“King” (2002) 〜インド/タミル映画・ヴィクラム主演

 先日ここで書いたヴィクラム祭り(笑)に、追加1本。
 これで16本目(笑)。我ながらほんとビョーキかも(笑)。

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“King” (2002) Prabu Solomon
(☆☆☆☆)
 難病を軸に家族の絆や幸福を描いたヒューマンもの。

 主人公は香港で生まれ育ったインド人マジシャンの青年。
 母は産褥で亡くなてっいて、これまで父親に男手1つで育てられてきた。ある日、2人は一緒に自動車事故を起こしてしまい、幸い怪我そのものは軽かったものの、輸血時に父親が難病(多発性硬化症)にかかっていることが判明する。
 医師はそのことを本人には伏せ、息子に「お父さんの余命は2ヶ月なので、その間、出来るだけ彼を幸せに過ごさせてやってくれ、それが出来るのは1人息子の君だけだ」と告げる。
 主人公はその言に従い、父を25年ぶり故郷のインドへ連れて行き、音信を立っていた祖父たちと再会させることにする。すると実は、父は名家の長男でありながら、身よりのない娘と恋に落ちてしまい、祖父に結婚を反対されたのに逆らって、家を飛び出し、以来25年間連絡を絶っていたのだということを知る。
 父の兄弟姉妹は温かく出迎えるが、祖父は父のことを許そうとはしない。主人公は、祖父と父を仲直りさせようと奔走ししながら、同時に今まで自分が全く知らなかった大家族の暖かも味わい、更にこの家の使用人の娘にも恋心を抱く。
 やがて主人公の努力の甲斐あって、祖父と父は無事に和解し、過去以上に篤い絆で結ばれるようになる。そんな父を更に幸福にするため、主人公は自分と例の使用人の娘が結婚する姿を、父親に見せられればと願うのだが、肝心の彼女の気持ちは分からない。
 果たして主人公は、タイムリミットまでに彼女の心を射止めて、父親に自分の結婚式を見せることができるのか?
 ……と思わせておいて、ここで驚きの展開が!
 何と、主人公の知らないところで、例の医者は父親にも「君の息子はあと二ヶ月の命だ、彼のためにも、残る人生で彼が今まで知ることができなかった、祖父や叔父叔母、従兄たちとの温かい絆を、彼に与えてあげなさい」と告げていたのだ!
 …というところでインターミッション、後半に続く!

 いや〜、これはすっかり1本とられました。
 話がキレイにひっくり返ってからの後半は、もう、果たして父と息子と、どっちが本当の難病にかかっているのか? それとも両方とも嘘で、真の目的は何か別に? で、そこいらへんが明かされた後は、今度は、恋の行方は? 結末はどうなっちゃうの? …ってな具合で、話の先行きが気になる気になるw
 構成も脚本も、実に巧みです。
 前半部はコテコテのお涙頂戴モノのように見せかけておいて、実はそういったクリシェの中に、巧妙にミスリードが混入しているので、しっかり騙されてしまう。
 例えば前半部で何度か見られるシーンに、ふとした拍子に父親がフラッとなって、グラスが砕ける映像のインサートカットが入るんですが、最初の医師の説明で「細胞が次第に破壊され云々」なんてのがあることもあって、まあフツーに父親の病状が悪化していく表現だと思って見るわけですよ。かなりベタだけど、そういうコテコテさはインド映画にはありがちだし(笑)。
 ところが前半部最後になって、これは実はそういったメタファーやモンタージュではなく、息子が難病で残り少ない命だと、初めて医者から聞かされた時に、父親がショックでグラスを取り落として割ってしまったという、そのフラッシュバックだったと判るわけです。
 いや〜、ホント「1本とられた!」って感じ(笑)。

 息子が父を、父が息子を案じ、祖父と息子が和解し、初めて対面した祖父と孫の間に絆が育まれ…といった、泣かせどころと、無邪気だったりマセていたるする子供たちや、陽気なマジシャンという主人公のキャラを使った、笑わせどころやほのぼの場面の、対比や配分もお見事。
 泣きと笑いが、上手い具合に互いに引き立てあっていて、しかも笑いのシーンがちょっとした仕掛けで、瞬時に泣き場面に転化したりするので、これはかなり感情を揺さぶられる。
 また、古風なインド映画にはつきものの、コントめいたお笑い場面も、当然のように入ってくるんですが、そのお笑い担当のキャラを、同時に、唯一この難病にまつわる秘密を知る人物にしているのも上手い。結果、コミック・リリーフでありながら、同時に泣かせどころも締めてくれる。
 更にこのキャラは、皆から馬鹿にされている「口だけ映画監督志望の従兄弟」という設定なんですな。そんな彼が、主人公と秘密を共有して、彼が今書いている映画のシナリオに托しながら、主人公と共に様々なことを語りあうわけですが、それがそのまま、この映画自体の内容を語ることにもなるという、メタフィクション的な仕掛けまである。

 役者も、相変わらず芸達者なヴィクラムを筆頭に、父親や祖父といったメインのキャラはもちろん、ほのぼの担当の子供たちや、さほど出番が多くない叔父叔母などに至るまで、皆さん、ストーリー上の立ち位置を的確に抑えた配役で、もう文句なし。
 どんでん返しの驚きはあっても、奇をてらった感や無理やり感はなく、伏線もキレイに回収される。ジャンルはヒューマン感動物だけれど、人死にを使って泣かせようとする類ではないのも良し。
 結末も上手く、予定調和的に悲劇へ持っていって泣かせるでもなく、また強引にハッピーエンドにするわけでもない。ストーリー的には余白を残して、最終的な結末は観客個々の思いに委ね、それでしっかり感動させてくれる。ベタな感動じゃなくて、どちらかというと考えさせられる、感慨深いといった感じの感動ですけどね。

 そんなこんなで、難病を使った安直なお涙頂戴ものとは、ハッキリと一線を画す出来映え。
 インド映画につきもののミュージカル・シーンには、さほど特筆すべきものはない(てるてる坊主みたいな変わった衣装が「???」とか、音楽にモロパクがあってビックリとかはありましたがw)けれど、インド映画のウェルメイドな1本としては、もう文句なし!
 いやぁ面白かった!
【オマケ1】(笑)
【オマケ2】(笑)
【オマケ3】(笑)