All Aboutにインタビュー記事が掲載されました。
・ラブカル系Junchanの「かるなび」
インタビュアーはJunchan。彼自身でも書いていますが、元バディの編集部ということで、過去にもあちこちで顔を会わす機会はあり、そのたびに挨拶とかはしていたんだけど、長い時間顔を付き合わせて喋ったのは、今回が初めて。以前から、何となく「真面目そうな人だな〜」なんて思っていましたが、ゆっくりお話ししてみると、やはり物事に真っ直ぐ向き合うタイプの方という印象でした。
記事の方は、ちょいとヨイショされちゃって恥ずかしい気もするんですが、よろしかったら上のリンク先でお読み下さいませ。
そうそう、記事の前振りでJunchanに「デザイナーのW&LT(ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク)を彷彿とさせ……」と書かれたんですが、これ、ちょっと前にも児雷也画伯から同じこと言われました。その時には誰だか判らなかったのでググってみたんだけど、う〜ん、私の外見って、こんなに怪しいかしらん……。(参照)
でも、ちょっと前にも三軒茶屋でホームレスに間違えられたり、新宿では警察官に職質&身体検査されたり、先日の渡仏の際にも、成田空港でチェックインカウンターの日本人女性スタッフに、何故か英語で話しかけられたりしたんで、おそらく自分で認識している以上にウサンクサイ外見なんでしょうね、きっと。まぁ、怪しい人は好きなので、正直けっこう嬉しいんだけどさ(笑)。
しかし、実家に帰った際に、母の買い物に付き合って車の助手席に乗っていたら、後日近所で「○○さんの奥さんが、助手席に変な男を乗せてドライブしてた」なんて噂が立っちゃって、これはさすがに気の毒でした。因みにそれ以来母は、私と一緒に外出する際はデパートの店員とかに、聞かれてもいないのに自分から「これ、こんなですけど(どんなだよ)私の息子ですから!」と説明するようになりました(笑)。
何だかいろいろありました
さきほど、絵を一点描き上げました。個展をした(あ、会期は今月末までだから、まだやってるのか)パリのギャラリーの依頼による、注文制作の絵です。
オーダー内容は、「ドラゴンと闘う聖ゲオルギウスのイメージで、HIV/AIDSドラゴンと闘うキャプテン・ベアーの姿を、浮世絵調で」っつー、けっこうワケワカメなものだったんですが、ルーベンスの絵をベースイメージにして、そこに北斎や芳年をミクスチャーしてみたら、けっこうスラスラと楽しく描けました。
描き上がった絵は、限定生産のエスタンプになって、来月10日頃から始まるギャラリーの企画展で、展示販売される予定です。流石に今回は渡仏はしませんが、サイン入れとナンバリングはしなきゃならない。DHLか何かを使って、刷り上がったものを日本に送ってもらい、サインとナンバーを入れて、アーティスト・プルーフを手元に置いて、残りをフランスに送り返す……ってな、ちょいと面倒なやりとりです。
今回は完全な企画モノで、ゲイものだけどエロ抜き、コンセプト重視なのにコマーシャル・マーケット向けではないという、過去にやったことのないタイプの仕事。ちょいと戸惑いもありましたが、未体験だったぶん、新鮮な気持ちで絵を描けたような気もします。
個展用に描いた「七つの大罪」連作同様に、日本での発表予定がないのは残念ですが、ま、そのうちどこかでお見せする機会もあるでしょう。
どーでもいいことですが、パリ滞在中にオリヴィエのマシンガン・トークには、だいぶ慣れたはずだったんだけど、やはりブランクを挟んで、しかも国際電話越しの会話だと、そんな慣れなんてすっかりすっ飛んで、またアタフタ状態に逆戻りです(笑)。
さて、これと関連したイベントで、六月の頭にパリで開かれるParisBearsなるベア・イベントにも、ちょっくら関与してます。まあ、関与っつーか、イベントのキー・ヴィジュアルに絵を提供した……ってな程度ですけど。
こっちは旧作の流用。パリの個展にも出品したもので、だいぶ昔に『薔薇族』で描いた絡み絵の一部分。デザイン処理の関係なんでしょうね、画像の天地が90度回転していて、しかも左右反転されている。ひぃ、デッサンが……(笑)。どんな感じかは、ParisBears のサイトで見られます。
このイベント、フランスのみならずヨーロッパ近郊諸国も集客対象らしく、去年だか一昨年だかに開催されたBarcelonaBearsのときは、かなり大規模に盛り上がったそうな。この時期に渡欧予定のある方、または欧州在住の方、よろしかったら遊びに行ってみては?
私も行きたいけど、経済的にも時間的にも、さすがにそうそう渡航ばっかしてられないからなぁ。
フランス絡みだと、ちょうど先週、ジャーナリストのアニエス・ジアールが、新しい本の取材のために来日したので、新宿で会ってゴハン食べました。
でも、会話がフランス語になると、完全にオイテケボリ状態なので、うむむ、こうフランス絡みのあれこれが多いと、少しはフランス語も勉強しなきゃいけないかしらん。因みに私、先日のフランス行きで最初に覚えたフランス語は「ラディシォン・シルブプレ!(お勘定お願いしま〜す!)」というヤツでした(笑)。
アニエスの来日に伴って、ちょいと彼女から頼まれごともされまして、そのために動いたり人を紹介したりもしました。これがきっかけで、また何か面白いことに繋がるといいな〜と思います。逆に、私のほうもアニエスから面白い方を紹介して貰ったので、これまた何か新しいことに繋がるかも……と、ちょっとワクワクしてます。
更にこれらとは別件で、先週から今週にかけて、複数の話がドドドッと動き出しました。ほぼ決定したものから、まだまだ先が遠そうなものまで様々ですが、確定したものから順次発表できると思います。まぁ、全部ポシャっちゃって、発表することが何もなくなった……なんてことも、全くないとは言い切れませんが(笑)。
そんなこんなで、現状は特に忙しいってほどでもないのに、気持ちだけが何だか忙しい気分になった二週間でした。
画集 “The Art of Gengoroh Tagame”、タコシェさんで取り扱い開始
先月、フランスのH&Oから出版された私の画集、"The Art of Gengoroh Tagame" ですが、中野の書店タコシェさんで輸入販売していただけることになりました。
本のサイズは、横21cm×縦26cm(A4の縦が少し短くなった大きさ)、フルカラー48ページ、ソフトカバー。英文と仏文による解説付き。タコシェさんでの販売価格は2,940円。
収録作品は、2000年〜2005年に制作した作品の中から、フランス側のスタッフがセレクトしたもの。画風や描法で「マンガ・スタイル」「ウェスタン・スタイル」「オリエンタル・スタイル」の三章構成になっています。マンガ・スタイルは文字通りマンガ風、ウェスタンはPainterによるデジタル油彩画風、オリエンタルは浮世絵風の絵が、それぞれ収録されています。
中野のタコシェさんの店頭でも、インターネットのオンラインショップでも、どちらでも販売しています。
店舗の場所など、タコシェさんのホームページはこちら。
通販など、タコシェ・オンラインショップの「田亀源五郎ページ」はこちら。
思ったより早く、日本でも入手できるようになったので、実に嬉しい限りです。
欲しいという方、どうぞご購入はお早めに!
アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル・イン・ジャパン2007のご案内
今度の土曜日、4/14(金)から4/20(金)までの一週間、下北沢で、第一回アジアン・クイア映画祭が開催されます。日本、韓国、台湾、香港、中国、タイ、イスラエル、インドネシア、フィリピンなど、12か国から集められたクイア映画が29作品上映。
これらの上映作品、特に短編作品は、ソフト化される機会も少ないと思うので、それらをまとめて鑑賞できるのは、またとないチャンスです。また、映画祭としても第一回ということなので、応援の意味でも、ぜひ一人でも多く見に行って欲しいです。
事前に見た作品がないので(前にもご案内はいただいていたんですが、ちょうどフランス行き&その反動の締め切りラッシュで、何もできない時期だったので)、オススメ作品とかは言えないんですけど、そこいらへんは映画祭のサイトで内容をチェックして、自分なりに狙いをつけてみてください。個人的には、イスラエルの作品やアニメーションなどが上映される「アジアン・ボーイズ短編集2」が気になる。
人気作には、そろそろチケット完売のものもある様子です。予約はお早めに。
映画祭の公式サイトはこちら。
ちょっと宣伝、単行本「田亀源五郎[禁断]作品集」発売です
ず〜っと出したかった待望の作品集が、ポット出版から発売されました。
今まで諸般の事情で単行本化できずにいた、私の作品の中でもコアでディープなテイストの中短編マンガを収録。収録作は、古くは1992年の『さぶ』掲載作から、新しいところで2004年の『Super SM-Z』掲載作までを含む、「闘技場〜アリーナ」「瓜盗人」「KRANKE」「猛き血潮 中里和馬の場合」「猛き血潮 坂田彦造の場合」「NIGHTMARE」「ZENITH」「だるま憲兵」「衣川異聞」の全九編。
もし、私に作家性というものがあるとすれば、この本はかなり色濃くそれが出ていると思います。そういう意味では、読み手を選ぶタイプの本かも知れません。そのぶん、お好きな方ならば深く愛していただけるような、そんな本になったと思います。
そういう思い入れの深い本なので、造本や装丁にも凝ってみました。カバーを付けるかわりに、クラフト紙にスミ文字のみという、シンプルな外函入りです。でも、本体を出すとこんな感じに。

ポットさんの御協力を得て、私自身、長く手元に置いておきたい本を作ることができました。読者の方にも、数は少なくとも末永く愛していただければ本望です。
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帰朝報告〜オマケ
帰朝報告〜日誌風(5)
帰朝報告、その6。
3月5日
九時頃に目が覚める。今朝も足は痛くない、良かった。もう歳なので、一日遅れで来るかもと心配してたのだ(笑)。
オリヴィエとランチの約束があったので、午前中に旅行代理店を探して、パリ滞在の後の寄り道用チケットを手配することにする。
オリヴィエの情報をもとに、メトロに乗ってオペラへ。ところがオペラの駅が改装中で通過してしまい、一つ先のマドレーヌから徒歩で引き返す。
教えてもらった代理店を探して、オペラ大通りを歩く。なかなか見つからず、かわりに、メガネのパリー・ミキのパリ店を発見(笑)。けっきょく、目当ての代理店を見つける前に、HISのパリ支店を見つけたので、ここで手配することにする。
チュニスへの往復エア・チケットを調べる。ユーロ高もあって、予想していたより高い。日本で手配しておいた方が安かったかも、失敗だったなぁ。しかし、とりあえずチケットはゲット。宿泊は現地で探すことにして、往復の航空券のみ購入。
ギャラリーに戻り、オリヴィエとランチ。自分一人だったら、怖くて絶対に入っていけないような、怪しげな路地の奥にある、モーリシャス料理の店へ。……あれ、マルティニーク料理だったかな? 自信がなくなってきた(笑)。
陸稲に鶏や野菜の煮込みがかかった、カレーのような料理をいただく。インド料理から辛みを抜いたような味で、とても美味しい。食事をしながら、この個展が終わた後のプランや、今年のスケジュールなどについて話し合う。オリヴィエは、アイデアマン。次から次へとアイデアを聞かされるが、さて、その中の幾つが実現するやら。
ランチの後、オリヴィエは来客の予定があるので別れる。
オリヴィエから預かったお土産を、沢辺さんたちに渡したいので、電話してみる。書店で営業の最中だった。後で聞いたら、パリ市内の二件の書店で、『日本のゲイ・エロティック・アート』シリーズ100冊、『田亀源五郎【禁断】作品集』20冊の受注がとれたらしい。
因みに『日本のゲイ・エロティック・アート』に関しては、フランスでは実に好評でした。このシリーズを編纂する際、私の念頭には、「1.エロティック・アート本来の効果、つまりオカズとしての有用性」、「2.オカズ云々を離れたレベルでの、独立したタブローとしての評価」、「3.それらを記録し、分析的に俯瞰することによる、文化史的な意義」という、三段構えの構成を持たせるよう心掛けていました。フランスでの反応は、それらのいずれのレベルもきちんと踏まえた上で、きちんと高評価してくれる声が多いのが嬉しい。
話がズレましたが、沢辺さんたちとはポンピドー近辺で待ち合わせて、パリ市庁舎近くのカフェでお茶。オリヴィエからのお土産を渡す。因みに中身は、薔薇のジャムと、「桜風味の煎茶」という奇っ怪なモノ。後者に関しては、オリヴィエも「ストレンジすぎるだろうか」と心配していたけど、私が無責任に「大丈夫、大丈夫、みんなストレンジなものが好きな人たちだから」と後押ししてしまった(笑)。
沢辺さんたちは、明日の午前中に帰国するので、ここでお別れ。
夕方から、フォト・セッションの予定が一件入っていたので、ギャラリーに戻る。
カメラマンのアレックス・クレスタに紹介され、早速撮影開始。
