『七人の侍』より「侍之壱・月」メイキング

 さて、昨日に引き続き、連作『七人の侍』から、第一葉「侍之壱・月」のメイキングなんぞを載っけてみませう。

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 まずは下絵です。手近なコピー用紙に、水色の色芯のシャーペンでざっとアタリをとり、それから鉛筆で描いていきます。
 線画は後で毛筆の白描で仕上げるので、無駄な線を極力入れないよう、この下絵段階から一発描きを心掛けて、迷いを入れずに筆勢を生かす気持ちで、グイグイと描きます。これが、ペン仕上げだと、もうちょい迷い線が増えますし、厚塗り仕上げの場合は、マッスでフォルムを作っていくので、形のとりかた自体が変わったりもします。
 モチーフ的には、オーソドックスな武者絵のイメージ。武者絵というと浮世絵の国芳が有名ですが、私は何と言っても芳年ラブだし、月つながりで芳年の連作『月百姿』へのオマージュにもしたいので、侍のポーズは芳年の『新形六十三怪撰』の「源頼光土蜘蛛ヲ切ル図」から引用してみました。

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 完成した下図をコンピュータに取り込み、本番サイズに拡大縮小。構図も決めて、それをいったんプリントアウトします。プリントアウトしたものに本描き用の用紙(これも安手のコピー用紙)を重ね、ライトボックスで透かしながら墨と毛筆で、本番の白描を描きます。
 墨は少し薄目にするのが、私流。コンピュータで黒の濃度を上げるのは簡単なので、アナログでは少し薄いくらいで描いておいて、最終的な濃度調節はデジタルで。
 毛筆画は、けっこうコンディションによって出来不出来のムラが出ちゃうので(修行不足です)、時として「ひゃ〜、失敗、描き直し!」なんてこともあるんですが、今回は調子良くスイスイと描けた感じ。
 白描が完成したらスキャナーでコンピュータに取り込んで、Photoshopのレベル補正を使って、余計な紙白を飛ばし、黒の濃度を引き締めます。それが終わったらゴミ取り。ただ、あんまり厳密にはやらず(アナログ風仕上げにしたいので、多少のゴミは味のうち)、目立ったものだけ消していく、という感じです。

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 線画が出来上がったら、それをアルファチャンネルに読み込んで、白い背景の上に透明レイヤーに描かれたセル状の線画が乗っている状態のものを作ります。レイヤーの合成モードは通常で。
 Photoshopを終了してPainterを立ち上げます。そして、さっきのファイルを開いて、白いキャンバス状にデジタル水彩/新シンプル水彩で着色していきます。こうやって縮小しちゃうと判りづらいけど、ある程度の紙目が出た感じにするために、テクスチャをイタリア水彩紙の200%拡大という設定にしてあります。
 デジタル水彩は、全ての色面の着彩が終了するまで乾燥させず、相互のにじみを生かすようにします。水彩消しゴムを使ったり、濃い色の上に薄い色を重ねたりすると、このにじみのニュアンスが変わってしまうので、できるだけ薄い色から濃い色という順番で、細部は筆のサイズを小さくしてチマチマ……ってな感じで塗っていきます。
 色彩設計は、ぶっつけ本番。最初に肌のトーンを決めて、それから衣の色を決めていく。色はくすませ気味にして、寒色系をメインにしながら、刀の緒だけビビッドにして、全体のポイントにしてみました。

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 下塗りが終わったら乾燥させて、キャンバスと線画の間に白で塗りつぶしたレイヤーを一枚作成し、合成モードを乗算にします。このレイヤーに、肌部分の陰影を描いていきます。
 木炭(ソフト)をテクスチャが強めに出るようにカスタマイズしたブラシで、肌に陰影を重ねていきます。ただ、下塗りのときほど紙目の存在感は必要ないので、テクスチャの設定はフランス水彩紙/100%に変更しています。
 陰影は、写実的な立体感ではなく、何となく立体っぽいニュアンスを与える程度にとどめます。このテの作品の場合は、主役はあくまでも毛筆による描線。その味が陰影で殺されないよう、薄い色をざっと筆で刷く感覚で色を乗せていきます。使っている色も一色のみ。濃淡は全て筆圧でコントロールして、ぼかしも筆圧オンリー。水滴ツールとか水刷毛とかの、ぼかし用のブラシもいっさい使いません。
 レイヤーを分けているので、はみ出しも気にせず、とにかく筆勢をいかして、ザックザックと描いていきます。

