“Marketa Lazarová (マルケータ・ラザロヴァー)”

dvd_MarketaLazarova
“Marketa Lazarová” (1967) Frantisek Vlácil
(英盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 1967年制作のチェコスロバキア映画。監督は前に見て感銘を受け、ここで感想を書いた”The Valley of the Bees (Údolí včel)”と同じフランチシェク・ヴラーチル。
 グラジスラフ・ヴァンチュラ(って知らない名前ですが)の同名小説を元に、中世の対立する部族や異なる宗教間での愛を描いた、叙事詩的内容の作品。1998年にチェコの映画関係者によって、20世紀チェコ映画のベスト1に選出。
 日本でも2006年の「チェコ映画回顧展1965-1994」等で上映があった模様です。(参考

 13世紀のチェコ。地方豪族の息子、ミコラーシュとアダムの兄弟は、支配階級の貴族一行を襲い、金品を強奪して、貴族の息子クリスチャンを捕虜にする。
 すると同じく地方豪族で、ミコラーシュたちとは対立関係にある長ラザルが、ミコラーシュの強奪に便乗して、ハイエナのように獲物をあさる。そこを兄弟に捕らえられたラザルは、娘マルケータの名をだして命乞いをする。
 ミコラーシュはラザルを見逃し、クリスチャンを自分の村に連れ帰る。ミコラーシュの父コズリクは、敵を皆殺しにしなかったことで息子を責める。一方でクリスチャンは、ミコラーシュの妹アレクサンドラと恋に落ちる。
 後日、ミコラーシュはラザルのもとを訪れ、支配階級の圧政に対抗するために同盟を持ちかける。しかしラザルはそれを拒否し、逆に彼を配下の手で袋叩きにする。ラザルの娘で、信心深く将来は修道院に入って神に仕えることを願っているマルケータは、父の振る舞いにショックを受ける。
 マルケータはミコラーシュに救いの手を差し伸べるが、彼はそれを拒否して帰って行く。やがて傷も癒えたミコラーシュは、報復としてアダムと共に郎党を率い、ラザルの館を襲い火を放ち、ラザルを門扉に釘で磔にし、マルケータを連れ去り、そして犯す。
 ミコラーシュの父コズリクは、息子がマルケータを連れ帰ったことを快く思わないが、ミコラーシュの母は、男たちの神をも畏れぬ狼のような心に、愛が人間らしい火を点すと預言する。
 息子を惑わした罰として、コズリクはマルケータに鉄釘のついた靴を履かせるよう命令するが、ミコラーシュはそれを拒否する。クリスチャンも共に異を唱え、アレクサンドラもクリスチャンを庇う。その結果、4人は鎖で村の外に鎖で繋がれてしまう。
 一方、支配階級側は軍勢を集め、コズリクの村を襲撃しようとしており、その一行にはクリスチャンの父も加わっていた。彼らは進軍中にアダムを捕らえ、それを人質にコズリクに降伏を迫るが、コズリクも人質としてクリスチャンを披露する。
 そして、隙を見て逃げ出したアダムが弓で射殺されたのをきっかけに、ついに戦いの火蓋が切って落とされ……といった内容で、この後もあれこれ事件が起こり、最終的には、ミコラーシュとマルケータの関係を軸に、悲劇的ではあるけれど救済の光も残る結末へと物語は進んでいきます。

