの要素」……面白いけどテーマとしては私には手強すぎ。「七観音/衆生救済のために七種の姿に変幻した観音」……へぇ〜、千手観音とか馬頭観音とかはこれだったのか、知らんかった。面白いけど、私よりも故・長谷川サダオ先生向きの題材だなぁ。お次は「七去/大載礼。妻を離縁できる七つの事由」……完全にハズレ。……ってな具合で、どうにも上手いネタが見つからず。

 で、きっとこれは下手に背伸びするのがいかんのだろうと思い直し、もっと素直に考えることにしました。で、身近な七というと「一週間」というのがすんなり思い浮かぶ。余りにもヒネリがないような気もするし、あんまり和風という感じもしませんが、ちょっと調べてみたら、一週間という概念が日本に入ってきたのって、平安時代と、いがいと古いんですな。てっきり近世のことかと思っていたので、ちとビックリ。
 でもって、日本における一週間の曜日の呼び方は、易教絡みの七曜(地上から視認できる移動する星)に基づいているらしい。そして、この七曜の名前は、太陽と月に陰陽五行を併せたものになっている。そうなってくると、惑星に神の名前が配されている欧米文化との差もでてくるし、陰陽五行も欧米の四大元素と比較できる面白みがある。
 更にこじつけると、日本における曜日の誕生は、前述したように平安時代。そして武士の誕生も平安時代。まあ、じっさいはこの二つの間は、優に百年以上は離れているようではありますが、細かいことを気にしなけりゃ、共通項はちゃんとあるわけで……なんて感じで、調べているうちに乗り気になったので、「七曜」というテーマで「七人の侍」を描くことに決定しました。

rough-7samurai-7sun
 テーマさえ決まってしまえば、こっちのもの。後は、それぞれの曜日に併せてどんなネタを描くか、全体の構成とかも踏まえて、楽しくアイデア出ししていきます。
 まず、五行から外れる「月」から始まって「日」で終わる構成にして、この二つにプロローグとエピローグっぽいニュアンスを持たせつつ、間を五行に絡めたバリエーションをつけた男絵で繋いでいく感じにすると決定。それから、五行のキイワードからぱっと思いつく「描きたい」ネタを、優先して先に決めていきます。
 うん、「火」で「箕踊り」を、「土」で「土八付」を描きたいなぁ。どっちも拷問処刑ネタだから、他の曜日には、もうちょっと軽めのネタも混ぜよう。だったら「水」で「河童」ってのはどうだろう。尻子玉を抜かれる侍なんて、絵にしたらフィスト・ファックだから面白いかも。あと、土八付は横位置で描きたいから、あと一点は横位置の絵も欲しいな〜、なんて感じで進めていきます。

 全部ネタが揃ったら、ラフスケッチとかで形にしていくわけですが、今回の連作も、以前の『七つの大罪』同様、フランスのギャラリーでの展示販売のみ。日本での発表は未定なのが残念なので、ちょいとこのブログを使って、下絵を二点ほどお披露目です。

