“Capitaine Conan (コナン大尉)”

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『コナン大尉』(1996)ベルトラン・タヴェルニエ
“Capitaine Conan” (1996) Bertrand Tavernier
(英語字幕付きフランス盤DVDで鑑賞→amazon.fr、後にフィルムセンター『現代フランス映画の肖像2』で再鑑賞)

 1996年制作のフランス映画。ベルトラン・タヴェルニエ監督。
 一次大戦末期から終戦直後にかけてのロシア国境近辺で、終戦後の平和に馴染めない軍人を主人公に、軍隊というシステムの矛盾などを描いた作品。セザール賞最優秀監督賞&主演男優賞受賞。

 第一次世界大戦末期、ブルガリアで戦っているフランス軍。
 コナン大尉は自ら育てた手勢50名を率いて、特殊部隊のような活躍をしている。銃器ではなく白兵戦をモットーとする彼は、自分は兵士ではなく戦士、猟犬ではなく狼だと考えており、捕虜をとることはなく敵は全て殲滅する。部下たちもまた同様だった。
 そんな自分の信念を貫くコナン大尉は、基本的に士官学校出のエリートには不信感を持っており、たとえ上官の命令であってもナンセンスであると思えば平然と無視する男だったが、元教師のノルベル中尉とだけは、互いに全く違うタイプながらも友情で結ばれていた。
 そして戦争が終わる。フランス軍兵士たちはこれで故郷に帰れると喜んで列車に乗るが、ハンガリーのブカレストに留め置かれてしまう。
 平和に馴染めないコナンの部下たちは、乱暴狼藉など何かと問題を引き起こしてしまい、一方ノルベルは軍事法廷の検事に任命されてしまう。コナンは部下を庇って、何かとノルベルと対立することになるが、一方でノルベル自身も、兵卒ばかりが些細な罪や大した証拠もないにも関わらず裁かれ、上層部の軍人は責を問われることなくノホホンとしていることに疑問を抱き、持ち前の正義感から悩む。
 そんな中、軍隊は対ボリシェビキ戦に備えて、再び故郷とは反対方向の東方へと移動することになる。
 自分の信念を曲げないコナンも、裁く側となって矛盾に悩むノルベルも、罪に問われて拘留されたコナンの部下たちや他の兵士たちも、その皆が戦場となる東へ向かう列車に乗り……という内容。

 基本的な構造としては、平和な時代はおろか、実は近代戦自体にも馴染めないコナン大尉という男の生き様と重ねながら、近代的な戦争や軍隊の持つ問題点や矛盾を描き出した、文芸的な大作映画といった印象。
 とは言え、いかにもそういったモチーフらしい世界の残酷さや空しさを描きつつも、同時に生きている人間ならではのユーモアもふんだんに盛り込まれ、決して重苦しい作品にはならないあたりが、タヴェルニエ監督らしいという感じでしょうか。たとえどんな切迫した状況であっても、その中での食い気と色気がしっかり描かれるあたりは、私が大好きな同監督の『レセ・パセ 自由への通行許可証』と同じ。
 映画の冒頭とクライマックスを、それぞれ戦争場面で挟む構成になっているんですが、この部分のスペクタキュラーな見応えもお見事。特に初めの戦争シーンは、マクロな視点のスケール感、迫力、細部の面白さ……等々、内容的にも映像的にも大いに楽しめます。
 中間部分は、無遠慮な兵士の振る舞いとか、ミュージックホールに入った強盗とか、命令違反に問われた若い兵士とか、帰らぬ息子を自力で前線まで探しに来た母とかいった、様々なエピソードと共に、ちょっとした謎解き的な要素なんかも絡んできて、これまた飽きさせない。
 そんな中でも、やはりユーモラスな描写が光っていて、例えば、冷たい雨の中で整列し兵士たちが、延々と将軍の長演説を聴かされているうちに腹を下してしまい、ガマンできずに次々と物陰に駆け込んでしゃがんでしまうとか、軍楽隊も同様に腹に力が入らず、演奏がメチャクチャになってしまうとか、ブカレストで即席の軍刑務所兼軍事裁判所が必要になるのだが、それが娼館に作られてしまうとか、そんなあれこれが実に楽しい。

 一方、戦争犯罪や命令違反などを巡る、ちょっとした謎解き部分のドラマに関しては、実はそれらの主眼は真実の究明に至るドラマ云々ではなく、例えそこにどんな理由や不正や正義があったにせよ、それとは関係なく現実は冷酷であるというのを見せることにあった模様。これは、そういった厭世観や無常観、そしてそんな現実に対する批評性としては有効なんですが、個人的にはもうちょっと娯楽寄りに目配せがあった方が好みではありました。
 役者さんはそれぞれ魅力的なんですが、主人公であるコナン中尉役のフィリップ・トレトンが、大いに魅力的ではあるものの、それでもちょっと弱さを感じるのが残念。
 というのも、このコナン中尉というキャラクターは、いわば生まれながらの戦士であり、平和な時代はおろか、実は近代以降の社会全てに居場所がないような、そんな人物。そんな彼は「引き金を引くだけで相手を殺すのは《戦った》とは言わない、刃物で突き刺してこそ《戦い》であり、それが兵士ではない《戦士》の証だ」などと、堂々と言ってのける人物なんですが、トレトンは顔立ち自体に人が良さそうなところがあり、好演はしているとは思うんですが、正直そこまでの凄みはない。

 そういう感じで、個人的にはちょっと惜しい感もあり、映画の後味もけっこう苦いものがありますが、見応えはタップリ。
 ストーリー的に様々な位相を持ち合わせた内容なので、見る人を選ぶ部分もあれこれあるとは思いますが、時代物、戦争物、男のドラマ物がお好きな方なら見所も多いと思います。

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価格:¥ 2,500(税込)
発売日:2006-04-28