帰朝報告、その4。
3月3日
九時過ぎに目が覚める。誰もいない朝のギャラリーは、昨夜のにぎわいがうそのよう。
オリヴィエが十一時頃に来ると言っていたので、待っていのだたが、一時になっても来ない。テーブルにケイタイの番号のメモを残して、テキトーに出かけることにする。
因みに、このギャラリーは予約制なので、誰もいなくても無問題。
近くのカフェで、クロック・ムッシュとショコラでブランチ。どちらもすこぶる美味しい。
今回、パリでの用事を終えた後で、どこか別の場所に寄ってから、帰国したいと思っているので、安チケットを探しに行くことにする。……が、土曜日の午後なので、オフィスは休みだった。
チケット探しはあきらめて、沢辺さんに電話してみる。サン・ジェルマンのあたりで、みんなで昼ゴハンの最中だった。私はポンピドー。オデオンで待ち合わせることにする。
オデオンで、沢辺さん、那須さん、中山さん、ふみちゃん、みずきちゃんと合流。みんなでリュクサンブール公園を散歩しに行く。
公園のカフェでお茶。那須さんと「去年、アップリンクでイベントしたときは、まさかこーゆー面子でパリでお茶するなんて、想像もしてなかったよね〜」とシミジミ。あちこちのテーブルで、客が残した角砂糖を、鳥が包み紙ごと丸飲みしていた。
買い物がてら、サン・ジェルマンをブラブラ。ロウソク専門店が面白かった。見るからに高級そうなパティスリーで、沢辺さんがエクレアを買って、みんなにふるまってくれる。似たようなことをするオノボリさんは多いらしく、近くのゴミ箱には、同店の空き箱が山のように(笑)。
別に用事があった中山さん、買い物に行ったふみちゃんと分かれて、沢辺さん、那須さん、みずきちゃんと一緒に、カフェでお茶。窓際の席に座ってひょっと外をみたら、斜め向かいに、昨日と一昨日、二日連続でお誘いをパスしてしまった、例のベア&ウルフバーがあったのでビックリ。
夕飯は、以前パリに住んでいた私の友達がオススメしてくれた、イタリアン・レストランへ行くことにする。ポンピドーで中山さん、ふみちゃんと待ち合わせて、みんなでゴー。
レストランは、リーズナブル&美味で大好評。フランス語のメニューの解読は、もっぱら中山さんにお任せ。デザートに何を頼むかで盛り上がる。
23時近くなってギャラリーに戻ると、オリヴィエがいた。案の定、バーで盛り上がりすぎて、15時頃まで寝ていたらしい。
今夜、ゲイのクラブ・イベントに行こうと誘われる。でも、出かけるにはまだ早いので、しばらくお喋り。この頃になると、オリヴィエのフランス語訛りの英語にもだいぶ慣れて、聞き取りもそんなに苦ではなくなってきた。
しかし、オリヴィエはとにかく早口でマシンガン・トーク。加えて知識や興味の幅がとんでもなく広く、しかも連想ゲームのように話題が拡がっていくので、こっちもかなり集中力が必要。日本の文化や歴史にも詳しく、ルネッサンスやバロック絵画の話をしていたはずが、二十分後にはいつの間にか、部落問題やらアイヌ民族やら、仏教や神道や三種の神器の話になっていたりする(笑)。そんな具合で二時間ほど喋っていたら、夜遊びに出かける前に疲れてしまった(笑)。
「そろそろ出かけよう」と、オリヴィエが着替える。着替えるといっても、フツーの服ではない。ナチスの将校のような(実際は、ロシア軍の軍服らしいが)コスプレ姿だ。これが、オリヴィエのゲイ・コミュニティでのトレードマークらしい。
軍服姿のオリヴィエと、歩いてクラブに向かう。Bains Douches というクラブで行われた、“Yes Sir!” というパーティ。マッスル&野郎寄りのベア・パーティーだそうな。
クラブの前は、既に入場待ちの行列が。私たちはインビテーションなので、並ばずに入れた。クロークで上着を預け、中に入る。広さは、西麻布のYellowくらいかな。フロアもラウンジも、坊主またはスキンヘッド&ヒゲのマッチョだらけ。半分くらいは上半身裸。長髪とか細身とかもいるけど、少数派。見渡したところ、東洋系は私だけ。
しばらくオリヴィエと一緒にラウンジにいて、次々と紹介される人に挨拶とかしていたのだが、それも一段落ついたようなので、フロアへ踊りに行く。マッチョはマッチョでも、やはり人種の違いか、日本で見るそれとは、筋肉の大きさが圧倒的に違う。
ファッションはおしなべて今風で、ボトムはローライズのジーンズやカーゴパンツ。上半身裸を除けば、このまま昼間に外を歩いていても、全く違和感がなさそう。強いて言えば、黒のトップスと迷彩柄のボトムが目立つくらい。たまにレザーキャップとかボディーハーネスとかもいたけど、正直言って浮いている感じ。何かの主張としてのゲイ・ファッションというスタイルは、既に過去のものなのだろう。
しかし、やっぱり一番浮いていたのは、オリヴィエの軍服姿だった(笑)。もっとも自分も、服装は黒T&カーゴだけど、人種や体格という点で浮いていただろうなぁ(笑)。
フロアで、昨夜のゲイ・テレビ局のインタビュアーと再会。今日は上半身裸。すっげーいい身体のうえに、両肩と背中にとてもきれいな和風のタトゥーが。「ホレホレ」と自慢してきたから、それに乗じてあちこち触らせて貰う。他にも何人か、昨日のパーティーで会った人と挨拶したり、ファンだという人と話したり。音楽が轟音なので、フロアでは自然と上半身を寄せ合って、肩に手を掛け合ったりして、耳元で大声で怒鳴るように話すことになる。だから、しばらく話していると、相手の息で耳がベタベタしてきたり(笑)。
フロアがどんどん混んでくる。ラウンジも併せて、三百人くらいいたんじゃなかろうか。この頃になると、東洋系も三人くらい見掛けた。女性も数人。同伴なら入れるミックス形式なのかな? 途中で上を脱ぎだす連中も多いので、いつの間にか裸の割合が三分の二くらいに。混んだフロアを誰かが通り抜けようとすると、必然的に肌が触れ合う。毛深い人だと「ふさっ」とか「ざらっ」とした感触、毛の薄い人だと「ぺとっ」とか「ぬるっ」とか。
