“I Want Your Love” (2012) Travis Mathews

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“I Want Your Love” (2012) Travis Mathews
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk
 2012年のアメリカ製ゲイ映画。住み慣れたサンフランシスコから故郷に帰らなければならなくなったゲイ青年と、その友人たちの一日を描いたもの。
 赤裸々なセックス描写のためにオーストラリアの映画祭で上映禁止となり、物議を醸した一本。

 主人公ジェシーはゲイで、パフォーマンスに携わるアーティスト。サンフランシスコで同じくゲイの友人とルームシェアをして暮らしていたが、故郷(アイオワだったかな?)に帰らなければならなくなり、お別れパーティが開かれることになる。
 ジェシーのルームメイトは、自分のボーイフレンドをジェシーの後に住まわせようとするが、そのボーイフレンドはルームメイトと別の友人の仲に嫉妬を覚え、二人の仲は少しギクシャクする。
 一方のジェシーは旅立ち前の落ち着かない気持ちの中、元彼とのハッピーなセックスのことを思い出す。ジェシーから連絡を貰った元彼は、ジェシーに会いに行くための服を服屋で選び、そこで黒人青年と親しくなる。元彼は服を着替えてジェシーと会いに行くが、二人は和やかな時間を過ごすものの、何も起こらない。元彼は黒人青年に連絡し、ジェシーのお別れパーティで落ち合おうと言う。
 騒がしいお別れパーティで、ルームメイトとボーイフレンド、そしてボーイフレンドが嫉妬したルームメイトの友人は、一緒に3Pをする。ジェシーの元彼と例の黒人青年もセックスをする。
 しかしジェシーはパーティの喧噪に加わる気がせずに、独り部屋で音楽を聴いている。そこにもう一人のルームメイトがやってくる。ジェシーはそのもう一人のルームメイトと他愛のない会話を交わすうち、やがて今後の不安に襲われ思わず涙ぐんでしまう。そんなジェシーを、もう一人のルームメイトは優しくいたわり、やがて二人は服を脱ぎ愛撫を交わすのだが……といった内容。

 昨今のゲイ映画のトレンドの一つ(だと私が思っている)、あまりドラマらしいドラマは紡がれず、日常的で身近なエピソードを点景的に繋いで見せ、その中で微妙な感情の起伏などを見せるタイプの作品。
 というわけで交わされる会話も、ストーリーを進行させるためのそれではなく、日常的な雑談的なものが主で、しかも完全に現代口語なので、正直これをヒアリングのみで鑑賞するのは、私にはいささかハードルが高く、ディテールはかなり拾い損ねていると思います。
 ただ、キャラクターの存在感や全体の空気感が、これがもうリアルそのもので、俳優が演じる作られたドラマを見ているという気が全くしなくなるほど。おそらく低予算の作品なんですが、撮影技術なども悪くなく、カット繋ぎのテンポなどもこなれているので、全体の尺が70分というコンパクトさもあるんですが、自分でも意外なほど見ていて作品に引き込まれました。

 物議を醸したセックス描写は、これはもう赤裸々というかあからさまというか、もう完全にハードコアポルノ的なそれ。ペニスの勃起から手コキからフェラからゴム被せからツボ舐めから指マンから挿入から射精の瞬間から、もう全てズバリそのものを見せています。
 ただしいわゆる商業的なポルノと異なるのは、まずセックスしているのがポルノ的に理想化された男優ではなく、いかにもそこいらへんにいそうなアンチャンどもで、身体の線はゆるいわ顔もそこそこ止まりだわ、○○系といったステレオタイプやクローンでもないところ。
 また、行為そのものは赤裸々に、そして時間もたっぷりとって描写されるんですが、表現的にはいわゆるポルノのそれとは全く異なっています。つまり、一つの行為を延々と映したり、結合部にも照明が当たってよく見えたり、視聴者を挑発したりとかいった、そういった要素が皆無。
 では、具体的にはどういうものかというと、これまたドラマ部分の描写同様にリアルそのもの。赤裸々だけれど、挑発的でも露悪的でもなく、スタイリッシュに処理することもない、そんな多くの皆が日常で行っているようなセックスと同様の光景が、スクリーン上で(正確には液晶TVのモニターですが)繰り広げられます。
 また、日常的とはいっても、そこは素人生撮り的な退屈さとも無縁で、しっかりフェティッシュな感触のクローズアップが入ったり、上手い具合にカット割りを入れたり、描写に陰影が富んでいたり、情感を湛えていたり……と、セックスの表現自体の魅力も大。自然な空気感も実に良く、例えば、射精を終えた瞬間に笑い出してしまうペアの描写なんて、実に楽しげで、しかもナチュラルなので、見ていて思わずこちらの頬も弛みます。
 そんな具合に、ハード・コア・セックスをダイレクトに見せるという意味では、確かにポルノ的ではあるんですが、それでも表現としては非ポルノ的といった感じで、ちょっと今までに見たことがないタイプ。セックスの内容がバニラなので、正直私は見ていてさほど興奮しませんでしたが、しかしそんな表現の魅力だけでも、充分以上に見る価値大なくらいに良かった。

 というわけで、全体のナチュラルな空気感や、セックス場面の魅力、そして不思議と爽やかな後味など、《今》のゲイ映画に興味がある方なら、まず見て損はない一本。
 しかしここまで赤裸々だと、例えゲイ映画祭であっても、日本での上映は難しそうではありますが……。