“Do Começo ao Fim (From Beginning to End)”

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“Do Começo ao Fim” (2009) Aluisio Abranches
(ブラジル版Blu-rayで鑑賞/米盤DVD英盤DVDあり)

 2009年製作のブラジル映画。英題”From Beginning to End”。監督/脚本、Aluisio Abranches(アルイジオ・アブランシェス?)。
 子供の頃から仲の良かった兄と弟が、互いに抱く深い愛情はそのままに、やがて成人して同性愛関係になるという話を、叙情的に描いた作品。

 フランシスコとトマシュの兄弟は、幼い頃から大の仲良し。弟のトマシュは兄のフランシスコをヒーローのように慕い、兄は弟を親の様に庇護する関係。優しい母親や彼女の再婚相手である義父、そして実の父親といった周囲の大人たちは、二人の関係が余りにも密接すぎることに、時に微かな不安を感じたりもするが、それでも兄弟を暖かく見守る。
 やがて時は流れ、二人は立派な青年へと成長したが、母親が亡くなる。義父は、このまま愛する妻の想い出が詰まった家で暮らすのは辛いと、二人を残して家を出る。二人きりになった兄弟は、まるで来るべき時が来たかのように、ごく自然に互いの愛を確認し、肉体関係を結ぶ。
 愛し合う二人は幸せに暮らすが、そんなある日、水泳選手であるトマシュに、オリンピック出場に向けてロシアでの強化合宿の話が持ち上がる。躊躇う弟に、フランシスコは是非行くべきだと薦める。しかしそれは、今まで片時も離れたことのない二人が、3年間離ればなれになることを意味していた……という話。

 意外だったのは、兄弟という近親間での同性愛という題材を扱いながらも、そこにタブー的な要素がいっさいなく、どちらかというと、「運命的な愛」をひたすらリリカルに描いた、お伽噺のような作品だった……ということ。何と言うか、ここまで障害も波乱もないラブストーリーってのも、ちょっと珍しいような気がします。
 いちおう後半は、ブラジルとロシア、離ればなれになった兄弟の間に、会えないゆえのギクシャクが生じたりはするんですが、それでもまあ、いわば遠距離恋愛にはありがちな話というだけでしかない。加えて、周囲の人間も全員善人ばかりなので、ドロドロもしなければ痛い展開もなし。
 で、この映画、おそらくテーマは2つあって、まずは前述した様な、最初から定められ最後まで変わることのない、運命的な愛の絆。そしてもう一つは、自分の愛と自分の進む道は、自分の意志で貫き通す素晴らしさ。ここいらへんは、生後間もない弟が自分の意志で目を開けるなんていう伏線が、上手く機能しています。
 そんなこんなで、とても純粋というか、真っ直ぐで清々しく好感は持てるし、雰囲気も良いし役者さんも好演してるんですが、いかんせんドラマの弱さはカバーしきれない感じ。そのせいで、どうも全体がフワフワとした絵空事のように見えてしまい、それが逆に、テーマ自体を薄っぺらく見せてしまうのが惜しい。

 ただし、ロマンティック&ホモエロティックな、ピュアで美しい叙情詩だと割り切って見れば、見所はいたるところにあります。
 前半は可愛い子供たちが仲良くスクスクと育っていく様子を、後半は恋人同士になった二人のキャッキャウフフを、きれいな映像とロマンティックな音楽にのせて延々と見せてくれます。現実の苦みとは無縁の、ひたすらスウィートなゲイのファンタジー世界。
 特に後半は、美麗画像による清々しい青年二人のフルヌードがふんだんに出てきますし、キスやらセックスやらスカイプセックスやら、イメージの中で二人が全裸でタンゴを踊ったりとか、ゲイエロス的な目の御馳走がタップリ。ロマンティック方面も、ハーレクインかトレンディドラマかといった、こっ恥ずかしいくらいのベタ展開がタップリ。
 ただ、私のテイストから言うと、やはりもうちょい人間ドラマとしての深みが欲しい。ぶっちゃけ前半の子供時代は、映画としてもかなり引き込まれて、「お、これは!」と期待も高まる。二人の子役は実に良いし、母親役の女優さんは魅力的、他の大人たちも全員いい感じ。
 その反動もあって尚更、後半の大人になってからの展開が、ドラマ的には失速して映画的な見応えも薄れてしまい、見所はゲイの願望投影イメージビデオみたいな部分だけ……なんて印象になっちゃった感もあり。
 しかし高校時代の私……もう30年前だ(笑)……だったら、映画に男同士のキスが出てきたり、ましてやフルヌードやらゲイセックスなんてのが出てきた日にゃ、心臓が口から飛び出すくらいドキドキしたもんだけど、それが今じゃ「見所そこだけ!」なんて文句たれてるんだから、まったく良い時代になったというか、我ながら贅沢言ってんなぁ……という気も(笑)。

 そんなこんなで、題材が興味深く映像や音楽も良いだけに、ついつい「惜しい!」気分が勝ってしまいますが、期待するポイントを間違えなければ、ゲイが見てロマンティックでセクシーな気分になれる要素はテンコモリだし、同性愛に対するポジティブさという点では、この映画では既に、アイデンティティとしてのゲイという要素すら必要としていないのは、ある意味天晴れでもあります。米アマゾンのレビューも、絶賛の嵐。
 ……でもやっぱ私は、もうちょい「切なさ」みたいなスパイスが欲しい(笑)。

 余談。
 元々この映画、YouTubeで予告編を見て、「これは見たい!」とツイッターで呟いたところ、私をフォローしてくださっているブラジル人のファンの方が、「こっちでソフトが出たら、良かったら送りましょうか?」と言ってくださり、それで目出度くBlu-rayを入手できたといういきさつがあります。
 もちろん送っていただいた後は、折り返し御礼をお送りしましたが、なにせ地球の反対側、ツイッターを通じてこういうことが起きちゃうあたり、なんとも感慨深いものがありました。この場を借りて、同氏に再度御礼を……って、日本語で書いても判らないか。
Thanks again for your kindness, Mr. Metal Gear Red! 😉