『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(2007)クリス・ワイツ
“The Golden Compass” (2007) Chris Weitz
 残念ながら、諸手を挙げて絶賛……とはいかない仕上がり。
 美術や配役は素晴らしく、完全に満足がいく内容だった。異世界やモノガタリ世界のヴィジュアル化という点に限って言えば、これはもう100点満点の出来映え。しかし映画としての出来映えはどうかと言うと……正直ちょっとウムムな感じ。
 満足半分、ガッカリ半分で、しかもその二つのギャップが激しもんだから、もう、自分もダイモン切り離された気分(笑)。美術100点、俳優100点、演出60点、脚本30点ってとこです(笑)。
 まあ、尺が短いせいもあって、展開が駆け足になってしまうのは、仕方がない部分もあるんですが、それにしても、もうちょっと何とかならんかったもんかなぁ。ストーリーは、単に原作の粗筋をかいつまんで繋げただけに終始していて、小説を視覚言語化する技術や工夫やセンスがあまりにも乏しい……ってか、はっきり言って下手。
 その結果、緻密であったはずのモノガタリは、行き当たりばったりのイベントの連続にしか見えなくなり、キャラクターへの感情移入や、その行動からエモーションが揺さぶられることもない。
 ちょっとね〜、ヴィジュアル面が素晴らしいだけに、なおさら勿体ない感が募るのだ。
 以降、ちょっと実例を挙げるので、ネタバレがお嫌な方は、次の段はスルーしてください。
 じっさい、脚本や演出の欠点を挙げ始めれば、もうきりがない。
 ライラとロジャーの結びつきの描写が不足しているために、友(原作の表現を借りれば「親友で戦友」なのだ)との約束を守るため少女が一人危地へ赴くという感動がない。それどころか、ライラが何のために行動しているのか、その行動原理すら希薄になっている。
 人とダイモンの結びつきの描写も不足しているので、それが切り離されたり失われることの重みや恐怖感が伝わってこない。ほんのワン・エピソード、ライラとパンタライモンが、少し離れるだけでも互いに苦痛だという描写を入れるだけでいいのに、それがないので、実験によって二人が切り離されそうになるシーンの、恐怖感や緊迫感がない。
 ダイモンを喪ったビリー(原作では別の少年)が、死なずに母親と再会して救われるのも疑問だ。これではまるで、ダイモンの喪失がペットロスか何かのようではないか。これは、世界観の根幹を揺るがしてしまう。だいいち、ここでそういった世界の残酷さを見せないのならば、このエピソードを入れる意味はない。
 似たようなことは他にもあり、些細な例を挙げると、攫われた子供たちに親への手紙を書かせるシーンを入れるのなら、その手紙が出されることなく焼かれるシーンも入れなければ意味はない。かと思えば、アスリエル卿が襲撃されるといった、映画オリジナルでありながら、同時に全く無意味なエピソードが入ったり、まったく理解に苦しむ脚本だ。
 魔女セラフィナ・ペカーラや気球乗りリー・スコーズビーといった、モノガタリのキーパーソンの登場シーンも、モノガタリ的な前振りや映像的なケレン味が皆無なので、まるで唐突に表れて主人公にとって便利に動いてくれる、ご都合主義の産物という印象しか与えない。
 つまり、エピソードが有機的にリンクして、一つのストーリーを織り上げていくという、作劇法の基本が全く出来ていない脚本なのだ。
 演出に関しては、とにかく地味でワクワク感に欠ける。
 飛行船のシーン一つとってもそうで、あれだけ美麗なデザインのガジェットと、雄大なCGIを用いながらも、主人公が「閉ざされた小さい世界」から「広大な外の世界」に向かうというワクワク感は、全く体感させてくれない。
 ライラがイオレク・バーニソンの背に乗って、雪原を疾走するシーンも好例。絵的には美しく仕上がってはいるものの、「あたし、白熊の背中に乗って北極圏の雪原を走っている!」という主人公のワクワク感が描けていないので、見ているこっちもワクワクしない。
 危機一髪のタイミングで駆けつける援軍たちも、こういったクリシェは、受け手に「待ってました!」という爽快感を与えてこそなのに、それがない。
 そんなこんなで、どのシーンも、絵的には決してマズくはないのに、何か盛り上がりに欠けるのだ。カッコイイものやスゴイものを見せるというセンスが、根本的に欠如している感じ。日常ドラマならともかく、ファンタジーやエピックでこれじゃマズいっしょ。
 そして、最大にして致命的な欠点は、あの中途半端なエンディングだ。
 いろいろ事情はあるのだろうが、個人的には許し難い暴挙に思えて、怒りすら覚えた。こういった、口当たり良く終わらせようという、及び腰な「配慮」は、実に不愉快この上ない。そういう立場で制作するという態度そのものが、原作の挑戦的な態度とも、ライラというキャラクターの性格にも、全く反しているからである。
 ネタバレ、ここまで。
 という具合に、脚本と演出は欠陥だらけではあるものの、それでもやはり、美しい美術の数々には魅了されました。特に、真理計や飛行船や三輪車(?)のデザインの、その優美で古雅な美しさは、本当に素晴らしい。船や気球のデザインも良いし、エクステリアやインテリアも見応えあるものばかり。
 俳優陣も、こんな酷い脚本なのに、それでもあれだけの存在感とキャラ立ちを見せているという点で、これまた誰もが素晴らしい。前にここで、イオレク役にしては声がオジイチャンすぎやしないかと心配だったイアン・マッケランも、そんな不安は微塵も感じさせない力強さで、改めて「巧いな〜!」と感心したし、ニコール・キッドマンもダニエル・クレイグもエヴァ・グリーンも良かったし、サム・エリオットも良かった。ホント、繰り返しになるけど、皆さんよくも、あんなストーリーや設定の説明だけで、心理描写や人間ドラマの欠片もないセリフばかりなのに、よくここまで存在感を出せるな〜、と、ひたすら感心しました。
 メイン・キャラだけではなく、ほんのチョイ役も、前に触れたクリストファー・リー以外にも、デレク・ジャコビとかキャシー・ベイツとか、無駄な豪華さが嬉しい(笑)。贅沢な役者が出演している。そうそう、エンド・クレジットの歌がケイト・ブッシュだったのも、私にはちょっと嬉しいオマケだったなぁ。
 ああ、あともちろん、白熊を筆頭に動物の数々も良かった。存在感と説得力がある視覚化という点では、全く問題なしの出来映え。
 まあ、私は原作のファンなので、内容的にはかなり辛い評価にはなってしまいますが、ファンタジー映画好きなら、見所やお楽しみどころも色々とあると思います。少なくとも、『エラゴン』や『ゲド戦記』よりは、よっぽどマシだと思う……って、大して褒め言葉になっていないような気もするけど(笑)。
 ただ、もし続編が制作されるなら(正直、これで打ち切りでもむべなるかな、という感ではありますが)、お願いだから監督は、別の人にしてください。クリス・ワイツ氏の脚本と演出手腕には、もう微塵も期待はできないんで(笑)。

