最近良く聴いているCD

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“Świadectwo” Vangelis & Robert Janson
 ポーランド映画のサントラ。前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の生涯を、その腹心であった枢機卿の目を通して描いたドキュメンタリー映画らしいです。
 音楽はヴァンゲリスとロベルト・ヤンソン(ポーランド語の発音が判らないので、表記はテキトーです)の二名がクレジットされていますが、合作しているわけではなく、ヴァンゲリスが3曲、ヤンソンが10曲を、それぞれ提供しています。
 私のお目当てはヴァンゲリスでしたが、3曲とも、メロディアスでロマンティックで荘厳で雄大という、いかにもヴァンゲリスらしい内容。
 新味はないですけど、題材が題材なだけに、メイン・テーマらしき”Sanctus”なんか、いかにも宗教的な法悦を誘発しそうで、その高揚感はかなりのもの。2曲目の”In Aeternitatem”は、荘厳なムードの中に複雑な和声が陰影を与えており、二分足らずの短さなのに聴き応えはバッチリ。3曲目の”Humanum Est”は、ちょっとトラジックな感じ。
 ヤンソンの方は、私は寡聞にして何も知らないんですが、優美でちょっと感傷的なオーケストラ曲。スウィートなピアノや暖かな木管や穏やかなクワイヤによる、美麗なリード・メロディーが良く立っていて、なかなかキャッチーな作風です。ただ、個人的な趣味から言うと、ちょいとムードミュージックやニューエイジ音楽的な「甘さ」や「泣き」が目立ちすぎているので、もう少し渋みが欲しい感じもアリ。
 でも、9曲目の”Triumf”なんか、そういった特徴が実に効果的にハマっていて、実に感動的な一曲だし、メイン・モチーフのピアノのフレーズなんかも、好きな人にはタマラナイ感じではないかと思うので、ジョージ・ウィンストンや久石譲のファンだったらオススメです。
 Amazonとかでは取り扱いがないみたいけれど、サントラ専門店の老舗「すみや」さんで購入可能です。
“Świadectwo” Vangelis & Robert Janson (すみや楽天市場店)

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“Partes Extra Partes” Wim Mertens
 ベルギーの作曲家ウィム・メルテンが、自曲を自身でオーケストレーションしたものを、フレミッシュ・ラジオ・オーケストラが演奏(ピアノ演奏は作曲者本人)しているアルバム。
 80年代、クレプスキュール・レーベルで出会って以来、長年追いかけているお気に入りの作曲家の一人ですが、これまでは多くても室内楽規模のアンサンブルだった彼の作品を、こうしてフル・オーケストラで聴けるとは、何だか感慨深いものがあります。
 全11曲のうち、新曲がどの程度入ってのかは、ちょっと判りませんが(何しろ、前にもちょっと書いたことがあるけれど、とにかく出すアルバムの数が膨大なので、とてもじゃないけど私もコンプしてるわけじゃないんで……)、昔からのファンとしては、”Birds For The Mind”(『建築家の腹』)、”Multiple 12″(『フェルゲッセン』)、”Struggle For Pleasure”、”Close Cover”(『ストラグル・フォー・プレジャー』『建築家の腹』両方に収録)といった、往年の名曲がオーケストラ版で聴けるのが、とにかく嬉しい。
 最近作からも、”Often A Bird”(『Jardin Clos』)、”Yes, I Never Did”、”To Ovey”(『To Fill In The Blank』あ〜、これ持ってねェや……)、なんかが、オーケストラ用に編曲されて入ってます。
 全体的には、選曲演奏共に、彼の持ち味の一つである、憂いのある叙情性が前面に出ている感じ。もう一つの持ち味である、ミニマル的なタイト感は、あまりなし。
 というわけで、新星堂のオーマガトキ・レーベルや、ビクターから出ていたクレプスキュールの日本盤、ピーター・グリーナウェイの映画『建築家の腹』のサントラなんかで、彼の音楽が好きだった……てな人には、文句なしにオススメできる内容です。
 因みに、試聴はここでできます。
“Partes Extra Partes” Wim Mertens (amazon.co.jp)