 いや〜、これまた手強かった……。
 なんせ、そもそもの物語の背景に当たる勢力分布が複雑な上、更に作劇法が叙事を丁寧に説明してくれるタイプではない。
 断片的とも言えるエピソードや、フラッシュバック、セリフの一端といった効果を多用して、散りばめられたそれをつなぎ合わせると、ようやく全体像が見えてくるという作り。おかげでもう誰が何なのか、このシーンが何を意味しているのか、もう最初のうちは混乱し通しでした(笑)。
 で、半分まで見たところ(二部構成の作品です)で、もうギブアップ。DVDをいったん止めて、同梱のブックレット掲載の解説を読み、それでようやく全体像が把握できたので、改めて後編を鑑賞。
 すると、基本となるストーリーの骨子自体は、実はさほど複雑ではないことが判りましたが(それぞれのキャラクターの立ち位置や、勢力的な所属を理解して見れば、物語自体はオーソドックスとも言える叙事詩的な内容だった)、それでも頻出する宗教的&哲学的問答とかに、やっぱりノーミソがきりきり舞い(笑)。
 テーマとしてはおそらく、人間らしい感情や愛は、部族習慣や宗教のドグマを上回る強さがあるということだと思うんですけれど、ストーリー的な意味でもテーマ的な意味でも、多種多様なエピソードが混在していて、しかもそれがシャッフルされたかのように提示されるので、ホント手強いこと手強いこと(笑)。
 でも、難しいアレコレは置いといて、とりあえずシンプルな愛の物語という側面をピックアップしてストーリーを追うと、これはなかなか感動的な内容で、基本的には悲劇ではあるんですが、ラストの後味も良かった。

 というわけで、内容把握に関しては、どれだけ理解できたか心許なくはあるんですが、映像的にはもう圧巻。
 一見、エイゼンシュテインか黒澤明かという感じの、重厚で堂々たる史劇のようなんですが、そういったスタイルと同時に、アヴァンギャルドなカメラワークとか、鮮烈なイメージのフラッシュバックとか、前衛映画もかくやという映像が混じっている。
 そんな静と動、古典と前衛といった、対象的なイメージが入り乱れ、しかもそのどちらもが、ハッとするほど美しかったり圧倒的だったり。
 美術や衣装も、キリスト教的なものから異教的なものまで、目の御馳走いっぱい。伝統的な合唱を多用した音楽も素晴らしかった。
 また、マルケータの美しさを筆頭に、それぞれのキャラクターの佇まいや面構えなども良く、とにかくいろんな意味でオナカイッパイになった一本。
 というわけで、これまた「理解できたかできないかは脇に置いておいて、好きか嫌いかで言えば問答無用で好き!」なタイプの映画でした(笑)。
 とりあえず、劇中の音楽とスチル写真を使った、ファンメイドのクリップを貼っておきます。映画の史劇&叙事詩的な側面の雰囲気は、これでだいたい掴めるかと。
 でもまぁぶっちゃけ、とにかく手強かったので、できれば日本語字幕付きで再鑑賞してみたい……というのが本音かな(笑)。

Blu-ray_MarketaLazarova
【追記】この『マルケータ・ラザロヴァー』、昨年2011年にデジタル修復され(参考)、同じく昨年暮れにチェコ本国でDVDとBlu-rayが発売されました。
 Blu-rayはリージョンA&B再生可能(Cはテストレポートなし)、英語字幕付きだという情報をネットで得たので(参考)、チェコの通販サイトをあたって何とか購入してみました。
 手元に届いた商品を試してみたところ、情報通りリージョンA固定のBlu-rayプレイヤーで問題なく再生、英語字幕もちゃんと収録されていました。
 ジャケット裏の解説や、同梱の薄いブックレットも、チェコ語と英語併記。
 Blu-rayディスク1枚と、ボーナスDVDディスク1枚の二枚組。ボーナスディスクには関係者インタビュー、ショート・ドキュメンタリー、フィルモグラフィ、ギャラリーなどが収録されている模様(まだ内容は未確認)。
 そして特筆すべきは、画面と音のレストア。
 映像は、英盤DVDとは比較にならないほどの美麗さで、ディテールの再現性、階調の豊かさなど、文句なしの高画質。強いて言えば、ハイライトの飛びに若干キツい部分が見られるのと、章題の中間字幕部分が、シャープネスの影響か、少しザラついた画質になっていることくらい。
 音質も向上していて、この映画では音楽と画面がシンクロする場面が多々あるので、そういった部分での効果が倍増している感じ。私はチェコ語のヒアリングなんて全くできませんが、それを前提に、セリフ等も囁きから怒鳴り声まで、よりクリアになっている印象があります。
 ご参考までに、私がオーダーしたサイトは、こちら

【追記2】後に米クライテリオンからもBlu-rayが出ました。日本のアマゾンでも取り扱いあり。
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