“Parada (The Parade)”

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“Parada” (2011) Srdjan Dragojevic
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2011年のセルビア/スロヴェニア/クロアチア/マケドニア/フランス/イギリス映画。英題”The Parade”。
 元ユーゴ内戦の兵士でホモ嫌いの中年男が、ひょんなことからセルビアのゲイ・パレード護衛をすることになるという、社会派コメディ・ヒューマンドラマ。
 監督&脚本のSrdjan Dragojevicは、2001年にベオグラードのゲオ・パレードで実際に起きた、アンチゲイによる暴行事件のフッテージを見て、この映画の企画を思いついたとのこと。件の暴行事件の映像は、映画の導入部分でも使われており、また、それと対比させるように、エンディングでは2010年のベオグラード・ゲイ・プライド・パレードの映像も使われている。
 2012年のベルリン映画祭パノラマ部門観客賞受賞。

 セルビアの首都ベオグラード。
 結婚式の演出などを手掛けるゲイのミルコ以下、LGBTアクティビストたちがプライド・パレードをしようと計画しているが、セルビア社会にはホモフォビアが根強く、過去には極右スキンヘッズによる暴力事件も起きている。そして今日もまた、LGBTアクティビストたちが集まって会議をしているところに、スキンヘッドたちが殴り込みに来る。アクティビストたちは、警察にパレードの護衛を頼みに行くが、取り合って貰えないどころか、逆に侮蔑的な態度であしらわれてしまう。
 そんな中、ミルコのパートナーで、彼ほどはアクティブではないゲイである獣医のラドミロの元に、負傷したブルドッグが担ぎ込まれる。ブルドッグの飼い主は、元ユーゴ内戦の兵士で、その後ギャングを経て、現在は柔道道場とボディーガード業をやっている男リムン(あだ名。レモンの意)だった。
 リムンは現在、若くて美人の娘ビセルカと再婚しようとしているところだったが、ビセルカはリムンの提案するダサい結婚式が気に入らない。そして、もっとオシャレな結婚式を……と、ローンを組んででも、ミルコの会社に頼みたいと言う。リムンも、仕方なく折れてそれに同行するが、そこでラドミロに会ってしまい、自分たちの結婚式を預ける相手がホモだと知って激昂してしまう。
 リムンに胸ぐらを捕まれたはずみに、ミルコは転倒して大怪我をしてしまう。介抱するラドミロに、ミルコは「頑張ってきたけどもう限界だ、僕は自分の国を憎みそうだ」と本心を吐露し、実はカナダへの移民申請もしているのだと告げる。
 一方ビセルカは、リムンのとった態度に激怒して、彼の家を出て行ってしまう。リムンが彼女の居所を探す間、彼女はミルコだけにお詫びの電話を掛けるが、それをラドミロが受け、彼の心に1つのアイデアが閃く。
 ラドミロはリムンの元に赴き「貴方が愛するビセルカのためになら何でもしたいと思うように、僕も愛するミルコのためになら何でもしたい」と、リムンの結婚式をミルコにプロデュースさせ、ビセルカがリムンの元に帰ってくるように計らうかわり、リムンとその部下たちにプライド・パレードの護衛をしてくれるよう、提案する。
 リムンはその提案を受けるのだが、部下たちは「オカマのパレードの護衛なんてとんでもない」と拒否する。ベオグラードで護衛を見つけるのは無理だと考えたリムンは、それなら町の外で見つけようと、ゲイ・グループの中でも一番ゲイゲイしくないラドミロを連れて、ボディーガードの仲間捜しに出掛ける。
 リムンとラドミロは、車体に「ホモ死ね」と落書きされているピンクの車に乗り、かつてユーゴ内戦で戦ったライバルたちを訪ねて、セルビアからクロアチア、ボスニア、コソボ……と、旧ユーゴ圏内を巡って、ゲイ・パレードの護衛を捜しに出掛ける。
 最初は全くの水と油だったリムンとラドミロだったが、次第に互いを理解し始め、護衛仲間も一人ずつ増えていく。しかし実は、リムンの前妻との間の息子が、今はスキンヘッズになって、パレード襲撃を企てている一味に入っていた。
 果たして、ベオグラードのゲイ・プライド・パレードは実現できるのか、そして極右スキンヘッドたちの攻撃をかわすことはできるのか? ……といった内容。