最近試してみた画材とか

 最近、新たに試してみて、なかなか使い心地のよろしかった画材の話なんぞを。

hakubyo
 *呉竹(くれたけ)/スーパー清書用墨滴(ぼくてき)
 筆と水墨による白描用に購入。本当は開明墨汁を買いに行ったんだけど、近所の文具屋に置いてなくて、代わりにこれを買ってきました。呉竹だったら品質的にも信頼できると思って。
 小皿にとって、水で薄めて使用。紙は普通のコピー用紙。墨がおろしたてということもあるのか、とにかく伸びが良い。用紙の吸い込みとも相性が良いのか、実に気持ちよくスイスイ運筆できる感じ。まだ一枚描いただけだけど、これから愛用品になりそうな予感がします。
 作例は『外道の家・下巻』表紙イラストの一部分。これをパソコンに取り込んで、Painterで彩色しました。

rakugaki
*三菱鉛筆/uni COLOR(ユニカラー)カラー芯
 シャープペンシル用カラー芯。色は六色あるけれど、私は下絵のアタリ用に使ってみようと思ったので、水色系のミントブルーを購入。家にあった、ステッドラーの製図用シャープペンシルに入れて使ってみました。
 色鉛筆なのに消しゴムで消せる、が謳い文句。ワックスが配合されていないので、描き心地も色鉛筆っぽいツルツル感がないし、筆圧軽めでもしっかり色がのるので、使用感が極めて普通の鉛筆芯に近い。以前、別の色芯(消しゴムで消せないヤツ)を、マンガの下絵用にと思って使ってみたときは、どうにも描き心地が好きになれなくて、数回使っただけでお蔵入りしちゃってたんですけど、今度のは充分使えそう。ざっくり描きたいときは0.7mm、細かく描きたいときは0.5mmと、用途別の使い分けも可能。
 作例のラクガキの、アタリをとっている水色の線が、これを使っています。

