『バトル・キングダム 宿命の戦士たち (Ярослав. Тысячу лет наза / Iron Lord)』

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『バトル・キングダム 宿命の戦士たち』(2010)ドミトリ・コロブキン
“Iron Lord” (2010) Dmitri Korobkin
(イギリス盤DVDで鑑賞、後に日本盤DVDが出たので再鑑賞)

 2010年製作のロシア映画。11世紀初頭、キエフ・ルーシの若きロストフ公ヤロスラフ(後のヤロスラフ賢公)を主人公とした、アクション・アドベンチャー系のヒーロー史劇。

 11世紀初頭、キエフ・ルーシの王子ヤロスラフは、父の聖公ウラジーミルの命によりロストフを治めていた。同地にはスラヴ人とフィン人の部族がそれぞれ居住しており、山賊が跋扈して人々を奴隷に売り飛ばしており、王子は同地平定のため、山賊退治と部族の統一に奔走していた。
 ある日、山賊を追った王子一行は、戦闘によって異教(非キリスト教)の聖所を焼いてしまい、そこに参拝していた熊族(フィン人の氏族の一つ)の娘を救い出す。王子は身近な者を供に、娘を森の奥にある熊族の村に送り届けて協定を結ぼうとする。しかし一行は森の中で襲撃にあい、殆どの者は殺されてしまう。
 王子は一人捕虜として熊族の村に捕らわれの身となり、同時に件の娘が族長の娘だということも判る。一方王宮では、山賊たちにこちらの情報が筒抜けになっていることから、内通者がいるのではないかという疑いが持ち上がる。
 そんな中、山賊たちが王子の暗殺を狙って熊族の村を襲うが、戦いの果て撃退される。その間、王子も脱走を試みるが失敗して再度捕らわれの身となるが、件の族長の娘と互いに惹かれ合うようになる。一方の王宮では、捕らえた山賊から王子が無事だとの情報を得て、救出のための出兵を決める。
 熊族の村はルーシ軍に包囲されるが、王子は戦闘を避けるための話し合いを試みる。村から遣わされた王子からの伝令を受け、父王は王子の右腕だったノルマン人の戦士を、和平の使者として村に遣わすことを決めるのだが、実はその裏ではもう1つの陰謀が蠢いており……といった内容。

 いちおう歴史上の人物を主人公にはしていますが、基本的には「○○の若き日の一幕」といった作りなので、歴史劇としての旨味はさほどありません。どちらかというと、恋と冒険と謀略が渦巻くアクション・アドベンチャー系の通俗娯楽作品というテイスト。
 ただ、主人公が後の賢公ということもあってか、善良で知的なキャラクターではあるものの、ストーリーの殆どで熊族での村で捕虜になっているだけで、ヒーロー的なカッコいい見せ場というのがあまりないのが、ちと問題。テンポが悪いわけではないですが、ドラマのメリハリやスピード感に欠けるんですな。
 ではシリアスな深みがあるかというと、これまたそういうわけでもないので、どうしても何か中途半端な感じに。ロシアの風景を活かした映像自体は美麗ですし、役者さんたちも味がある顔が多くて佳良、セットや衣装は時代考証よりイメージ優先系ですが、映像のクオリティ自体は高いので、ちと勿体ない。
 またキャラクターも、ルックス等の雰囲気はいいんですが、大河ドラマばりにアレコレ出てくるわりには、尺が約100分と短いこともあって、誰も彼もが掘り下げ不足で個性もクリシェ頼み。結果、いくらエモーショナルなエピソードが出てきても、キャラが薄いのでさほど感動もせず。

 王子の行動が領地の平定であると同時にキリスト教の布教でもあるのはちょっと興味深く、多神教との考え方の違い等の会話もあるんですが、最終的にはけっこう強引なレトリックによってキリスト教に一本化され、巨大な十字架の建立とヤロスラヴリの街の誕生で締めくくるのは昔のハリウッド史劇っぽい感じも。
 あと、フィン人の熊族はじめ各部族とキエフ・ルーシとの同盟関係の大切さを、やはり結末で強く訴えるあたりは、今のロシアの状況を踏まえた政治的な臭いも感じられたり。
 全体的に、恋愛ドラマの持って行き方とか、コミック・リリーフをわざわざ入れるとか、作劇の感覚がちょいと古臭い感じがありますし、評価がイマイチ(IMDbでは4.6点)なのもやむなしという感じではありますが、目の御馳走と割り切って見れば、映像自体は味があって佳良です。
 スペクタクル的にこれといった見せ場がないのは、ちと残念なものの、それでもセットや衣装などは実に本格的で出来も良く、雄大な風景なんか存分に楽しめますし、熊族の森がヴェトコンばりのブービートラップだらけで楽しかったり、ちょっぴりだけですが責め場もあったり……と、細かなお楽しみどころは色々と。

 そういう感じで、多くを期待してしまうとハズレだとは思いますが、まずモチーフ自体が稀少ですし、内容的にはあれこれ惜しいものの、かといって決して退屈だったり安っぽかったりするわけでもないので、コスチューム・プレイ好きの方だったら、気楽に見る分には充分楽しめるのではないかと。
 ぶっちゃけ全体のテイストが、ちょっと昔のイタリア製ソード&サンダル映画みたいなので、個人的には嫌いじゃないです、こーゆーのも(笑)。

バトル・キングダム 宿命の戦士たち [DVD] バトル・キングダム 宿命の戦士たち [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2011-10-07

 因みにこちらが、私が先日ウクライナのキエフで撮ってきた《ヤロスラフ賢公の黄金の門》の、外観と内部の写真(オリジナルの門の上に新しい門を被せて保存されている)。
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