ゲイ・カルチャー」カテゴリーアーカイブ

aktaさんのコンドーム・パッケージ画を描きました

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 HIV予防啓発&陽性者支援のNPO法人aktaさんの、無料配布コンドームのパッケージ画を描かせていただきました。
 新宿二丁目のコミュニティセンターakta、及びゲイバーなどで無料配布されるはずなので、お見かけの歳は是非お持ち帰りになり、ホットなセーファーセックスを楽しんでください!

“Poltergay” (2006) Eric Lavaine

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“Poltergay” (2006) Eric Lavaine
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2006年のフランス製ゲイ映画。
『ポルターゲイ』というタイトルから想像がつく通り、新婚夫婦が古屋敷に引っ越してくると、そこには5人のゲイの幽霊が棲んでいて……という《ポルターガイスト+ゲイ》のコメディ映画。

 マルクとエンマの新婚夫婦は、パリ郊外にある古い屋敷に引っ越してきた。
 しかし飼い猫は何かに怯え、マルクがシャワーを浴びると自動的にポラロイドカメラのシャッターが切られて、全裸写真が撮影されてしまい、しかもその写真が行方不明になってしまう。
 更にクローゼットはいつの間にか整頓され、気付かぬ間に壁やビリヤード台に翼の生えたペニスの絵が描かれ、夜になるとどこからともなく怪しい音楽……ってもボニーMとかなんですが(笑)……が流れる等の怪現象が続発。
 やがてマルクは、壁を通り抜ける人影を目撃。そしてそれを追った結果、地下室でクラシック・ディスコ・ミュージックにのって踊っている、5人のゲイゲイしい男たちを見つける。
 しかしそれらを見聞きできるのはマルクだけで、エンマは夫の頭が変になったのではと心配する。また、謎の男たちを追い払おうとしたマルクは、屋敷を訪ねたエンマの父親(でありマルクの雇い主でもある)を、誤ってスコップで殴ってしまう。
 これが決定打となってエンマは家を出て、同時にマルクは職を失ってしまう。
 自分だけが見えるゲイたちの姿にノイローゼになったマルクは、友人に相談したり精神分析医にかかったりするが、返事は「君はゲイだ」とか「潜在的な同性愛傾向がある」ばかり。やがてマルク自身、ひょっとして自分はゲイなんじゃないかと疑い始め、ゲイクラブに行ってみたりする始末。
 しかしやがて、マルクは庭で古ぼけた看板を発見。ネット検索した結果、この屋敷の地下はかつてゲイディスコで、それが70年代末に火災事故が起き、何人か死者も出てたことを突き止める。それによって地下室の5人組も、ようやく自分たちが既に幽霊になっていることを悟る。
 ゲイの幽霊たちはマルクに、自分たちをここから解放してくれと頼み、同時にマルクがエンマの愛を取り戻す手助けをすることにする。
 果たしてゲイの幽霊たちは屋敷から解放されるのか? そしてマルクとエンマの仲は? ……といった内容。

 あちこち小ネタでクスクス笑わせながら、同時にストーリー的にもアイデア豊富でエピソードも盛り沢山、軽いノリとテンポの良さ、それと結末への興味でトントン乗せて見せてくれる、なかなか楽しい一本。
 ちょっとした泣き要素や、ラストの「ええええ、こーゆーオチ???(笑)」なんかも良く、後味は上々。
 ただ、内容が盛り沢山&話の展開が早い反面、ちと盛り込み過ぎなところもあり。特に後半、焦点が幽霊たちの成仏の話に移り、テンプル騎士団だの封印の石だのが絡んでくるあたりは、いかにも安易でイマイチ。ゲイの幽霊5人組の中で、しっかりキャラが立っているのは二人だけというあたりも、ちょい惜しい。
 でもまぁ、ゲイネタ込みの軽いコメディ作品としては、十分楽しめる出来かと。
 ゲイネタの笑いでは、自分もゲイかもと思ったマルクが、ゲイクラブで知り合った男に、自分が建築現場で働いていると言うと、相手が急に「作業服あるか?着てくれ!トルコ語しゃべってくれ!」とエキサイトしだすあたりが、個人的にヒット(笑)。
 あとは、自分が死んでからもう30年も経っていると知って、ゲイ幽霊の一人がしみじみと雑誌を見ていると、パリ市長ドラノエ氏の写真を見て「元彼が市長になってる!」と驚いたり、まぁそういうノリです(笑)。
 また、30年ぶりにパリに出たゲイ幽霊たちが、軒並ぶゲイ・クラブやゲイ・ブックストアなんかを見て「約束の地だわ!」(聖書のアレね)と興奮するあたりは、笑いのシーンではありつつ、地味に良い場面だと思う。
 泣かせ要素も、サラッとしたもんなんだけど、でもいい感じだし。

 というわけで、なかなかウェルメイドなコメディなので、題材に興味のある方ならクスクス笑いながら楽しめるかと。個人的にはオチ(笑)と後味が大好き。
 どんなオチかは、末尾に白文字で書いときますんで、ネタバレOKの方はどうぞ。

 ラスト部分の解説、以下白文字。
 結局ゲイ幽霊たちは、マルクの奮闘も空しく、何百年かに一度だった成仏の機会を逃して、失敗してしまう。
 しかしここで、エンマの仕事が考古学者で遺跡の発掘に従事しているという伏線が効いて、彼女がポンペイだかどこだったか、とにかく古代ギリシャかローマの遺跡から、大量の幽霊たちを屋敷に連れてくる。
 爆発事故で廃墟になっていたゲイクラブも、きれいにリフォームされ、そこで生者も死者も入り交じって(その中には、30年前に死に別れた、ゲイ幽霊とその恋人というカップルなどもあり)、皆で楽しく踊り明かす
というオチ。
 好きだわ〜、これ(笑)。