*Too/マンガペン
 別の画材を買いに新宿のToolsに行ったとき見つけた、万年筆タイプのマンガ用ペン。ジャンル的には、タチカワの新ペン先なんかと同じタイプ。
 タチカワのものと比べると、インクの出やノビが良く、線は太目。極細と中字の二種類ありますが、極細は付けペンで例えるとカブラペンって感じ。描き心地は、とてもなめらか。素早く走らせると、ヌキもけっこうキレイに出来ます。ペン先のフォルムが、タチカワのものより厚みが薄く角度がシャープなのも、私には使いやすくて合っている感じ。もう一方の中字の方は、線が若干ボタッとした感じで、もうちょっとミリペンっぽい感じになります。
 作例のラクガキの主線は、ほぼこの極細一本で描いています。

*パイロット/HI-TEC-C(ハイテックC) 0.25mm
 ゲルインキ・ボールペン。このシリーズの0.3mmと0.4mmは、既にマンガで良く使っているんですけれど、0.25mmは使ったことがないので買ってみました。
 確かに、0.3mmより細めの線が引けます。でも、描き心地自体は変わらぬなめらかさ。最近、マンガの背景はほとんど0.3mmで描き、細かなタッチのみスクールペンや丸ペンで追加、ってなパターンだったんですが、この0.25mmなら、そーいった細かなタッチを入れるのにも使えそう。
 作例のラクガキでは、顔やボディーに入れたタッチ、枷に落ちた影の斜線、あと汗を描くのに使っています。

*パイロット/小筆軟筆 耐水性顔料インキ
 毛筆ではない、フェルトペンタイプの筆ペン。私は書き文字に使うくらいで、正直あんまり使っていないタイプの画材(ってか文房具か)なんですが……。
 使ってみてビックリ。この手のタイプの筆ペンとしては、驚くほどキレイにヌキができる。筆先が柔軟でインクの出も良く、トメやハライもバッチリ。線の太さも筆圧で自由自在。顔料性なので黒の濃さも充分。ここまでイケてるとは、パイロット小筆軟筆恐るべし。
 作例のラクガキでは、髪とヒゲ全てと、あと首枷もこれで描いています。木目のあたりがいい感じ。

 まあ、こういうのは相性もあるので、私にとって使いやすいものが、イコール他の方にとってもそうだとは限りませんが、機会があったら一度お試しになる価値はあるかと。
 そういう意味で、オススメいろいろでした。

気になる新作映画予告編

 個人的に気になっている新作映画の予告編を、いくつか貼っ付けてみます。
“1612”

 17世紀のロシアとポーランドの戦いを描いたロシア映画。どうやら、ロシア大動乱期の末期を飾る、モスクワ解放を描いたものらしいです。
 ご贔屓のポーランド人男優、ミハウ・ジェブロフスキーが出演しているんで見つけた映画なんですが、美術や衣装は美しいし、甲冑や戦闘はカッコイイし、スケール感や迫力も申し分なし。オマケに責め場もあるっぽい? う〜、見たい〜!
 日本ではまず公開されないだろうし、バジェットも掛かっていそうなのでビデオスルーも難しそうではありますが、検索したらアメリカの配給会社と契約云々というニュースが出てきたので、そのうち米盤DVDが出ないかと期待しております。ロシア盤DVDは見つけたんだけど、残念ながら字幕なしだった…。
“Taras Bulba”

 ゴーゴリの『隊長ブーリバ』の、ロシア版新作テレビ映画らしいです。
 1962年制作のユル・ブリンナーが出ていたハリウッド版が面白かったので、このロシア版も是非見てみたい。上記の”1612″と比べると、美術やスケール感など全般的に見劣りはしますけど、それでもやっぱり、コサック騎兵の大群が疾走しているのを見ると、そのカッコよさには血が騒ぎます。ハリウッド版でも一番興奮したシーンは、馬で駆けるユル・ブリンナーの元に、騎馬軍団が続々終結してくるところでした。
 テレビ映画なら、ひょっとしたらビデオスルーで出てくれるかなぁ…。
“The Fall”