フロアには汗の臭いが充満し、苦手な人は嫌なんだろうけど、私は好きだから気分もアガる。筋肉やら体毛やらタトゥーやらボディーピアスやら、目の保養もタップリ。知り合いやファンで、カッコよかったりカワイかったりする子には、もう遠慮なくハグ。
音楽は、あれは2ステップなのかな、ブレイクビーツの作り出すグルーヴが気持ちよくて、久々に赤い靴シンドローム(踊り出したらとまらなくなっちゃうという、私のビョーキ)が発症。なかなか好みのプレイをするDJさんでした。
オリヴィエは途中で帰ったけど、私は居残り。けっきょくそのまま、朝の五時まで踊ってました。
歩いてギャラリーに帰り、バスを使う。
児雷也画伯に「パリからメールくれ」と頼まれていたので、オリヴィエのPCを借りて、ウェブメールを出す。フランス語用のキーボードだから、ちょっと使いにくい。オマケに、日本語変換ができないので、ローマ字表記。
一服して就寝。踊りすぎで、明日、足が痛くならないか、ちょっと不安。オッサンは辛いね(笑)。
(続く)
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帰朝報告〜日誌風(2)
帰朝報告、その3。
3月2日
個展初日。
朝8時頃、爽やかに目覚める。相変わらず、時差ぼけの兆候なし。
小腹が空いていたので、カフェにでも行こうかと思ったけど、昨日オリヴィエが持ってきてくれたサンドイッチが冷蔵庫に入っていることを思い出し、お茶を淹れて食べる。因みにオリヴィエはお茶マニアで、キッチンの棚は紅茶や中国茶やハーブティーの山。
オリヴィエが来るのは昼頃と聞いていたので、さてそれまで何をしようかと考えているところに、沢辺さんたちが遊びに来てくれた。今回は中山さんも一緒。しばらく雑談した後、沢辺さんたちはお出かけ、私はこのままオリヴィエを待つことにする。
正午過ぎ、オリヴィエが、オープニング・パーティ用の大ワインやミネラル・ウォーターを、大量に持参して到着。ギャラリー内に運び込むのを手伝う。
一服しながら、今日の打ち合わせ。パーティーには、テレビ局の取材が二つ入るそうな。
ドア・オープンは18:00。それまでオリヴィエは、プライス・リストの制作やら何やら細々した用事があり、逆に私は何もすることがないので、17:00頃までフリーになる。
ならば観光でもしようかと、出かけることにする。
メトロを乗り継いで、サン・ミッシェルにある中世美術館へ向かう。ユニコーンのタペストリーが有名で、それをイギリスのトラッド・ギタリスト、ジョン・レンボーンのアルバム "The Lady and the Unicorn" で見て以来、一度行ってみたかった美術館。
建物は、中世の城だか教会だかの建物をそのまま使っていて、手前には、パリに残るローマ帝国時代の遺跡もある。規模はさほど大きくはないけれど、建物の風情と、展示されている中世彫刻やテンペラ画や工芸品が実に良くマッチしている。そんなに混んでもいないし、雰囲気も好みで気に入りました。
お目当てのタペストリーは、想像していた以上に巨大で、更に、一枚ではなく六連だったのでビックリ。写実性と装飾性のブレンド具合がとても美しい上に、動物たちの姿にはユーモラスな可愛さも。
ギフトショップで、タペストリーの図案を使ったゴブラン織りのクッションカバーを二つ購入。オレンジの樹の柄と、ウサギの柄のヤツ。けっこうなお値段だけど、モノが良いのでいたしかたなし。他にも、中世美術の本やら中世音楽のCDやら色々あったんだけど、長居していると破産しそうな気がしてきたので(笑)、適当に退散。
気が付くと16:00を回っていたので、ちょっとカフェで一服してから、ギャラリーに戻ることにする。
18:00までには、ギャラリーの支度もすっかり整い、あとはお客を待つばかり。
ちょっと緊張してくる。どのくらい人がくるのか、さっぱり見当がつかないし、閑古鳥だったらどうしよう……ってな不安もあるし。
じきに、最初の来客。そして、ポツポツと人が増え始める。「ボンジュール」と言ってお迎えするものの、それ以上の会話はできないので、何だか所在がない気分。
窓の外が暗くなってきた頃には、いつの間にかギャラリーは人で一杯に。閑古鳥の不安はなくなり、ホッと一安心。英語で話しかけてくれる人も増え、ジャーナリストの女性(……と、遠目には思ったんだけど、接近してお話ししたらトランスジェンダーの方でした)や、まだ若そうなファンの男性(「軍次」の感想を、とても具体的に熱っぽく語ってくれて、嬉しかったな)などと話しているところに、沢辺さんたちも来てくれる。
テーブルの上には、仏語版 “Gunji” と”Arena”、出たばっかりの画集 “The Art of Gengoroh Tagame”(出発前に著者見本が届かなかったので、現物を見たのは私もこの日が初めて)、沢辺さんが持ってきてくれた『日本のゲイ・エロティック・アート』1と2、そして近日発売予定の『田亀源五郎【禁断】作品集』の見本などが並べられていて、お客さんたちは思い思いに中を見ている様子。
ニコラ到着。足下を見ると、普通の革靴。「アラ、ハイヒールじゃないじゃない」と突っ込むと、「フン、気分じゃなかったのよ、でも、本当に持ってるんだからね!」と返される。ビッチなヤツ(笑)。パリ在住の日本人の方にもお会いする。英会話ばっかで疲れているときに、母国語でお喋りできるのは本当にありがたくて、何だかホッとします。
気付かないうちに、パトリックも来ていた。「ゲンゴロー、ゲンゴロー」と呼ぶので何かと思ったら、ワインボトルのラベルを、この個展のDMに張り替えたものを見せられた(笑)。