アレックスは、けっこう野郎系のポーズや表情をリクエストしてくる。ところが、身近な方はご存じだと思いますが、私の所作は、かなりフェミニンな方。言われるままに顔を顰めたり、ビデオスターみたいにハンクなポーズをとるものの、どーにも落ち着きが悪い(笑)。そうそう、頼まれてシャツを脱ぎ、上半身裸にもされましたが、きっと期待していたものと違っていたんでしょう、すぐまた着せられました(笑)。
でも、アレックスはとてもチャーミングな人で、しかもかなりイイ男。カメラマンより、モデルにしたいくらい。撮影後、しばらく楽しく雑談し、お互いの連絡先を交換。
フォト・セッションの後、画家のギー・トーマスがギャラリーに来る。
丁寧なペンシル・ドローイングで、熊系のポートレイトを描くアーティストで、日本で言うと、ちょっとakiくんみたいな作風の人。お土産に、サンタ姿の熊オヤジを描いたドローイングのプリントを貰いました。
概してパリで会ったアーティストたちは、絵に対する自分の思想や哲学をはっきり持っていた。変に謙遜してみたり、斜に構えてみたりといった、不要なポーズがない。創作行為に対して真剣に向かい合っている感じで、会話していて手応えがあります。
彼も例外ではなく、会話もかなりつっこんだ内容に。
夜は、パトリックも呼んで三人で、このギャラリーでディナーを食べることになっていたので、オリヴィエがそのための買い出しに出かける。
オリヴィエが戻ってくる前に、パトリックが到着。私に見せるために、自分が八〇年代に東京に行ったとき、新宿のカバリエで買ったという、三島剛の画集二種(第二書房の『若者』と、サン出版の『OTOKO』)と、矢頭保の写真集を持ってきてくれた。
当然これらは私も持っていますが、一緒に見ながらアレコレ語り合っていると、ページの間に雑誌の切り抜きが挟まっていた。フランスのゲイ雑誌の切り抜きだったんですが、それが何と日本のゲイ・エロティック・アートを紹介している記事だったもんだから、私は大興奮。
切り抜きは、”Gay Pied Hebdo” という雑誌の246号から。今から二〇年ほど前の記事だそうで、Didier Lestrade という記者が、三島剛、木村べん、矢頭保、長谷川サダオ、高蔵大介、林月光、内藤ルネ、武内条二らの作品を、図版入りで数頁に渡って紹介。過去、日本のゲイ・エロティック・アートが、フランスで紹介されていた事例を見るのは、これが初めて。
やがてオリヴィエが戻ってきて、三人で食事。アート論から下ネタまで、さんざん喋って盛り上がり、深夜を過ぎた頃にお開き。
オリヴィエとパトリックが帰り、私は就寝。
3月6日
今日は、個展の設営を手伝ってくれたベルナールから、リュクサンブール美術館で翌日から始まる「ルネ・ラリック展」の、プレス向け内覧会に招待されている。
朝の九時前、ギャラリーにオリヴィエが迎えにきてくれて、タクシーで美術館に向かう。お天気は、あいにくの小雨。
美術館でベルナールが迎えてくれる。あいかわらず会話はないけれど、優しい笑顔で併設のカフェに案内してくれて、軽くコーヒーなどを勧めてくれる。パトリックも来ていた。
一服した後、受け付けでプレス用のセット(カタログ、CD-R、DVDなど)を貰い、会場へ。
来客は全て、招待された美術関係者だけという贅沢な環境で、ラリックの美しい宝飾品の数々や、ラリックの工房のスケッチ、時代背景を語る古写真や絵画などを見る。解説文は全てフランス語のみだが、オリヴィエやパトリックが意味を教えてくれる。箱根のラリック美術館からも、けっこうな数の作品が来ていた。
展示をじっくり堪能し終わった頃、ベルナールが「カフェにシャンパンとかがあるから」と誘ってくれる。私は出口の売店を見たかったので、オリヴィエたちに先に行っていてもらい、カタログだのポストカードだのを物色。
カフェに行くと、ちょっとしたパーティー会場のようになっていた。シャンパン、ワイン、コーヒー、(パトリックの解説によると)有名ブラッセリーの軽食、(やはりパトリックいわく)有名パティスリーのお菓子なんかが、食べ放題、飲み放題状態。試しにマカロンを一つつまんでみたら、これがすこぶる美味い。ついつい続けてパクパク。
会場の人にオリヴィエが、私の個展のDMを配る。ここいらへんが面白いところで、アートに関して、これはファイン・アートだの、これはコマーシャル・アートだの、エロティック・アートだの、ポルノグラフィーだの、マンガだの、BDだの……といった、区分や敷居が全く感じられない。
時に日本で、私の作品のフランスでの反応に関して、「アートとして評価された」的な意見を聞くが、おそらくそれは間違いだろう。アートであるなしなんて、たぶんどうでもいいことなのだ。良いと思うかどうか、それが全てのような気がする。ここのところ経験した私の驚き、例えば、大手新聞が作品を掲載したとか、マンガの批評の中にプルーストやロランの名前が出てきたとか、デヴィッド・リンチと同枠のテレビで紹介されたとか、そういったことは、そういったものと私の作品を分ける区分が枠が、そもそも存在していないからなのかも知れない。
もっとも、帰国後に沢辺さんと話したときは、沢辺さんは私の説にはいささか懐疑的で、やはり層によっては枠は存在しているのではないか、とも言っていた。これに関しては、私もその可能性はあるとは思う。それぞれの消費層の中には、やはりジャンル的な枠の考え方はあるのかも知れない。しかし、とりあえず今回の滞在中に私が交流のあった、美術関係層やマスコミ関係層に関して言えば、やはり前述したリベラルな印象が強い。
このパーティーには、私のオープニング・パーティに来てくれていた人も何人かいて、挨拶を交わす。それ以外にも、パリ市内のギャラリー・オーナーなどと雑談したり。
一段落ついたところで、オリヴィエとパトリックと三人で会場を出る。
小雨の中、メトロの駅に向かう。その途中、美術館から一緒になった知らない人に、道すがらの建物の窓を指さして、「あそこがマン・レイのアトリエだったんだよ」などと教えてもらう。
オリヴィエは、これから来客の予定があるので、ここでいったんお別れ。
パトリックはジムに行く予定だけど、まだ少し時間があるというので、それまでどこかでお喋りすることにする。「いいカフェがある」と、クリニャンクールまで連れていかれる。
