2013年パリ紀行、個展以外のあれこれ

 10月5日(土)は、書店les mots à la boucheでサイン会。2009年と2011年にもサイン会をした、マレ地区にある個性的なセレクトの本屋さんです。この書店のことを最初に教えてくれたのは、タコシェの中山さんでした。
 フランスでは新刊が出ておらず、既刊のものでも既に品切れのものもちらほら、おまけに春に出た英語版”The Passion”も品切れ……ということで、テーブルに用意されたのは”Gunji”、”Goku vol.2″、”Virtus”という寂しい状況。まぁ、その割りにはそこそこ人は来てくれました。1時間半(15:00〜16:30)のうち、人が完全に途切れたのは二回だけ。
2013ParisSign1
自作の絵をプレゼントしてくれた人も。
2013ParisSign2
 アレックス・クレスタやトム・ド・ペキンも来てくれました。

 サイン会の後、オリヴィエ(ギャラリー・オーナー)と一緒に、オープニングに来てくれたケヴィンが勤めているフェティッシュ・ショップMr. Bへ。
2013ParisKevin2013ParisMrB
 出来てまだ新しいとのことで、確かに2年前に来たときは、まだありませんでした。確か本店はアムステルダムかどっかにあるショップの、パリ支店だったと思います。
 場所はやはりマレ地区で、サイン会をした書店ともすぐ近所。このエリアには他にも2つ(少なくとも)フェティッシュ系のショップがあるんですが、私の知る限り、このMr. Bが一番オシャレ。店内のディスプレイはまるで博物館のようで、様々ないかがわしい(笑)器具が、実に美しく陳列されています。コーヒーのサービスもあり。
 ケヴィンからは、お土産にショップのTシャツを貰いました。このTシャツ、流行っているのか、私の個展オープニングでも、また、この後行ったベルリンでも(ベルリンにも支店があります)、着ている人を何人か見かけました。

 その晩、ケヴィンにフェティッシュ・パーティに誘われたので、拙著『日本のゲイ・エロティック・アート』出版時からのお付き合いで、現在はパリに移住しているユージ君を誘って、ついでにオリヴィエも一緒に、夕飯の後に行くことに。
2013ParisYuji
 ところが残念、ドレスコードに引っかかって入店できず。
 ケヴィンは「自分に連絡してくれれば、ドレスコードは問題ないから」と言ってくれていたんですが、この晩はパリ市のホワイト・ナイトというイベントで、マレ地区は凄い人出。携帯回線が完全にダウンして、メールも送れなければネットアクセスもできず、ケヴィンの送ってくれたSMSは翌日の朝にようやく届くという始末。
 仕方なくイベントは諦めて、ホワイト・ナイトのインスタレーションなんかを見物しつつ、場所を改めることに。因みに下の写真がそのインスタレーションの一つで、一つ一つイルミネーションが付いた無数の液体入り透明バッグが木のようにカテドラル内に林立して、そこに合唱曲が流れているというもの。すごい綺麗だった。
2013ParisWhiteNight
 そして、ベアバー行ったり、レザーバー行ったり、レザー&ラバーバー行って、地下のミックスルームで殿方たちがバコバコやってるのを見物したり……そんなパリの夜(笑)。

 10月6日(日)はオフ日だったので、午前中からオルセー美術館へ。お目当ては、9月24日から始まったばかりの、男性ヌードをテーマにした画期的な企画展Masculin / Masculin。(日本語紹介記事
 こちらがそのプロモーション・ビデオ。

 午前中のわりと早い時間に行ったのに、美術館の前は既に長蛇の列。1時間弱並びました。
2013ParisMusclinMasculin
 ただ、後で知ったんですが、この日は丁度オルセー美術館が入場無料の日だったらしく、どうりで美術館に入った後チケットゲートもなく……混んでいたのは、そのせいもあるのかも。

 Masculin / Masculin展は、アートとメールヌードに興味のある方だったら、間違いなく見逃せない展示でした。クラシックからコンテンポラリーまで、西洋美術史における男性ヌード表現を、時代を満遍なく網羅してテーマ別に展示した一大企画展。それと同時に、ポスターにも使われているピエール&ジルを強烈にプッシュしていて、いわば彼らの作品をアカデミックな西洋美術史上に置いて、その価値を再構築しようとしているかのような感もあり。
 というわけでゲイ・アート的には、そのピエール&ジルを筆頭に、ジョージ・プラット・レインズの写真作品も充実。同じく写真で、ハーバート・リスト、ロバート・メイプルソープ、デヴィッド・ラシャペルなどのメールヌード作品も網羅。
 古典はそれこそ、ルネッサンス以前から新古典まで盛り沢山。近代もバッチリで、エゴン・シーレありフランシス・ベーコンありオーギュスト・ロダンありアントワーヌ・ブールデルあり……。
 エロティック・アートや明確なゲイ・モチーフは、パーテーションで仕切られたスペースに注意書き付きで展示されており、ラインナップはジャン・コクトー、アンディ・ウォーホル、ポール・カドモス……などなど。デヴィッド・ホックニーのペインティングの脇には、彼の映画『彼と彼/とても大きな水しぶき』のモニター上映も。
 映像上映はそれ以外にも、まず裸体男性が様々な動きをしているのを捉えた、アカデミズム用と思しき古いフィルム。エドワード・マイブリッジみたいな感じのやつです。あと、ジェームズ・ビッドグッドの映画『ピンク・ナルシス』も、出口のところでプロジェクター上映。

