カテゴリー別アーカイブ: ゲイ・カルチャー

“Tha Last Match (La partida)” (2013) Antonio Hens

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“Tha Last Match (La partida)” (2013) Antonio Hens
(イギリス盤DVDで観賞→amazon.co.uk、日本のアマゾンでも取り扱いあり)

 2013年のキューバ/スペイン製ゲイ映画。
 ハバナの貧困地域を舞台に、サッカー友達である二人の親友が、貧困によって運命を狂わされていく様子と、ラブストーリーを絡めて描いたシリアスもの。

 キューバ、ハバナ。貧困地域に暮らす二人の若者、レイニール(レイ)とヨスバニは、いつか手にする未来を夢見て、空き地で日々一緒にサッカーに興じている。
 しかしレイには既に妻子がおり、更に妻の母親と一緒に暮らしている。レイの生活は日々の食事にも事欠く有様で、金銭を得るために夜の街に立ち、外国人ツーリスト相手に身体を売っている。そんな中レイは、フアンという中年のスペイン人ツーリストと出会う。
 一方のヨスバニは、物品の販売などでこの地域一帯を取り仕切るボスに、娘の将来の婿として見込まれており、ボスの家で暮らしながら、物質的には何不自由ない暮らしを送っている。
 レイの義母は、彼がフアンという上客を掴んだことを知ると、そのままスペインについて行って向こうで結婚し、それから私たちを呼び寄せろなどとけしかける。しかしヨスバニは、レイとフアンが親しくしているのを見て嫉妬してしまう。そしてある晩、夜遊びの最中にドラッグでハイになったヨスバニは、レイにキスをすると、その身体を求めて迫る。レイは「何の真似だ、俺を本当のホモだと思っているのか」と抗うが、しかし彼もまたドラッグでハイになり、結局はヨスバニを受け入れる。
 やがて二人は、廃屋の屋上でひっそりと逢瀬を重ねるようになる。その一方で、ヨスバニとボスの娘の結婚の準備は着々と進み、フアンとの関係も続けているレイにも、ナショナルチームのテストを受けられるというチャンスが巡ってくる。しかしレイは、ボスに前借した金の返済に窮してしまい、ボスはその取り立てをヨスバニに命じる。しかしヨスバニは、ボスの命令通りにレイを殴ることができず、その結果、二人の関係をボスに気付かれてしまい……といった内容。

 なかなか見応えあり。BGMを廃した現実音だけの構成、手持ちカメラによる揺れる映像、日差しのきつさや湿度の高さなど空気感が伝わってくる雰囲気、極めて自然でリアルなキャラクターの演技……と、映画的な見所は多々あり。
 ストーリー的には重く、後味もかなりビターなので、ここは好き嫌いが分かれる感はありますが、個人的には、そういったドラマを捉える視点自体が、ウェット過ぎずドライ過ぎずいい塩梅だという印象。
 レイの義母や妻が、彼の男相手の売春を知りつつも、それを何の問題視もしていないあたりや、ヨスバニの婚約者が、父親に「あいつはホモだ!」と言われても「だから何?あたしにはそれは何の問題もなかったわ!」などとやり返すあたりは、ちょっと他のゲイ映画には見られない興味深いポイント。その一方で、生活のための売春であれば同性相手でも問題視はされないが、金銭の絡まない同性愛関係(つまりレイとヨスバニの関係)だとスティグマ、つまり非難や軽蔑の対象になるという、そんな社会状況が興味深く、ここはもうちょっと突っ込んで見てみたかった感じです。
 こういった諸々の状況には、貧困や社会的な閉塞といった背景があるわけですが、ラブストーリー好きの人が見ると、メインの二人がそれぞれ性別を問わず複数の相手と関係しつつ、しかし話は純愛的な方向に転がっていくので、ちょっと違和感があるかも知れません。しかし個人的には、その純愛的な展開が、愛だの恋だのといったエモーショナルな衝動なのか、それとも逃避なのかといった視点が感じられて、そこもまた興味深かったポイント。因みに私の解釈では、片方は愛、片方は逃避による行動と見ました。