パトリックの言った「いいカフェ」の、何が「いい」のかは、カフェに着いたらすぐに判った。アラブ系の肉体労働者のたまり場のカフェなのだ。つまり「眺めがいい」ってこと(笑)。ガタイのいいヒゲ面の、ちょいと目つきの険しい男たちがたむろしてるのを見て、パトリックが「ゲンゴロー・ガイがいっぱいだ」と喜ぶ。まったく、ノンケ好きなんだから(笑)。
パトリックには「ジムの時間になったら、私のことは気にしないで、適当に切り上げてね」と言ったのだが、「大丈夫」「いや、大丈夫」「もうちょっと話そう」「まだ大丈夫」の繰り返しで、けっきょく、最初は「二〇分くらい」と言っていたのが、小一時間ほども話し込んでしまう。
ようやく重い腰をあげて、パトリックともお別れ。抱き合って別れを惜しむのも、パリの市街なら違和感なくできるのが良いところ。
その後は、買い物か観光にでも行こうかと思っていたけど、雨がまだ降っているので、歩き回る気がしない。地下鉄一本で行ける屋根のあるショッピングセンター、フォーロム・デ・アールに行ってみることにする。
ショッピングセンターで、本屋やCD屋、DVD屋などを物色。昔だったら、ここを先途といろいろ買いまくるところだけど、今はインターネットのおかげで、家にいながらにして海外通販が可能。けっきょく何も買わずに、ギャラリーに戻る。
今夜は、オリヴィエの友人と、またギャラリーでディナーの予定。
やがて、その友人二人が来たけれど、申し訳ないけれど名前を忘れてしまった。
うち一人はクロアチア人、現在はスペインのファッション・ブランドで働いている人。パリコレのショーの演出のために、フランスに来ているところだそうな。オリヴィエとの関係は「掲示板で知り合った」ですと。……ナンパかい(笑)。
この彼が、トラッシュなものが大好きで、オリヴィエのPCで、そーいったテイストのYouTube映像を、次から次へ見せてくれる。
中でも最高なのが、ブルガリアで大人気だという、熊系ドラァグ・クイーン演歌歌手、Azis。ビデオ見て、私もイッパツで大ファンになった。この人はマジで好きなので、帰国したらDVD探さなきゃ。
あと、ペルーのセクシー(?)テクノ民謡とか、クロアチアの超絶早弾き女性キーボード・プレイヤーとか。他にも、「アメリカン・アイドルで落選したオネエさん」とか「ミンクのコートを買って♪と歌うクロアチアのビッチ系セクシー歌手」とか、いろいろあったんだけど、名前を覚えていないので探せず。で、そういった数々を見せられ、五人集まってのオカマノリも手伝って、腹が痛くなるほど笑い転げる。
かと思えば、前述の Azis の歌が「トルコ歌謡に似ている」という話から、思いがけなくオリヴィエと、ゼキ・ミュレン(トルコの美輪明宏みたいな歌手)やイブラヒム・タトリセス(トルコの熊系オジサン演歌歌手)の話で盛り上がったり。
けっきょくお開きになったのは、夜中の一時過ぎ。私は、明日の午前中にチュニス行きの飛行機に乗るので、慌てて荷造り。
3月7日
朝の八時、オリヴィエが来る。ギャラリーの鍵を返し、一緒にメトロの駅へ。
オリヴィエは、空港行きのRERに乗り換えるガール・デュ・ノールまで、送ってくれる。駅のホームで、抱き合って両頬にチュッチュッと、お別れの挨拶。オリヴィエのマシンガン・トークは、私が乗った列車のドアが閉まるまで続いていた(笑)
そんなこんなで、パリ滞在はここまで。
このあと私は、チュニジアのあちこちを一週間ほど旅して、3月14日に日本に帰ったわけです。
以上をもちまして、帰朝報告、全編の終了。
(終わり)
帰朝報告〜日誌風(4)
帰朝報告、その5。
3月4日
サイン会当日。
十時頃に目が覚める。幸い、足は痛くなっていない。良かった。
夕方にオリヴィエとギャラリーで待ち合わせ、一緒にサイン会に行くことになっているので、それまで遊びに出かけることにする。
カフェで、オムレツとカフェ・クレームでブランチ。一回一回の食事の量が多いので、一日二食でちょうどいい感じ。
それから、ルーブル美術館に行ってみることにする。前に行ったことはあるけれど、それはピラミッドができる前だったので、どんな感じか見てみたかった。
ルーブル到着。中庭にできたガラスのピラミッドを見て、つくづく感心。まず、こんな大胆なことを思い付いた、その自由な発想力自体がすごいし、それを実現した実行力もすごい。そして、いざ出来上がったものが、きちんと美しいというのが、一番すごい。伝統とモダンの、絶妙の調和。過去を大事にしつつ、そこに現代の息吹きも加えて、新しい美に生まれ変わらせていくという感覚に、心の底から感心。
出かける前は、ちょっと中にも入ろうかと思ってたけど、入り口の長蛇の列を見て、それはやめにする。中庭の適当な場所に座って、のんびり池越しのピラミッドを眺める。
しばしくつろいだ後、チュイルリー公園へ。ルーブル側から見ると、公園の樹木がまっすぐなパースを作り、その向こうにコンコルド広場のオベリスクが見え、更にその向こうに凱旋門が見える。一点透視法のお手本みたいな風景。そして視点を左にずらすと、エッフェル塔も見える。パリらしいモニュメントを三つ同時に見られて、とりあえず観光した気分になる。
公園を散歩がてら、コンコルド広場に向かう。古代彫刻を模した石像があちこちにあるが、その上にいちいち鳩が1羽ずつとまっている。何だかユーモラスで面白く、写真を何枚か撮る。散歩したり、ベンチでくつろいだりしながら、ゆっくりと公園を通り抜けて、出口の側の本屋に入る。ボタニカル・アートのカードとかがキレイだったけど、けっきょく何も買わなかった。
コンコルド広場からマドレーヌ寺院に向かい、そこからオペラ・ガルニエへ抜ける。途中のカフェで一服。
気が付いたら四時近くだったので、ギャラリーに戻ることにする。
オリヴィエと一緒に、サイン会のある書店 “BlueBookParis” に向かう。場所はポンピドーの近くなので、徒歩で移動。
本屋についたら、もう行列が店の外まではみ出していた。ショーウィンドウに私の画集 “The Art of Gengoroh Tagame” と、同時発売の児雷也画伯の画集 “The Art of Jiraiya” が、仲良く並べてディスプレーされいていて、何だか嬉しくなる。