“Solo” (2013) Marcelo Briem Stamm

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“Solo” (2013) Marcelo Briem Stamm
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2013年のアルゼンチン製ゲイ映画。監督はMarcelo Briem Stammという人で、これがデビュー作。タイトルの意味は《孤独》。

 失恋の痛手を引きずっている青年が、出会い系のチャットで知り合った見知らぬ青年を家に連れ込むが……というスリラーもの。
 出会い系チャットをしていた青年マヌエルは、そこで出会った青年フリオと外で待ち合わせして、互いに気に入ったので家にお持ち帰りする。
 フリオにシングルかと聞かれたマヌエルは、二年間付き合った前の彼氏に酷く裏切られて分かれたばかりだと言う。一方のフリオも今は付き合っている相手はおらず、しかも失業中で今借りている部屋も契約更新が迫っている等の悩みがあることを打ち明ける。
 やがて二人は肉体関係を結び、互いにフィーリングも合う感じなので、恋人として付き合おうかという雰囲気になる。
 しかしセックスが終わった後、明日は朝早くに女友達が家に来るから今夜は泊められないというマヌエルに、フリオは「セックスが終わって気分が醒めたゲイは、よくそういう嘘をついて相手を帰そうとする」と言う。マヌエルは、女友達が来るというのは本当で、自分たちが今後どう付き合っていくかは、また日を改めて話そうと説明するが、フリオは再び「また今度と約束して、そのまま二度と連絡しないのも、ゲイがよくつく嘘だ」などと言う。
 そんなフリオの様子に、ちょっと異様な感じを受けたマヌエルは、本気でもう帰ってくれと言う。
 フリオは「自分は頭に血がのぼりやすいんだ」とマヌエルに謝り、自分が今いかに孤独か、そんな自分にとって、フィーリングが合ったマヌエルと、一晩一緒に過ごせるということが、どれだけ大きな期待であったかを説明する。
 それを聞いたマヌエルは、帰ろうとするフリオを「女友達が来るのは朝だから」と引き留める。
 二人は再びセックスをし、あれこれ話もして更に打ち解けるのだが、その間もずっと、もう真夜中も過ぎて明け方だというのに、フリオの携帯が何度も鳴り、しかも彼はそれを無視している。
 一方でマヌエルも、フリオと一緒にいながらも、ときおり分かれた元彼のことが頭をかすめ……といった内容。

 これはなかなかの出来映え。
 ゲイなら誰でも身に覚えがあるような設定を使い、丁寧に描かれたディテールが積み重ねられていき、その合間合間にちょっと不穏な気配も漂い……という構成なので、果たしてこれがスリラー方面に転がっていくのか、それともラブストーリーになるのか、先が全く読めない。
 で、あんまり説明するとネタバレになるんで詳細は避けますが、私はすっかりミスリードに引っかかってしまい、「うわ、一本とられた!」という結果に。
 ストーリーにはツイストが何度も入るし、多少の無理はあるものの、伏線も周到に張り巡らされていて、脚本&作劇のレベルは上々。
 ゲイ映画的な部分のみをピックアップしても、全体のリアルな空気感、交わされる会話の妙味、セックス場面のムードなど、昨今の「身の丈サイズのドラマを、空気感やディテールで丁寧に見せる」系のゲイ映画として、充分以上に佳良。
 おそらく低予算のインディーズ映画だと思うんですが、彩度を抑えた柔らかな色調や、被写界深度を利用したアウトフォーカスなど、撮影のレベルは高く、役者の演技も文句なし。
 ほぼ密室劇、それもたった一晩の出来事を描いているだけなのに、リアルでゆったりとした空気感に、ときおり緊張が走るという構成を上手く用いていて、全く弛緩することはありません。先の読めない展開の面白さに加えて、見応えもしっかり。
 ツイストが入る展開なので、そのあたりで好き嫌いは分かれそうですが、ゲイ映画ならではという醍醐味がありつつ、同時にゲイ映画ではあまり見たことがないタイプの内容でもあり、クオリティも上々。

 リアルなゲイドラマの良さと、スリラー的な面白さが上手く合体した、ちょっと異色の一本で、間違いなく一見の価値はあり。

『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ (Ernest et Célestine)』 (2012) Stéphane Aubier, Vincent Patar, Benjamin Renner

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“Ernest et Célestine” (2012) Stéphane Aubier, Vincent Patar, Benjamin Renner
(英盤DVDで鑑賞→amazon.uk、米盤DVD&Blu-ray、2014年6/10発売→amazon.com

 2012年のフランス/ベルギー製長編アニメーション映画。
 ガブリエル・バンサンの絵本『くまのアーネストおじさん』シリーズのアニメ化……というより、それを元に自由に翻案した感じの作品。
 2012年フランス映画祭、他、『アーネストとセレスティーヌ』の邦題で上映あり。監督・ステファン・オビエ、ヴァンサン・パタール、バンジャマン・レネール。近日では東京アニメアワードフェスティバル2014(3/20〜23)でも上映予定あり。
 残念ながら受賞は逸しましたが、2014年のアカデミー賞長編アニメーション部門にもノミネートされた一本。

 地上ではクマが、地下ではネズミが、それぞれ街を作って人間のように暮らしている世界。
 冬が訪れ、貧乏な大道芸人のクマ、アーネストは腹ぺこ。孤児院育ちのネズミの少女セレスティーヌは、歯医者の元で働いているが、本当は歯医者になんかなりたくなくて絵を描きたい。
 ネズミの世界では、《何でも食べる大きな悪いクマ》というのが、子供を脅す定番となっているのだが、セレスティーヌは、クマとネズミが仲良くしている絵を描いて孤児院の院長に叱られたりして、周囲に馴染むことができない。
 そんなある日、歯医者の仕事で地上に出て、クマの歯を集めていたセレスティーヌは、誤ってゴミ箱の中に閉じ込められてしまう。そんなゴミ箱の蓋を開けたのは、腹ぺこで食べ物を探していたアーネスト。
 セレスティーヌは、アーネストを菓子屋の地下倉庫に忍び込ませてあげ、代わりにアーネストは、セレスティーヌのためにクマの《差し歯屋》のストックを盗んであげるのだが、その結果二人は、クマの世界とネズミの世界の両方から強盗犯として手配されてしまい……といった内容。

