『蛇女』”Kuon puos keng kang”

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“Kuon puos keng kang” (2001) Fai Sam Ang

バーン・ラジャン』で惚れ、『ナンナーク』で更に惚れ、『アリゲーター 愛と復讐のワニ人間』でもやっぱり惚れ、タイ語オンリー字幕なしなのに『クイーンズ・オブ・ランカスカ』のDVDまで買ってしまった、お気に入りのタイ人男優Winai Kraibutr(ウィナイ・グライブット/ビナリ・クレイブート)の出演映画。
 ゲットしたのは、英語字幕付き台湾盤DVD。『蛇女』というタイトルの上に「鬼嫁2」とあるので、どうやら『ナンナーク2』としてリリースされたみたいですな。英題は”Snaker”とか”The Snake King’s Child”とかいうらしい。
 映画を見るまでは、てっきりタイ映画だとばかり思っていたところ、タイトル・クレジットでいきなりクメール文字が出てきてビックリ。
 で、調べてみたところ、カンボジアとタイの合作映画で、何とカンボジア映画としては、クメール・ルージュ時代以降、最初に作られた長編映画なんだそうな(参照)。

 ストーリーは、カンボジアの民話を基にしたものだそうで、とある村に夫婦と娘一人が住んでいるが、夫は行商で留守がちで、家にいたらいたで酒に酔い、妻を虐待するという日々。
 そんなある日、妻が娘と一緒に農作業に出掛けると、鍬の先がスッポ抜けて大蛇の側に落ちてしまう。そこで妻が「大蛇さん、大蛇さん、お願いだからその鍬の先を返して、それをなくすと旦那に殴られちゃう」と頼むと、大蛇が「オイラのお嫁になってくれたら返してあげるよ」と答える。暴力旦那が怖い妻は、しかたなく承諾、無事に鍬の先を取り戻す。
 その晩、夫が行商で留守の家に、大蛇が夜ばいにやって来る。「ひぇ〜!」となった妻だったが、そのとき大蛇が、キラキラのウロコみたいなお洋服を着たハンサム青年に変身、二人は結ばれるのでありました。そんなこんなで、蛇の優しさと蛇男のハンサムさに、妻はすっかりホの字に。昼は大蛇を抱いて愛しく語り合い、夜は人間に変身した彼に抱かれるという幸せな日々が。
 とことが、娘はそれが面白くない。まあ、ママが蛇と浮気しているわけだし、しかも自分が、「今ならお父さんは家にいないよ」と、蛇に報せに行く役をやらされているもんだから、無理もないです。そうこうしているうちに、ママのお腹が膨らんできた。ひぇ〜、蛇の子を妊娠しちゃったの!?

 さて、一方ここは、町に住む金持ちの家。
 いかにも財産目当ての親族関係でドロドロしていそうな状況で、本家の奥様がご懐妊。それを知った分家の奥様はキーッとなって、「自分も子宝が欲しい!」と魔女の家に行きます。
 その頃村では、帰ってきた夫が、妻が妊娠していることに気付き詰問する。何とかごまかしていた妻だったが、そこで娘の裏切りが。「ママは蛇と浮気してる」とパパにチクったもんだから、夫は怒りに燃えて蛇を叩き殺し、しかもそれを料理して妻に喰わせてしまう。
 愛する恋人を殺され、しかもその肉を食わされて悲しむ妻を、夫は言葉優しく騙して河原に連れ出し、そこで豹変、「浮気者を成敗してやる!」と、鎌で斬りかかる。哀れ妻は、抵抗空しくボテ腹を鎌で切り裂かれ絶命。すると腹の中から、大量の子蛇がニョロニョロと!
 怒りと恐怖に燃えながら、夫は子蛇を鎌で切り刻んで行くが、そのとき濡れた岩で脚が滑り、転倒したはずみに鎌が腹にブッスリ! そこに娘もやってきて、パパとママが血まみれで死んでいるのを見て、「うえ〜ん!」と泣いたはずみに、これまた脚が滑って後頭部をゴツン、可哀想に、これまた死んじゃいました。
 後に残されたのは、一匹の子蛇だけ。そこに旅の僧侶が通りかかると、何と子蛇が、僧侶の見ている前で人間の赤子に変身! 何かを悟り、哀れに思った僧侶は、赤子に変身した子蛇を抱いて、森の中に消えるのでありました……。