 題材から期待していた通り、これは実に面白かった!
 コメディ・タッチでテンポ良く進めつつも、ホモフォビアとゼノフォビアを重ね合わせることで、《異なる者への理不尽な嫌悪》という差別の本質を見せ、クライマックスに向けてエモーショナルに盛り上げ、感動とメッセージ性をしっかり押さえて、ジ・エンド……といった構成。
 まず、出てくるキャラたちが実に良く、メインはリムンとラドミロなんですが、ホモフォビアはあるものの実は悪い人間ではないリムンと、アクティビズムとは距離を置きクローゼット気味のラドミロが、それぞれストーリーを通じてきっちり成長していくので、それがラストの感動へと繋がる。
 オシャレ系ゲイのミルコは、志が高い反面ちょっと鼻につくところもあり、ここいらへんもリアル&魅力的。リムンの彼女ビセルカも、集会場に火炎瓶を投げ込まれ、パニックになるゲイたちを尻目に「アマチュアね!」とテキパキ火を消したりして、実にかっこいい。その他、50代でようやくカムアウトした有名デザイナーのゲイとか、ビセルカと仲良くなるレズビアンとか、護衛として集まるリムンの戦争仲間のオッサンたちとか、誰もかれも良くキャラが立っていて、それが生き生きと楽しく動くのが、何とも魅力的。
 また、全体が『荒野の七人(七人の侍)』を模した構造になっていることや、リムンの一番好きな映画が『ベン・ハー』で、彼はそれを《男同士の真の友情》だと信じ込んで見ているのだが、ご存じのように実は……みたいな、仕掛けのあれこれも楽しい。

 前述した差別の本質に関しては、まず冒頭からテロップで《チェトニク:セルビア人の蔑称:クロアチア、ボスニア、アルメニア系コソボ人が使用》《ウスタシャ:クロアチア人の蔑称:セルビア、ボスニア、アルメニア系コソボ人が使用》《バイジャ(略)》《シプタール(略)》といった解説が出てきまして、その最後に《ペデー(fag):同性愛者の蔑称:皆が使用》と出てくるといった具合に、もう最初がらガッツリ描いてきます。
 で、そこから、毛むくじゃらのオッサン(リムン)のシャワーシーンに続くんですが、これがシャワーを浴びながら、セルビア愛国歌、旧ユーゴの共産主義俗謡、旧ユーゴの80’sポップスなどを、ゴチャマゼに続けて歌い、それと並行して男の肌に入っている、ユーゴ内戦の戦場の名前やら、二次大戦の反共リーダーの顔やらといった、これまたゴチャマゼのタトゥーがクローズアップされていく…といった洒落具合。
 中盤の仲間捜しのエピソードで、最初は《ホモ死ね!》と落書きされていた車が、旧ユーゴ圏内をあちこち渡り歩くうちに、《チェトニクの豚!》とか《ウスタシャ死ね!》とか、どんどん上書きされていくのも、風刺と洒落っ気が見事に効いていて実に可笑しい。
 それ以外にも、警察風刺もあれば米軍風刺もあり……といった感じで、とにかくネタ的にはテンコモリで、逆にネタが多すぎて、リムンと息子の確執やラドミロと父親の確執など、いささか描き込み不足や捌き切れていない部分もあるんですが、それらも引っくるめてお楽しみどころは盛り沢山。

 コメディとしては、あちこちでくすりとさせるタイプで、どっかんどっかん笑えるわけではないですが、内容の濃さ、理想と現実のバランス配分、感動要素やメッセージ性の確かさは保証します。
 とにかく情報量が多いので、ついていくのが大変な部分もありますが、ゲイ映画好きにも一般の映画好きにも、どっちもしっかり楽しめる一本。オススメです。そして、これがセルビアでスマッシュヒットしたというのも嬉しい話。