『ウィルトゥース』イラストのメイキング

 単行本『ウィルトゥース』の発売記念に、カバー表4イラストのメイキングなんぞを載っけてみませう。
 今回は、表題作が古代ローマものということもあり、裏表紙や口絵は、遺跡から出土した壁画のようなイメージでいきたいと思い、編集さんにも了承していただけました。
 ローマの壁画というと、ギリシア/ローマ神話モチーフが似合いそうなので、『雄心〜ウィルトゥース』の主人公たち、クレスケンスとガイウスを、アポロンとマルシュアスになぞらえて描くことにしました。
 とはいえ、実際の神話だと、音楽勝負でアポロンに負けたマルシュアスは、生きながら生皮を剥がれてしまいます。このエピソードは大好きなんですけど、流石にそんなのはカバー画にできません(笑)。よって、「二人がデキちゃったとしたら?」ってな感じでいくことにします。
01
 紙に鉛筆で、下絵を描きます。
 最終的にタッチや陰影は入れずに、線とフラットな色面を生かした絵にしたいので、下絵もシンプルな白描で描いていきます。
 筋肉や布のドレープの形は、古代ギリシアの壺絵みたいなイメージで。仕事ではあまり使ったことのないスタイルなので、自分で描いていて、なかなか新鮮な気分でした。
02
 下絵が出来たら、本描きの線画に入ります。
 今回は、イメージが壁画(フレスコ画)なので、線画にも紙のテクスチャとか、墨の濃淡などのニュアンスは必要ありません。筆致も、墨やインクのような液体を素早く捌いた感じではなく、溶いた顔料をネットリ引っぱった感じにしたいので、線画段階からコンピュータで作業することにします。
 下絵をスキャンしてPainterで開き、グワッシュでトレスしていきます。線画の色は、それぞれのパーツ(色面)ごとに変えますが、全体の色彩設計はPotoshopでする予定なので、この段階では厳密な色味にはこだわりません。ただ、Photoshop上での編集がしやすいように、1色につき1レイヤーを使います。
03
 色彩設計に入ります。
 Painterで描いた線画をPSDで保存して、Photoshopで開きます。マジックワンドツールやパスを使って選択範囲をとり、色面ごとに別々のレイヤーで塗りつぶしていきます。
 色面の色彩設計が終わったら、それに併せて、線画の色味を調整します。全て決定したら、線画のレイヤーは一つに統合してしまいます。色面のレイヤーは別々のままで保存します。
04
 彩色に入ります。
 ファイルを再びPainterで開きます。
 レイヤーの透明度をロックして、スポンジで色ムラが出るように塗っていきます。どんな感じで、どの程度ムラを出すかは、これはもう感覚勝負ですね。
05
 線画の「荒れ」を作ります。
 フレスコ画っぽくするために、線にもちょっとニュアンスが欲しいです。色面のレイヤーを全て捨てて、キャンバスと線画レイヤーだけにしたものを、別名保存して作業用のファイルにします。
 線画レイヤーの透明度をロックして、いったん白で塗りつぶします。次に、描画色を黒にしたスポンジを使って、フロッタージュ(こすり出し)のように線画を浮き上がらせていきます。やりすぎると、ただの真っ黒な線画になっちゃうので、ほどよくかすれた感じになるように作業を進めます。
 いい感じに荒れた線画ができたら、画像を統合して保存します。
06
 線画の「荒れ」の続きです。
 Photoshopで、さっきの荒れた線画のファイルを開き、モードをグレースケールに変えます。次に、彩色用のファイルを開き、アルファチャンネルに荒れた線画の画像をペーストします。
 彩色用ファイルの線画レイヤーを選択した状態で、アルファチャンネルの荒れた線画を選択範囲に呼び出し、かすれた白い部分を消去します。これで、色トレスした線画にも、ほどよい「荒れ」ができました。
07
 絵の具の剥落の雰囲気を作ります。
 古いフレスコ画っぽく、ところどころ絵の具が剥げた感じを出したいので、漆喰壁や石壁の写真画像を用意します。
 写真をグレースケールにしてから、レベル補正やトーンカーブなどを使って、好みのノイズを作ります。いい感じのものができたら、透明レイヤーに白くノイズが散っている状態にして、それを彩色用ファイルの最上層に配置します。
 ただ、この絵ではかなり控えめなノイズにしたので、こうして縮小してしまうと、残念ながらほとんど判らないですね。実際にどんな感じなのかは、現物(単行本)を見てください。
 また、同様に壁画をイメージした口絵では、もっと大胆にノイズを入れて、剥落やひび割れを作ってみました。よかったら、見比べてみてくださいな。
08
 もうちょっとフレスコ画っぽいニュアンスを加えます。
 さきほどのノイズ同様に、写真素材から適当なテクスチャを作ります。
 テクスチャができたら、それを彩色用ファイルの最上層にオーバーレイで重ねます。テクスチャの出具合は、透明度で調整します。
09
 仕上げです。
 調整レイヤーを使って、色相や彩度やコントラストなどを整えます。
 これで、できあがり。