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“Jules Verne’s Master Of The World” + “Goliath And The Barbarians” Les Baxter
 1961年の映画『空飛ぶ戦闘艦』(未見)のサントラ。作曲はレス・バクスター。
 私は、レス・バクスターが大好きなので、とにかくその名前さえあれば、何でもかんでも買っちゃうんですが、実はこのサントラ盤、2 in 1の二枚組でして、そのカップリング作が、なななな何と去年ここで「できればそっちの方も復刻して欲しいな〜」と書いた、『鉄腕ゴライアス 蛮族の恐怖』のアメリカ公開版サントラなのだ!
 で、早速『ゴライアス』の方から聴いてみた。おぉ、メインタイトル「ゴライアスのマーチ」には聞き覚えがあるぞ。これ、何か他のソード&サンダル映画でも、使われていなかったか? 愛のテーマ「ランダ」は、バクスターお得意のエキゾな香りが漂う、ムーディーでロマンティックな美曲。
 その他、いかにもエピックらしきムードの数々で責めてくるんですが、う〜ん、ちょい重厚さに欠けるかな、というのが正直なところ。ハッタリ不足というか。バクスターの音楽の「軽やかさ」や「キャッチーさ」が、ちょい裏目に出ているような。
 エキゾ味とか主題の変奏とか、独立した音楽としては、面白いし聴き応えもあるんですけど、モンドやムードミュージック的な「楽しさ」には欠けるので、劇伴としてもイージーリスニングとしても、虻蜂取らずになってしまっている感あり。
 一方の『空飛ぶ戦闘艦』の方は、にぎにぎしくも楽しいモダニズムが横溢しているので、イージーリスニング的に聴いていても、優美なワルツ、コメディ調にエキゾをまぶした楽しさ、スピーディーで軽やかな展開、ラウンジ調のピアノ……等々、実にヨロシイ。バクスターのオリジナル・アルバムと比較しても、全く遜色のない出来映えかと。
 というわけで、ラウンジ系好きには大いにオススメしたいところなんですが、私は、前述のすみやで購入したんですけど、残念ながら既に売り切れになってます。調べてみたところ、プレス数1000枚の限定版で、メーカーでも発売後数時間で完売してしまったんだそうな。

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“Collected” 10cc
 ポップ・グループ10ccの三枚組ベスト盤。三枚目には、ゴドレイ&クレーム(10ccから脱退したメンバー二人による、音楽や映像のマルチメディア・ユニット)などの作品も収録。
 え〜、10ccというと、ガキの頃に結構好きでして(ご多分に漏れず、名曲「アイム・ノット・イン・ラブ」でトリコになったクチ)、CDになってからも、『オリジナル・サウンドトラック』『びっくり電話』『愛ゆえに』の三枚は買い直しているし、このベスト盤も買ってます。
 それが何で、また別のベスト盤を買ったかというと、女優ファラ・フォーセットの訃報を聞いたせいでして。
 この逝去を知って最初に思ったのが、「あ〜、そういや彼女主演の映画『サンバーン』の主題歌、大好きだったんだよな〜」ということでした。実は、映画自体は未見なんですけど、主題歌だけ、昔ラジオで放送されたのをエアチェックしてまして(そのときに10CCの曲だというアナウンスがあった)、そのカセットテープを何度も聴いてたんです。
 でも、映画を見ていないもんだから、サントラ盤は買わずにいたら、けっきょく入手しそびれてしまい、欲しくなったときには、もう後の祭り。後に、CDになってないかな〜、と、何度か探したものの、結局発見できず。
 で、訃報を聞いて、ふとそんなことを思い出して、ダメモトでまた探してみたら……な、何と、去年発売された、この3枚組ベストに、グラハム・グールドマン名義で『サンバーン』の主題歌が収録されているという情報が! もう、喜びに躍り上がって即注文した……って次第です。
 というわけで、届いてから早速再生。
 大学を卒業して実家を出た際、カセットテープは皆処分してしまったし、CDを探し始めてからも、同じくらい経過しているので、20年越しの念願叶っての再会というわけで……うう、もう感涙。
 というわけで、もし私同様に『サンバーン』の主題歌を探しているという人がいらした場合、「これに入ってますよ〜!」という情報提供ということで(笑)。
“Collected” 10cc (amazon.co.jp)

『エロスの原風景』

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『エロスの原風景 江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史』/松沢呉一(ポット出版)

エロ本は遠からず消えると言っていい。そんな時代だからこそ、こんな本を出す意義もあるだろう──(「はじめに」より)
エロ本173冊! フルカラー図版354点収録!!
稀代のエロ本蒐集家・松沢呉一による日本出版史の裏街道を辿る男子必携のエロ本ガイド!!

 ポット出版さんからいただきました。
 江戸時代から綿々と続きながら、文化史的には黙殺されてきた「エロ本」の歴史を、豊富かつ貴重な図版とテキストで紹介する本です。

 いやぁ、面白かった〜!
 まず、とにかく「エロ本」をキーワードに、江戸時代の遊郭ガイドから戦後のカストリ雑誌、おフランスの美麗なヴィテージ・ヌード絵葉書から、自販機で売られていた即物的なエロ本まで、紹介されている書籍の、時代やジャンルの幅広さがスゴい。
 加えて、それを解説するテキストが面白い。風俗産業の変遷や印刷技術の発展と絡めた、硬派な論考がされるかと思えば、ユーモアたっぷりの語り口もあり(読んでいて何度か噴き出しました)、面白いわ勉強になるわ、もう夢中で読んじゃいました。
 でも、何がスゴいって、これらが全て「一次資料」によるものだってことだよな〜。
 こういうことを、孫引きでアレコレ書く人は多い(私も他人のことは言えません)だろうけれど、全て自分で蒐集されているということは、ホント、もっと衆目を集めてしかるべき偉業だと思います。
 私も見習わなくちゃ。
 現在、『日本のゲイ・エロティック・アート vol.3』の作業中(牛歩ですけど……)なので、ピシッと襟を正す気持ちにさせられました。