 モチーフが興味深いがゆえに、もうちょっと描き込んで欲しい感はあちこち残るものの、ゲイというモチーフをクローズドなラブストーリーとしてではなく、社会全体との関わりの中で描くあたりが、作品的な深みを増しています。
 社会派的な視点あり、センシュアルなエロスあり、モチーフの独自性と映画的な見応えありで、結末に関して好き嫌いは分かれそうですが、見て損はない一本。

映画秘宝EX 映画の必修科目16 激動!イギリス映画100

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 9月26日発売のムック「映画秘宝EX 映画の必修科目16 激動!イギリス映画100」に、ジョン・ブアマン監督『エクスカリバー』の解説と、「カテゴリー:ボーダー」でイギリスのゲイ映画の概要解説記事を書きました。
 ビギナーズ向けのガイドブックという書籍の性格と、文字数の制限のために、駆け足気味のコンパクトな解説になりました。詳しい方には物足りないかも知れませんが、その反面、読みやすい&判りやすい記事になったとは思います。
 というわけで、宜しかったら是非一冊お買い上げください。

ミュージシャン、ジョン・グラントの日本限定Tシャツの絵を描きました

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 先日、オープンリー・ゲイのミュージシャン、ジョン・グラント氏が初来日した際に、ele-kingの企画で対談させていただいたのがご縁となり、彼が近々再来日する際に会場で販売される、日本限定オリジナルTシャツの絵を描かせていただきました。
 ジョンのライブは、8月20日(土)に開催されるイベント、HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER内で。Tシャツの販売は、HOSTESS CLUB ALL-NIGHTERとサマーソニックの会場、幕張メッセで、8月20日(土)と21日(日)の二日間。価格は3,500円、サイズはS/M/L/XL。
 イベントにお出かけの方は、記念に是非お買い求めを。また、イベント終了後にはオンラインショップで若干枚数を販売予定とのこと。詳細は下記リンク先をご参照ください。
ジョン・グラント、田亀源五郎がイラストを手がけた日本限定Tシャツの発売が決定

*ご縁となった対談記事はこちら。
special talk:ジョン・グラント×田亀源五郎/何を歌い、どう描くか〜ゲイ・アーティストたちのリアリティ

*ジョン・グラントのMV(MVの下がそれぞれの収録アルバム)
ゲイ・サウナでのロケが話題になった”Disappointing”(Feat.トレーシー・ソーン)


膨大な映像の引用で近代のゲイ・ヒストリーを描いて感動的な”Glacier”

「すばる」8月号にインタビュー掲載です

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 7月8日発売の文芸誌「すばる」8月号、《特集:LGBT 海の向こうから》内の《INTERVIEWS 私の光となった表現》コーナーに、拙インタビュー掲載されています。
 自分の表現に影響を与えた作品3つというテーマで、私は[ラオコーン像/J・R・R・トールキン(の提唱した準創造という概念)/ロバート・メイプルソープ(の写真作品)]について語っています。
 いちおうコーナー名に併せて「インタビュー」と書きましたが、実際はインタビュー取材された内容を基に先方が記事にまとめるといった形式なので、どちらかというと「聞き書き」に近く、分量も短めです。
 とはいえ、同コーナーの他の面子(牧村朝子さん/杉山文野さん/三橋順子さん/中村キヨさん/マーガレットさん/橋口亮輔さん)も含めて、興味深い特集だと思うので、よろしかったら是非一冊お買い上げください。

 しかしこのインタビューコーナー、私この中のお三方(中村さん、マーガレットさん、橋口さん)と、イベント/雑誌/ウェブメディアで、それぞれ対談したことがあるので、何だかちょっと古狸気分(笑)。

