コンクリートの檻(3)

第二章 親子

 哲夫は茫然として話を聞き終えた。
 信じられない事だった。一年半にも渡って自分の息子の身に降りかかっていた出来事に、まったく気付かずに過ごしてきたのだ。
 改めて洋を見遣ると、確かに痩せているような気がする。
「なんてこった…」
 無意識に呟きが漏れた。
「そういうこった」
 小太りが茶化した。
 哲夫は男たちを睨みつけた。その視線をものともせずに、サングラスが続けた。
「判ったか。これで親子二人、晴れて一緒にここで客商売をしてもらえるってわけだ」
「誰がそんなことをするかッ!」
 哲夫が怒鳴ると同時に、サングラスの平手がその頬にとんだ。
「判ってないようだな。もうこれは脅迫でも何でもないんだぞ。拒否はできない。お前達はこのマンションに監禁され、もう外へは出られない。おとなしくしていればよし、もし逆らえば…」
 そう言いながらサングラスは手にしたナイフをちらつかせた。
「お前が逆らえば息子が痛い目を見る。洋が逆らえばお前だ」
 それを聞いて、哲夫はぐっと息を飲み込んだ。
「判ればよし。…おい洋!」
 呼ばれて洋は、びくっと身を起こした。
「今、鎖を外してやるからな。お前が覚えた事を、親父さん相手に披露してやんな!」
 鎖が外されて、洋は黙ったまま父親の足元に跪いた。
「洋…」
 哲夫の呼び掛けには応えず、洋は俯いたまま手を哲夫のズボンのベルトにかけた。
「馬鹿ッ、止せッ!何をするつもりだッ!」
 哲夫が狼狽してわめくと、サングラスが洋の首輪を掴んで言った。
「今、忠告した筈だぞ。お前が逆らえば息子が…」
 サングラスはそう言いながら、首輪を掴んだ手を捻じった。洋がのけぞり、呼吸を止められた苦しさに悶える。
「止せッ!やめろッ!…わかった、逆らわんから…頼むからその手を離してくれ!」
 哲夫が懇願すると、サングラスはにやりと笑って首輪を離した。
「判ればいいんだ。…おい洋、続けろ!」
 洋は咳込みながら、再び父親のズボンに手を伸ばした。
 ベルトが抜かれ、ジッパーが引き降ろされる。
「腰を上げろ」
 サングラスに言われるがままに、哲夫は自分の腰を浮かせた。そしてズボンが足元まで引きずり降ろされた。
 洋の指がトランクスのゴムにかかった時、哲夫は耐えきれずにその目を閉ざした。しかしすかさず、ビルダーが耳元で囁く。
「目を開けるんだよ、オッサン。目ェ開けて自分の股ぐらをよっく見てるんだ」
 そうするしかなかった。逆らえば息子が苦しむだけだ。
 哲夫は屈辱に霞む目で、洋が自分のトランクスを脱がせるのを見守った。
 頭にかあっと血が登る。耳が熱い。顔が紅潮していくのが判った。
 トランクスは完全に脱がされ、哲夫の恥部が衆目に曝された。
 臍から続く渦巻く剛毛。太股に密生した毛そしてその中央に垂れた、どす黒い男根と睾丸。
 洋の指が、その萎えたものに絡み付く。
 冷たいと思った。
 指はそこを包み込み、柔らかに揉み始める 哲夫は何も考えられなかった。息子が自分の陰部を愛撫するのを、ただ茫然と見ていた。
 哲夫のそこが何の変化の兆しも見せないのを見てサングラスが言った。
「おい洋。何を甘っちょろい事してるんだ。舌つかえ、舌ァ!」
「そんな…」
 目に涙を浮かべて振り仰ぐ洋に向かって、サングラス容赦なく怒鳴りつけた。
「何を気取ってやがるんだッ!今更ブリッコすんじゃねえよッ!お前ェが嫌だってんなら親父のキンタマ潰してやろうかッ!」
 サングラスは振り向きざまに哲夫の睾丸を掴んで、力一杯握りしめた。
 哲夫の口から獣じみた悲鳴が上がる。
「止めてッ!止めて下さいッ!やります、やりますから…」
 洋は泣き叫んで、父親の股ぐらにむしゃぶりついた。
 生温かいぬるりとしたものにそこを包み込まれて、哲夫は思わずそのくちから吐息を漏らしてしまった。
 洋は既に、口と舌の奉仕を充分に仕込まれていた。
 元来堅物にできていた哲夫は、妻と死別した後は恋人もできず、そっちの処理はもっぱら右手と、即物的な風俗嬢に頼っていた。
 それに比べて、洋の尺八は巧妙すぎた。
 哲夫は理性や意識と関係ないところで、自分が次第に欲情していくのを押さえる事ができなかった。
