“A Year Without Love (Un año sin amor)”

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“A Year Without Love” (2005) Anahi Berneri
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2005年製作のアルゼンチン製ゲイ映画。原題”Un año sin amor”。
 実在するHIV+の若い作家/詩人、パブロ・ペレスによる日記形態の小節を基にした内容だそうで、同年のベルリン国際映画祭テディ賞受賞作。
 HIV+である主人公のライターが、死への恐怖に怯えながら、愛を探しセックスを求め、ブエノスアイレスのゲイシーンを彷徨し、レザーSMの世界に踏み込んでいくのだが、やがてそのことを通じて、自分自身のHIVという病とも向き合っていく……という内容を、彼の日記を通じて私小説的に描いたもの。

 まず、原作小説の作者本人が脚本に関わっているだけあって、レザーやサドマゾヒズムに対する視線が、露悪的であったり扇情的であったりしないのが、私的にはマル。
 ただし、それらをメタファー的に使っているために、BDSMがまるでイニシエーションのような、一過性の趣味的なものに見えてしまったのは、個人的にはペケ。とはいえそれは、単に私のフィロソフィーとは合致しないというだけのことで、そういう捉え方があっても別に良いと思いますが。
 人間の肉体、医療行為や薬品、セックスやSMの描写などで、一貫して極端なクローズアップを多用し、フェティシズム的な視線を感じさせる演出は面白かった。16ミリのようなザラついた映像も、90年代の未だアングラめいたブエノスアイレスのゲイシーンという状況に、リアリティを与えていて効果的。
 欲を言えば主演男優が、演技自体は素晴らしいんだけど、ルックスがエイドリアン・ブロディ似であまり私のタイプではなく、逆にメイキングで見られる作家本人(レザーパーティーの一員として出演もしていた模様)の方が、私的にはこの役者さんよりよっぽどイケていたのが残念(笑)。
 個人的な好みから言うと、こういったドラマ的な造りや映像的なハッタリを排除した作風は、正直さほどピンとこないんですが、描かれるパーソナル・ヒストリー自体の興味深さと、淡々としつつもリアリティのある作風で、わりと面白く見られた感じです。

 90年代のアルゼンチンのゲイ・シーン、レザーSM、HIV、実話ベース……と、モチーフ自体に興味深い要素が多いので、それらに惹かれる方なら見てもいいかも。
 ”A Year Without Love (Un año sin amor)”、予告編。

 予告編だけだと、どんな雰囲気の映画かさっぱり判らないと思うので、いちおう映画のワンシーンのクリップも貼っておきます。