 耽美系のホモエロティシズムがお好きな方だったら、ジャン・ブロック『ヒュアキントスの死』や、アン=ルイ・ジロデの『光の中で眠るエンディミオン』といった有名作が、同じ部屋に展示されているのに感涙間違いなし。エドワード・バーン・ジョーンズ、ギュスターヴ・モロー、ジャン・デルヴィルの大作なんかも見逃せない。
 SM好きとしては、ウィリアム・アドルフ・ブーグローの『キリストの笞刑』が見られて大感激。他にも、イクシオーンの車輪を描いた古典油彩画とか、狂えるオルランド(だと思う)のブロンズ像なんかにもウットリ。様々な作家による聖セバスティアヌスの殉教だけを集めたコーナーなんかもあり。
 もちろん、初めて見る画家の絵にも良いものがたくさんあり、特に印象深かったのが、何とも禍々しいアンリ・カミーユ・ダンガー(?)という人の『疫病』(?)という絵や、アレクサンドル・アレクサンドロビッチ・デイネカ(?)という人のロッカールームの体育会系野郎を描いた絵など。
 こういった諸々が、テーマや図像学的な共通点を軸に、時代をシャッフルして展示してあるという構成なので、もうこれは面白くないはずがない。会期は来年の1月2日(確か)までやっているので、その間パリに行かれる方は、お見逃しなきように!
 そして私のオープニングに来てくれたパトリック・サルファーティの写真作品も、数点展示されていました。
2013ParisPatricOM
因みに、拙著『髭と肉体』の著者近影も、パトリックが撮ってくれた写真です。

 売店ではもちろん図録を購入。
2013ParisCatalogue
 ハードカバーの立派な本で、画集としても秀逸。日本のアマゾンにもあったんですけど、現在のステータスは《品切れ/再入荷予定なし》になっちゃってますね……とりあえずリンクだけ貼っておきます。Masculin / masculin
 グッズ系は、マグネット数種、ロゴやマークをあしらった黒Tシャツ、トートバッグ、クッションカバー、缶バッジなど。とりあえず自分用に、セシル・ビートンが撮影したジョニー・ワイズミューラーの、半端なくセクシーなターザン写真のマグネットを購入。
2013ParisTarzan
 Tシャツも欲しかったんだけど、欲しかったデザインのやつはサイズが売り切れらしくて断念。ミュージアム・ショップの常で、展示内容に併せた(つまりメールヌードの)画集や写真集なんかもあれこれ売られていて、そんな中から、フランス王立絵画彫刻アカデミーのコンパクトなメール・ヌード・モデル・デッサン集を購入。
2013ParisDessin
 企画展を見終わった後は、通常展示をあれこれ見てから帰宿。

 晩はフランスの同業者ファブリスと、そのパートナーのヤンが一緒に暮らすお宅にお邪魔して、夕飯を御馳走に。

 10月7日(月)は、午前中はオフなので散歩でも行こうかと思っていたら、画廊にいきなりノルマンディーから来たという自称サンタクロースがやってきて、ボーイフレンドの誕生日プレゼント用にと本にサインを頼まれ、訊いてもいないのに「私の歌を聴きたいか?」と言い出し、ドイツ語のオペラ・アリアみたいのを朗々と歌い、嵐のように帰っていった……という一幕があり、目が点に(笑)。

 午後は、フランス/ドイツのTV局Arteの取材。通訳さんを介してインタビュー動画を収録。
 ゲイカルチャーの過去と現在を綴るドキュメンタリー番組用だそうで、そうなると本編で使われるかどうかは微妙な気も。インタビュー内容も、私個人に関する質問と、ゲイ文化全体に対する考えを尋ねるものとが、ほぼ半々だった印象。
 一応、女優のように「そこからこっちに向かって歩いてきて!そこで腕組みしてカメラ見て!」みたいなカットもこなしましたよ(笑)。気分はグロリア・スワンソン。
 その後、アートフェアで作品を展示しているという、ニコラのブースを表敬訪問。広場に簡易な小屋を作って、かなりの数のアーティストたちが個々のブースで展示をしているという、青空アートフェア・
 これがそのポスター。
2013ParisArtFair
 最初にパリ個展をした2007年のときから、毎回いろいろ手伝ってくれているニコラと「また二年後にね!」と(今のところパリ個展は二年に一度のペースでやっているので)ハグしてバイバイ。

 翌日は、朝の飛行機でベルリンに移動するので、夜遊びなどもせずにオリヴィエと二人で夕食&あれこれ打ち合わせ。
 しかし、オリヴィエはとにかく良く喋るので、いつの間にか深夜をオーバー。まだまだ喋り続けるオリヴィエを、「ストップ、もう寝るから!」と制して、ようやく荷造り&就寝。
 これでパリの全行程、無事終了です。