 ジェニファー・ロペス主演の『ザ・セル』を撮った、ターセム監督の新作。
 ヴィジュアル・インパクトだけが勝負みたいな映画だった『ザ・セル』同様、この新作も、予告編だけでも目の御馳走、美麗画像テンコモリ。普通の日常的なシーンの演出は、決して上手いとは思えない監督だけど、特殊なシーンの美しさは、それだけでもオツリがくる満足感なので、今回もやっぱり期待しちゃいます。予告編に使われている、ベートーベンの七番も好きだし。
 これは、前の二つに比べると、公開の可能性あり?
“In the Name of the King: A Dungeon Siege Tale”

 ファンタジー映画で、出演がジェイソン・ステイサム、レイ・リオッタ、ロン・パールマン…ってのを見たときは、「おおっ!?」とコーフンしたんですけど、監督がウーヴェ・ボルだと知って…ガックリ(笑)。
 ま、内容には期待しないで、レンタル屋さんに並ぶのを待つことにします(笑)。

仏版単行本”GUNJI”と”ARENA”、タコシェさんに入荷

GunjifcovertArenafcovert
 中野タコシェさんに、フランスH&O社から発売された私の仏語版マンガ単行本、"GUNJI"と"ARENA"が入荷しました。タコシェさんのショップブログで、「コンプリートを目指したい源五郎マニアのために、フランスで出版された、短編集2タイトルを入れてみました」とコメントがあるように、コレクターズ・アイテムって感じでしょうか(笑)。
 因みに、"GUNJI"には「軍次シリーズ(全編)」「ずっと好きだと言えなくて」「マゾ」「TRAP(全編)」、"ARENA"には「闘技場〜アリーナ(全編)」「Hairly Oracle」「非國民」「メス豚の天国」「天守に棲む鬼」「大江山綺譚」の、それぞれフランス語訳バージョンが収録されています。「闘技場〜アリーナ」の前半部分を除いては、手書きの擬音も全て画像から除去して、フランス語に差し替えた完全版。(何で「闘技場〜アリーナ」の前半だけ、日本語の書き文字が残っているかというと、マンガの仕上げをデジタル化したての頃は、擬音を別レイヤーにしていなかったので、それを外すと絵まで白く抜けちゃうからなんです)
 というわけで、コレクターズ・アイテムという感じではありますが、入手が難しい本ではあるので、欲しいという方がいらしゃいましたら、この機会にぜひお求めくださいませ。
 あ、フランス語を勉強なさっている方とかにも、エロっちいセリフはフランス語で何て言うかとか、そっち系のサブテキストとしてオススメですよ(笑)。

