“Mixed Kebab” (2012) Guy Lee Thys

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“Mixed Kebab” (2012) Guy Lee Thys
(英盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、日本のアマゾンでもマーケットプレイスで取り扱いあり)

 2012年のベルギー/トルコ製ゲイ映画。
 アントワープに住むトルコ系クローゼット・ゲイ男性と、フラマン語系ベルギー青年との恋愛を描きながら、それを通じて、同時に社会が抱える様々な問題も描きだすという内容。

 主人公イブラヒムはベルギーで生まれ育ったトルコ系の青年。自分がゲイだと自覚はしているが、それを表に出すことはなく、名前もベルギー風にブラムと名乗っている。パートタイムのウェイターをしながら、裏ではコカインの売人もし、行きつけのダイナーの一人息子、ケヴィンに惹かれている。
 ケヴィンは、ダイナーの主である母親マリアナと二人暮らし。息子がゲイなのを承知しているマリアナは、ブラムがゲイでケヴィンを好きだというのを見抜き、気を利かせて二人を一緒に夜遊びに行かせる。
 ケヴィンはブラムに「男と女とどっちが好き?」と尋ねるが、ブラムは「自分はトルコに親が決めた婚約者がいて、じきに結婚する予定だ」と答える。一方、ブラムの弟で学校から落ちこぼれてストリートギャングになっているフルカンが、マリアナの店に強盗に入る。
 やがてブラムは、婚約者であり従妹でもあるエリフと、結婚の書類を交わすためにトルコへ行くことになる。ブラムは「一緒に行こう」とケヴィンを誘い、一度は「仕事があるから」と断ったケヴィンも、マリアナに後押しされてブラムと一緒にトルコへ行く。
 トルコでは、エリフに恋する地元の若者ユスフが彼女を口説いているが、彼女は男尊女卑のトルコ社会にうんざりしており、ブラムと結婚してベルギーに行くのを望んでいる。トルコに到着したブラムとケヴィンは、一緒にホテルの同じ部屋に宿をとるが、そのホテルはユスフの職場でもあった。
 一方ベルギーでは、チンピラを仕切るルーマニア人ギャングの裏切りによって、フルカンがダイナーの強盗事件について警察の取り調べを受ける。父親に殴られたのと、警察署内でのアクシデントで、顔に傷を作って警察署から出てきたフルカンは、近くのモスクを拠点とするムスリムの男に声を掛けられる。フルカンは誘われるまま男と一緒にモスクに行き、そこでイスラムの教えを受けるうちに、次第にイスラム原理主義へと傾倒していく。
 一方、トルコのブラムとケヴィンは、次第に関係が接近していき、ついにホテルのハマムで結ばれるのだが、それをユスフに見られてしまい……といった内容。

「ケバブ盛り合わせ」というタイトル通り、まぁとにかく盛り沢山な内容。
 ストーリーはこれでもまだ中盤くらいで、ブラムのゲイばれだの、ケヴィンとの関係だの、家族問題だの、マイノリティ問題だの、名誉問題など……と、色々なエピソードが山のように続く。
 それと同時に、ベルギーにおける移民問題とか、その移民というマイノリティの中で、さらにマイノリティ差別があるとか、ムスリム・コミュニティ内での原理派と世俗派の問題とか、ベルギーのトルコ系コミュニティ内での、身内にLGBTがいる家族への差別とか、とにかく盛り沢山な内容。
 で、そういった諸々は実に興味深いんですが、いかんせんそれだけ盛り沢山で、しかし尺は1時間半強なので、どうも1つ1つが点景でしかなく、それを掘り下げていく方向にはいかないのが、少し残念。
 また人間ドラマの方も、《トルコ系ベルギー人でクローゼット・ゲイで女性との結婚も間近だけどベルギー青年に恋をしてアイデンティティの置き場に彷徨いマイノリティ差別にも会っている男》という主人公だけとっても、キャラとしては充分以上に複雑で盛り沢山。
 そこに更に、《常に兄と比較され学校ではレイシストからいじめられストリートギャングになりやがてイスラム原理主義に傾倒する弟》とか、《初子は生後すぐに死んでしまい次の子を長子として大事にしてきたがゲイだと判って受け入れられない父親》とか、とにかく全員、それ一つで映画一本作れそうなくらいキャラ設定が複雑。
 基本的に、描写やディテールで見せるのではなく、ストーリーを追わせるタイプの作りなので、内容自体は面白いし、因果関係などを良く考えてストーリーが作られているのも判るんだけど、前述したような盛り沢山さ故に、どうしても、どれもこれも描き込み不足という気がしてしまう。
 ただ、まったく予定調和的ではないストーリーの結末なども踏まえると、目指しているのはストーリーやドラマを描くことではなく、それらを並べて見せることで、主人公とその周囲の世界の諸相を見せることにありそうな感じ。
 そうなると、もう少しキャラクターを突き放した、高い視点から描いた方が良いと思うんだけど、いかんせん、大きな軸であるゲイ・ロマンス部分が、ここは普通にムーディ&センチメンタル(&エロス)に描かれるので、そこいらへんがぎくしゃくしてくる。

 というわけで、ストーリーは(いささか作りすぎな感はあるものの)面白いし、ちょっとしたエピソードにも背景となる社会問題が盛り込まれ、そんなテンコモリ具合から感じられる意欲は良しですが、それ故からくる、あちこち物足りない部分もあり……という感じの一本。
 とは言え、ゲイ・ロマンスに社会問題をこれだけ盛り込んだゲイ映画というのは、なかなか珍しいと思いますし、ゲイ的な部分でも社会問題的な部分でも、見ていて色々と思わされる部分は多々あるので、テーマやシチュエーションに興味のある方なら、色々と楽しめると思います。

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