 さて、ゲイ関係もちゃんと、「ホモアルバム」という一章が入ってます。ゲイ雑誌誕生前夜、およびその黎明期に、通信販売などで販売されていたエロ写真の紹介。
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 こういう写真を撮っていた人では、「大阪のおっちゃん」という人が有名なんですが(ゲイアートの家さんが、まとまった数を所蔵・保管なさっています)、このジャンルのものは、ゲイ雑誌上ですら殆ど紹介されたことがないので、これは貴重。
 因みに、こうして販売されていたプリントには、男のヌードや絡みの写真だけではなく、男絵の複写プリントも存在していたんですが、それもしっかり、大川辰次と三島剛の二点が、この本には掲載されています。
 余談ですけど、掲載されている三島剛のプリントは、実は私も同じものを持っているので、ちょっと嬉しくなったり(笑)。
 そして実は、著者の松沢呉一さんは、私にとっての恩人でもあります。
 松沢さんなくしては、私は『日本のゲイ・エロティック・アート』シリーズを、出版することはできなかったでしょう。そこいらへんの経緯は、前述の「ホモアルバム」の章に書かれているので、ぜひご一読あれ。
 ご本人は、さらりと謙遜して書かれていますけど、ホント大恩人ですよ。私個人のみならず、日本のゲイ文化史に興味を持つ人、全てにとって。
 ゲイ・エロティック・アート絡みでは、『日本のゲイ・エロティック・アート vol.1』で取り上げた、小田利美の描いたノンケ向けカラー・イラストが、一点だけですけど掲載されているのも嬉しいところ。ただ、「山田利美」と誤植されてるのが……ポットさん、しっかりして〜!

 個人的な趣味では、その小田利美も参加していた、「創文社グループ ”ニセモノ”だから持ち得た特異な魅力」の、キッチュさがたまりませんでした。
 陽気でカラフルな表紙といい、正気を疑うような珍奇なヌード写真といい、もう、ステキすぎ! 古書市で『奇抜雑誌』(ってゆータイトルの雑誌を出していたんです)を見かけたら、思わず買っちゃいそう(笑)。
 イラスト関係だと、「カストリ雑誌 敗戦直後の日本に咲いた徒花」が良かったな〜。
 淫靡でイカガワシイ雰囲気なんだけど、でもオシャレでもある、表紙画像の数々がステキ。竹中英太郎や水島爾保布なんかを思わせる絵があるかと思えば、マティスもどきやタマラ・ド・レンピッカもどきまであったり。
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 テキスト方面では、「吉原細見 江戸時代に生まれた風俗誌の原型」や「オッパイ小僧 日本初の巨乳アイドル・川口初子」なんかが、特に興味深かった。因みに、学究的に「ふむふむ」と読みながら、その語り口に、つい噴き出してしまったのも、この二章だったりします(笑)。

 そんなこんなで、実に面白く、しかも「他に類がない」ことは間違いなしの本なので、皆様、ぜひお買い求めあれ。
 とゆーのも、この本に対する唯一の不満が、「もっと読みたい!」ってことでありまして、まだまだ未収録原稿(および未紹介コレクション)はあるようなので、これが売れれば続刊もされて、私の「もっと読みたい!」欲も満たされるわけで(笑)。
『エロスの原風景』(amazon.co.jp)
 出版社による紹介ページ(購入も可能)はこちら
 著者の松沢呉一さんのブログ(『エロスの原風景』関係のコンテンツ豊富、および最近のエントリーでは、出版における部数と印税や、書籍の価格などに関する記事が、実に興味深いのでオススメです)はこちら

ちょっと宣伝、仏語版『君よ知るや南の獄』第二巻発売されました

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 フランスの出版社H&Oから、フランス語版マンガ単行本『君よ知るや南の獄』第二巻こと、”Goku – L’île aux prisonniers” vol.2が発売されました。
 いちおう、事前に6月22日発売予定と聞いていまして、今日、フランスから本の現物も届いたところをみると、どうやら今回は予定通りにいったようなので、一安心……っつーのも、第一巻のときが予定より一ヶ月遅れたもんですから。
 ただまあ、配本の遅れなんかはあるみたくて、先日、別のブログでフランスのファンから、「発売日にパリの本屋(私がサイン会をやったとこ)に行ったのに、まだ入荷してなかったよ〜」、ってなコメントを貰っちゃいましたけど(笑)。
 一巻の表紙は、椿中尉とハワード少佐とスコット軍曹のスリーショットでしたが、二巻はご覧の通り、椿中尉と曾根崎上等兵と鬼頭一等兵(って設定だったんですが、作中では名前は一度も出てこなかったかも)の組み合わせです。
 この、基本的なコンポジションは同じにして、中央に椿中尉を置いて、左右のキャラクターのみ変えていき、加えて、巻を追うごとに椿中尉の衣装等が、彼の置かれた状況に沿って変化していく……というのは、私の提案なんですけど、H&Oのエディターも「それは良いね!」と喜んでくれました。
 フランス語版は、日本語版と違って三分冊なので、まだあともう一巻残ってます。内容をご存知の方だったら、次の表紙の二人は誰になるのか、消去法で見当がつきますよね、きっと。
 最終巻になる第三巻の発売予定については、まだ何も聞いていないし決まっていませんが、この分だと早くても今年末ってとこでしょうか。でも、おそらく来年になるでしょうね。
 H&Oとは、先日、この”Goku”の次に出す単行本の契約書も交わしたので、このまま順調にいってくれればいいんですけど。
 さて、発売を記念して、この二巻の表紙絵のメイキングを、動画で作ってみました。
 まあ、メイキングってもスライドショーみたいなもんなので、あんまり参考になるような内容じゃありません。
 それに、基本的に海外ファン向けのサービス(日本と違って、私のマンガを入手するには、言葉の違いや送料の高さなどがあって、なかなか大変なので、せめてこのくらい……って気持ち)のつもりで作ったので、キャプションも英語です。
 そんなシロモノですが、お暇があったらご覧くださいませ。