一昨日のパーティーでも会った書店のスタッフ、メイディ・ハシェミが出迎えてくれる。アラブ系の顔に、人なつこい笑顔がカワイイ。沢辺さんたちも既に店に来ていて、中山さんが「あっちにいますから、何かあったら呼んでください」と言ってくれる。
17:30、サイン会スタート。お客さんに、メモ用紙に名前を書いてもらい、それを見ながら本にサインしていく。片言の日本語で挨拶してくれる人あり、英語で話しかけてくれる人あり。ここいらへんは、日本でやるサイン会とあまり変わりなし。たまに、書いてもらったアルファベットが、私の目では判別できないこともあり、そんなときは横からメイディが助けてくれる。
日本のサイン会と違うところは、ご夫婦名義……というか、自分とパートナーの名前を一緒に入れて欲しいというリクエストが多いこと。微笑ましいと思いながら、同時に、一冊ずつ買ってくれりゃ売り上げも上がるのに……とも思ってしまう(笑)。それともう一つ、自分で描いた絵をプレゼントしてくれるファンも何人かいて、これは日本では経験したことがないなぁ。
自分の分と一緒に、友人に頼まれた分とか、友人にプレゼントする分を一緒に頼む人も多く、「誕生日プレゼント用のメッセージを入れてくれないか」というリクエストも数件。そんなときには、英語と一緒に日本語で「誕生日おめでとう!」と書いてあげる。
サインした本は、やはり “The Art of Gengoroh Tagame” が多く、続いて “Gunji” や “Arena”、およびこれら三冊のコンボセット。ただ、中には日本語版の『嬲り者』や『PRIDE』持参の人もいて、珍しいところでは、同人誌『G-pro Party』を持ってきた人まで。オープニング・パーティにも来てくれた、在仏の均さんも、今や貴重な『獲物』他数冊持参で来てくれました。
オープニング・パーティで取材され、昨夜の “Yes Sir!” でも会った例のインタビュアー氏とも再会。「昨夜は良く踊ってたね」と冷やかされる。
変わったところでは、「この字を一緒に書いて欲しい」と、『戌』という漢字が印刷された名刺を出した人がいました。「これ、ドッグって意味だよ?」と確認すると、「自分のゾディアックがドッグなんだ」との答え。十二星座には犬はいないから、おそらく干支なんでしょうな。
サインと一緒に、ちょっと絵を描いてくれというリクエストする方もいましたが、ギャラリーとの契約で、ドローイングを描くことは禁止。申し訳ないけれど、そう理由を言ってお断りする。
漢字で「闇馬」と書かれたジャンパーを着ていた人がいたので、文字を指さして「ダークホースだね」と言ったら、「ダークホース・コミックのジャンパーなんだ」と裏地を見せてくれた。確かに裏地には、赤地に黒でアメコミのプリントが。で、その「闇馬」さんが、プレゼントだと言って茶色い紙袋をくれた。お礼を言って開けてみると、中に入っていたのは、前にもここで書いた、私が大ファンのマーク・ミン・チャンの画集。「えっ?」と思って名前を書いてもらったメモを見ると、この「闇馬」さんがアーティスト御本人。
もうビックラこいて、思わず席から立ち上がって「大ファンなんです!」と握手。私が大喜びする様子を見て、横でメイディが「マークもここで原画展をしたことがあって、今回も僕が来るように連絡したんだ」と得意そう。並んでいるお客さんには申し訳なかったけど、手早く連絡先を交換して、一緒に記念撮影。
そんなこんなで、二時間半ほど、ず〜っとサインしっぱなし。ミネラル・ウォーターのミニペットを用意して貰っていたんですが、スタート前に一口飲んだだけで、残りを飲めたのは一段落した後。
列がなくなったので、今度は今日は来られなかったけど、書店にお取り置きを頼んだり通販を申し込んだ人の本にサインを入れる。その最中にも、新しい客がパラパラ来るので、そんなときは中断。
取り置き分には、入れる名前を書いたメモが本に挟んであるんだけど、名前以外にも何か書いてあるものがある。メイディに「これは何?」と確認すると「バースデイ用メッセージ希望」とか「ドローイングのリクエストだけど、それは無理だから無視して」とかいう答えが。一番ウケたのは「あ……それは、代金まだ未払いってこと」ってヤツ。バーロー、うっかり一緒に書きこんじゃったらどーすんだよ(笑)。
取り置き分が終わったところで、お店用の色紙を頼まれる。オリヴィエに目で確認すると、ドローイングOKの返事。サインと一緒にヒゲのオヤジの顔を描く。
そろそろお開きにしようかと、改めて書店のスタッフたちに挨拶。メイディがお土産に、マーク・ミン・チャンの原画展のポスターをくれる。コートを着ていたら、また来客。そのサインを終えて、店から出て、待っていてくれた沢辺さんと「ゴハンどこで食べようか」とか話していたら、また来客。再び店に戻ってサインしてたら、メイディが「ホラホラ、早く行かないと一晩中サインする羽目になるよ」と笑ってた。
オープニング・パーティでも会ったカメラマンの Kaseda さんも一緒に、みんなで近くのコルシカ料理屋に入る。しばらくして、アニエス・ジアールとそのパートナーが合流。注文とか通訳とか、Kaseda さんのフランス語が大活躍。
沢辺さんも私も、アニエスが話してくれるフランスの出版界の様子に興味津々。アニエスは、沢辺さんのことを、てっきりゲイだと思っていたらしい。無理もない、私だってときどき、沢辺さんがノンケだってこと忘れちゃいます(笑)。因みに沢辺さん、パリ滞在中に二度ほど、田亀源五郎と間違えられたたしい(笑)。
食事が終わり、店から出たところで、仕事あがりらしいメイディとバッタリ。「何でまだこんなとこにいるの!」と笑われる。
アニエスたちと分かれて、歩いて帰る。ホテルに帰る前に、ちょっとギャラリーに寄って、熱いお茶でも飲んでいかないかと、沢辺さんたちを誘う。
そんな感じで一服していたら、もう深夜近く。中山さんとみずきちゃんが、ソファで舟を漕ぎ始める。沢辺さんたちが帰り、私もバスを使って就寝。
(続く)
帰朝報告〜日誌風(3)
