ベルリン紀行(2)

 10月11日。この日は昼にミーティングが一件入っているので、それまではフリー。
 ということで、楽しみにしていた美術館/博物館巡りに。因みにセミョンが、三日間有効のベルリンの美術館/博物館フリーパスをプレゼントしてくれて、さてどのタイミングで使おうかと考えた結果、仕事の案件が一段落するこの日から使うことに。

 というわけでバスに乗って博物館島(ムゼウムスインゼル。ベルリンの博物館/美術館が五つ集まっている観光スポット。ユネスコ世界遺産でもあり)に行き、一番手前にある旧博物館へ。古代ギリシャ・ローマ美術を堪能。
 ゲイ関係の書籍なんかで、一度は目にしたことのある方も多いのではないかと思う、アキレウスとパトロクロスを描いたギリシャの壷絵。
2013Berlin_Achilles
 収蔵数がそれほど多くなく、人気の方もさほどないのか混み合ってもおらず、収蔵品1つ1つを落ち着いてじっくり見られる感じ。名品の誉れ高い『祈る少年』のブロンズ像は、流石の美しさ。
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 ちょと引っ込んだところに「愛の部屋」的な但し書きの付いた小部屋があり、入ってみるとエロティックなモチーフのものを集めたスペースでした。そんな中から、古代ギリシャ(おそらく)おちんこコレクション(笑)。
2013Berlin_Penis
 も一つ、サテュロス(多分)のゲイ乱交図。
2013Berlin_Satyre
 他にも、大股開きの女性ヌードとか、ヘルマフロディテ(両性具有者)の美麗大理石像なんかもあり。
 そんなこんなをじっくり見ていたら、いつの間にか昼近くになったので、急いでミーティング場所へ移動。

 ミーティングの相手はベルリンのアート・ギャラリー。出版社Bruno Gmünderとは別件なんだけれど、互いにコネクションを作っておくと後々のためになるかも知れないと思い、セミョンも一緒に来て貰う。
 このギャラリーの件は、実は今年の頭にニューヨークのギャラリー経由で、春に個展ができないかという問い合わせを貰っていたもの。しかし今年の春は、既にトロントとニューヨーク行きが決定していて、しかもニューヨーク個展もあったので、ベルリンでやるのはちょっと無理と返事したところ、では秋にやってくれないかという話になり、しかし秋はパリ個展と重なるのでやっぱり無理、来年なら空いているよと返事したら、そのままになっていたもの。
 それが今回、ベルリン行きが決まった直後に再度連絡を貰い、来年の春でどうだというオファーだったので、だったら丁度いい、近々ベルリンに行くのでその時に一回会いましょうということになった次第。
 ギャラリー・オーナーはグザヴィエというフランス人。彼が最初に私のことを問い合わせたニューヨークのギャラリーや、事前にメールで貰っていたギャラリーの資料から予想していた通り、ゴリゴリのコンテンポラリー・アート系。床に奇っ怪な汚れのようなものがある……と思ったら、それも作品だった(笑)。
 というわけで、来年の春にそこで作品展示をする前提で、あれこれミーティング。
 こちらが、そのグザヴィエ氏。
2013Berlin_Xavier

 ミーティングが終わった後、グザヴィエに「是非見ていくべき」と奨められた、絵画館(Gemäldegalerie)へ。博物館島とは別エリアにある、「13世紀から18世紀のヨーロッパ諸国の芸術品の収蔵では世界有数の美術館」(Wikipedia情報)だそうな。
 建物自体は、なんかどっかの公民館みたいな感じでしたが、コレクションはお見事の一言! 錚々たる古典絵画の名作群に、溜め息の連続。これ見逃してたら大後悔するとこだったわ……激推ししてくれたグザヴィエに感謝。
 しかし、あまりの充実度に見終わったらクタクタになった(笑)。夜はまたグザヴィエと約束があるので、それまでホテルで一休みすることにする。