「美術手帖」4月号(メンズ・ヌード特集)に寄稿

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 現在発売中の雑誌「美術手帖」(メンズ・ヌード特集号)で、インタビュー形式で日本のゲイ・エロティック・アート史の解説しております。
 編集氏のお話によると、今までなかった特集だけに果たしてどうかという声もあったそうですが、売れ行き好調とのこと。古典から現代美術、はたまたマンガなどのポップカルチャーまで、幅広く扱ってきた伝統ある美術雑誌にして、男性ヌードの特集が初めてだというのは、正直言って遅れているという気がしなくもないんですが、でも良い先例を残せたのは良かった。
 また、美術雑誌がこういう特集を組むにあたって、日本国内のゲイアートも取り上げようという発想が出てきたこと自体は、大いに喜ばしい変化だと思います。13年前に私が『日本のゲイ・エロティック・アート vol.1』を出したときは、どの美術系雑誌からも黙殺されましたからねぇ……。
 というわけで、よろしかったら一冊お買い求めを!

“Mixed Kebab” (2012) Guy Lee Thys

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“Mixed Kebab” (2012) Guy Lee Thys
(英盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、日本のアマゾンでもマーケットプレイスで取り扱いあり)

 2012年のベルギー/トルコ製ゲイ映画。
 アントワープに住むトルコ系クローゼット・ゲイ男性と、フラマン語系ベルギー青年との恋愛を描きながら、それを通じて、同時に社会が抱える様々な問題も描きだすという内容。

 主人公イブラヒムはベルギーで生まれ育ったトルコ系の青年。自分がゲイだと自覚はしているが、それを表に出すことはなく、名前もベルギー風にブラムと名乗っている。パートタイムのウェイターをしながら、裏ではコカインの売人もし、行きつけのダイナーの一人息子、ケヴィンに惹かれている。
 ケヴィンは、ダイナーの主である母親マリアナと二人暮らし。息子がゲイなのを承知しているマリアナは、ブラムがゲイでケヴィンを好きだというのを見抜き、気を利かせて二人を一緒に夜遊びに行かせる。
 ケヴィンはブラムに「男と女とどっちが好き?」と尋ねるが、ブラムは「自分はトルコに親が決めた婚約者がいて、じきに結婚する予定だ」と答える。一方、ブラムの弟で学校から落ちこぼれてストリートギャングになっているフルカンが、マリアナの店に強盗に入る。
 やがてブラムは、婚約者であり従妹でもあるエリフと、結婚の書類を交わすためにトルコへ行くことになる。ブラムは「一緒に行こう」とケヴィンを誘い、一度は「仕事があるから」と断ったケヴィンも、マリアナに後押しされてブラムと一緒にトルコへ行く。
 トルコでは、エリフに恋する地元の若者ユスフが彼女を口説いているが、彼女は男尊女卑のトルコ社会にうんざりしており、ブラムと結婚してベルギーに行くのを望んでいる。トルコに到着したブラムとケヴィンは、一緒にホテルの同じ部屋に宿をとるが、そのホテルはユスフの職場でもあった。
 一方ベルギーでは、チンピラを仕切るルーマニア人ギャングの裏切りによって、フルカンがダイナーの強盗事件について警察の取り調べを受ける。父親に殴られたのと、警察署内でのアクシデントで、顔に傷を作って警察署から出てきたフルカンは、近くのモスクを拠点とするムスリムの男に声を掛けられる。フルカンは誘われるまま男と一緒にモスクに行き、そこでイスラムの教えを受けるうちに、次第にイスラム原理主義へと傾倒していく。
 一方、トルコのブラムとケヴィンは、次第に関係が接近していき、ついにホテルのハマムで結ばれるのだが、それをユスフに見られてしまい……といった内容。