別のフランス人に「僕を覚えています?」と話しかけられる。確かに顔は見覚えがあるんだけど、どこの誰かが思い出せない。そう詫びたら、一昨年、フランスのゲイ雑誌 “Tetu” の取材で、東京で会ったインタビュアーの人だった。今回の個展の記事と一緒に、今度あらためて同誌に記事が載るそうな。
全般的にお客には、坊主&ヒゲというタイプが目立ち、いささか偏ってる感じ。沢辺さんにそう言ったら、「でもまあ、田亀さんのファンなんだからねぇ」と言われた。それもそうか。
テレビ取材、一件目スタート。ゲイ向けのケーブルテレビだか衛星放送だからしい。カメラマンもインタビュアーも、またまたどちらも坊主&ヒゲ、しかもかなりのマッチョ。挨拶して握手したら、二人とも手の皮がえらく固くて分厚い。まるで土方さんみたいだと思ったけど、ひょっとしたら、ウェイト・トレーニングのせいかもね。
取材があると聞いたときから、ちょっと嫌な予感はしていたんだけど、案の定、通訳なしの英語インタビュー。うう、これはかなりキツい。おまけに周囲には見物人の輪が。この中で下手な英語を喋るのは、何とも恥ずかしい。
一回、質問の意味がどうもうまく掴めずに困っていたら、中山さんがヘルプで駆けつけてくれました。サンクス。それでも難航。発音のせいで単語が聞きとれないこともあるので、インタビュアー持参の質問事項を書いたカンペを見せて貰い、それでようやく理解できた。
まあ、さほど長い時間ではなかったので、何とか無事に終了できました。
だいぶ気持もほぐれてきて、新しいお客さんにも、自然と「ボンソワール」と声を掛けられるようになる。
ギャラリー内は禁煙なので、沢辺さんを誘って廊下に出て一服する。階段や踊り場は、同様の喫煙者のたまり場に。そこに混じって、ファンの人や、パリコレの取材で来ているという日本人カメラマン氏などとお喋り。
そこにアニエス・ジアールが来た。「久しぶり〜!」と喜び合った後、沢辺さんたちに紹介。しばらくそのまま雑談するものの、よく考えたら私は会場の外にいて、アニエスはまだギャラリーの中にも入っていない。慌てて「とりあえず見て!」と、中に案内する。
オリヴィエに呼ばれて、画家のザビエル・ジクウェルに紹介される。一緒に画集 “Stripped – The Illustrated Male” に載ったアーティスト。画集をプレゼントして貰う。技法や画材などについて、互いに聞いたり聞かれたり。ここいらへんは、日本で他のイラストレーターと会ったときと変わりませんね。
やがて、二件目のテレビ取材がスタート。今度は大手テレビ局。後で聞いたら、どうやらキャナル・プリュスだったらしい。
取材チームのチーフらしい、ドレッドの黒人が「スパイクです」と自己紹介するもんだから、つい「スパイク・リー?」と茶々入れると、「いや、実は本名は○○なんだけど、顔がスパイク・リーに似てるから、そーゆー綽名になったんだ」ですと。
番組の内容は「日曜美術館」みたいなものらしく、同じ枠で一緒に放送されるのは、ちょうど同時期にパリで大規模な個展をしていたデヴィッド・リンチだと聞いてビックリ。デヴィッド・リンチと私が、同じ番組枠で紹介って……う〜ん、やっぱ日本じゃ考えられないわ。なんてリベラルな国!
幸いなことに、今回はインタビューはなし。インカムを付けた私が、いろいろなお客さんと交流するのをロングで撮って、後で、お客さん個々人に、作品の感想などを聞くという作りにするとのこと。だから「絶対にカメラを見ないでくれ」と釘を差されました。
そんな具合で、私はテキトーにお喋りを続行。ポットの那須さんは、中山さんと談笑中のところを撮られ、ついついカメラを気にしてしまい「もっと自然にして!」と注意されたそうな(笑)。
だいぶ遅くなってから、エスタンプのプリントを制作してくれた人に紹介される。この人の名前もオリヴィエだった。オシャレな初老の紳士といった風情で、メビウスや宮崎駿のエスタンプ制作もした方だそうな。
溝口健二が大好きだそうで、小津よりも黒澤よりも溝口で、特に「『山椒大夫』は大傑作だ!」と言う。で、私が「え〜、でもあのラストは、ちょっと救いがなくて、仏教説話的には云々」と異を唱えると、「いやいや、あれはシェイクスピアのようで云々」と返してくる。こういう議論は面白いけど、私の英語力では限界があり、ちょっと悔しい思いをする(笑)。オマケに、彼が話題に出した『赤線地帯』や『楊貴妃』は、私は未見。で、こっちが『雨月物語』や『西鶴一代女』を話題にしようとしても、英題も仏題も判らないので、なかなか伝わりにくいし。
この人に限らず、あちらの日本文化好きの人は、概して知識の幅の広さや深さが半端じゃないことが多く、驚かされることが多々ありました。
そんなこんなで、19:00頃から22:00頃までは、人が途切れることもなく、ギャラリー内は満員状態。沢辺さんの概算によると、「のべ150人くらいは来たんじゃないか」とのこと。
22:00を廻ると、少しずつ人も減ってきました。帰り際に、何人もから「ビッグサクセス、コングラチュレーション!」と言って貰え、嬉しい限り。
だいぶ人が減ったので、椅子に座ってひと息ついていたら、例のテレビカメラが寄ってきた。取材されていたこと、すっかり忘れてました(笑)。
で、あんまりカメラが寄るもんだから、「カメラ見ていいの?」と聞くと、「いいよ」と返事して、テーブルの上の私のウェストポーチに寄っていく。「中身見たい?」と聞くと「見せて」。で、携帯用の電子辞書やら、万年筆形の筆ペンやらをご披露(笑)。
これで取材は終わり。最後にカメラに向かって「この映像が放送されることを了承します」というような内容を言わされました。