帰朝報告、その4。
3月3日
九時過ぎに目が覚める。誰もいない朝のギャラリーは、昨夜のにぎわいがうそのよう。
オリヴィエが十一時頃に来ると言っていたので、待っていのだたが、一時になっても来ない。テーブルにケイタイの番号のメモを残して、テキトーに出かけることにする。
因みに、このギャラリーは予約制なので、誰もいなくても無問題。
近くのカフェで、クロック・ムッシュとショコラでブランチ。どちらもすこぶる美味しい。
今回、パリでの用事を終えた後で、どこか別の場所に寄ってから、帰国したいと思っているので、安チケットを探しに行くことにする。……が、土曜日の午後なので、オフィスは休みだった。
チケット探しはあきらめて、沢辺さんに電話してみる。サン・ジェルマンのあたりで、みんなで昼ゴハンの最中だった。私はポンピドー。オデオンで待ち合わせることにする。
オデオンで、沢辺さん、那須さん、中山さん、ふみちゃん、みずきちゃんと合流。みんなでリュクサンブール公園を散歩しに行く。
公園のカフェでお茶。那須さんと「去年、アップリンクでイベントしたときは、まさかこーゆー面子でパリでお茶するなんて、想像もしてなかったよね〜」とシミジミ。あちこちのテーブルで、客が残した角砂糖を、鳥が包み紙ごと丸飲みしていた。
買い物がてら、サン・ジェルマンをブラブラ。ロウソク専門店が面白かった。見るからに高級そうなパティスリーで、沢辺さんがエクレアを買って、みんなにふるまってくれる。似たようなことをするオノボリさんは多いらしく、近くのゴミ箱には、同店の空き箱が山のように(笑)。
別に用事があった中山さん、買い物に行ったふみちゃんと分かれて、沢辺さん、那須さん、みずきちゃんと一緒に、カフェでお茶。窓際の席に座ってひょっと外をみたら、斜め向かいに、昨日と一昨日、二日連続でお誘いをパスしてしまった、例のベア&ウルフバーがあったのでビックリ。
夕飯は、以前パリに住んでいた私の友達がオススメしてくれた、イタリアン・レストランへ行くことにする。ポンピドーで中山さん、ふみちゃんと待ち合わせて、みんなでゴー。
レストランは、リーズナブル&美味で大好評。フランス語のメニューの解読は、もっぱら中山さんにお任せ。デザートに何を頼むかで盛り上がる。
23時近くなってギャラリーに戻ると、オリヴィエがいた。案の定、バーで盛り上がりすぎて、15時頃まで寝ていたらしい。
今夜、ゲイのクラブ・イベントに行こうと誘われる。でも、出かけるにはまだ早いので、しばらくお喋り。この頃になると、オリヴィエのフランス語訛りの英語にもだいぶ慣れて、聞き取りもそんなに苦ではなくなってきた。
しかし、オリヴィエはとにかく早口でマシンガン・トーク。加えて知識や興味の幅がとんでもなく広く、しかも連想ゲームのように話題が拡がっていくので、こっちもかなり集中力が必要。日本の文化や歴史にも詳しく、ルネッサンスやバロック絵画の話をしていたはずが、二十分後にはいつの間にか、部落問題やらアイヌ民族やら、仏教や神道や三種の神器の話になっていたりする(笑)。そんな具合で二時間ほど喋っていたら、夜遊びに出かける前に疲れてしまった(笑)。
「そろそろ出かけよう」と、オリヴィエが着替える。着替えるといっても、フツーの服ではない。ナチスの将校のような(実際は、ロシア軍の軍服らしいが)コスプレ姿だ。これが、オリヴィエのゲイ・コミュニティでのトレードマークらしい。
軍服姿のオリヴィエと、歩いてクラブに向かう。Bains Douches というクラブで行われた、“Yes Sir!” というパーティ。マッスル&野郎寄りのベア・パーティーだそうな。
クラブの前は、既に入場待ちの行列が。私たちはインビテーションなので、並ばずに入れた。クロークで上着を預け、中に入る。広さは、西麻布のYellowくらいかな。フロアもラウンジも、坊主またはスキンヘッド&ヒゲのマッチョだらけ。半分くらいは上半身裸。長髪とか細身とかもいるけど、少数派。見渡したところ、東洋系は私だけ。
しばらくオリヴィエと一緒にラウンジにいて、次々と紹介される人に挨拶とかしていたのだが、それも一段落ついたようなので、フロアへ踊りに行く。マッチョはマッチョでも、やはり人種の違いか、日本で見るそれとは、筋肉の大きさが圧倒的に違う。
ファッションはおしなべて今風で、ボトムはローライズのジーンズやカーゴパンツ。上半身裸を除けば、このまま昼間に外を歩いていても、全く違和感がなさそう。強いて言えば、黒のトップスと迷彩柄のボトムが目立つくらい。たまにレザーキャップとかボディーハーネスとかもいたけど、正直言って浮いている感じ。何かの主張としてのゲイ・ファッションというスタイルは、既に過去のものなのだろう。
しかし、やっぱり一番浮いていたのは、オリヴィエの軍服姿だった(笑)。もっとも自分も、服装は黒T&カーゴだけど、人種や体格という点で浮いていただろうなぁ(笑)。
フロアで、昨夜のゲイ・テレビ局のインタビュアーと再会。今日は上半身裸。すっげーいい身体のうえに、両肩と背中にとてもきれいな和風のタトゥーが。「ホレホレ」と自慢してきたから、それに乗じてあちこち触らせて貰う。他にも何人か、昨日のパーティーで会った人と挨拶したり、ファンだという人と話したり。音楽が轟音なので、フロアでは自然と上半身を寄せ合って、肩に手を掛け合ったりして、耳元で大声で怒鳴るように話すことになる。だから、しばらく話していると、相手の息で耳がベタベタしてきたり(笑)。
フロアがどんどん混んでくる。ラウンジも併せて、三百人くらいいたんじゃなかろうか。この頃になると、東洋系も三人くらい見掛けた。女性も数人。同伴なら入れるミックス形式なのかな? 途中で上を脱ぎだす連中も多いので、いつの間にか裸の割合が三分の二くらいに。混んだフロアを誰かが通り抜けようとすると、必然的に肌が触れ合う。毛深い人だと「ふさっ」とか「ざらっ」とした感触、毛の薄い人だと「ぺとっ」とか「ぬるっ」とか。
フロアには汗の臭いが充満し、苦手な人は嫌なんだろうけど、私は好きだから気分もアガる。筋肉やら体毛やらタトゥーやらボディーピアスやら、目の保養もタップリ。知り合いやファンで、カッコよかったりカワイかったりする子には、もう遠慮なくハグ。