「ケバブ盛り合わせ」というタイトル通り、まぁとにかく盛り沢山な内容。
 ストーリーはこれでもまだ中盤くらいで、ブラムのゲイばれだの、ケヴィンとの関係だの、家族問題だの、マイノリティ問題だの、名誉問題など……と、色々なエピソードが山のように続く。
 それと同時に、ベルギーにおける移民問題とか、その移民というマイノリティの中で、さらにマイノリティ差別があるとか、ムスリム・コミュニティ内での原理派と世俗派の問題とか、ベルギーのトルコ系コミュニティ内での、身内にLGBTがいる家族への差別とか、とにかく盛り沢山な内容。
 で、そういった諸々は実に興味深いんですが、いかんせんそれだけ盛り沢山で、しかし尺は1時間半強なので、どうも1つ1つが点景でしかなく、それを掘り下げていく方向にはいかないのが、少し残念。
 また人間ドラマの方も、《トルコ系ベルギー人でクローゼット・ゲイで女性との結婚も間近だけどベルギー青年に恋をしてアイデンティティの置き場に彷徨いマイノリティ差別にも会っている男》という主人公だけとっても、キャラとしては充分以上に複雑で盛り沢山。
 そこに更に、《常に兄と比較され学校ではレイシストからいじめられストリートギャングになりやがてイスラム原理主義に傾倒する弟》とか、《初子は生後すぐに死んでしまい次の子を長子として大事にしてきたがゲイだと判って受け入れられない父親》とか、とにかく全員、それ一つで映画一本作れそうなくらいキャラ設定が複雑。
 基本的に、描写やディテールで見せるのではなく、ストーリーを追わせるタイプの作りなので、内容自体は面白いし、因果関係などを良く考えてストーリーが作られているのも判るんだけど、前述したような盛り沢山さ故に、どうしても、どれもこれも描き込み不足という気がしてしまう。
 ただ、まったく予定調和的ではないストーリーの結末なども踏まえると、目指しているのはストーリーやドラマを描くことではなく、それらを並べて見せることで、主人公とその周囲の世界の諸相を見せることにありそうな感じ。
 そうなると、もう少しキャラクターを突き放した、高い視点から描いた方が良いと思うんだけど、いかんせん、大きな軸であるゲイ・ロマンス部分が、ここは普通にムーディ&センチメンタル(&エロス)に描かれるので、そこいらへんがぎくしゃくしてくる。

 というわけで、ストーリーは(いささか作りすぎな感はあるものの)面白いし、ちょっとしたエピソードにも背景となる社会問題が盛り込まれ、そんなテンコモリ具合から感じられる意欲は良しですが、それ故からくる、あちこち物足りない部分もあり……という感じの一本。
 とは言え、ゲイ・ロマンスに社会問題をこれだけ盛り込んだゲイ映画というのは、なかなか珍しいと思いますし、ゲイ的な部分でも社会問題的な部分でも、見ていて色々と思わされる部分は多々あるので、テーマやシチュエーションに興味のある方なら、色々と楽しめると思います。

雑誌「現代思想」のLGBT特集号にエッセイ書きました

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 本日発売の雑誌「現代思想」(青土社)2015年10月号《特集=LGBT 日本と世界のリアル》に、「同性婚」と『弟の夫』についてのエッセイ「隣の《同性婚》を考える」(1200字)を寄稿させていただきました。ページ数は少ないですが、LGBT特集のトップに掲載していただいたので、見つけやすいと思います。
 同特集では、「エッセイ」「討議」「『同性婚』とは何か」「政治/経済」「地方から問い直す」「生活の中で」「<家族>を思考する」「情動/身体」「世界のクィアから」「実践を問う」「歴史を問う」といった、多角的な章立てがなされており、それぞれについて各2〜4名の方々が寄稿。学術よりの論者が多く専門用語も頻出するので、読みやすくはないですが読み応えはありそう。
 というわけで、宜しかったら是非お読みください。


 Kindle版もあります。

“Floating Skyscrapers (Plynace wiezowce/真夜中のふたり)” (2013) Tomasz Wasilewski

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“Floating Skyscrapers (Plynace wiezowce/真夜中のふたり)” (2013) Tomasz Wasilewski
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2013年のポーランド製ゲイ映画。原題”Plynace wiezowce”、ポーランド映画祭2014で『真夜中のふたり』の邦題で日本上映あり。
 ガールフレンドもいる若い水泳選手が同性に惹かれていき……という内容。

