“Pit Stop” (2013) Yen Tan

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“Pit Stop” (2013) Yen Tan
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com、日本のアマゾンでも購入可能→amazon.co.jp

 2013年のアメリカ製ゲイ映画。
 テキサスの田舎町を舞台に、それぞれ人生に行き詰まった感のある、ワーキングクラスのゲイ男性二人の諸々を、詩情を湛えて静かに描いたドラマ。

 テキサスの田舎町。荷物の積み卸しなどを行う肉体労働者のアーネストは、病院で昏睡状態にある元彼を見舞う日々。大工のゲイブは妻子のある身ながら、やはり妻子持ちの男性との不倫が発覚、男との関係を清算し妻とも離婚したが、娘のために妻子と同居を続けている。
 アーネストは自分の家に、既に関係の冷えた若いBFを居候させているが、その彼は独立して家を出て行くとは言うものの、なかなかその気配を見せない。意識の戻らない元彼に語りかけ、愛のない同居を続けるという、その停滞した日々に、アーネストは次第に焦燥感を募らせていく。
 ゲイブの元妻は、彼女に好意を寄せている職場の同僚とデートをするが、歯車がいまいち噛み合わず、元夫との過去の平穏な生活を懐かしむ。そんな彼女をゲイブは優しく受け止めるが、自分を欲しいかという彼女の問いに、イエスと答えることはできず……といった内容。

 良い作品でした。
 ゲイ・コミュニティやゲイ・シーンなどとはほぼ無縁の、アメリカの田舎町に暮らすゲイたちと、その周辺の人々の姿を、作為的なドラマや説明的なセリフを排して、淡々としながらも情感豊かに、そして極めて自然な空気感で描いています。
 何と言う事はない日々の描写と、散りばめられた日常会話が積み上げられることで、メイン二人のみならず、その周囲の人々も含めて、それぞれが置かれた状況や、その複雑な心境が浮かびあがってくる……という構成で、なかなか見応えがあります。
 ドラマとしては、とりたてて何か事件が起きるわけではないんですけど、描かれるエピソードのディテールや、感情の細やかな襞を描く描写などを見ているだけでも充分面白く、それと共に各キャラクターへの愛着や感情移入も増していくという塩梅で、ここいらへんは実に上手い。
 モチーフ的には、けっこう重かったり閉塞感もある状況なんですが、全体の柔らかな雰囲気や、上手い具合に挿入される箸休め的な描写によって、作品として重くなり過ぎていないのも佳良。
 アメリカものとしては珍しく、日本のゲイ状況と似た部分が多いのも興味深いポイント。

 メインキャラクター二人が、どちらも三十代半ばの中年男性だというのも効果的。人生を長く過ごしている分、様々なしがらみも生じており、若い人のように全てを精算してやり直すとか、この田舎町を出て行くといった選択肢が難しいことが、若い元BFとの対比もあって、より良く浮かびあがってきます。
 また、メインの二人のみならず、元BF、元妻、元妻に好意を寄せている彼女の同僚、ゲイをオープンにしていないゲイブに対して、ひょんなきっかけから接近してくる、やはりクローゼットの中年ゲイ男性……といった、周囲の人々の姿や思いなども、ちょっとしたエピソードやセリフの端々で見えてくるのも魅力的。
 つまり、メインのフォーカスはアーネストとゲイブの二人ではあるけれど、彼ら同様に他の人々も皆、それぞれが大小様々な悩みや思いを抱えており、それぞれにドラマがあるという感じ。そしてメインのゲイ由来のドラマも、そんな「世の中に普通にある光景」の1つという感じ。

 ちょっと情緒に流れがちな傾向はあるものの、演出や撮影のクオリティは高く、役者の演技も文句なし。作為や予定調和は排しながらも、仄かなロマンティシズムを秘めた予感で幕を引く、その後味も上々。
 というわけで、丁寧に作られた良作でした。単館系の映画が好きな人にオススメできる一本だと思います。

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Class Comicsのアンソロジーに作品提供

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 カナダに拠点を置き、英語圏を中心にアメコミスタイルのゲイ・エロティック・コミックを出版している、インディペンデント出版社Class Comicsのアンソロジー”Heroes in Peril”(電子書籍)に、カラーイラスト一点寄稿しました。
 内容は、同社のスーパーヒーローキャラのピンチ場面を、世界中のゲイ・エロティック・アーティスト約60名が、それぞれのテイストを活かしてフルカラーピンナップを描くというもの。

