コンクリートの檻(5)

 哲夫を見下ろしながら、男たちが言った。
「よし、これで尺八はあらかた仕込めたな」
「じゃあ、ケツいきますか」
「待てよ、その前に…」
 サングラスはそう言うと、哲夫の股間に手を伸ばして、締め付けられたままの怒張を握った。それはすっかり冷たくなっていた。
 哲夫は急所を握られても何も感じない事に気付き、自分のそこが腐って落ちるのではないかと恐怖した。
「一旦これを外してやるとするか。使い物にならなくなったら元も子もねェからな」
 金具を外されたそこはすぐに萎えた。サングラスはそこを掌で包むと、緩やかにマッサージを始めた。
 血行が正常に戻ると、哲夫の足の革ベルトは外されて、そのまま足を頭の方へと引っ張られた。
 頭の下の台が戻されると、その両脇に膝を付かされ、そこをまた革ベルトで固定される。
 哲夫は尻を高く持ち上げて、肛門を天井に向けてに曝す恰好になった。剛毛に囲まれた褐色の肉襞を、人さし指でなぞりながらサングラスが言った。
「ケツを仕込む前に、腹ン中を掃除してやらねェとな」
 哲夫は自分でも見たことがない部分を、人前に曝し、嬲られながら、背中になにかぞくっとするような、何とも形容しがたい気分を感じていた。
 やがてガラスの浣腸器とグリセリンの入ったポリタンク、洗面器が用意された。ビルダーがタンクの中身を浣腸器になみなみと吸い上げる。
 ひやりとしたガラスの嘴が肛門に差し込まれ、次に冷たい液体が腸内に流れ込んできた。
 その経験したことのない不快さに、哲夫は腰を振って呻き声を上げた。
 注入を終えたビルダーは、哲夫の腹中の液体が溢れ出すないように指で押さえながら、素早くその中に小振りのプラグを押し込んだ じきに哲夫の腹がごろごろ鳴り出した。哲夫は腹の中一杯に詰め込まれた不快な液体を排出しようと力んだが、ビルダーがしっかりと押さえているプラグのせいで、それも出来なかった。
 襲いかかる排泄感に哲夫は脂汗を流し、腰を振って耐えた。しかしそれにも限界があり、まもなく排泄感は腹痛へと変化した。
 我慢しても口からは呻き声が漏れる。
 悶える哲夫を見ながらサングラスが笑いながら言った。
「どうした、もう我慢できなくなったのかよ」
 哲夫は喘ぎながら言った。
「…クソ…クソを…」
「クソをどうしたいんだ?言葉使いはさっき教えた筈だぞ。どうして欲しいのかちゃんと言ってみな!」
「クソ…クソさせて…ください…」
 サングラスが哲夫の尻たぶを平手打ちする。 「誰に向かって言ってんだよ、おいッ!」
「ご…御主人様…クソさせて…くださいッ!」
 そう言った哲夫の声は、もう殆ど悲鳴に近かった。
「よーし、ゆっくり百数えな。数え終わったら楽にしてやっからよ」
 哲夫は震える声で数え始めたが、それはすぐに怒声に遮られた。
「もっとでっけえ声でやれッ!」
 再び数え始めると
「早過ぎるぞッ!最初からゆっくり数えなおすんだッ!」
と叱咤がとぶ。
 漸くのことで数え終わった時には、既に十分以上経過していた。
 ビルダーが哲夫の尻の下に洗面器を置いてプラグを引き抜くと、汚物が弧を描いて勢いよく噴出した。
 部屋の中に糞便の臭いが満ちた。
「くせえッ!くせェ糞だなッ!」
 小太りが鼻を押さえながら、換気扇のスイッチを入れに走った。
 排出を終えて荒い息をつく哲夫の尻が、熱い蒸しタオルで拭われる。
 拘束台の上には、大小様々な男性の道具を模した器具と、ベビーオイルの瓶が用意された。
 ビルダーは哲夫の肛門を周囲にオイルを垂らすと、そのごつい体格に似合わぬ細い指で少し開きかけた肉襞を揉みほぐし始めた。