で、腰に付けてたインカムを返して「バイバイ」。
アニエスがきて、もっとワインが欲しいみたいなジェスチャーをしたので、未開封のものを「自分で開けて!」と瓶ごと渡す。
気の毒なことに、夕飯を食べそびれてしまった沢辺さんたちは、オリヴィエが出してくれたクッキーをポリポリ食べる。じっさい、オープニング・パーティで出されたものはワインのみで、いわゆるおつまみのようなものは一切なかった。考えてみりゃ、私も朝にサンドイッチを食べたきりだったので、一緒にポリポリ。
アニエスとは、明後日のサイン会の後に、一緒に御飯を食べようと約束してバイバイ。やがて沢辺さんたちもホテルに戻り、ギャラリーには、オリヴィエ他数人が残っているだけ。気が付くと、もう深夜を廻っていました。
オリヴィエに「これから、昨日オープンしたベア&ウルフバーへ行こう」と誘われたけど、ちょいと疲れが限界に。体力的にというより、英会話を続けるのがもう限界。ヒアリングの集中力が続かず、相手の言葉を聞いていても、ノーミソが途中で理解を放棄する感じ。言語中枢がオーバーヒート起こしたみたい。
で、申し訳ないけど私はパスさせていただき、もう寝ることにしました。シャワー浴びるのも面倒だったので、顔だけ洗ってバタンキュー。
(続く)
帰朝報告〜日誌風(1)
帰朝報告、その2。
2月28日
フィンランド航空を使いヘルシンキ経由で、夜、パリのシャルル・ド・ゴール空港に到着。
ゲートで、ギャラリー・オーナーのオリヴィエ・セリがお出迎え。前もって写真を貰っていたので、すぐに判りました。写真を見たときから「デカそうなヒゲ熊だな〜」と思っていたんだけど、実際会ってみると、身長は私より頭一つ高いし、ウェスト周りなんか倍はありそうで、ちと圧倒される。オマケに、後になって年下と知って、更にビックリ。
「腹が減ってるか?」と聞かれたけど、機内食でブロイラー状態だったので、ノーサンキュー。そのまま、RER(パリの郊外を走る電車)とメトロ(地下鉄)を乗り継いで、ギャラリーに直行。
小一時間後、ギャラリー “ArtMenParis” に到着。メトロのストラスブール・サンドニ駅から、徒歩3分ほどという好立地。ポンピドー文化センターやバスティーユ広場は徒歩圏内、主だった観光エリアや文化エリアにも、メトロ一本で数分という便利なエリア。
因みに、私の宿泊先はギャラリーのロフト……と、オリヴィエは呼んでいたけれど、ギャラリー内の一角をカーテンで仕切った小部屋。オリヴィエは「片づけが間に合わなくて、まだ散らかっている」と、しきりに詫びていたけれど、なんのなんの、私の家に比べると百倍は片付いている(笑)。
お茶を淹れてもらい一服した後で、手荷物で持参した個展用の原画を見せ、展示のレイアウトなど明日の作業に関する打ち合わせ。事前にギャラリーの写真と図面をメールで貰い、展示に関してアバウトなプランは立てていたものの、やはりいざ現物を見てみると、いろいろ変更や微調整の要あり。あと、オリヴィエの英語は、フランス語訛りがきついうえに、かなりの早口でマシンガン・トークなもんだから、ついていくのがけっこう大変。
それでも何とか打ち合わせも終わり、深夜12時過ぎにオリヴィエは帰宅。ギャラリーの鍵を預かり、表門を開けるための暗証番号も教えてもらう。
一人残って、バスを使う。時差ぼけが心配だったけど、いつも日本で超夜型の生活なのが幸いしてか、ベッドに入ったらすぐに眠くなりました。
3月1日
朝、7時頃に自然と目が覚める。頭もスッキリ。やはり時差ぼけの兆候はなし。
オリヴィエが来るのは1時の約束だったので、ちょいと近くを歩いてみることにする。表門を出て適当にウロウロしていたら、すぐにカフェを見つけたので、入ってコーヒーを注文。あまり食欲がなかったので、朝ゴハンは頼まず。
コーヒーの後、もうちょっと近所を探索して、9時頃にギャラリーに戻る。で、前日に別便でパリ入りしているはずの、ポット出版の沢辺社長のケイタイに電話。すぐにつながって、沢辺さんたちがギャラリーに来ることになる。ギャラリーの入り口がちょっと判りにくいので、ドアを開けてお待ちする。
沢辺さん一行(沢辺さん、「日本のゲイ・エロティック・アート2」のアップリンクでのイベントを一緒にやったポットの那須さん、ふみちゃん、みずきちゃんの四人)がギャラリーに到着。一緒にパリ入りしたはずの、タコシェの中山店長の姿は見えず。どうやら、別の約束があったようで。
ギャラリーを披露した後、しばし雑談。沢辺さんたちの泊まっているホテルは、通り一本向こうなだけの、とても近くだそうな。そして、那須さんのお仕事用英文レターを書くのを、ちょっとお手伝い。
一服した後、ちょっと外でお茶でもしようと、みんなで外出。ちょっぴり歩いてカフェに入り、慣れないフランス語メニューと格闘しながら、何とかカプチーノを注文。ユーロが高いせいもあって、想像していたよりも物価が高い印象。
お茶しながら雑談していたら、外を大量のパトカーがサイレン鳴らしながら走り、しかも中には武装警官がぎっしり乗っていたもんだから、みんなビックリ。しかし、道行く人々はべつだん驚いたり慌てる様子もないので、ちょっと安心する。
そうこうしているうちに時間がきたので、みんなと分かれてギャラリーに戻る。
ギャラリーに戻ってしばらくして、オリヴィエが来る。サンドイッチを持参してくれたんだけど、なぜかまだ食欲がなかったので、「後で食べるから」と冷蔵庫にしまってもらう。特に胃の調子が悪い感じでもないんだけど、やはり少しナーバスになっているのかな。
しばらく雑談をしていると、展示作業のお手伝いをしてくれる、またまた立派なヒゲ熊系のニコラが到着。彼もアーティストで、作品の写真を見せてくれるましたが、コンセプチュアル・アートと抽象絵画の中間のような作風でした。