 叙情あり、活劇あり、人情あり、笑いありの、本格的な長編娯楽アニメーション。画面は美麗で、テーマも良く、そして面白さもバッチリという、三拍子揃った良作でした。
 ストーリーはかなり自由に翻案されているようで、原作絵本のファンからすると、ひょっとするとどうかという内容なのかも知れないけれど(私も原作は絵を知るのみで、内容は良く知らず)、独立した話としては充分以上に面白く、見所もいっぱい。
 絵は線描+水彩淡彩調で、ガブリエル・バンサンの達者この上ない絵には、残念ながら全く及んではいないものの、しかし軽やかな描線や柔らかな色調は美しく、キャラクター以外にも叙情的な自然描写などには絶大な効果を発揮。
 一方でキャラクターの表情などは、かなりマンガっぽいデフォルメ、それも日本のマンガっぽさを感じさせるタッチで、ちょっとはるき悦巳先生とか村野守美先生とかを連想したり。見ていて何となく、ジブリアニメを連想したりもしたので、ヨーロッパのアニメ慣れしていない一般の日本の観客にも、良い意味で敷居が低いんじゃないかな?
 ストーリー展開に応じて変化していく、ヴィジュアルや動きによる見せ場のあれこれも面白く、例えば地下のネズミの街には、『天空の城ラピュタ』の炭坑町的なファンタジー性を感じたし、地上のクマの街では、カーチェイスといったアクションシーンもあり。
 中間部は、アーネストとセレスティーヌが共に暮らしながら、少しずつ心を通わせていく様子が描かれるんですが、このパートでは叙情的な魅力がたっぷり。更に、アート・アニメーション的なアプローチも上手く盛り込まれていたりして、もう見所いっぱい。
 そしてクライマックスでは、再びドラマチックでスペクタキュラーな展開となり、しかしエンディングはもちろんハートウォーミング。あちこちユーモラスな描写も佳良で、ラストは原作絵本との接続もあり……と、長編アニメーション(1時間20分)を見たという満足感は大。
 クラシカルな要素に、ちょいとアヴァンポップとかキャバレー音楽みたいなテイストも加味した、洒落た室内楽といった感じの音楽も実に良し。
 あと、セレスティーヌはとにかく可愛いし、対するアーネストは、ちょいとアウトロー気味で、がさつなところもあれば優しいところもある、もっさいオッサンという感じで、これまた萌える。
 で、そんなはみだし者二人の間に、世間一般ではあり得ないとされる絆が生まれ……とくれば、これはもう私としてはツボ押されまくり。世間で《普通じゃない》とされている関係を、それでも自分たちは毅然として貫く姿勢というのには、やはりグッときちゃいます。

 この部分を、ゲイ目線でもうちょっと突っ込んで語ると(ちょいネタバレ気味かも知れないので白文字で)、最初はこの二人は、アクシデント的に一緒に暮らし始め、そして互いのことを知っていくうちに、やがて深い絆で結ばれるわけですが、まだその時点では、人里離れたアーネストの家に一緒に隠れ住む、つまり世間とは隔絶された《二人だけの世界》でしかない。しかしクライマックス、二人の逮捕・裁判という展開において、二人はそれぞれに堂々と、自分たちが互いに互いを必要としあっているということを、きちんと《世間》に向けてアピールし、そしてそれを勝ち取る。
 こういった、二人だけの世界で隠花植物的な幸せを営むので終わらせずに、そういう関係をアウトして(隠さないでオープンにして)世間に受け入れさせるところまでを描くというのは、2014年に生きる一人のゲイとして、「よくやってくれました!」と喝采したい気分になります。でもって、そのアウトの部分がエモーショナルなクライマックスになるわけですから、これはもうたまらない。

 というわけで、まず何より面白い。そして綺麗で可愛くて有意義。
 しかも海外アニメ好きのみならず、普通にジブリアニメとかが好きなファミリー層にも受けそうな、間口の広さが感じられる作品なので、これが日本では映画祭等の上映だけなのは、何とももったいない。
 何とか一般公開か、それが無理ならDVDスルーででも、日本語字幕や吹き替え付きで、広く見られるようになることを切望します(一応ギャガが買い付けはしているらしいんですが……)。

【追記】『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』の邦題で、2015年8月22日〜めでたく日本公開!(公式サイト

【追記】日本盤DVDも無事発売。
[amazonjs asin=”B014QI4Z0M” locale=”JP” title=”くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ DVD”]