『エド・ウッドの牢獄の罠』

Jailbait
『エド・ウッドの牢獄の罠』(1954)エドワード・D・ウッド・Jr(エド・ウッド)
“Jail Bait” (1954) Edward D. Wood Jr. (a.k.a. Ed Wood)
 スティーヴ・リーヴス出演作の日本盤DVDがついに出た〜ッ! ……と思ったら、よりによって “Jail Bait” かよ……(泣)。orz
 ま、これはいちおうリーヴスがテレビや舞台でキャリアを積んだ後、スクリーン・デビューをしてから二作目で、セリフもあれば演技もしてるんですが、正直なところ「スティーヴ・リーヴスのファンの私」にとっては、リーヴスのフィルモグラフィーの中では、もっとも「どーでもいい映画」なんだよなぁ、コレ(笑)。
 でも、「トラッシュ映画好きの私」としては、お楽しみどころがいろいろとありました(笑)。
 映画の序盤は、良くできた親に反発する気弱なダメ息子が、悪い仲間の誘いと、拳銃の魔力で道を踏み外して、ついには人を殺してしまい……という、ある種の社会派(?)的な要素もある犯罪映画風味なんですが、そこはまあ、最低映画監督として名高い、あのエド・ウッドの撮った映画ですから、そうそう一筋縄ではいきません。詳しい内容はネタバレになっちゃうので書きませんが、途中から誰が主人公か判らなくなっちゃうし、ジャンルも、クライム・サスペンスなんだか、ミステリーなんだか、ホラーなんだか判らなくなってくる。
 まあ、エド・ウッドの作品の中では、特に話題にされない作品なので、破綻具合とか破壊力は控えめですけど、それでもやっぱり、マジメに考えると空しくなるような破綻しまくりのストーリーとか、オツムが足りないとしか思えない行動をとる登場人物たちとか、伏線かと思いきや何の意味もないエピソードだったとか、「ありえね〜!」と叫びたくなるような展開とかは、見ていて思わず目が点になっちゃいます(笑)。
 ほとんどのシーンが、俳優がセットに棒立ちになって喋っているだけなのも、カーチェイスとか銃撃とか、たま〜に動きのあるシーンが入っても、全てがユッルユルなのも、全編を通して流れる、シーンに全く合っていない、ギターのトレモロによるミョ〜にうら寂しい音楽と相まって、まったりダウナー気分を醸し出してくれます(笑)。
 そう思って見れば、全体の雰囲気とか、ものすご〜く良く言えば、デヴィッド・リンチみたいな感じのような気もしてくるし、基本のアイデアも、手塚治虫の短編とかにありそうだし……って、やっぱ違うか(笑)。
 で、スティーヴ・リーヴスは、犯人を追う刑事の役。……とはいえ、この映画の場合、誰が何の犯人なんだよって感じですし、更に言えば警察も、おめーら捜査らしい捜査もしてねーだろって感じなんですけどね(笑)。
 とりあえずファンとしては、背広姿で現代劇の演技が見られるってだけで、貴重といえば貴重。何せ彼の18本の出演映画のうち、現代劇はこれと “Athena” だけで、あとはぜ〜んぶコスプレものだから。
 ただ見所も、その「貴重だ」ってことだけで、他はな〜んもなし(笑)。現代劇を演っても、決して下手ではないことが判りますが、かといって、これといった見せ場があるわけでもなし。まあ、上半身裸を見せるサービスカットが、あることはありますが、これもほんの一瞬だしなぁ。
 とゆーわけで、トラッシュ映画好きならともかく、単にリーヴス目当ての場合は……う〜ん、マニアかコレクターでもない限り、やっぱりオススメはしかねるなぁ(笑)。
 まあ私の場合、米盤DVDを注文するほどのもんでもね〜かな〜、と、スルーしてたヤツだったし、トラッシュ系はトラッシュ系で好きなので、国内盤が980円という安価で出たのは嬉しい限り。ホクホクと喜んで購入いたしました。
 あと、こういうPDものとかの廉価DVDって、安価な反面、画質の当たり外れが激しいくて、例えば去年出た、やはり往年のマッスル男優ミッキー・ハージティ主演の拷問映画『美人モデル 惨殺の古城 (The Bloody Pit of Horror)』なんかは、Something Weird Videoから出ている米盤DVDと比べると、かなり残念な画質だったけど、それに比べるとこの『牢獄の罠』は、そこそこ佳良と言える画質だったので、ホッとしました(笑)。
『エド・ウッドの牢獄の罠』(amazon.co.jp)