音楽は、あれは2ステップなのかな、ブレイクビーツの作り出すグルーヴが気持ちよくて、久々に赤い靴シンドローム(踊り出したらとまらなくなっちゃうという、私のビョーキ)が発症。なかなか好みのプレイをするDJさんでした。
オリヴィエは途中で帰ったけど、私は居残り。けっきょくそのまま、朝の五時まで踊ってました。
歩いてギャラリーに帰り、バスを使う。
児雷也画伯に「パリからメールくれ」と頼まれていたので、オリヴィエのPCを借りて、ウェブメールを出す。フランス語用のキーボードだから、ちょっと使いにくい。オマケに、日本語変換ができないので、ローマ字表記。
一服して就寝。踊りすぎで、明日、足が痛くならないか、ちょっと不安。オッサンは辛いね(笑)。
(続く)
帰朝報告〜日誌風(2)
帰朝報告、その3。
3月2日
個展初日。
朝8時頃、爽やかに目覚める。相変わらず、時差ぼけの兆候なし。
小腹が空いていたので、カフェにでも行こうかと思ったけど、昨日オリヴィエが持ってきてくれたサンドイッチが冷蔵庫に入っていることを思い出し、お茶を淹れて食べる。因みにオリヴィエはお茶マニアで、キッチンの棚は紅茶や中国茶やハーブティーの山。
オリヴィエが来るのは昼頃と聞いていたので、さてそれまで何をしようかと考えているところに、沢辺さんたちが遊びに来てくれた。今回は中山さんも一緒。しばらく雑談した後、沢辺さんたちはお出かけ、私はこのままオリヴィエを待つことにする。
正午過ぎ、オリヴィエが、オープニング・パーティ用の大ワインやミネラル・ウォーターを、大量に持参して到着。ギャラリー内に運び込むのを手伝う。
一服しながら、今日の打ち合わせ。パーティーには、テレビ局の取材が二つ入るそうな。
ドア・オープンは18:00。それまでオリヴィエは、プライス・リストの制作やら何やら細々した用事があり、逆に私は何もすることがないので、17:00頃までフリーになる。
ならば観光でもしようかと、出かけることにする。
メトロを乗り継いで、サン・ミッシェルにある中世美術館へ向かう。ユニコーンのタペストリーが有名で、それをイギリスのトラッド・ギタリスト、ジョン・レンボーンのアルバム "The Lady and the Unicorn" で見て以来、一度行ってみたかった美術館。
建物は、中世の城だか教会だかの建物をそのまま使っていて、手前には、パリに残るローマ帝国時代の遺跡もある。規模はさほど大きくはないけれど、建物の風情と、展示されている中世彫刻やテンペラ画や工芸品が実に良くマッチしている。そんなに混んでもいないし、雰囲気も好みで気に入りました。
お目当てのタペストリーは、想像していた以上に巨大で、更に、一枚ではなく六連だったのでビックリ。写実性と装飾性のブレンド具合がとても美しい上に、動物たちの姿にはユーモラスな可愛さも。
ギフトショップで、タペストリーの図案を使ったゴブラン織りのクッションカバーを二つ購入。オレンジの樹の柄と、ウサギの柄のヤツ。けっこうなお値段だけど、モノが良いのでいたしかたなし。他にも、中世美術の本やら中世音楽のCDやら色々あったんだけど、長居していると破産しそうな気がしてきたので(笑)、適当に退散。
気が付くと16:00を回っていたので、ちょっとカフェで一服してから、ギャラリーに戻ることにする。
18:00までには、ギャラリーの支度もすっかり整い、あとはお客を待つばかり。
ちょっと緊張してくる。どのくらい人がくるのか、さっぱり見当がつかないし、閑古鳥だったらどうしよう……ってな不安もあるし。
じきに、最初の来客。そして、ポツポツと人が増え始める。「ボンジュール」と言ってお迎えするものの、それ以上の会話はできないので、何だか所在がない気分。
窓の外が暗くなってきた頃には、いつの間にかギャラリーは人で一杯に。閑古鳥の不安はなくなり、ホッと一安心。英語で話しかけてくれる人も増え、ジャーナリストの女性(……と、遠目には思ったんだけど、接近してお話ししたらトランスジェンダーの方でした)や、まだ若そうなファンの男性(「軍次」の感想を、とても具体的に熱っぽく語ってくれて、嬉しかったな)などと話しているところに、沢辺さんたちも来てくれる。
テーブルの上には、仏語版 “Gunji” と”Arena”、出たばっかりの画集 “The Art of Gengoroh Tagame”(出発前に著者見本が届かなかったので、現物を見たのは私もこの日が初めて)、沢辺さんが持ってきてくれた『日本のゲイ・エロティック・アート』1と2、そして近日発売予定の『田亀源五郎【禁断】作品集』の見本などが並べられていて、お客さんたちは思い思いに中を見ている様子。
ニコラ到着。足下を見ると、普通の革靴。「アラ、ハイヒールじゃないじゃない」と突っ込むと、「フン、気分じゃなかったのよ、でも、本当に持ってるんだからね!」と返される。ビッチなヤツ(笑)。パリ在住の日本人の方にもお会いする。英会話ばっかで疲れているときに、母国語でお喋りできるのは本当にありがたくて、何だかホッとします。
気付かないうちに、パトリックも来ていた。「ゲンゴロー、ゲンゴロー」と呼ぶので何かと思ったら、ワインボトルのラベルを、この個展のDMに張り替えたものを見せられた(笑)。
別のフランス人に「僕を覚えています?」と話しかけられる。確かに顔は見覚えがあるんだけど、どこの誰かが思い出せない。そう詫びたら、一昨年、フランスのゲイ雑誌 “Tetu” の取材で、東京で会ったインタビュアーの人だった。今回の個展の記事と一緒に、今度あらためて同誌に記事が載るそうな。
全般的にお客には、坊主&ヒゲというタイプが目立ち、いささか偏ってる感じ。沢辺さんにそう言ったら、「でもまあ、田亀さんのファンなんだからねぇ」と言われた。それもそうか。
テレビ取材、一件目スタート。ゲイ向けのケーブルテレビだか衛星放送だからしい。カメラマンもインタビュアーも、またまたどちらも坊主&ヒゲ、しかもかなりのマッチョ。挨拶して握手したら、二人とも手の皮がえらく固くて分厚い。まるで土方さんみたいだと思ったけど、ひょっとしたら、ウェイト・トレーニングのせいかもね。