最近DVDで見たTV映画あれこれ

 備忘録を兼ねて、最近見たB級作品のDVDの中で、色々と難はあれども、でも決して嫌いじゃないな〜、ってなヤツを幾つか。

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『ブレイブ・レジェンド 伝説の勇士ベオウルフ』(2007)ニック・ライオン
"Grendel" (2007) Nick Lyon

 見終わって相棒が一言。
「ホモを騙してやろうと思って、こんなジャケにしたんだね」
 とゆーわけで、こんなステキな肉体美は、映画の中では全く拝めません。主人公は確かにこの顔ですけど、衣装は最初から最後までフル装備、ヌードのヌの字も出てきませんでした(笑)。
 まあ、それは横に置いて、内容は叙事詩『ベーオウルフ』のグレンデル退治モノ。ジャケからはB級の臭いがプンプン漂ってきますが、確かにCGはショボショボで、スケール感も皆無。
 でも、ストーリのポイントが、シンプルな英雄譚に絞られているので、肩の凝らないヒロイック・ファンタジーとしては、そこそこ楽しめます。逆に、今どきこーゆーストレートな英雄譚を作ろうとするあたりが、却って新鮮だった。セリフまわしが、いかにもエピック風なそれだったりするのも楽しいし。
 前述のシャツすら脱がないベオウルフも、お顔はレイフ・ファインズから知性を抜いてジェイソン・ステイサムを振りかけた……みたいな、何とも地味で華のないタイプなんですが、それなりに無骨な魅力はあって、なかなか良きかな。フロースガール王は、ベン・クロス。あたしゃ別に、ファンでも何でもありませんが、何故かこのブログに出てくる頻度高し(笑)。
『ブレイブ・レジェンド 伝説の勇士ベオウルフ』(amazon.co.jp)

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『ゴーストハンター』(2007)マット・コッド
"Lost Colony" (2007) Matt Codd

 宣伝文句はアクション・スペクタクルみたいだけど、実際は地味系の怪異譚モノ。
 十六世紀、イギリスから新大陸アメリカに渡り、ロアノーク島に植民した開拓団177名が、忽然と姿を消してしまった……という、有名な実話(だそうです)を元にした内容。
 ネタの美味しさのわりには調理が下手で、見ながら「そこはもっとこうしろよ〜!」と言いたくなる部分が頻出だったんですが、時代物っぽい雰囲気は、低予算ながらそこそこ出ている感じ。もうちょいマトモな脚本と監督だったら、けっこう佳品になりそうなのに、勿体ないなぁ。
 まあ、こういう奇譚の類ってのは、真相が判らないから魅力的だったりゾクゾクするわけで、種明かしみたいなことをされても、却って魔法が解けて魅力半減、みたいになっちゃうので、いたしかたない部分はあるかも。正直、真相の解釈部分はイマイチだったけど、怪異譚の無情さに微かな救いをプラスした、ストーリーの方向性自体は好みです。
 主人公は、ちょいコリン・ファレル系のヘナチョコ顔で、けっこうタイプ(笑)。コスチュームもヒゲも、よく似合っています。ヒロインは、ヒラリー・スワンク似のブス(失礼)。
 いちおうホラーなので(ちっとも怖くないけど)、残酷系では、生きながらバケモノに手足をもぎ取られたりするシーンはあり。あと、全て着衣ではあるものの、主人公のボンデージと、悪役三人の首枷晒し刑のシーンもあり。
『ゴーストハンター』(amazon.co.jp)

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『ファイティング・アルティメイタム』(2005)ジェシー・ジョンソン
"Pit Fighter" (2005) Jesse V. Johnson