廉価盤DVDで見た往年の日本の国策映画6本

野戦軍楽隊 SYK-166 [DVD] 野戦軍楽隊 SYK-166 [DVD]
価格:¥ 1,764(税込)
発売日:2013-07-02

『野戦軍楽隊』(1944)マキノ正博
 中国で兵士慰問と民衆の心を捕らえるために、玄人素人入り交じった軍楽隊が作られていく様子を、音楽とユーモアを交えて描いた内容。上原謙、佐野周二、佐分利信、ゲスト出演的に李香蘭。
 軍楽隊のために兵士が集められるが、その半数が素人、それを残る半数の音楽経験者が、マンツーマンでコンビを組み指導していく……というのが主な粗筋。メインは音大出の上原と、それに反発する佐野の確執。そこに杉狂児などのコミックリリーフも交えて、全体的にはわりと長閑な音楽映画という趣。
 個人的に興味深かったのは、もともとドラマの舞台が軍隊というホモソーシャルな世界な上に、前述した音楽の玄人と素人で組ませたコンビに向かって、上官の佐分利が「お前らはこれから夫婦だ」などとのたまい、兵たちもそれに乗って、それぞれのパートナーを夫と妻に見立てたユーモラスな会話が交わされたりするもんだから、何とゆーか、仄かな男色アロマが漂っているあたり。
 そんな中、インテリ系の上原とヤンチャ坊主みたいな佐野の《夫婦》が、どうも上手くいかないという確執があるんですが、それが遂に和解するシーンなんて、これはホモセクシュアルではなくホモソーシャルだというのは判っていつつも、絵面も含めて、つい「……ゲイ映画?」なんて思っちゃったり(笑)。
 音楽映画的な工夫も随所に見られ、そういった部分も楽しめるんですが、終盤、農村で日本の音楽を披露した次に、「今度は中国の音楽を」と歌の上手い村娘(李香蘭)が呼ばれ、軍楽隊の伴奏で周璇の『天涯歌女』を披露するあたりから、ちょっとプロパガンダ臭が濃厚になっていきます。
 更にクライマックスでは、中国語のナレーション付きで大東亜共栄圏の正当性を訴えつつ、それでもやはり音楽や画面自体は魅力的だったりするので、正直やはり見ていてちょっと複雑な気持ちになる。音楽映画的にも国策映画的にも、綺麗にまとめた感のあるエンディングも同様。
 まぁストーリー的には、軍楽隊が一人前になるところが実質的なクライマックスであり、前述した終盤以降の要素は、いかにも国策映画的な付け足しという感じもします。これは当時の日本映画に限らず、オスカー獲って今でも名作扱いされている、ウィリアム・ワイラーの『ミニヴァー夫人』なんかでも同様。
 というわけで、ヤヤコシイことは「そういう時代だったんだな」ということで横に置いておいて、軍楽隊をモチーフにした音楽映画や、変わり種の軍人ものという視点で見れば、丁寧に作られていてしっかり楽しめる一本かと。

サヨンの鐘 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD] サヨンの鐘 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD]
価格:¥ 1,764(税込)
発売日:2013-05-10

『サヨンの鐘』(1943)清水宏
 皇民化政策下の台湾、日本人恩師の出征を見送るために溺死した、高砂族の少女サヨン(李香蘭)を描いた愛国美談国策映画……のはずなんですが……。
 清水監督は子供の扱いと、自然のロケ描写に長けているんだそうですが(相棒解説。浅学ながら私は『小原庄助さん』一本しか見たことがありません)、なるほど蕃社の村の描写や、李香蘭によって取り纏められている村の子供たちの描写が、実に活き活きとして楽しい。
 国策映画的には、冒頭からして蕃社における日本人警官の意義と立派な仕事ぶりを得々と語り、村に掲揚される日の丸に敬礼をする高砂族、現地語を使う村の子供たちに、日本語を使うようたしなめるサヨン……と、いかにもの塩梅。
 その後も、招集されて出征する高砂族兵士に、その親族が滅私奉公を説いたり、学校で和服の女教師の弾くオルガンに合わせて、子供たちが『海ゆかば』を合唱したり……といった描写があちこちに。
 しかし奇妙なことに、愛国美談的には最も重要なはずの、日本人警察官とサヨンの交流は、劇中では殆ど描かれない。それどころか作劇的には、村の穏やかな日常が兵隊の召集によって中断され、それまでの話が有耶無耶になるというパターンが二度繰り返される。
 まず、恋人三郎(日本人名前の高砂族)の帰還を喜ぶサヨンが、連れだって山頂の湖に行ったことが女人禁制のタブーに触れてしまうというエピソード。そこから話は、サヨンを生け贄にすることを避けるために、三郎は村人と一緒に狩りに行くのだが、足を負傷して獲物をとることができなくなり、更にサヨンを巡る三角関係の予感が……といった展開になるのだが、それらは、召集礼状が届くというエピソードで、スパッと中断してしまう。後に登場人物自ら、有耶無耶になってしまったねと笑い合うくらいに。
 クライマックスへ至る前段も同様で、サヨンは前々から、村の豚が子供を産んだら、それを売ってアヒルを買い、件の湖に放すんだと語っているのだが、ようやくそのアヒルを手に入れ、皆で湖に連れて行くというエピソードが、再び召集によってスパッと中断。
 ここいらへんを含め、どうも見ていて私には、国策映画という枠を守りつつも、その中でささやかにそういった意志に反抗しようとしているような、そんな風に感じられる部分があちこちにあり。まるで、愛国美談という殻を借りて、実はシステムによって破壊されていく純朴な生活を描いたドラマのように見える。
 それが映画という枠内で意図されたことなのか、それとも後世になって外側から見るとそう見えるだけなのか、その正否は置いておいて、そこが個人的には最も興味深かったポイント。
 というわけで、そんな複雑な諸相を感じつつも、サヨンと子供たちの生活描写は実に活き活きと、かつ繊細で楽しく、李香蘭の美声もたっぷり堪能でき、興味がある方なら一見の価値はあり。今なら『セデック・バレ』と併せて見たい一本。

蘇州の夜 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD] 蘇州の夜 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD]
価格:¥ 1,764(税込)
発売日:2013-05-10

