ちょっと宣伝、イギリスで出版された世界のエロティック・コミックスの本

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“Erotic Comics: vol. 2: From the 1970s to the Present Day” Tim Pilcher
 去年、イギリスのジャーナリストだというティム・ピルチャーから取材を受けたんですが、それが無事に出版されたということで、謹呈本が届きました。
 う〜ん、これも1月には出ていたものが、送られてきたのは半年遅れ……まあ、ちゃんと送ってきただけマシか(笑)。
「エロティック・コミックス グラフィック・ヒストリー vol.2 70年代から現在まで」という本で、版元はILEXというイギリスの出版社。デジタル・ペイントのHOW TO本やDTPなどの素材集、ポップ・カルチャーのアート・ブックなんかを出している会社のようで、カタログにはタトゥーのクリップアート集(CD-ROM付き)なんてのもあって、これはちょっと欲しいかも(笑)。ってか、表紙の男が好み(笑)。

 で、この「エロティック・コミックス vol.2」は、ポップ・カルチャーのガイド的なアート・ブックです。
 内容は、「USAのポルノ」「ゲイ&レスビアン・コミックス」「ヨーロピアン・エロティック」「乳首と触手:日本の実験」「オンライン・コミックス」という五つの章に分かれており、私の作品は「日本の実験」の章に数点掲載されています。
 英語のコミックスを中心に、それにヨーロッパの作家などを加えた、全ページフルカラー、大きな図版をふんだんに使って、様々なエロティック・コミックを紹介する内容。
 収録作家は、私も知ってるメジャーどころだと、まず序文からしてアラン・ムーアだったりします。因みに、著者のピルチャー氏とやりとりしていたとき、ちょうどその話が決まって、大コーフンしてるメールを貰ったのを、良く覚えてます(笑)。
 ロバート・クラムも載ってますし、アラン・ムーア&メリンダ・ゲビーの『Lost Girls』、サイモン・ビズレーの描いたエロ絵なんてのもある。
 エロティック・コミックの大御所では、私が勝手に「お尻の神様」と呼んでいる、イタリアのパオロ・セルピエリ。とにかく、女性のお尻を描かせれば天下一品なアーティストなんですが、実は男の肉体やチ○コも激ウマで、嬉しいことにアナル・ファックされている男の絵なんてのも描いてくれるので、私も二冊ほど画集やコミック本を所有しています。
 ゲイ系では、トム・オブ・フィンランド、パトリック・フィリオン、ラルフ・コーニッヒ、ハワード・クルーズ、雑誌『Gay Comix』や『Meatmen』の作家たち、などなど。レスビアン・コミックスが幾つか見られたのも収穫。
 他にも、個人的に気に入ったものを幾つか列挙しますと、『ロケッティア』のデイブ・スティーブンスが描くベティ・ペイジや、マーヴェルものとかを手掛けているフランク・チョーのエロティック・コミックスは、流石の洗練された描線が魅力。
『Cherry』や『Omaha, the Cat Dancer』といった、カートゥーン系のエロティック・コミックスも、日本では見られないタイプなので、なかなか新鮮。特に、デフォルメはカートゥーン系なんだけど、塗りがコテコテなので何とも言えない「濃さ」がある、『SQP』という70年代の本なんて、実にヨロシイ。
 日本の肉弾エロ劇画みたいな画風の『Faust』や、表紙デザインもカッコよければ中の絵もカッコいい『Black Kiss』は、入手可能なんだったら、ぜひ本を買いたいところ。他にも、アメリカのオルタナティブ・コミックとかイギリスのアンダーグラウンド・コミックとか、面白い絵が多々あります。
 ただ、日本に関しての章は、正直、ちょっとアレだな〜、と思う部分アリ。それに関しては、まとめて後述します。

 版形は、LPジャケット・サイズのハードカバー。ページ数は190ページ強。前述したように、全ページフルカラーで、紙質や印刷も上等。
 幸い、日本のアマゾンで購入可能です。ポップ・カルチャー、エロティック・カルチャー、サブカルチャーなんかに興味のある方だったら、問答無用に楽しめるはずなので、そういう方にはオススメです。私の絵も、無修正でドカ〜ンと載ってますんで(笑)。
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“Erotic Comics: vol. 2: From the 1970s to the Present Day”(amazon.co.jp)
表紙違いのアメリカ版もあるみたい。
 先日紹介した、『エロスの原風景』と御一緒に、いかがでしょう?