 これはTV映画じゃなくて、DVDスルーの劇場映画みたい。舞台はメキシコ。地下格闘場で闘犬のように闘っている、記憶喪失のアメリカ人ファイターの話です。
 主人公の正体と、フラッシュパックする記憶という謎を軸に、格闘場を主催しているマフィアとのいざこざ、主人公とコーチの間のバディ・ムービー的な関係などを絡め、更に、人種や経済的格差という要素や、宗教的なモチーフなども合わさって、けっこう重層的な面白さがあります。ただ、ラストに向けて、ちょっとさばききれていないのが残念。
 ファイト・シーンも、かなりの迫力。特に斬新という感じではないものの、アクションやバイオレンスの見せ方には、監督のこだわりが感じられる。ただ、これまたラストの銃撃戦がイマイチだったのが残念。
 あと、この監督(脚本も兼任)、ひょっとしたらマカロニ・ウェスタン好きなんじゃないだろうか。話に無理が生じている部分も、これがもしメキシコ革命時代を背景にしていたら、もっとしっくりくる感じだし、前述したバディものっぽい感じとか、破滅の美学を感じさせるエンディングとか、どうもマカロニ・ウェスタンっぽい香り(あんまり詳しくないですけど)があるような。
 主人公役のドミニク・ヴァンデンバーグというお方は、IMDbに”Free Style ‘Full Combat’ champion”とあるので、どうやら総合格闘技系の人らしいんですが、いかにもそんな身体つきの立派な筋肉。脱ぎっぷりも良く、ファイト・シーンを含め上半身裸のシーン多し。顔は、ちょいテレンス・スタンプっぽくて、さほど好みじゃないんですが、マッチョ+ヒゲ+スキンヘッド+タトゥーという合わせ技と、役柄が好みのキャラだったので、好感度がぐぐっとアップ。他の役者も、ヒゲ、強面、マッチョ、刺青……のオンパレードなので、これまたポイント・アップ(笑)。
 そんなこんなで、半裸のマッチョの血まみれ格闘好きなら、けっこう楽しめると思いますよ。
『ファイティング・アルティメイタム』(amazon.co.jp)

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『ドラゴン・スレイヤー 炎の竜と氷の竜』(2008)ピトフ
"Fire & Ice" (2008) Pitof

 同じ監督の『ヴィドック』が好きなので(あと『キャットウーマン』も、実はけっこう好き)ちょっと期待してたんですが、う〜ん、残念ながら「そこそこ」止まり。
 ストーリーは、ありがちな中世風ファンタジーです。炎の竜に襲われる王国を救うため、お転婆なお姫様が伝説の竜退治の勇者を探し、その息子と出会い……ってな内容。
「竜には竜を!」ってことで、炎の竜に対して氷の竜を目覚めさせ、二匹の竜を闘わせる……ってのが、まあオリジナル要素ではあるんですが、それと並行して語られる、王国を狙っている隣国との確執のエピソードが、オリジナリティもなければ面白いわけでもなく、しかも竜のエピソードと乖離しちゃっているのが痛い。
 ただ、SFXは前述の『ブレイブ・レジェンド 伝説の勇士ベオウルフ』なんかと比べると、ずっとちゃんとしているし、スケール感、セット、衣装なども、一定レベルはクリアしているので、全体の雰囲気は決して悪くない。
 そんな感じで、ウェルメイドなファンタジー映画としては、まあそこそこ楽しめる感じ。怪獣映画っぽい楽しさもあるし。
 ヒーロー役のトム・ウィズダムは、『300』でスパルタの青年兵士を演じていた人らしいですが、そう言われなきゃ判りませんでした(笑)。他には、ジョン・リス=デイヴィスやアーノルド・ヴォスルーなんかも出てます。
『ドラゴン・スレイヤー 炎の竜と氷の竜』(amazon.co.jp)

またまたAnime Studioとか

 三つめ。またちょっと短くなって、5秒(笑)です。
 ちょっと慣れると、すぐにこーゆーのを作りたくなるあたりが、我ながら……せっかく昨日は、NHKでやってた『川の光』っつーアニメを見て、「あ〜、心が洗われる〜」とか思ってたのに(笑)。
 そろそろ仕事もアレになってきたので、趣味のアニメ遊びは、ここいらへんで打ち止め。

またAnime Studioとか

 二つめ。
 いろいろいじって遊んでいる最中に、ふと思いついて、架空の映画会社のカンパニー・クレジットみたいなものを、急遽でっち上げてみました。
 今度はちょっと長くしました。
 ……でも、9秒(笑)。