 私は、Deimosという紫色の肌をした悪魔系のキャラを選んで描かせてもらいました。
 というわけで、チラ見せ。海外出版なので、もちろん全体像は完全無修正です。(羨ましい……)
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 他の寄稿作家さんも含めて全体を見ると、ピンチ絵というテーマなので、必然的にSMや凌辱イラストが多くなっています。
 また、アメコミ的世界観なので、職種やら人外やら機械やらの登場頻度も高し。
 電子書籍(PDF)なので、クレジットカードさえあれば日本からもダウンロード購入可能なはず。

 ご購入や、より詳しい寄稿作家リストなどは、下のリンクからどうぞ。
http://www.classcomics.com/ccn/2014/08/heroes-in-peril-volumes-1-and-2-now-available/

 Volume 1と2がありますが、私が乗っているのは、こちらのVolume 2の方です。
http://www.classcomics.com/cart/product.php?productid=333

ちょっと宣伝、9月から新連載始めます


…というわけですので、よろしくお願いいたします (^^)

Butt Magazineのサイトにインタビュー掲載

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 オランダに拠点を置き、英語で全世界展開しているゲイ雑誌Butt Magazineのサイトに、インタビュー記事(英文)が掲載されました。
http://www.buttmagazine.com/magazine/interviews/gengoroh-tagame/
 インタビュー自体は去年の5月、”The Passion of Gengoroh Tagame”出版のプレスでニューヨークに行ったときに、Skype経由で収録したもの。インタビュアーはZac Bayly、同席の通訳はアン・イシイ、場所はチップ・キッドの家。
 インタビューが始まるや否やチップの家政婦さんが来てしまい、彼女が後ろで掃除している中でpenisだのanusだのfist fuckだのと答えるという、スリリングな状況での収録(笑)。
 写真は今年の4月にベルリンで撮影したもので、カメラマンはGeorg Rohlfing。最初の予定は、ギャラリー内で手早く撮影を済ませるという話だったんですが、カメラマンチームが移動中に見かけた、桜の花が満開で綺麗な場所でも撮りたいと希望。
 結果、こういう感じに。まぁきれい(笑)。

“Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela” (2013) サンジャイ・リーラ・バンサーリ

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“Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela” (2013) Sanjay Leela Bhansali
(インド版Blu-rayで鑑賞→Bhavani DVDラトナ・ボリウッド・ショップ

 2013年のインド/ヒンディ映画。『ミモラ』、”Devdas”等のご贔屓、サンジャイ・リーラ・バンサーリ監督作品。ロミオとジュリエットをベースにした、絢爛豪華&濃厚な恋愛もの。

 北インド、グジャラート地方にある砂漠の中にぽつんとある、露天で公然と銃器が売買されているような、きなくさい村。その商売と村の覇権は、代々対立し合ってきた二つの一族、ラジャリ家とサネラ家に握られている無法地帯だった。
 そんな中、祭の日に、ラジャリ家の次男坊ラムと、サネラ家の一人娘リーラは出会い、運命的な恋に落ちる。しかし二人の仲を周囲が許すはずもなく、リーラの母でサネラ家の強面女当主や、ラムとリーラそれぞれの兄たちを巻き込み、裏切りや陰謀も交えた抗争劇に…という内容。

 インドの古典小説を題材に、インド的豪奢と華麗の極みを尽くした”Devdas”、『奇跡の人』の翻案をミュージカル場面なしで描いた、感動シリアス劇の傑作”Black”、興行的には失敗したけれど、個人的には高評価のドストエフスキー『白夜』が下敷きの意欲作“Saawariya”、等々、優れた作品を連発しているバンサーリ監督。今回も期待を裏切らない出来映え。
 そういった過去作品と比べると、テイスト的には”Devdas”に最も近いです。激情の恋愛譚を綴る濃厚なドラマと、それを彩る豪華絢爛な美術、そして溜め息が出るような色彩美に酔わせてくれる一本。
 ただ”Devdas”がオーセンティックで格調高いムードであったのに対して、今回はそこにクライム映画的な要素が加わることによって、猥雑さやポップ感が増した印象となっており、そこいらへんがまた違った新たな味わいに。
 ロミオに相当するラムは、ビデオ屋でポルノDVDを販売しているような男だし、ジュリエットのリーラも、平然と銃を構えたり自分から男の唇を奪うような強い女。そんな二人が激情の純愛に落ち、シェイクスピア譲りのクラシカルな恋愛劇を見せるという、その対比の妙味。
 そんな二人の激情も濃厚ならば、ドラマの展開も濃厚、そして画面も絢爛豪華にして濃厚展…と、諸要素がピタリと一致しているのも大成功。
 監督の作家性という意味では、過去作に良く見られたような、既成概念に疑問を呈し新たな価値観を提示するといった方向性は、本作に関しては希薄ですが、しかしそれもまた、ストレイト・アヘッドな魅力となっている感じ。
 テーマ的な冒険がない分、破綻もなく完成度が高い印象。

