“Deli Deli Olma”

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“Deli Deli Olma” (2009) Murat Saraçoglu
(トルコ盤DVDで鑑賞、米アマゾンで取り扱いがあったんですが、現在は品切れの模様→amazon.com

 2009年製作のトルコ映画。タイトルの意味は”Piano Girl”。

 トルコの雪深い寒村で暮らすロシア系移民の、最後の一人となった老人と、村の様々な人々との交流を描いたヒューマン・ドラマ。主演はトルコのベテラン・スター俳優タルク・アカンとシェリフ・セゼル……と、ユルマズ・ギュネイ監督の『路』コンビ。
 その昔、オスマン帝国対ロシア帝国の戦争の後、ロシア皇帝によって追放されたモロカン派の人々が、トルコのカルス地方に強制的に移民させられた。そして時は流れロシア人たちは少しずつ死んでいき、最後に残った二人の従兄弟同士のうち片割れも死に、ついに年老いた男ミーシカだけが一人残される。
 村人たちは、一人ぼっちになってしまったミーシカのことを、あれこれ案じるのだが、この村には村中の皆から怖れられている気性の激しいパピュクという老婆がいて、この老婆がロシア人を蛇蝎の如く嫌っているので、村人たちも大っぴらにミーシカを助けることができない。
 そんな中、パピュクの孫で音楽が大好きな少女エルマが、ミーシカがピアノを弾いているのを見たことをきっかけに、彼と仲良くなり家に出入りするようになる。しかしそれを知ったパピュクは烈火の如く怒り、しかも自分の息子がこっそりミーシカにツケで食糧を売っていたと知り、強引にその支払いを迫る。
 支払いに窮したミーシカは、街で売ればかなりの金額になると、父から譲り受けたピアノをパピュクに渡す。エルマは喜ぶが、パピュクはピアノを家に置いておきたくないので、息子が賭で負けた精算の代わりに、ピアノを別の家族に渡してしまう。村では西洋音楽に全く馴染みがなく、ピアノは粗大ゴミのように扱われてしまい、エルマは子供ながらに何とかそれを大事に扱わせようと奮闘する。
 そんな中、エルマの音感の良さに注目した学校の音楽教師が、彼女に音楽学校の奨学制度の試験を受けさせたいと提案する。村から将来のピアニスト、つまり歌手や女優のような有名人が出るかもと、村人たちはこぞって賛成するのだが、祖母のパピュクだけは断固反対。
 そんな最中ミーシカが病に倒れてしまう。果たしてエルマの将来は、そしてパピュクは何故そんなにミーシカのことを目の敵にするのか? ……といった内容。

 なかなか見応えのある作品。
 雪深い寒村の風景は見事に美しいし、村人たちの様子も実に生き生きとして魅力的。エルマをメインにした子供たちのエピソードも楽しく、エルマがミーシカのことを、次第に本当のおじいちゃんのように慕っていくあたりもジーンときます。
 ミーシカとパピュクの過去の因縁に関しては、まあある意味想像通りといった感じで意外性はないんですが、このエピソードを通じて、異国へ強制的に移民させられた人々の悲しみや、民俗や言語の違いだけではなく、宗教の違いによって同化することができない人々間の悲劇などを、くっきり浮かびあがらせるのが上手い。
 メインのストーリー以外でも、村の茶店で定例開催されるサズ(楽器)の弾き語り&即興詩による歌合戦のアレコレとか、いい歳した男たちがパピュクの剣幕の前ではいつもタジタジとなってしまい、手も足も出なくなるといったユーモアとか、ピアノに隠されていた謎とか、あれこれ楽しいディテールがテンコモリ。
 ミーシカを心配して村の男たちが彼の家を訪ねると、彼が編んだソックスとか彼が焼いたロシアのデニッシュとかがあるので、おそらく彼がずっと独身であったことも踏まえて(これは理由があるんですが)「……やっぱり彼はオカマだ」なんてヒソヒソ言い交わすのを、ユーモラスに描いたシーンもあり。
 強いて言えば、ちょいとテンコモリ過ぎて、これは別になくてもいいんじゃないかというエピソードもあるし、どうせなら少女エルマの視点で一貫させた方が構成としてスマートになったのではないかという気もしますけど、良い意味での通俗性を持ち合わせた、面白さも感動もある標準以上の出来であることは間違いなし。IMDbでも7.1点という評価。
 役者陣も上々。ミーシカ役、タルク・アカンのおじいちゃんっぷりが実に良いんですが、対するパピュク役、シェリフ・セゼルの烈女っぷりも、またお見事。エルマ役の少女も文句なく愛らしく、その他いろいろ愛すべきキャラクターもいっぱい。
 あと、極めて個人的なことですが、ちょうどこういった雪深い時期に同地方を旅したことがある(1月にイランのタブリーズから鉄道で国境を越えてトルコのドゥバヤジットへ行った)ので、出てくる風景や村の光景等、見ているだけでも、なんかいちいち懐かしかったり嬉しくなったり(笑)。

 ただ、後味がちょっと微妙なところがあるので(ヒューマン・ドラマ的な感動というより、ちょっと苦いものを飲み込んだようなトラジックな気持ちになる)ので、そこは好みが分かれるところ。私の好みとしては、全体のテイストと照らし合わせても、もうちょっと暖かみのあるエンディングにして欲しかったかなぁ……という気はします。
 ここいらへんは、前に“Vizontele”の感想で書いたような、これがトルコ映画的な特徴なのかな……なんて思ったり。