“The Last Legion”

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“The Last Legion” (2007) Doug Lefler

 ここで書いたアイシュワリヤ・ラーイつながりで、こんな映画を。
 西ローマ帝国最後の少年皇帝ロムルス・アウグストゥスと、その護衛アウレリウスを主人公に、かつてユリウス・カエサルがローマに持ち帰ったとされる伝説の剣を巡って、大胆な発想で繰り広げられるスペクタクル・アドベンチャー。
 原作はヴァレリオ・マンフレディの『カエサルの魔剣』(未読)。

 五世紀後半、既に弱体化していた西ローマ帝国は、ついにゴート族によって滅ぼされてしまった。即位したばかりの少年皇帝ロムルスは、両親を殺され、家庭教師のアンブロシヌスと共に、カプリ島の城塞に幽閉される。
 ロムルスの護衛アウレリウスは、腹心の部下や、東ローマ帝国大使の護衛をしていた女剣士らと共に、少年皇帝の救出に向かう。一方、ロムルスとアンブロシヌスは、幽閉されている城塞の地下で、長らく行方不明だったカエサルの剣を見つける。
 救出作戦は無事成功するが、その時には事態が一変していた。西ローマ帝国の元老院はゴート族の征服者オドアケルに従い、東ローマ帝国の皇帝もロムルスを庇護しようとはしなかった。
 帰る国を喪ったロムルスとアウレリウス一行は、ブリタニア(イギリス)に残った最後のローマ軍団(last legion)を頼り、アルプスを越え海を渡る。そこは、家庭教師アンブロシヌスの故国でもあった。
 しかしブリタニアは、既にサクソン人の王ヴォルティガンの支配下にあり、更にロムルスの両親を殺したゴート族の戦士ウルフィラも、一行を追ってブリタニアに上陸する。
 果たして、少年皇帝ロムルスと、その仲間の運命は……? ってなお話しです。

 これは、いわば歴史の”if”を扱った内容で、発想はなかなか面白いです。
 ただ、DVDのパッケージに印刷されているキャッチコピーが、ヒントっつーか、もう、ほとんどネタバレに近い内容なので(笑)、かなり早い時点で結末の予想がついてしまい、驚きはなかったのが残念。作劇的にも、ちょいとミスリードに乏しくて、モノガタリが直線的すぎるきらいはあり。
 画面的には、制作がイタリアのディノ・デ・ラウレンティス・カンパニー(いつまでたっても元気ですねぇ)のせいもあってか、イタリアのシーンは佳良。ローマ市内には、まだかつての大帝国の残照が見られるけれど、郊外に出ると、滅びかけた斜陽の帝国のうら寂しさがあるとか、そういった対比は、時代の雰囲気を良く醸し出しています。
 ただ、舞台がブリタニアに移ってからは、セット等がいささか安っぽい。美術やCGI、物量や全体のスケール感も、昨今の劇場公開された大作史劇と比較すると、正直かなり見劣りがします。それでも、比較対象をTV映画やB級映画にすれば、まあ上出来だと思いますけど。

 全体の演出は、テンポは良いんですが、溜めや味わいには乏しい。けっこう盛りだくさんな内容のわりには、尺が一時間半強とコンパクトなので、話がぱっぱかぱっぱか進みすぎるという気も。アイデアが面白い分、もう少しじっくり腰を据えて見せて欲しかった。
 キャラクターは、けっこう良く立っているし、役者さんもいいところを揃えているんですが、ちょいと類型的過ぎるので、内面のドラマにまでは至らないのは残念。クライマックスの攻城戦も、展開は面白いはずなのに、心情的にもアクション的にも盛り上がりに乏しいのが残念。
 というわけで、演出の凡庸さを、ストーリー自体の面白さ(おそらく原作の力なんでしょうけど)で、ギリギリ持ちこたえている、という印象。まあ、重厚なエピックとかではなく、気軽に軽く見られるアクション・アドベンチャーとしては、そこそこ楽しめるんだけど、このネタだったら、もっといくらでも面白くも、感動的にも作れるだろうに、何だか勿体ない感じはします。
 そんなこんなで、全体の感触としては、かつてのイタリア製ソード&サンダル映画に近い味わいもありました。こうなると、裸のマッチョが出てこないのが残念だなぁ(笑)。

 役者は、護衛兵アウレリウス役に、コリン・ファース。個人的に、いつも印象が薄いお方なんですが、今回もしかり。別に悪くはないんですけど、こういう役だったら、もっと愚直で硬派な男の色気が欲しい。
 少年皇帝ロムルスに、トーマス・サングスター。どっかで見た顔だと思ったら、『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』の少年だった。『トリスタンとイゾルデ』にも出てたんですな。これまた、可もなく不可もなし。
 紅一点の女剣士ミラに、天下の美女アイシュワリヤ・ラーイ。インド映画以外で彼女を見るのは、これで二作目。カット割りに助けられてか、アクション・シーンは”Jodhaa Akbar”のときよりも良かったけど、お尻が大きいせいもあって、動きがが重く見える。美貌以外の美点はほとんど出ておらず、正直、別に彼女じゃなくてもいい役だった(笑)。
 物語の鍵を握る老家庭教師アンブロシヌスに、ベン・キングズレー。髪型や衣装に加えて、杖を振るってのアクション・シーンもあるので、『ロード・オブ・ザ・リング』のイアン・マッケランにそっくり(笑)。
 他には、敵役のゴート族の戦士に、『ROME』や『キングダム・オブ・ヘブン』のケヴィン・マクキッド、同じくゴート族の戦士に、『トロイ』や『仮面の真実』でステキなオジイチャンぶりを見せてくれて、個人的にホの字になったジェームズ・コスモ、東ローマ帝国大使に、『キングダム・オブ・ヘブン』や『ガーディアン ハンニバル戦記』のアレクサンダー・シディグ、西ローマ帝国の元老院議員に、『ハムナプトラ』シリーズのジョン・ハナー……などなど、脇役は、最近のコスチュームものの映画で、けっこう印象深かった面子が揃っており、個人的にはお得感アリ。
 残念だったのは、怪力の黒人とお調子者の青年という、アウレリウスの部下コンビで、それぞれノンソー・アノジーとルパート・フレンドという人が演じているんですが、キャラクター的な立ち位置はオイシイのに、描写が浅く、役者も造形的な意味で余り印象に残らないところ。ここいらへんで「んっ?」と気になるような肉体派男優を出してくれれば、偏愛度がもっとアップするのに(笑)。

 DVDはアメリカ盤、リージョン1。スクィーズのワイド。音声は英語、字幕は英語とスペイン語。
 オマケは、監督のオーディオ・コメンタリー、削除シーン、メイキング、スタントマンたちによる殺陣の振り付け風景、ストーリーボードと完成画面の比較、予告編。
 ま、これはそのうちDVDスルーで、日本でも出そうな気はします。
 いちおう、責め場関係の情報も(笑)。
 処刑されたローマ人兵士が、城壁に吊されている場面と、ベン・キングズレーが両手縛りで断崖絶壁の上に吊されるシーンあり。どっちもわざわざ、それ目当てに見るほどのもんじゃないです(笑)。
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