 では、前述した、ちょっとアレな日本に関する章について。
 まず気になったのは、私の絵は「SHONEN-AI」と「YAOI」の章で使われていていて、それ自体、ちょっとどうよと思うんですが、更に困ったことに、この二つの章に掲載されている図版が、私の絵以外は「小説June」の表紙画像だけ。
 ただ、これに関しては、筆者のピルチャー氏が、やおいとゲイを混同している、というわけではなかったりします。
 じっさいテキストを読むと、例えば「SHONEN-AI」の章では、SHONEN-AIというジャンルは少女マンガのフォーマット内のもので、竹宮惠子の『風と木の詩』に端を発し、青池保子の『エロイカより愛をこめて』や吉田秋生の『BANANA FISH』が生まれたが、今日ではその言葉は既に廃れており、Boy’s Loveという言葉にとってかわられた、と説明したうえで、そのBoy’s Loveには、かつてのSHONEN-AIの要素が含まれるが、ロマンスだけではなくセックスの要素も含まれており、それがYAOIである、などと続けられる。
 そして、次の「YAOI」の章では、こちらもまたBoy’s LoveあるいはBLの源流を、雑誌「June」のmale/male “tanbi” romanceとして、それが「ヤマなし、オチなし、イミなし」の同人誌文化との相互作用を経て、「性的にも直截的なホモセクシュアル・ストーリー」という、現在の形になったとしているので、こうした説明は、決して間違っていないと思う。
 また、私の図版についているキャプションを見ると、私がカバー絵を描いたアンソロジー『爆男』を、ちゃんと「ゲイ・コミック」と明示しているし、拙作『雄心〜ウィルトゥース』を、「ゲイ・コミックとやおいコミックの中間に位置するもの」と解説しているので、これまた正確(ま、これは私本人に取材しているんだから、当たり前なんだけど)。
 一方、やおい寄りの視点からも、本文中には、「ボーイズラブのマーケットは女性や少女をターゲットにしているが、一部のゲイやバイセクシュアルの男性にも読まれている」とした上で、「こだか和麻のような日本のBLマンガ家たちは、西洋の読者に自分たちの作品を説明する際、ゲイではなくやおいなのだと、慎重に区別している」と書いてある。
 というわけで、テキストをちゃんと読めば、筆者はちゃんと、ゲイマンガとやおいマンガを、混同していないということが判るんですけど、でも、だからといって、この二章の図版が、ほぼ私の絵だけだってのは……誤解も生みそうだし、私自身、居心地が悪い(笑)。
 私のところにきた取材も、ゲイマンガ家としてでしたし、質問内容もそういうものだったんですけどねぇ……。
 やおいマンガに関しては正確な論考があるのに、ゲイマンガに関する章はなく、なのに私の絵だけが載ってるってのは、ちょっとモヤモヤ。
 ひょっとすると、権利関係の問題なのかもしれませんね。図版の使用許可をとれるところが、見つけられなかったのかも。
 ピルチャー氏は日本語ができないっぽいし(少なくとも、私とのやりとりは、全て英語でした)、彼に限らず、海外の出版社なりジャーナリストなりが、作家とコンタクトをとりたくて、あるいは、何らかの権利関係をクリアにしたくて、日本の作家やマイナー系出版社に英語でメールを出したんだけど、返事が来ない、みたいな話は、私も何度か耳にしたことがあります。
 ただ「YAOI」の章には、YAOIは既に西洋でも広く知られており、2001年にはサンフランシスコでYAOI-Conも開かれ、出版する会社もここ数年で増えた……なんて書いてあるんだから、海外ルートからでも何とでもなりそうなのに。
 それ以外でも、日本のエロティック・コミックに関しては、前述したようなテキストと図版の齟齬が目立ち、例えば、「LOLICON」の章なんかも、テキスト部分には吾妻ひでおの『海からきた機械』や同人誌「シベール」、内山亜紀、藤原カムイ、雑誌「レモン・ピープル」なんて名前が見られるのに、図版は水野純子の作品や、アメリカで出版された、昆童虫の『ボンデージフェアリーズ』や、唯登詩樹の単行本の書影だけ。
 まあ、ここいらへんは出版コード的に、内山亜紀とかを載せるのが、難しいせいかも知れませんが。
 他に図版で見られるのは、天竺浪人、ふくしま政美、士郎正宗、大暮維人、うたたねひろゆき、玉置勉強、などなど。
 テキストでは、前述したようなモチーフ的な特異性以外にも、日本の出版におけるセンサーシップについて等も書かれており、「松文館裁判」の件が詳細に紹介されていたりします。