『蘇州の夜』(1941)野村浩将
 上海に赴任にした日本人医師が、日本人嫌いの美しい中国娘と出会うが、彼女はやがて医師に惹かれていき…という国策メロドラマ。原作・川口松太郎、主演・佐野周二、李香蘭。
 ここのところ3本続けて李香蘭出演の松竹系国策映画を見たけれど、通した印象として、何だかまるで、かつてポルノ映画が「濡れ場さえ抑えておけば後は内容は自由」だったように、これらも必要なプロパガンダ要素だけどこかに明確に抑えておけば、後は比較的、監督が撮りたいように撮られているという印象。
 この『蘇州の夜』も、台詞で明確にそういう要素を打ち出す場面が数カ所あるものの、基本的には男女の恋愛映画。ストーリー自体はさして面白みのあるものではないけれど、セリフではなく所作や行動で細やかな心情を表出しようとする表現が、メロドラマというモチーフに合っていて効果的。
 当時の上海の光景がふんだんに見られるのは良く、観光映画的な魅力もあり(ただし蘇州はそれほどでもなし)、また李香蘭の歌唱シーンをフィーチャーした歌謡曲映画的な見所も多々。歌曲は『蘇州の夜』と『乙女の祈り』の2つですが、タイトルに反して、内容的には後者の方が比重が高い。
 興味深いのは、プロパガンダ要素が加わることによって、観客は必然的に佐野を日本、李香蘭を中国という、国家そのものに重ねて見てしまうのだが、その話がロマコメではなくメロドラマとして展開するので、国策的には融合(同化)を謳っているのにも関わらず、映画のラストはそれと相反するオチ(つまり一緒になれずに別離する)になっているあたり。
 加えてそこに、男性優位的な男女関係も絡んでくるのが、尚更興味深い。
 つまり、征服者としての男と、最初は抵抗しながらもやがて従順になる被征服者としての女という図式が、そのまま国家間の関係性に重なって見えるのだが、では、そんなヒロインが最後には、ヒーローからの手紙を破り捨てるとは、いったい……といった深読みをしたくなる程。
 それ以外にも、戦争によって直接被害を受けた故に日本人を毛嫌いするようになった中国娘が、国策の代弁者としての男子に《日本の真意》を説かれ、それで理解して従うようになるなんていうエピソードがあるおかげで、逆に《国策に対するエクスキューズの必要性》が強調されてしまったり。
 そんな感じで、個人的な趣味としては、前に見た『野戦軍楽隊』『サヨンの鐘』の方が好みだし、質的には『サヨン…』が頭1つ飛び抜けている感はあるものの、これはこれでなかなか面白かったし、興味深い要素も多々あり……という感じ。

間諜未だ死せず SYK-158 [DVD] 間諜未だ死せず SYK-158 [DVD]
価格:¥ 1,764(税込)
発売日:2013-07-02

『間諜未だ死せず』(1942)吉村公三郎
 日米開戦前夜、中国人青年スパイとフィリピン人スパイ、その黒幕であるアメリカのスパイの姿と、スパイたちと女性の悲恋描いた、防諜の重要性を訴える国策映画。脚本と助監には木下恵介の名も。
 吉村公三郎の演出が冴え、なかなかの見応え。冒頭の大陸爆撃シーン(重慶?)からして、かなりの迫力&スケール感。小道具を上手く用いた緊張感の演出、場面転換の凝った見せ方、メロドラマ部分のムード演出、カット割りや照明や陰影で見せるスリルなど、技巧的なお楽しみどころが盛り沢山。
 ただし、スパイ映画っぽい敵と味方の丁々発止的な要素は余り見られず、ドラマとしてのフォーカスは明らかに、アメリカに操られる中比二人のスパイの内面と、それぞれの相手である二人の女性とのエピソードに置かれているあたりが、いかにもこの監督らしい感じ。
 この二組の対比、つまり、愛国青年である中国人(原保美)と、彼が思いを寄せる幼なじみの良家の娘(水戸光子)という組み合わせと、スパイ生活に倦んでいるフィリピン人実業家(日守新一)と、彼の妻(情婦?)であるバーのマダム(木暮実千代)という組み合わせの対比が、実に効果的にメロドラマ部分を盛り上げてくれます。
 また、それらのメロドラマ・パートと、完璧なヒーローとして描かれる、防諜側のリーダー憲兵隊長(佐分利信)と、憎々しいが頭脳派の悪役として描かれる、英字雑誌オーナーのアメリカ人スパイ(斎藤達雄)という、防諜ドラマ部分とのコントラストも効果的。
 国策映画的には、国民への防諜の重要性の啓蒙、米英の謀略によって仲違いさせられている東アジア、日米開戦による戦意昂揚などの要素が含まれ、それらを娯楽ドラマに組み込む手腕は達者なもの。ちょっとハリウッド映画的な感じがしました。
 スパイ映画的な面白みを期待してしまうと、そこいらへんはちょっと物足りなく、日本人が付け鼻やカツラでアメリカ人を演じているのも、今見ると珍妙な気はしてしまいますが、それでもとにかく技巧的な魅力がいっぱいの一本。

開戦の前夜 SYK-159 [DVD] 開戦の前夜 SYK-159 [DVD]
価格:¥ 1,764(税込)
発売日:2013-07-02

『開戦の前夜』(1943)吉村公三郎
 日米開戦前夜、真珠湾攻撃の準備という軍事機密を、スパイである米武官に悟られぬよう、憲兵隊と民間人が協力して守るという、防諜国策映画。出演は上原謙、田中絹代、原保美、木暮実千代。
 スパイの動きを阻止しようとする頭脳派の憲兵少佐(上原)を軸に、出征していく友人(笠智衆)や弟(原)とのエモーショナルなエピソードや、妻(木暮)との私生活を丁寧に描きつつ、やがて、公的には止められなくなった米間諜の動きを、馴染みの芸者(田中)に托して阻止するというサスペンスへ展開していく、娯楽映画的に良くできたドラマ。
 また、こういった諸要素の見せ方がいちいち上手く、上原と笠の別れのシーンや、部下を思い遣る上原とそれを噛みしめる部下など、どちらも名場面(それもホモソーシャル的な)と言って良いと思われる出来映え。はたまた、作中で効果的な小道具として使われているコンパクトで、木暮が田中に化粧を施すといったシーンも忘れがたい。
 技巧的な演出という点では、先日の『間諜未だ死せず』ほど見所が多いわけではないけれど、それでも連絡待ちの上原の焦燥を示す一連のシーンとか、車の走行と田中の表情の変化で見事な緊迫感を出すクライマックスなど、これまたバッチリ楽しめる出来映え。
 国策的な面では、セリフ等でそれらを声高に主張するのではないが、ドラマの根底そのものが、当時の国策に支配されている感が濃厚。しかもそれを情緒面に上手く絡めて作劇してくる、つまりプロパガンダ映画として出来が良いので、そこいらへんは個人的に見ていてちょっと不快感あり。
 つまり『間諜…』の場合は、国策映画でありながらも主眼はスパイの悲哀やメロドラマにあった(その部分にはさほど思想的なものは反映されていない)が、この『開戦…』は、主なキャラクターの行動原理そのものに国策が反映されている(軍人家族とその周囲という設定なので必然とも言える)という違いがあるので、その結果《情緒を用いて思想を動かそうとする》という点で、よりプロパガンダ的に感じられてしまった次第。
 しかしそういうヤヤコシイことは脇に置いて、軍人家族とその周辺を描いた人間ドラマとして見ると、やはりとても面白くて魅力的。また軍人を描いた映画としても、ダンディな上原といい豪放な笠といい、どちらも実に格好良くて見ていて惚れ惚れ。