ちょっと宣伝、読み切りマンガ(凌辱系)描きました

Hollander
 今月20日発売のゲイ雑誌「バディ」8月号に、読み切りマンガ描きました。
 タイトルは『Der fliegende Holländer』。
 編集さんから、「夏号なので、夏っぽい話だと嬉しいです」ってなリクがあったので、んじゃ夏っぽいモノを……と、「サーファー meets 幽霊船」っつーネタにしました(笑)。まあ、何とゆーか、『世にも奇妙な物語』系の話です。
 主人公は若めのマッチョで、内容は凌辱メイン。フロッギングなんかもあり。
 作画がけっこう手間だったんですが、ラストページとか、けっこういい絵を描けたような気がします。長髪+ヒゲとゆー、趣味キャラもいっぱい描けたし、そもそも私の場合、衣装や背景や小道具等を描く場合、現代モノより時代モノの方がだんぜん楽しくて好きなので、作画は全般的に楽しく作業できた感じ。
 というわけで、よろしかったらお読みくださいませ。
Badi (バディ) 2009年 08月号(amazon.co.jp)
 あと、描きたかったポイントの一つに、「半脱ぎのウェットスーツ姿」ってのもあります。あれ、何かセクシーで、一度マンガで描いてみたかったんですよね。
 今回、その資料探しに、ウェットスーツをメインに、そこにいろんなキーワードを組み合わせて、Googleのイメージ検索をしたんですけど、マッチョ系の単語に、ビーチや上半身裸系の単語を組み合わせて検索すると、やたらめったら、ヒュー・ジャックマンのビーチ画像がヒットする。あと、それより少ないけれど、ジェイソン・ステイサムやダニエル・クレイグも。
 で、そこいらへんは、まあ嬉しいオマケという感じで楽しかったんですけど、あともう一人、バズ・ラーマンのセミヌードなんてのも良く出てきまして……これだけあんまり嬉しくなかった(笑)。

Anime Studioとか

 前にここで「興味シンシン」と書いた、アメリカ産のAnime Studioというアニメーション制作用ソフト(ぜんまいハウスのソフトAnimeStudioや、アガツマの玩具アニメスタジオとは別物)ですが、先日Version 6が発売され、content paradiseで今月いっぱいまでの値引きセール($199.99が$169.99に)もやっていたので、思い切って購入してみました。
 う〜む、興味を持ってから購入するまで、三年もかかってしまった(笑)。
 で、このAnime Studioってのは、2Dイメージ(ベクターとビットマップの両方とも取り扱い可能)にボーンを仕込んで動かしたり、キーフレームを使ってイメージの変形をアニメートできたり、2Dデータを3D的に配置して動かせたり……といったソフトなんですが、いや、なかなか楽しい。
 アニメーション制作用に特化しているので、前に似たようなことをFlashでやったことがありますが、それと比べると、だんぜん作業が楽で作りやすいです。

 で、最初はプリセットで付いているデータを、色々いじって動かしたりして遊んでいたんですが、すぐに自分の絵を動かしたくなったので、ちょいと試しに作ってみました。
 そんなこんなで、私の作った初Anime Studio動画が、これ。
 チョ〜短いです、何と二秒(笑)。

 Anime Studioでは、画像データの中にボーンを入れて、その親子関係や影響範囲を調整することによって、イメージを直接歪ませながら動かすことも出来るんですが、私が試してみたかったのは「切り絵アニメーション風」だったので、画像データは可動パーツごとにレイヤーで分け、イメージ自体は変形させずに、関節を使って動かしてみました。
animestudio_bone
 上の画像が、その作業画面。
 具体的には、腰、腹、胸、左右の上腕、左右の下腕、左右の手、首、頭と、11枚のレイヤーに分け、それを一つのボーン・レイヤーで制御しています。ボーン・レイヤーには、パーツの数だけボーンを作り、その親子関係(『親←子』で説明すると、『腰←腹←胸←首←頭』、『胸←上腕←下腕←手』という具合に)を設定した上で、各ボーンの影響範囲を、Bind Layerツールを使って、各該当パーツのレイヤーに限定しています。
 ズーム・インやカメラの回転に見えるのは、今回はカメラの機能は使わずに、ボーン・レイヤーを拡大・回転させて表現してみました。ボーン・レイヤーの下位には各パーツのレイヤーがグルーピングされているので、それでフィギュア全体の移動や変形を、まとめて制御できるというわけ。
 背景は、別レイヤーにドローツールを使ってベクター画像を描き、それをハンドルを使って変形させながら、キーフレームを使ってアニメートしてます。