 ラム役のランビール・シン、期待上げた肉体を惜しげもなく晒し、ロマンスのヒーローでありながら、ふてぶてしさも併せ持ったキャラとして、もう文句なし。初めてこの人を見た“Band Baaja Baaraat”と比べると、驚くべき成長ぶり。
 リーラ役のディーピカー・パードゥコーンの演技も見事で、これまた初めてこの人を見た『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』と比べると、美貌はそのままに演技の幅がグッと拡がっている感じ。
 サネラ家の女ボスやリーラの兄嫁といった、サポート陣の役者さんたちも、存在感も演技も共にバッチリ。特に兄嫁さん、“Gangs of Wasseypur (血の抗争)”に引き続き印象的に残ります。
 ミュージカル場面も、豪華絢爛なセットとガッツリ群舞で、ばっちり見所を作りつつ、しかもドラマからも浮いていない、相変わらずの手腕の確かさ。更にゲストで、某スター女優が登場するというお楽しみも。

 シェイクスピア劇との比較という点では、基本の構造は『ロミオとジュリエット』に則りながら、前半は比較的忠実に展開をなぞっています。とは言え、キャピュレット家当主に相当する存在は前述したように女ボスになっているし、ティボルトに相当する役はジュリエットの従兄から兄に、ジュリエットの乳母的な役回りは兄嫁に、モンタギュー家の方も、マキューシオに相当する役がロミオの兄になっていたりと、キャラクターのアレンジはかなり自由。
 そして後半からは、展開も含めてかなり自由な翻案となります。ロレンス修道僧に相当する役回りのキャラはいませんし、パリスに相当するキャラもなし。クライマックスも、原典とは全く違う展開を見せつつ、更にそこに親子の情愛などの要素が盛り込まれています。
 また全般に渡って、シェイクスピア劇の台詞を踏襲することもなく、全体のアレンジ具合を見ると、『ウェスト・サイド物語』の方に近い印象。特に《ジュリエット/ティボルト/乳母》を《リーラ/リーラの兄/兄嫁》にアレンジしている部分は、展開も含めて『ウェスト・サイド物語』の《マリア/ベルナルド/アニタ》を踏襲しています。
 こういった過去作品からの引用は、これまでのバンサーリ作品でも良く見られるパターン。一例を挙げると、”Saawariya”で原作『白夜』にはない娼婦のパートがあるのは、おそらくヴィスコンティ版『白夜』からの引用だったし。

 というわけで、『ロミオとジュリエット』をソースにしつつ、そこに同じく『ロミオとジュリエット』の翻案である『ウェスト・サイド物語』も盛り込み、クライムドラマならではの展開や味付けも加えて(これはひょっとしたらディカプリオ版からの影響もあるのかも知れませんが、浅学ながら未見なので比較できず)、クライマックスではしっかりオリジナル展開を見せつつ、しかしテーマは原典を外さないという内容。
 そしてとにかく美麗で豪華絢爛。溢れる色彩美とその物量は、ホント目の御馳走。激情の恋愛映画にして、味わいも濃厚。文句なしにオススメできる一本です。

“The Camp on Blood Island” (1958) Val Guest

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“The Camp on Blood Island” (1958) Val Guest
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 1957年制作のイギリス(ハマー)映画。二次大戦時、東南アジアの島にある日本軍の戦争捕虜収容所で、サディスティックな所長に苦しめられる連合軍捕虜たちを描いた、戦争エクスプロイテーション(?)アクション映画。
 監督は同じくハマー・プロで『原子人間』『宇宙からの侵略生物』などを撮ったヴァル・ゲスト。

