“Baba Yaga”

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“Baba Yaga” (1973) Corrado Farina
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 1973年製作の伊仏合作映画。私の敬愛するイタリアのコミック作家グイド・クレパックスの代表作『ヴァレンティーナ』シリーズを、ヒップでサイケなムードで実写映画化したカルト作品。別名”Kiss Me Kill Me”。
 女流写真家が謎の女と出会ったことで、幻想的でエロティックな世界に巻き込まれていくという内容。

 女流写真家ヴァレンティーナ(イザベル・デ・フュネス)はパーティーの帰りにバーバ・ヤーガと名乗る不思議な女(キャロル・ベイカー)と出会う。バーバ・ヤーガは謎めいたことを言いながら、ヴァレンティーナのガーターを取って「明日までこれを預からせて」と言う。
 翌日、自宅兼スタジオでモデル相手に撮影をしていたヴァレンティーナのもとに、バーバ・ヤーガが訪れるとガーターを返し、彼女のカメラのことを「これは時間をフリーズさせる眼ね」と言って去る。以来、ヴァレンティーナがそのカメラで撮影をすると、モデルが倒れる等の怪事件が起きるようになる。
 更にヴァレンティーナはエロティックな悪夢を見るようになり、謎を探るためにバーバ・ヤーガの住む古屋敷を訪れる。屋敷には、古びて奇怪なオブジェ、絨毯の下に隠された底なしの穴、サドマゾヒズムやフェティシズムを暗示する道具などがあり、ヴァレンティーナはそこで自慰をしてしまう。そんなヴァレンティーナに、バーバ・ヤーガは「お守りになる」と言ってボンデージ衣装の人形をプレゼントする。
 後日、ヴァレンティーナが例のカメラではなく別のカメラでモデル撮影をしていると、不意に電気が消える。そして再び明るくなったときには、モデルは太腿を何かに刺され、傍らには例の人形が落ちている。ヴァレンティーナは、バーバ・ヤーガは魔女でカメラに呪いをかけたのではないかと疑い、恋人の映画監督アルノ(ジョージ・イーストマン)に相談するが取り合って貰えない。
 しかし帰宅すると、使わなかったカメラが何かを撮っていた様子がある。フィルムを現像してみると、そこには思いもよらぬものが映っていて……といった内容。

 ヒップな音楽(ピエロ・ウミリアーニ)に乗せたファッショナブルなカット、クローズアップを多用したサイケ感の描出、程々の前衛性、モノクロ写真をマルチスクリーン的に配置したり、コマ落とし的に動かすことでコミックのテイストを再現する試みなど、前半から中盤はかなり見所多し。
 惜しむらくは、クライマックスになるとそういった美点が消えてしまい、黒魔術とレズビアニズムとサドマゾヒズムの合体という特徴はあるものの、表現自体は凡庸な怪奇映画のヤマ場的なそれになってしまっていること。またストーリー自体も、囚われのヴァレンティーナをアルノが助けにいく等、終盤は展開が陳腐になってしまっているのが残念。
 クレパックスの特徴の1つ、エロティックでサドマゾヒスティックでフェティッシュで幻想的な白日夢の再現という面は、イメージ的には頑張ってはいるものの、やはり当時の実写(それもさほど予算はかかっていない)の限界もあって、残念ながらオリジナルのコミックの奔放さには遠く及ばない出来。
 とはいえ、ヴァレンティーナを演じるイザベル・デ・フュネスの、ちょっと神経症的でサイケな容貌と、スレンダーなのにお乳はバッチリという体型などは、キャラクター的にも作品の雰囲気にも合っていて、なかなか佳良。
 また、ヴァレンティーナの撮影風景などのクールでファッショナブルな雰囲気と、バーバ・ヤーガ周辺のゴスな雰囲気、所々見られる程よく前衛的な表現、ちょっとジャーロっぽいミステリアス・なムード……等々、見所はあちこちあるので、どれか琴線に引っかかった方なら、ばっちりエンジョイできるかと。
 多くを期待しすぎなければ、ちょっと変わったカルト系のヨーロッパ・エロス映画としては、充分に楽しめる出来だと思います。

 クレパックスのファンとしても、オリジナルのコミックのテイストを映画的に再構築しているラブシーンとか、
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その続きのベッドシーンの表現なんか、
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「おぉ、頑張ってるな〜」って感じで嬉しいし。

 米盤DVDは、監督のインタビュー(最近収録)、カットされたシーン(キャロル・ベイカーのフル・フロンタル・ヌードあり)、グイド・クレパックスの作品に関する短編ドキュメンタリー(イタリアコミック史上の位置、独自性、映画性などの内容で、これが実に面白かった)、スチル等、特典は豊富。
 Blu-rayも最近出ました。確認はしていませんが、おそらく特典等は同一かと。
 ただし、英語音声のみ収録のアメリカ盤に対して、イギリス盤DVD
は英伊二ヶ国語収録で、しかも削除部分を復元したファイナル・カット版だということなので、それを知らずにアメリカ盤を買ってしまった私としては悩ましいところ。

“Baba Yaga”予告編。

“Baba Yaga”ファイナルカット版イギリス盤DVD宣伝クリップ。

 因みに、予告編でも聴けるピエロ・ウミリアーニのヒップなテーマ曲”Open Space”はこちら(amazon.co.jpのMP3ダウンロード販売)。