 父親のものを含みながら、洋はそれが次第にその大きさを増していくのを感じた。
 自分の息子に尺八されるという異常事態にも係わらず、興奮し、勃起した父親。
 洋の心の奥底で父親に対する仄かな嫌悪感が芽生えた。
 この人は父親なんかじゃない。
 洋は無理やりそう思い込んだ。そうしないと、自分の中の屈辱と嫌悪に耐えられなかった。
 哲夫は自分のそこを愛撫する舌の動きが、一段と激しくなったのを感じた。じきにそこは完全に怒張した。
 洋は一旦それを口から抜いた。涎と先走りの液が唇から糸を引いている。
 初めて見る父親の勃起に、洋は内心の動揺を隠しきれなかった。それは巨大なシンボルだった。
 どす黒く変色した幹には太い血管が浮き上がり、赤みを帯びた亀頭は熟れたプラムのようだった。
 その先端に開いた鮮紅色の唇から、夥しい量の透明な液体が、糸を引いて滴り落ちている。
 二人を取り巻いている男達も、ただ黙ってびくびくと脈打つそれを注視していた。
 漸くサングラスが口を開いたが、その声は心なしか興奮に掠れていた。
「おい、なにサボってんだ。気ィ入れてやんな」
 洋は我に返って、哲夫の幹を掴むとそこを扱きながら、その先端を口唇で刺激した。
 哲夫は何とか声を出すまいと堪えていたがもう限界だった。
 息が荒くなる。こらえてもこらえても、喉の奥から呻き声が漏れてしまう。
 マンションの静かな一室に、ピチャピチャグチョグチョという卑猥な湿った音と、男の荒い息と呻きだけが満ちた。
 やがて哲夫は低い呻き声をあげて遂情した。
 洋は父親の亀頭を口に銜え込んで、吐き出された大量のドロドロした男の汁を残さず飲み下した。
 放出を終えてぐったりとなった哲夫に、凄まじい自己嫌悪が襲いかかった。洋の顔を見ることが出来ない。
 洋も俯いたまま、顔を上げようとしなかった。
 目の前で繰り広げられた父子相姦の光景に、興奮で声も出なかった男達は、やっと人心地を取り戻した。
「おい洋、顔を上げろ。親父の顔を見るんだお前も息子の顔をよっく見てみな!」
 サングラスに命令されて、父子は恐る恐る目を上げた。
 哲夫の顔には狼狽と自己嫌悪の色がはっきりと出ていたが、洋は無表情だった。
 洋の口端から流れている一筋の白濁した液を見て、哲夫の顔が苦しそうに歪んだ。後悔と屈辱に涙が浮かんで視界がぼやける。
 サングラスが洋を引きずり起こした。
「おい洋、服を脱げ」
 洋は無言で、その言いつけに従った。
 タートルネックと短パンが脱ぎ捨てられる。その下には何も着けていなかった。若々しく未成熟な、それでいてしなやかに引き締まった、褐色の裸身が露になる。
 父親に似ず、脇と股間以外にあまり毛のない、すべすべした身体だった。しかしその足の間には漆黒の毛が充分に生え揃い、その中から半分包皮を被った男根が垂れている。
「足を開いて、親父に向かって思いきり腰を突きだしな」
 洋が言われた通りにすると、その股間が丁度哲夫の眼前に来る恰好になった。
 サングラスが哲夫に向かって言った。
「これからお前の息子の本当の姿を見せてやるからな。しっかり見てろよ」
 そう言って男は、右手を洋の尻の谷間へと滑らせた。後庭をまさぐられて、洋は思わず喘ぎ声を漏らした。
 サングラスはにやにや笑いながら、その指を一気に奥深くまで差し込んだ。よく慣れた肉襞は、それを難なく飲み込んだ。
 凌辱者は洋の身体の隅々まで、よく熟知していた。
 やがて洋の男根は淫らに責められる後庭に反応して、その頭をもたげ始めた。
 哲夫は目の前の光景が信じられなかった。
 男の手で肛門をまさぐられ、腰を振って悶える洋。半開きになった唇からは、快感の喘ぎ声が絶え間なく漏れている。
 それは自分が知っている息子とは、まったく違った存在だった。
 これは洋ではない。
 そう感じた瞬間、哲夫の心から何かが急速に剥がれ落ちていった。
 やがて洋が、怒張したそこには指一本触れられることなく射精したときも、哲夫は呆けたようにただそれを見ていただけだった。
 生暖かい樹液が哲夫の上に降り注いだ。息子の精液を顔に浴びながら、父親は目を閉じることすら忘れていた。