 夜の10時、セミョンと一緒にグザヴィエが指定したミーティング場所へ。用件は、グザヴィエのところのフライヤー等をデザインしているデザイナーを紹介したいといので。
 で、ミーティングに指定する店だから、私はてっきりバーかクラブの類かと思っていたんですが……いざ店に入ったら、そこはセックスクラブ……つまりハッテン場でした(笑)。店の入り口で、デカいビニール袋を渡されて「店内で不要なものはこれに入れろ」っつーから、なるほどクローク代わりなのねと、ジャケットを脱いで詰めていたら、隣の人が靴だけ残してあとは全部袋に詰めて真っ裸になったもんだから、もうビックリ(笑)。
 横にいたセミョンに「……ひょっとしてここって、セックスクラブ???」と尋ねたら、「そうだよ」と涼しい顔。知ってたんなら事前に教えろよ!(笑)
 というわけで中に進むと、全裸の人やらパン1の人やら、レザー、レスリングのユニフォーム、ケツ割れ、Oバックなどの野郎ども(ドレスコードなしのフリースタイルの日だった模様)が、もうウジャウジャひしめいている。そんな中で、ともあれバーカウンターに辿り着いてコーラなんぞを飲んでいたら、グザヴィエが現れて(幸い、素っ裸とかじゃなくて、普通に黒T&レザーパンツとかでしたが)件のデザイナー氏に紹介(この人も普通に服を着ていた)され、「ないすとぅーみーちゅー」と握手。
 そして、向こうの方にある檻やらケツ掘りブランコやら、団子になってチュパチュパズコズコやってる野郎どもを尻目に、「で、今度のエクシビションは云々」と打ち合わせ。シュール過ぎる(笑)。
 何でもそこは、ベルリンでも有名な店なんだそうで、グザヴィエは是非それを私に見せたかったらしい。確かに、東欧時代の今は使われていない発電所の一角を改装した店で、淫靡でハードな雰囲気はバツグン。レディー・ガガが借り切ってパーティしたこともあるそうな(笑)。ここです。
 ミーティングを済ませた後は、店内をアレコレ見物。あぁ、楽しかった(笑)。
 セックスクラブを出た後は、同じ建物に今ベルリンで一番クールな巨大クラブがあるというので、入場待ちで並ぶ長蛇の列を尻目に、先刻紹介されたデザイナー氏の口利きで、フリーで中に入れて貰いました。
 使わなくなった発電所という、建物や内装自体のクールさもさることながら、とにかく音響が凄かった……。あんまり重低音がズンズンビリビリくるもんだから、お腹下しそうなくらい(笑)。

 翌12日は一日フリー。というわけで、また博物館島へ。
 まずペルガモン博物館へ行き、憧れのペルガモン大神殿やイシュタル門などを見物。
 トルコのベルガマ(ペルガモン)には行ったことがあるんだけど、そこで見られなかったヘレニズム時代の大神殿を、こうしてドイツで見ることができるというのは、なんかちょっと奇妙な感じはあります。また、これだけのものを丸ごと持ち帰るってのも、正直なところ大泥棒だよなぁ……なんて思いつつも、それでも素晴らしさを堪能。
 下の写真は、ミュージアム・ショップで買った、ペルガモン神殿の三翼のレリーフが全て収録されている、折り畳み式のカード。お好きな方ならマストという感じの、ナイスお土産品。お薦め。
2013Berlin_PergamonSouvenir
 こちらは、中庭にあったライオンと戦うヘラクレスのブロンズ像(確か近代の作品)。とてもセクシー。
2013Berlin_Hercules

 続けて旧国立美術館へ。ドイツ絵画の豊富なコレクションが嬉しい。ただし、残念ながら一部改装中で、三階はほとんど見られず。
 アーノルド・ベックリンやカスパー・ダヴィッド・フリードリヒなんかの作品は、日本でもたまに企画展などで見られたりするけれど、古典主義の歴史画とかドイツの近代絵画とかは、あんまりそういう機会もないので貴重。
 現物を見られて嬉しかった、ロヴィス・コリントの強烈なサムソンの絵。
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 一目で気に入った、ハンス・フォン・マレー(?)という画家の『漕ぎ手』という絵。
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 前夜の帰りが遅く、起きたのが昼だったこともあり、この日の博物館/美術館巡りはここでタイムアップ。