取材があると聞いたときから、ちょっと嫌な予感はしていたんだけど、案の定、通訳なしの英語インタビュー。うう、これはかなりキツい。おまけに周囲には見物人の輪が。この中で下手な英語を喋るのは、何とも恥ずかしい。
一回、質問の意味がどうもうまく掴めずに困っていたら、中山さんがヘルプで駆けつけてくれました。サンクス。それでも難航。発音のせいで単語が聞きとれないこともあるので、インタビュアー持参の質問事項を書いたカンペを見せて貰い、それでようやく理解できた。
まあ、さほど長い時間ではなかったので、何とか無事に終了できました。
だいぶ気持もほぐれてきて、新しいお客さんにも、自然と「ボンソワール」と声を掛けられるようになる。
ギャラリー内は禁煙なので、沢辺さんを誘って廊下に出て一服する。階段や踊り場は、同様の喫煙者のたまり場に。そこに混じって、ファンの人や、パリコレの取材で来ているという日本人カメラマン氏などとお喋り。
そこにアニエス・ジアールが来た。「久しぶり〜!」と喜び合った後、沢辺さんたちに紹介。しばらくそのまま雑談するものの、よく考えたら私は会場の外にいて、アニエスはまだギャラリーの中にも入っていない。慌てて「とりあえず見て!」と、中に案内する。
オリヴィエに呼ばれて、画家のザビエル・ジクウェルに紹介される。一緒に画集 “Stripped – The Illustrated Male” に載ったアーティスト。画集をプレゼントして貰う。技法や画材などについて、互いに聞いたり聞かれたり。ここいらへんは、日本で他のイラストレーターと会ったときと変わりませんね。
やがて、二件目のテレビ取材がスタート。今度は大手テレビ局。後で聞いたら、どうやらキャナル・プリュスだったらしい。
取材チームのチーフらしい、ドレッドの黒人が「スパイクです」と自己紹介するもんだから、つい「スパイク・リー?」と茶々入れると、「いや、実は本名は○○なんだけど、顔がスパイク・リーに似てるから、そーゆー綽名になったんだ」ですと。
番組の内容は「日曜美術館」みたいなものらしく、同じ枠で一緒に放送されるのは、ちょうど同時期にパリで大規模な個展をしていたデヴィッド・リンチだと聞いてビックリ。デヴィッド・リンチと私が、同じ番組枠で紹介って……う〜ん、やっぱ日本じゃ考えられないわ。なんてリベラルな国!
幸いなことに、今回はインタビューはなし。インカムを付けた私が、いろいろなお客さんと交流するのをロングで撮って、後で、お客さん個々人に、作品の感想などを聞くという作りにするとのこと。だから「絶対にカメラを見ないでくれ」と釘を差されました。
そんな具合で、私はテキトーにお喋りを続行。ポットの那須さんは、中山さんと談笑中のところを撮られ、ついついカメラを気にしてしまい「もっと自然にして!」と注意されたそうな(笑)。
だいぶ遅くなってから、エスタンプのプリントを制作してくれた人に紹介される。この人の名前もオリヴィエだった。オシャレな初老の紳士といった風情で、メビウスや宮崎駿のエスタンプ制作もした方だそうな。
溝口健二が大好きだそうで、小津よりも黒澤よりも溝口で、特に「『山椒大夫』は大傑作だ!」と言う。で、私が「え〜、でもあのラストは、ちょっと救いがなくて、仏教説話的には云々」と異を唱えると、「いやいや、あれはシェイクスピアのようで云々」と返してくる。こういう議論は面白いけど、私の英語力では限界があり、ちょっと悔しい思いをする(笑)。オマケに、彼が話題に出した『赤線地帯』や『楊貴妃』は、私は未見。で、こっちが『雨月物語』や『西鶴一代女』を話題にしようとしても、英題も仏題も判らないので、なかなか伝わりにくいし。
この人に限らず、あちらの日本文化好きの人は、概して知識の幅の広さや深さが半端じゃないことが多く、驚かされることが多々ありました。
そんなこんなで、19:00頃から22:00頃までは、人が途切れることもなく、ギャラリー内は満員状態。沢辺さんの概算によると、「のべ150人くらいは来たんじゃないか」とのこと。
22:00を廻ると、少しずつ人も減ってきました。帰り際に、何人もから「ビッグサクセス、コングラチュレーション!」と言って貰え、嬉しい限り。
だいぶ人が減ったので、椅子に座ってひと息ついていたら、例のテレビカメラが寄ってきた。取材されていたこと、すっかり忘れてました(笑)。
で、あんまりカメラが寄るもんだから、「カメラ見ていいの?」と聞くと、「いいよ」と返事して、テーブルの上の私のウェストポーチに寄っていく。「中身見たい?」と聞くと「見せて」。で、携帯用の電子辞書やら、万年筆形の筆ペンやらをご披露(笑)。
これで取材は終わり。最後にカメラに向かって「この映像が放送されることを了承します」というような内容を言わされました。
で、腰に付けてたインカムを返して「バイバイ」。
アニエスがきて、もっとワインが欲しいみたいなジェスチャーをしたので、未開封のものを「自分で開けて!」と瓶ごと渡す。
気の毒なことに、夕飯を食べそびれてしまった沢辺さんたちは、オリヴィエが出してくれたクッキーをポリポリ食べる。じっさい、オープニング・パーティで出されたものはワインのみで、いわゆるおつまみのようなものは一切なかった。考えてみりゃ、私も朝にサンドイッチを食べたきりだったので、一緒にポリポリ。
アニエスとは、明後日のサイン会の後に、一緒に御飯を食べようと約束してバイバイ。やがて沢辺さんたちもホテルに戻り、ギャラリーには、オリヴィエ他数人が残っているだけ。気が付くと、もう深夜を廻っていました。
オリヴィエに「これから、昨日オープンしたベア&ウルフバーへ行こう」と誘われたけど、ちょいと疲れが限界に。体力的にというより、英会話を続けるのがもう限界。ヒアリングの集中力が続かず、相手の言葉を聞いていても、ノーミソが途中で理解を放棄する感じ。言語中枢がオーバーヒート起こしたみたい。
で、申し訳ないけど私はパスさせていただき、もう寝ることにしました。シャワー浴びるのも面倒だったので、顔だけ洗ってバタンキュー。
(続く)