ニコラがマット切りなどの額装の準備を始め、そのあいだ私は、今回の個展用に制作したエスタンプ(複製画)に、エディション・ナンバーとサインを書きこむことにする。
エスタンプの種類は二種類。
まずは、個展用の完全な新作「七つの大罪」連作。
これは、七枚セットで限定七部のみの制作。印刷媒体等へ発表する予定はありません。ただし、画像はそのうち ArtMenParis のウェブサイトと連動して、私のサイトにも載せる予定ですし、エディション・ナンバーが入ったもの以外に、E.A.(エプルーブアルティストの略で、アーティストプルーフとも呼ばれる、アーティスト用の保存分)を私が所蔵しているので、別の個展なり何なりの際に展示はできます。
もう一種類は、サイトにも載せている旧作で、「さぶ」の挿絵用に描いた「忠褌」というモノクロ作品。こちらは刷り数も多く、限定25枚。これも、私が所蔵しているE.A.があります。
これらは、そのうち日本国内でもご披露できるといいんですが。
サイン入れ作業の最中に、もう一人の助っ人ベルナールが到着。この人はヒゲでも熊でもなく、細身のインテリ風オシャレさん。お仕事は、美術評論家だかキュレーターだかだそうだけど、英語を喋らないので、あまり交流はできず。
サイン入れも額装も終わり、四人で配置や順番をあれこれ決めていく。みんな積極的にアイデアを提案してくれるので、なんだか文化祭前夜みたいで楽しい。
窓の外が暗くなり、展示も八割方終わったところで、カメラマンのパトリック・サルファーティが到着。これから、私をモデルにフォト・セッションです(笑)。
パトリックは、メールヌード写真ではベテランで、何冊も作品集を出している人。コマーシャル・フォトグラファーでもあり、80年代には、キクチタケオやトキオ・クマガイの撮影で来日経験もあるそうな。因みに、このギャラリーで私の前に開催されていたのが、キース・ヘリングが訪仏した際にパトリックが撮影した「パリのキース・ヘリング」という個展でした。
小柄だけど筋肉はムッキムキで、ちょっとシャイな感じだけれど、笑顔を絶やさない素敵な人。私の作品を絶賛してくれるのも嬉しいんですが、更に、三島剛や矢頭保の大ファンでもあるので、更に嬉しくなったり。オマケに、少し話しただけで妙に波長が合う感じ。
で、しばらく会話した後、撮影開始。
幸いなことにヌードではなく、いつも来ている服に手だけバイカー用のような大きな革手袋という、ちょっと不思議なスタイリングでのポートレート。壁に掛かった自分の絵の前で、いろいろポーズをとらされます。指示の出し方が上手いのか、モデルをしていても、意外と緊張しないで済みました。
でも、初めは「いいかい、ワン・ツー・スリーでシャッターを押すからね」と言っていたのが、撮影に熱が入ってくると、いつのまにか「アン・ドゥ・トロワ」になってたのが可笑しかったな。あと、引きをとろうとパトリックが後ずさりしたとき、ライティングのアシストをしていたオリヴィエにぶつかり、オリヴィエの巨大な腹に小柄なパトリックがバウンドして跳ね返ったもんだから、思わず吹き出してしまった。それから何故か、しばらく笑いが止まらなくなって、申し訳ないことに撮影を一時中断させてしまいました。
撮影が終わった後も、引き続きパトリックとソファに座ってお喋り。話せば話すほど面白いし、価値観や世界観も共通する部分が多いので、その人柄にどんどん惹かれていきます。
そうこうしている間に設営も終わり、テーブルの上にはパンやチーズが並べられ、そしてシャンパンのコルクが抜かれ、オリヴィエの「明日の成功を祈って!」という音頭で乾杯。普段はアルコール類を一滴も飲まない私ですが(すっげ〜下戸なんです)、この時ばかりはちょっぴりお相伴しました。
あとはワインが開けられ、五人でテーブルを囲んで、ギャラリーのキッチンで料理されたピザやラビオリで晩御飯。会話が盛り上がると、たまにフランス語オンリーになっちゃったりするんですが、すぐにオリヴィエかニコラが英語でフォローしてくれるので、さほど置いてけぼりにはならずに済んだかな。
誰かがかけたCDが、私の大好きなファイルーズ(レバノンの女性歌手で、アラブ歌謡を代表する大歌手の一人)だったので大喜びして、「ファイルーズ大好きで、ちょうど日本を出るちょっと前にも、彼女とベイルートのドキュメンタリー映画を見たばっかりなんだ」とか言ってたら、ニコラはレバノン人だと聞いてビックリ。
で、「アラブ文化が好きなの?」と聞かれたから、「うん、今回もフランスに来たついでに、チュニジアに寄ってみたいと思ってるんだ」とか答えたら、今度はパトリックはチュニジア生まれだと聞いて、またビックリ。思わず、コスモポリタンとかボヘミアンとかいった言葉を連想して、我ながら古いなぁと思ったり。
因みにレバノン出身のニコラは、アルコールが入るとだんだんオネエ度が増していきました。そして、去年のベアプライドに女装で参加したところ、シャネル(ニコラいわく「イミテーションじゃないシャネル」)のブレスレットを盗まれてしまった話をして、「いくらベアでも、所詮クィアはクィアね!」とか締めるもんだから、もう大笑い。
更には、ゲラゲラ笑っている私に「明日のアンタのオープニング、そんときの女装で履いた、ゴージャスなハイヒールで来てあげるわよ!」なんて追い打ちまで。けっこうイケてる熊さんなのに、中身はかなりビッチなんだから(笑)。
そんな感じで12時を過ぎ、オリヴィエから「これから一緒に、新しいベア&ウルフ・バー(日本でも「オオカミ系」なんて言葉がありますが、外国でもウルフ系ってのがあったんですな)のオープニング・パーティに行かないか?」と誘われたんですが、ちょいと疲れていたし眠くもあったので、申し訳ないけどパス。