書籍『世界のサブカルチャー』

Subculture_2 アート、写真、FLASHアニメーション、リトルプレス、ショップ、ギャラリー……などなど、洋の東西を問わぬ様々なアンダーグラウンド・カルチャーが、330ページ以上に渡ってフルカラーで紹介されているカタログ本です。監修・屋根裏、著・屋根裏/どどいつ文庫 伊藤/ばるぼら/タコシェ/野中モモ/タブロイド/福井康人/みち、発行・株式会社翔泳社、定価・3200円+税。
 私なんかは、やはり画家とかに一番興味を惹かれるわけですが、このテのものは好きだし、さほど疎い方でもないとは思っていた私でも、見たことも聴いたこともないユニークなアーティストがどっちゃり載ってます。掲載図版が小さいのは残念だけど、サイトを持っている作家に関してはアドレスが記載されているので、ガイドブック的に楽しく使えそう。また、掲載されている作品のタイトルや制作年、使用マテリアルなどが、巻末リストとしてしっかり記載されていたり、人物名などの充実したインデックスを備えていたりするあたりも、極めて良心的だし嬉しい作り。
 で、まあ私もその一員として紹介していただいているんですが、ゲイ・アート関係では他にも、日本では児雷也画伯や稲垣征次先生、海外では、私が知っているところで、アメリカのアイラ・C・スミス、マイケル・カーワン、ロブ・クラーク、フランスのザビエル・ジクウェルなんかが取り上げられています。他にもスペインとか、珍しいところではペルーやインドのゲイ・アーティストなんてのも。
 そんなこんなで、なかなか面白い混沌とした本なので、よろしかったらどうぞ。
世界のサブカルチャー (amazon.co.jp)

ちょっと宣伝、読み切りマンガ(青年系)描きました

Gigolo 2月21日発売の「バディ」4月号に、読み切りマンガ(16ページ)描きました。タイトルは「ジゴロ」。
 内容は凌辱系……かな? 基本は、媚薬でブッ飛んでアヘ顔、みたいのを描きたかったんですが、それプラス、ガットパンチングとかチョーキングとかいった、ちょっとだけマニアックなネタも仕込んであります。
 ああ、あとローライズのボトムを描きたかったってのもあるんですけど、これは描きなれていないせいもあって、バランスをとるのがちょっと難しかった。……とはいえ、これは5ページ目で、もう脱がされちゃいますけどね(笑)。
 そんなこんなで、よろしかったらお読みくださいませ。
バディ4月号 (amazon.co.jp)
 さて、来月号のバディさんのマンガは、一回お休みさせていただきます。そのかわり、来月末には『外道の家』の下巻が発売されますので、そちらの方をどうぞよろしく。

『ペルセポリス』

『ペルセポリス』(2007)マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー
“Persepolis” (2007) Marjane Satrapi, Vincent Paronnaud

 フランス在住のイラン人女性が描いた自伝マンガを、自らが監督してアニメーション映画にした作品。
 いや、お見事!
 ユーモアを交えたモノガタリの語り口の面白さ、映像表現としての美しさや力強さ、作品の持つ普遍性や社会的な意義、と、三拍子揃った充実した見応えの作品でした。

 モノガタリの内容は、少女から成人した女性に至る一人の人間のいわば個人史なのだが、それを語る視点が、情緒に偏ることなく客観的なものなので、個人を通じて世界のドラマを見るという、多層性を持ったものとなっている。結果としてこの映画は、子供たちの世界を見るというジュブナイル的な楽しみ方もできるし、或いは、ガール・ポップ的なキャラクター・アニメーションや、女性映画や、時代背景や政治状況を知るといった具合に、様々な視点での鑑賞が可能になっている。
 表現面も素晴らしく、例えばメインのスタイルは、いささか素っ気なくぶっきらぼうなデザインのキャラクター(因みに一緒に見た熊は「LUMINEのルミ姉みたい」と言っていたし、私はちょっと「ナニワ金融道みたい」だと思った)が、フラットな画面の中で動き回り、悲喜こもごものドラマをユーモア混じりに演じるという、いわば「ちびまる子ちゃん」的なものなの。何の変哲もないカートゥーン的なスタイルだが、モノガタリの持つ重さや暗さを緩和する効果があるし、これによってリアリズム的なエモーションが抑制されていることよって、前述したような、情緒に偏らない客観的な視点といった印象にも繋がっている。
 また、この基本スタイルを軸に、語られるエピソードに併せて、様々なスタイルが自在に使われるのだが、そのどれもが見応えがある。例えば、昔語りが始まると、それに併せてフォーク・アートがそのまま動き出したかのようなスタイルに代わり、或いはシルエットを大胆に使って社会不安や戦争を表出したり、ギャグ的なメタモルフォーゼが出てきたり……といった具合に、各々が表現したいものに対して、最も効果的な見せ方、演出がなされるのだ。しかも、そのどれもが美しい。実写ではない、アニメーションという媒体ならではの醍醐味が、ふんだんに味わえる。
 そんなこんなで、ものすごく見応えがあり、観賞後は満足感でおなか一杯。