海軍 SYK-162 [DVD] 海軍 SYK-162 [DVD]
価格:¥ 1,764(税込)
発売日:2013-07-02

『海軍』(1943)田坂具隆
 鹿児島の青年が熱心な友人に触発され共に海軍入りを目指すが、当の友人は身体的原因でそれが叶わず、主人公のみ入隊、やがて真珠湾攻撃の軍神に…という国策映画。ただしクライマックスがGHQにより削除され現存せず。出演、山内明、志村久。
 一種の青春映画として見ることもできる内容で、特に前半部、主人公が海軍兵学校入りするまでは、丁寧な演出による家族や友人とのプライベートなドラマ、桜島の勇姿が印象的な映像の魅力なども手伝って、実に面白く見られます。
 ただし中盤以降は、海軍省のPR映画的な側面や、真珠湾攻撃に至る経緯の解説と、その正当性のアピール、或いは戦争美談的な比重が増していき、残念ながら映画的な魅力が後退。それでも、部分部分に挿入される人間ドラマ部は、やはり魅力的なだけに、仕方のないこととは言え残念な気持ちに。
 またその人間ドラマも、魅力的ではあるものの、それでもやはり「かくあれかし」というラインは逸脱しないので、これまた仕方ないこととは言え、ある程度以上の膨らみは見せず、物足りない感じがつきまとうのも正直なところ。
 主演の山内明は、このときまだ新人とのことだが、真っ直ぐな薩摩隼人を演じて実に見事。凛々しい風貌も魅力的。母親役の滝花久子、担任教師役の東野英治郎も印象的。そして軍事教練(?)の指導役の笠智衆が、またまたステキだった。

“Brides of Sodom” (2013) Creep Creepersin

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“Brides of Sodom” (2013) Creep Creepersin
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2013年のアメリカ製ヴァンパイアものゲイ映画。
 予測通りというか期待通りというか、かなりの中二病&変なモノ系映画で、終末世界を舞台にヴァンパイアと人間の痴話喧嘩が、デカダンムードと血糊で描かれるとゆー内容。ジャンル的には以前紹介した、やはり中二病系ゲイ・ヴァンパイア映画“Vampires: Brighter in Darkness”の仲間という感じ。

 終末的な未来世界。世界はヴァンパイアに支配されており、人間は廃墟となった街で細々と生き延びている。
 ある日、捕虜となった人間たちがヴァンパイア城に連れてこられ、一人一人血祭りに上げられるが、刺青マッチョのヴァンパイア、エロスは、団子っ鼻のブス男人間、サミュエルに目をつける。サミュエルに恋をしたエロスは、ケロイド顔のヴァンパイアの王、ディオニソスに、サミュエルの助命を頼む。ディオニソスはそれを聞き入れ、サミュエルは牢屋に鎖で繋がれる。
 エロスは、妹で恋人でもある入れ乳の女ヴァンパイア、ペルセフォネとセックスをするが、サミュエルのことが忘れられない。結果エロスは、地下牢のサミュエルに夜這いをかけるが、それを無口なスーツ男、ドミニクが目撃し、ペルセフォネに告げ口する。嫉妬に燃えるペルセフォネは、人間の女を呼んでレズり始めるが、それもそこそこ、その女の胸を切り裂いて血飛沫を浴びて恍惚とする。
 一方でディオニソスも、エロスとサミュエルの仲に嫉妬して、サミュエルを呼びつけて強姦する。サミュエルが「王様に強姦されちゃった」とエロスに泣きつくと、エロスはサミュエルを連れて城の外に駆け落ちすることに決め、ペルセフォネの制止を振り切って出て行く。
 逃げた二人に、ディオニソスは追っ手として、全頭布マスクに革のGストリングのマッチョという姿のアンデッド軍団を差し向け……といった内容。

 ある意味で期待通りという感じの、中二病全開の内容(笑)。
 この後も更に(以下ネタバレ部分は白文字で)大した葛藤もなくサミュエルはエロスに噛まれてヴァンパイアになり、人間だった頃の恋人(女性)をブチ殺したかと思うと、「これでもう二人ともヴァンパイアだから」と、城に戻って二人でラブラブアナルセックスに耽るわ、それに嫉妬したサミュエルに横恋慕するディオニソスは、やはり二人の仲を嫉妬するペルセフォネを騙して、魔女にエロスを呪殺させようとするわ、更に、世界の秘密を記した魔導書だの、謎の寡黙男ドミニクの真の目的だの、魔女の女王の復活と世界の危機だのといった、中二病アイテム&中二病展開を盛り込みつつ、最後はかなり ( д) ゚ ゚ポカ~ン ってなエンディングに(笑)。
 興味あり&ネタバレOKの方、文末に白文字で結末までのストーリー書いておきますね(笑)。