やがて四人は帰り、後は私一人に。
設営の済んだ無人のギャラリーを、記録用にデジカメで撮影してから、シャワーだけ浴びて、さっさと就寝。この晩も、あっという間に眠っちゃいました。
(続く)
帰朝報告〜パリの個展&サイン会、写真レポート
無事、帰国
再び個展とか画集とかサイン会とか
ポートフォリオ『七つの大罪』の、カバー・デザイン用に頼まれていた、筆文字や日本語のパーツを、メールに添付してフランスに発送。これで、渡仏前の個展用準備は全て完了。
某誌用のマンガのネームも、ファックスしてOK貰う。
あとは、バディの連載「外道の家」の原稿を、数日中に仕上げて渡せば、出発前の用件は全て終了です。
個展もサイン会も開催が目前になってきて、それぞれのサイトに情報がアップされたようです。興味のある方は、下のリンクからどうぞ。書店のサイトでは、画集 “The Art of Gengoroh Tagame” の表紙画像も見られます。
・個展をするギャラリーはこちら
ArtMenParis
・サイン会をする書店はこちら
BlueBookParis
フランス在住の方、あるいは、開催期間中にフランスもしくは近隣諸国に行かれる方は、ぜひぜひ足をお運びくださいませ。
準備ほぼ完了
個展用の描き下ろし連作「七つの大罪」、彩色完了。ちょいと一部分をプレビューしてみませう。


エスタンプ制作用のデータもフランスに送ったし、これで、個展の準備はほぼ完了かな。後は、細かな用件が幾つか残るのみ。額装とかエスタンプへのサイン入れとかは、渡仏後の作業だし。
とはいえノンビリもしておられず、出国までに今月の仕事をキレイに片づけていかなきゃ。
昔、サラリーマンやってた頃、夏休みに仕事が食い込んじゃって、インドネシアはバリ島のウブドゥ村と東京間で、指示書をファックスしたり、送られてきた原稿に朱入れして返したりしたことがありますが、あーゆー事態はできれば避けたい(笑)。オマケにこのときは、夏休みが終わって成田に着いて、そのまま会社に直行、12時間後くらいには再び成田に行き、今度はロケでハワイに飛んだ……なんてスケジュールだった(笑)。
あ、そーいえばフリーになってからも、マレーシアはペナン島のホテルで、「PRIDE」だったか「銀の華」だったかのネームをきったこともあったなぁ(笑)。プールサイドで、はしゃぐリゾート客を横目で見ながら、エロマンガのネームをきるってのは、なかなか辛かった記憶があります。しかし、そのぶん「さっさと終わらせて遊びてェ〜っ!」とエンジンがかかり、普段の半分くらいの時間で仕上がったけど(笑)。
まぁ今回は、半年以上前からこれに併せて予定を組んでいるので、毎日きちんきちんとノルマをこなしていれば、無理なく仕上がるスケジュールです。風邪ひいて寝込んだりしなければ、大丈夫でしょう。
サイン会とか画集とか禁書とか
前回の記事で「いつの間にか、パリの本屋でサイン会をすることになっていた」と書きましたが、メールをやりとりするうちに、もう一つ新事実が発覚。
ギャラリー・オーナーのオリヴィエ・セリにメールして、サイン会の予定が入っていることを確認しましたが、そのメールを良く読んでみたら、「サイン会は、H&Oから出る君の新しい本の発売にあわせて開催する」と書いてある。
……新しい本?
実はH&Oとは、次のフランス語版コミックに関する契約を、既に交わしています。翻訳やレイアウト作業も、昨年暮れから進行中ではありますが、今度は短編集ではなく長編なので、いくら何でも3月発売には間に合いそうもない。だいいち、私はまだ表紙イラストのラフすら上げていないし。
そうなると、残る可能性は一つ。一昨年に契約書を交わし、去年の頭にはレイアウトもでき、PDF校正も済ませたものの、発売が延び延びになっていた、”The Art of Gengoroh Tagame” というタイトルの画集。
で、今度はH&Oのアンリに、「オリヴィエ・セリが、H&Oから私の新しい本が出ると言ってるんだけど、そうなの? 本当なら、どの本を出すの?」とメールしました。すると「”The Art of Gengoroh Tagame” を、君の来仏に併せて出すことにしたよ」とゆー返事。
いや、いいけどね、画集が出るのは嬉しいし。でも、発売決定したんなら知らせろよ! って感じではあります(笑)。
そんなこんなで、ここしばらくフランス絡みで、「本人が知らないことを、第三者からの伝聞で知る」ことが、二件連続発生(笑)。
さて、アンリからのメールには、それ以外にも「bad news がある」と書かれていました。カナダ向けに出荷した私の仏語版単行本が、輸入禁止品扱いになってしまったそうな。
調べてみると、カナダはポルノグラフィに関する法規制が厳しく、日本のアダルト・コミックスが、チャイルド・ポルノに引っかかってしまった例が見つかりました。だとすると、”Gunji” には「TRAP」が、”Arena” には「非國民」が収録されているので、それが原因か。
……と思ったんですが、もうちょい調べてみたら、2004年度と2005年度のカナダの輸入禁止品目リストみたいなのを見つけて、それの COMIC BOOKS / Prohibited リストの中に、日本版の『嬲り者』『柔術教師』『銀の華(中・下)』『PRIDE(1・2・3)』を発見。
まぁね、表題作と「俺の先生」で高校生が出てくる『柔術教師』、子供が男女郎を買いにくる『銀の華』、「TRAP」と「非國民」が収録されてる『PRIDE』は判る。しかし『嬲り者』は、チャイルド・ポルノにはかすりもしなさそうなんだが……。