 哲夫は不思議な感覚を覚えていた。奇妙な排便感に似た感覚。自分のそこがじんわりと熱を帯びてくるような感覚。
 哲夫のそこは、少しずつその口を開きつつあった。その様子を見てとったビルダーは、その人さし指をそっと襞の中へと挿入する。
 指が腸の内壁を動きまわって、優しくそこを刺激する。
 哲夫は自分の頭がぼうっとして来るのを感じた。いつの間にか挿入された指は二本に増えていたが、哲夫はそれにも気付いていなかった。
 ビルダーは一旦指を抜くと、今度はたっぷりとオイルをまぶした、親指程の太さの細身の張り型を挿入した。
 やんわりと、じんわりと肛門を嬲られながら、哲夫の身体は徐々に、徐々に開いていった。
 哲夫の脳からいつの間にか排便感も不快感も消え、なにか切ないような快感が沸き起こりつつあった。
 声が出る。それは一度出てしまうともう止まらず、哲夫は啜り泣きのような声をあげ続けた。
 ビルダーは目の前の男が、思いのほか敏感に反応するのに驚いていた。ごつごつした筋肉の壮年の男が、自分の手の動きに併せて、女のような声を立てている。
 そのことはビルダーを、いつになく興奮させた。肛門を突く動きにも熱が入る。張り型もいつの間にか、普通の男の勃起した男根位の太さになっていた。
「おい、見てみろ」
 サングラスは他の連中にそう言うと、哲夫の股間を指差した。
 萎えていた筈のものが、少しずつその頭を持ち上げ始めていた。やがてそれは、男達の注視の中でそそり立ち、艶やかにその赤い傘を開ききった。
 哲夫の全身は、吹き出す汗でヌラヌラと光っていた。汗に濡れて肌に張り付いた体毛が一際黒く鮮やかだ。
 熱い胸板が、その荒い息に併せて上下している。うっすらと瞼を開け、だらしなく緩んだ口許から涎が糸を引いていた。
「息子もなかなか飲み込みが早かったが、親父の方はそれ以上だな」
 サングラスが呆れたように呟いた。
「ひょっとすると、このままトコロ天かも知れませんぜ」
 そう答えるビルダーの息も弾んでいた。
「面白れェや、うまくトコロ天にしたら特別手当てを弾むから、もっと続けてみな」
 サングラスにそう言われてビルダーはにんまり笑うと、張り型を一回り大きい物に取り替えた。それは明らかに直径五センチ近くあったが、哲夫の肛門はそれを難なく飲み込んだ。
「へへッ、見てくださいよ。先っちょから嬉し涙をこぼし始めましたぜ。もうすぐだ」< br>  そんな男達の会話も、哲夫の耳には入っていなかった。哲夫は只、襲いかかる快感の波にその身を委ね翻弄されていた。
 そして哲夫は長く尾をひく泣き声と共に、夥しい量の白濁した液で、自分の顔や胸を汚した。
「一丁あがりッ!」
「ははは、良くやったな」
「この分だと客を取れるのもすぐだぞ」
 哲夫は快感の余韻にぼんやりとした頭で、男達の遠い声を聞いていた。
 天井に備え付けられた監視カメラのレンズが、その姿をじっと見つめていた。

「大学生」はソファーから立ち上がると、モニターのスイッチを切った。
「どうだった?」
「大学生」はソファーの方を振り向いて言った。
「実の父親の恥態を見た感想は」
 ソファーには首輪を着けただけで、後は素っ裸の洋が横たわっていた。引き締まった上体には菱形に縄が掛けられ、両腕は背中で縛り上げられている。
 その褐色の裸身は、さっき吐き出したばかりの自分の白い汁に汚れていた。
 無表情の顔が、消えたモニターを見つめている。
「大学生」はソファーに戻ると洋を後ろから抱きかかえ、飛び散っている樹液を掌で塗り広げた。