 翌13日。午後にグザヴィエと、夜はセミョンとミーシャに会う約束があるので、それまでに残りの博物館/美術館を片付けることにする。
 またまた博物館島へ行き、まずは新博物館へ。収蔵品『ネフェルティティの胸像』が有名な、古代エジプト美術がメインの博物館。
 確かにネフェルティティは素晴らしかった。美しい上に、首の筋や目の皺の表現など、幾ら古代エジプト美術がリアリズムに接近したアマルナ様式のものだといっても、その表現は驚くほどモダン。特別扱いで個室に陳列されているのも納得。脇に、目の不自由な人のためのレプリカが展示されており、点字による解説と共に触って鑑賞することができるという配慮も、実に素晴らしい。
 とはいえ、このネフェルティティは飛び抜けて素晴らしいものの、他は正直あんまり……。カイロの国立考古学博物館と比較するのは酷としても、なんせ古代エジプト美術のコレクションって、ヨーロッパの博物館/美術館には腐るほどあるので(それだけ盗っ人的行為が多かったってことでもありますが)、それらと比較してもあまりアドバンテージは高くない感じ。
 でも、ハリネズミやカバの可愛い置物なんかは良かった。

 お次はボーデ博物館へ。実はここ、時間がなかったらスルーしても良いかな……と、最後にまわしていたんですけど、大間違いだった! ここ、すごい!
 内容は、中世キリスト教美術や小さな卓上彫刻などがメインの博物館なんですが、とにかく面白いものだらけ。そして異様なものも多い。ルネッサンス以前のキリスト教美術の異様さ、密室的な趣味性の高い小品彫刻の濃さ、そんなのが存分に堪能できる、ちょっと今までに見たことがないタイプのコレクションでした。
 というわけで、特に気になったものを幾つかピックアップ。まず、可動関節のあやしい雰囲気の金属製女性ヌード人形。陰毛までしっかり。
2013Berlin_BodeDoll
 キリスト磔刑ジオラマ。
2013Berlin_BodeChrist
 また別のキリスト磔刑ジオラマから、左右の盗賊たち。
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 縛られた老人(?)の卓上彫刻。
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 ニンフとサテュロス?
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 肩だけ可動関節になっている巨大キリスト像。
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 元来の造形に経年による破損が加わって、まるでコンテンポラリー・アートのようになっているキリスト像。
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 部屋丸ごとが悪魔崇拝みたいな一室の天井画。
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 卓上騎馬像の台座に繋がれていたヒゲマッチョ。
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 三メートル以上ありそうな、見上げるほどの大きさの巨大騎士(?)像。
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 ……きりがないので、ここいらへんにしておきます(笑)。
 ボーデ博物館、激オススメ。

 その後、グザヴィエとカフェで待ち合わせして、あれこれ打ち合わせ&世間話。次の週にパリに行く予定ありと言うので、私の個展をやっているギャラリー・オーナーのオリヴィエを紹介したり。
 グザヴィエと分かれた後は、今度はセミョンと待ち合わせ。待ち合わせ場所はBruno Gmünderがやっているゲイ・ブック・ストア。地下鉄(Uバーン)の駅(ノレンドルフプラッツ)のプラットホームから、レインボーの看板が見えるのですぐ判った。
 店内をちょっと見物してから、ミーシャの家に移動して写真撮影。前の記事で書いた、インタビューが載るゲイ雑誌MÄNNER用。
 その後、3人でレストランへ。これがベルリン滞在最後の夜。

 翌14日。午前中の飛行機でベルリンを発ち、パリで乗り継ぎ、翌15日に帰国。
 パリも楽しかったけど、ベルリンも良かったな〜……と思いつつ、今回の出稼ぎ旅行は終了。