 え〜、ここまでが導入です。本筋は、こっから後。
 今回は、このまま結末まで続けちゃうんで、ネタバレがお嫌な方は、次の段はスルーでヨロシク。

<ここから↓>
 さて、数年後。
 蛇と人間の間に生まれた娘は、可愛く成長したものの、何と姿は人間なれど、髪の毛が無数の蛇というメドゥーサみたいな姿。養い親の僧侶に「おじいちゃん、この頭をフツーにしてよ〜」と泣くと、僧侶は「大人になったらフツーになるからね」と諭す日々。
 そんなある日、蛇少女は蛇の生えた頭を頭巾で隠し、河に遊びに行きます。するとそこには、三人の人間の子供が。一人は、例の町の金持ちのところに産まれた跡取り息子。残る二人は、魔女の助けで分家に産まれた娘と、その兄。
 同い年の子供を見た蛇少女は「遊ぼうよ」と声を掛けるが、性格の悪い分家の娘は「アンタみたいな汚い子とは遊ばないわ!」と、むべなく拒絶。優しい本家の息子が、蛇少女を庇おうとしたとき、分家の娘が「何よ、この汚い頭巾は!」と、蛇少女の頭の布をむしり取ってしまう。
 髪の毛の代わりに現れた、無数のウジャウジャ動く蛇を見て、子供たちはパニック! 可哀想な蛇少女は、森の中に帰ってしまいました。
 そして、十数年後。
 美しい娘に成長した蛇少女は、これまたハンサムに成長した本家の息子が、滝壺に落ちてしまったのを救います。ハンサム青年に惹かれた蛇娘は、約束どおり育ての親の僧侶から「頭の蛇を髪の毛に変える指輪」を貰い、本家の息子も、命の恩人である美しい黒髪の娘に惹かれます。
 やがて二人は愛し合うようになり、本家の息子は僧侶に頼み、蛇娘を自分の家に連れて帰ります。死んだと思っていた息子が帰ってきて、本家の主は大喜びですが、面白くないのは、いずれは本家に嫁入りするつもりだった分家の娘と、その親兄弟たち。
 分家の連中は、この余所者の娘をいびって追い出そうとするけど、上手くいかない。仕方なく、また魔女に助けを求めにいくが、指輪を通じて僧侶が蛇娘を助けてくれるので、これまた失敗。結婚相手をとられそうでヒスを起こす分家の娘と、本家の財産を狙う腹黒い母親のイライラは募るばかり。
 そんな時魔女が、娘が蛇の化身だと看破する。「娘の処女を奪えば、蛇の姿に戻る!」それを聞いた分家の母は、息子に「アンタ、あの娘をレイプしちゃいなさい!」と命令。ノリノリで蛇娘に襲いかかった分家の息子ですが、そのとき指輪が消えて、娘の髪の毛は蛇に変身! 「ひょえ〜っ!」と逃げ出した分家の息子を、小さな蛇がカプリ! 哀れ分家の息子は、頓死してしまいます。
 一方、本家の息子は、自分が態度をハッキリさせないのもいけないんだと、分家の娘に「君と結婚するつもりはない!」と名言して、改めて蛇娘に愛を告白。蛇娘も喜んで、彼を寝室に迎え入れます。
 こうして結ばれた二人でしたが、しかし朝になると、娘の手に醜いウロコが!
「言いつけ破って婚前交渉しちゃったから、あたし蛇に変身しちゃう、助けて、おじいちゃ〜ん!」と、蛇娘は泣いて森に戻ります。「おじいちゃんがきっと何とかしてやるから」と、僧侶が祈祷を始めたところに、そうはさせじと、分家の母娘が魔女を連れてやってくる。
 掌から怪光線を発射して、僧侶を攻撃する魔女! 僧侶も負けじと、光線を撃って対抗! 熾烈な戦いの後、僧侶は、何とか魔女を倒すことはできたけものの、自分ももう虫の息。あわれ、蛇娘が蛇に変わってしまうのを止めることができる者は、もういないのか?
 すると、そこに一条の光が迸り、現れたのは蛇娘の父親である、キラキラ服のハンサムな蛇男! 蛇男と僧侶は力を合わせて、娘に向けて救済光線を発射!
 こうして、蛇娘が人間の娘となったところで、蛇娘を連れ戻しにきた本家の息子と再会、愛し合う二人はしっかり抱き合い、その傍らで、悪い分家の嫁は蛇にカプリとやられて頓死しました、ってことで、めでたしめでたし。
<ここまで↑>