 青年クバは将来を嘱望されている水泳選手。母と二人で暮らす家に、ガールフレンドのシルウィアも同居させて、寝室も共にしている。ある日クバはシルウィアと一緒にギャラリーのパーティに行くが、どうも場違いな感は免れず、外に出てジョイントを吸っていると、青年ミハウと出会う。
 クバはミハウに惹かれていくが、自分の同性愛傾向を完全に肯定することはできず、シャワールームで別の男にフェラチオさせたりとか試みはするのだが、達する前にやめてしまい、逆にシルウィアの身体を激しく求めたりする。
 一方のミハウは自分がゲイだと自覚しており、母親もそれを知っているが、父親へのカムアウトは、まるで何事もなかったかのように流されてしまう。
 気持ちの揺れるクバは水泳の練習にも身が入らず、遂には大事な選考試合の途中で棄権してしまう。一方でシルウィアは、クバとミハウ双方の抱いている感情に気付き、何かと当てつけめいた態度をとるようになるのだが……といった内容。

 この映画で描かれる、自分がノンケだと思っていた男が、何かのきっかけにゲイであることに気付き、それまでの諸々のしがらみやセクシュアリティの揺らぎ、周囲から強要されて自分も飲み込まれてしまう社会的な抑圧の中で悩む……といったテーマは、昔から繰り返し語られてきた内容。
 表現は淡々としてリアリズム重視。エピソードがドラマチックにうねりを見せるわけではなく、1つ1つの、それ自体はほんの些細なエピソードを丁寧に描き、その積み重ねで様々な事象が浮かびあがっていくというタイプで、若干の弛緩はあるものの、なかなか魅力的。
 時に硬質、時に感覚的な映像表現も、ところどころ「おっ」と思わされる美しい映像などもあって、これも魅力的。
 また、クバ役の男優はハンサムで、身体も美麗。直截的なゲイセックス場面はあまりないけれど、センシュアルなヌード場面は多々出てくるのも魅力の一つ。
 ただ、そういったリアリズム表現であるが故に、これはやはりポーランドの社会状況もリアルに反映しているのか、ストーリーの決着はかなりビター。はっきり言って「久々に後味の悪いゲイ映画見ちゃったなぁ……」という感じで、これは好みが分かれそう。

 ちょっと興味深いのは、一昨日感想をアップした“Land of Storms”も、昨日の“Snails in the Rain”も、やはり同様に、なかなか自己受容できないゲイという、インターナライズド・ホモフォビアを扱い、結末もリアル視点で社会状況を反映したビターなものであるにも関わらず、鑑賞後のそれぞれの後味は異なるあたり。
 いずれも自分的にはあまり好きなタイプのエンディングではないのだが、”Land…”は好き嫌いは別として納得はいく、”Snails…”も何かイガイガした感じは残るものの余韻自体は悪くない。しかしこの”Floating…”の後味はハッキリと悪く、余韻というよりも見終わって気分が暗くなる感じ。そういえば若い頃に、ウィリアム・ワイラー監督の『噂の二人』(1936)や、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『自由の代償』(1975)を見終わったときも、こういう嫌〜なというか暗〜い気持ちになったっけ……などと、ふと思い出したり。
 何というか、こういったゲイにとっては厳しい社会状況を描く際に、作品としてそれに抗議している意志が見えるか見えないかで、私の印象は大きく左右されるのかも知れない。逆に言うと、そういった「嫌さ」を引き起こす”Floating…”の視線のフラットさは、ひょっとしたらスゴいのかも知れないけれど、やはり個人的には、ゲイテーマの扱い方が昔風のそれから脱していないように思えてしまう。

 とはいえ、前述したように見所はあちこちありますし、映画的なクオリティも高い一本。主演男優も魅力的だし、とにかく後味の悪さを覚悟して見れば、見応えはある一本です。

“Snails in the Rain (שבלולים בגשם Shablulim BaGeshem)” (2013) Yariv Mozer

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“Snails in the Rain (שבלולים בגשם Shablulim BaGeshem)” (2013) Yariv Mozer
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、米盤DVDが日本のアマゾンでも購入可能)