 ぬるついた愛撫に洋の喉がのけぞり、唇から喘ぎが漏れ始める。その耳元に「大学生」は囁いた。
「おい、どういう訳だ?お前の父親はケツをいじられているだけでいきやがって…そんな父親の無様な姿を見ながら、何でお前はいつもより激しく感じていたんだ?」
 洋は無言のままだった。「大学生」の言葉も耳に入っていなかった。
 中継されていた映像を、男達に尺八を強制されている父親を見るのは辛かった。
 父親をこの悪夢に巻き込んでしまった、自分の愚かさと浅はかさを呪った。惨めな父親の姿を泣きながら見て、心の中で必死に詫びていた。
 しかしその感情は、事が進行するにつれて次第に変化していった。
 浣腸を終えてケツ責めが始まり、それにつれて次第に変化していく父親の表情。
 心の中で再び嫌悪感が芽生える。
 洋は、薄目を開けて涎をながし、腰を振っている父親の姿を醜いと思った。
 無意識の壁が洋の精神を覆いつつあった。
 モニターに映った男は、最早父親ではなくなっていた。一匹の淫蕩な牡に過ぎない。
 そう思った瞬間、洋の下腹部は変化を起こした。心の中に昏い自虐的な炎が灯る。
 一度点いた炎は消すことも出来ず、たちまちのうちに燃え広がり、洋の理性を焼き尽くす。
 それを見てとった「大学生」は、洋の炎を巧妙にかきたてた。洋はその通りに、「大学生」の腕の中で悶え、乱れ、狂った。
 欲情の猛りを「大学生」の手の中で放出した時、洋は既に変わっていた。
 哲夫の知っている洋ではない。さっき迄の洋でもない。
 別の洋がそこにいた。
 そして今、縄に戒められ、穢れた手で愛撫されながら、洋は再び興奮していた。
 その身体は色欲に素直に反応し、その獣欲のなすがままだった。
 後ろに縛られた手が、「大学生」の中心を求めて彷徨い始める。「大学生」はズボンのジッパーを降ろすと、既に勃起しているそれを洋の掌に握らせた。
 洋は熱く脈打つそれを、愛しげに撫でさすり、愛撫した。
「欲しいか?」
 耳元で囁く「大学生」に、洋は欲情に潤んだ声で答えた。
「欲しい…欲しい。お願い、入れて!」
 「大学生」は満足げに微笑みながら、洋を膝の上から降ろした。
「よし、欲しけりゃまず口でやるんだ」
 洋は唯々諾々としてソファーからおりると「大学生」の膝の間に跪いて、そのいきり立った肉棒を含んだ。
 情熱的な奉仕だった。「大学生」はその変わりように驚いた。
 自分が変え、堕とした少年。既に自分の男根の虜になっている少年。自分の男根の奴隷となった少年。
 それは「大学生」にとって凄まじい興奮だった。
 絶頂が近付いたのを知って、「大学生」は慌てて自分のものを洋の口から引き抜いた。 息を整えてそれを宥めながら「大学生」は言った。
「よし、ケツだせ。入れてやる」
 洋は身体を回転させると、床に膝をついてその一本の毛も生えていない、引き締まった滑らかな尻を、「大学生」に向かって高く突き出した。
 「大学生」はそこを両手で押し開くと、自分のものを深く突き入れた。
 洋の口から切なげな喘ぎ声が漏れる。
 「大学生」はゆっくりと腰を使い始めた。洋の肉体は、その一突き一突きに反応していた。
 腰の動きが激しくなる。
 すっかり怒張した洋のものが、その腹をびたんびたんと叩いて、透明な汁を辺りに蒔き散らす。
 じきに「大学生」は逐情し、その後を追うかのように洋も爆発した。
 汗みどろの背中に倒れ込みながら、「大学生」は満足感に酔っていた。
 洋は変化した。
 洋の調教は完成したのだ。