 Anime Studioには描画ツールがあるので、動かす画像をアプリケーション上で直接作画することもできるんですが、私の場合、それにまだ不慣れなのと、インポート機能のテストも兼ねて、Adobe Illustratorで作った画像を読み込んでみました。
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 上の画像が、そのIllustratorファイル。
 テストしてみて最初に判ったのは、残念ながらAnime Studioは、Illustratorのレイヤー情報は引き継いでくれない、ということ。Illustratorでレイヤーに分けていた画像も、Anime Studioに読み込むと、一つのレイヤーに纏められた状態になってしまう。
 仕方がないので、いったんIllustratorでレイヤーごとに別々のファイルで保存してから、それを一枚ずつAnime Studioに読み込んでみましたが、すると今度は、読み込み時にサイズや位置が自動調整(スクリーンいっぱいの大きさで、場所は真ん中に)されてしまって、サイズや位置関係がメチャクチャに。
 はて、困ったわい、と思ったけど、これは案外すぐに解決策が見つかりました。
 Illustoratorファイルに、全ての画像より一回り大きいサイズのガイドを作成しておくと、Anime Studioではそのガイドを基準に、読み込んだ画像のサイズや位置を自動調整する。しかもIllustrator同様に、Anime Studioでもガイドは表示のみで実際の描画はされない。
 つまり、Illustrator上で全てのパーツに共通のガイドを付けておけば、Anime Studioで機械的に読み込んでいっても、サイズや位置関係は自動的にIllustrator上と同じ状態を再現できます。
 あと、読み込み時のトラブルというと、Illustratorデータからシェイプと塗りの情報は、ほぼ問題なくインポートできたんですが、ポイント指定していた線幅の情報は引き継がれず、かなりメチャクチャな状態になりました。ただ今回は、そもそも線に関しては、Illustratorでは単純なベクター情報として作っておくだけにして、線幅の調整、線の消し、入り抜きの作成などは、最終的にはAnime Studio上でやろうと考えていたので、それほど大きなダメージではなかった。
 おそらく、Illustrator上で線画をきっちり作り込んで、それを「分割・拡張」して塗りに変換しておけば、Anime Studioにもそのまま引き継がれるんでしょうけど、そうするとデータが重くなるし、後から変更や微調整が出来なくなることも考えると、ちょっと非実用的な気がしますね。

 まあ、そんなこんなで作った二秒(笑)の動画ですが、「紙と鉛筆でキャラクターの下絵作成」「Illustratorで描画」「ちょい試行錯誤を経てAnime Studioにインポート」「ボーンの設定と背景の作成」「アニメート」「サウンド入れ(ホルンの音はGarageBandでテキトーに打ち込み、SEはAnime Studioのライブラリにあった音)」「QuickTimeで書き出して確認」「YouTubeにアップロード」とゆ〜、一連の工程が、ひと晩で出来ました。
 日本語版が出ていないのは残念ですけど、それでもなかなか楽しいソフトなので、興味のある方にはオススメです。

『アポカリプス 黙示録』

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『アポカリプス 黙示録』(2002)ラファエル・メルテス
“San Giovanni – L’apocalisse” (2002) Raffaele Mertes

 DVDのジャケはパニック映画みたいなノリになってますが、実際は地味でマジメな聖書モノ。
 新約聖書の「ヨハネの黙示録」絡みのTV映画なんですが、それをまんま映像化しているというわけでもなく、いちおうメインのストーリーは、別にあります。
 一世紀のローマ帝国、迫害を受けるキリスト教徒を支えていたのは、十二使徒の最後の生き残り、ヨハネからの手紙だった。ローマ側はキリスト教徒の精神的支柱を断つために、キリスト教徒側は救いを求めて、手紙の発信元であるパトモス島の監獄に、それぞれ使者と間者を差し向ける……ってのが、おおまかな流れです。
 で、その合間に、ヨハネが幻視する黙示録の光景や、ローマ人青年とキリスト教徒の娘の恋愛なんかが、描かれていく。

 映画オリジナルのドラマ部分に関しては、キャラクターさばきは上々だし、心理ベースのドラマを上手く使ったり、タイムリミットを使ったイベントで、クライマックスに向けて盛り上げたり……と、作劇的な工夫があって、けっこう面白いです。
 ただ、基本的に「キリスト教のPR映画」もしくは「信徒用の教育映画」なので、どうしても、非キリスト教徒には退屈な部分もあり。
 また、黙示録の視覚化という点では、これは期待しない方が吉。イメージ自体が、可もなく不可もなしといった感じの凡庸さだし、VFXも安っぽい。これだったら、ケン・ラッセルの『アルタード・ステーツ』(黙示録風の幻覚シーンがあります)の方が、ずっと上出来。
 史劇として見ると、話自体がいささか地味に過ぎるものの、セットや衣装、役者さんなどは、そこそこ佳良なので、それなりの雰囲気は味わえます。

 というわけで、まあ特にオススメという程でもないんですが、個人的には、けっこう「ツボ」な要素がありまして、まあ、特定趣味層限定なら、オススメできるかな、と。
 ……はい、もうお判りですね(笑)。

 まずこの映画、ほとんどパトモス島の監獄(っつーか、強制労働キャンプ)の中だけで、話が進むんですな。
 つまり、薄汚れた半裸の男どものが、汗まみれヒゲぼうぼうで、鎖に繋がれてウロウロして、虐待されているシーンが、延々と続く(笑)。
 で、ご期待(誰のだよ)通り、責め場もちゃんとあります。
 フロッギングと
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 ケイニング。
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 特に、後者の被虐者はこーゆー感じでツボのタイプなので、かな〜り得した気分(笑)。
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 あと、ヨハネが幻視するキリストの笞刑や磔なんかもあるし、
ま、私と同じ趣味をお持ちの方だったら、お楽しみ要素もイロイロあるのではないかと(笑)。
『アポカリプス 黙示録』(amazon.co.jp)

“Secret Identity: The Fetish Art of Superman’s Co-creator Joe Shuster”

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“Secret Identity: The Fetish Art of Superman’s Co-creator Joe Shuster”