 2013年のイスラエル製ゲイ映画。原題”שבלולים בגשם (Shablulim BaGeshem)”。
 80年代末、まだ社会的に同性愛がタブーだった時代を背景に、セクシュアリティの揺らぎや自己受容の難しさを描いた作品。

 1989年のテルアビブ。大学生のボアズはガールフレンドと同棲しながら、奨学金の審査が通るのを待っている。そこに彼の私書箱宛てに差出人不明の手紙が届く。
 手紙には差出人(男性)の孤独と、ボアズに対する恋情が切々と綴られており、ボアズはそのことをガールフレンドから隠す。
 ボアズは折に触れ、男だけだった兵役時代のことを思い出し、また大学でも街でも自分の目が男を追いかけていることに気付き、それらしき人々とのアイコンタクトを経験したりするが、自分では許容できない。
 果たして手紙の差し出し主は誰なのか? そしてボアズの選択は? ……といった内容。

 派手にドラマを作るのではなく、平凡な日常描写を丁寧に積み重ねることで、キャラクターや物事のあらましが徐々に浮かびあがっていくという構成で、その表現力はなかなかのもの。モチーフ的にはさほど目新しさはないものの、映画としての魅力や完成度でしっかり見せてくれます。
 セクシュアリティの揺らぎというモチーフなので、いわゆるラブストーリーではないし、男同士のラブシーンやセックスシーンも些少ですが、にも関わらず、主人公のルックスや肉体の魅力や、ガールフレンドとの濡れ場、日常描写などで、全体的にきちんとセンシュアルでセクシーにしているのも見事。
 ただ、テーマ的にインターナライズド・ホモフォビア(同性愛者自身の同性愛嫌い)があるんですが、物語の時代設定が25年前ということもあって、そういった事象がそのまま提示されるだけで、そんな時代的な限界を越える何か、つまり解決策や何かの決着があるわけではないので、そこが個人的にちょっと物足りない感じ。
 まぁ、下手に理想的な展開にしてしまうと嘘っぽくなりそうだし、映画全体のタッチから考えても、この展開やビターな結末は相応だとは思うんですが、ちょっとなんかイガイガしたものが、見終わった後で残る感じ。
 反面、そこが一つの魅力でもあって、一緒に見ていた相棒なんかは、かなり気に入った様子。じっさいインターナライズド・ホモフォビアというのは、現代においても未だ大きな問題として残ってはいるわけで、そういう意味でもイシューとして無意味なわけではないし。

 一つ面白いのは、この映画は、社会的な不寛容をそのまま自分でも抱え込まざるを得なかった、そんな時代のゲイの自己受容の難しさや、抑圧された同性愛者の姿を描くという、テーマとしては昔から良くあるタイプの作品であるにも関わらず、そんな昔ながらのテーマを、アンドリュー・ヘイ監督の”Weekend”(2011)以降に良く見られるようになった、ドラマを過剰に紡ぐのではなく、ごく日常的で些細な風景を積み重ねることで描くという、最近のゲイ映画のスタイルで改めて描いた作品とも受け止められるあたり。
 そういった意味では、テーマへの共感を表現手法が更に後押しするという、プラスの効果は大きく、そしてそのテーマが、映画に描かれている社会的な状況が、現在の日本のそれに通じる部分も多々あるので、いろいろと考えさせられるし、見応えもあり。

 扱っているテーマとビターな結末が、見る人によって好みは分かれるとは思いますが、それでも見応えはありますし映画的な完成度も高く、加えて、主人公がかなりセクシー君で、ちょっとドキドキするような表現も多々あるので、興味がある人なら見て損はない一本かと。

“Land of Storms (Viharsarok)” (2014) Ádám Császi

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“Land of Storms (Viharsarok)” (2014) Ádám Császi
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、米国盤DVDが日本のアマゾンでも購入可能)