 東南アジアのとある島にある、日本軍の戦争捕虜収容所は、サディスティックな所長ヤマミツ大佐とその部下サカムラ大尉に支配されており、連合軍の捕虜たちは暴虐と飢えと疫病に苦しんでおり、今日もまた、脱走を図った一人の捕虜が銃殺された。
 捕虜たちのリーダーであるランバート大佐に、民間人(多分)で近くの女性捕虜収容所に妻と子供もいるビーティは、サボタージュなどはせずに日本軍と穏やかに交渉すべきだと言うが、ランバート大佐はそれを是としない。
 実はランバート大佐は、他の捕虜には内緒で、オランダの民間人捕虜ヴァン・エルストと一緒に、密かに無線機を組み立てていた。そしてある日、日本軍の壊れた無線機の修理部品が到着し、ヴァン・エルストはそれを盗みに行く。
 そしてある情報を得たランバート大佐は、ビーティら他の捕虜たちに、自分の計画を打ち明ける。それは、過去にも捕虜虐待で問題を起こしているヤマミツ大佐が、もし日本が負けたときには、証拠隠滅のために捕虜全員を虐殺して、この収容所を無に帰そうとしているということだった。
 そして何と、戦争は既に2日前に日本の降伏で終わっており、ヤマミツ大佐らは無線が故障しているために、その事実を知らずにいたのだった。ランバート大佐とヴァン・エルストは、虐殺を避けるためにそれを日本軍に知らせまいと暗躍していたのだった。
 しかしそこに米軍の飛行機が墜落し、パラシュートで脱出した米兵ベラミー中尉が捕虜になってしまう。終戦を知っている彼の口から、果たしてその事実はヤマミツ大佐に知られてしまうのか、そして捕虜たちの運命は……? といった内容。

 50年代のB級映画ということで、ヤマミツ大佐(ロナルド・ラッド)もサカムラ大尉(マルネ・メイトランド?)も、およそ日本人には見えないとか、この二人を筆頭に他の日本兵の喋る片言の日本語もシッチャカメッチャカだとか、まぁおかしな所はあれこれあります。また、ベラミー中尉の乗る飛行機の飛来〜撃墜〜脱出を効果音だけで描くとか、いかにも安い部分もあれこれ。
 ただ、ストーリー自体は、そこそこ上手くひねりを入れてあったり、展開にもあれこれ工夫があるので、当初想像していたよりはけっこう面白く見られました。
 軍人やら医者やら神父やら、キャラクターも色々と取り混ぜて良く立ててあるし、前半は収容所内のドラマ、中盤にチェンジ・オブ・ペースを入れ、後半は秘密作戦&少人数での脱出行などをあしらい、クライマックスは銃撃戦という構成も、娯楽映画的に手堅くて佳良。
 惜しむらくは悪役二人の最後が、エモーショナルな要素を加味してはいるものの、イマイチあっけなくて盛り上がらないのと、ラストも、まぁ流れとしては判るんですが、これまたイマイチあっけないところ。原因は、肝心のヒーローであるランバート大佐のキャラが、さほど立っていないあたりにありそう。

 残酷な日本人描写に関しては、まぁそこそこ。嫌な感じに描かれてはいますが、でもそれほど酷くもなく「う〜ん、戦時中はこれくらいのことはしてたかもねぇ」という感じ。収容所が舞台のせいか、それほど珍妙な日本文化描写も見られなかったし。
 当時のロビーカード等ヴィジュアル資料を見ると、日本刀による斬首のシーンがフィーチャーされていますが、劇中での描写自体は比較的あっさり。残酷さやエグさよりも、斬首人を演じるミルトン・リードというプロレスラーの、上半身裸の見事な肉体の方が印象に残るくらい。
 そっち系の興味で言うと、捕らわれたベラミー中尉(フィル・ブラウン)がシャツを脱がされて、ヤマミツ大佐に鞭打たれるシーンがありますが、これも描写自体はあっさりながら、事後の背中のミミズ腫れの様子がけっこういい感じ(笑)でした。

 DVDはイギリス盤。フィルムの状態は良く、オリジナルのシネスコ(正確には『メガスコープ』だそうですが)をスクイーズ収録、英語字幕もあり。付随のブックレット(24ページ)には写真や解説も盛り沢山の、とても良心的な仕様。
 そんなこんなで、キワモノを期待しちゃうと、意外にマトモなので裏切られるとは思いますが、本国でも70年代に何度かTV放送があって以降はソフト化されていなかったカルトものらしいですし、『空飛ぶモンティ・パイソン』がこの映画に影響を受けている云々もあるそうなので、興味のある方はどうぞ。
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 The Camp on Blood Islandで画像検索すると、こんな感じで、やはりやたらにプロレスラー斬首人のヴィジュアルが目立ちます。なかなかいい身体でしょ?