 以下、ちょっと個人的にあれこれ面白かった要素。

 時代背景について。
 自分はこれまで、イランにおけるイスラム革命というのは、国王の専政政治に対してイスラム保守派が起こしたものだとばかり思っていたんだけれど、そんな単純なものではなかったんですね。
 パーレビ(パフラヴィー)王朝自体が、二十世紀に入ってから軍事クーデターによって生まれたものであったことや、パーレビ時代に弾圧されていたコミュニストたちが、反政府勢力として革命に関わりつつも、革命後のイスラム体制下で、再び投獄・処刑されていたことなど、この映画で初めて知りました。
 勉強になりました。

 ゴジラについて。
 みんなが映画館でゴジラ映画を見るシーンがありましたが、私自身も1990年にイランを旅行したとき、イスファハンの映画館で『ゴジラ対ビオランテ』を上映していたのを思い出して、懐かしい気持ちになりました。泊まっていたムサッファルカーネ(イランの安宿)で同室だったイラン人たちが、私が日本人だと知ると、「ビオランテを見たか?」と聞いてきましたっけ(笑)。
 余談ですが、イランを旅する前から、かの地で『おしん』が人気だったとかいうのは聞いていたんですが、じっさいイスファハンのバザールで、ひらがなで「おしん」と書かれている真っ赤なバッグを見たときには、かなりビックリしました(笑)。あと、シラーズだったかケルマーンだったか、宿のフロントのオヤジが、夕方になるとテレビで見る『一休さん』のアニメを楽しみにしていたり、テヘランでズボンを買いに入ったブティックの名前が「TOKYO」だったり、イランにはいろいろ愉快な思い出があります(笑)。

 ジャスミンについて。
 自分がブラジャーをしていないことを残念に思ったのは、生まれて初めてです。う〜、真似してみたかったのに……(笑)。
 なんのことかって? それは映画を見てのお楽しみ(笑)。

 サントラについて。
 映画の主人公はロックやパンクに傾倒しているけれど、サウンドトラックの方はあまりそういった要素はなく、どちらかというと室内楽風味の瀟洒なアヴァン・ポップといった風情がメイン。親しみやすくてかわいいメロディーを、ユーモアを効かせた品のいいアレンジで楽しませてくれます。
 監督の言によると、ワールド・ミュージック風味は省いているとのことですが、私が聴くと、確かに伝統音楽的な要素はないものの、メロディーに懐メロ系のオリエント歌謡風情だったりして、けっこうエキゾ風味に感じられます。
「ペルセポリス」サントラ (amazon.co.jp)
 試聴ができる輸入盤のページにリンクを貼ってみました。
 私の一番のお気に入りは、オリエント歌謡 meets トイポップといった風情の21曲目”Teheran”。かわいくて優美な1曲目 “Persepolis theme”、フランス近代を思わせる3曲目” Tout ce qui est a vous m’appartient”なんかも、かなり好き。全体的に佳品揃いで、アヴァン・ポップ好きなら、サントラの枠を越えてもかなり楽しめる一枚です。
[amazonjs asin=”B001CI910E” locale=”JP” title=”ペルセポリス DVD”]