 2014年のハンガリー/ドイツ製ゲイ映画。原題”Viharsarok”。
 ドイツでサッカー選手をしていたハンガリー人青年が、サッカーをやめ故郷の田舎に帰るのだが……という話を、様々なイシューを織り交ぜながら静かに描いた作品。

 ハンガリー出身のサッカー選手シネーシュは、ドイツのチームでプレイをしていたが、試合でのレッドカードや、その後のシャワー室での同僚ベルナルドとの喧嘩などで、サッカーをやめてハンガリーに帰ることにする。
 故国に戻ったシネーシュは、一人で祖父が残した田舎の農家に住むが、ある晩バイク泥棒が入る。シネーシュは泥棒の一人アーロンを取り押さえるが、警察に突き出すことはしない。そんなシネーシュにアーロンは、農家が荒れ果てていので住むなら修理が必要だと指摘し、そのままシネーシュに雇われる形で一緒に瓦葺きなどをするようになる。
 二人の関係は次第に親密度を増し、やがては親しい友人同士のようになるが、ある晩シネーシュは酔ったアーロンの身体を愛撫し、アーロンもまたその行為を受け入れる。しかし二人の間に起こった出来事は、アーロンが母親にそれを告白したことを切っ掛けに、他の村人の耳にも入り、やがてはドイツからベルナルドもシネーシュを訪ねてやってきて……といった内容。

 なかなか見応えのある一本。
 多くを語らず説明要素も廃しつつ、しかし経緯は推測で判るようになっている、抑制の効いた話法が見事。映像的にも、シンメトリーで構成したり大胆な余白を用いたりといった、構図の美しさや緊張感に感心させられます。
 エロティックな要素も見応えあり。
 中でも特筆したいのは、サッカーチーム内や村の若者同士の他愛ない戯れといった、ホモソーシャル的な情景の描き方。ドラマの登場人物たちの思惑や、実際に描かれている行為の内容とは別に、監督(そして観客)という第三者の目を通して見ることで、そういったそういったホモソーシャル的な光景に潜むホモエロティシズムをあぶり出し、それど同時に、その中にホモセクシャルが混じっていることから生まれる緊張感も描出して見せる、その巧みさ。
 また、実際にホモエロティックな行為の描写も、行為の内容や表現自体は控えめながら、巧みな見せ方で見事にセンシュアル。さほどタイプでもないキャラ同士(魅力的ではありますが)の、バニラなことこの上ないゲイセックス描写という、私的にはさほどツボは押されない内容であるにも関わらず、その表現の巧みさ故に、見ていて思わず甘勃ちしてしまったほど。
 ドラマを通じて盛り込まれる様々なイシューも、面白く興味深い要素。
 相手を欲しているのは欲望なのか愛情なのか、人生にあたって何を選びどう決断するのか、宗教や社会が押しつけてくるホモフォビアと、それに悩みながらも自ら従ってしまう当事者という問題、そんな社会状況かで、同性間リレーションシップが表に出た結果と、それに対する態度……などなど、日本のゲイが置かれている状況にも通じる要素が色々。

 ストーリー的には、後半でドイツからベルナルドが尋ねてきて、三角関係っぽい様相を呈するあたりから、正直ちょっと「……ん?」と思ってしまったんですが、全編を見終わると、なるほどこれは余計な要素ではなく、必要なエピソードだったんだな……と納得できました。
 物語の結末も、おそらく好き嫌いが分かれるでしょう。実のところ私も、物語的にはこういった展開は好きではない。しかし、そこからもたらされた状況や思いを、映像だけでしっかり見せてくれるので、そこは素直に感心させられたし、社会状況を考え合わせると、好き嫌いは別として納得はできます。

 そんな感じで、ストーリー自体というよりも、それを通じて様々なイシューが描き出されるという点で、大いに見応えあり。映画としてのクオリティも高く、見て損はない一本。
 ハンガリーのゲイ映画ということだけでも稀少ですし、処女長編でこれは大したもの。