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 肌の彩色が終わったら、はみ出した部分を消していきます。同じブラシの描画色を白にして、塗り消していきます。

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 気付かない消し残しがないかは、こうやってレイヤーの合成モードを乗算からデフォルトに変えてチェックします。ただ、あんまりきっちりキレイには消しません。だいたい消えてりゃオッケー、って感じ。ちょっとくらい色が互いにかぶってた方が、全体の雰囲気は柔らかく仕上がるので。

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 肌の陰影が終わったら、キャンバスに固定してしまいます。それから、次に唇や乳首(この絵ではないけれど、性器や肛門も)の色を付けます。
 新規マスクを作成して、そこにエアブラシ系のブラシで、唇の色を付ける部分の形を描きます。ベタッと塗るのではなくて、唇の立体を意識しながら、濃淡つけて描くのがコツ。ここもチマチマいじらずに、筆勢を生かした一発描きのニュアンスで。

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 完成した唇マスクを非表示にして、選択範囲として読み込みます。

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 選択範囲内の画像の色相と彩度と明度をいじって、唇をほんのり赤く染めます。

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 染まったら選択範囲を解除して、テクスチャの明暗を反転した後、肌の陰影と同じブラシで、唇にハイライトを入れます。これで出来上がり。
 同じ要領で、乳首にも色を付けます。

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 髪やヒゲを描きます。再度、キャンバスと線画の間に、新規レイヤーを作成します。ただし、今回は白で塗りつぶさずに透明のまま、合成モードもデフォルトです。
 肌の陰影を付けたのと同じブラシで、眉やヒゲを描き込んでいきます。ただ、肌の陰影以上にテクスチャを抑えたいので、設定をベーシックペーパー/100%に変えています。
 色は筆の線から少しはみ出させるように、フワッと柔らかい印象になるように乗せていきます。濃い部分は一気に塗りつぶそうとせず、軽めの筆圧で複数方向からクロスハッチングするように、焦らず丁寧にタッチを重ねていく方が、キレイに仕上がります。アナログの鉛筆画と同じ要領ですな。
 これまた出来上がったら、さっさとキャンバスに固定しちゃいます。

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 衣に柄を入れる準備にかかります。いったんPainterを終了し、再度Photoshopを立ち上げます。
 白描の画像をテンプレートにして、新規レイヤーを作成し、そこにフリーの図案集からとってきた柄を、シアーや自由変形を使って、布の流れに併せて変形させながら張り込んでいきます。
 柄の配置が終わったら、それをさっきまで彩色作業をしていたファイルのアルファチャンネルに読み込んで、マスクとして保存します。

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 再びPainterに戻ります。さっき作った衣の模様を選択範囲に呼び出して、スポンジで塗っていきます。ベタッと潰すのではなくて、ところどころカスレやムラがある感じにします。

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 最後に背景を入れます。衣の模様と同じ要領で、マスクを作ってスポンジでニュアンスを付けながら塗っていきます。この月とススキのパターンは、琳派の図案を用いてみました。
 これで、完成。

 ……とまぁ、こんな感じで、全七点の連作を仕上げたわけです。
 いちおう予定としては、既にフランスにデータを送っているので、それをあちらで枚数限定のエスタンプとして作成、出来たプリントを日本に送ってもらい、私がサインとナンバリングを入れてフランスに送り返し、五月からパリのギャラリーで展示販売……ってなことになるはず。
 ただ、ギャラリーオーナーのオリヴィエの組むスケジュールは、けっこうアバウトっつーか、いい加減なところがあるから(笑)、ホントに五月に展示が始まるかどうか、実はまだ半信半疑なのだ(笑)。そもそもこの連作も、最初の予定では去年の十二月に……という話だったしね(笑)。