 まぁ全体的には低予算なのが丸わかりで、舞台はほぼ城の中の数室と、外の世界である工事現場みたいなとこだけで話が進むんですが、ヴァンパイア城の外観CGとか全体のムードとかは、この規模の映画にしてはそこそこ頑張っている感じ。
 ジャンル映画的にも、特殊メイク系はあまりないけれど、血飛沫はけっこう派手。
 エロティック要素も比較的強めで、マッチョだけではなく安いセクシー女性ヌードも多く、セックス・シーンも割と長め。ただし、「ヴァンパイアがフェラしたりアナルしたりするの?」ってなツッコミは入れたくなりますが(笑)。
 所々に出てくるフェティッシュ系衣装も、まぁ陳腐ではありますけれど、こーゆー映画の場合はそれもまた楽し。

 演出や役者陣は決して上手いとは言えませんけど、マッチョがいっぱい出てくるのと、見ていて「はあぁぁ???」ってなるストーリーのおかげで、個人的には退屈せずに見られました。
 しかし、キワモノ趣味がない相棒は、横で完全に退屈して船漕いでましたけど(笑)。
 エロス役の男優は、何でもポルノスターなんだそうですが、見事な筋肉&美麗な刺青、顔もそこそこ、演技も大大根という程でもなく、けっこういい感じ。
 ただサミュエル役が、どーしてこんなブス男を……と思っていたら、エンドクレジットでエグゼクティブ・プロデューサーとクレジットされていたので、何となく納得(笑)。ドミチアーノ・アーカンジェリという人で、B級映画には色々出まくっているようで(IMDb掲載の出演作は173本)、その出演作は日本でも六作ほどDVDで出ている模様(allcinemaでの検索結果)。

 同系の映画で比較すると、展開のブッ飛び具合とか「何これwww」的な楽しさは、前述した”Vampires: Brighter in Darkness”の方が個人的には楽しめましたが、”Vampires…”が現代社会に跋扈するイケメンヴァンパイアと、それに惚れられた青年とのハーレクイン・ロマンスみたいな、いわば『トワイライト・サーガ』ノリ(って、見たことないんだけど、多分)だったのに対して、今回の”Brides…”は、ゴスなデカダン風味やホラー風味は”Vampires…”より上なので、まぁここいらへんは見る人の好みによって印象が変わってくるかも。

 というわけで、マトモな映画を見る感覚では決してオススメしませんが(ぶっちゃけ酷い出来です)、変わったもの好きなら、あちこちお楽しみどころ(ツッコミどころとも言う)も多いかと。個人的には「とても楽しかった (・∀・)」です(笑)。

さて、結末がどうなるかという話(以下白文字)。
 結局エロスは、ディオニソスに騙されたペルセフォネのせいで、魔女の呪いによって殺されてしまいます。それを知ったペルセフォネは、兄を奪った恋敵のサミュエルと、共に愛する者を喪った者同士として和解し、エロス復活のために共闘することにする。
 そのために魔女が出した条件は、ディオニソスが秘匿している世界の秘密を記した魔導書を奪って、自分たちに渡すこと。そしてサミュエルが、色仕掛けでディオニソスを陥落し、無事そのミッションも完了。
 しかし実は、それらは謎の寡黙男ドミニクによる、魔女の女王を復活させるための計画だった。魔導書奪還によって復活した魔女の女王は、そのままヴァンパイア城を攻撃、ディオニソスを含むヴァンパイアたちを皆殺しにしていく。
 追い詰められたサミュエルとペルセフォネは、自分たちの最期を悟りながら、手に手を取って「でも死ねばまたエロスと一緒になれる!」と語り合い、そんな二人をエロスの幻が優しく見守る。
 結局ヴァンパイアは全員殺されて、魔女の天下となりましたとさ。ジ・エンド。

 ……いいのかそれで?(笑)

『すべすべの秘法』日本初上映+トークショー出演のお知らせ

retoro imaizumiのコピー
『初戀』『家族コンプリート』など、日本でゲイ映画を積極的に撮り続けている今泉浩一監督の最新作『すべすべの秘法』が、2013年のベルリンポルノ映画祭での初上映を経て、2月5日〜8日の4日間、渋谷アップリンクにて日本初公開されます。
 プログラムは『すべすべの秘法』上映(全日)の他、今泉監督が男優として出演している、ピンク四天王の一人・佐藤寿保監督のヘテロ向けピンク映画3本(5日〜7日)、『家族コンプリート』のアンコール上映(8日)となり、各日それぞれトークショーなどが予定されていますが、私は2月8日(土)の『すべすべの秘法』(15:00〜)の上映後トークショーに出演させていただきます。
 詳しい上映スケジュール等は、以下のリンクを参照。
UPLINK:RETRO今泉浩一×佐藤寿保~『すべすべの秘法』日本初公開特別凱旋上映~
 ただいま予約受け付け中。
 で、『すべすべの秘法』ですが、タカサキケイイチさんがアンソロ『ウラゲキ』に発表した同名マンガを原作にしたもので、仕事の研修で京都からやってきた青年が、東京の「ヤリ友」の家で過ごす数日間の様子を、二人の心理的距離感の推移や作劇的なレトリックなどを交えて描いた内容です。
 私、この上映プログラムのフライヤーに、短いコメントも書かせていただいているので、ご参考までにそれを以下に再掲します。

 セックスから始まった関係で、ヤリ友と恋人の境界はどこにあるのか。現代日本のゲイを描いたドラマとして実にリアルなモチーフ。
 そこに肌荒れを絡ませたのも技あり。セックスにおいて皮膚感覚は重要な要素。だからこそ逆に、セックス描写自体にもっとそういう表現が欲しかった。エロス的にはちとドライで物足りない。
 でも、肌荒れの治癒へのロマンティックな思い込みに、すかさず即物的なツッコミが入るあたりのバランスは上々。恋愛なんて単なる思い込みや勘違いかも知れないけど、そのおかげで人生が少し豊かになったり前に進めたりもする。
 そんなドライとウェットの拮抗が、リアルの人生同様ちょっぴり可笑しくて愛おしい。主人公のステキな胸毛や、ブリーフ越しの勃起したペニスのシルエットみたいに。