“In A Glass Cage (Tras El Cristal)” (1987) アグスティ・ビジャロンガ

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“In A Glass Cage (Tras El Cristal)” (1987) Agustí Villaronga
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com

 1987年のスペイン映画。かつて少年相手に拷問殺人を繰り返し、今は寝たきりとなった元ナチスの男と、彼の妻と娘、そして家に入り込んできた美青年を巡る、トラウマ必至のアート系サイコスリラー映画。
 監督は『月の子ども』『ブラック・ブレッド』のアグスティ・ビジャロンガ。

 中年男クラウスは、元ナチスで収容所の少年相手に生体実験を行い、戦後も少年を拷問殺害してきた小児性愛者のサディストだが、落下事故によって身体が動かなくなり、ガラスの棺桶のような延命装置に入っていなければ呼吸もできない状態になっている。
 クラウスの妻でスペイン人のグリセルダは夫の看護に疲れ果てていて、娘レナにも当たり散らす状態。クラウスの屋敷は人里離れた田舎にあり、3人の他は通いの家政婦が訪れるだけ。
 そんな中、看護士を名乗るアンジェロというハンサムな青年が、クラウスの世話をすると言って唐突に屋敷にやってくる。しかし、アンジェロのことを怪しんだグリセルダが彼を試すと、実は彼は簡単な注射すら満足に出来ないということが判る。
 グリセルダはアンジェロを家から追いだそうとするが、なぜかクラウスは彼に留まって欲しいと望む。しかし、その理由を明かそうとしない夫に、グリセルダは不信感とストレスを溜め込んでいく。また、娘のレナはハンサムなアンジェロに懐き、それがますますグリセルダを苛立たせる。
 やがてグリセルダは、家のブレーカーを落として夫の生命維持装置を止めようとまで追い詰められるのだが、その一方でアンジェロは、クラウスの前で全裸になって自慰をしながら、「貴方のことは全て知っている、一緒にまた《その世界》に戻ろう、そのためには妻のグリセルダが邪魔だ」と囁き始め……といった内容。

 何というかその……激ヤバな内容でした。
 しょっぱなっから、廃屋に両手吊りにされた身体の傷も生々しい全裸の少年を、カメラで執拗に撮影する中年男というシーンで始まり、しかも少年にまだ息があることを知って口づけし、そして角材で殴り殺すというシーンから始まりまして……。
 その後は、『愛の嵐』と『ゴールデン・ボーイ』にペドフィリアとサディズムとホモセクシュアルをまぶして、ニューロティック・スリラー風味も加えた内容を、デヴィッド・リンチ風に撮っている……と言えば、いかに見ていて神経を逆撫でされる感じなのか、想像がつくかと思います。
 基本的に映像自体は、寒々しいブルーを基調にしつつも美しい色調と、抑制のきいた端正な構図や演出で、扇情的に煽る系の要素は皆無と言ってもいいんですが、それにしても何しろ、ナチスの生体実験&その再現、しかも相手は裸の少年、おまけに同性愛要素もあちこち……とくるので、もうタブー感が尋常じゃない。
 少年の殺害シーンだけでも充分以上にキツいのに、加えて、美青年が寝たきりの中年男性の生命維持装置を外し、苦しんでいるところに覆い被さり、泣きながらフェラチオするとか、はっきりとは見せないものの顔射して、しかも後からそれを妻に見せ……とか、そんな展開やシーンがあちこちに。
 クライマックスもスゴくて、ネタバレになるので詳述は避けますが、過去と現在、共にものすごいタブー感のある《セックス》をカットバックで見せられるもんだから、映像は美麗だし演出は端正なのに、見ていて「うわあぁぁ……」感が半端ない。

