“Guzaarish”

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“Guzaarish” (2010) Sanjay Leela Bhansali
(インド盤Blu-rayで鑑賞、米アマゾンで購入可能→amazon.com

 2010年製作のインド/ヒンディ映画。監督はご贔屓サンジャイ・リーラ・バンサーリ。主演はリティック・ローシャン&アイシュワリヤ・ラーイという、これまたご贔屓コンビ。
 事故で全身麻痺となったマジシャンと、彼の望む尊厳死を巡る内容。

 主人公はかつて天才マジシャンとして名声を博しながらも、事故で14年間寝たきりになっている男。自分で鼻の頭を掻くこともできない彼を、美人の看護婦が12年間、一日の休みもとらずに献身的に介護している。
 そんなある日、主人公は自分の顧問弁護士を呼び、尊厳死をしたいと告げる。その望みは、件の看護婦、弁護士、主治医、彼の元に押しかけでやってきた弟子といった人々の間に波紋をもたらす。
 インドでは尊厳死は認められていなかったが、弁護士は彼の意を汲み、それを認めろというリクエスト(guzaarish)を法廷へと持ち込む。また主人公は、自分がホストを務めるラジオ番組を通じて、尊厳死の是非をリスナーにも問う。
 果たして死とは、そして生とは何なのか。人間の命は誰のものなのか。人生とは、そして幸福とは何なのか、主人公と周囲の人々の下す決断はどうなるのか……といった内容。

 まあ、何と言っても巨匠(と言っていいと思う)バンサーリ監督の作品なので、一定以上の水準は楽々クリアしている見事な出来映え。
 圧倒されるような映像美、エモーショナルな展開、格調高い演出などは、いつも通りの見事さ。重たいテーマを扱いながら、全体が重くなり過ぎない手綱さばきも上々。
 テーマとしては、既存の価値感そのものに疑問を発し再考を促すという、いかにもこの監督らしいもので、この難しいテーマを、主人公という軸を一本きちんと通すことによって、最後は余韻があって清々しさすら感じられる作品に仕上げているのは、かなりスゴいと思います。
 ただし同時にこの監督は、リアリズムよりはロマンティシズムや美学を優先させる傾向があるので、果たしてこのテーマにこういったアプローチが合っているのかという部分で、いささか疑問が残る感はあり。また、ストーリー的にも、ちょっと部分的に作りすぎの感があるのは否めない。
 特にストーリーに関しては、展開の意外性を狙ったのかのような、後半の作劇が大いに疑問。
 尊厳死を望む主人公と、周囲の人間が、悩み悲しみながらも次第にその意を汲んでいくという、その構図だけでも充分以上にドラマティックであるにも関わらず、14年前の事故の真相とか、押しかけ弟子の正体とか、美人看護婦の過去とか、個人的には蛇足としか思えないエピソードが、後半になってからあれこれ挟まってくる。
 結果として、ストーリー自体が嘘っぽいものとなり、しかも展開も駆け足気味で、せっかく場所を自宅に移しての法廷劇の場面の、特に主人公と母親のエピソードで最大限に高まる感動が、これらの蛇足によって薄まってしまった感あり。
 ただ、ラストにはそういった不満も消えて、「このエンディングで、この清々しい余韻の残る感動って、スゴい!」という気分になったので、まぁ帳消しという感じも。
 映像自体は、いつもながらホント溜め息ものの美しさ。
 日常パートで見られる布や光を使った表現、夢や回想に出てくるマジック場面のファンタジックな美しさ……などなど、もうこれは見所だらけ。まぁちょっと「……ひょっとして『潜水服は蝶の夢を見る』と『プレステージ』を見て思いついた?」みたいな気がしなくもありませんが(笑)。
 役者さんもそれぞれ佳良。特にリティック・ローシャンは素晴らしかった。

 という感じで、作品としては部分的に瑕瑾がないとは言えないし、完成度としても”Devdas”や”Black”、そして世評はイマイチながら私個人としては高評価の“Saawariya”よりも、正直落ちると思いますが、それでも充分以上に見応えのある作品。
 毎度のことながら、この監督の作品が本邦では殆ど未紹介なのは、つくづく惜しいと思います。