とにかく、どんな理由かは知りませんが、カナダでは私のマンガは禁制品のようです。う〜ん、昔「さぶ」に書いた小説で、伏せ字をくらったことはあるけれど、禁書扱いは初めてかも(笑)。でも、本家サイトのアクセス解析を見ると、カナダからの訪問客数は、日本、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアに次いで、今月もちゃっかり6位にランクインしていますが……。
所変われば品変わる、とは言いますが、つい先日新聞の件があっただけに、フランスとフレンチ・カナディアン、ご先祖様は一緒だろうにここまで違うものか……と、何だか驚きも新たです。
個展とか渡仏準備とか
3月2日から、フランスのパリで個展をします。
海外での作品の展示は、1996年にニューヨークでの企画展に、2004年にフランスのリールとアヴィニョンでの企画展に、それぞれ依頼されて作品を提供したことはありますが、自分一人の個展というのは初めてです。
とはいえ、これは急に決まったとことじゃなく、実は去年から動いていた予定。
きっかけは、去年の春。
五年間かけたマンガ『君よ知るや南の獄』の連載を終え、雑誌「ジーメン」の企画編集スタッフからも退陣しました。で、次に何をしようかと考え、久々に個展でもやりたいな〜、なんて思い、じゃあ場所のあたりをつけなきゃ……なんてときに、一通のEメールがきました。
差出人は、パリのギャラリーのオーナーだというオリヴィエ・セリ氏。内容は「ウチで個展をやらないか?」というオファーでした。何とまあグッドタイミング、渡りに舟って感じ。で、何度かやりとりをして、決定したのが初夏の頃。
ただ、この「やりとり」ってのが問題でして。私はフランス語はサッパリだし、英会話だってトラベル・イングリッシュ・レベル。当然のことながら、電話できちんとコミュニケーションをとれる自信なんかありません。でも、テキストなら辞書っつー強〜い味方がいるから、「打ち合わせや問い合わせはメールでしてね」と言っているのに、このオリビエ氏、せっかちなのか何なのか、すぐに電話をかけてくる(笑)。
まぁ、私も電話を受けちゃった以上、何とか英会話を心掛けるんですが、じきにギブアップ。で、私が「そういう細かいことは、メールでコンタクトしてくれ!」とキレると、オリヴィエ、その時は「ソーリー、ソーリー」とか言うくせに、しばらくするとまた性懲りもなく電話してくる(笑)。去年の大晦日、家に友人を招いて年越しパーティーの真っ最中にまで、電話がかかってきた(笑)。欧米人って、年末年始はさほど特別な日じゃないのかしらん。
で、またこのオリヴィエの英語が、実にフランス語風の発音。加えて、喋るスピードはけっこう速いもんだから、あたしゃいっつも「パードン?」の繰り返し(笑)。あと、英語がフランス語風に化けるだけではなく、たまに、思いっきりフランス語そのものが混じったりもする。まあ、同じスペルの単語がフランス語の発音に化けるってのは、その気持も判らなくもないですが、英語で喋ってるのに、いきなり「エスタンプ・ド・ジャポネ」とか言ってくるんじゃね〜よッ(笑)! 一瞬ポカ〜ンとしてしまったが、浮世絵のことを言っているんだと、理解できた自分を褒めてあげたい(笑)。
で、個展にあわせて、私も今月末からちょいとフランスへ行く予定。
フランスは、まだ学生時代に一度行ったきりの、およそ20年振りの訪問なので、ちょいと緊張しています。
個展の開催期間は、丸々2ヶ月間とけっこう長めなんですが、流石にそんな長く滞在するわけではなく、オープニングの数日前に現地入りして、準備やら何やらをしつつ、パリでの滞在は一週間程度を予定しています。
先日、どこから情報が伝わったのか、ここで書いたアニエス・ジアールから、「パリに来るんだって? 嬉しい、サイン会には絶対行くわ!」ってなメールが来ました。これを読んで、私はビックリ。サイン会って、何のこと? 不思議に思ってオリヴィエに問い合わたら、いつの間にか、パリの書店でサイン会をすることになっていた(笑)。
まぁ、現状で判っている予定はそんなもんですが、せっかくの機会だし、差し迫った仕事の予定があるわけでもないので、用事が終わったら、ついでにどっかでブラブラ遊んでこよう、なんて画策中です。こーゆーのが、フリーランス商売のメリット(笑)。
そして現在、パリ行きの準備中。
といっても、パスポートの有効期間はまだあるし、エア・チケットも手配済みなので、旅行自体の準備は何もありません。
今やっているのは、個展用のオリジナル新作絵の制作。最初は、せっかくの個展なので、久々にアナログでデカめの絵を描きたいとか考えていたんですが、いろいろあって、最終的にはギャラリーからの依頼で、毛筆画+デジタル彩色のテーマのある連作ということになりました。
で、そのギャラリーが注文してきたテーマっつーのが、キリスト教の「七つの大罪」。
最初はちょっと戸惑いました。だいいち私の作品は、ぜ〜んぶ大罪の一つである「淫欲」まみれなわけだし(笑)。あと、こーゆーテーマ連作というのは、ある程度の共通フォーマットも持たせないと様にならない以上、二つか三つはネタを出すのが苦しいものもあり、今回もその例外ではなさそうだし。
でもまあ、いざ描き始めると、あれこれ悩むのもまた楽し、ってな具合で、わりとスイスイ筆が進んでくれました。二つほど、なかなか上手くまとまらないネタがあり、ちょいと苦戦しましたが、それも先ほど無事終了。
ってなわけで、これがその「七つの大罪」用の、資料用に引っ張り出してきた本と、サムネール・スケッチと、下絵の一部分。



これで下絵が全部完成したので、明日から本描きに入れます。……が、さっき見たら、毛筆画用の筆がもうボロボロだったので、明日、街に出て買ってこなきゃ。
最近よく聴いているCD