 登場人物も皆キャラがキツくて、家族を心配する寝たきりの父親(ギュンター・メイスナー)とはいえ、その正体は少年相手の連続殺人鬼だし、危機に晒される妻(マリサ・パラディス)とはいえ、事故に見せかけて夫を殺そうとするし、サイコな美青年なんだけど、でもそこには理由や純愛要素もあり……。
 でもってラストカットなんて「ええええ、これでいいの???」ってな展開ながら、ん〜でもそうなるのかな……って感じでもあり、しかもそれを詩的で美麗なイメージで見せられるもんだから……。
 いやはや、鑑賞後の印象は「うわぁ、なんかスゴいもの見ちゃった……」の一言。
 特典に入ってたアグスティ・ビジャロンガ監督のインタビューを見たところ「ジル・ド・レイの話をヒントに、ナチスの話を背景に、現代に再構築した」っていうんですが、その発想自体が邪悪というか怖いもの知らずというか……。

 ただ前述したように、映像自体は美麗ですし、演出も良く、サスペンス要素があるのでストーリー面での娯楽要素もバッチリ。全てにおいてクオリティは実に高く、神経を逆撫でされつつも、ものすごく面白いです。単にヤバいだけのキワモノではない、映画としてきちんと見応えのある一本。
 何かの拍子で予告編を見て、「あ、なんか良さげ。え、マリサ・パラディス出てるの? 見る見る見る!」と嬉々として米盤Blu-ray買ったんですが、見応えもヤバさも期待以上でした。

 Blu-rayやDVDは、日本のアマゾンでも買える模様。
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長谷川サダオ「1978〜1983」展のお知らせ(東京)

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 8月23日〜9月13日まで、東京・九段のギャラリー、成山画廊にて、長谷川サダオ展が開催されます。
 拙著『日本のゲイ・エロティック・アート vol.2』でも書いたように、長谷川サダオは日本のゲイ・アート史上において、最も重要な作家の一人です。
 前世代の作家たちが、主に自分の欲情というメカニズムを忠実に追うことで、結果としてその作品をゲイ・アートたらしめていたのに対して、長谷川サダオは、個人という枠内だけに留まることなくゲイネスという総体も視野に入れ、またプレスリリースにもあるように、アートやファッションといった同時代の潮流にも共鳴しつつ、それらを自作に反映させていきました。
 また作品のフィニッシュワーク(仕上げなどの技術)の完璧さも、見逃すことのできないポイントの1つです。そんな原画の持つ美しさを直に目撃できる個展という貴重なチャンス、ぜひお見逃しなきようオススメいたします。 

【プレスリリースより】
8月の終わりに開催致します長谷川サダオ(1945年生まれ1999年没)は、ゲイアートという閉鎖的な分野で活躍してきた特異なアーティストでありましたが、“1980年代”という時代の再評価やゲイリブの推進によって、解き放されたアーティストのひとりです。現にここ10年でトム・オブ・フィンランド等欧米のゲイアートは大手オークションハウスでも高額で取引されるようになりました。
マイノリティーな性的趣向を秘めつつ描かれる絵画は日常を軽々と飛び越えて、密室特有の幻想を描いており、世界に誇れるビジョナリーアートと申せましょう。
今展では1970年代後半から1980年代前半までの作品に焦点をあて、当時流行したテクノポップスが持つプラスティックなニュアンスが前面に現された作品をご紹介致します。

長谷川サダオ「1978〜1983」展 
2014年8月28日(木曜日)〜9月13日(土曜日)
成山画廊:東京都千代田区九段南2ー2ー8 松岡九段ビル205号室
     TEL&FAX:03ー3264ー4871
E-MAIL:info@gallery-naruyama.com 
ホームページ:http://www.gallery-naruyama.com/
営業時間:月、火、木、金、土曜日  13時から19時まで  
     水、日曜日、祭日      休廊

ちょっと宣伝、『奴隷調教合宿』第10話掲載です

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 7月21日発売「バディ」9月号に、連載マンガ『奴隷調教合宿』第10話掲載です。
 いよいよ追い込みの転換点。この第10話のラストを起点にして、これから話を畳んでいく予定。
 もうちょっとで完結なので、どうか最後までよろしくお付き合いくださいませ!
[amazonjs asin=”B00LLL1UVU” locale=”JP” title=”Badi (バディ) 2014年 09月号 雑誌”]