 とゆー具合で、モノガタリとしては、いかにも民話的な自由さが横溢していて、かなり楽しかったです。
 映画としては、まあ、チープっちゃあチープです。もちろん、ホラー的な怖さは皆無だし、かといって文芸的な滋味があるかといえば、これまたナッシング。チープさの方も、度を超してヘンテコって程でもないかなぁ。でも、クライマックスに超能力合戦が始まったときは、けっこうビックリした(笑)。
 でも、一番ビックラこいたのは、蛇娘の頭の特殊メイク。ちゃんと蛇がウネウネと動き回っていて、しかもリアルなもんだから、「やけに良くできたCGだなぁ」とか思ってたら、前述のWikipediaに「CGではなく、生きた蛇を接着したキャップをかぶっている」と書いてあって、もうヒョエ〜であります(笑)。そりゃ、リアルなわけだ……。
 個人的には、全体のユル〜いムードはけっこう好きだし、物珍しさも手伝って、なかなか新鮮な気持ちで見られました。
 ロマンティックなシーンで流れる、カンボジア演歌といった味わいの、何ともノンビリしたいなたい音楽(タイのルークトゥンみたいな感じ)は好きだし、脇の役者さんたちの、フツーの映画的な演技とは完全に違う、セリフがない間もひっきりなしに「フゥ〜ン」とか「ンフゥ〜ン」とかいった、溜め息のような鼻にかかった声を上げて身をくねらせる芝居も、何だか「ああ、カンボジアの民衆芝居って、こんなカンジなのかなぁ」なんて感じで面白かったし。
 あと、ウン十年振りの映画制作ということで、いかにも「カンボジアを宣伝せんかな&海外に売らんかな!」ってな感じで、アンコール・ワットがドッバ〜ンと出てくるのも楽しかったなぁ。
 タイトルバックからしてアンコール・ワットなんですけど、劇中でも、しっかり本家の息子が蛇娘とアンコール・ワットでデートするシーンってのがあって、しかもその際、本家の息子が彼女に遺跡について説明するという設定で、まるで観光ガイドみたいな内容をペラペラ喋ったりするもんだから、何だか映画の中に、いきなりカンボジア政府観光局制作のスポットCMが入ったみたいだった(笑)。

 で、私のお目当てだったWinai Kraibutr君はというと、もちろんハンサムに成長した本家の息子の役。
 そして、蛇娘に助けられてしばらく一緒に暮らすシークエンス中の、河で全裸で水浴びをしているところを蛇娘に見られて、あわてて手で前を隠すとゆーシーンで、
「ケツ見せ、キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」
だったので、もう大満足(笑)。
 しかしまあ君も、ワニと結婚したり蛇と結婚したり幽霊と結婚したり、大変だねぇ(笑)。