ここのところずっと「ノスタルジックなモチーフのストリングス曲を聴きたい気分」が続行中。で、そーなると映画のサントラってのがなかなか便利で、そんな中から比較的近年のものを、ちょいと書き出してみます。
『オリバー・ツイスト』レイチェル・ポートマン
ロマン・ポランスキー監督の2005年版。
正直言って映画そのものは、可もなく不可もなくといった感じで、絵的にはキレイだし、見ている間はそこそこ面白かったにも関わらず、見終わった後は不思議と印象が薄い。で、一番記憶に残ったのが、ベン・キングズレーがベン・キングズレーだとぜんぜん判らなかった化けっぷり(笑)と、劇判で頻出する「♪き〜てきいっせい、しんばしを〜」みたいなメロディーのメイン・モチーフ。
改めてCDで聴いてみると、メイン・モチーフが「鉄道唱歌」を連想させるのは出だしだけで、全体を通して聴くと、それほど似てもいなかった(笑)。とはいえ、昔の唱歌や童謡に通じるような、親しみやすく覚えやすいメロディーなことは確かで、どこかノスタルジックな香りが漂う、かなり好みの曲。
で、このモチーフがメジャーになったりマイナーになったりして、あちこちで変奏されていきます。例えば、基調がメジャーの一曲目 “Streets Of London” は、明るい希望や拡がる風景などをイメージさせるのに対して、マイナーの二曲目 “The Road To The Workhouse” は、哀愁や艱難辛苦の予感を孕んでいる。その表情の変わり方が実に自然で、懐の深いメロディーだなぁと感心。
フォーク/トラッド味はないですが、ノスタルジックな童謡風という点で、聴きたかった雰囲気にマッチしていて、お気に入り。
『オリバー・ツイスト』(サントラ/日本盤)
『オリバー・ツイスト』(サントラ/輸入盤)
日本盤と輸入盤ではジャケットが違います。あたしゃ、輸入盤の方が好みだったので、そっちを購入。
『ケリー・ザ・ギャング』クラウス・バデルト
グレゴール・ジョーダン監督の2003年作。
ヒース・レジャー主演、オーランド・ブルーム共演にも関わらず、日本では劇場未公開。ただ、DVDは発売されていて、私もそれで鑑賞。オーストラリアの開拓時代、被差別民だったアイルランド系流刑囚の息子ネッド・ケリーとその兄弟たちが、周囲からの差別と偏見によって追い込まれていき、否応なく無法者となっていく内容の映画です。悲劇的な話ではありますが、面白いし見応えもあります。
でもまぁ、私はけっこうヒース・レジャーが好きなので、その贔屓目もありますが(笑)。声がいいんだよね〜、この人。加えてこの映画では、後半ヒゲモジャだし(笑)。ヒース・レジャーかジェイク・ギレンホールか、どっちか選べと言われたら、あたしゃ問答無用でヒース派……って、別にここで『ブロークバック・マウンテン』を持ち出す必要もないし、誰もテメーなんかにゃ選ばれたかねーよって感じでしょうが(笑)。
雄大で感傷的なメロディーを奏でるストリングスに、ワールド・ミュージック系の女声コーラス……とくると、最近の史劇映画の劇判のお約束で、新味はさほどないですが、映画の内容がアイルランド系移民の話なので、ケルティック・トラッド風味が多いのが嬉しいところ。むせび泣くようなティン・ホイッスルや爪弾かれるハープの音色は、やはりどこかノスタルジックで心の琴線を擽られます。
バーナード・ファニングという人が歌っている二つの挿入歌、ネッド・ケリーへのラメントのようなフォーク調の “Shelter For My Soul” と、囚人移民を歌ったトラッド曲 “Moreton Bay” も、どちらも佳良。特に、後者はお気に入り。
『ケリー・ザ・ギャング』(サントラ/輸入盤)
『ケリー・ザ・ギャング』(DVD)
『アメリカン・アウトロー』トレヴァー・ラビン
レス・メイフィールド監督、コリン・ファレル主演の2001年作。
南北戦争後、負け組となってしまった南軍兵士にして南部の農夫ジェシー・ジェームズとその仲間が、北部の圧政によって追い込まれ、無法者になっていく映画……と、構造的には前述の『ケリー・ザ・ギャング』と似ているんですが、重厚な悲劇だった『ケリー・ザ・ギャング』とは異なり、こちらは徹底してユーモア風味の軽〜い痛快アクション作。めっぽう楽しく、後味もハッピー。これはこれで悪くない。
うちの相棒は、この映画のコリン・ファレルが「珍しく情けなくない」と喜んでおりましたが、あたしゃ情けないコリン・ファレルが可愛くて好きなので、そーゆー意味ではちょいと物足りない(笑)。こんなかっこいい役より、もっとヘナチョコな役のときの方が好き(笑)。つい先日も『イノセント・ラブ』ってのを見て、山だしのコリン・ファレルが都会のオネーサンに筆おろしして貰い、童貞喪失して泣き出しちゃう姿が、もーこなくそかわいくって、かいぐりかいぐりしてやりたくなった(笑)。
音楽の方は、史劇調の重厚さと、アクション映画風の威勢の良さに、更にカントリー調の明るさと泣きが、上手いことブレンドされている感じ。ただ、ロック調のエレキギターが顔を出したりするあたりは、好みが分かれるかも知れません。クイーンの『フラッシュ・ゴードン』とまではいかないまでも、TOTOの『砂の惑星』くらいの感じです。
話は逸れますが、あたしゃイエスのせいで、トレヴァー・ラビンとトレヴァー・ホーンがいっつもコンガラガッちゃいます(笑)。今回もサントラのトラヴァー・ラビンという名前を見て「あ、バグルス→イエスの人か」とか思ったんですが、調べてみたらそれはトレヴァー・ホーンの方だった(笑)。
で、このサントラでは、前述したような要素がブレンドされた “Perfect Outlaws” って曲が一番のお気に入り。
『アメリカン・アウトロー』(サントラ/輸入盤)
『アメリカン・アウトロー』(DVD)