 何の変哲もない日本のゲイの日常を、ちょっぴりヒネリを効かせて描いていて、ある意味で世界のゲイ映画のトレンドともシンクロしている感じ。
 ゲイ映画の、特に日本のインディーズ・ゲイ映画の上映は、なかなか厳しい状況にある中、それを見られる貴重なチャンスでもあるので、私が出演するトークショーのみならず他日の上映も、スケジュールが合う方は是非足をお運び下さい。レイトショーなので、仕事の後でも間に合いますよ!
 なお会場では、今泉監督の旧作DVDも販売予定。あと、この『すべすべの秘法』の原作マンガを収録したタカサキさんの同人誌も、現在急遽制作中とのことで、間に合うようだったら(これは何としてでも間に合わせて欲しいんですけど、タカサキくん!)会場販売されるそうです。
【追加情報】『すべすべの秘法』原作マンガ冊子(タカサキケイイチ作)、無事に会場で販売されるとのことです。
 それでは、ご予約&ご来場お待ちしております!

児雷也画伯から児雷也スウェットいただきました

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 児雷也画伯から米国Massive製児雷也スウェットシャツとグリーティングカードいただきました。アメリカンXXLサイズなので私の身体でも大丈夫(笑)。
 着て街に出るのは勇気がいるし、そもそも汚しちゃうと勿体ないので、脱いで畳んで密閉保存させていただきます!
 お買い求めはMassiveのサイトで。国外発送もやってくれるので(もちろん送料はかかりますが)日本からも注文できます。

ダウンロード・フリーPDFカレンダー、Bears, illustrated 2014

BearsIllustrated2014
 世界の熊系キャラを描くゲイ・アーティスト12人がコラボレーションした、PDFカレンダー”Bears, illustrated”の2014年版が、同サイトから無料でダウンロードできます。
http://www.bears-illustrated.com/
 私は1月の絵を担当。
 他にも、カナダのニッキー・チャールズ、ペルーのレオナルド・グティエレス、フランスのオリヴィエ・フランドロワなどが参加。
 カレンダー企画自体は今年で五年目となり、これで総計60名のアーティストが参加したことに。過去のカレンダーもダウンロード可能なので、タイプも国籍も様々なベアー・イラストレーションの数々が楽しめます。

“Keep the Lights On” (2012) Ira Sachs

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“Keep the Lights On” (2012) Ira Sachs
(アメリカ盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com、日本のアマゾンでも購入可能→amazon.co.jp

 2012年のアメリカ製ゲイ映画。NYに住む二人の男性の出会いと、10年近くにわたる関係をリアルに淡々と、しかし情感豊かに描いた内容。
 主演は『誰がため』などのデンマーク人男優、トゥーレ・リントハート。
 ベルリン国際映画祭テディ賞受賞。

 90年代末、NYに住むドキュメンタリー映画作家のエリックは、ゲイがセックス相手を探す伝言ダイヤルで、大手出版社に努めるポールと出会う。二人の相性は良く、エリックはポールに連絡先を渡すが、彼は「自分にはGFがいる」と断る。
 しかしポールはGFとの関係を清算し、エリックと付き合うようになり、やがて二人は一緒に暮らすようになる。ハッピーな関係に見えた二人だったが、実はポールにはドラッグの習慣があり、やがてそのことが二人の関係に次第に影を落としていき…といった内容。

 ストーリーとしては、特にドラマチックなイベント的なことが起きるわけではなく、エリックとポール、そしてその周囲の友人たちや家族などの、些細だが極めてリアルで細かなエピソードが積み重ねられ、9年間(だったかな?)に渡る二人の軌跡が淡々と綴られるというもの。
 何よりそのリアリティと、淡々としながらもゆったりとした空気感が素晴らしく、描かれるのは些細なことだけながらも、見ていて全く飽きさせず。作為の感じられない作劇と、ディテールのリアリズムと柔らかな空気感は、昨年の東京レズビアン&ゲイ映画祭で上映された、アンドリュー・ヘイ監督の傑作『ウィークエンド』とも似たテイスト。
 興味深いのは、いわゆる恋愛テーマの映画では、惚れた腫れた憎んだ裏切っただのといった、恋愛感情の起伏が主に描かれるのに対して、この映画の場合は、互いに相手のことを好きであるにも関わらず、その間にリレーションシップを築いていくことの難しさにフォーカスが当たっているところ。
 これは周囲の人間に関しても同様で、エリックがポールと一緒に生きる関係を築くことで悩むように、エリックの女友達もまた、最適のパートナーに巡り会えって自分の理想とするものを手に入れることができない。そんな誰でも身に覚えがありそうなリアルな「思い」を、ふわりと描いているという感じ。

 というわけで、作為性のないドラマ作りが好きで、しかもこの空気感を心地よく感じられる人だったら、気に入ること間違いなし。いわゆるゲイ映画的な枠を越えた、単館上映系の映画のクオリティの高さがあるというあたりも、前述の『ウィークエンド』と同様。
 ただ、大きな事件は何も起きないけれども、微細な起伏を丁寧に描いて、それが面白いという点では、ムードを音楽に頼っている部分も多く、そういう意味では、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作品ほどのストイックで厳格な凄みはないし、ストーリーのタイムスパンが長い分、『ウィークエンド』ほどの濃密さはありません。

 とはいえ、クオリティの高さや全体のリアルな空気感は、好き嫌いはあるにせよ、間違いなく一見の価値はあり。エロティックな場面も生々しく、しかし心地よい空気感を持続したまま描かれているし、ラストの余韻も上々。
 ゲイ映画好きの方、単館上映系が好きな方、そして、好きだからこそ関係を築く難しさという普遍的なテーマに興味のある方には、がっつりオススメしたい一本。

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