 ヘテロ系ヴィンテージ・フェティッシュ・アート画集(洋書)のご紹介。
 書名からもお判りのように、この本は、誰でも知っているアメコミ由来のスーパーヒーロー『スーパーマン』の生みの親の一人、作画担当のジョー・シャスターが、”Nights of Horror”というアンダーグラウンドなフェティッシュ雑誌に発表した、イラストやマンガを集めた画集です。
 まず、何よりかにより、アメリカ的な健全明朗さを絵に描いたようなスーパーマンの、オリジナル・クリエーターが、こんなボンデージ画やサドマゾ画を描いていた……という事実にビックリ。
 もちろん私は、そのオリジナル版アメコミの『スーパーマン』は読んだことがないので、実感としては良く判りませんが、それに慣れ親しんできたアメリカのファンにとっては、この画集に収録されているフェティッシュ・アートの数々は、どう見ても「クラーク・ケントやロイス・レーンやジミー・オルセンやレックス・ルーサーが、裸でSMに興じている」としか見えないらしく(……と、解説にそんなことが書いてあります)、そりゃ、衝撃度やお宝感もさぞや大きいんだろうなぁ……なんて思ったり。
 とはいえ、件のアングラ雑誌は、発行されていたのが1950年代ということもあり、絵の内容自体は、現在の我々の目には、ごくごく大人しく映ります。
 拘束された裸の男女が、鞭で打たれていたり焼きゴテを押されたりしてはいても、陰部は決して露出しない。絵柄が淡泊で表情もシンプルなせいもあり、性的や暴力的な情景が描かれていても、何となくノンビリほんわかしたムードがあって、時としてキュートで愛らしくさえ見えます。
 というわけで、この画集の場合、絵の内容そのものよりも、スキャンダラスな話題性の方が大きい、という感は、正直否めません。
 じっさい、同じくヴィンテージ・フェティッシュ・アートでも、ジョン・ウィリーやエネグやエリック・スタントンなんかの作品と比べると、エロティック・アートとしては、かなり薄味ですしね。

 ただ、個人的に、この人の描く「マゾ男」には、大きく興味を惹かれます。
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 本書の収録作のうち、表紙や上のサンプル画像のような「男マゾもの」の絵は、全体のおよそ3〜4割と、決して多くはないんですが、そこで描かれている被虐者には、世間一般で見られる「男マゾもの」とは、ちょっと異なる特徴があるんですな。
 概してノンケ作家さんの描く「男マゾもの」は、美しく強い女性から、侮蔑され虐げられながら、そこにマゾ男は被虐の悦びを感じ、女性を女王や女神として崇める……といった構図が多い。絵画だと、古くはエリック・スタントンから現在では我が国の春川ナミオに至るまで、被虐者の男の「情けなさ」や「みじめさ」が強調されている。
 ところが、このジョー・シャスターの描く「男マゾもの」には、それがほとんど見られない。シャスターのマゾ男には、スタントンのマゾ男の「哀れさ」や、春川ナミオのマゾ男の「矮小さ」といった要素は、微塵も見られない。また、フェミナイズによる恥辱といった要素も皆無です。
 そもそも体型からして、被虐者の男は皆、筋肉隆々のヒーロー体型ですし、責めを受けているときの表情も、「惨めに泣き叫ぶ」ではなく、「男らしく耐える」風に描かれている。いかにも『鋼鉄の男』と賞される世界的なヒーローの、生みの親らしい作風。
 つまり、シャスターの男マゾ絵は、世間的に(おそらく)多勢を占めるであろう、「自らを貶めることに酔うマゾ」とは、明らかに異なっている。画家自身のマゾヒズム傾向の有無や、その指向性については、私は何とも言えませんが、しかし少なくとも彼の描いた絵からは、以前ここで『野郎系パルプ雑誌の表紙絵』について書いたときと同様に、「苦難に耐える自分の男らしさに酔うナルシシズム系のマゾ」の香りが、濃厚に漂ってきます。
 それが、私の変態アンテナにビンビン反応するので、こうしてご紹介する次第。

 まあ、前述したように、エロティシズムそのものは薄味ですが、例え直截的なエロスは期待できなくても、絵そのものには、サブカル好きの方にウケそうな、ちょっとユルくてキュートな魅力があるし、その絵の雰囲気を活かした、ポップで明るくて品の良いデザインやレイアウトも、実にいい感じ。
 約22センチ四方の正方形という、版型のコンパクトさも、本の内容に良く合っています。造本もしっかりしていて、印刷も美麗。ちょっと、ギフト・ブック的なかわいさもあったりして。
 あと、作家の生い立ちや、時代背景などを絡めた解説も読み応えありそう(けっこう長いんで、まだほとんど読んでないんですけど)だし、序文がスタン・リー、裏表紙の推薦文はアレックス・ロスという豪華さなので、アメコミに興味のある方なら、資料的な価値も高いかも?
“Secret Identity: The Fetish Art of Superman’s Co-creator Joe Shuster”(amazon.co.jp)